特許第6858500号(P6858500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858500
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】塗装前処理設備
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/08 20060101AFI20210405BHJP
   C23G 3/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   B08B3/08 Z
   C23G3/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-127407(P2016-127407)
(22)【出願日】2016年6月28日
(65)【公開番号】特開2018-1058(P2018-1058A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2018年12月11日
【審判番号】不服2020-9471(P2020-9471/J1)
【審判請求日】2020年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149790
【氏名又は名称】株式会社大気社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】小池 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】佐古田 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】林 慶一
【合議体】
【審判長】 藤井 昇
【審判官】 一ノ瀬 覚
【審判官】 氏原 康宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−291395(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3047357(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/08
C23G 3/00
C23G 1/00
C23G 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装前の被塗物を予備洗浄水により予備洗浄する予備洗浄部と、
この予備洗浄部で予備洗浄した前記被塗物を脱脂液により化学的に脱脂処理する脱脂部と、
この脱脂部で脱脂処理した前記被塗物を洗浄水により洗浄する水洗部とを備える塗装前処理設備であって、
前記水洗部で前記被塗物の洗浄に用いた前記洗浄水を、前記予備洗浄部での前記被塗物の予備洗浄に用いる前記予備洗浄水として、前記予備洗浄部に供給する予備洗浄水供給路を設け、
前記予備洗浄部での前記被塗物の予備洗浄に用いる前記予備洗浄水にマイクロバブルを含ませるマイクロバブル発生装置を設け
前記予備洗浄部は、予備洗浄用の装置と回収槽と配水槽とを備え、
前記予備洗浄用の装置は、前記予備洗浄水により前記被塗物を予備洗浄し、
前記回収槽は、前記被塗物の予備洗浄に用いた前記予備洗浄水を回収し、
前記配水槽には、前記被塗物の予備洗浄に用いた前記予備洗浄水が前記回収槽に回収されるのに伴って、前記回収槽に回収した前記予備洗浄水が導水路を通じて導かれるとともに、前記水洗部で前記被塗物の洗浄に用いた前記洗浄水が前記予備洗浄水として前記予備洗浄水供給路を通じて供給され、
前記予備洗浄用の装置には、前記配水槽における前記予備洗浄水が給水路を通じて供給され、
前記配水槽には循環路が装備されて、
前記回収槽―前記導水路―前記配水槽―前記給水路―前記予備洗浄用の装置の順に前記予備洗浄水が循環するのに併行して、前記配水槽から取り出された前記予備洗浄水が前記循環路を通じて短絡的に前記配水槽に戻され、
前記マイクロバブル発生装置は、前記循環路に介装されて、前記循環路を通過する前記予備洗浄水に前記マイクロバブルを含ませる、塗装前処理設備。
【請求項2】
前記脱脂部には、脱脂槽内の脱脂液に前記被塗物を浸漬させるディップ式の本脱脂部のみを設け、
このディップ式の本脱脂部での脱脂処理に先立って、前記被塗物を前記脱脂液により予備脱脂処理する予備脱脂部は省略してある請求項1記載の塗装前処理設備。
【請求項3】
前記導水路には鉄粉除去装置が介装され、
前記鉄粉除去装置は、前記予備洗浄部で前記被塗物の予備洗浄に用いた前記予備洗浄水に含まれる鉄粉を、予備洗浄水と鉄粉との比重差により前記予備洗浄水から分離し、
この鉄粉除去装置に送る前記予備洗浄水から、その予備洗浄水に含まれる気泡を除去するガス抜き手段が設けられ、
前記ガス抜き手段として空気逃がし弁が、前記予備洗浄水の流れ方向において前記鉄粉除去装置よりも上流側で、前記導水路に装備されている、請求項1又は2記載の塗装前処理設備
【請求項4】
前記予備洗浄部には、前記予備洗浄用の装置として、前記被塗物に対して前記予備洗浄水を噴流状態で吹き付ける予備洗浄用の吐水装置と、前記被塗物に対して前記予備洗浄水をスプレーする予備洗浄用のスプレー装置とが装備され、
前記吐水装置には、前記マイクロバブルを含む前記予備洗浄水が前記配水槽から前記給水路を通じて供給され、
前記スプレー装置には、前記マイクロバブルを含む前記予備洗浄水が前記配水槽から前記給水路を通じて供給される請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗装前処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装前の被塗物を処理する塗装前処理設備に係り、詳しくは、塗装前の被塗物を予備洗浄水により予備洗浄する予備洗浄部と、この予備洗浄部で予備洗浄した前記被塗物を脱脂液により化学的に脱脂処理する脱脂部と、この脱脂部で脱脂処理した前記被塗物を洗浄水により洗浄する水洗部とを備える塗装前処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の塗装前処理装置では、下記の特許文献1〜3に見られるように、マイクロバブルを用いて塗装前の被塗物に対する脱脂処理の処理効果を高めるのに、マイクロバブル発生装置は、被塗物を浸漬させる脱脂槽内の脱脂液にマイクロバブルを供給するように配備していた。
【0003】
つまり、脱脂槽内の脱脂液にマイクロバブルを導入することで、マイクロバブルが液中で破裂する際に放出される衝撃波により、液中に浸漬された被塗物に対する脱脂処理の処理効果(即ち、被塗物の表面に付着した油分を除去する効果)を高めるようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−173086号公報
【特許文献2】特開2013−248564号公報
【特許文献3】特開2016−49509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、脱脂槽内の脱脂液にマイクロバブルを供給する従来設備では、脱脂処理効果の向上により、被塗物のその後の塗装で得られる塗装品質を高めたり、脱脂処理に要する時間を短縮して塗装物の生産性を高めたりする効果は確かに得られるものの、設備を小型化したり、設備のイニシャルコストやランニングコストを低減したりする効果は得ることができなかった。
【0006】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、合理的なマイクロバブル利用形態を採ることで、脱脂処理の処理効果を十分に確保しながら、設備を小型化したり設備のイニシャルコストやランニングコストを低減したりする効果も併せて得られるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は塗装前処理設備に係り、その特徴は、
塗装前の被塗物を予備洗浄水により予備洗浄する予備洗浄部と、
この予備洗浄部で予備洗浄した前記被塗物を脱脂液により化学的に脱脂処理する脱脂部と、
この脱脂部で脱脂処理した前記被塗物を洗浄水により洗浄する水洗部とを備える塗装前処理設備であって、
前記水洗部で前記被塗物の洗浄に用いた前記洗浄水を、前記予備洗浄部での前記被塗物の予備洗浄に用いる前記予備洗浄水として、前記予備洗浄部に供給する予備洗浄水供給路を設け、
前記予備洗浄部での前記被塗物の予備洗浄に用いる前記予備洗浄水にマイクロバブルを含ませるマイクロバブル発生装置を設け、
前記予備洗浄部は、予備洗浄用の装置と回収槽と配水槽とを備え、
前記予備洗浄用の装置は、前記予備洗浄水により前記被塗物を予備洗浄し、
前記回収槽は、前記被塗物の予備洗浄に用いた前記予備洗浄水を回収し、
前記配水槽には、前記被塗物の予備洗浄に用いた前記予備洗浄水が前記回収槽に回収されるのに伴って、前記回収槽に回収した前記予備洗浄水が導水路を通じて導かれるとともに、前記水洗部で前記被塗物の洗浄に用いた前記洗浄水が前記予備洗浄水として前記予備洗浄水供給路を通じて供給され、
前記予備洗浄用の装置には、前記配水槽における前記予備洗浄水が給水路を通じて供給され、
前記配水槽には循環路が装備されて、
前記回収槽―前記導水路―前記配水槽―前記給水路―前記予備洗浄用の装置の順に前記予備洗浄水が循環するのに併行して、前記配水槽から取り出された前記予備洗浄水が前記循環路を通じて短絡的に前記配水槽に戻され、
前記マイクロバブル発生装置は、前記循環路に介装されて、前記循環路を通過する前記予備洗浄水に前記マイクロバブルを含ませる点にある。
【0008】
つまり、脱脂部に続く水洗部には、脱脂部での脱脂処理で使用された脱脂液の一部が、脱脂部から水洗部に移動する被塗物に付着した状態で持ち込まれ、このため、水洗部で被塗物の洗浄に使用した後の洗浄水は、少量とは言え脱脂液を含んだもの(例えば、脱脂液に比べて1/10程度の濃度の脱脂液水溶液)になる。
【0009】
したがって、水洗部で被塗物の洗浄に用いた洗浄水を、予備洗浄部での被塗物の予備洗浄に用いる予備洗浄水として、予備洗浄水供給路により予備洗浄部に供給することで、予備洗浄部では、脱脂液を含む予備洗浄水により被塗物を予備洗浄することになる。
【0010】
また、予備洗浄部での被塗物の予備洗浄に用いる予備洗浄水には、マイクロバブル発生装置によりマイクロバブルを含ませるから、予備洗浄部では、脱脂液とマイクロバブルとを含む予備洗浄水により被塗物を予備洗浄することになる。
具体的には、上記第1特徴構成では(図2参照)、予備洗浄部(1)は、予備洗浄用の装置(5,6)と回収槽(7)と配水槽(8)とを備え、
予備洗浄用の装置(5,6)は、予備洗浄水(W3)により被塗物(B)を予備洗浄し、
回収槽(7)は、被塗物(B)の予備洗浄に用いた予備洗浄水(W3)を回収し、
配水槽(8)には、被塗物(B)の予備洗浄に用いた予備洗浄水(W3)が回収槽(7)に回収されるのに伴って、回収槽(7)に回収した予備洗浄水(W3)が導水路(9)を通じて導かれるとともに、水洗部(3)で被塗物(B)の洗浄に用いた洗浄水(W2)が予備洗浄水(W3)として予備洗浄水供給路(33)を通じて供給され、
予備洗浄用の装置(5,6)には、配水槽(8)における予備洗浄水(W3)が給水路(10,11)を通じて供給され、
配水槽(8)には循環路(37)が装備されて、
回収槽(7)―導水路(9)―配水槽(8)―給水路(10,11)―予備洗浄用の装置(5,6)の順に予備洗浄水(W3)が循環するのに併行して、配水槽(8)から取り出された予備洗浄水(W3)が循環路(37)を通じて短絡的に配水槽(8)に戻され、
マイクロバブル発生装置(34)は、前記循環路(37)に介装されて、前記循環路(37)を通過する予備洗浄水(W3)にマイクロバブルを含ませる。
即ち、水洗部(3)で被塗物(B)の洗浄に用いた洗浄水(W2)が予備洗浄水(W3)として予備洗浄水供給路(33)を通じて配水槽(8)に供給されることで、水洗部(3)で被塗物(B)の洗浄に用いた洗浄水(W2)に含まれる脱脂液(L)が、配水槽(8)における予備洗浄水(W3)に混合され、また、マイクロバブル発生装置(34)により、循環路(37)を通過する予備洗浄水(W3)にマイクロバブルが含ませられることで、配水槽(8)における予備洗浄水(W3)にマイクロバブルが混合され、これら脱脂液(L)及びマイクロバブルが混合された配水槽(8)における予備洗浄水(W3)が給水路(10,11)を通じて予備洗浄用の装置(5,6)に供給されることで、予備洗浄用の装置(5,6)による被塗物(B)の予備洗浄において、脱脂液(L)とマイクロバブルとを含む予備洗浄水(W3)により被塗物(B)が予備洗浄される。
【0011】
このことにより、予備洗浄部では、被塗物に付着した鉄粉などの塵埃を被塗物から除去する本来の予備洗浄処理に加えて、被塗物に付着した油分を被塗物から除去する脱脂処理も、マイクロバブルにより処理効果を高めた状態で、被塗物に施すことができる。
【0012】
そして、このように水洗部において用いた洗浄水に含まれる脱脂液(言わば、使用済みの脱脂液)を利用した状態で、予備洗浄部において被塗物を予備洗浄処理するとともに効果的に脱脂処理できることで、被塗物とともに脱脂部に持ち込まれる油分の量を削減して脱脂部での処理負荷を軽減することができ、これにより、脱脂液の消費量を少量化して設備のランニングコストを低減することができる。
【0013】
また、加熱により脱脂液を脱脂処理に適した温度を保つときには、脱脂液消費量の少量化に伴い、脱脂液の保温に要する熱エネルギも低減することができて、そのことでも設備のランニングコストを低減することができる。
【0014】
さらにまた、脱脂部での処理負荷が軽減されることで、脱脂部において被塗物から除去する油分の量も少量化するから、除去した油分を脱脂液から分離して回収する油分除去装置も小型化なもので済ませることができ、その分、設備を小型化するとともに、設備のイニシャルコスト及びランニングコストも一層低減することができる。
【0015】
なお、予備洗浄部では、水洗部で用いた洗浄水を予備洗浄水として導入することに対して、その導入量に相当する量の使用済みの予備洗浄水を予備洗浄部から排出するから、予備洗浄部での脱脂処理により被塗物から除去した油分が予備洗浄部において蓄積することはなく、その為、予備洗浄部に対して新たに油分除去装置を設ける必要もない。
【0016】
要するに、上記構成によれば、塗装前の被塗物に対する脱脂処理の処理効果をマイクロバブルの利用により十分に確保しながら、設備を小型化したり、設備のイニシャルコストやランニングコストを低減したりする効果も併せて得ることができる。
【0017】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記脱脂部には、脱脂槽内の脱脂液に前記被塗物を浸漬させるディップ式の本脱脂部のみを設け、
このディップ式の本脱脂部での脱脂処理に先立って、前記被塗物を前記脱脂液により予備脱脂処理する予備脱脂部は省略してある点にある。
【0018】
前記した特許文献3に見られるように、従来の塗装前処理設備では(図5参照)、脱脂部2として、脱脂槽15内の脱脂液Lに被塗物Bを浸漬させて被塗物Bを脱脂処理するディップ式の本脱脂部2Bと、この本脱脂部2Bでの脱脂処理に先立ち、被塗物Bを脱脂液Lにより予備脱脂処理するスプレー式などの予備脱脂部2Aとが設けられる。
【0019】
これに対し、上記構成では図2参照)、前述の如く予備洗浄部(1)において被塗物(B)を予備洗浄処理するのに伴い効果的に脱脂処理できることから、予備脱脂部を省略し、予備洗浄部(1)での処理を終えた被塗物(B)は、そのままディップ式の本脱脂部(2B)において脱脂処理する。
【0020】
したがって、この構成によれば、予備脱脂部の省略により、設備を一層小型化することができ、また、予備脱脂部に付随するポンプなどの付随機器も省略できることで、設備のイニシャルコストやランニングコストを一層低減することができる。
【0021】
本発明の第3特徴構成は、第1又は第2特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記導水路には鉄粉除去装置が介装され、
前記鉄粉除去装置は、前記予備洗浄部で前記被塗物の予備洗浄に用いた前記予備洗浄水に含まれる鉄粉を、予備洗浄水と鉄粉との比重差により前記予備洗浄水から分離し、
この鉄粉除去装置に送る前記予備洗浄水から、その予備洗浄水に含まれる気泡を除去するガス抜き手段が設けられ、
前記ガス抜き手段として空気逃がし弁が、前記予備洗浄水の流れ方向において前記鉄粉除去装置よりも上流側で、前記導水路に装備されている点にある。
【0022】
この構成では図2参照)、被塗物(B)の予備洗浄に用いた予備洗浄水(W3)に含まれる鉄粉(即ち、予備洗浄処理で被塗物から除去した鉄粉)を、導水路(9)に介装した鉄粉除去装置(12)により予備洗浄水(W3)から分離除去するが、この鉄粉除去装置(12)は予備洗浄水(W3)と鉄粉との比重差により予備洗浄水(W3)から鉄粉を分離するため、予備洗浄に用いた予備洗浄水(W3)がマイクロバブルなどの気泡を含む場合、その気泡(特に大径の気泡)に鉄粉が付着して、気泡の浮力により鉄粉の見掛け上の重量が小さくなることで、鉄粉除去装置(12)の鉄粉分離機能が低下してしまう。
【0023】
これに対し、上記構成では、導水路(9)を通じて鉄粉除去装置(12)に送る予備洗浄水(W3)から気泡を除去するガス抜き手段として、予備洗浄水(W3)の流れ方向において鉄粉除去装置(12)よりも上流側で、導水路(9)に空気逃がし弁(36)を装備するから、予備洗浄水(W3)にマイクロバブルを含ませるようにしながらも、このガス抜き手段としての空気逃がし弁(36)による気泡の除去により、鉄粉除去装置(12)の鉄粉分離機能を高く保つことができる。
【0024】
本発明の第4特徴構成は、第1〜第3特徴構成のいずれかの実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記予備洗浄部には、前記予備洗浄用の装置として、前記被塗物に対して前記予備洗浄水を噴流状態で吹き付ける予備洗浄用の吐水装置と、前記被塗物に対して前記予備洗浄水をスプレーする予備洗浄用のスプレー装置とが装備され、
前記吐水装置には、前記マイクロバブルを含む前記予備洗浄水が前記配水槽から前記給水路を通じて供給され、
前記スプレー装置には、前記マイクロバブルを含む前記予備洗浄水が前記配水槽から前記給水路を通じて供給される点にある。
【0025】
この構成では図2参照)、予備洗浄部(1)において吐水装置(5)やスプレー装置(6)による予備洗浄水(W3)の吹き付けやスプレーにより塗装前の被塗物(B)を予備洗浄することで、被塗物(B)に付着している鉄粉等の塵埃を除去する。
【0026】
そして、吐水装置(5)やスプレー装置(6)に供給する予備洗浄水(W3)に対してマイクロバブル供給装置(34)によりマイクロバブルを含ませることで、予備洗浄部(1)では被塗物(B)に対する予備洗浄処理に伴い、脱脂部(2)での脱脂処理に先行する脱脂処理を、マイクロバブルにより処理効果を高めた状態で被塗物(B)に施す。
【0027】
なお、予備洗浄部(1)において吐出装置(5)から被塗物(B)に対して吹き付ける予備洗浄水(W3)にマイクロバブルが含まれることでは、主として、被塗物(B)に付着した油分の疎水基に対するマイクロバブルの付着性により、被塗物(B)に対する脱脂効果を高めることができる。
【0028】
また、予備洗浄部(1)においてスプレー装置(6)から被塗物(B)に対してスプレーする予備洗浄水(W3)にマイクロバブルが含まれることでは、主として、スプレーした予備洗浄水(W3)中でマイクロバブルが破裂する際に放出される衝撃波により、被塗物(B)に対する脱脂効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】塗装前処理設備の一部を示す設備構成図
図2】別の実施形態を示す設備構成図
図3】別の実施形態を示す設備構成図
図4】別の実施形態を示す設備構成図
図5】従来の脱脂部を示す図
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は塗装前処理設備の一部を示し、この塗装前処理設備において、塗装前の被塗物B(本例では自動車ボディ)は、図1に示す予備洗浄部1、脱脂部2、第1水洗部3、第2水洗部4の夫々に対し、その順に送られて、それら各部で塗装前処理されるとともに、これに続き、表面調整部、化成処理部、化成処理後水洗部、純水水洗部の夫々にも、その順に送られて、それら各部でも更に塗装前処理され、その後、塗装工程に送られる。
【0031】
予備洗浄部1には、被塗物Bに対して予備洗浄水W3を噴流状態で吹き付ける予備洗浄用の吐水装置5と、被塗物Bに対して予備洗浄水W3をスプレーする予備洗浄用のスプレー装置6とを装備してあり、予備洗浄部1では、これら吐水装置5やスプレー装置6による予備洗浄水W3の吹き付けやスプレーにより塗装前の被塗物Bを予備洗浄することで、被塗物Bに付着している鉄粉等の塵埃を除去する。
【0032】
また、予備洗浄部1には、被塗物Bの予備洗浄に用いた予備洗浄水W3を回収する回収槽7を設け、この回収槽7の底部には、回収した予備洗浄水W3を配水槽8に導く導水路9を接続してあり、吐水装置5及びスプレー装置6に対しては、この配水槽8から給水路10,11を通じて予備洗浄水W3を供給する。
【0033】
導水路9の出口側には鉄粉除去装置12を装備してあり、この鉄粉除去装置12では、回収槽7に回収した予備洗浄水W3に含まれる鉄粉(即ち、予備洗浄で被塗物Bから除去した鉄粉)を、予備洗浄水W3と鉄粉との比重差により分離して予備洗浄水W3から除去し、鉄粉を除去した予備洗浄水W3を配水槽8に流入させる。
【0034】
即ち、予備洗浄部1では、被塗物Bの予備洗浄に用いた予備洗浄水W3の一部を、回収槽7−導水路9−鉄粉除去装置12−配水槽8−給水路10,11−吐水装置5,スプレー装置6の順に循環させて使用する。
【0035】
鉄粉除去装置12では、具体的には、導水路9からケーシング槽13に導入した予備洗浄水W3を細分した状態で多数の傾斜流路14に対して斜め上向きに通過させ、この通過過程において予備洗浄水W3中の鉄粉を各傾斜流路14の傾斜底壁に沈着させることで、予備洗浄水W3から鉄粉を分離する。
【0036】
分離した鉄粉は、各傾斜流路14の傾斜底壁を滑降させて最終的にケーシング槽13の底頂部に沈積させ、また、鉄粉を分離した予備洗浄水W3はケーシング槽13からのオーバーフローにより配水槽8に流入させる。
【0037】
脱脂部2には、脱脂液Lを貯留する脱脂槽15を設けてあり、予備洗浄部1で予備洗浄した被塗物Bは、脱脂槽15内の脱脂液Lに浸漬させて脱脂処理することで、被塗物Bに付着した油分を化学的に被塗物Bから除去する。
【0038】
また、脱脂部2には、脱脂槽15における脱脂液Lをオーバーフローにより脱脂槽15から流入させる補助槽16を設けてあり、この補助槽16の底部には、脱脂槽15内に設けたノズル装置17に対して補助槽16内の脱脂液Lを供給する給液路18を接続してある。
【0039】
即ち、これらノズル装置17から脱脂槽15内の脱脂液L中に脱脂液Lを噴出させることで、脱脂槽15内の脱脂液Lを撹拌し、この撹拌により被塗物Bに対する脱脂処理の処理効果を高める。
【0040】
補助槽16内の脱脂液Lは、給液路18から分岐した分岐給液路18a,18bを通じて、脱脂槽15の入口部及び出口部に配置した散液装置19,20にも供給し、これら散液装置19,20からも被塗物Bに対して脱脂液Lを吹き付ける。
【0041】
脱脂槽15端部の付属槽部分15aには、槽内における脱脂液Lの液面に浮上する油分(即ち、脱脂槽15での脱脂処理により被塗物Bから除去した油分)を、槽内における表層部の脱脂液Lとともにオーバーフローにより流入させる油分回収溝21を設けてあり、この油分回収溝21に流入させた油分と脱脂液Lとは、回収路22aを通じて油分除去装置23に送る。
【0042】
そして、油分除去装置23では、回収路22aを通じて送られる油分と脱脂液Lとの混合流体から油分を分離して、分離した油分を回収容器に回収するとともに、油分を分離した脱脂液Lを液返送路22bを通じて脱脂槽15の付属槽部分15aに返送する。
【0043】
なお、一般の塗装前処理設備では、図5に示す如く、脱脂部2として、被塗物Bを脱脂槽15内の脱脂液Lに浸漬させて脱脂処理する上記の如きディップ式の本脱脂部2Bと、この本脱脂部2Bでの脱脂処理に先立ち、被塗物Bを脱脂液Lにより予備脱脂処理するスプレー式などの予備脱脂部2Aとが設けられるが、本例の塗装前処理設備では、予備脱脂部2Aを装備せず、脱脂部2としてディップ式の本脱脂部2Bのみを設けてある。
【0044】
第1水洗部3には、脱脂処理後の被塗物Bに対して洗浄水W2をスプレーする第1水洗用のスプレー装置24を設けてあり、第1水洗部3では、このスプレー装置24による洗浄水W2のスプレーにより被塗物Bを洗浄することで、脱脂処理後の被塗物Bに残る脱脂液Lを洗い流す。
【0045】
また、第1水洗部3には、被塗物Bの洗浄に用いた洗浄水W2を回収する回収槽25を設けてあり、スプレー装置24には、回収槽25に回収した洗浄水W2を給水路26を通じて供給する。
【0046】
第2水洗部4には、第1水洗部3と同じく、被塗物Bに洗浄水W1をスプレーすることで被塗物Bに未だ残る脱脂液Lを洗い流す第2水洗用のスプレー装置27を設けるとともに、被塗物Bの洗浄に用いた洗浄水W1を回収して、回収した洗浄水W1を給水路28を通じてスプレー装置27に供給する回収槽29を設けてある。
【0047】
また、第2水洗部4には、スプレー装置27による洗浄水W1のスプレーに続いて、洗浄水供給路30から供給される新たな洗浄水W0(例えば工水など)をスプレーする仕上げ用のスプレー装置31を設けてあり、脱脂処理後の被塗物Bに対する最終の洗浄として、スプレー装置31による新たな洗浄水W0のスプレーにより被塗物Bを洗浄する。
【0048】
仕上げ用のスプレー装置31からのスプレーにより被塗物Bの洗浄に用いた新たな洗浄水W0は、前段のスプレー装置27からのスプレーにより被塗物Bの洗浄に用いた洗浄水W1とともに、第2水洗部4の回収槽29に回収するようにしてあり、これにより、第2水洗部4では、仕上げ用のスプレー装置31からのスプレーにより被塗物Bの洗浄に用いた新たな洗浄水W0を、前段のスプレー装置27からスプレーさせる洗浄水W1として利用するようにしてある。
【0049】
また、第2水洗部4の回収槽29と第1水洗部3の回収槽25とは、第2水洗部4の回収槽29において過剰となる洗浄水W1を第1水洗部3の回収槽25に送る洗浄水渡り路32により接続してあり、これにより、第1水洗部3では、第2水洗部4で被塗物Bの洗浄に用いた洗浄水W1を、第1水洗部3のスプレー装置24からスプレーさせる洗浄水W2として利用するようにしてある。
【0050】
さらに、本例の塗装前処理設備では、第1水洗部3の回収槽25と予備洗浄部1の配水槽8とを、第1水洗部3の回収槽25で過剰となる洗浄水W2を予備洗浄部1の配水槽8に送る予備洗浄水供給路33により接続してあり、これにより、予備洗浄部1では、第1水洗部3で被塗物Bの洗浄に用いた洗浄水W2を、予備洗浄部1の吐水装置5及びスプレー装置6から噴出及びスプレーさせる予備洗浄水W3として利用するようにしてある。
【0051】
そして、予備洗浄部1において吐水装置5及びスプレー装置6に配水槽8の予備洗浄水W3(即ち、第1水洗部3において被塗物Bの洗浄に用いた洗浄水W2)を供給する給水路10,11の夫々には、それら給水路10,11を通過する予備洗浄水W3に対してマイクロバブルを供給するマイクロバブル発生装置34を介装してある。
【0052】
つまり、第1水洗部3において被塗物Bの洗浄に用いた洗浄水W2には、第2及び第1水洗部4,3の夫々において被塗物Bから洗い流した脱脂液Lが含まれることから、予備洗浄部1において、第1水洗部3で被塗物Bの洗浄に用いた洗浄水W2を予備洗浄水W3として被塗物Bを予備洗浄することで、また、その予備洗浄水W3に対してマイクロバブル発生装置34によりマイクロバブルを含ませることで、予備洗浄部1では被塗物Bに対する予備洗浄処理に伴い、脱脂部2での脱脂処理に先行する脱脂処理を、マイクロバブルにより処理効果を高めた状態で被塗物Bに施すようにしてある。
【0053】
そして、このように予備洗浄部1において先行的な脱脂処理を被塗物Bに施すようにすることで、脱脂部2には、被塗物Bを脱脂槽15内の脱脂液Lに浸漬させるディップ式の本脱脂部2Bを設けるだけで済ませられるようして、先述の如きスプレー式などの専用の予備脱脂部2Aを脱脂部2に設けることを不要にしてある。
【0054】
また、予備洗浄部1の回収槽7には、予備洗浄水供給路33を通じ予備洗浄水W3として配水槽8に供給される洗浄水W2の供給流量に相当する流量の予備洗浄水W3を回収槽7から外部に排出する排水路35を接続してあり、これにより、予備脱脂部1での脱脂処理により被塗物Bから除去した油分が回収槽7に蓄積しないようにして、予備脱脂部1に対する油分除去装置の装備を不要にしてある。
【0055】
さらに、予備洗浄部1において回収槽7に回収した予備洗浄水W3を鉄分除去装置12に導く導水路9にはガス抜き手段としての空気逃がし弁36を設けてあり、これにより、回収した予備洗浄水W3に含まれるマイクロバブルなどの気泡を、鉄分除去装置12に送る予備洗浄水W3から排除して、気泡に原因する鉄分除去装置12の機能低下を防止するようにしてある。
なお、予備洗浄部1において吐出装置5から被塗物Bに対して吹き付ける予備洗浄水W3にマイクロバブルが含まれることでは、主として、被塗物Bに付着した油分の疎水基に対するマイクロバブルの付着性により、被塗物Bに対する脱脂効果を高めることができ、また、予備洗浄部1においてスプレー装置6から被塗物Bに対してスプレーする予備洗浄水W3にマイクロバブルが含まれることでは、主として、スプレーした予備洗浄水W3中でマイクロバブルが破裂する際に放出される衝撃波により、被塗物Bに対する脱脂効果を高めることができる。
【0056】
〔別の実施形態〕
予備洗浄部1での被塗物Bの予備洗浄に用いる予備洗浄水W3にマイクロバブルを含ませるマイクロバブル発生装置34は、図2に示すように、予備洗浄部1の配水槽8に対する予備洗浄水W3の循環路37に介装してもよい。
【0057】
また、マイクロバブル発生装置34は、図3に示すように、第1水洗部3の給水路26に介装してもよく、あるいはまた、図4に示すように、第2水洗部4の給水路28に介装いてもよい。
【0058】
予備洗浄部1での被塗物Bの予備洗浄に用いる予備洗浄水W3にマイクロバブルを含ませるマイクロバブル発生装置34を設けるのに加えて、脱脂槽15内の脱脂液Lにマイクロバブルを含ませるマイクロバブル発生装置を設けるようにしてもよい。
【0059】
予備洗浄部1での被塗物Bの予備洗浄に用いる予備洗浄水W3に対して新しい脱脂液Lを補助的に供給するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、自動車ボディの塗装前処理に限らず、各種分野における種々の被塗物に対する塗装前処理に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
B 被塗物
W3 予備洗浄水
1 予備洗浄部
L 脱脂液
2 脱脂部
W2,W1 洗浄水
3 第1水洗部(水洗部)
4 第2水洗部(水洗部)
33 予備洗浄水供給路
34 マイクロバブル発生装置
15 脱脂槽
2B ディップ式の本脱脂部
2A 予備脱脂部
12 鉄粉除去装置
36 空気逃がし弁(ガス抜き手段)
25,29 回収槽
26,28 給水路
24,27 スプレー装置
W0 新たな洗浄水
30 洗浄水供給路
図1
図2
図3
図4
図5