(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
「熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物」
本発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、アクリル変性オルガノポリシロキサンと、アクリル系のゲル化促進剤とを含有する。
以下、各成分について説明する。
【0011】
<熱可塑性ポリウレタンエラストマー>
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(以下、「TPU」ともいう。)としては、ハードセグメントブロックとソフトセグメントブロックとを繰り返し単位とするブロック共重合体が好ましい。
【0012】
ハードセグメントブロックは、少なくともジイソシアネートとジオール類とで構成されていることが好ましい。
ジイソシアネートとしては、例えば1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、水素添加XDI、トリレンジイソシアネート(TDI)、トリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネートなどが挙げられる。
【0013】
ジオール類としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0014】
ソフトセグメントブロックは、少なくともポリオールとジイソシアネートとで構成されていることが好ましい。
ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。
【0015】
ポリエステルポリオールとしては、ジオール類とジカルボン酸との縮合重合により得られるポリエステルポリオール;ε−カプロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合により得られるポリラクトンジオールなどが挙げられる。
ジオール類としては、ハードセグメントブロックの説明において先に例示したジオール類などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。
【0016】
ポリエーテルポリオールとしては、ジカルボン酸とグリコールとの縮合重合により得られるポリエーテルポリオール;ポリエチレングリコール;ポリプロピレングリコール;ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
ジカルボン酸としては、ポリエステルポリオールの説明において先に例示したジカルボン酸などが挙げられる。
グリコールとしては、ジエチレングリコール、プロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0017】
ポリカーボネートポリオールとしては、ジオール類とカーボネート類との反応により得られるポリカーボネートポリオール;ポリカプロラクトンポリオールとポリヘキサメチレンカーボネートとの共重合体などが挙げられる。
ジオール類としては、ハードセグメントブロックの説明において先に例示したジオール類などが挙げられる。
カーボネート類としては、例えばジエチレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどが挙げられる。
【0018】
TPUの硬度は特に制限されず、高硬度のTPUを用いても低硬度のTPUを用いても、優れた摺動性および防汚性を発現できる。
本発明において、ショアA硬度が75A以下を「低硬度」とする。
また、「ショアA硬度」は、JIS K 6253−3:2012に準拠して測定される値である。
【0019】
TPUとしては市販品を用いることができ、例えばディーアイシーコベストロポリマー株式会社製の「T−8185N」、「T−8180N」、「T−8175N」;BASFジャパン株式会社製の「ET−885」、「ET−880」、「ET870−11V」;Lubrizol社製の「58215」、「58315」、「2103−70A」などが挙げられる。
【0020】
<アクリル変性オルガノポリシロキサン>
アクリル変性オルガノポリシロキサンとしては、下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンに、アクリル酸エステルを乳化グラフト共重合させてなるもの、下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンに、アクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体との混合物を乳化グラフト共重合させてなるものが好ましい。
【0022】
上記一般式(1)中、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ同一または異なる炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基である。
炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基などが挙げられる。
炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基としては、例えば前記炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つがハロゲン原子で置換されたものが挙げられる。
【0023】
上記一般式(1)中、Yはラジカル反応性基、SH基またはその両方をもつ有機基である。
ラジカル反応性基としては、例えばビニル基、アリル基、γ−アクリロキシプロピル基、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基などが挙げられる。
【0024】
上記一般式(1)中、Z
1およびZ
2はそれぞれ同一または異なる水素原子、低級アルキル基またはトリオルガノシリル基である。
低級アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
トリオルガノシリル基は、下記一般式(2)で表される。
【0026】
上記一般式(2)中、R
4およびR
5は、それぞれ同一または異なる炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基であり、R
6は、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、ラジカル反応性基、SH基またはその両方をもつ有機基である。
これら、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、ラジカル反応性基、SH基またはその両方をもつ有機基は、上記R
1 、R
2 、R
3およびYの説明において先に例示したものと同じものを挙げることができる。
【0027】
また、上記一般式(1)中、mは10,000以下の正の整数であり、好ましくは500〜8,000の範囲の整数であり、nは1以上の整数であり、好ましくは1〜500の範囲の整数である。
【0028】
上記オルガノポリシロキサンに乳化グラフト共重合されるアクリル酸エステルとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリルアクリレート;メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート等のアルコキシアルキルアクリレート;シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレートなどが挙げられる。これらは一種単独または2種以上の組み合わせで使用される。
【0029】
アクリル酸エステルと共重合可能な単量体としては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有不飽和単量体などが挙げられる。これらは一種単独または2種以上の組み合わせで使用される。
【0030】
上記オルガノポリシロキサン(a)と、アクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体との混合物(b)との配合割合((a)/(b))は、質量比で2/8〜8/2が好ましく、4/6〜7/3がより好ましい。
また、(b)として、アクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体との混合物を用いる場合、混合物の総質量に対し、アクリル酸エステルと共重合可能な単量体の含有量は、30質量%未満であることが好ましい。
【0031】
アクリル変性オルガノポリシロキサンは、コアシェル構造を形成している粒子状の共重合体が好ましく、コア部の主成分がオルガノポリシロキサン(a)であり、シェル部の主成分がアクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルとこれと共重合可能な単量体との混合物(b)であることが好ましい。
ここで、「主成分」とは、コア部またはシェル部の総質量に対する割合が50質量%以上であることを意味する。
【0032】
このようなコアシェル構造を有するアクリル変性オルガノポリシロキサンとしては市販品を用いることができ、例えば日信化学工業株式会社製の「シャリーヌR−170」、「シャリーヌR−170S」、「シャリーヌR−127E」などが挙げられる。
【0033】
アクリル変性オルガノポリシロキサンの含有量は、TPU100質量部に対して、1〜100質量部であり、5〜80質量部が好ましく、5〜50質量部がより好ましい。アクリル変性オルガノポリシロキサンの含有量が1質量部以上であれば、摺動性および防汚性の向上効果が得られる。摺動性および防汚性の向上効果は、アクリル変性オルガノポリシロキサンの含有量が多くなるに連れて高まる傾向にある。しかし、含有量が多くなりすぎるとアクリル変性オルガノポリシロキサンがTPU中で凝集しやすくなる。アクリル変性オルガノポリシロキサンが凝集すると、凝集部分を基点にクラックが生じることがある。また、伸び性や引張強度も低下しやすくなる。また、低硬度のTPUを用いた場合、強度が低下する傾向にある。そのため、アクリル変性オルガノポリシロキサンの含有量が多くなりすぎると、本発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物を加圧成形する際や離型時の応力に耐えられず、破壊などが生じで成形品が得られにくくなる。アクリル変性オルガノポリシロキサンの含有量が100質量部以下であれば、TPU中でアクリル変性オルガノポリシロキサンが凝集するのを抑制できるので、クラックが発生しにくい。また、伸び性および引張強度も良好に維持できる。加えて、低硬度のTPUを用いても、加圧成形や離型時の応力への耐性が高まるため、破壊などが生じにくく、成形品を容易に製造できる。
【0034】
<アクリル系のゲル化促進剤>
アクリル系のゲル化促進剤は、TPUの分子鎖と絡まることにより疑似架橋状態を形成し、溶融弾性を発現させるものである。
熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は、混練機などを用いて、TPUと、アクリル変性オルガノポリシロキサンと、アクリル系のゲル化促進剤とを混練することで得られる。この際、TPUの溶融弾性が高まると、混練時において混練物に剪断力が加わりやすくなる。その結果、アクリル変性オルガノポリシロキサンに外力が加わり、アクリル変性オルガノポリシロキサンからオルガノポリシロキサンが染み出して、熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物やその成形品の表面にブリードアウトする。特にアクリル変性オルガノポリシロキサンがコアシェル構造を形成している粒子状の共重合体の場合、粒子が割れてコア部の主成分であるオルガノポリシロキサンが染み出しやすくなる。オルガノポリシロキサンが染み出して熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物やその成形品の表面にブリードアウトすることで、優れた摺動性および防汚性を発現できるようになる。
【0035】
アクリル系のゲル化促進剤としては、アクリル系モノマーを単独重合または共重合したアクリル系重合体が挙げられる。
アクリル系モノマーとしては、例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
アクリル酸エステルとしては、アクリル変性オルガノポリシロキサンの説明において先に例示したアクリル酸エステルが挙げられる。
メタクリル酸エステルとしては、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリルアクリレート;メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート等のアルコキシアルキルメタクリレート;シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどが挙げられる。これらは一種単独または2種以上の組み合わせで使用される。
【0036】
アクリル系のゲル化促進剤の質量平均分子量は、5.0×10
5〜1.0×10
7が好ましく、1.5×10
6〜1.0×10
7がより好ましい。
アクリル系のゲル化促進剤の質量平均分子量や重合度が上記範囲内であれば、溶融弾性がより発現しやすくなる。その結果、アクリル変性オルガノポリシロキサンに外力がより加わりやすくなるため、アクリル変性オルガノポリシロキサンからオルガノポリシロキサンがより染み出しやすくなり、摺動性および防汚性がより向上する。
なお、本発明において「質量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定し、標準物質をポリスチレンとして求めた値である。
【0037】
アクリル系のゲル化促進剤としては市販品を用いることができ、例えば三菱レイヨン株式会社製の「メタブレンP−551A」、「メタブレンP−531A」、「メタブレンA−3000」;株式会社カネカ製の「KANEACE PA−33」、「KANEACE PA−40」、「KANEACE PA−60」;Dow chemical社製の「K400P」、「K175」などが挙げられる。
【0038】
アクリル系のゲル化促進剤の含有量は、TPU100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。アクリル系のゲル化促進剤の含有量が0.1質量部以上であれば、溶融弾性がより発現しやすくなる。その結果、アクリル変性オルガノポリシロキサンに外力がより加わりやすくなるため、アクリル変性オルガノポリシロキサンからオルガノポリシロキサンがより染み出しやすくなり、摺動性および防汚性がより向上する。一方、アクリル系のゲル化促進剤の含有量が10質量部以下であれば、成形性を良好に維持できる。
【0039】
<任意成分>
熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は、必要に応じて、TPU、アクリル変性オルガノポリシロキサン、アクリル系のゲル化促進剤以外の成分(任意成分)を含んでいてもよい。
任意成分としては、プロセスオイル等の軟化剤、タルク、カーボンブラック、炭酸カルシウム等の充填剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、加工安定剤、着色剤などの各種添加剤が挙げられる。
【0040】
<作用効果>
上述したTPUは主に伸び性と引張強度に寄与する成分であり、アクリル変性オルガノポリシロキサンは主に摺動性と防汚性に寄与する成分である。
本発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物は、TPUと特定量のアクリル変性オルガノポリシロキサンとの組み合わせにおいて、特定量のアクリル系のゲル化促進剤を併有する。アクリル系のゲル化促進剤の作用によって溶融弾性が付与されるので、各成分を混練する際に、混練物に剪断力が加わりやすくなる。その結果、アクリル変性オルガノポリシロキサンからオルガノポリシロキサンが染み出すので、優れた摺動性および防汚性を発現できるようになる。
よって、本発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物を成形品とした際、あるいは通信ケーブルや電線を被覆した際に、TPUの特性である伸び性や引張強度を維持しつつ、摺動性および防汚性にも優れる。
【0041】
ところで、上述したように、低硬度のTPUにアクリル変性オルガノポリシロキサンを単に配合しただけでは、アクリル変性オルガノポリシロキサンの特性である摺動性および防汚性は発現しにくい。これは、TPUの硬度が低いと混練時に混練物に剪断力が加わりにくく、アクリル変性オルガノポリシロキサンにも外力が加わりにくいため、アクリル変性オルガノポリシロキサンからオルガノポリシロキサンが充分に染み出さないことが原因であると考えられる。
しかし、本発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物であれば、アクリル系のゲル化促進剤を含んでいるので、TPUに溶融弾性が付与される。よって、高硬度のTPUはもちろんのこと、低硬度のTPUを用いる場合であっても、混練時に混練物に剪断力が充分に加わる。その結果、アクリル変性オルガノポリシロキサンからオルガノポリシロキサンが充分に染み出し、優れた摺動性および防汚性を発現できる。
【0042】
「柔軟性材料」
本発明により得られる柔軟性材料は、上述した本発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物からなる。よって、本発明により得られる柔軟性材料を成形してなる成形品、あるいは本発明により得られる柔軟性材料で表面が被覆された通信ケーブルや電線は、TPUの特性である伸び性や引張強度を維持しつつ、摺動性および防汚性にも優れる。
本発明により得られる柔軟性材料は、自動車部品、コピー機等の電子・電気機器部品(例えばトナーシール材、クリーニングブレード等)、レインコート等のフィルム材、放水ホース材、時計用バンドなどの成形品材料、通信ケーブルや電線の被覆材に適している。本発明により得られる柔軟性材料は摺動性、防汚性、伸び性および引張強度に優れることから、通信ケーブル用の被覆材として特に好適である。
【0043】
「通信ケーブル」
本発明により得られる通信ケーブルは、上述した本発明により得られる柔軟性材料で表面が被覆されている。
通信ケーブルの構成としては、最外層(シース層)が本発明の柔軟性材料で形成されていれば特に制限されず、例えば導体線の外周が絶縁体で被覆された心線の外周が、本発明の柔軟性材料で被覆された構成などが挙げられる。
【0044】
本発明により得られる通信ケーブルは、表面が本発明により得られる柔軟性材料で被覆されているので、TPUの特性である伸び性や引張強度を維持しつつ、摺動性および防汚性にも優れる。
本発明により得られる通信ケーブルは、ロボットアーム、自動組立機械、ゲーム機のクレーンなどの装置に用いられる通信ケーブルとして好適であり、これら装置の動作に追従して通信ケーブルが動いても摺動性に優れるので表面が摩耗しにくい。しかも、本発明の通信ケーブルは伸び性および引張強度に優れるので、これら装置の動作に追従して通信ケーブルが引っ張られても、切断しにくい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
なお、実施例9は参考例である。
【0046】
「実施例1」
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(ディーアイシーコベストロポリマー株式会社製、「T−8175N」、ショアA硬度:75A)100質量部と、アクリル変性オルガノポリシロキサン(日信化学工業株式会社製、「シャリーヌR−170S」、(a)/(b)=7/3)1質量部と、アクリル系のゲル化促進剤(三菱レイヨン株式会社製、「メタブレンP−551A」)5質量部とを混練し、熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物を得た。
得られた熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物を、3.5インチテストロール(2本)を用いて170℃で7分間混練してロールシート成形物を得た。これを鏡面板で狭持して170℃で4分間予熱した後、150kg/cm
2の圧力で4分間加圧して、厚さ1.0mmのシート状の試験片(120mm×120mm)を作製した。
得られた試験片について、以下に示す方法で各種測定・評価を行った。結果を表1に示す。
【0047】
<測定・評価>
(硬度の測定)
JIS K 6253−3:2012に準拠し、熱可塑性ポリウレタンエラストマーのショアA硬度を測定した。
【0048】
(防汚性の評価)
試験片の表面に1滴の水を滴下し、試験片と水との接触角を接触角計(協和界面科学株式会社製、「CA−X」)により測定した。接触角の数値が大きいほど、付着力が小さく、防汚性に優れていることを示している。
【0049】
(摺動性の評価)
摩擦試験機(新東科学株式会社製、「ヘイドン 14D−ANL」)を用い、直径10mmのSUS鋼球、荷重50g、引張速度100mm/分の条件で試験片の動摩擦係数を測定した。動摩擦係数が低いほど、摺動性に優れることを意味する。
【0050】
(引張試験)
予め、試験片をJIS K 6251のダンベル5号型で打ち抜き、25mmの標線を記入した。
ショッパ式引張試験機を用い、引張速度200mm/分、温度23℃で試験片を引張り、100%モジュラスを測定した。また、試験片が破断するのに要した最大荷重を引張強度(破断強度)とした。また、試験片が破断した際の標線間距離を測定し、伸び率を求めた。
【0051】
「実施例2〜9、比較例1〜5」
表1、2に示す配合組成に変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物を調製し、試験片を作製し、各種測定・評価を行った。結果を表1、2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1から明らかなように、各実施例で得られた熱可塑性ポリウレタンエラストマー組成物からは、防汚性、摺動性、伸び性および引張強度に優れる成形品が得られた。
一方、アクリル変性オルガノポリシロキサンおよびアクリル系のゲル化促進剤を用いなかった比較例1の場合、低硬度のTPUを用いたため試験片を作製することはできたが、防汚性および摺動性に劣っていた。
アクリル系のゲル化促進剤を用いなかった比較例2の場合、防汚性および摺動性に劣っていた。
アクリル変性オルガノポリシロキサンを用いなかった比較例3の場合、防汚性および摺動性に劣っていた。
アクリル変性オルガノポリシロキサンを150質量部用いた比較例4の場合、ロールシート成形物の加圧時および離型時の応力に耐えられず、試験片を作製できなかった。
アクリル系のゲル化促進剤を15質量部用いた比較例5の場合、成形性が低下し、試験片を作製できなかった。