特許第6858449号(P6858449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858449
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】試料スライサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/06 20060101AFI20210405BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20210405BHJP
   B26D 3/28 20060101ALI20210405BHJP
   B26D 7/20 20060101ALI20210405BHJP
   B26D 1/18 20060101ALI20210405BHJP
   B26D 1/153 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   G01N1/06 H
   G01N1/06 G
   G01N1/28 G
   B26D3/28 610Z
   B26D7/20
   B26D1/18
   B26D1/153
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-99403(P2017-99403)
(22)【出願日】2017年5月19日
(65)【公開番号】特開2018-194478(P2018-194478A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】593230855
【氏名又は名称】株式会社エス・テイ・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】中川 孝郎
(72)【発明者】
【氏名】増谷 浩二
(72)【発明者】
【氏名】冬木 俊幸
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−164547(JP,A)
【文献】 特開2013−200232(JP,A)
【文献】 特開平08−271387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00− 1/44
B26D 3/28
B26D 7/20
B26D 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の一側面を支持するステージと、
前記試料を挟んで前記ステージと対向する他側を支持する押さえ部材であって、前記ステージの面の法線方向に対して傾斜する方向から前記試料を挟んで支持可能な前記押さえ部材と、
前記押さえ部材の傾斜方向に沿って移動可能に支持され、前記押さえ部材が前記試料に接触して押さえる押さえ位置に近接する切断位置において前記試料を切断可能な切断部材と、
を備えたことを特徴とする試料スライサー。
【請求項2】
前記試料に接触する先端部に近づくに連れて厚さが薄く形成された前記押さえ部材、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の試料スライサー。
【請求項3】
前記先端部に近づくに連れて前記切断部材側に傾斜して形成された前記押さえ部材、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の試料スライサー。
【請求項4】
前記押さえ部材と前記切断部材とを有し、前記押さえ部材が前記試料に接触する接触位置と、前記押さえ部材が前記試料から離間する離間位置と、の間で移動可能な移動体、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の試料スライサー。
【請求項5】
前記切断位置を回転中心として、傾斜可能に支持された前記ステージ、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の試料スライサー。
【請求項6】
前記試料の幅方向に移動可能に支持された前記切断部材、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の試料スライサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微分析対象の試料から薄膜状の切片を切り出す試料スライサーに関し、特に、紐状や棒状、帯状等の長さを有する試料を長手方向に対して斜めに切断して切片を切り出し可能な試料スライサーに関する。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡や電子顕微鏡を使用した観察や、赤外分光測定やラマン分光測定等の顕微分析において、試料の薄い切片を作成する方法として、特許文献1に記載の技術が従来公知である。
特許文献1としての特開2005−164547号公報には、試料ホルダ(114a,114b)が薄膜(120)の先端部を斜めに突出させ、切断刃部(116)を水平方向移動させることで、薄膜(120)を斜め方向に切断する技術が記載されている。特許文献1では、試料ホルダ(114a,114b)から突出された薄膜(120)は、切断刃部(116)が接触する側とは反対側の面がブロック部(148)の角で支持された状態で、切断刃部(116)で切断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−164547号公報(「0020」〜「0027」、図3図5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(従来技術の問題点)
図10は従来技術の問題点の説明図であり、図10Aは切断刃が試料に接触した状態の説明図、図10B図10Aの状態から切断刃が進行した状態の説明図、図10Cは切断刃で切除された後の状態の説明図である。
試料が試料ホルダから突出する方向(送り出し方向)に対して垂直な方向から切断される場合には、試料は大きな問題なく切断される。しかしながら、特許文献1に記載されているような構成では、図10Aに示すように、試料01の送り出し方向に対して斜め方向から切断刃02が接触する場合、試料01には、切断刃02から、切断刃02の移動方向に沿った力03が作用する。この力03は、試料01を厚み方向に押そうとする成分03aと、試料01を送り出し方向に引っ張り出そうとする成分03bとを有する。
【0005】
したがって、特許文献1に記載の構成のように、試料がホルダから片持ち状に突出し、且つ、ブロック部04で切断刃02の反対側で支持されている構成では、図10Bに示すように、力03の厚み方向成分03aにより試料01が矢印06方向に撓むとともに、力03の送り出し方向成分03bにより試料01が矢印07方向に伸び縮みしたり、移動したりする。したがって、図10Cに示すように、試料01から切片08が目的通りに切り出せない問題がある。
特に、試料01が髪の毛や繊維片の様に、薄かったり細かったりすると問題が顕著に発生しやすく、特許文献1に記載の構成では、100μm以下のオーダで切片を切り出すことは極めて困難であるという問題がある。
【0006】
本発明は、試料ホルダから突出した状態の試料を切断する場合に比べて、薄膜の切断位置のズレを低減することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の試料スライサーは、
試料の一側面を支持するステージと、
前記試料を挟んで前記ステージと対向する他側を支持する押さえ部材であって、前記ステージの面の法線方向に対して傾斜する方向から前記試料を挟んで支持可能な前記押さえ部材と、
前記押さえ部材の傾斜方向に沿って移動可能に支持され、前記押さえ部材が前記試料に接触して押さえる押さえ位置に近接する切断位置において前記試料を切断可能な切断部材と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の試料スライサーにおいて、
前記試料に接触する先端部に近づくに連れて厚さが薄く形成された前記押さえ部材、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の試料スライサーにおいて、
前記先端部に近づくに連れて前記切断部材側に傾斜して形成された前記押さえ部材、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の試料スライサーにおいて、
前記押さえ部材と前記切断部材とを有し、前記押さえ部材が前記試料に接触する接触位置と、前記押さえ部材が前記試料から離間する離間位置と、の間で移動可能な移動体、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の試料スライサーにおいて、
前記切断位置を回転中心として、傾斜可能に支持された前記ステージ、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の試料スライサーにおいて、
前記試料の幅方向に移動可能に支持された前記切断部材、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、試料ホルダから突出した状態の試料を切断する場合に比べて、薄膜の切断位置のズレを低減することができる。
請求項2に記載の発明によれば、先端部に近づくに連れて厚さが薄く形成されていない場合に比べて、押さえる力を強くすることができる。また、請求項2に記載の発明によれば、ステージが傾斜可能な場合に、ステージの傾斜の妨げになることが低減され、ステージが傾斜しても試料を保持しやすい。
請求項3に記載の発明によれば、切断部材側に傾斜して形成されていない場合に比べて、切断位置により近い位置で試料を押さえることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、押さえ部材と切断部材とを試料に対して接触、離間させることができ、試料の状態の確認や切断位置の確認、試料の移動等を容易に行うことができる。
請求項5に記載の発明によれば、ステージを傾斜させることで、試料の切断面の傾斜角を変更することができ、目的の切断面に沿って切断することが可能である。
請求項6に記載の発明によれば、幅方向に切断部材が移動不能な構成に比べて、試料を容易に切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明の実施例1の試料スライサーの斜視図である。
図2図2は実施例1の試料スライサーを側面からみた部分透過図であり、図2Aは押さえ部材が接触位置に移動した状態の説明図、図2Bは押さえ部材が離間位置に移動した状態の説明図である。
図3図3は実施例のステージ機構の部品の説明図であり、図3Aはジンバルアームの説明図、図3Bはジンバルプレートの平面図、図3Cはジンバルプレートの側面図、図3Dはステージ調整部の側面図、図3Eはステージ調整部の平面図、図3Fはステージ本体の平面図、図3Gはステージ本体の側面図である。
図4図4は実施例の押し付け切断機構の部分透過説明図である。
図5図5図4から押さえ部材と切断部材が取り外された状態の説明図であり、図5Aは平面図、図5Bは側面図である。
図6図6は実施例の操作支持部材の説明図であり、図6Aは平面図、図6Bは側面図である。
図7図7は実施例の切断部材保持体の説明図であり、図7Aは平面図、図7Bは側面図である。
図8図8は実施例の押さえ部材の説明図であり、図8Aは平面図、図8Bは側面図である。
図9図9は実施例1の作用説明図であり、図9Aは側面図、図9Bは正面図である。
図10図10は従来技術の問題点の説明図であり、図10Aは切断刃が試料に接触した状態の説明図、図10B図10Aの状態から切断刃が進行した状態の説明図、図10Cは切断刃で切除された後の状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例としての実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以後の説明の理解を容易にするために、図面において、前後方向をX軸方向、左右方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向とし、矢印X,−X,Y,−Y,Z,−Zで示す方向または示す側をそれぞれ、前方、後方、右方、左方、上方、下方、または、前側、後側、右側、左側、上側、下側とする。
また、図中、「○」の中に「・」が記載されたものは紙面の裏から表に向かう矢印を意味し、「○」の中に「×」が記載されたものは紙面の表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明の実施例1の試料スライサーの斜視図である。
図2は実施例1の試料スライサーを側面からみた部分透過図であり、図2Aは押さえ部材が接触位置に移動した状態の説明図、図2Bは押さえ部材が離間位置に移動した状態の説明図である。
図1図2において、本発明の実施例1の試料スライサー1は、左右一対のサイドフレーム2を有する。各サイドフレーム2の底部には、前後一対のフット3が支持されている。サイドフレーム2どうしは、前側下部、後側下部、後側上部に配置された3本のタイバー4で連結されている。サイドフレーム2の外側面の下部には、下側のタイバー4を固定するネジを隠す目隠し蓋6が支持されている。
【0018】
図3は実施例のステージ機構の部品の説明図であり、図3Aはジンバルアームの説明図、図3Bはジンバルプレートの平面図、図3Cはジンバルプレートの側面図、図3Dはステージ調整部の側面図、図3Eはステージ調整部の平面図、図3Fはステージ本体の平面図、図3Gはステージ本体の側面図である。
サイドフレーム2の間には、ステージ機構11が支持されている。ステージ機構11は、左右一対のジンバルアーム12を有する。ジンバルアーム12は、上端のジンバル軸(回転中心)12aを中心として、サイドフレーム2に回転可能に支持されている。ジンバルアーム12の下端には、ジンバルプレート13が固定支持されている。ジンバルプレート13は左右方向に延びる板状に形成されている。ジンバルプレート13の右側面には、ネジ13aを装着可能なネジ孔13bが形成されている。ネジ13aのネジ部が右サイドフレーム2に形成された弧状孔2aを貫通している。なお、弧状孔2aは、ジンバル軸12aを中心とする円弧に沿って形成されている。したがって、ネジ13aを緩めることで、ステージ機構11は、ジンバル軸12aを中心として回転可能となり、ネジ13aを締めることで、ステージ機構11は任意の回転位置で停止した状態で保持される。
【0019】
ジンバルプレート13の上面には、ステージ調整部14が支持されている。ステージ調整部14は、ジンバルプレート13に固定される固定ブロック16を有する。固定ブロック16の上部には、スライドブロック17が支持されている。スライドブロック17は、ステージ調整部14に内蔵された図示しないリニアガイド(摺動ガイド)にガイドされ、固定ブロック16に対して前後方向にスライド移動可能に支持されている。スライドブロック17の前端には、マイクロメータ19が支持されている。マイクロメータ19は、使用者が手動でハンドル部19aを回転させることで、固定ブロック16に接触するロッド部19bが伸縮し、スライドブロック17が前後方向に移動する。なお、ステージ調整部14には、ロッド部19bに固定ブロック16の前面を押し付ける図示しないバネ等の弾性部材が設けられている。
【0020】
前記ステージ調整部14のスライドブロック17の上面には、ステージ本体21が支持されている。実施例のステージ本体21は、水平方向に延びる板状に形成されている。実施例のステージ本体21は、磁性材料の一例としての鉄で構成されている。ステージ本体21の上面の前部には、左右方向に延びる凹部21aが形成されている。凹部21aには、弾性部材の一例としてのゴム板22が支持される。なお、ゴム板22の表面は、ステージ本体21の上面と面一となるように設定されている。また、ゴム板22の表面に設定された切断位置22aは、ジンバル軸12aの中心に一致するように設定されており、ステージ機構11がジンバル軸12aを中心として回転しても、切断位置22aは変動しないように設定されている。
【0021】
図4は実施例の押し付け切断機構の部分透過説明図である。
図5図4から押さえ部材と切断部材が取り外された状態の説明図であり、図5Aは平面図、図5Bは側面図である。
ステージ機構11の後斜め上方には、押し付け切断機構31が支持されている。押し付け切断機構31は、下ブロック32を有する。下ブロック32は、側面視で、左右方向に延びる略三角柱状に形成されている。下ブロック32の左右方向の両端部の前面32aには、図2Aに示す接触位置において下ブロック32を上下方向に貫通する貫通孔32bが形成されている。貫通孔32bには、固定ネジ33が着脱可能に支持され、固定ネジ33は、サイドフレーム2に固定されたネジ止め部35に、手動でネジ止めされて、押し付け切断機構31を図2Aに示す接触位置に保持可能に構成されている。
【0022】
下ブロック32の上面32cには、幅方向(左右方向)の両端部に、回転アーム34が支持されている。回転アーム34は、左右のサイドフレーム2に対して、回転軸34aを中心として回転可能に支持されている。よって、移動体の一例としての押し付け切断機構31は、回転軸34aを中心として、図2Aに示す接触位置と、図2Bに示す離間位置との間で移動可能に構成されている。
【0023】
図6は実施例の操作支持部材の説明図であり、図6Aは平面図、図6Bは側面図である。
下ブロック32の上面32cには、左右方向に延びる第1のガイドレール(案内部材)37が支持されている。第1のガイドレール37には、第1のスライダ(被案内部材)38が第1のガイドレール37に沿って左右方向に移動可能に支持されている。第1のスライダ38の上面には、バネ収容ブロック39が支持されている。バネ収容ブロック39の内部には、ガイド孔39aが形成されている。ガイド孔39aは、上下方向、すなわち、後述する切断刃が試料に接近、離間する方向に沿って、バネ収容ブロック39を貫通して形成されている。
【0024】
図4図5において、バネ収容ブロック39の前面には、第2のガイドレール40aが支持されている。第2のガイドレール40aは、後述する切断刃(48)が試料に対して接近、離間する方向に沿って延びている。第2のガイドレール40aには、第2のスライダ40bが、第2のガイドレール40aに沿って移動可能に支持されている。図4図6において、第2のスライダ40bにはノブ支持プレート44が支持されている。ノブ支持プレート44には、連結アーム43の外端(一端)が支持されている。連結アーム43の内端(他端)にはスライダブロック41が連結されている。スライダブロック41は第2のスライダ40bの移動によりバネ収容ブロック39のガイド孔39aに沿って移動可能である。
【0025】
スライダブロック41と第1のスライダ38との間には、弾性部材の一例としてのバネ42が収容されている。バネ42は、スライダブロック41を上方、すなわち、後述する切断刃が試料から離間する方向に押す弾性力を作用させている。
バネ収容ブロック39の後面には、上ブロック36が支持されている。上ブロック36は、内部に収容空間が形成され且つ下ブロック32側および前方が開放された箱型に形成されている。第1のガイドレール37は、上ブロック36を左右方向に貫通して、左右方向に延びている。
ノブ支持プレート44の外表面には、作業者が手で掴んで操作が可能なノブ(操作部)46が支持されている。
【0026】
図7は実施例の切断部材保持体の説明図であり、図7Aは平面図、図7Bは側面図である。
ノブ支持プレート44の前端部(下端部)には、切断刃の保持体の一例としての切断刃ホルダ47が支持されている。図7において、切断刃ホルダ47の後端部には、略円板状の凹部47aが形成されており、凹部47aには、円板状の切断刃(切断部材)48が支持されている。なお、切断刃48の下端は、切断刃ホルダ47の下端よりも下方に突出している。なお、実施例の切断刃48は、切断刃ホルダ47に対して回転不能に支持されているが、回転可能に支持することも可能である。
【0027】
図8は実施例の押さえ部材の説明図であり、図8Aは平面図、図8Bは側面図である。
下ブロック32の前面32aの幅方向の中央部には、押さえ部材の一例としての保持板49が、切断刃48に近接して支持されている。図8において、保持板49の先端部(下端)49aは、切断刃48側に向けて傾斜し且つ先端側に行くに連れて薄く形成されている。図2Aに示す接触位置において、保持板49の先端部49aの位置は、切断位置22aに隣接、近接する押さえ位置でゴム板22の表面に接触するように設定されている。保持板49の中央部には、切断刃48を切断刃ホルダ47に固定するネジ(図示せず)が通過するための開口49bが形成されている。
【0028】
したがって、実施例1では、図2Aに示す接触位置において、作業者がノブ46を把持して、後上方から前下方に押すことで、第2のスライダ40bが第2のガイドレール40aにガイドされつつ、バネ42が弾性圧縮されて、スライダブロック41、連結アーム43、ノブ支持プレート44、切断刃ホルダ47および切断刃48が、ゴム板22(およびゴム板22に支持された試料)に接近する方向に移動可能である。なお、ノブ46から作業者が手を離すと、バネ42の弾性力で切断刃48がゴム板22(およびゴム板に支持された試料)から離間する方向に移動する。
また、作業者がノブ46を把持して幅方向に移動させることで、第1のスライダ38が第1のガイドレール37に沿ってガイドされて、スライダ38、上ブロック36、バネ収容ブロック39、バネ42、スライダブロック41、連結アーム43、ノブ支持プレート44、切断刃ホルダ47および切断刃48が幅方向(左右方向)に移動する。
【0029】
(実施例1の作用)
図9は実施例1の作用説明図であり、図9Aは側面図、図9Bは正面図である。
図9において、前記構成を備えた実施例1の試料スライサー1では、ステージ本体21やゴム板22上に薄膜状の試料Sが載せられた状態で、第2の押さえ部材の一例としてのマグネットラバー26で押さえられている。板状のマグネットラバー26は、磁力でステージ本体21に貼り付いており、マグネットラバー26とステージ本体21とで挟まれて試料Sが保持されている。この状態において、押し付け切断機構31が接触位置に移動すると、図9Aに示すように、保持板49の先端部49aが試料Sの上面に接触する。よって、試料Sは、切断位置22aに近接する押さえ位置22bにおいて保持板49で押さえられる。なお、ここで、固定ネジ33を締めることで、試料Sが保持板49で押さえられた状態で保持することも可能である。そして、ノブ46が操作されて、切断刃48が試料Sに接触して、試料Sが切断される。
【0030】
ここで、ジンバル軸12aを中心とした回転により、ステージ本体21と切断刃48とが傾斜している場合には、試料Sが長さ方向に対して斜めに切断される。従来技術では、図10に示すように、試料01は、片持ち状態の自由端部分が切断されているような状態であったため、切断刃02が斜めに接触して進行すると、試料01が撓んだり、引き出されたりして、目的の断面形状に切断できない問題があった。これに対して、実施例では、試料Sの下面がゴム板22で保持されると共に、切断位置22aの近傍の押さえ位置22bにおいて保持板49で試料Sが押さえられている。したがって、切断位置22aにおいて、切断刃48で切断される際に、従来の構成に比べて、試料Sが撓んだり、試料Sが前方に引き出されることが低減される。したがって、従来の構成に比べて、精度良く、試料Sを斜めに切断することが可能であり、斜めに切断された試料Sの切片の観察、分析が可能である。
【0031】
特に、実施例1では切断刃48が試料Sに接触する方向に利用者が押す際に、押し付け切断機構31に力がかかる。よって、押し付け切断機構31全体が回転軸34aを中心として試料S側に押し付けられる方向に回転し、試料Sやゴム板22を加圧圧縮して、試料Sをよりしっかり保持することができる。
これに伴って、保持板49も試料Sを押さえる方向に押される。よって、切断刃48が試料Sを切断しようと操作すると、自然に保持板49が試料Sを押さえる力が強くなり、試料Sがしっかりと保持されやすい。したがって、目的の断面に沿って試料Sを切断することができる。
【0032】
特に、実施例1では、切断刃48が試料Sの厚み方向(上下方向)だけでなく、試料Sの幅方向(左右方向)にも移動可能に構成されている。切断刃48が試料Sの厚み方向からのみ進行して切断することも可能であるが、厚み方向のみの切断に比べて、試料Sを切断しやすい。よって、試料Sを目的の面で切断し易く、切断の精度が向上する。
さらに、実施例1では、切断位置22aや押さえ位置22bに対応してゴム板22を配置しており、試料Sの厚みが厚かったり、保持板49の部品精度等でずれがあったりしても、ゴム板22の弾性変形で吸収することが可能である。
【0033】
また、実施例1では、マイクロメータ19を操作することで、ステージ本体21を前後方向に精密に移動させることができ、試料Sの断面を観察したい位置を切断位置22aに精度よく合わせることが可能であり、切断することが可能である。なお、このとき、押し付け切断機構31が離間位置に移動可能であるため、試料Sの状態や切断位置22aの確認等を容易に行うことができる。
さらに、実施例1では、ステージ機構11がジンバル軸12aを中心として傾斜可能に構成されている。したがって、ステージ機構11の傾斜角を変更することで、試料Sの切断面の傾斜角(マイクロメータ19での送り方向に対する角度)を、利用者の目的に応じて任意に変更することが可能である。
【0034】
特に、実施例1では、保持板49の先端部49aが先端に行くほど薄く形成されている。保持板49の押さえ位置22bが切断位置22aに対して近接しているが、少しずれている(厳密に一致していない)ため、ステージ機構11を傾斜させると、ゴム板22に保持板49が接触する位置が少しずつずれていく。したがって、保持板49の先端部49aの厚みが厚い場合、保持板49の先端部49aがゴム板22に引っかかったりすることがあり、試料Sの切断位置22aに対して押さえ位置22bが微小に離れて試料Sの押さえが不十分になったり、ステージ機構11の傾斜の妨げになる恐れもある。これに対して、実施例1では、保持板49の先端部49aが先端に行くほど薄く形成されており、ステージ機構11が傾斜しても、ゴム板22に引っかかりにくく、試料Sを確実に保持することが可能である。
また、保持板49の先端部49aは、先端に行くほど切断刃48側に傾斜しており、逆側に傾斜している場合に比べて、押さえ位置22bが切断位置22aに近い。すなわち、切断位置22aと押さえ位置22bとのズレがより少なくなっている。よって、保持板49は切断刃48のより近くで押さえることができ、目的の切断面を精度良く得ることができるとともに、ステージ機構11が傾斜しても試料Sを確実に保持しやすくなっている。
【0035】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更実施例を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、ステージ機構11の傾斜角が変更可能な構成を採用することが望ましいが、固定とすることも可能である。また、ステージ機構11を傾斜させる構成を、切断刃48や保持板49を傾斜させる構成に適用して、切断刃48等の傾斜角を変更する構成とすることも可能である。
【0036】
(H02)前記実施例において、切断刃48を幅方向に移動させる構成を設けることが望ましいが、設けない構成とすることも可能である。
(H03)前記実施例において、ステージ機構11の傾斜角度や、押し付け切断機構31の接触位置と離間位置の移動、マイクロメータ19による試料Sの送り出し、切断刃48の試料Sの厚み方向や幅方向の移動は、利用者が手動で行う構成を例示したがこれに限定されない。モータやソレノイド等の駆動源を利用して、これらの動きを制御部(コントローラ、制御回路)を使用して自動的に制御する構成とすることも可能である。
【0037】
(H04)前記実施例において、試料Sを押さえるためにマグネットラバー26を使用する構成を例示したが、これに限定されない。挟み込みプレートのように、試料Sを押さえることが可能な任意の構成を採用可能である。また、マグネットラバー26のような押さえる部材を使用することが望ましいが、使用しない構成とすることも可能である。
(H05)前記実施例において、切断刃48として、片刃(片面切削刃)の切断部材を例示したが、これに限定されず、両刃(両面切削刃)の切断部材を使用することも可能である。また、円板状の切断部材に限定されず、直刃状や反りのある直刃状、鋸歯状等、切断部材の材質や切断対象の試料Sの材質、目的等に応じて、変更可能である。
【0038】
(H06)前記実施例において、保持板49の先端部は厚みを薄くすることで、接触時の応力が集中して、大きな保持力が得られやすく好ましいが、厚みを薄くしていない構成とすることも可能である。
(H07)前記実施例において、押し付け切断機構31を接触位置に固定ネジ33で固定することで、保持板49が試料Sを押さえた状態で保持する構成を例示したが、これに限定されない。固定ネジ33に替えて、クランプ機構やロック機構のように押し付け切断機構31の位置を一時的に固定する機構を設けることも可能である。また、切断刃48を押す際に、試料Sを押さえる方向に保持板49が自然に押されるため、固定ネジ33で接触位置に固定する構成を設けないようにすることも可能である。
【0039】
(H08)前記実施例において、ステージ本体21の上面にゴム板22を設ける構成とすることが望ましいが、ゴム板22を設けない構成とすることも可能である。
また、ステージ本体21に試料面内(図2Aでの水平面内)で回転可能な機能(ターンテーブル機構)を持たせた構成を追加することも可能である。ターンテーブル機構を設けることで、試料Sを厚さ方向に傾斜する切断面で切断するだけでなく、長さ方向や幅方向に傾斜する切断面で切断することも可能となり、観察、分析を行いたい任意の断面で試料Sを切断して観察、分析を行うことが可能である。また、試料Sを一度切断した後に、試料Sを送り出し且つターンテーブルで傾斜させた後に切断することで、切断ラインに沿って厚みが異なる試料片(例えば、くさび型の試料片)を作成することも可能である。よって、使用目的に応じた厚みの試料を用意することも可能になる。
【符号の説明】
【0040】
1…試料スライサー、
12a…回転中心、
21…ステージ、
22a…切断位置、
22b…押さえ位置、
31…移動体、
48…切断部材、
49…押さえ部材、
S…試料。
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