特許第6858574号(P6858574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6858574-付着強化型排水桝 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858574
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】付着強化型排水桝
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/08 20060101AFI20210405BHJP
   E03F 5/10 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   E01D19/08
   E03F5/10 A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-10696(P2017-10696)
(22)【出願日】2017年1月24日
(65)【公開番号】特開2018-119299(P2018-119299A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 勇治
(72)【発明者】
【氏名】神頭 峰磯
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3073187(JP,U)
【文献】 特開平08−217517(JP,A)
【文献】 特開2002−220907(JP,A)
【文献】 特開2003−301414(JP,A)
【文献】 特開2009−185492(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第2093328(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00−24/00
E03F 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の床版に設けられる排水桝において、
前記排水桝の外周面に、前記床版との付着力を向上させるポリマーセメントモルタル塗布して設けられ、
該ポリマーセメントモルタルが形成する層の厚みを5〜10mm程度とすること、
を特徴とする排水桝。
【請求項2】
請求項1に記載の排水桝において、
前記排水桝の外周面は多数の凹凸が設けられ、その上に前記モルタルが塗布してあること、
を特徴とする排水桝。
【請求項3】
請求項1に記載の排水桝において、
前記排水桝の外周面に珪砂を吹きつけた後、
前記珪砂の上に前記モルタルを吹き付けること、
を特徴とする排水桝。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の床版や桁の劣化を防ぐ技術であり、床版に用いる排水桝と床版との付着力を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、道路の舗装面に塩化ナトリウムや塩化カルシウムを用いた凍結防止剤を散布する量が増える傾向にある。これは、スパイクタイヤの使用が禁止され、舗装面の凍結防止を確実に行う必要性がでてきて、それに伴って凍結防止剤が多く散布されるようになったためである。しかし、凍結防止剤を使用した場合には、舗装面の排水において塩分を含む水の排水を考慮する必要がでてくる。塩分は、金属を腐食させ、コンクリートを劣化させてしまう。そのため、橋梁の床版には橋梁上に降った雨水を排水するための排水桝が所定の間隔で複数埋設されている。塩分を含む水もこの排水桝から排水される事になるが、排水桝と床版の境界部に隙間が生じて水が浸入する様なことがあると、床版の劣化を促進する事になる。また、床版のみならず、床版を支える鋼桁やコンクリート桁なども内部に浸入した水によって劣化し、橋梁全体の耐久性の低下に繋がるおそれがある。
【0003】
特許文献1には、雨水落下防止橋梁排水桝に関する技術が開示されている。雨水落下防止橋梁排水桝はゴムで一体成形され、桝本体は桝上部とその下に配置される排水筒の2つの部位よりなる。雨水落下防止橋梁排水桝は、橋梁の床版に貫通形成された排水桝取り付け孔に挿入された状態で、適宜固定手段で取り付けられるようになっている。そして、桝上部の外周面には全周にわたって雨水落下防止フランジが突設されている。この雨水落下防止フランジ部は防水層の上に設置され、防水層と舗装部とによって挟まれた状態で配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−301414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の手法であっても、床版コンクリートと排水桝の境界部に微細な隙間が生じることがあり、ここから塩分を含む水が床版に浸入し、床版や橋桁など橋梁全体の劣化を進行させるおそれがある。また、特許文献1のように排水桝にフランジが付いている場合には排水桝の施工性に問題が出ると考えられる。これはフランジ部が舗装面と防水層との間に挟まれた状態で配置される必要がある為、舗装前に排水桝を設置する必要があるからである。
【0006】
そこで、排水桝の外周面とコンクリートとの境界部の付着力を高めることで、排水桝と床版との間の隙間を無くすことが好ましいが、通常、排水桝外周面へのコンクリートの付着力は必要と思われるほどの性能を発揮できないと考えられ、床版と排水桝との間に微細な隙間を生じるのは避けられない。排水桝の表面には無機ジンクリッチペイントなどが塗装されて付着力の強化に寄与しているが、こうした塗装を済ませた排水桝でもコンクリートとの付着力は高くない。
【0007】
一方で、排水桝はFRP樹脂製のものを使う場合、無機ジンクリッチペイントの塗装が行えないために、そのままコンクリートを打ち込むか、こうしたジンク塗装ではなく表面に珪砂を吹き付けて付着力を強化するケースもある。しかし、こうした珪砂の吹き付けを行った排水桝に関しても、期待通りの付着力が得られていないのが現状である。よって、排水桝の外周面とコンクリートとの付着力の改善が望まれている。
【0008】
そこで、本発明は床版と排水桝との付着力を改善し、床版と排水桝との間の隙間を塞ぐことのできる排水桝を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による排水桝は、以下のような特徴を有する。
【0010】
(1)橋梁の床版に設けられる排水桝において、前記排水桝の外周面に、ポリマーセメントモルタルを塗布してあること、を特徴とする。
【0011】
上記(1)に記載の態様により、排水桝の外周面と床版に用いられるコンクリートとの付着力が高められ、施工時に排水桝と床版の間に隙間ができることを防ぐことが可能となる。ポリマーセメントモルタルを排水桝の外周面に予め塗布した状態で、排水桝を床版の施工時に配置することで、排水桝と床版との付着力を向上させることが可能となる。この結果、排水桝と床版との間に隙間が生じるのを防ぎ、特に冬季に用いられる凍結防止剤を含む排水が入り込むことを防止し、床版に用いられるコンクリートや鉄筋、桁などの劣化を防ぐことが可能となる。
【0012】
(2)(1)に記載の排水桝において、前記排水桝の外周面は多数の凹凸が設けられ、その上に前記モルタルが塗布してあること、が好ましい。
【0013】
(3)(1)に記載の排水桝において、前記排水桝の外周面に珪砂を吹きつけた後、前記珪砂の上に前記モルタルを吹き付けること、が好ましい。
【0014】
上記(2)又は(3)に記載の態様により、排水桝とモルタルとの付着力を高める事が可能となるので、より確実に排水桝と床版との間に隙間ができることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)第1実施形態の、排水桝が設置された部分の上面図である。(B)第1実施形態の、排水桝が設置された部分の正面からの断面図である。
図2】第1実施形態の、橋梁に設置された排水桝の側面からの断面図である。
図3】第1実施形態の、排水桝の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の第1の実施形態について図面を用いて説明を行う。図1(A)に、第1実施形態の排水桝10が設置された部分の上面図を示す。図1(B)に橋梁100において排水桝10が設置された部分の正面からの断面図を示す。図2に、橋梁100において排水桝10が設置された部分の側面からの断面図を示す。排水桝10は四角枠部11とテーパ部12と筒状部13の3つの部分よりなる。なお排水桝10は、通常はFC250等を材質にした鋳物が主流で、こうした排水桝は無機ジンクリッチペイントを用いて防錆処理をしている。この他に鋼材に亜鉛メッキをした排水桝や、FRP製の排水桝を用いる場合もある。本実施形態では排水桝10は鋼材を用いているものとして説明を行う。四角枠部11は、グレーチングなどが収まるように設計された矩形の枠であり、四角枠部11の下部から筒状部13に接続する部分がテーパ部12である。
【0017】
橋梁100は、床版50と壁高欄30を有し、排水桝10は壁高欄30の下部に備えられる地覆部31付近、つまり橋梁100の両脇に所定の間隔で設けられる。なお、排水桝10を設置する間隔は、橋梁区間に対する降雨量と排水処理能力を参考に決定される。一般的には横断勾配の低くなる橋の幅方向の両端部に設置される事が多い。床版50は、表層41と基層42で構成される舗装部40で覆われている。この表層41の表面を流れる雨水を排水桝10に集め、筒状部13を通して図示しない配水管に流す。なお、床版50と舗装部40との間には床版防水層43が設けられている。床版防水層43はシート系や塗膜系のものが用いられるが何れにしても床版50に対してプライマーなどを用いて接着され、高い付着力を有している状態になっている。排水桝10と基層42の間には導水帯44が設けられている。また、排水桝10には排水性を高める目的で導水パイプ21が設けられている。
【0018】
図3に、排水桝10の斜視図を示す。排水桝10の外周面は、ポリマーセメントモルタル15にて被覆されている。ポリマーセメントモルタル15は、速硬性ポリマーセメントモルタルを用いるのが好ましく、例えば太平洋マテリアル社製の「ゴムラテックスモルタル」を用いる事が好ましい。ポリマーセメントモルタル15の厚みは概ね5mmから10mm程度とし、均一な膜で層が形成されるのが好ましい。なお、排水桝10の外周面を被覆するのはポリマーセメントモルタル15に限定されることなく、排水桝10を構成する金属とセメントとの付着力を高める機能を有するものであれば、代替可能である。
【0019】
この際に、排水桝10の外周面を、サンドブラストなどを用いてある程度目粗しを行い、凹凸を設けた状態にしておくことが望ましい。なお、表面を目粗しする手法は、例えば薬品を用いた酸処理などの方法を使う事を妨げない。また、排水桝10の表面に、直接、ポリマーセメントモルタル15を吹き付ける場合と、排水桝10に塗装をした上で、その上からポリマーセメントモルタル15を吹き付ける場合が考えられる。また、図3では排水桝10の外周面全てにポリマーセメントモルタル15が塗布されている様子を示しているが,コンクリート接触面部材の外周面部分がポリマーセメントモルタル15に覆われていれば良い。
【0020】
第1実施形態の排水桝10は、上記構成となっているので、以下に説明する作用及び効果を奏する。具体的には、橋梁100の床版50の端部に設けられる排水桝10において、排水桝10の外周面に、ポリマーセメントモルタル15を塗布してあるので、床版50との付着力が向上する。この結果、床版50と排水桝10との境界部に隙間ができることを防ぐことが可能となる。
【0021】
これは、ポリマーセメントモルタル15が予め排水桝10の外周面に塗布されていることで、床版50が施工される際に排水桝10と床版50との付着力が向上するためである。通常、橋梁100の使用時には振動などが発生する事で、排水桝10と床版50との境界部に隙間が生じやすい環境になっている。しかしながら、ポリマーセメントモルタル15を介在させることで、床版50が排水桝10に付着し隙間が生じにくくなる。この付着力は橋梁100の使用時にも継続して効果を発揮することが確認されている。
【0022】
出願人が実験により確認した結果によれば、ポリマーセメントモルタル15を施工しない場合、排水桝10と床版50の付着強度は約0.3N/mmと低い。しかし、ポリマーセメントモルタル15を施工した場合には約3.3N/mm以上と大幅に向上していることが確認できた。また、排水桝10を鋳物性とした場合、ポリマーセメントモルタル15を施工しないと排水桝10と床版50の付着強度は約0.2N/mmであったが、ポリマーセメントモルタル15を施工すると、排水桝10と床版50の付着強度は約2.7N/mmとなった。このことにより排水桝10と床版50の境界部に隙間が生じ難くなるので、橋梁100の排水は排水桝10の内側に誘導され、排水桝10と床版50との間に排水が入り込むことを防ぐことができるため、床版50のコンクリートや排水桝10付近の図示しない桁の劣化を防止することに繋がる。
【0023】
そして、排水桝10の外周面にポリマーセメントモルタル15を塗布した状態で排水桝10が作業現場に供給されることで、作業現場にて排水桝10の付着力を向上させるような施工を行う手間がかからず、品質を維持出来る点でも好ましい。これによって橋梁100の作業性を向上させた上で、施工時間の短縮にも繋がる点もメリットとして挙げられる。
【0024】
次に、本発明の第2の実施形態について説明を行う。第2実施形態は第1実施形態とほぼ同じ構成であるが、排水桝10の材質が異なる。第2実施形態の排水桝の材質にはFRPが用いられており、課題でも指摘した通り、その表面は鋳物や鋼材を用いる場合よりもコンクリートとの付着力が低い場合がある。このため、排水桝10の周囲に珪砂を吹き付けた後に、更にポリマーセメントモルタル15を吹き付ける手法により付着力の改善が期待できる。出願人が行った実験により、珪砂の吹き付け及びポリマーセメントモルタル15を施工しない場合、排水桝10と床版50の付着強度は約0.1N/mmであったが、珪砂の吹きつけを施工した場合の付着強度は約0.4N/mmであり、珪砂を吹き付け施工した後にポリマーセメントモルタル15を施工する場合には、排水桝10と床版50の付着強度が1.8N/mmとなることを確認している。よって、排水桝10に珪砂を吹き付けてポリマーセメントモルタル15を施工することが望ましい。
【0025】
また、排水桝10の周囲に珪砂を吹き付けず、ブラスト処理を行うことで外表面に凹凸を設けるか、薬剤処理によって表面を目粗しする事があるが、この場合でもポリマーセメントモルタル15を施工することで付着力の改善が期待できる。
【0026】
以上、本発明に係る排水桝10の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、排水桝10の形状は、図1乃至図3に説明しているが、これ以外の形状の排水桝への本発明の適用を妨げるものではない。また、図2に示した橋梁100の断面図に示すような橋梁100の構造も、あくまで例示であるので、これ以外の構造の橋梁100に本発明の排水桝10を用いる事を妨げない。
【符号の説明】
【0027】
10 排水桝
11 四角枠部
12 テーパ部
13 筒状部
21 導水パイプ
30 壁高欄
40 舗装部
41 表層
42 基層
43 床版防水層
44 導水帯
50 床版
図1
図2
図3