特許第6858557号(P6858557)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6858557トロンビン活性を安定化させるための医薬組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858557
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】トロンビン活性を安定化させるための医薬組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/48 20060101AFI20210405BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20210405BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20210405BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20210405BHJP
   C07K 14/745 20060101ALN20210405BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20210405BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20210405BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20210405BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20210405BHJP
   C12N 9/50 20060101ALN20210405BHJP
   C12N 15/00 20060101ALN20210405BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALN20210405BHJP
【FI】
   A61K38/48
   A61K9/08
   A61K47/42
   A61P7/04
   !C07K14/745
   !C12N1/15
   !C12N1/19
   !C12N1/21
   !C12N5/10
   !C12N9/50
   !C12N15/00ZNA
   !C12Q1/37
【請求項の数】13
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-527289(P2016-527289)
(86)(22)【出願日】2014年10月21日
(65)【公表番号】特表2016-535990(P2016-535990A)
(43)【公表日】2016年11月24日
(86)【国際出願番号】IL2014000056
(87)【国際公開番号】WO2015063753
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2017年8月23日
【審判番号】不服2019-11354(P2019-11354/J1)
【審判請求日】2019年8月29日
(31)【優先権主張番号】229134
(32)【優先日】2013年10月29日
(33)【優先権主張国】IL
(31)【優先権主張番号】61/896,674
(32)【優先日】2013年10月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511203455
【氏名又は名称】オムリックス・バイオファーマシューティカルズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Omrix Biopharmaceuticals Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】オール・ナダブ
(72)【発明者】
【氏名】ピルペル・ヤイル
(72)【発明者】
【氏名】ドロン・シバン
【合議体】
【審判長】 原田 隆興
【審判官】 岡崎 美穂
【審判官】 齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−508943(JP,A)
【文献】 米国特許第5580560(US,A)
【文献】 米国特許第7923253(US,B2)
【文献】 国際公開第2013/006550(WO,A1)
【文献】 The journal of Biological chemistry,1991,VOl.266,No.28,pp.18498−18501
【文献】 Biochemical Journal,1993,vol.290,No.3,pp.665−670
【文献】 Journal of biological chemistry,2009,vol.284,No.30,pp.20034−20040
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,C12N,C12Q
CAPLUS/REG/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
止血用の、安定化されたトロンビン医薬組成物であって、
前記トロンビン医薬組成物が、薬理学的に許容し得る液体賦形剤中のトロンビンと、フィブリノーゲンに対する前記トロンビンの活性を損なわせることなく前記トロンビンを安定化させる化合物とを含み、
前記化合物が、少なくとも10アミノ酸残基長さを有する単離ペプチド又はその塩であり、
前記単離ペプチド又はその塩が、トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含配列番号1、2、及び3のアミノ酸配列からなる群から選択されるペプチド又はその塩であり、
約1IU/mL〜10,000IU/mLのトロンビン活性を有し、
前記化合物が、約0.01mM〜1mMの濃度で存在し、
セリンプロテアーゼ阻害剤を含む追加的な化合物を含まない、トロンビン医薬組成物。
【請求項2】
前記単離ペプチド又はその塩が、直鎖状又は環状である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記トロンビンガンマループのアミノ酸配列が、配列番号1に記載されている、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記単離ペプチド又はその塩が、配列番号1に記載のアミノ酸配列又はそのである、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記単離ペプチド又はその塩が、配列番号2に記載のアミノ酸配列又はそのである、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記単離ペプチド又はその塩が、配列番号3に記載のアミノ酸配列又はその塩からなる、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
約10IU/mL〜5,000IU/mLのトロンビン活性を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
約10IU/mL〜1,000IU/mLのトロンビン活性を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記化合物が、約0.1mM〜0.5mMの濃度で存在する、請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記化合物が、約0.5mMの濃度で存在する、請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
フィブリンシーラント成分として使用するための、請求項1〜10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
外表面にラベルが貼付されている密閉容器内に収容される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
薬理学的に許容し得る液体賦形剤中のトロンビンを含む止血用製剤における、前記トロンビンの活性を安定化させる方法であって、前記トロンビンを、フィブリノーゲンに対する前記トロンビンの前記活性を損なわせることなく前記トロンビンを安定化させる化合物を含む組成物と接触させることを含み、
前記化合物が、少なくとも10アミノ酸残基長さを有する単離ペプチド又はその塩であり、
前記単離ペプチド又はその塩が、トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含配列番号1、2、及び3のアミノ酸配列からなる群から選択されるペプチド又はその塩であり、
前記組成物が、約1IU/mL〜10,000IU/mLのトロンビン活性を有し、
前記化合物が、約0.01mM〜1mMの濃度で前記組成物に存在
前記組成物は、セリンプロテアーゼ阻害剤を含む追加的な化合物を含まない、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、EFS−ウェブを介してASCIIフォーマットで本願と同時に提出された配列表を含み、参照することによりその全体を本願に援用する。2013年10月7日に作成された前記ASCIIコピーは、「sequencelisting」というファイル名で、サイズは4バイトである。
【0002】
(発明の分野)
トロンビン活性を安定化させ、トロンビンの貯蔵寿命を延長するのに有用な化合物、それを含む組成物及び製剤、並びに方法を本明細書に提供する。具体的には、トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、及びトロンビンのガンマループと相互作用することができる単離ペプチド、使用することによって液体トロンビン製剤中のトロンビン活性を安定化させる組成物、製剤、及び方法を本明細書に開示する。更に、トロンビン活性を安定化させることができる化合物を同定する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
トロンビンは、幾つかの止血生成物において活性成分として機能するセリンプロテアーゼである。例えば、フィブリンシーラントは、典型的に、フィブリノーゲン成分及びトロンビン成分を含む。両成分を混合したとき(例えば、出血している創傷又は外科的切開に塗布したとき)、トロンビンは、フィブリノーゲンを切断し、フィブリンポリマーが形成される。液体形態の濃縮精製トロンビンは、主に自己消化の結果、長期間の保存中に活性の低下を示す。
【0004】
トロンビンの生物活性を維持し、自己消化性分解を防ぐために、液体トロンビンを含有する止血製剤は、特別な取り扱いを必要とする。例えば、液体トロンビン製剤は、貯蔵寿命の安定性を維持するために冷凍するか又はプロテアーゼ阻害剤を添加することを必要とする。診療所では、冷凍は、常に実行可能である訳ではなく、様々なプロテアーゼ阻害剤が混ざっていると、トロンビンの活性に悪影響を与えることがある。
【0005】
トロンビンから、凍結乾燥医薬調製品を作製することができ、これは、使用時に溶解させた後で用いられる。しかし、液体調製品は、使用前に溶媒に溶解させる追加の工程なしに容易に投与できる点で、凍結乾燥調製品に比べて有利である。
【0006】
トロンビンを安定化させるための他の公知の組成物及び方法は、満足のいくものではなく、例えば、以下が挙げられる:様々な非特異的成分を含む(例えば、アルブミン等のバルク担体タンパク質、様々な安定化糖類、一般的なプロテアーゼ阻害剤等);有効であり得るが、使用中にトロンビンを不活化又は阻害してその有効性を低下させ得るトロンビン活性の阻害剤を含むトロンビンの製剤。使用中の阻害を避ける又は低減するために、使用前に阻害剤、ひいてはトロンビンを希釈する必要がある場合がある。低用量トロンビンの製剤は、より多量の製剤を投与する必要がある。
【0007】
国際公開第2008157304号には、ベンジルアルコール又はクロロブタノールから選択される保存剤及びスクロースを用いてトロンビン溶液を安定化させる方法が開示されている。更なる特許公報は、トロンビンと非特異的な阻害剤とを含む組成物を提供し、したがって、トロンビン−トロンビン自己消化作用に有効に対向することができない。例えば、米国特許第4409334号には、トロンビン自体を阻害しない少なくとも1つのプロテアーゼ阻害剤及び少なくとも1つの六配位子キレート形成剤と共に、トロンビン及び安定剤としての血清アルブミンを含む、固体又は溶解形態の安定化トロンビン調製品が開示されている。
【0008】
欧州特許第0277096 B1号は、精製トロンビン、ポリオール、及び酢酸イオン又はリン酸イオンのいずれかを含有するバッファを含有する安定なトロンビン組成物を提供し、調製品のpHは、約5.0〜約6.0である。
【0009】
欧州特許第0478827 B1号は、HEPESバッファ、チオメルサール、コラーゲンの部分的加水分解によって得られるゼラチンの3つの安定剤の混合物、及び任意でポリブレンを含む安定なトロンビン組成物を提供する。
【0010】
米国特許第7351561号には、トロンビン、及び安定剤としてのベンズアミジン又はp−アミノベンズアミジンを含み、更に、安定剤としての塩化カルシウム又は塩化ナトリウム、少なくとも1つのバッファ物質、及びヒスチジン、マンニトール、コハク酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、又はアルギニンのうちの少なくとも1つを含む安定なトロンビン調製品が開示されている。
【0011】
米国特許出願公開第2009136474号(米国特許第8394372号)は、セリンプロテアーゼ;前記セリンプロテアーゼの可逆性阻害剤(例えば、ベンズアミジン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、アミノベンズアミジン);及び安定剤(例えば、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)を含む安定化セリンプロテアーゼ組成物を提供する。
【0012】
トロンビンの様々な態様について記載している非特許文献としては、Pozzi N,et al.,(2011)「Rigidification of the autolysis loop enhances Na(+)binding to thrombin」(Biophys Chem.159(1):6〜13);Marino,F.(2010)「Engineering thrombin for selective specificity toward protein C and PAR1」(J Biol Chem.285(25):19145〜52);Bah A,et al.,(2009)「Stabilization of the E form turns thrombin into an anticoagulant」(J Biol Chem.24;284(30):20034〜40);Yang L(2004)「Heparin−activated antithrombin interacts with the autolysis loop of target coagulation proteases」(Blood.104(6):1753〜9);及びRydel TJ,et al(1994)「Crystallographic structure of human gamma−thrombin」(J Biol Chem.269(35):22000〜6)が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、その生物活性を保持しながら、自己消化性分解に対してトロンビンを安定化するのに有用な特異的化合物が必要とされている。好ましくは、かかる化合物は、濃縮液体トロンビン製剤と共に使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
トロンビン活性を安定化させる優れた能力を有する化合物を本明細書において提供する。化合物は、液体製剤中のトロンビンの活性を安定化させることができ、トロンビンの貯蔵寿命を延長するのに有用である。理論に束縛されるものではないが、化合物は、フィブリノーゲンを含む異種物質に対するトロンビン活性を保ちながら、トロンビンの自己消化を完全に又は部分的に阻害する。
【0015】
1つの利点は、フィブリノーゲンを活性化するために、化合物を含む安定化トロンビンを直接用いることができる点である。安定化トロンビンは、希釈することなく、及び/又は溶液から化合物を除去することなく用いることができる。
【0016】
化合物は、更に、強力でありかつ低濃度で用いることができるので、安定化トロンビン製剤を基質に添加する際に容易に希釈される点で有益である。更に、化合物を含む組成物又は製剤、化合物を用いる方法、及びこのような化合物を同定する方法も提供する。
【0017】
1つの態様では、液体製剤中のトロンビンの活性を安定化させることができる化合物であって、化合物が、トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、その誘導体又は塩、及びトロンビンガンマループ相互作用分子、その誘導体又は塩からなる群から選択される、化合物を本明細書において提供する。幾つかの実施形態では、トロンビンガンマループのアミノ酸配列は、配列番号1に記載のアミノ酸配列KETWTANVGKを含む。
【0018】
幾つかの実施形態では、化合物は、ガンマループペプチド、このようなペプチドの誘導体若しくは塩、又はこのような誘導体の塩を含む単離ペプチドである。
【0019】
幾つかの実施形態では、化合物は、単離ガンマループペプチド、このようなペプチドの誘導体若しくは塩、又はこのような誘導体の塩である。
【0020】
幾つかの実施形態では、ペプチドは、直鎖状であるか又は環化されている。
【0021】
幾つかの実施形態では、単離ガンマループペプチドは、直鎖状である。
【0022】
幾つかの実施形態では、直鎖状単離ガンマループペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列、その誘導体又は塩を含む。
【0023】
好ましい実施形態では、直鎖状単離ガンマループペプチド、その誘導体又は塩は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する。
【0024】
幾つかの実施形態では、単離ペプチドは、トロンビンガンマループ配列、及びガンマループに隣接する1つ又は2つ以上のアミノ酸を含む。
【0025】
幾つかの実施形態では、単離ペプチドは、ペプチドの各末端に3〜4個のアミノ酸を含む。アミノ酸は、例えば、自然界でトロンビンガンマループアミノ酸配列に隣接しているアミノ酸であってよい。様々な実施形態では、単離ペプチドは、配列番号2に記載のアミノ酸配列(GNLKETWTANVGKGQPS)を有する。
【0026】
幾つかの実施形態では、単離ガンマループペプチドは、環化されている。
【0027】
幾つかの実施形態では、環化単離ガンマループペプチドは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む。好ましい実施形態では、環化単離ペプチドは、ガンマループアミノ酸配列の両末端にシステイン残基を含み、配列番号3に記載のアミノ酸配列(CKETWTANVGKC)を有する。
【0028】
幾つかの実施形態では、化合物は、トロンビンガンマループ相互作用分子、その誘導体又は塩である。
【0029】
様々な実施形態では、相互作用分子は、単離相互作用ペプチド若しくはその誘導体、単離抗体若しくはその抗体断片、ヌクレオチドアプタマー若しくはペプチドアプタマー、又はこのような分子の塩から選択される。好ましい実施形態では、相互作用分子は、単離相互作用ペプチド又はその誘導体若しくは塩である。
【0030】
様々な実施形態では、単離相互作用ペプチドは、トロンビンのガンマループペプチドを含まない単離トロンビンペプチドであり、そのアミノ酸配列は、直鎖状トロンビンアミノ酸配列又はトロンビンの非直鎖状の面対向型折り畳みアミノ酸配列に由来する。例えば、トロンビンペプチドのアミノ酸配列は、トロンビンの三次元構造に基づき得、必ずしもトロンビンペプチドの一次配列を含むものではない。幾つかの実施形態では、単離トロンビンペプチドは、配列番号7、9、10、又は11のアミノ酸配列を含む。幾つかの実施形態では、単離トロンビンペプチドは、配列番号7、9、10、又は11のアミノ酸配列を有する。1つの実施形態では、単離トロンビンペプチド、その誘導体又は塩は、直鎖状ペプチドである。別の実施形態では、単離トロンビンペプチド、その誘導体又は塩は、環状である。幾つかの実施形態では、環状トロンビンペプチドは、配列番号7、9、10、又は11のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端及びカルボキシ末端のそれぞれにシステイン残基を有する。
【0031】
様々な実施形態では、単離相互作用ペプチド、その誘導体又は塩は、ランダムペプチドライブラリから得られる。幾つかの実施形態では、ランダム単離相互作用ペプチドは、配列番号12又は13のアミノ酸配列を含む。1つの実施形態では、ランダム単離相互作用ペプチドは、直鎖状ペプチドである。幾つかの実施形態では、ランダム単離相互作用ペプチドは、配列番号12又は13のアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、ランダム単離相互作用ペプチドは、環状ペプチドである。幾つかの実施形態では、環状ペプチドは、配列番号12又は13のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含み、アミノ末端及びカルボキシ末端のそれぞれにシステイン残基を含む。
【0032】
第2の態様では、液体トロンビン製剤中のトロンビンの活性を安定化させることができる化合物を含む組成物であって、化合物が、トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、その誘導体又は塩、及びトロンビンガンマループ相互作用分子、その誘導体又は塩から選択される、組成物を本明細書において提供する。幾つかの実施形態では、化合物は、トロンビン活性を安定化させる、例えば、トロンビンの生物活性を著しく損なわせることなくトロンビンの自己消化を阻害するのに有効な量で組成物中に存在し;薬理学的に許容し得る賦形剤である。幾つかの実施形態では、トロンビンの生物活性は、フィブリノーゲンのフィブリンへの切断を含む。
【0033】
別の態様では、トロンビンと、製剤中のトロンビンの活性を安定化させることができる化合物であって、化合物が、トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、その誘導体又は塩、及びトロンビンガンマループ相互作用分子、その誘導体又は塩から選択される、化合物と、薬理学的に許容し得る賦形剤とを含む、トロンビン製剤を本明細書において提供する。
【0034】
幾つかの実施形態では、製剤又は組成物は、約1IU/mL〜10,000IU/mL、約10IU/mL〜5,000IU/mL、又は好ましくは約10IU/mL〜1,000IU/mLのトロンビン活性を有するトロンビンを含む。
【0035】
製剤又は組成物の好ましい実施形態では、化合物は、単離ペプチド、このようなペプチドの誘導体若しくは塩、又はこのような誘導体の塩である。
【0036】
幾つかの実施形態では、相互作用分子は、トロンビン由来ペプチドであるか、又はランダムペプチドライブラリから得られる。
【0037】
幾つかの実施形態では、化合物は、トロンビン由来ペプチドである。
【0038】
幾つかの実施形態では、化合物、例えば、ペプチドは、組成物又は製剤中に、約0.01mM〜約20mM、約0.01mM〜約1mM、約0.1mM〜約1mM、約0.1mM〜約0.5mM、又は約0.5mMの濃度で存在する。
【0039】
1つの実施形態の範囲内で、化合物、組成物、又は製剤は、外表面にラベルが貼付されている密閉容器内に収容されている。幾つかの実施形態では、製剤又は組成物は、フィブリンシーラント成分として使用するために調製される。
【0040】
別の態様では、本発明は、有効量の本明細書に開示する化合物と、化合物を使用して液体製剤中のトロンビンを安定化させるための説明書とを含むキットを特徴とする。好ましい実施形態では、化合物は、単離ペプチド、このようなペプチドの誘導体若しくは塩、又はこのような誘導体の塩である。
【0041】
更に別の態様では、トロンビン活性を安定化させる方法であって、トロンビンを、トロンビン活性を安定化させるのに有効な量のトロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、その誘導体若しくは塩、又はトロンビンのガンマループと相互作用する分子と接触させることを含む、方法を提供する。幾つかの実施形態では、トロンビン活性の安定化は、その生物活性を著しく損なわせることなくトロンビンの自己消化を阻害することを含む。
【0042】
更に別の態様では、トロンビン活性を安定化させる方法であって、トロンビンを本明細書に開示する化合物又は組成物と接触させることを含む、方法を提供する。
【0043】
別の態様では、液体形態のトロンビンの活性を安定化させることができる化合物をスクリーニングする方法であって、
a)トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチドを提供することと、
b)試験化合物のセットを提供することと、
c)(a)の単離ペプチドを(b)の試験化合物のセットと接触させることと、
d)a)のペプチドに結合する1つ又は2つ以上の試験化合物を同定することと、を含み、
結合が、トロンビン活性の安定化で使用するための可能性のある化合物を示す、方法を本明細書において提供する。
【0044】
幾つかの実施形態では、方法は、工程(d)で同定された1つ又は2つ以上の化合物を単離する工程を更に含む。
【0045】
別の態様では、液体形態のトロンビンの活性を安定化させることができる化合物をスクリーニングする方法であって、
a)固相に結合しているトロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチドを提供することと、
b)ガンマループ配列を提供することと、
c)試験標識化合物のセットを提供することと、
d)b)のガンマループ配列の存在下及び非存在下で、(a)の単離ペプチドを(c)の試験化合物のセットと接触させることと、
e)ガンマループ配列の存在下及び非存在下で、固相に結合している標識試験化合物のレベルを測定することと、を含み、
ガンマループ配列の存在下及び非存在下において実質的に変化しない標識レベルが、化合物がトロンビン活性を安定化させるための候補であることを示す、方法を本明細書において提供する。
【0046】
標識は、蛍光、放射性標識、又は当該技術分野において公知の任意の他の標識であってよい。
【0047】
幾つかの実施形態では、方法は、液体形態のトロンビンの活性の安定化におけるその効果について、1つ又は2つ以上の同定された又は候補の化合物を試験する工程を更に含む。
【0048】
幾つかの実施形態では、方法は、A−液体形態のトロンビンの活性の安定化におけるその効果について、及びB−異種基質、例えば、フィブリノーゲンに対する活性についてペプチドを最小限しか阻害しない又は全く阻害しないことについて、1つ又は2つ以上の同定された又は候補の化合物を試験する工程を更に含む。
【0049】
方法の幾つかの実施形態では、トロンビンガンマループは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む。様々な実施形態では、試験化合物のセットは、ランダムペプチドライブラリ、化学化合物ライブラリ、抗体ライブラリ、ペプチドファージディスプレイライブラリ、アプタマーライブラリ等から得られる。幾つかの実施形態では、化合物は、安全かつ非免疫原性である。
【0050】
幾つかの実施形態では、化合物は、単離ペプチドである。幾つかの実施形態では、ペプチドは、化学的に又は組み換えによって合成される。様々な実施形態では、単離核酸配列によってコードされている組み換えペプチドを提供する。幾つかの実施形態では、ペプチドは、配列番号1〜3、7、又は9〜13のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含む。
【0051】
本明細書に開示するペプチドをコードしている単離核酸配列、及びプロモータエレメントに機能的に連結された、このようなペプチドをコードしている核酸配列を含むベクターを本明細書において提供する。更に、このようなベクターを含む宿主細胞を提供する。DNA配列は、標準的な遺伝コード(例えば、Lehninger,A.「Principles of Biochemistry」)を用いて推定することができる。
【0052】
本発明のこれら及び他の態様並びに実施形態は、以下の本発明の詳細な説明及び図面を参照して明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】プロトロンビン分子の図を提供する。プロトロンビンの活性化中に切断される配列を、薄い灰色のシルエットとして示す。成熟アルファ−トロンビン配列を黒で示す。ガンマループペプチド配列は、トロンビン一次配列においてシルエットで描かれており、プロトロンビン分子の下に別個に示す(矢印によって示す、配列番号1)。配列番号2は、それぞれ、N末端及びC末端に3つ及び4つのアミノ酸が隣接しているガンマループ配列(角括弧で囲まれている)を含むペプチドである。
図2A】トロンビンに対してアルギニンHCl(「アルギニン」)が有する阻害効果を示す。液体トロンビンにアルギニンを添加すると、0.5%(w/v)においてトロンビン活性が50%低下し、2%(w/v)においてはトロンビン活性が>95%低下する。
図2B】37℃において、様々な濃度のアルギニンを用いて得られた濃縮トロンビンの安定化レベルを示す。
図2C】漸増量のガンマループペプチドを液体トロンビン(1000IU/mL)に添加する、又は一定(3% w/v)のアルギニン濃度を液体トロンビン(1000IU/mL)に添加する、又はペプチド若しくは阻害剤を全く添加しないことによって得られるトロンビン安定化レベルの増加(時間がたっても残存している活性%)を示す。37℃で72及び144時間後における1000IU/mLのトロンビンの残存活性を測定した。
図2D】ガンマペプチドの濃度を増大させることによるトロンビン活性(10IU/mLトロンビンで測定)の阻害%を示す。 図3A〜3Fは、本明細書に開示するペプチドによるトロンビンの安定化又は不安定化レベルを示すグラフである。1000IU/mLのトロンビンを、指定の通り、0.5mMの様々なペプチドと共にバイアル内でインキュベートした。37℃で0、3、及び7日間インキュベートした後、個々のバイアルにおける残存活性を測定した。トロンビンの直接活性部位阻害剤であるベンズアミジンを0.5mMで対照として用いた。ペプチド又は阻害剤を全く添加しない対照群も含まれる。結果を群毎に分ける:
図3A】ガンマループに結合することができるランダムペプチドによる、トロンビンの安定化レベル(残存活性%を測定することによって示される)を示すグラフである。Rnd316(配列番号12)をランダム1として図中に示す。 Rnd155(配列番号13)をランダム2として図中に示す。
図3B】直鎖状ペプチド(配列番号2)及び分子内S−S結合を介して環化したペプチド(「CS」;配列番号3)の両ガンマペプチドを用いた、液体トロンビンの安定化(残存活性%を測定することによって示される)を示すグラフである。
図3C】環化変異体ガンマループペプチド(配列番号4[AL−cyc_E03N]、配列番号5[AL−cyc_N08Y]、及び配列番号6[AL−cyc_G10L])を用いた、トロンビン活性の安定化レベル(残存活性%として示す)を示すグラフである。
図3D】トロンビン由来ペプチドThr−111(配列番号8)を用いた、トロンビン活性の不安定化レベル(残存活性%として示す)を示す。
図3E】トロンビン由来ペプチドThr−069(配列番号7)を用いた、トロンビン活性の安定化レベル(残存活性%として示す)を示すグラフである。
図3F】システイン残基がセリンに置換されている直鎖化ペプチド(配列番号9[Thr_031_CS]、配列番号10[Thr_032_CS]、及び配列番号11[Thr_136_CS])を用いた、トロンビン活性の安定化レベル(残存活性%として示す)を示すグラフである。
図4A】ガンマループ/結合ペプチド(阻害は、グラフに示す残存活性%から計算することができる):トロンビン由来ペプチド(Thr 031 CS[配列番号9]、Thr 032 CS[配列番号10]);環状ガンマペプチド[配列番号3];ペプチドRnd 316[配列番号12]、及び直鎖状ガンマペプチド[配列番号1]によるトロンビン阻害のレベル(%)を示す。
図4B】ガンマループ/結合ペプチド(阻害は、グラフに示す残存活性%から計算することができる):トロンビン由来ペプチド(Thr 031 CS[配列番号9]、Thr 032 CS[配列番号10]);環状ガンマペプチド[配列番号3];ペプチドRnd 316[配列番号12]、及び直鎖状ガンマペプチド[配列番号1]によるトロンビン阻害のレベル(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本開示は、1つには、化合物、特に、トロンビンガンマループ配列を含むか、又はトロンビンガンマループと相互作用する特定の単離ペプチドが、トロンビン液体製剤中のトロンビン活性を安定化させることができるという知見に基づいている。
【0055】
「トロンビン活性の安定化」とは、例えば、トロンビン自己消化活性の低減を指す。
【0056】
また、「トロンビン活性の安定化」とは、トロンビン水溶液、例えば、濃縮トロンビン溶液として、例えば室温で、1日間超保存したとき、フィブリノーゲンのフィブリンへの変換活性を含む、異種基質に対するトロンビンの生物活性を著しく損なわせることなく、トロンビン活性を維持することを指す場合もある。
【0057】
「室温」とは、約20℃〜約28℃、又は22℃〜約26℃の温度を含むことを意味する。
【0058】
用語「安定化」とは、例えば、初期トロンビン活性に比べて、約80%〜約100%(例えば、約90〜100%)のレベルで、トロンビン液体製剤内のトロンビン活性を維持することを意味する。
【0059】
用語「初期トロンビン活性」とは、例えば、冷凍トロンビン製剤を解凍した直後、トロンビン粉末を再構成した直後、及び/又はトロンビンを自己分解させる条件(例えば、10IU/mL〜5,000IU/mLトロンビン以上の濃度で、例えば、2〜8℃で1ヶ月間超;室温で1日間超)下で液体トロンビンを保存する前に、トロンビン液体製剤中で測定される、フィブリノーゲンに対するトロンビンの活性を指す。
【0060】
直鎖状若しくは環状(すなわち、分子内S−S結合)ガンマループペプチド、又はトロンビンガンマループの連続アミノ酸配列を含有する直鎖状若しくは環状ペプチド;トロンビンのガンマループと相互作用することが知られているペプチド;及びガンマループと結合相互作用を示すランダムに選択されたペプチドが、液体トロンビンを安定化させることが見出された。
【0061】
ガンマループ配列(配列番号2及び配列番号3)を含むペプチドは、直鎖状であろうと環状であろうと、トロンビン活性の効率的な安定化を示すことが見出された。環状ガンマペプチド(配列番号3)は、0.5mMでトロンビンを約7%しか阻害せず、直鎖状ガンマペプチド(配列番号1)は、約20%の阻害を示した。
【0062】
ガンマループの残基E、N、又はGが変異している環状ペプチド(それぞれ、配列番号4、5、及び6)によるトロンビンの安定化は、非効率であることが見出された。
【0063】
ガンマループに対する初期結合に基づいてランダムライブラリから選択した2つのランダムペプチド(配列番号12及び13)からは、トロンビンの安定化効果が得られた。
【0064】
分子、例えば、ペプチドのガンマループに対する結合は、その安定化潜在能の優れた予測指標であると考えられる。
【0065】
ガンマループペプチドと相互作用することができる2つのトロンビン由来ペプチド[Thr 031 CS(配列番号9)]、Thr 032 CS(配列番号10)]は、トロンビンに対する安定化効果を示し、同濃度でトロンビンに対してわずかな阻害効果(例えば、0.5mMのペプチド:13〜14%阻害)を示した。
【0066】
配列番号2、3、7、9、10、11、12、及び13に記載の配列を有するペプチドは、液体水性トロンビンを安定化させることができることが見出された。
【0067】
本発明に従って見出された分子/ペプチドを含む安定化トロンビンは、例えば、分子/ペプチドを希釈及び/又は除去することなく、フィブリノーゲンを活性化させるために直接用いることができる。
【0068】
安定性試験については、ペプチドと共に又はペプチド無しで保存した後の1000IU/mLのトロンビンを用いることができ、活性化試験は、本明細書に記載する通り実施することができる。希釈(1:100)は、活性の測定前に実施することができる。
【0069】
阻害試験については、10IU/mLトロンビンの凝固活性を、(希釈していない)ペプチドの存在下又は非存在下で測定することができる。
【0070】
フィブリノーゲンに対するトロンビン活性は、トロンビンの凝固活性を測定することによって評価することができる。凝固活性は、例えば欧州薬局方アッセイ(0903/1997)の変法によって直接、及び/又は斜面上における移動距離を測定すること(すなわち、落下試験モデル)等によって間接的に、あるいは当該技術分野で公知の任意の他の方法によって測定することができる。
【0071】
トロンビンガンマループ配列を含むか、又はトロンビンガンマループと相互作用する化合物、例えば、単離ペプチドを本明細書において提供する。更に、水性液体トロンビン製剤中のトロンビンの活性を安定化させることができる化合物を同定する方法を本明細書において提供する。
【0072】
液体トロンビン製剤中のトロンビンの活性を安定化させることができる化合物を本明細書において提供する。化合物は、トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、その誘導体又は塩;並びにトロンビンガンマループ相互作用分子、及びその誘導体又は塩からなる群から選択される。
【0073】
トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含むペプチド及びトロンビンガンマループ相互作用分子は、インタクトなアルファトロンビンとは異なる。
【0074】
アミノ酸
アミノ酸及びペプチドの配列は、一般的に、以下の表A中に示すように略記する。
【0075】
【表1】
【0076】
1つの実施形態では、当該技術分野において公知の通り、単離ペプチド中の少なくとも1つのアミノ酸が、類似体又はバイオシミラーアミノ酸で置換されている(同類置換)アミノ酸類似体配列が用いられる。
【0077】
アミノ酸は、L型、D型、又はこれらの誘導体(例えば、擬アミノ酸、官能化アミノ酸(例えば、フッ素化アミノ酸等)、ベータアミノ酸、ガンマアミノ酸等)であってよい。
【0078】
トロンビン
トロンビンは、別のセリンプロテアーゼ(第Xa因子)によってチモーゲンであるプロトロンビン(第II因子)を切断することによって生成されるセリンプロテアーゼである。ヒトトロンビンは、aによって接合されている2本のポリペプチド鎖で構成される295アミノ酸のタンパク質である。
【0079】
チモーゲンであるプロトロンビン(図1に示す)は、残基271で切断され、全体のN末端の271アミノ酸が除去される。残基320において第Xa因子によって更に分子内切断されることにより、単一のS−S結合を介して結合している重鎖及び軽鎖で構成される295アミノ酸のポリペプチド(ヒト)である活性アルファトロンビン分子が生成される(Krishnaswamy J,(2013)「The transition of prothrombin to thrombin」.J Thromb Haemost.Jun;11 Suppl 1:265〜76)。セリンプロテアーゼであるトロンビンは、ベータ(残基382及び394)又はガンマ(残基443及び残基474)部位において他のトロンビン分子を切断することによって、自身の分解(「自己消化」)を開始して、それぞれ、ベータ及びガンマトロンビンを生成することができる。
【0080】
これらループが古典的なトロンビン認識部位を含有することもなく、この切断がループ内の特定の残基に対して特異的でもない。むしろ、これらループは、両方とも可撓性であり、露出しており、特に高トロンビン濃度において適切な基質が不十分であるために切断される(例えば、Chang,JY.Biochem.J.(1986)240:797〜802,「The structures and proteolytic specificities of autolysed human thrombin」;Rydel TJ,et al.,J Biol Chem.1994,269(35):22000〜6.「Crystallographic structure of human gamma−thrombin」;Pozzi N,et al.,Biophys Chem.2011,159(1):6〜13「Rigidification of the autolysis loop enhances Na(+)binding to thrombin」を参照)。インビボにおけるトロンビンの不活化は、この機序(自己消化)を介して進行するのではなく、セリンプロテアーゼ阻害剤(SERPIN)である抗トロンビンIII(ATIII)との特異的相互作用(ヘパリンによって架橋)を介して進行する。
【0081】
トロンビン(及び第X因子等の幾つかの他の相同なセリンプロテアーゼ、更にはプロテインC等)とATIIIとの相互作用は、ガンマループを介して媒介される(例えば、Yang,L.,Blood.2004,104(6):1753〜9,「Heparin−activated antithrombin interacts with the autolysis loop of target coagulation proteases」;及びMarino,F,J Biol Chem.2010,285(25):19145〜52.「Engineering thrombin for selective specificity toward protein C and PAR1」を参照)。
【0082】
ヒト及び非ヒトトロンビンを本発明において用いることができる。トロンビンは、例えば、止血剤として及び組織接着剤の成分として、医学的に用いられる。
【0083】
1つの態様では、a)トロンビンと;b)トロンビン活性を安定化させることができる化合物であって、化合物が、トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、その誘導体又は塩;及びトロンビンガンマループ相互作用分子、その誘導体又は塩からなる群から選択される、化合物と;薬理学的に許容し得る賦形剤とを含むトロンビン製剤を本明細書において提供する。
【0084】
長期間保存する場合、トロンビン及び化合物を含む製剤を、滅菌バイアル、アンプル、又は他の容器に分注し、次いで、密封する。1つの実施形態では、シールを通して注射器を用いて安定化トロンビン組成物を取り出すことができるシールを用いる。容器は、薬学分野又は医療機器分野における標準的技法に従ってラベルを付けてよい。
【0085】
本発明の1つの実施形態では、容器は、ゼラチン又はコラーゲン系マトリクス等のスカホールドを収容する第2の容器と共にキットにおいて提供される。別の実施形態では、容器は、フィブリノーゲンを含む成分を含む第2の容器と共にキットにおいて提供される。キットは、更に、噴霧器、注射器等の適用装置及び/又は希釈剤及び/又は使用説明書を更に含んでもよい。
【0086】
使用中、安定化トロンビン製剤は、容器から直接用いてもよく、又は所望の濃度に更に希釈してもよく、一般的に、製剤中のトロンビン活性は、約1IU/mL〜約10,000IU/mL、典型的に、約10IU/mL〜5,000IU/mL、又は10IU/mL〜1,000IU/mLであるが、実際の濃度は、ユーザ(例えば、医師、看護士、衛生兵)によって、すなわち、個々の患者の必要性及び出血の重篤度に従って決定される。安定化トロンビンを、出血している組織に塗布して、それ自体の止血を達成してもよく、スカホールド又はマトリクス、例えば、吸収性スカホールド又はマトリクスと併用してもよい。また、安定化トロンビン製剤を、組織接着剤、フィブリンシーラント、又はフィブリン糊の成分として用いてもよい。当技術分野において公知のこれら及び他のトロンビンの用途は、開示する安定化トロンビンについて企図される。様々な開腹及び腹腔鏡手術において、例えば、漏出をふさぐ、止血剤/出血を止める、癒着を防止する、治癒を促進する、構造を接合するためにシーラントとして使用することを含む、様々な分野におけるフィブリン糊の多数の用途が報告されている。
【0087】
好ましい止血スカホールドは、天然の若しくは遺伝子工学による吸収性ポリマー若しくは合成吸収性ポリマー、又はこれらの混合物である。天然の若しくは遺伝子工学による吸収性ポリマーの例は、タンパク質、多糖類、及びこれらの組み合わせである。タンパク質としては、プロトロンビン、トロンビン、フィブリノーゲン、フィブリン、フィブロネクチン、ヘパリナーゼ、第X/Xa因子、第VII/VIIa因子、第IX/IXa因子、第XI/XIa因子、第XII/XIIa因子、組織因子、バトロキソビン、アンクロッド、エカリン、フォンウィルブラント因子、コラーゲン、エラスチン、アルブミン、ゼラチン、血小板表面糖タンパク質、バソプレシン、バソプレシン類似体、エピネフリン、セレクチン、凝血促進毒素、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤、血小板活性化剤、止血活性を有する合成ペプチド、及び/又はこれらの組み合わせが挙げられる。多糖類としては、セルロース、アルキルセルロース、例えば、メチルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、硫酸セルロース、カルボキシメチルセルロースの塩類、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、キチン、カルボキシメチルキチン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の塩類、アルギネート、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコール、グリコーゲン、デキストラン、硫酸デキストラン、カードラン、ペクチン、プルラン、キサンタン、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸類、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルキトサン、キトサン、ヘパリン、ヘパリン硫酸、ヘパラン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、カラギーナン、キトサン、デンプン、アミロース、アミロペクチン、ポリ−N−グルコサミン、ポリマンヌロン酸、ポリグルクロン酸、及び上記のいずれかの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。合成吸収性ポリマーの例は、脂肪族ポリエステルポリマー、コポリマー、及び/又はこれらの組み合わせである。
【0088】
プロトロンビン/トロンビン分子及びガンマループ鎖配列を図1に示す。
【0089】
定義
本明細書において使用するとき、不定冠詞「a」及び「an」は、文脈が明確にそうでない旨を表さない限り、「少なくとも1つの」又は「1つ以上の」を意味する。
【0090】
本明細書において使用するとき、用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する」、及びその文法的変形は、記載される特徴、工程、又は構成要素を特定するものとして理解されるが、1つ又は2つ以上の更なる特徴、工程、構成要素、又はこれらの群の追加を排除するものではない。
【0091】
数値の前に用語「約」が記載されている場合、用語「約」は、+/−10%を示すことを意図する。
【0092】
本明細書において使用するとき、用語「ペプチド」は、約5〜約100個の連続アミノ酸、又はアミノ酸の類似体の単離化合物を意味するように広く用いられる。ペプチドの定義には、例えば、1つ又は2つ以上のアミノ酸の類似体(例えば、非天然アミノ酸、ペプトイド等を含む)を含有するペプチド、置換結合及び当技術分野において公知の他の修飾を有するペプチドが含まれ、天然及び非天然(例えば、合成)の両方を含む。したがって、合成ペプチド、環化、分枝状ペプチド等が定義内に含まれる。本発明において用いるのに好適なペプチドの非限定的な長さとしては、5〜100残基長(アミノ酸及び/又は類似体)(又はこれらの間の任意の整数)、5〜20残基長、6〜75残基長、10〜25残基長、21〜75残基長、75〜100残基長のペプチドが挙げられる。典型的に、本発明で有用なペプチドは、意図する用途に好適な最大長さを有し得る。好ましくは、ペプチドは、約5〜30残基長、例えば、約5〜30連続アミノ酸残基;例えば、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30連続アミノ酸残基、好ましくは、約10〜17又は10〜15残基長である。
【0093】
更に、本明細書に記載するペプチド、例えば、合成ペプチドは、それに共有結合しているか又はそれと非共有的に会合している標識若しくはトレーサー、リンカー、又は他の化学部分(例えば、ビオチン、色素)等の更なる分子を含んでもよい。このような部分は、更に、ペプチドと化合物、例えば、トロンビンガンマループペプチドとの相互作用を促進し得る、かつ/又は安定化トロンビンの検出若しくは定量を支援し得る。
【0094】
また、ペプチドという用語は、1つ又は2つ以上の非天然アミノ酸を含む、1つ又は2つ以上の置換、付加、及び/又は欠失を有する本発明のアミノ酸配列の誘導体を含む。好ましくは、誘導体は、任意の野性型又は参照配列に対して少なくとも約50%の同一性、より好ましくは、任意の野性型又は本明細書に記載する参照配列に対して少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を示す。ペプチド誘導体は、ペプチドが、所望の活性、例えば、トロンビンの安定化を維持する限り、ネイティブ配列に対する改変、例えば、欠失、付加、及び置換(一般的に、自然界では保存的)を含んでもよい。これら改変は、部位特異的変異誘発を通じた意図的なものであってもよく、合成、若しくはタンパク質を産生する宿主の変異、又はPCR増幅に起因する誤り等を通して偶発的に生じたものであってもよい。更に、本明細書には、ペプチドの薬学的に許容し得る塩類、及びこのような塩類の誘導体が包含される。
【0095】
「ガンマループペプチド」とは、配列番号1に記載の10個の連続アミノ酸配列、具体的には、配列KETWTANVGK(LYS−GLU−THR−TRP−THR−ALA−ASN−VAL−GLY−LYS)のペプチドを意味する。理論に束縛されるものではないが、トロンビンガンマループの配列は、このタンパク質ファミリーの伝統的な付番方式に従ってウシキモトリプシンにおける残基145〜150に相同でありかつ対応し、一般的な露出ループ構造を維持していることがX線結晶構造解析を用いて示されている。トロンビンガンマループに相同な配列は、トロンビンガンマループの誘導体と考えられ得る。
【0096】
「トロンビン」又は「トロンビンポリペプチド」は、血液凝固カスケードの一部であり、フィブリノーゲンをフィブリンの不溶性鎖に変換するとともに、他の凝固関連反応を触媒する、哺乳類セリンプロテアーゼである。ヒトでは、プロトロンビンは、F2遺伝子によってコードされており、得られるポリペプチドは、凝固カスケードにおいてタンパク質分解的に切断されてトロンビンを形成する。トロンビンは、特に、幾つかの止血生成物において活性成分として機能する。例えば、フィブリンシーラントは、典型的に、フィブリノーゲン成分及びトロンビン成分を含む。両成分を混合したとき(例えば、出血している創傷に塗布したとき)、トロンビンは、フィブリノーゲンを切断し、フィブリンポリマーが形成される。
【0097】
当業者は、本明細書に記載するペプチドが、「ペプチド模倣薬」を含むペプチドの誘導体として合成され得ることを認識するであろう。ペプチド模倣薬又は「ペプチド模倣剤」は、実際には完全にペプチドではないが、それが構造的に基づくペプチドの生物活性を模倣する分子である。このようなペプチド模倣薬としては、非天然アミノ酸を含有するペプチド様分子が挙げられる。ペプチド模倣薬は、1つ又は2つ以上のアミノ酸が類似体を含んでよく、例えば、レトロ−インベルソ修飾等のアミノ結合アイソスター;還元アミノ結合;メチレンチオエーテル若しくはメチレンスルホキシド結合;メチレンエーテル結合;エチレン結合;チオアミド結合;トランス−オレフィン若しくはフルオロオレフィン結合;1,5−二置換テトラゾール環;ケトメチレン若しくはフルオロケトメチレン結合;又は別のアミドアイソスターを含有するペプチド様分子であり得る。また、この用語は、1つ又は2つ以上のN置換グリシン残基を含む分子(「ペプトイド」)及び他の合成アミノ酸又はペプチドを含む。(ペプトイドの説明については、例えば、米国特許第5,831,005号;同第5,877,278号;及び同第5,977,301号;Nguyen et al.(2000)Chem Biol.7(7):463〜473;及びSimon et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89(20):9367〜9371を参照)。当業者は、これら及び他のペプチド模倣薬が、本明細書において使用されるとき、用語「ペプチド模倣薬」の意味に含まれることを理解する。
【0098】
ペプチドのアミノ酸配列は、従来の表記法に従って表記され、N末端におけるアミノ基(NH2)は、配列の左側に記載され、C末端におけるカルボキシル基は、その右側に記載される。
【0099】
本明細書に開示するペプチドは、従来の塩形成反応によって生理学的に許容し得る塩を形成し得る。このような塩は、塩酸、硫酸、及びリン酸等の無機酸との塩;乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、リンゴ酸、クエン酸、オレイン酸、及びパルミチン酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びアルミニウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物との塩及び炭酸塩;並びにトリエチルアミン、ベンジルアミン、ジエタノールアミン、t−ブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、及びアルギニン等のアミンとの塩を含んでよい。
【0100】
鎖間及び鎖内ジスルフィド結合の両方が形成され得、このようなジスルフィド結合の形成によって形成されたペプチドは、本発明に包含される。
【0101】
1つの実施形態では、本明細書に開示するペプチドは、化学的に合成される。他の実施形態では、本明細書に開示するペプチドは、インビボで、又は原核生物若しくは真核生物の宿主細胞において組み換えDNAを発現させることによってエキソビボで生成される。
【0102】
他の実施形態では、本明細書に開示するペプチドは、インビボで、又は原核生物若しくは真核生物の宿主細胞において本明細書に開示する化合物をコードしている核酸配列を含むベクターを発現させることによってエキソビボで生成される。
【0103】
用語「単離ポリヌクレオチド」、「単離核酸配列」、及び「単離核酸分子」は、本明細書において互換的に用いられる。単離「ポリヌクレオチド」は、二本鎖及び一本鎖配列の両方を含んでよく、原核生物配列、真核生物mRNA、ウイルス由来のcDNA、原核生物又は真核生物mRNA、ウイルス(例えば、RNA及びDNAウイルス、並びにレトロウイルス)由来のゲノムRNA及びDNA配列、原核生物DNA、又は真核生物(例えば、哺乳類)DNA、並びに合成DNA配列を指すが、これらに限定されない。また、この用語は、DNA及びRNAの公知の塩基類似体を含む配列を包含し、ネイティブ配列対して欠失、付加、及び置換等の改変(一般的に、自然界では保存的)を含む。ポリヌクレオチドの改変は、例えば、宿主細胞におけるペプチドの発現を促進することを含む、任意の数の効果を有し得る。典型的に、ポリヌクレオチドは、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、又は更に多くのアミノ酸のペプチドをコードする。
【0104】
「ポリヌクレオチドコード配列」、又は選択されたポリペプチドを「コードする」配列は、適切な調節配列(又は「制御エレメント」)の制御下におかれたとき、インビボでポリペプチドに転写(DNAの場合)及び翻訳(mRNAの場合)される核酸分子である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端における開始コドン、及び3’(カルボキシル)末端における翻訳終止コドンによって決定される。転写終止配列は、コード配列の3’側に位置し得る。典型的な「制御エレメント」としては、プロモータ等の転写調節因子、転写エンハンサーエレメント、転写終止シグナル、及びポリアデニル化配列;並びに翻訳の開始を最適化するための配列、例えば、シャイン・ダルガーノ(リボソーム結合部位)配列、コザック配列(すなわち、例えば、コード配列の5’側に位置する翻訳を最適化するための配列)、リーダー配列(異種又はネイティブ)、翻訳開始コドン(例えば、ATG)、及び翻訳終止配列等の翻訳調節因子が挙げられるが、これらに限定されない。プロモータとしては、誘導性プロモータ(プロモータに機能的に連結しているポリヌクレオチド配列の発現が、アナライト、補助因子、調節タンパク質等によって誘導される)、抑制性プロモータ(プロモータに機能的に連結しているポリヌクレオチド配列の発現が、アナライト、補助因子、調節タンパク質等によって含まれる)、及び構成的プロモータを挙げることができる。
【0105】
「機能的に連結している」とは、このように記載されている成分が通常の機能を実行するようになっているエレメントの配置を指す。したがって、コード配列に機能的に連結している所与のプロモータは、適当な酵素が存在しているとき、コード配列を発現させることができる。プロモータは、その発現を導くように機能する限り、コード配列に隣接している必要はない。したがって、例えば、プロモータ配列とコード配列との間に未翻訳であるが転写されている介在配列が存在してもよく、それでも、プロモータ配列は、コード配列に「機能的に連結していると」考えることができる。
【0106】
核酸分子を説明するために本明細書において使用されるとき、「組み換え」核酸分子は、その起源又は操作に基づいて、(1)自然界で会合するポリヌクレオチドの全て又は一部に会合しない;かつ/又は(2)自然界で連結する以外のポリヌクレオチドに連結する、ゲノム、cDNA、半合成、又は合成起源のポリヌクレオチドを意味する。用語「組み換え」とは、タンパク質又はポリペプチドに関して用いるとき、組み換えポリヌクレオチドの発現によって産生されるポリペプチドを意味する。「組み換え宿主細胞」、「宿主細胞」、「細胞」、「細胞株」、「細胞培養物」、及び単細胞実体として培養された原核微生物又は真核生物細胞株を意味する他のこのような用語は、互換的に用いられ、コンストラクト、ベクター、又は他の転写DNAのレシピエントとして用いることができるか又は用いられている細胞を指し、トランスフェクトされている起源細胞の後代を含む。単一親細胞の後代は、偶発的又は意図的変異によって、起源親と形態又はゲノム若しくは全DNA相補物が必ずしも完全に同一でない場合もある。所望のペプチドをコードするヌクレオチド配列の存在等、関連する特性によって特徴付けられる親に十分類似している親細胞の後代は、この定義によって意図される後代に含まれ、上記用語によって網羅される。
【0107】
「単離」とは、ポリヌクレオチド又はペプチドに言及するとき、指定の分子又は化合物が、自然界で分子又は化合物がみられる生物全体から分離されており、別個のものであることを意味するか、あるいは、ポリヌクレオチド又はペプチドが自然界ではみられないとき、ポリヌクレオチド又はペプチドをその意図する目的のために用いることができるように、他の生物学的巨大分子を十分に含まないことを意味する。
【0108】
本明細書において使用されるとき、分子、例えば、ペプチドは、例えば、ファンデルワールス力及び静電力等の非共有結合力を介してペプチド又はタンパク質と会合する場合、別のペプチド又はタンパク質と「相互作用する」又は「結合する」(例えば、トロンビンガンマループ相互作用分子とトロンビン)と言われる。分子、例えば、ペプチドは、タンパク質における別のドメインよりも特定のドメインに対してより高い親和性及び/又はより高い特異性で会合する場合、タンパク質における特定のドメイン(例えば、トロンビンガンマループ)と「優先的に相互作用する」と言われる。幾つかの実施形態では、分子、例えば、ペプチドは、トロンビンのガンマループに優先的に結合する。優先的相互作用は、必ずしも、各ペプチドの特定のアミノ酸残基及び/又はモチーフ間の相互作用を必要とするものではないと理解されたい。
【0109】
「トロンビン活性」及び「トロンビンの生物活性」は、トロンビンが媒介する、タンパク質を含む異種基質の変換、例えば、フィブリノーゲンのフィブリンへの変換に加えて、第VIII因子の第VIIIa因子への変換、第XI因子の第XIa因子への変換、第XIII因子の第XIIIa因子への変換、及び第V因子の第Va因子への変換を含むことを意味する。「異種基質」は、トロンビン以外の基質、好ましくはタンパク質基質である。幾つかの実施形態では、トロンビン活性は、フィブリノーゲンのフィブリンへの変換を指す。用語「トロンビンの(生物)活性を著しく損なわせることなく」とは、無阻害/不安定化トロンビンと比べて、及び/又は初期トロンビン活性と比べて、少なくとも60%、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、又は少なくとも90%、又はそれ以上、例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%のレベルで、フィブリノーゲンに対するトロンビン活性を保持することを指す。
【0110】
本明細書において使用されるとき、用語「自己消化」又は「自己分解」とは、トロンビンの、不活性又は部分活性型への好ましくない分子分解を指す。
【0111】
本明細書に開示する好ましい化合物は、例えば、例えばフィブリノーゲンに対する、トロンビン活性を著しく損なわせることなく、トロンビンの自己消化を低減すること等によって、トロンビン活性を安定化させることができる化合物である。
【0112】
1つの実施形態では、安定化水性液体トロンビン製剤は、2〜8℃の温度で1ヶ月間超;37℃で72時間;及び/又は37℃で144時間保存について安定である。
【0113】
幾つかの実施形態では、化合物は、例えば、液体形態で2〜8℃の温度で1ヶ月間;約37℃で72時間;約37℃で144時間保存した後、トロンビンの自己消化を約60%〜約100%、又は約60%〜約95%、好ましくは約70%〜約90%阻害し、約60%〜約100%、又は約60%〜約95%、約70%〜約90%、好ましくは約80%〜約95%トロンビンの生物活性を保持する。
【0114】
用語「親和性」とは、結合の強度を指し、解離定数(K)として定量的に表すことができる。本明細書に開示する分子、例えば、ペプチドは、トロンビンの別のドメインとの相互作用よりも、少なくとも2倍高い親和性、より好ましくは、少なくとも5倍高い親和性、更により好ましくは、少なくとも10、20、30、40、又は50倍高い親和性でトロンビンのガンマループと相互作用することができる。結合親和性(すなわち、K)は、標準的な技術を用いて求めることができる。
【0115】
用語「有効量」とは、例えば、フィブリノーゲンに対するトロンビン活性(例えば、フィブリノーゲンのフィブリンへの変換)を実質的に保持しながら、トロンビンを安定化するために必要な、本明細書に開示する化合物の量を指す。トロンビンを安定化するために本発明を実施するために用いられる化合物の有効量は、組成物/製剤中のトロンビンの濃度に依存して変動し得る。このような量は、「有効量」と呼ばれる。
【0116】
「薬学的に許容し得る」又は「薬理学的に許容し得る」担体、溶媒、希釈剤、賦形剤、及びビヒクルは、一般的に、本明細書に開示する組成物の活性成分と反応しない、不活性、非毒性の固体若しくは液体のフィラー、希釈剤、又は封入材料を指す。許容し得る賦形剤としては、生理食塩水;酢酸若しくは酢酸塩;カルシウム、ナトリウム、及び塩化物イオン;マンニトール;アルブミン;又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
用語「接触」は、本明細書において最も広義で用いられ、任意の種類の複合作用を指す。接触としては、混合、混和、及び/又は添加が挙げられるが、これらに限定されない。
【0118】
ペプチド合成
本明細書に開示するペプチドは、合成(例えば、個々のアミノ酸から化学的にペプチドを合成する)及び組み換え方法(例えば、ペプチドをコードしているDNAを合成し、DNAを用いて組み換えペプチドを産生する)を含むが、これらに限定されない、当該技術分野において公知の方法に従って合成することができる。
【0119】
ペプチドの化学的合成:本明細書に開示するペプチド及びペプチドをコードしているDNAは、当該技術分野において公知の方法によって化学的に合成することができる。ペプチドを合成するための好適な方法は、Stuart and Young(1984),「Solid Phase Peptide Synthesis」,Solid Phase Peptide Synthesis,Methods Enzymol.,Second Edition,Pierce Chemical Company,289,Academic Press,Inc.,NY(1997)によって記載されている。例えば、固相合成法又は液相合成法を用いてよい。固相合成は、通常、適当な保護基でアミノ基を保護することによって実施される。例えば、Boc(tert−ブトキシカルボニル)若しくはFmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)、又はこれらの組み合わせを用いてよい。1つの例では、本明細書に開示するペプチドは、以下の工程によって合成される:1)産生されるペプチドのC末端に対応するアミノ酸残基を、アミノ酸のa−COOH基を介して、反応溶媒に不溶性の固相材料に結合させるか、又はこのような固相材料を購入する工程、2)ペプチドのN末端に向かう方向において、a−COOH基以外の対応するアミノ酸又はペプチド断片のa−アミノ基等の他の官能基を保護した後、対応するアミノ酸又はペプチド断片を、工程1)のアミノ酸に縮合させることによって結合させる工程、3)a−アミノ基等のペプチド結合を形成するアミノ基の保護基を、結合したアミノ酸又はペプチド断片から除去する工程、4)所望のペプチドに対応するペプチド鎖を形成するために、工程2)及び3)を繰り返して、ペプチド鎖を延長する工程、5)産生されたペプチド鎖を固相材料から分離し、保護された官能基から保護基を除去する工程、及び6)ペプチドを精製して、所望のペプチドを得る工程。
【0120】
固相材料、並びに溶媒及び縮合剤は、当該技術分野において周知である。
【0121】
DNAの化学的合成及び発現:本明細書に開示するペプチドをコードしているDNAを複製し、多様なクローニング及び発現ベクターにおいて多様な宿主細胞に挿入した後に組み換えペプチドを発現させるために用いることができる。宿主は、原核生物であっても真核生物であってもよい。DNAは、化学的に合成してよい。(例えば、哺乳類、昆虫、又は植物細胞、細菌、ファージ、及び酵母において使用するための)DNA及びクローニングベクターを合成するのに好適な方法を利用可能である。融合タンパク質の形態で発現し得る組み換えペプチドは、当該技術分野において公知の方法によって精製される。
【0122】
本発明の実施において有用な化合物
液体トロンビン製剤中のトロンビンの活性を安定化させる化合物及び方法であって、トロンビン活性の安定化が、例えば、トロンビンの生物活性を著しく損なわせることなく、自己消化活性を低減又は阻止することを指す、化合物及び方法を本明細書において提供する。化合物は、トロンビンガンマループペプチドのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、その誘導体若しくは塩;又は単離相互作用ペプチド、単離抗体若しくはその抗体断片、ヌクレオチドアプタマー、及びペプチドアプタマー、このような分子の誘導体若しくは塩であってよいトロンビンガンマループ相互作用分子からなる群から選択される。
【0123】
トロンビンのガンマループと相互作用する分子は、例えば、本明細書に開示する方法を用いて、スクリーニングにおいて同定することができ、また、トロンビン活性を安定化させる能力について試験することができる。幾つかの実施形態では、相互作用分子は、単離ペプチド、このようなペプチドのペプチド模倣薬、又はこのようなペプチドの塩である。相互作用ペプチドの例は、本明細書、例えば、配列番号7、及び9〜13に提供される。
【0124】
ペプチドは、直鎖状であってもよく、分枝状であってもよく、環化されていてもよい。例えば、配列番号1及び2によって表されるペプチドは、直鎖状であり、配列番号3によって表されるペプチドは、環状である。
【0125】
幾つかの実施形態では、相互作用分子は、単離抗体、このような抗体の断片、又はこのような抗体の塩である。用語「抗体」とは、特に、IgG、IgM、IgD、IgA、及びIgE抗体を指し、特に、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を含む。1つの実施形態では、抗体は、トロンビンガンマループに対する抗体であり、トロンビンガンマループに対して作製された抗体であり、かつ/又はトロンビンガンマループを認識する。この用語は、抗原結合ドメインを含む抗体全体又は抗体断片、例えば、Fc部分を有しない抗体、単鎖抗体、ミニ抗体、抗体の可変抗体結合ドメインのみから本質的になる断片等を指す。また、この用語は、その抗原又は受容体と選択的に結合する能力を保持する抗体断片等の抗体誘導体を包含し、特に、以下の通り例示される:
(1)酵素パパインにより抗体全体を消化して軽鎖及び重鎖の一部を生成することによって産生され得る抗体分子の一価抗原結合断片を含有する断片であるFab、
(2)抗体の(Fab’)は、後で還元することなく酵素ペプシンで抗体全体を処理することによって得ることができる、ジスルフィド結合によって結合される2つのFab断片の二量体である。
(3)2本の鎖として発現する軽鎖の可変領域及び重鎖の可変領域を含有する遺伝子操作された断片として定義されるFv、並びに
(4)遺伝的に融合した単鎖分子として好適なポリペプチドリンカーによって連結されている軽鎖の可変領域及び重鎖の可変領域を含有する遺伝子操作された分子として定義される単鎖抗体(SCA)。
【0126】
幾つかの実施形態では、相互作用分子は、アプタマー、又はこのようなアプタマーの塩である。アプタマーは、標的タンパク質に結合し、一般的に、非特異的作用を示さない、RNA及び/又はDNAの一本鎖又は二本鎖オリゴヌクレオチドである。アプタマーは、当業者に公知の任意の核酸改変に従って、安定性又は他の所望の品質について改変することができる。アプタマーに対する改変は、5’若しくは3’末端、又は任意の内部の規定の改変部位等、分子のどこにでも導入することができる。チオアプタマーは、特定のヌクレオシド間ホスホリル部位における硫黄修飾を含有し、強化された安定性、ヌクレアーゼ耐性、標的親和性、及び/又は選択性を有し得るアプタマーである。チオアプタマーの例としては、ホスホロモノチオエート(S−ODN)及びホスホロジチオエート(S2−ODN)オリゴデオキシチオアプタマーが挙げられる。アプタマー及びチオアプタマーについての更なる情報は、米国特許第5,218,088号及び同第6,423,493号に見出すことができる。
【0127】
本発明の実施において有用な例示的な化合物の詳細を以下の実施例、及び本明細書に組み込まれる配列表に提供する。
【0128】
スクリーニング方法
トロンビン活性を安定化させることができる化合物をスクリーニングする方法を本明細書において提供する。したがって、液体トロンビン製剤中のトロンビンの活性を安定化させることができる化合物をスクリーニングする方法であって、
a)トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチドを提供することと、
b)試験化合物のセットを提供することと、
c)(a)の前記単離ペプチドを(b)の前記試験化合物のセットと接触させることと;
d)ペプチドに結合する1つ又は2つ以上の化合物を同定することと、を含み、
結合が、トロンビン活性の安定化において化合物の可能性のある使用を示す、方法を提供する。
【0129】
幾つかの実施形態では、方法は、工程d)において同定された1つ又は2つ以上の化合物を単離する工程、及び/又はトロンビン活性を安定化させる能力について、工程d)で同定された1つ又は2つ以上の化合物を試験する工程を更に含む。
【0130】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を示すが、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明を十分に説明するのに寄与するものとして解釈すべきである。
【実施例】
【0131】
実施例1:トロンビン活性アッセイ
その精製及び濃縮型の水性液体トロンビン1000国際単位IU/mLは、室温で自己消化されて、例えば、異種基質に対する活性が著しく失われることがある。例えば、異種基質に対するトロンビン活性は、液体トロンビン製剤を室温で長期間(例えば、72〜144時間)インキュベートしたとき、特に、自己消化性分解によって低下する。水性液体溶液中における異種基質に対するトロンビン活性の低下は、許容温度(例えば、37℃)下で長期間後、トロンビン活性を測定することによって評価することができる。以下の実験では、トロンビンの安定性に対するペプチドの効果を、様々な条件下で試験した。
【0132】
水性液体精製及び濃縮トロンビン(1000IU/mL;約10μMと等価)を分注し、3日間(72時間)、7日間(168時間)、及び14日間(336時間)、37℃のインキュベータ内に置いた。インキュベートする前に、指定量の様々な試験ペプチド、又は対照トロンビン阻害剤:ベンズアミジン若しくはアルギニンHCl(「アルギニン」)をトロンビンサンプルに添加した。用いた具体的なペプチド、その濃度、及びトロンビン阻害剤は、各実施例に示す。インキュベート期間後、トロンビン活性を試験するまでサンプルを−80℃で冷凍した。トロンビン活性アッセイ試験直前に、全てのサンプルを解凍し、希釈バッファ(0.4%クエン酸三ナトリウム二水和物、0.9%塩化ナトリウム、及び1% BSA、pH=7.5)で100倍希釈して、サンプル中のトロンビン濃度をアッセイの仕様の範囲内(4〜10IU/mL)にし、サンプル中の試験ペプチドを無視できる濃度に希釈した。
【0133】
STart4凝固装置(Diagnostica Stago,Asnieres sur Seine,France)を用いて凝固時間を測定することによって、トロンビン活性を評価した。このアッセイは、欧州薬局方アッセイ手順1997、0903、p.858の変法である。簡潔に述べると、トロンビン標準と、0.1%フィブリノーゲン含量のフィブリノーゲン溶液(Enzyme Research Laboratories,IN,USA)とを混合することによって、検量線を作成した。次いで、その凝固時間によって、検量線から様々な試験サンプル中のトロンビン濃度を算出した(濃度は、検量線から外挿した)。
【0134】
ペプチドと共に又はペプチド無しで保存した後の1000IU/mLのトロンビンの安定性試験については、上記の通り試験を実施した。希釈(1:100)は、活性の測定前に実施した。
【0135】
阻害試験については、10IU/mLのトロンビンの凝固活性を、ペプチドの存在下又は非存在下で測定した。
【0136】
実施例2:トロンビンの安定化に対するトロンビンガンマループのアミノ酸配列を含むペプチドの効果
トロンビンの形成中に切断されるプロトロンビン配列を、図1中に薄い灰色のシルエットとして示す。成熟アルファ−トロンビンポリペプチド配列を黒で示す。本明細書で利用するペプチド配列は、トロンビン一次配列においてシルエットで描かれており、分子の下に別個に示す(矢印によって示す)。ガンマループペプチド配列自体(配列番号1)を示し、N及びC末端の両方に隣接するアミノ酸を含むより長いペプチド内では角括弧で囲む(配列番号2;GNLKETWTANVGKGQPS;GLY−ASN−LEU−LYS−GLU−THR−TRP−THR−ALA−ASN−VAL−GLY−LYS−GLY−GLN−PRO−SER)。末端システイン残基を有するペプチドを合成することによって配列番号1を環化した(配列番号3;CKETWTANVGKC;CYS−LYS−GLU−THR−TRP−THR−ALA−ASN−VAL−GLY−LYS−CYS)。これらペプチドは、標準的な方法によって合成した。
【0137】
隣接するアミノ酸を有するガンマループペプチド(配列番号2)及び環状ペプチド(配列番号3)を用いて、トロンビン自己消化活性の阻害について試験した。トロンビンの公知の活性部位阻害剤であるアルギニンHCl(「アルギニン」)を、対照として用いた。図2Aは、様々なアルギニン濃度においてトロンビン活性(10IU/mLトロンビンを用いて測定)に対してアルギニンが有する阻害効果を示す。図2Bは、(グラフ中に示す通り)様々な濃度のアルギニンと共に37℃で最長48時間インキュベートした後に測定したトロンビン%を示す。アルギニンについての動作レンジを速やかに得るために、濃縮トロンビンをより短時間(最長48時間)用いた。アルギニンは、図2Aにみられるその阻害効果に相関して、トロンビンの安定性に対して用量依存性効果を示す。
【0138】
図2Cは、漸増量のガンマループペプチド(配列番号2)又は一定濃度(3% w/v)のアルギニンと共にインキュベートした後のトロンビンの残存活性を示す。このアッセイは、37℃で72及び144時間後における1000IU/mLのトロンビンの残存活性の測定に基づいていた。
【0139】
0.1mMのペプチドでは、144時間後に安定化が既に検出され、0.2mMでは、72時間後に既に明らかであった。図2Dは、漸増濃度のペプチドによるトロンビン活性(10IU/mLトロンビンで測定)の阻害を示す。0.2mMのペプチド濃度では、トロンビン活性は、それほど影響を受けない。
【0140】
結果:0.5〜5%(w/v)の範囲のアルギニンは、保存後にトロンビン活性を維持していた(図2B)。しかし、アルギニンの存在により、トロンビンの生物活性は損なわれた(図2Aを参照)。0.5%(w/v)アルギニンでさえも、トロンビン活性の約50%(w/v)が阻害され、2%(w/v)の濃度では>95%のトロンビン活性が阻害される(フィブリノーゲンを切断する能力によってアッセイしたとき;図2A)。有効アルギニン濃度に基づいて、3%(w/v)アルギニンを、0.5mMの濃度のガンマループペプチド(配列番号2;図2C)と比較した。驚くべきことに、0.5mMの安定化濃度でペプチドを用いたとき、トロンビン活性が高いままであった(約80%残存活性、図2Dを参照)。この同じ実験において、3%(w/v)アルギニンは、トロンビン活性の維持について72時間ではあまり有効ではなく、144時間ではほんのわずかにしか有効ではなかった。これは、3%(w/v)アルギニン濃度が、トロンビンをほとんど完全に阻害すると推定することができる(図2Aに基づいて)ので、重要である。
【0141】
0.5mMの濃度のペプチドでは、フィブリノーゲンに対するトロンビン活性の低下がわずか20%である(図2D)と共に、トロンビン安定性の増大が観察された(図2C)。理論に束縛されるものではないが、ガンマループペプチドは、少なくとも部分的に、トロンビンの分解のアロステリック阻害剤であると考えられる。
【0142】
実施例3:変異体ガンマループペプチドのスクリーニング
改善されたトロンビンへの結合を示し得るガンマループ変異体を同定するために、スクリーニングを実施した。これは、ガンマループペプチド変異体のアレイにおいて蛍光トロンビンを用いて実施した。最も高い結合効率を有する3つのこのような環化ペプチドを、フィブリノーゲンに対するトロンビン活性を損なわせることなくトロンビンを安定化させる能力について試験した(以下の実施例4を参照)。
【0143】
「ガンマループ」(配列番号1)は、トロンビンガンマループの野性型配列を示し;E03Nは、(配列番号4における)位置3におけるグルタミン酸のアスパラギンによる置換を指し;N08Yは、(配列番号5における)位置8におけるアスパラギンのチロシンによる置換を指し;G10Lは、(配列番号6における)位置10におけるグリシンのロイシンによる置換を指す。
【0144】
ペプチドのアミノ酸配列を、以下の本明細書における表1に示す:
【0145】
【表2】
【0146】
実施例4:ガンマループ結合ペプチドのスクリーニング
実施例2に開示した結果に基づいて、ガンマループペプチドをベイトとして用いて、トロンビンの安定性に正の影響を与え得る更なるペプチドを見出した。この目的のために、幾つかのペプチドアレイと共にインキュベートした蛍光ガンマループペプチドを用いて、結合スクリーニングを実施した。
【0147】
トロンビン自体、抗トロンビンIII(ATIII)、トロンボモジュリン、ヘパリン補因子II、ウシ膵トリプシン阻害剤(BPTI)、及びヒルジン、並びにトロンビンガンマループ配列の改変物等のトロンビンのガンマループと相互作用するタンパク質の配列にまたがる1,676個の15量体ペプチドのライブラリを作成した。SPOT合成(Wenschuh H,et al.(2000).Coherent membrane supports for parallel microsynthesis and screening of bioactive peptides.Biopolymers 55:188〜206)を用いてペプチドを合成し、記載の通り官能化スライドガラス上に化学選択的に固定した(Panse S,et al.(2004)Profiling of generic anti−phosphopeptide antibodies and kinases with peptide microarrays using radioactive and fluorescence−based assays.Mol Divers 8:291〜299.2.)。各ペプチドをマイクロアレイ上にトリプリケートでプリントした。結合試験については、100μgの精製トロンビン(Omrix biopharmaceuticals)をDyLight 650(DyLight(登録商標)Microscale Antibody Labeling Kits,Thermo Scientific,#84536)で直接標識し、ブロッキングバッファ(SuperBlockT20(TBS)Blocking Buffer,Thermo Scientific,#37536)で希釈した。マイクロアレイを、10μg/mLのDyLight 650−トロンビン又はフルオレセイン標識環状ガンマループ由来ペプチドと共に、HS4800マイクロアレイ処理ステーション(Tecan)において30℃で1時間インキュベートした(Masch A,et al.,(2010)Antibody signatures defined by high−content peptide microarray analysis.Methods Mol Biol 669:161〜172)。
【0148】
マイクロアレイを1x TBS中0.1% Tween−20、次いで、0.1x SSC中0.05% Tween−20で洗浄し、窒素流中で乾燥させた。各マイクロアレイを、GenePix Autoloader 4200AL(Molecular Devices,ピクセルサイズ:10μm)を用いてスキャンした。スポット認識ソフトウェアGenepix Pro 7.0分析ソフトウェア(Molecular Devices)を用いて、シグナル強度を評価した。各ペプチドについて、3つのトリプリケートの平均シグナル強度を抽出した。更なる評価及び結果の表示を、統計学的計算及びグラフィクスソフトウェアR(バージョン2.11.1、www.r−project.org)を用いて実施した。
【0149】
あるアレイは、トロンビン配列に基づくペプチドを含んでいた。このライブラリから単離した任意のペプチドは、ガンマループと相互作用し得る、可能性のあるトロンビンタンパク質中の領域を反映し得る。第2のアレイは、幾つかの任意のペプチドがガンマループに対して親和性を示したランダムペプチドで構成されていた。最も強力な結合候補(ヒット)の蛍光を、0〜65535(216)の任意の尺度で定量した。トロンビン活性を実施例1に記載の通り評価した。
【0150】
トロンビン由来ペプチドアレイ(Thr;配列番号7〜11)及びランダムペプチドアレイ(Rnd;配列番号12〜13)からスクリーニングにおいて同定された候補ペプチドのアミノ酸配列を、以下の本明細書における表2に示す。
【0151】
【表3】
下線及び太字は、S置換である。
【0152】
これらペプチドの全て(実施例3で同定した「変異体ガンマループペプチド」、ランダムペプチド、トロンビン由来ペプチド、及び上記「ガンマループ結合ペプチド」)を、実施例2に記載の通り0.5mMの濃度でトロンビン活性を安定化させる能力について試験した。
【0153】
結果を以下の通り、図中に示す。
図3Aは、ガンマループに結合するランダム候補ペプチド(配列番号12及び配列番号13によって表されるランダムペプチド)を用いたトロンビン活性の安定化レベルを(残存活性%として)示す。
【0154】
図3Bは、ガンマループ配列、「直鎖状ガンマペプチド」(配列番号2)、及び分子内S−S結合を介する環状、「環状ガンマペプチド」(「CS」、配列番号3)を含むペプチドを用いたトロンビン活性の安定化レベルを(残存活性%として)示す。
【0155】
図3Cは、分子内S−S結合を介して環化されたガンマループ変異体ペプチドを用い、強化されたトロンビンへの結合を示す、トロンビン活性の安定化レベルを(残存活性%として)示す。
【0156】
図3Dは、トロンビン由来ペプチドThr−111(配列番号8)を用いたトロンビン活性の安定化レベルを(残存活性%として示す)示す。結果は、Thr−111(配列番号8)のトロンビンへの結合が、トロンビン分解を増加させたことを示すが、活性部位で結合しているのではないように思われた。
【0157】
図3Eは、トロンビン由来ペプチドThr−069(配列番号7)を用いたトロンビン活性の安定化レベルを(残存活性%として示す)示す。結果は、Thr−069(トロンビンに対して非常に弱い結合を示す配列番号7)もトロンビンの安定性に対して最小限の効果を示したことを示す。
【0158】
図3Fは、システイン残基がセリン残基によって置換されており、ガンマループに対して可変結合を示し、トロンビンが阻害されたときにその全てが若干の結合低減を示すトロンビン由来ペプチドの変異体を用いた、トロンビンの安定化レベルを(残存活性%として)示す。トロンビンペプチドのアミノ酸配列は、トロンビンの三次元構造に基づいており、必ずしもトロンビンペプチドの連続配列を含むものではない。トロンビン由来ペプチドの3つ変異体全てが、トロンビンを安定化させることができた。最も有効性の低いペプチドであるThr−136CS(配列番号11)は、最も弱い蛍光シグナルも有していた(表2、トロンビンに対して最も弱い結合)。
【0159】
表2及び図3A〜3Fのデータは、以下を示す:
ガンマループ配列を含むペプチド(配列番号2及び配列番号3)は、直鎖状であろうと環状であろうと、トロンビン活性の同様の効率的な安定化を示した(図3B)。
【0160】
比較的弱いトロンビン相互作用ペプチド[例えば、Thr−069(配列番号7)]及びThr−136CS[配列番号11)]は、同じ群の類似のペプチドよりも弱い安定化効果を示した(図3E及び3F)。
【0161】
トロンビンと最も強い相互作用を有するペプチドThr−111(配列番号8)は、トロンビンに対して不安定化効果を有していた(図3D)。
【0162】
ガンマループの残基E、N、又はGにおける変異体である環状ペプチド(それぞれ、配列番号4、5、及び6)によるトロンビンの安定化は、非効率であった(図3C)。したがって、ガンマループペプチドとトロンビンとの間の相互作用は、特異的であり、重要な残基が変異した場合、結合親和性が増大し得るとしても、安定化効果は失われ得る。
【0163】
2つのランダムペプチド(配列番号12及び13)からは、いずれも、若干トロンビンの安定化効果が得られた(図3A)。上記の通り、これらペプチドは、ガンマループに対する初期結合に基づいてランダムライブラリから選択され、これは、安定化能の優れた予測指標であると考えられる。
【0164】
実施例5:トロンビン阻害活性についてのペプチドの試験
トロンビン安定化活性を示したペプチドを、異種基質に対するトロンビンの活性に対する効果について試験した。
【0165】
アッセイは、実施例1に記載の通り実施した。
【0166】
図4A及びBは、ガンマループ/トロンビンガンマ結合ペプチドによるトロンビン阻害のレベルを示す(阻害は、グラフに示す残存活性%から算出することができる)。
【0167】
図4Aは、いずれもトロンビンに対して若干の安定化効果を示した2つのトロンビン由来ペプチド[Thr 031 CS(配列番号9)]、Thr 032 CS(配列番号10)]が、同濃度でトロンビンに対する阻害効果(例えば、0.5mMのペプチド:13〜14%阻害)も示したことを示す。より高いペプチド濃度(1mM)では、阻害は30%を超えた。環状ガンマペプチド(配列番号3)は、0.5mMでトロンビンを約7%しか阻害しなかったが、直鎖状ガンマペプチド(配列番号1)は、約20%の阻害を示した(図2D)。両ペプチドは、この濃度において同様のトロンビンの安定化効果を示した。ペプチドRnd 316(配列番号12)は、試験したいずれの濃度でもトロンビン活性の阻害を全く示さなかった。
【0168】
同濃度(0.5mM)におけるベンズアミジンは、このアッセイにおいて20%の阻害を示し、これは、試験したペプチドのいずれよりも高かった。
【0169】
これらデータは、(ベンズアミジンの使用とは対照的に)トロンビン活性を損なわせることなく、トロンビンを安定化させるために特定のペプチドを使用することが可能であることを示す。
【0170】
図4Bは、直鎖状(配列番号1)及び環状(配列番号3)のトロンビンガンマループペプチドによるトロンビンの阻害(阻害は、グラフに示す残存活性%として算出することができる)を示す。
【0171】
環状ガンマペプチド(配列番号3)は、0.5mMで約7%の阻害しか示さず、直鎖状ガンマペプチド(配列番号1)は、約20%の阻害を示した。両ペプチドは、この濃度において同様のトロンビンの安定化効果を示した。
【0172】
要約すると、理論に束縛されるものではないが、3つの分類のペプチドがトロンビンを安定化させることが示される:
1)直鎖状若しくは環状(すなわち、分子内S−S結合)ガンマループペプチド、又はトロンビンガンマループの連続アミノ酸配列を含有する直鎖状若しくは環状ペプチド、
2)トロンビンと相互作用することが知られている(例えば、トロンビン自体)が、ガンマループへの結合を示す抗トロンビンIII、トロンボモジュリン、又はその他も含み得る分子から選択されるペプチド、
3)ガンマループと結合相互作用を示すランダムに選択されるペプチド。
【0173】
一般的に、上記ペプチドは、トロンビンを安定化させるのと同じ濃度では、トロンビンを阻害しない。トロンビンは、活性である上に安定であるので、これらペプチドを用いて、液体製剤中のトロンビンの活性を安定化させ、その異種基質に対する活性を保持することができる。
【0174】
本明細書では様々な実施形態について説明してきたが、その実施形態に対して多くの改変及び変更を行ってもよい。また、特定の構成要素に関して材料を開示したが、他の材料を使用してもよい。以上の明細書及び以下の「特許請求の範囲」は、このような改変及び変更を全て網羅することを意図する。
【0175】
全体的に又は一部において、本明細書に参照により援用すると言われるいずれの特許、刊行物、又は他の開示資料も、援用される資料が既存の定義、記載、又は本開示に記載されている他の開示資料と矛盾しない程度にのみ本明細書に援用するものとする。このように及び必要な範囲で、本明細書に明瞭に記載されている開示は、参照により本明細書に援用される任意の矛盾する資料に優先するものとする。
【0176】
本出願のいずれの参照文献の引用又は指定も、このような参照文献が本発明の先行技術として利用可能であることを認めるものと解釈されるべきではない。
【0177】
セクション見出しは、本明細書では、明細書の理解を容易にするために用いられ、必要に応じて限定するものと解釈すべきではない。
【0178】
〔実施の態様〕
(1) 液体トロンビン製剤中のトロンビンの活性を安定化させることができる化合物であって、前記化合物が、トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、その誘導体又は塩、及びトロンビンガンマループ相互作用分子、その誘導体又は塩からなる群から選択される、化合物。
(2) 前記化合物が、前記トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、その誘導体又は塩である、実施態様1に記載の化合物。
(3) 前記単離ペプチドが、直鎖状又は環状である、実施態様2に記載の化合物。
(4) 前記トロンビンガンマループのアミノ酸配列が、配列番号1に記載されている、実施態様1〜3のいずれかに記載の化合物。
(5) 前記単離ペプチドが、配列番号2に記載のアミノ酸配列、その誘導体又は塩を含む、実施態様2又は3に記載の化合物。
【0179】
(6) 前記単離ペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列、その誘導体又は塩を含む、実施態様2又は3に記載の化合物。
(7) 前記単離ペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列、その誘導体又は塩から本質的になる、実施態様2又は3に記載の化合物。
(8) 前記単離ペプチドが、配列番号2に記載のアミノ酸配列、その誘導体又は塩から本質的になる、実施態様2又は3に記載の化合物。
(9) 前記単離ペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列、その誘導体又は塩から本質的になる、実施態様2又は3に記載の化合物。
(10) 前記ガンマループ相互作用分子が、単離相互作用ペプチド、その誘導体又は塩である、実施態様1に記載の化合物。
【0180】
(11) 前記単離相互作用ペプチドが、トロンビンペプチドである、実施態様10に記載の化合物。
(12) 前記単離相互作用ペプチドが、直鎖状又は環状である、実施態様11に記載の化合物。
(13) 前記単離相互作用ペプチドが、配列番号7、9、10、又は11のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、その誘導体又は塩を含む、実施態様12に記載の化合物。
(14) 前記単離相互作用ペプチドが、配列番号7、9、10、又は11のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、その誘導体又は塩から本質的になる、実施態様12に記載の化合物。
(15) 前記単離相互作用ペプチドが、ランダムペプチドライブラリから得られる、実施態様10に記載の化合物。
【0181】
(16) 前記単離相互作用ペプチドが、直鎖状又は環状である、実施態様15に記載の化合物。
(17) 前記単離相互作用ペプチドが、配列番号12又は13に記載のアミノ酸配列、その誘導体又は塩を含む、実施態様16に記載の化合物。
(18) 前記単離相互作用ペプチドが、配列番号12又は13に記載のアミノ酸配列、その誘導体又は塩から本質的になる、実施態様16に記載の化合物。
(19) 実施態様1〜18のいずれかに記載の化合物と、薬理学的に許容し得る賦形剤とを含む、医薬組成物。
(20) トロンビンと、実施態様1〜18のいずれかに記載の化合物と、薬理学的に許容し得る賦形剤とを含む、トロンビン製剤。
【0182】
(21) 約1IU/mL〜10,000IU/mLのトロンビン活性を有する、実施態様20に記載の製剤。
(22) 約10IU/mL〜5,000IU/mLのトロンビン活性を有する、実施態様20に記載の製剤。
(23) 約10IU/mL〜1,000IU/mLのトロンビン活性を有する、実施態様20に記載の製剤。
(24) 前記化合物が、約0.01mM〜1mMの濃度で存在する、実施態様20〜23のいずれかに記載の製剤。
(25) 前記化合物が、約0.1mM〜0.5mMの濃度で存在する、実施態様24に記載の製剤。
【0183】
(26) 前記化合物が、約0.5mMの濃度で存在する、実施態様24に記載の製剤。
(27) フィブリンシーラント成分として使用するための、実施態様20〜26のいずれかに記載の製剤。
(28) 外表面にラベルが貼付されている密閉容器内に収容される、実施態様1〜18のいずれかに記載の化合物、実施態様19に記載の組成物、又は実施態様20〜27のいずれかに記載の製剤。
(29) トロンビン活性を安定化させる方法であって、前記トロンビンを実施態様1〜18のいずれかに記載の化合物又は実施態様19に記載の組成物と接触させることを含む、方法。
(30) 液体形態のトロンビンの活性を安定化させることができる化合物をスクリーニングする方法であって、
a)トロンビンガンマループのアミノ酸配列を含む単離ペプチドを提供することと、
b)試験化合物のセットを提供することと、
c)(a)の前記単離ペプチドを(b)の前記化合物のセットと接触させることと、
d)前記ペプチドに結合する1つ又は2つ以上の試験化合物を同定することと、を含み、
前記結合が、トロンビン活性の安定化で使用するための可能性のある化合物を示す、方法。
【0184】
(31) 工程(d)で同定された前記1つ又は2つ以上の化合物を単離することを更に含む、実施態様30に記載の方法。
(32) 液体形態のトロンビンの活性の安定化における効果について、工程(d)で同定された前記1つ又は2つ以上の化合物を試験することを更に含む、実施態様30又は31に記載の方法。
(33) 実施態様2〜18のいずれかに記載の化合物をコードする、単離核酸配列。
(34) プロモータエレメントに機能的に連結している、実施態様33に記載の核酸配列を含む、ベクター。
(35) 実施態様34に記載のベクターを含む、宿主細胞。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]