(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、太陽電池パネルの表面に散水を行った場合、散水時の水量が少ない場合には、太陽電池パネルの表面を流下する水の表面張力や粘性等の影響により、筋状に流下しやすい。したがって、特許文献1に開示されるシステムにおいて、散水時の水圧を小さく設定した場合、散水時の水量が少ないことから、太陽電池パネルの表面を流下する水は太陽電池パネルの表面全体に行き渡らず、太陽電池パネルを効率的に冷却することができない。
【0007】
したがって、太陽電池パネルの表面全体を濡らすためには、散水する水量を多くことが考えられるが、散水用の水を散水部に供給するために作動させるポンプで消費される電力量が多くなる。その結果、散水により消費されるエネルギー量が太陽電池パネルの冷却により増加するエネルギー量よりも多くなり、システム全体におけるエネルギー効率が悪い。
【0008】
また、特許文献1に開示されるシステムでは、太陽電池パネルにおける発電状態、暦や時間、太陽電池パネルが設置される地域、太陽電池パネルの温度などの情報に基づいて、散水部から噴出させる水の圧力の調整を行うことから、システムにおける制御が複雑になりやすい。
【0009】
本発明は、太陽電池パネルに散水を行うシステム全体のエネルギー効率を良好に保つことができるようにした太陽電池パネルの散水システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明の太陽電池パネルの散水システムは、傾斜配置された太陽電池パネルの傾斜方向における上流側端部に配置された散水管と、前記散水管の外周面に且つ前記散水管の軸方向に沿って設けられ、前記散水管に送り込まれた水を前記太陽電池パネルの傾斜方向における下流側に向けて噴出する複数の噴出口と、前記太陽電池パネルの傾斜方向における前記散水管の下流側で且つ前記複数の噴出口と対面する位置に、前記太陽電池パネルの表面に対して立設され、前記複数の噴出口から噴出された水が衝突して表面で拡散される拡散壁と、前記拡散壁において前記複数の噴出口から噴出された水が衝突して拡散する領域よりも下方に設けられ、前記散水管の軸方向を長手方向とするスリット状の開口と、を備え、前記拡散壁の表面を流下する水の少なくとも一部は、前記開口の上端縁部から前記水の粘性により前記水の流れが変化して前記太陽電池パネルの表面に直接落下して前記太陽電池パネルの表面で複数の扇状の水の流れを生成し、前記複数の扇状の水の流れは、隣り合う扇状の水の流れと外接又は重畳することで、前記太陽電池パネルの表面に液膜流を生成することを特徴とする。
【0011】
また、前記散水管に送り込まれる水の水量は、前記拡散壁の表面で拡散した水の拡散直径が前記複数の噴出口の間隔と同一長さ以上になる水量であることを特徴とする。
【0012】
また、前記散水管に送り込まれる水の水量は、前記拡散壁の表面で拡散した水の拡散直径が
、前記複数の噴出口の間隔の6割以上の直径となる水量であることを特徴とする
。
【0013】
また、前記拡散壁の表面を流下する水の一部は、前記開口の上端縁部から前記開口の下端縁部近傍に落下し、前記開口の下端縁部近傍に落下した一部の水が前記拡散壁の前記傾斜方向における上流側に貯留されることを特徴とする。
【0014】
このとき、前記開口の下端縁部近傍に落下する水は、貯留された水が前記開口の下端縁部を超えて前記太陽電池パネルの表面へと溢れる箇所に衝突して、前記太陽電池パネルの表面へと溢れる水の表面張力を変化させることが好ましい。
【0015】
また、前記拡散壁を流下する水は、
前記開口の上端縁部から前記開口の下端縁部近傍に落下する方向と前記開口の上端縁部から前記太陽電池パネルの表面に直接落下する方向との間で時間的に落下方向が変化して、前記太陽電池パネルの表面に直接落下した水が拡散する領域の表面張力を変化させることを特徴とする。
【0016】
また、前記拡散壁は、前記散水管を収納する箱体の側壁であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の太陽電池パネルの散水システムは、傾斜配置された太陽電池パネルの傾斜方向における上流側端部に配置された散水管と、前記散水管の外周面に且つ前記散水管の軸方向に沿って設けられ、前記散水管に送り込まれた水を前記太陽電池パネルの傾斜方向における下流側に向けて噴出する複数の噴出口と、前記太陽電池パネルの傾斜方向における前記散水管の下流側で前記複数の噴出口と対面し、且つ下端縁の少なくとも一部と前記太陽電池パネルとの間に隙間を形成するように前記太陽電池パネルの表面に対して立設され、前記複数の噴出口から噴出された水が衝突して表面で拡散される拡散壁と、を備え、前記拡散壁の表面を流下する水は、拡散壁の下端縁から前記水の粘性により前記水の流れが変化して前記太陽電池パネルの表面に直接落下して前記太陽電池パネルの表面で複数の扇状の水の流れを生成し、前記複数の扇状の水の流れは、隣り合う扇状の水の流れと外接又は重畳することで、前記太陽電池パネルの表面に液膜流を生成することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の太陽電池パネルの散水システムは、傾斜配置された太陽電池パネルの傾斜方向における上流側端部に配置された散水管と、前記散水管の外周面に且つ前記散水管の軸方向に沿って設けられ、前記散水管に送り込まれた水を前記太陽電池パネルの傾斜方向における下流側に向けて噴出する複数の噴出口と、前記太陽電池パネルの傾斜方向における前記散水管の下流側で且つ前記複数の噴出口と対面する位置に、前記太陽電池パネルの表面に対して立設され、前記複数の噴出口から噴出された水が衝突して表面で拡散される拡散壁と、前記拡散壁において前記複数の噴出口から噴出された水が衝突して拡散する領域よりも下方に設けられ、前記散水管の軸方向を長手方向とするスリット状の開口と、を備え、前記拡散壁の表面を流下する水の一部は、前記開口の上端縁部から前記開口の下端縁部近傍に落下し、前記開口の下端縁部近傍に落下した一部の水が前記拡散壁の前記傾斜方向における上流側に貯留されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の太陽電池パネルの散水システムは、傾斜配置された太陽電池パネルの傾斜方向における上流側端部に配置された散水管と、前記散水管の外周面に且つ前記散水管の軸方向に沿って設けられ、前記散水管に送り込まれた水を前記太陽電池パネルの傾斜方向における下流側に向けて噴出する複数の噴出口と、前記太陽電池パネルの傾斜方向における前記散水管の下流側で且つ前記複数の噴出口と対面する位置に、前記太陽電池パネルの表面に対して立設され、前記複数の噴出口から噴出された水が衝突して表面で拡散される拡散壁と、前記拡散壁において前記複数の噴出口から噴出された水が衝突して拡散する領域よりも下方に設けられ、前記散水管の軸方向を長手方向とするスリット状の開口と、を備え、前記開口の下端縁部近傍に落下する水は、貯留された水が前記開口の下端縁部を超えて前記太陽電池パネルの表面へと溢れる箇所に衝突して、前記太陽電池パネルの表面へと溢れる水の表面張力を変化させることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の太陽電池パネルの散水システムは、傾斜配置された太陽電池パネルの傾斜方向における上流側端部に配置された散水管と、前記散水管の外周面に且つ前記散水管の軸方向に沿って設けられ、前記散水管に送り込まれた水を前記太陽電池パネルの傾斜方向における下流側に向けて噴出する複数の噴出口と、前記太陽電池パネルの傾斜方向における前記散水管の下流側で且つ前記複数の噴出口と対面する位置に、前記太陽電池パネルの表面に対して立設され、前記複数の噴出口から噴出された水が衝突して表面で拡散される拡散壁と、前記拡散壁において前記複数の噴出口から噴出された水が衝突して拡散する領域よりも下方に設けられ、前記散水管の軸方向を長手方向とするスリット状の開口と、を備え、前記拡散壁を流下する水は、
前記開口の上端縁部から前記開口の下端縁部近傍に落下する方向と前記開口の上端縁部から前記太陽電池パネルの表面に直接落下する方向との間で時間的に落下方向が変化して、前記太陽電池パネルの表面に直接落下した水が拡散する領域の表面張力を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、太陽電池パネルに散水を行うシステム全体のエネルギー効率を良好に保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態における太陽電池パネルの散水システムについて説明する。本実施形態における太陽電池パネルの散水システムは、太陽電池パネルの表面への散水により表面を流下する水を回収して繰り返し使用するシステムである。
【0024】
図1に示すように、太陽電池パネル10は、太陽電池モジュール(太陽電池セル)10aをアレイ状に複数配置した状態で、建物の屋上や家屋の屋根に設置される。
図1は、縦方向(
図1中Y方向)に4枚、横方向(
図1中X方向)に2枚の計8枚の太陽電池モジュール10aを配置した太陽電池パネル10の一例を示す。太陽電池パネル10は、太陽電池モジュール10aの各々に対して発電面積を極力確保できるように、太陽電池パネル10の縦方向において、例えば10°傾斜して設置される。太陽電池パネル10に用いられる太陽電池モジュール10aは、一例として、横1559mm×縦798mmの大きさで、最大出力は250Wのものが用いられる。なお、符号11は、太陽電池パネル10を傾斜した状態で設置するための架台である。
【0025】
太陽電池パネル10の外周部には雨樋15が設けられる。雨樋15は、軒樋16a,16b,16c、集水器17、竪樋18、呼び樋19などから構成される。軒樋16a,16bは、太陽電池パネル10の横方向における両端部に、傾斜した太陽電池パネル10の縦方向に沿って配置される。また、軒樋16cは、傾斜した太陽電池パネル10の下端部に、太陽電池パネル10の横方向に沿って配置される。軒樋16cの両端部は、軒樋16a,16bの下流側端部とそれぞれ接続される。したがって、軒樋16a,16bに受容(回収)された雨水は、軒樋16a,16bから軒樋16cに流れる。
【0026】
軒樋16a,16b,16cは、降雨時に、雨水を直接受容する他、太陽電池パネル10の表面に沿って流れ、太陽電池パネル10の周縁部から流下する雨水を受容する。また、軒樋16a,16b,16cは、散水部25を介して行われる散水時に、太陽電池パネル10の表面に沿って流れた後で太陽電池パネル10の周縁部から流下する雨水を受容する。集水器17は、軒樋16a,16b,16cにより受容された雨水を集水して竪樋18に流入させる。竪樋18に流入した雨水は、竪樋18に接続された呼び樋19等を介して貯水タンク20に流入される。
【0027】
貯水タンク20は、雨樋15により受容された雨水を貯留する。貯水タンク20は、太陽電池パネル10の側方に設置される。貯水タンク20は、遮光性に優れたステンレス製であるが、貯留される雨水に対して外気からの熱を断熱できる構造としてもよい。ポンプ21は、貯水タンク20に貯留された雨水を散水部25に送り出すために設けられる。貯水タンク20が太陽電池パネル10の側方に設置されているから、ポンプ21の場程を小さくでき、ポンプ21の消費エネルギー量を小さくできる。なお、ポンプ21は、制御装置22により駆動制御される。符号23は、貯水タンク20とポンプ21とを接続する配管、符号24は、ポンプ21と散水部25とを接続する配管である。
【0028】
なお、貯水タンク20は雨樋15により受容された雨水を貯留するとしているが、降水量が少ない地域に設置された太陽電池パネル10に対して散水を行う場合や、降水量が少ない季節に太陽電池パネル10に対して散水する場合があることを考慮して、予め水道水等を貯水タンク20に貯留しておいてもよい。
【0029】
散水部25は、太陽電池パネル10の縦方向における上流側端部に、図示を省略したブラケットなどを介して設置される。
図2及び
図3に示すように、散水部25は、複数の配管26,27,28,29、及び散水箱30を含む。複数の配管26,27,28,29は、例えば耐衝撃性硬質塩化ビニル管(HIVP)が用いられる。なお、配管26,27,28,29は、一例として、内径が25mm、外径が32mmの管材である。複数の配管26,27,28,29のうち、配管29は、配管29の軸方向に沿って、所定の間隔Pを空けた複数の噴出口35を外周面に有する。なお、
図2においては、図の煩雑さを解消するために、一部の噴出口について符号を省略している。以下、複数の噴出口35が設けられた配管29を散水用配管と称する。散水用配管29に設けられる複数の噴出口35の直径は各々同一径であり、一例として1mmである。また、複数の噴出口35のうち、隣り合う噴出口35の間隔Pは同一間隔であり、一例として20mmである。
【0030】
散水箱30は、上面が開口された矩形の箱本体31と、箱本体31の上部を遮蔽する蓋32とを含む。散水箱30は、太陽電池パネル10と同一の角度傾斜した状態で保持される。なお、
図3においては、太陽電池パネル10の表面から間隔を空けて散水箱30を設置した状態を示しているが、散水箱30を太陽電池パネル10に当接させた状態で設置することも可能である。
【0031】
箱本体31は、例えばステンレス鋼材が用いられる。箱本体31は、側壁31aの底面側に、箱本体31の長手方向に延出されたスリット状の開口36を有する。本実施形態では、2つの開口36を箱本体31の長手方向に配置した場合について説明するが、開口36の数は1個以上であればよい。
【0032】
蓋32は、アクリルなどの透明な合成樹脂材やガラスなどの板状の部材である。蓋32は、散水箱30の内部に、粉塵やゴミなどが入り込むことを防止する。また、蓋32は、散水箱30の内部、詳細には散水用配管29の複数の噴出口35の各々から水が正常に噴出しているか視認するために設けられる。
【0033】
上述した散水箱30は、一例として幅Wが3200mm、奥行きDが85mm、高さH1が90mmである。また、開口36は、散水箱30の底面から高さH2の位置に設けられる。高さH2は、一例として、10mmである。なお、高さH2を0mmとしてもよい。開口36の高さ方向における幅H3は、一例として、10mmである。
【0034】
散水部25は、まず、箱本体31の長手方向に直交する側壁に設けた挿通孔(図示省略)に散水用配管29を挿通した後、散水用配管29の両端部にL字状の管継手40,41を接合する。次に、配管26の一端部にT字状の管継手42を、配管26の他端部にL字状の管継手43を接合する。同時に、管継手40に配管27の一端部を、管継手41に配管28の一端部を各々接合する。最後に、配管27の他端部を管継手42に、配管28の他端部を管継手43に各々接合する。
【0035】
ここで、散水用配管29が散水箱30に保持された状態において、複数の噴出口35は、例えば散水箱30の内壁面のうち、開口36を有する壁面31aで、且つ噴出口35から噴出される水が該壁面31aの開口36の上方で衝突する角度に保持される。詳細には、複数の噴出口35は、複数の噴出口35から噴出した水が散水箱30の壁面31aに衝突したときに発生する射流及び常流が、散水箱30の壁面31aで収まる角度に設定される。図示は省略するが、散水用配管29の両端部と箱本体31の側壁に設けた挿通孔との間はシール材などにより遮蔽され、散水箱30の外部への水漏れを防止する。
【0036】
次に、本実施形態における太陽電池パネルの散水システムにおける水の流れについて説明する。以下では、太陽電池パネルの表面に常時散水を行う場合を例に挙げて説明する。なお、本実施形態の散水システムは、太陽電池パネルの温度、天候、気候条件、時刻等に基づいて散水を行うか否かを制御することも可能である。
【0037】
図3及び
図4に示すように、ポンプ21の作動により散水用配管29に水が送り出されると、散水用配管29が有する噴出口35から水が噴出される。噴出した水は噴流の状態で散水箱30の壁面31aに衝突し、壁面31aの表面に、衝突した部分を中心とした射流と、射流の外方に位置する常流とを形成した後、壁面31aを伝って流下する。その結果、壁面31aに衝突した水は、壁面31aを扇状に濡らす。
【0038】
壁面31aに沿って流下する水が、壁面31aと開口36の内壁面36aとの稜線(エッジ)37まで流下すると、エッジ37において発生する水の表面張力等の影響により、流下する水はエッジ37で、散水箱30の長手方向において片寄り、筋状に落下する。
【0039】
エッジ37から筋状に落下する水に対するコアンダ効果(付着効果)の影響が小さい場合には、壁面31aと開口36の内壁面36bとの稜線(エッジ)38の近傍に落下する水の流れ(以下、流れA)と、開口36を介して太陽電池パネル10の表面に直接落下する水の流れ(以下、流れB)との間で時間的に変化する。一方、エッジ37から筋状に落下する水に対するコアンダ効果の影響が大きくなるに従って、水の流れが流れA及び流れBとの間で時間的に変化しなくなり、流れBのみとなる。なお、コアンダ効果は、壁面31aを流下する水の水量に応じて変化する。以下、流れA及び流れBの間で時間的に変化する場合の、流れA及び流れB以外の水の流れを、流れCとする。なお、
図4においては、流れA及び流れBのみを示している。
【0040】
流れAは、壁面31aと開口36の内壁面36bとのエッジ38の近傍に落下する水の流れである。流れAの場合、落下する水は、開口36の内壁面36b又はエッジ38近傍に落下して跳ね返り、散水箱30の内部に貯留されるか、開口36を介して太陽電池パネル10の表面に落下する。散水箱30の内部に貯留された水は、その水位がエッジ38の高さを超えたときに、エッジ38を超えて外部に溢れ、太陽電池パネル10の表面へと流れる。エッジ38を超えて外部に溢れる水は、その水量により、開口36の内壁面36b、開口36の内壁面36bと散水箱30の外壁面31bとのエッジ39、さらには、散水箱30の外壁面31bを伝って流下するか、太陽電池パネル10の表面に直接落下する。流れAは、エッジ38を超えて外部に溢れる水や、エッジ38近傍の水と衝突して、これら水の表面張力を変化させる。これにより、エッジ38を超えて外部に溢れる水が偏流となって太陽電池パネル10の表面に落下することを防止する。
【0041】
流れBは、太陽電池パネル10の表面に直接落下する水の流れである。太陽電池パネル10の表面に直接落下した水は、太陽電池パネル10の表面に直接落下した部分を中心とした射流と、射流の外方に位置する常流とを形成した後、太陽電池パネル10の表面を扇状に流下する。
【0042】
流れCは、流れA及び流れBの間で時間的に変化する場合の、流れA及び流れB以外の水の流れである。流れCの場合、落下する水のうち、エッジ39の近傍に落下する水は、エッジ39の近傍で衝突して跳ね返り、散水箱30の内部に貯留されるか、開口36を介して太陽電池パネル10の表面に落下する。開口36を介して太陽電池パネル10の表面に直接落下する水は、流れAにより太陽電池パネル10の表面に直接落下する水が拡散した領域近傍に落下して、太陽電池パネル10の表面で拡散した水の表面張力を変化させる。
【0043】
図5は、散水時のポンプ21から散水部25に送り込む水の流量を変化させたときの、上述した流れA、流れB及び流れCの割合、噴出口35から噴出した水が散水箱30の壁面31aに衝突したときに発生する拡散直径(射流の直径)、太陽電池パネル10の表面における濡れ面積の割合、太陽電池パネル10の表面を流れる水の流れをまとめたものである。以下、散水時のポンプ21から散水部25に送り込む水の流量を散水流量と称する。
【0044】
図5に示すように、散水流量が8L/minであるとき、散水箱30の壁面31aに衝突して発生する拡散直径は、10mmである。このとき、散水箱30の壁面31aを伝って流下する水の流れは柱状である。また、エッジ37に到達後の水の流れは、流れAが7%、流れBが37%、流れCが56%となる。このとき、太陽電池パネル10の表面を流れる水の流れは、偏流傾向にあり、太陽電池パネル10の表面全体の7割程度しか水に濡れないことがわかった。
【0045】
散水流量が10L/minであるとき、散水箱30の壁面31aに衝突して発生する拡散直径は12mmである。このとき、散水箱30の壁面31aを伝って流下する水の流れは柱状である。また、エッジ37に到達後の水の流れは、流れAが1%、流れBが79%、流れCが20%となる。このとき、太陽電池パネル10の表面を流れる水の流れは、液膜流になり、太陽電池パネル10の表面全体が水に濡れることがわかった。
【0046】
散水流量が25L/minであるとき、散水箱30の壁面31aに衝突して発生する拡散直径は、22mmである。このとき、散水箱30の壁面31aを伝って流下する水の流れは扇状である。また、エッジ37に到達後の水の流れは、流れAが0%、流れBが100%、流れCが0%となる。このとき、太陽電池パネル10の表面を流れる水の流れは、液膜流になり、太陽電池パネル10の表面全体が水に濡れることがわかった。
【0047】
次に、散水流量と散水箱30の壁面31aに形成される射流の拡散直径との関係について説明する。散水用配管29の各噴出口35から噴出した水が内壁31aに衝突したときに発生する射流の拡散半径rは、以下の式(1)で示される。
【0048】
【数1】
ここで、式(1)中、符号rは射流の半径、符号Qは噴出口1個当たりの流量、符号νは動粘度、符号gは重力加速度である。なお、散水水量は、以下の式(2)で示される。
【0049】
【数2】
ここで、式(2)中、符号nは、散水用配管29が有する噴出口35の数である。
【0050】
図6は、水温を30°Cとしたときの散水流量と拡散直径との関係を示す。ここで、拡散直径とは、壁面に衝突したときに生じる射流の直径である。なお、水温が30°Cであるときの、水の動粘度νは、8.01×10
−7m
2/sである。
【0051】
図6に示すように、散水流量が増加するにしたがって、散水箱30の壁面31aに形成される拡散直径が大きくなることがわかる。上述したように、複数の噴出口のうち、隣り合う噴出口の間隔Pは20mmである。
【0052】
図7(a)、
図7(b)及び
図7(c)は、散水箱30の壁面31aにおける水の散水状態を示す図である。なお、これら図においては、散水箱30の開口35を介して落下した後の水の流れについては、点線で示している。
【0053】
図7(a)に示すように、複数の噴出口35から噴出した水が内壁31aに衝突したときに発生する射流の拡散直径D1が20mmとなる場合、発生した射流は各々外接する。符号45は、複数の噴出口35から噴出した水が内壁31aに衝突する箇所である。したがって、各射流に基づく水の流れ50は、散水箱30の長手方向において、内壁31aの全体を濡らす。各噴出口35から噴出した水が壁面31aを伝ってエッジ37に到達すると、表面張力の影響を受けて、各々が例えば帯状の流れとなって太陽電池パネル10の表面に落下する。符号46は、開口35を介して落下した水が太陽電池パネル10の表面に落下する箇所である。
【0054】
複数の帯状の流れで太陽電池パネル10の表面に落下した水は、太陽電池パネル10の表面で射流を形成し、太陽電池パネル10の表面を扇状の流れ51で流下する。このとき、隣り合う扇状の流れが重畳されることから、散水される水は、太陽電池パネル10の表面の全体を液膜流の状態で流下する。散水される水が帯状の流れとなって太陽電池パネル10の表面に落下するとき、帯状の幅分、扇状の流れ51の幅が広がり、隣り合う扇状の流れが重畳しやすくなると考えられる。ここで、射流の拡散直径D1が20mmとなる場合、上述した式(1)により、1個の噴出口35における散水流量Q=2.3×10
−6L/minとなる。また、散水用配管29に設けられる噴出口35の数を160個とした場合、散水流量は、上述した式(2)により、22L/minとなる。例えば散水箱30の幅Wが3200mmである場合、散水箱30における1m当たりの散水流量は約6.9L/minとなる。
【0055】
なお、射流の拡散直径D1が20mmを超えた場合、複数の噴出口35から噴出した水が内壁31aに衝突したときに発生する射流のうち、隣り合う射流は一部が各々重畳する。したがって、射流の拡散直径D1が20mmを超えた場合も、射流の拡散直径D1が20mmとなる場合と同様に、散水される水は、太陽電池パネル10の表面全体を液膜流の状態で流下する。
【0056】
図7(b)、
図7(c)に示すように、射流の拡散直径D1が20mm未満となる場合、発生した射流に基づく水の流れ50は外接しない。したがって、複数の噴出口35から噴出した水は、散水箱30の長手方向において、内壁31aの全体を濡らすことはない。この場合も、壁面31aを伝ってエッジ37に到達した水は、表面張力の影響を受けて、各々が、例えば帯状の流れとなって太陽電池パネル10の表面に落下する。
【0057】
図7(b)に示すように、射流の拡散直径D1が12mmとなる場合、複数の噴出口35から噴出した水が内壁31aに衝突したときに発生する射流のうち、隣り合う射流は外接しない。この場合も、噴出口35から噴出した水は、複数の扇状の流れ52となる。このとき、散水箱30の長手方向において、内壁31aの全面を濡らすことはない。各噴出口35から噴出した水が壁面31aを伝ってエッジ37に到達すると、表面張力の影響を受けて、その幅を縮小した帯状の流れで太陽電池パネル10の表面に落下する。符号47は、開口35を介して落下した水が太陽電池パネル10の表面に落下する箇所である。
【0058】
複数の帯状の流れで太陽電池パネル10の表面に落下した水は、太陽電池パネル10の表面に射流を生成する。そして、太陽電池パネル10の表面に生成される射流は、扇状の水の流れ53で太陽電池パネル10の表面に沿って流下する。このとき、隣り合う扇状の水の流れ53が外接又は重畳されることから、散水される水は、太陽電池パネル10の表面の全体を液膜流の状態で流下する。この場合、壁面31aを伝わりエッジ38から落下する水の流れは流れBだけでなく、流れA及び流れCがある。これら水の流れは、流れBにより太陽電池パネル10の表面の全体を流下する液膜流に合流される。なお、射流の拡散直径D1が12mmとなる場合、1個の噴出口35における散水流量Qは、上述した式(1)より、1.0×10
−6L/minとなる。また、散水流量は、上述した式(2)より、10L/minとなる。例えば散水箱30の幅Wが3200mmである場合、散水箱30における1m当たりの散水流量は約3.1L/minとなる。
【0059】
図7(c)に示すように、射流の拡散直径D1が12mm未満となる場合、複数の噴出口35から噴出した水が内壁31aに衝突したときに発生する射流のうち、隣り合う射流は外接しない。この場合も、噴出口35から噴出した水は、筋状又は帯状の流れ54で、散水箱30の内壁31aを伝って流下する。この場合、噴出口35から噴出した水の水量が少ないほど、筋状の流れとなる。したがって、噴出口35から噴出した水は、散水箱30の長手方向において、内壁31aの全面を濡らすことはない。各噴出口35から噴出した水が壁面31aを伝ってエッジ37に到達すると、表面張力の影響を受けて、その幅を縮小した筋状の流れで太陽電池パネル10の表面に落下する。符号48は、開口35を介して落下した水が太陽電池パネル10の表面に落下する箇所である。
【0060】
複数の筋状の流れで太陽電池パネル10の表面に落下した水は、太陽電池パネル10の表面に射流を生成する。そして、太陽電池パネル10の表面に生成される射流は、扇状の水の流れ53で太陽電池パネル10の表面に沿って流下する。このとき、隣り合う扇状の水の流れは外接されずに流下する。したがって、射流の拡散直径D1が12mm未満となる場合には、太陽電池パネル10の表面の一部の領域を流下する。つまり、散水された水が、偏流の状態で太陽電池パネル10の表面を流下する。この場合、壁面31aを伝わりエッジ38から落下する水の流れは流れBだけでなく、流れA及び流れCがある。これら水の流れは、流れBにより太陽電池パネル10の表面を流下する偏流に合流する。したがって、太陽電池パネルの表面全体を濡らすことはない。なお、射流の拡散直径D1が12mm未満となる場合の散水流量は、10L/min未満である。
【0061】
したがって、噴出口35から噴出した水により散水箱30の壁面31aに生成される射流の拡散直径D1が複数の噴出口35の間隔Pの6割以上、特に好ましくは、射流の拡散直径D1が噴出口35の間隔と同一値以上であれば、散水された水は、散水箱30の壁面31aで一回拡散され、さらに開口から太陽電池パネルの表面に落下した後で再度拡散される。その結果、太陽電池パネル10の表面を液膜流として流れ、太陽電池パネル10の表面全体を濡らすことができる。したがって、上記条件を満足することができるときに、太陽電池パネル10を効率良く冷却することができる。さらに、射流の拡散直径D1が散水用配管29に設けられる複数の噴出口35のうち、隣り合う噴出口35の間隔Pの60〜70%、言い換えれば散水流量が8〜12L/min(噴出口1個当たりの流量Q=8〜12×10
−6L/min)の場合には、上述した流れCがおおよそ20%となるので、開口36を越流する水やエッジ38近傍の水の表面張力を変化させ、太陽電池パネル10の表面に向けて流れる水を拡散させる効果も期待できる。
【0062】
本実施形態では、散水用配管29が有する複数の噴出口35から噴出する水を衝突させる壁面31aと、衝突した水をコアンダ効果により太陽電池パネル10の表面に向けて落下させる開口35とを備え、散水用配管29を収納する散水箱30を散水部25に設けた場合を一例として取り上げているが、散水箱30を用いる代わりに、散水板を設けてもよい。
【0063】
以下、散水時に用いる配管及び散水用配管は、本実施形態と同一であることから、本実施形態と同一の符号を付して説明する。
図8及び
図9に示すように、例えば散水部25’は、複数の配管26,27,28及び散水用配管29、管継手40,41,42,43の他に、拡散板61を有する。射流発生板61は、散水用配管29が有する複数の噴出口35から噴出する水を衝突させる壁面61aを有する。拡散板61は、拡散板61の下端縁と太陽電池パネル10の表面との間に隙間65ができるように設置する。拡散板61は、散水用配管29の軸方向を長手方向とする矩形の板部材である。拡散板61は、主に金属材料の板部材から構成するが、プラスチック材料で構成してもよい。拡散板61は、長手方向の両端部に設けられるブラケット68,69を介して管継手41,42に固定される。なお、拡散板61は、長手方向の両端部に設けられるブラケット68,69を介して管継手41,42に固定する他に、長手方向の両端部に設けられるブラケット68,69を介して散水用配管29に固定してもよい。この際、拡散板61は、下端縁と太陽電池パネル10の表面との間に隙間65ができるように設置される。ここで、拡散板61は、ブラケット68の代わりにUボルト等を用いて散水用配管29に設置することも可能である。なお、太陽電池パネル10の表面に対する拡散板61の壁面61aの角度や噴出口の角度については、拡散板61の壁面61aを流下し、散水板61の壁面61aの下端縁(エッジ)61bに到達した水がコアンダ効果により太陽電池パネル10の表面に向けて落下できる角度に設定される。
【0064】
この実施形態では、本実施形態と同様の作用効果を有する他、以下の作用効果を有する。この実施形態では、散水用配管29が外部に露呈される。したがって、散水用配管29や拡散板61等のメンテナンス作業を容易に行うことが可能となる。また、拡散板61を用いることで、散水用配管29の外周面に設けられた噴出口35に対する拡散板61の角度の調整を容易に行うことができる。
【0065】
なお、拡散板61は、散水用配管29の軸方向を長手方向とする矩形の板部材としているが、
図10に示すように、拡散板70の下端部に、拡散板70の長手方向に沿って切り欠いた射流落下部71を散水部25”に設けてもよい。このとき射流落下部71の幅W1は、散水用配管29の外周面に設けられた複数の噴出口35から噴出された水によって壁面で形成される射流が拡散板70の壁面に沿って流下し、太陽電池パネル10の表面に落下できる幅に設定される。この場合、拡散板70の壁面に衝突した水は射流を形成した後拡散板70の壁面に沿って流下し、射流落下部71から太陽電池パネル10に流下する。この場合も、本実施形態と同一の作用効果を有する。
【0066】
なお、拡散板61,70を設けた場合、散水用配管29による散水流量は、本実施形態と同一に設定することができる。
【0067】
本実施形態では、散水用配管29が有する複数の噴出口35の直径を各々同一径としているが、異なる直径としてもよい。また、散水用配管29に設ける複数の噴出口35のうち、隣り合う噴出口35の間隔Pを同一間隔としているが、異なる間隔としてもよい。