特許第6858595号(P6858595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858595
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20210405BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   A01B69/00 302
   A01B69/00 303M
   A01C11/02 331B
   A01C11/02 331D
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-40249(P2017-40249)
(22)【出願日】2017年3月3日
(65)【公開番号】特開2018-143148(P2018-143148A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】宮本 惇平
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 竣也
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】石見 憲一
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−160504(JP,A)
【文献】 特開2010−233461(JP,A)
【文献】 特開2003−040133(JP,A)
【文献】 特開2012−044953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00−69/08
A01C 11/02
B62D 6/00− 6/10
B62D 9/00−15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置を操向可能なステアリング機構と、
手動操作に基づいて前記ステアリング機構を操作可能なステアリングハンドルと、
前記ステアリングハンドルの切れ角を検出可能で、自己の異常を検出しない切れ角センサと、
前記切れ角に対応する制御信号に基づいて前記ステアリング機構を操作可能で、前記制御信号に基づく出力結果としてのモータ回転角との相関関係が維持されているか否かを検出可能とするレゾルバを有し、自己の異常を検出可能な操向モータと、
異常の発生を判定する異常判定部と、が備えられ、
前記異常判定部は、前記操向モータの異常の自己検出が行われていない場合において、前記切れ角と前記モータ回転角との相関関係が、正常な範囲を逸脱すると、前記切れ角センサにおける異常の発生を判定するように構成されている作業車。
【請求項2】
走行装置の車軸回転数を検出可能で、自己の異常を検出しない車軸センサと、
衛星測位システムを用いて走行機体に関する位置情報を取得可能で、前記位置情報の取得の可否を自己検出可能な自己検出部を有し、自己の異常を検出可能な受信装置と、
異常の発生を判定する異常判定部と、が備えられ、
前記異常判定部は、前記受信装置の異常の自己検出が行われていない場合において、前記車軸回転数の経時変化と前記位置情報の経時変化との対応関係が、正常な範囲を逸脱すると、前記車軸センサにおける異常の発生を判定するように構成されている作業車。
【請求項3】
前記車軸回転数の経時変化と前記位置情報の経時変化との対応関係についての前記正常な範囲は、前記走行装置が地面に対してスリップする割合を示すスリップ率に基づいて設定されている請求項に記載の作業車。
【請求項4】
前記受信装置は、前記位置情報に紐付けられた時間情報を取得可能に構成され、
前記異常に、前記異常の発生が判定された際の前記時間情報を紐付ける紐付部が備えられている請求項またはに記載の作業車。
【請求項5】
前記紐付部において紐付けられた前記異常及び前記時間情報を記憶可能な記憶部が備えられている請求項に記載の作業車。
【請求項6】
前記紐付部において紐付けられた前記異常及び前記時間情報を外部コンピュータに送信可能な通信部が備えられている請求項またはに記載の作業車。
【請求項7】
判定された前記異常の発生をオペレータに報知可能な報知制御部が備えられている請求項1〜のいずれか一項に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の作業車が、例えば、下記特許文献1に記載されている。この作業車には、自己の異常を検出しない第1デバイス(同文献では「切れ角検出装置」)と、自己の異常を検出可能な第2デバイス(同文献では「レゾルバ付きの電動モータ」)と、が備えられている。
【0003】
この作業車では、第2デバイスに異常が発生した場合には、第2デバイスの異常が自己検出されるため、第2デバイスの異常は早期に発見できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−144732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の技術では、第1デバイスに異常が発生すると、第1デバイスの異常は自己検出されないため、第1デバイスに発生した異常の発見が遅れがちとなっていた。
【0006】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、自己の異常を検出しない第1デバイスの異常を自己の異常を検出可能な第2デバイスを活用して迅速に検出できる作業車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の作業車は、
自己の異常を検出しない第1デバイスと、
自己の異常を検出可能で、前記第1デバイスが出力する第1出力値と対応関係を有する第2出力値を出力する第2デバイスと、
前記第1出力値と前記第2出力値との対応関係が、正常な範囲を逸脱すると、前記第1デバイスにおける異常の発生を判定する異常判定部と、が備えられているものである。
【0008】
本発明によると、第1デバイスと第2デバイスに異常が発生していない場合には、第1デバイスの第1出力値と第2デバイスの第2出力値とが所定の対応関係を有している。第2デバイスの第2出力値の異常は、第2デバイスによる自己検出が可能となっている。つまり、第1出力値と第2出力値との対応関係が崩れて正常な範囲から逸脱し、例えば、第2デバイスの異常の自己検出が行われていない場合には、第2出力値の方の異常ではなく、第1出力値の方の異常であると判定でき、第1デバイスに異常が発生していることがわかる。
したがって、本発明であれば、自己の異常を検出しない第1デバイスの異常を自己の異常を検出可能な第2デバイスを活用して迅速に検出できるものとなる。
【0009】
本発明において、
走行装置を操向可能なステアリング機構と、
手動操作に基づいて前記ステアリング機構を操作可能なステアリングハンドルと、
前記ステアリングハンドルの切れ角を検出可能で、自己の異常を検出しない切れ角センサと、
前記切れ角に対応する制御信号に基づいて前記ステアリング機構を操作可能で、前記制御信号に基づく出力結果としてのモータ回転角との相関関係が維持されているか否かを検出可能とするレゾルバを有し、自己の異常を検出可能な操向モータと、
異常の発生を判定する異常判定部と、が備えられ、
前記異常判定部は、前記操向モータの異常の自己検出が行われていない場合において、前記切れ角と前記モータ回転角との相関関係が、正常な範囲を逸脱すると、前記切れ角センサにおける異常の発生を判定するように構成されていると好適である。
【0010】
本構成によれば、切れ角センサと操向モータに異常が発生していない場合には、切れ角センサにより検出される切れ角と操向モータのモータ回転角とが所定の対応関係を有している。操向モータに異常が発生しているか否かは、操向モータのレゾルバによるモータ回転角と、操向モータに対する制御信号の制御値とが所定の相関関係を逸脱しているか否かで判定できる。つまり、切れ角とモータ回転角との対応関係が崩れて正常な範囲から逸脱し、例えば、操向モータの異常の自己検出が行われていない場合には、モータ回転角の方の異常ではなく、切れ角の方の異常であると判定でき、切れ角センサに異常が発生していることがわかる。これにより、自己の異常を検出しない切れ角センサの異常を、出力値に対応関係のある操向モータを活用して迅速に検出可能となる。
【0011】
本発明において、
走行装置の車軸回転数を検出可能で、自己の異常を検出しない車軸センサと、
衛星測位システムを用いて走行機体に関する位置情報を取得可能で、前記位置情報の取得の可否を自己検出可能な自己検出部を有し、自己の異常を検出可能な受信装置と、
異常の発生を判定する異常判定部と、が備えられ、
前記異常判定部は、前記受信装置の異常の自己検出が行われていない場合において、前記車軸回転数の経時変化と前記位置情報の経時変化との対応関係が、正常な範囲を逸脱すると、前記車軸センサにおける異常の発生を判定するように構成されていると好適である。
【0012】
本構成によれば、車軸センサと受信装置に異常が発生していない場合には、車軸センサにより検出される車軸回転数の経時変化と、受信装置により取得される位置情報の経時変化とが所定の対応関係を有している。受信装置に異常が発生しているか否かは、受信装置による異常の自己検出機能により、受信装置の異常を検出できる。つまり、車軸回転数の経時変化と位置情報の経時変化との対応関係が崩れて正常な範囲を逸脱し、例えば、受信装置の異常の自己検出が行われていない場合には、位置情報の経時変化の方の異常ではなく、車軸回転数の経時変化の方の異常であると判定でき、車軸センサに異常が発生していることがわかる。これにより、自己の異常を検出しない車軸センサの異常を、出力値に対応関係のある受信装置を活用して迅速に検出可能となる。
【0013】
本発明において、
前記車軸回転数の経時変化と前記位置情報の経時変化との対応関係についての前記正常な範囲は、前記走行装置が地面に対してスリップする割合を示すスリップ率に基づいて設定されていると好適である。
【0014】
本構成によれば、例えば、圃場がぬかるんでいる場合等には、走行装置のスリップが発生し易いが、車軸回転数の経時変化と位置情報の経時変化との対応関係が収まる正常な範囲を、このスリップの生じ易さに応じたスリップ率を考慮して設定していることにより、走行装置のスリップに起因して、車軸センサに異常が発生しているとの誤判定が生じ難くなる。
【0015】
本発明において、
前記受信装置は、前記位置情報に紐付けられた時間情報を取得可能に構成され、
前記異常に、前記異常の発生が判定された際の前記時間情報を紐付ける紐付部が備えられていると好適である。
【0016】
本構成によれば、受信装置による時間情報の取得機能を活用して、第1デバイスの異常にその異常の発生時刻を紐付けることで、異常が発生した場所の特定等、異常の発生原因の分析を事後的に行い易くなる。
【0017】
本発明において、
前記紐付部において紐付けられた前記異常及び前記時間情報を記憶可能な記憶部が備えられていると好適である。
【0018】
例えば、異常とその異常発生時の時間情報をリアルタイムに外部のコンピュータへ送信するだけの場合、通信異常が生じた場合に、その異常に関する情報が失われるおそれがある。しかし、本構成によれば、異常とその異常発生時の時間情報を記憶するので、その異常に関する情報の喪失を回避できる。
【0019】
本発明において、
前記紐付部において紐付けられた前記異常及び前記時間情報を外部コンピュータに送信可能な通信部が備えられていると好適である。
【0020】
本構成によれば、異常とその異常発生時の時間情報をリアルタイムに外部のコンピュータへ送信することで、外部コンピュータが設置される例えば遠隔地の管理センタ等において異常の発生を迅速に把握可能となる。
【0021】
本発明において、
判定された前記異常の発生をオペレータに報知可能な報知制御部が備えられていると好適である。
【0022】
本構成によれば、第1デバイスに異常が発生していることがオペレータに報知されるので、オペレータは第1デバイスの異常に対して迅速に対処できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】田植機を示す側面図である。
図2】田植機を示す上面図である。
図3】ステアリング機構を示す模式図である。
図4】自動操向や異常判定に係る制御構成を示すブロック図である。
図5】切れ角センサの異常検出について説明するフローチャートである。
図6】車軸センサの異常検出について説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面に基づいて説明する。
図1図2に示すように、農作業車のうちの植播系水田作業車である乗用型の田植機(「作業車」の一例)には、走行装置Aを有する走行機体Cと、圃場に対する作業を行う作業装置と、が備えられている。田植機の作業装置は、圃場に対する苗の植え付けが可能な苗植付装置Wである。なお、図2に示す矢印Fが走行機体Cの「前」、矢印Bが走行機体Cの「後」、矢印Lが走行機体Cの「左」、矢印Rが走行機体Cの「右」である。
【0025】
図1に示すように、走行装置Aとしては、左右一対の前輪10と左右一対の後輪11とが備えられている。図3に示すように、走行機体Cには、走行装置Aにおける左右の前輪10を操向可能なステアリング機構Uが備えられている。
【0026】
図1図2に示すように、走行機体Cの前部には、開閉式のボンネット12が備えられている。ボンネット12内には、エンジン13が備えられている。ボンネット12の先端位置には、棒状のセンターマスコット14が備えられている。図1図3に示すように、走行機体Cには、前後方向に沿って延びる枠状に組まれた機体フレーム15が備えられている。機体フレーム15の前部には、支持支柱フレーム16が立設されている。
【0027】
図1に示すように、苗植付装置Wは、油圧シリンダで構成される昇降シリンダ20の伸縮作動により昇降作動するリンク機構21を介して、走行機体Cの後端に昇降自在に連結されている。
【0028】
図1図2に示すように、苗植付装置Wには、4個の伝動ケース22、各伝動ケース22の後部の左側部及び右側部に回転自在に支持された回転ケース23、各回転ケース23の両端部に備えられた一対のロータリ式の植付アーム24、圃場の田面を整地する複数の整地フロート25、植え付け用のマット状苗が載置される苗載せ台26等が備えられている。つまり、苗植付装置Wは、8条植え型式に構成されている。
【0029】
このように構成された苗植付装置Wは、苗載せ台26を左右に往復横送り駆動しながら、伝動ケース22から伝達される動力により各回転ケース23を回転駆動して、苗載せ台26の下部から各植付アーム24により交互に苗を取り出して圃場の田面に植え付けるようになっている。
【0030】
図1図2に示すように、走行機体Cにおけるボンネット12の左右側部には、苗植付装置Wに補給するための予備苗を載置可能な複数の予備苗台28が備えられている。また、走行機体Cにおけるボンネット12の左右側部には、各予備苗台28を支持する左右一対の予備苗フレーム30と、左右の予備苗フレーム30の上部に亘って連結される連結フレーム31と、が備えられている。
【0031】
図1に示すように、苗植付装置Wの左右側部には、それぞれ、圃場の田面に指標ラインを形成するためのマーカ装置33が備えられている。左右のマーカ装置33は、それぞれ、圃場の田面に接地して走行機体Cの走行に伴い圃場の田面に指標ラインを形成する作用姿勢、及び、圃場の田面から上方に離れた格納姿勢に操作自在に構成されている。
【0032】
図1図2に示すように、走行機体Cの中央部には、各種の運転操作が行われる運転部40が備えられている。運転部40には、運転者が着座可能な運転座席41、操縦塔42、前輪10の手動の操向操作用のステアリングホイールにより構成されるステアリングハンドル43、前後進の切り換え操作や走行速度の変更操作が可能な主変速レバー44、操作レバー45等が備えられている。運転座席41は、走行機体Cの中央部に備えられている。操縦塔42に、ステアリングハンドル43、主変速レバー44、操作レバー45等が操作自在に備えられている。
【0033】
図1図2に示す操作レバー45は、ステアリングハンドル43の下側の右横側に備えられている。詳細な図示はしないが、操作レバー45は中立位置から、上方の上昇位置、下方の下降位置、後方の右マーカ位置、及び、前方の左マーカ位置、の十字方向に操作自在に構成され、中立位置に付勢されている。
【0034】
操作レバー45を上昇位置に操作すると、植付クラッチ(図示なし)が遮断状態に操作されて、苗植付装置Wが上昇し、左右のマーカ装置33が格納姿勢に操作される。操作レバー45を下降位置に操作すると、苗植付装置Wが下降し、操作レバー45を下降位置に再度操作すると、植付クラッチ(図示なし)が伝動状態に操作される。
【0035】
操作レバー45を右マーカ位置に操作すると、右のマーカ装置33が格納姿勢から作用姿勢になる。操作レバー45を左マーカ位置に操作すると、左のマーカ装置33が格納姿勢から作用姿勢になる。
【0036】
図1図2に示す運転部40の操縦塔42には、押圧操作式の切換操作具50(図4参照)が備えられている。切換操作具50は、ステアリング機構Uの自動操向の入り切りの切り換え操作を行うことが可能となっている。切換操作具50は、例えば、押圧操作式のボタンスイッチで構成され、主変速レバー44の握り部に配置されている。また、運転部40には、ステアリング機構Uの自動操向制御に用いる基準となるティーチング方向を登録するために、押圧操作式の始点登録スイッチ52A及び押圧操作式の終点登録スイッチ52B(図4参照)が備えられている。
【0037】
〔ステアリング機構について〕
図3に示すように、ステアリング機構Uには、ステアリングハンドル43に連動連結されるステアリング操作軸54、ステアリング操作軸54の回動に伴って揺動するピットマンアーム55、ピットマンアーム55に連動連結される左右の連繋機構56、ギヤ機構57等が備えられている。ステアリングハンドル43は、ステアリング操作軸54に連動連結され、手動操作に基づいてステアリング機構Uを操作可能となっている。電動モータである操向モータ58は、ギヤ機構57を介して、ステアリング操作軸54に連動連結され、制御信号に基づいてステアリング機構Uを操作可能となっている。
【0038】
図3に示すように、エンジン13の動力は、伝動ベルト36を介して静油圧式の無段変速装置37、及び、ミッションケース38に伝達され、ミッションケース38の内部の副変速装置から、前輪10のデフ機構(図示せず)及び前車軸ケース39の内部の伝動軸(図示せず)を介して、左右の前輪10に伝達される。
【0039】
図3に示すように、ステアリング操作軸54は、ピットマンアーム55、左右の連繋機構56を介して、左右の前輪10に、それぞれ、連動連結されている。ステアリング操作軸54の回転量は、ステアリング操作軸54の下端部に備えられるロータリエンコーダからなる切れ角センサ60(図4参照)により検出されるようになっている。言い換えると、切れ角センサ60は、ステアリングハンドル43の切れ角を検出可能となっている。
【0040】
図3図4に示すように、操向モータ58は、制御装置75からの制御信号に基づいてステアリング機構Uを操作可能となっている。また、操向モータ58は、制御信号に基づく出力結果としてのモータ回転角を検出するレゾルバ58Aを有している。
【0041】
図3に示すように、ステアリング機構Uの手動操向を行う場合には、運転者がステアリングハンドル43を操作する操作力に、操向モータ58によるステアリングハンドル43の操作に応じた補助力を付与してステアリング操作軸54を回動操作し、前輪10の切れ角を変更するようになっている。一方、ステアリング機構Uの自動操向を行う場合には、操向モータ58を駆動して、操向モータ58の駆動力によりステアリング操作軸54を回動操作し、前輪10の切れ角を変更するようになっている。
【0042】
〔受信装置を有するアンテナユニットと慣性計測装置について〕
図1図2図4に示すように、走行機体Cには、衛星測位システムを用いて走行機体Cに関する位置情報を取得可能な受信装置63及び主に走行機体Cの傾き(ピッチ角、ロール角)を検出可能な副慣性計測装置64を有するアンテナユニット61と、慣性情報を計測する主慣性計測装置62と、が備えられている。
【0043】
主慣性計測装置62、及び、副慣性計測装置64は、それぞれ、IMU(Inertial Measurement Unit)により構成されている。
【0044】
上述の衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satelite System)には、その代表的なものとしてGPS(Global Positioning System)が挙げられる。GPSは、地球の上空を周回する複数のGPS衛星から受信装置63で位置情報を受信し、受信装置63を搭載した走行機体Cの自機位置等を算出するために用いられる。
【0045】
図1図2に示すように、受信装置63を有するアンテナユニット61は、連結フレーム31に取り付けられている。受信装置63は、衛星測位システムを用いて走行機体Cに関する位置情報を取得可能で、位置情報の取得の可否等を自己検出可能な自己検出部を有している。また、受信装置63は、位置情報に紐付けて時間情報を取得可能に構成されている。
【0046】
本実施形態では、図4に示すように、受信装置63において複数のGPS衛星から直接受信したデータを、受信装置63において基準局を介して複数のGPS衛星から受信したデータで補正する、いわゆるデファレンシャルGPS測位方式が採用されている。
【0047】
図4に示す副慣性計測装置64は、走行機体Cの前後方向の傾き(ピッチ角)、走行機体Cの左右方向の傾き(ローリング角)を検出する。副慣性計測装置64で検出されたピッチ角及びローリング角に基づいて、受信装置63の位置情報を補正するようになっている。
【0048】
図4に示すように、主慣性計測装置62には、主に、走行機体Cのヨー角度(走行機体Cの旋回角度)の角速度を検出可能なジャイロスコープ70と、互いに直交する3軸方向の加速度を検出可能な加速度計71と、が備えられている。つまり、主慣性計測装置62により計測される慣性情報には、ジャイロスコープ70により検出される方位変化情報と、加速度計71により検出される位置変化情報と、が含まれている。上述のように、主慣性計測装置62を、走行機体Cの進行方向の旋回中心の近傍に配置していることから、ジャイロスコープ70に生じる方位変化情報の積算誤差を小さく抑えることが可能になるとともに、加速度計71による位置変化情報の検出精度が高いものとなる。
【0049】
〔制御構成について〕
図4に示すように、走行機体Cには、ステアリング機構Uの自動操向や報知等の制御を行う制御装置75が備えられている。制御装置75には、位置方位算出部76、ライン設定部77、自動操向制御部78、異常判定部79、紐付部80、記憶部81、通信部82、報知制御部83等が備えられている。
【0050】
位置方位算出部76は、アンテナユニット61及び主慣性計測装置62から取得する情報に基づいて、走行機体Cの自機位置及び自機方位を算出するように構成されている。
【0051】
ライン設定部77は、始点登録スイッチ52Aの操作時にアンテナユニット61で取得されている始点の位置情報、及び、終点登録スイッチ52Bの操作時にアンテナユニット61で取得されている終点の位置情報に基づいて、始点と終点を通るティーチング方向を設定するようになっている。
【0052】
また、ライン設定部77は、切換操作具50の操作に基づいて、走行機体Cを自動操向制御するためのティーチング方向と平行な直線状の目標ラインを設定するように構成されている。
【0053】
自動操向制御部78は、切換操作具50の操作に基づいて、自動操向オン状態と、自動操向オフ状態を切り換え可能になっている。自動操向オフ状態では、操向モータ58による自動操向は行わない。自動操向オン状態になると、操向モータ58に制御信号を出力して、走行機体Cが目標ラインに沿って走行するように操向モータ58を制御し、ステアリング機構Uの自動操向を行う。
【0054】
図4図6に示すように、作業車には、自己の異常を検出しない第1デバイスD1と、自己の異常を検出可能な第2デバイスD2と、が備えられている。第2デバイスD2は、第1デバイスD1が出力する第1出力値と対応関係を有する第2出力値を出力する。
【0055】
図4図5に示すように、作業車には、第1デバイスD1として切れ角センサ60と、切れ角センサ60に対応する第2デバイスD2としての操向モータ58と、が備えられている。操向モータ58のレゾルバ58A(回転角センサ)は、検出値としてモータ軸のモータ回転角を検出するようになっている。操向モータ58は、レゾルバ58Aで検出されるモータ回転角と制御装置75の自動操向制御部78からの操向モータ58への制御信号の制御値とを比較し、比較の結果、モータ回転角と制御信号の制御値とが所定の相関関係を逸脱していることにより、自己の異常を検出できるようになっている。
【0056】
また、図4図6に示すように、作業車には、後輪11の車軸回転数を検出可能な第1デバイスD1として車軸センサ69が備えられ、車軸センサ69に対応する第2デバイスD2として受信装置63が備えられている。受信装置63は、自己検出部の出力結果に基づいて、自己の異常を検出できるようになっている。
【0057】
図4に示す異常判定部79は、図5図6に示すように、第1デバイスD1の第1出力値と第2デバイスD2の第2出力値との対応関係が、正常な範囲を逸脱すると、第1デバイスD1における異常の発生を判定するように構成されている。
【0058】
図4に示す紐付部80は、異常に、その異常の発生が判定された際の時間情報を紐付けるように構成されている。受信装置63は、時間情報を取得可能であるので、その時間情報を異常に紐付けることができる。
【0059】
図4に示す記憶部81は、紐付部80において紐付けられた異常及び時間情報を記憶可能に構成されている。
【0060】
図4に示す通信部82は、紐付部80において紐付けられた異常及び時間情報を、遠隔通信によって管理センタ等に備えられる外部コンピュータ85に送信可能に構成されている。
【0061】
図4に示す報知制御部83は、第1デバイスD1における異常の発生をオペレータに報知可能となっている。報知制御部83は、運転部40に備えられる報知装置84によりオペレータに対する報知を行う。報知装置84としては、例えば、光で情報を報知可能なランプ84A、セグメントディスプレイによるエラーコード表示が可能な表示パネル84B、音で情報を報知可能なブザー84C等が備えられている。
【0062】
〔切れ角センサの異常検出について〕
図4に示す異常判定部79は、第1出力値としての切れ角と第2出力値としてのモータ回転角(レゾルバ58Aの検出値)との対応関係が、正常な範囲を逸脱すると、切れ角センサ60における異常の発生を判定するように構成されている。説明を加えると、切れ角センサ60と操向モータ58とに異常が発生していない場合には、切れ角は、モータ回転角に基づいて算出される算出角と略一致する対応関係を有している。
【0063】
具体的には、図5に示すように、切れ角(第1出力値)とモータ回転角(第2出力値)との対応関係が正常な範囲を逸脱していると(♯A1:はい)、操向モータ58(第2デバイスD2)の異常の自己検出が有るか否かを判定する(♯A2)。♯A2において、操向モータ58(第2デバイスD2)の異常の自己検出が無い場合には(♯A2;はい)、切れ角センサ60(第1デバイスD1)の異常と判定し(♯A3)、その異常に時間情報等の紐付けを行い、記憶、送信、及び、オペレータへの報知を行う(♯A4)。一方、♯A2において、操向モータ58(第2デバイスD2)の異常の自己検出が有る場合には(♯A2;いいえ)、操向モータ58(第2デバイスD2)の異常と判定し(♯A5)、その異常に時間情報等の紐付けを行い、記憶、送信、及び、オペレータへの報知を行う(♯A4)。
【0064】
〔車軸センサの異常検出について〕
また、図4に示す異常判定部79は、第1出力値としての車軸回転数の経時変化と第2出力値としての位置情報の経時変化との対応関係が、正常な範囲を逸脱すると、車軸センサ69における異常の発生を判定するように構成されている。説明を加えると、車軸回転数の経時変化は、車軸センサ69で検出される車軸回転数に基づいて算出される走行機体Cの算出車速であり、位置情報の経時変化は、受信装置63で取得される位置情報に基づいて算出される走行機体Cの移動車速である。
【0065】
車軸回転数の経時変化と位置情報の経時変化との対応関係についての正常な範囲は、走行装置Aが地面に対してスリップする割合を示すスリップ率に基づいて設定されている。このスリップ率は、湿田、乾田等の圃場条件に応じて適切な値を設定するとよい。
【0066】
具体的には、図6に示すように、車軸回転数の経時変化(第1出力値)と位置情報の経時変化(第2出力値)との対応関係が正常な範囲を逸脱していると(♯B1:はい)、受信装置63(第2デバイスD2)の異常の自己検出が有るか否かを判定する(♯B2)。♯B2において、受信装置63(第2デバイスD2)の異常の自己検出が無い場合には(♯B2;はい)、車軸センサ69(第1デバイスD1)の異常と判定し(♯B3)、その異常に時間情報等の紐付けを行い、記憶、送信、及び、オペレータへの報知を行う(♯B4)。一方、♯B2において、受信装置63(第2デバイスD2)の異常の自己検出が有る場合には(♯B2;いいえ)、受信装置63(第2デバイスD2)の異常と判定し(♯B5)、その異常に時間情報等の紐付けを行い、記憶、送信、及び、オペレータへの報知を行う(♯B4)。
【0067】
〔別実施形態〕
以下、本発明の別実施形態について説明する。下記の各別実施形態は、矛盾が生じない限り、複数組み合わせて上記実施形態に適用してもよい。なお、本発明の範囲は、これら実施形態の内容に限定されるものではない。
【0068】
(1)上記実施形態では、異常判定部79において、切れ角センサ60の異常判定と車軸センサ69の異常判定とを行うものを例示しているが、これに限られない。切れ角センサ60の異常判定と車軸センサ69の異常判定とのうちいずれか一方のみを行う異常判定部79であってもよい。
【0069】
(2)上記実施形態では、紐付部80が、異常に受信装置63で取得した時間情報を紐付けるようになっているものを例示しているが、これに限られない。例えば、制御装置75に、時間を計測する計時部を備え、紐付部80が、計時部で取得した時間情報を異常に紐付けるようになっていてもよい。
【0070】
(3)上記実施形態では、紐付部80において異常の発生が判定された際の時間情報の紐付けを行うものを例示しているが、これに限られない。例えば、紐付部80において、異常が発生した際に異常に受信装置63で受信している位置情報を紐付けるようにしてもよい。また、例えば、紐付部80において、異常が発生した際に異常に受信装置63で取得している位置情報と時間情報の両方を紐付けるようにしてもよい。
【0071】
(4)上記実施形態では、第1デバイスD1としての車軸センサ69及び第2デバイスD2としての受信装置63、並びに、第1デバイスD1としての切れ角センサ60及び第2デバイスD2としての操向モータ58が備えられているものを例示しているが、これに限られない。例えば、第1デバイスD1としての車軸センサ69及び第2デバイスD2としての受信装置63が備えられていないものや、第1デバイスD1としての切れ角センサ60及び第2デバイスD2としての操向モータ58が備えられていなくてもよい。また、第1デバイスD1と第1デバイスD1に対応する第2デバイスD2として他の機器が備えられていてもよい。
【0072】
(5)上記実施形態では、第1デバイスD1の異常を判定する条件に、第2デバイスD2の異常の自己検出が行われていないことが含まれているが、これに限られない。第2デバイスD2が異常を生じ難いデバイスである場合、第1デバイスD1の異常を判定する条件に、第2デバイスD2の異常の自己検出が行われていないことが含まれていなくてもよい。
【0073】
(6)上記実施形態では、車軸回転数の経時変化と位置情報の経時変化との対応関係についての正常な範囲は、走行装置Aが地面に対してスリップする割合を示すスリップ率に基づいて設定されているものを例示しているが、これに限られない。例えば、車軸回転数の経時変化と位置情報の経時変化との対応関係についての正常な範囲を、スリップ率を考慮せずに設定するようにしてもよい。
【0074】
(7)上記実施形態では、紐付部80が備えられているものを例示しているが、これに限られない。例えば、紐付部80が備えられていなくてもよい。
【0075】
(8)上記実施形態では、記憶部81が備えられているものを例示しているが、これに限られない。例えば、記憶部81が備えられていなくてもよい。
【0076】
(9)上記実施形態では、通信部82が備えられているものを例示しているが、これに限られない。例えば、通信部82が備えられていなくてもよい。
【0077】
(10)上記実施形態では、報知制御部83が備えられているものを例示しているが、これに限られない。例えば、報知制御部83が備えられていなくてもよい。
【0078】
(11)上記実施形態では、デファレンシャルGPS測位方式を例示しているが、これに限られない。例えば、RTK測位方式等の他の測位方式であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、作業装置として苗植付装置を備える上記乗用型の田植機以外にも、例えば、作業装置として播種装置を備える植播系水田作業車である乗用型の直播機、作業装置としてプラウ等を備えるトラクタ、若しくは、作業装置として刈取部等を備えるコンバイン等の農作業車、または、作業装置としてバケット等を備える建設作業車等の種々の作業車に利用できる。
【符号の説明】
【0080】
43 :ステアリングハンドル
58 :操向モータ
58A :レゾルバ
60 :切れ角センサ
63 :受信装置
69 :車軸センサ
79 :異常判定部
80 :紐付部
81 :記憶部
82 :通信部
83 :報知制御部
85 :外部コンピュータ
A :走行装置
C :走行機体
D1 :第1デバイス
D2 :第2デバイス
U :ステアリング機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6