(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858470
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】加飾成形品
(51)【国際特許分類】
B32B 7/023 20190101AFI20210405BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20210405BHJP
F21V 3/10 20180101ALI20210405BHJP
G09F 13/18 20060101ALI20210405BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20210405BHJP
【FI】
B32B7/023
B32B27/00 E
F21V3/10 370
G09F13/18 D
F21Y115:10
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-79182(P2019-79182)
(22)【出願日】2019年4月18日
(65)【公開番号】特開2020-175586(P2020-175586A)
(43)【公開日】2020年10月29日
【審査請求日】2020年10月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(72)【発明者】
【氏名】濱 大地
(72)【発明者】
【氏名】深田 泰秀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達朗
(72)【発明者】
【氏名】川島 永嗣
【審査官】
増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−034891(JP,A)
【文献】
特開昭59−215636(JP,A)
【文献】
特開2005−319585(JP,A)
【文献】
特開2004−101712(JP,A)
【文献】
特開2006−227294(JP,A)
【文献】
特開2005−077874(JP,A)
【文献】
国際公開第2019/087949(WO,A1)
【文献】
特開2020−055151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
F21V 3/10
G09F 13/04,13/18
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面の光源により照光可能な加飾成形品であって、
OD値が1以上3.5以下である表皮材と、任意のパターンを有する遮光層と、透明な成形体とが順に積層され、
前記光源が点灯したときの、前記表皮材の発光部と非発光部との色差ΔEが50以上であり、前記表皮材と前記遮光層との間、または前記遮光層と前記成形体との間に不織布をさらに備えた、加飾成形品。
【請求項2】
前記遮光層は、遮光性を有する顔料または染料を前記不織布に含浸させて形成された、請求項1に記載の加飾成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
光源からの光が透過することで、任意のパターンが表面に表示される加飾成形品がある。たとえば、特許文献1には、光源140を内蔵する導光体130に、接着層150を介して、皮革調の外観を有する表皮材110が貼り合わせられた加飾成形品100が開示されている(
図8参照)。表皮材の裏面には、任意のパターンを有する遮光層120が形成されている。このような加飾成形品は、光源が点灯していないときは皮革調の外観であり、高級感がある。また、光源が点灯したときは発光部から光が透過することによって、任意のパターンを表示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−081817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のような表皮材を有する加飾成形品は、光源が点灯したとき、表皮材の表面に任意のパターンが単に見えればよいというだけに過ぎず、表皮材の表面に任意のパターンをどれだけはっきりと視認できるかといった課題は未だ解決されていない。
【0005】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、光源が点灯したとき、表皮材の表面に任意のパターンをはっきりと視認できる加飾成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【0007】
本発明の加飾成形品は、裏面の光源により照光可能な加飾成形品であって、
OD値が1以上3.5以下である表皮材と、任意のパターンを有する遮光層と、透明な成形体とが順に積層され、
光源が点灯したときの、表皮材の発光部と非発光部との色差ΔEが50以上である。
【0008】
表皮材と遮光層との間、または遮光層と成形体との間に不織布をさらに備えたものであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加飾成形品は、裏面の光源により照光可能な加飾成形品であって、OD値が1以上3.5以下である表皮材と、任意のパターンを有する遮光層と、透明な成形体とが順に積層され、光源が点灯したときの、表皮材の発光部と非発光部との色差ΔEが50以上であるように構成した。
【0010】
したがって、本発明の加飾成形品は、光源が点灯したとき任意のパターンをはっきりと視認できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)加飾成形品の一例を示す模式的な斜視図である。(b)(a)のA−A断面図である。
【
図2】表皮材の別の例を示す模式的な断面図である。
【
図3】任意のパターンの一例を示す模式的な平面図である。
【
図4】加飾成形品の別の例を示す模式的な断面図である。
【
図5】加飾成形品の別の例を示す模式的な断面図である。
【
図6】加飾成形品の製造方法の一例を示す模式的な断面図である。
【
図7】実施例における色差の測定方法を示す模式的な側面図である。
【
図8】従来の加飾成形品を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の加飾成形品について、図面を参照しながら実施形態の一例を説明する。
【0013】
加飾成形品1は、裏面の光源2により照光可能な加飾成形品であって、OD値が1以上3.5以下である表皮材10と、任意のパターンを有する遮光層12と、透明な成形体13とが順に積層され、光源2が点灯したときの、表皮材の発光部10aと非発光部10bとの色差ΔEが50以上である(
図1参照)。
【0014】
表皮材10は、表皮層11を含むものである。表皮層11の材料には、たとえば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、熱可塑性エラストマー樹脂(オレフィン系、ウレタン系、スチレン系など)、人工皮革、合成皮革、植毛シート、ファブリック、および、本杢材または石を原材料とする突板などを用いることができる。表皮材10は表皮層11のみからなるものであってもよいし、他の層を有していてもよい。他の層としては、たとえば、表皮材10の裏面に形成された柔軟層15(
図2(a)参照)、表皮材10の表面に形成された印刷層16、および表皮材10の最表面に形成された表面処理層17(
図2(b)参照)などが挙げられる。柔軟層15は、たとえば、不織布または発泡樹脂などのクッション性を有する層である。印刷層16は、たとえば、インキを用いて形成された任意の図柄などである。表面処理層17は、たとえば有機粒子を含有する樹脂層であり、表皮材10に耐摩耗性や滑らかな触感などを付与することができる。
【0015】
表皮材10は、OD(Optical Density;光学濃度)値が1以上3.5以下である。表皮材10が表皮層11のみからなる場合は、表皮層11のOD値が1以上3.5以下である。柔軟層15、印刷層16、および表面処理層17の少なくとも1つが形成されている場合には、これらの層も含めたOD値が1以上3.5以下である。このような表皮材10は、たとえば、上記の表皮層11の材料に、必要に応じて顔料もしくは染料を混合して製造することができる。または、上記の表皮層11の材料に、顔料もしくは染料を含むインキを必要に応じてコーティングして製造してもよい。また、インキ層を含む転写層が形成された転写シートを用いて、表皮層11に転写してもよい。
【0016】
表皮材のOD値が1未満であると、加飾成形品1の裏面にある光源2が点灯していないときであっても、表皮材10の隠蔽性が不十分であるため遮光層12のパターンが見えてしまう。表皮材のOD値が3.5を超えると、光源2が点灯したときであっても、表皮材10の隠蔽性が強すぎるためパターンを視認しにくくなる。なお、OD値1以上3.5以下は、透過率に換算すれば、およそ0.03%以上10%以下となる。
【0017】
遮光層12は、任意のパターンを有している。任意のパターンとしては、たとえば、
図3(a)から(f)に示すようなアイコンを用いることができる。なお、
図3はアイコンパターンの模式的な平面図である。遮光層12は、たとえば、1)表皮材10に任意のパターンを直接印刷する、2)遮光層を任意のパターンで印刷したフィルムを表皮材10にラミネートする、3)任意のパターンが形成された遮光性シールを表皮材10に貼り合わせる、4)遮光性シートを表皮材の全面にラミネートし、光を透過させたい箇所の遮光性シートをレーザ等で除去するといった方法で形成することができる。
【0018】
成形体13は透明であり、材料としては、たとえば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、繊維強化樹脂、発泡樹脂、2液反応硬化樹脂などを用いることができる。ここで、透明とは半透明および着色透明を含むものである。
【0019】
光源2は、たとえば温度放射光源(ハロゲンランプなど)、放電発光光源(メタルハライドランプなど)、電界発光光源(LED、無機EL、有機ELなど)など公知のものを用いることができる。光源は、面発光、線発光、点発光のいずれか、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0020】
加飾成形品1は、裏面の光源2が点灯したとき、表皮材10の発光部10aと非発光部10bとの色差ΔEが50以上である。色差ΔEは、下記の式で算出できる。
【0021】
【数1】
ここで、Δa
*、Δb
*、ΔL
*は、CIE1976色空間における、発光部10aのa
*,b
*,L
*値と、非発光部10b(つまり遮光層12が形成されている部分)のa
*,b
*,L
*値との差で求められる値である。
【0022】
たとえば、
図3(a)では、光源が点灯したとき、円の内側に三角形があるパターンが表皮材の表面に現れる。三角形の周囲の円は発光部10aであり、三角形の部分は非発光部10bである。さらに、円の外側の部分は非発光部10bである。このようなパターンの場合においては、中央の非発光部10b(三角形)とその周囲の発光部10a(円)との色差ΔEが50以上である。また、発光部10a(円)とその周囲の非発光部10bとの色差ΔEも50以上である。表皮材における発光部と非発光部との色差ΔEを50以上にする方法としては、たとえば、次のような方法を用いることができる。
1)光源の光色は変えずに、表皮材の色を変える
2)表皮材の色は変えずに、光源の光色を変える
上記1)は、たとえば光色が白であれば、表皮材の色をアイボリーなど黄色がかった白色系や、白以外の色にするといったことである。上記2)は、さらに、たとえば次の2通りが挙げられる。
2−1)光源の光色そのものを変える
2−2)加飾成形品に着色層を設けることで光色を変える
上記2−2)の着色層の位置は、表皮材10と成形体13との間であって、発光部10aに相当する位置であればよい。また、着色層としては、たとえばセロファン、紙、着色透明の印刷層などを用いることができる。なお、成形体13を着色透明樹脂で成形して着色層としてもよい。
【0023】
本発明の加飾成形品1は、表皮材のOD値が1以上3.5以下であるため、光源2が点灯していないときは、表皮材の隠蔽性によって任意のパターンを確実に隠蔽することができる。一方で、光源2が点灯したときは、表皮材のOD値が1以上3.5以下であるため、十分な量の光が表皮材10の発光部10aを透過することができる。また、光源2が点灯したときの表皮材における発光部10aと非発光部10bとの色差ΔEが50以上であるため、表皮材の表面に任意のパターンをはっきりと視認することができる。
【0024】
加飾成形品1は、不織布14をさらに備えていてもよい。不織布14の位置は、表皮材10と遮光層12との間(
図4(a)参照)、または遮光層12と成形体13との間(
図4(b)参照)である。遮光層は、たとえば、1)不織布に直接印刷する、2)遮光シールを不織布に貼り合わせる、3)遮光性を有する顔料または染料を不織布に含侵させるといった方法で形成することができる。2)の方法で用いる遮光シールは、接着層を片面のみに有するものでもよいし、接着層を両面に有するものであってもよい。3)の方法で遮光層を形成した場合は、たとえば
図5に示すように、不織布14の厚みと遮光層12の厚みとが同じになる。
【0025】
上記の1)から3)のいずれかの方法で作製された遮光層付き不織布を用いると、加飾成形品1の製造において、次のような利点がある。加飾成形品1を、たとえば射出成形によって得る場合に、あらかじめ遮光層が設けられた不織布を用いると、遮光層が設けられたフィルムと比較して、容易にプレフォームできる。フィルムの場合は、プレフォームする前にフィルムを加熱して軟化させる必要がある。しかし不織布であれば、加熱せずに金型の型締め力(圧力)のみでプレフォームできる。このようにして得られたプレフォーム済みの遮光層付き不織布14を、表皮材10と貼り合わせ(
図6(a)(b)参照)、貼合品を一対の金型にインサートし(
図6(c)参照)、射出成形することで加飾成形品1を得ることができる(
図6(d)〜(f))。
【0026】
また、クッション性が非常に強い合皮などの表皮材を用いる場合は、表皮材の剛性が十分でないため、表皮材をプレフォームしてもその形状を維持しにくい。しかし、表皮材に上記の不織布を貼り合わせることで、表皮材の剛性不足を補い、プレフォーム形状を維持することができる。したがって、表皮材を金型へ容易にインサートすることができる。
【実施例】
【0027】
1.測定環境
使用カメラ:TOPCON SR−5000(株式会社トプコン製)
(面測定が可能な分光放射計)
光源:LED、輝度最大約500000cd/m
2
加飾成形品表面とカメラまでの距離:350〜400mm
【0028】
2.測定方法
図3(a)〜(f)に示す、すべてのパターンを有する加飾成形品1を用いた。蛍光灯下において、加飾成形品1の裏面から光源2を点灯させ、カメラ4で加飾成形品表面の画像を撮影した。その画像において、表皮材における発光部と非発光部を指定することで、発光部と非発光部のそれぞれの色データ(L*、a*、b*)を抽出した。色データに基づいて、表皮材における発光部と非発光部との色差ΔEを算出した。なお、光源の輝度は300000cd/m2で一定とした。
【0029】
3.視認性評価
視認性は、3波長光源下の室内で光源2を点灯させ、カメラ4と同位置から加飾成形品1のパターン(アイコン)を目視し、その見やすさを○、△、×として評価した。○は明瞭にアイコンを視認できるレベル、△はアイコンが点灯していることを視認できるが、細部や輪郭がぼやけて明確に視認できないレベル、×はアイコンが点灯していることを視認するのが難しい、もしくは至近距離でないと視認できないといったレベルとした。
結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
なお、実施例5の本杢は、木目によってOD値のばらつきが大きいため、データが入手できなかった。また、輝度とは、発光しているパターンの明るさを示す指標である。
【0031】
実施例1〜5の加飾成形品は、表皮材のOD値が1以上3.5以下であり、表皮材における発光部と非発光部との色差ΔEが50以上であったため、パターンの視認性が良好であった。比較例1の加飾成形品は表皮材のOD値が2.3であり、色差が40.6であった。色差が上限値の50付近であるため、実施例と比べてパターンの視認性はやや低下するに留まった。比較例2の加飾成形品は表皮材のOD値が2.6であったが、色差が18.7と十分に出ておらず、パターンの視認性が悪かった。比較例3の加飾成形品は色差が24.2と十分に出ておらず、表皮材のOD値が3.7であった。表皮材のOD値が上限の3.5付近であるため、実施例と比べてパターンの視認性はやや低下するに留まった。比較例4の加飾成形品は、表皮材のOD値が上限の3.5を超えており、色差も十分に出ていないため、パターンの視認性が悪かった。
【符号の説明】
【0032】
1 :加飾成形品
10 :表皮材
10a:発光部
10b:非発光部
11 :表皮層
12 :遮光層
13 :成形体
14 :不織布
15 :柔軟層
16 :印刷層
17 :表面処理層
18 :貼合品
2 :光源
3 :金型
4 :カメラ
100:加飾成形品
110:表皮材
111:発光部
120:遮光層
130:導光体
140:光源
150:接着層