(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態に係るキャリブレータ100の構成を示す図である。
図1に示すように、本実施の形態のキャリブレータ100は、第1インバータ回路110、第1マルチプレクサ回路120、第1分圧回路130、第2マルチプレクサ回路140、第2インバータ回路150、第2分圧回路160および第3分圧回路170を備える。また、信号発生装置200、演算制御装置300、入力装置400および表示装置500を備えている。
【0011】
信号発生装置200は、基準信号を発生させる装置である。信号発生装置200は、たとえば、DA(デジタル/アナログ)変換器(図示せず)またはPWM(Pulse Width Modulation)信号のパルス幅を制御して、あらかじめ定められた範囲で任意の基準信号を発生させることができる。本実施の形態においては、−2.5V〜2.5V(PWMデューティで比率0.0〜1.0)の基準信号を発生するものとする。ここで、信号発生装置200は、キャリブレータ100外の装置であってもよい。
【0012】
第1インバータ回路110は、信号発生装置200から送られた基準信号の極性を反転させる。ここで、信号発生装置200から直接に送られた基準信号をプラス側信号とする。また、第1インバータ回路110が極性反転した基準信号をマイナス側信号とする。第1マルチプレクサ回路120には、プラス側信号およびマイナス側信号が入力される。そして、演算制御装置300から送られる励磁方向切替信号に基づいて、入力されたプラス側信号またはマイナス側信号のいずれか一方を選択して出力する。
【0013】
図2は、キャリブレータ100内の分圧例を示す図である。キャリブレータ100内において、後述するように、演算制御装置300からレンジを切り替えるレンジ切替信号が送られると、基準信号を分圧した信号を選択して出力することができる。
図2における分圧比は、おおよその値である。第1分圧回路130は、複数の分圧用抵抗素子を有し、分圧により、複数のレンジ(電圧帯)に係る信号を出力することができる。実施の形態1のキャリブレータ100の第1分圧回路130では、第1レンジR1〜第7レンジR7の7つのレンジに対応した分圧を行うことができる。ここで、第1レンジR1における信号の電圧が最も高いレンジの電圧となる。第2レンジR2、第3レンジR3、第4レンジR4、第5レンジR5、第6レンジR6の順に電圧が低くなり、第7レンジR7における信号の電圧が最も低いレンジの電圧となる。
【0014】
第2マルチプレクサ回路140は、後述する演算制御装置300から、レンジを切り替えるレンジ切替信号が送られると、第1分圧回路130が出力した複数の信号のうち、いずれかを選択して出力する。また、第2インバータ回路150は、第2マルチプレクサ回路140が出力した信号の極性を反転させる。第2分圧回路160は、抵抗素子を有し、第2マルチプレクサ回路140が出力した信号を分圧し、基準流量信号となる信号を出力する分圧回路R(+)を有する。第2分圧回路160における入力端子をCP1とし、出力端子をAとする。そして、第3分圧回路170は、抵抗素子を有し、第2インバータ回路150が出力した信号を分圧し、基準流量信号となる信号を出力する分圧回路R(−)を有する。第3分圧回路170における入力端子をCP3とし、出力端子をBとする。
【0015】
従来のキャリブレータ600は、分圧用に用いられる抵抗素子について、絶対精度が高いものを用いていた。抵抗素子の絶対精度が高ければ、たとえば、最も高い電圧のレンジにおける信号を出力するようにし、その出力に係る電圧を計測する。そして、他のレンジについては、計測した電圧から、抵抗素子の定格値を演算して導き出した値に基づき、調整を行うことができる。
【0016】
演算制御装置300は、入力された数値などに基づいて、調整、検査並びに変換器の校正およびチェックを行うときの基準流量信号となる擬似電圧出力に係る演算を行う。入力装置400は、操作者が、指示、データなどを入力するための装置である。表示装置500は、演算制御装置300からの表示信号に基づく表示を行う。
【0017】
本実施の形態のキャリブレータ100においては、計測に係る信号および計測箇所を工夫し、高精度の電圧計で計測を行わなくても調整できるようにする。nVオーダの電圧を計測しなくてもすむことで、計測時の環境における温度管理を緩和することができる。また、キャリブレータ100に用いられる抵抗素子の絶対精度が必ずしも高くなくても、変換器の校正およびチェックを行うときの擬似電圧の精度は、絶対精度が高い高価な抵抗素子を使った場合と変わらない。
【0018】
図3は、本発明の実施の形態に係るキャリブレータ100の調整に係る手順を示す図である。
図3に基づいて、キャリブレータ100の調整方法の手順について説明する。ここで、調整および演算に係る電圧値などの調整事項(パラメータ)の計測は、作業者などが行う。また、計測されたパラメータによる、調整事項の演算は、演算制御装置300が行うものとする。また、計測電圧に基づく演算が行えるのであれば、処理の順序は、
図3に示す流れに限定するものではない。
【0019】
まず、第1分圧回路130において、第7レンジR7に係る信号を出力させるものとする。そして、第7レンジR7におけるゼロ点に係るCP1−CP3間の電圧が、0μVとなるように調整する(ステップS1)。この調整は、たとえば、第2インバータ回路150が有するトリマによって行う。第2分圧回路160および第3分圧回路170に入力する前のCP1−CP3間における電圧は、第7レンジR7における信号の場合でも、高精度の電圧計を用いずに計測を行うことができる。
【0020】
次に、第1分圧回路130において、第1レンジR1に係る信号を出力させるものとする。そして、演算制御装置300から送られる励磁方向切替信号に基づいて、信号を切り替えながら、(a)〜(d)に示す4つの事項について、電圧計により計測を行う(ステップS2)。ここで、第1レンジR1における信号の出力電圧は、A−B間においても、mVオーダでの計測であるため、高精度の電圧計を用いなくても計測を行うことができる。
(a)第1レンジR1におけるプラス側信号によるA−B間の計測電圧VPAB1
(b)第1レンジR1におけるマイナス側信号によるA−B間の計測電圧VMAB1
(c)第1レンジR1におけるプラス側信号によるCP1−CP3間の計測電圧VP1
(d)第1レンジR1におけるマイナス側信号によるCP1−CP3間の計測電圧VM1
【0021】
さらに、第1分圧回路130において、第2レンジR2〜第7レンジR7に関して、それぞれ(e)〜(j)に示す6つの事項について、計測を行う(ステップS3)。信号が第2分圧回路160および第3分圧回路170に入力する前のCP1−CP3間における電圧は、第7レンジR7における信号の場合でも、mVオーダでの計測である。このため、高精度の電圧計を用いなくても計測を行うことができる。
(e)第2レンジR2におけるプラス側信号によるCP1−CP3間の計測電圧VP2
(f)第3レンジR3におけるプラス側信号によるCP1−CP3間の計測電圧VP3
(g)第4レンジR4におけるプラス側信号によるCP1−CP3間の計測電圧VP4
(h)第5レンジR5におけるプラス側信号によるCP1−CP3間の計測電圧VP5
(i)第6レンジR6におけるプラス側信号によるCP1−CP3間の計測電圧VP6
(j)第7レンジR7におけるプラス側信号によるCP1−CP3間の計測電圧VP7
【0022】
ここで、信号発生装置200が発生させる信号は、PWMに基づくものである。たとえば、1回の計測における瞬時値により決定した計測電圧には、リップルによる誤差が含まれている可能性が大きい。そこで、ステップS2およびステップS3において、計測を行う際、各事項に対し、10秒以上で30回以上、電圧を計測する。そして、各事項における電圧の平均値を算出し、最終的にそれぞれの事項において得られる計測電圧とする。
【0023】
計測電圧は、たとえば、操作者により、入力装置400を介してデータとして入力される。演算制御装置300は、他の調整事項を、入力装置400を介して入力されたデータに基づいて演算する。演算制御装置300は、たとえば、ステップS2において計測した(a)および(c)の計測電圧VPAB1および計測電圧VP1に基づき、次式(1)のように、第2分圧回路160における倍率GPを算出する(ステップS4)。
【0025】
また、ステップS2において計測した(b)および(d)の計測電圧VMAB1および計測電圧VM1に基づいて、次式(2)に示すように、第3分圧回路170における倍率GMを算出する(ステップS5)。
【0027】
さらに、第1レンジR1〜第7レンジR7におけるゼロ点の電圧の値を、次式(3)〜(9)により算出する(ステップS6)。ここで、第1レンジR1におけるゼロ点VZ1は、計測電圧VP1と計測電圧VM1の中点となる。そして、第2レンジR2〜第7レンジR7におけるゼロ点VZ2〜ゼロ点VZ7の電圧は、第1レンジR1におけるゼロ点VZ1に、各分圧抵抗の分圧比を乗算することにより算出する。
VZ1=VP1+VM1 …(3)
VZ2=VZ1×VP2/VP1 …(4)
VZ3=VZ1×VP3/VP1 …(5)
VZ4=VZ1×VP4/VP1 …(6)
VZ5=VZ1×VP5/VP1 …(7)
VZ6=VZ1×VP6/VP1 …(8)
VZ7=VZ1×VP7/VP1 …(9)
【0028】
以上のように、本実施の形態のキャリブレータ100によれば、(a)〜(j)までの計測を行い、また、(1)式〜(9)式の演算を行うことにより、ゼロ点の微小な電圧を測定することなく、キャリブレータ100の調整を行うことができる。第1レンジR1に係る信号の電圧および第2分圧回路160および第3分圧回路170の入力側における電圧を計測するため、高精度でない電圧計でも計測することができる。そして、温度補償された環境設備などを用意しなくても、調整を行うことができる。キャリブレータ100の第1分圧回路130、第2分圧回路160および第3分圧回路170における抵抗素子の絶対精度が高くなくても、本調整を行うことで、変換器の校正およびチェックを行うときの擬似電圧の精度は、絶対精度が高い高価な抵抗素子を使った場合と変わらない。したがって、抵抗素子のコストを抑えることができる。また、キャリブレータ100自身の校正においても、高精度のデジタル電圧計、温度補償された環境設備などを用意しなくても調整を行うことができるので、調整に関わるコストを抑制することができる。
【0029】
次に、調整したキャリブレータ100に関する疑似電圧に係る正しく調整されているかの検査または変換器の校正およびチェックを行うときに擬似電圧出力する場合について説明する。A−B間に発生させたい電圧をVとすると、CP1−CP3間電圧は、V×(GP+GM)/2となる。このとき、レンジ番号と基準信号の元となるPWMのパルス幅デューティ(比率0.0〜1.0)との関係は、次のように設定される。
【0030】
VP1≧V×(GP+GM)/2>VP2であれば第1レンジR1となる。このとき、
PWM=0.5+0.5×{V×(GP+GM)/2−VZ1}
/(VP1−VZ1) …(10)
VP2≧V×(GP+GM)/2>VP3であれば第2レンジR2となる。このとき、
PWM=0.5+0.5×{V×(GP+GM)/2−VZ2}
/(VP2−VZ2) …(11)
VP3≧V×(GP+GM)/2>VP4であれば第3レンジR3となる。このとき、
PWM=0.5+0.5×{V×(GP+GM)/2−VZ3}
/(VP3−VZ3) …(12)
VP4≧V×(GP+GM)/2>VP5であれば第4レンジR4となる。このとき、
PWM=0.5+0.5×{V×(GP+GM)/2−VZ4}
/(VP4−VZ4) …(13)
VP5≧V×(GP+GM)/2>VP6であれば第5レンジR5となる。このとき、
PWM=0.5+0.5×{V×(GP+GM)/2−VZ5}
/(VP5−VZ5) …(14)
VP6≧V×(GP+GM)/2>VP7であれば第6レンジR6となる。このとき、
PWM=0.5+0.5×{V×(GP+GM)/2−VZ6}
/(VP6−VZ6) …(15)
VP7≧V×(GP+GM)/2であれば第7レンジR7となる。このとき、
PWM=0.5+0.5×{V×(GP+GM)/2−VZ7}
/(VP7−VZ7) …(16)
【0031】
前述したように、第2分圧回路160における倍率GP、第3分圧回路170における倍率GM、ゼロ点VZ1〜ゼロ点VZ7は、演算によって得られた値である。演算制御装置300は、発生させたい電圧Vの値を表示装置500に表示するとともに、(10)式〜(16)式による演算に基づいて、PWMのパルス幅デューティとレンジ番号に変換する。そして、パルス幅デューティを信号発生装置200が有する記憶装置(図示せず)に書き込む。また、レンジ番号を第2マルチプレクサ回路140が有する記憶装置(図示せず)に書き込むことで、正確な電圧Vを、A−B間に出力することができる。
【0032】
以上のように、本実施の形態におけるキャリブレータ100によれば、入力装置400で発生させたい電圧Vを指定すると、表示装置500にその電圧を表示するとともに、(10)式〜(16)式に基づいてPWMのパルス幅デューティとレンジ番号とを決定し、正確な電圧VをA−B間に出力することができるようにした。また、実際に変換器を校正およびチェックするときは、流量および流量レンジに対する%値、流速など、流量に関する値で入力することで、演算制御装置300が電圧Vに変換し、さらにPWMのパルス幅デューティとレンジ番号とに変換することができるので、正確な電圧VをA−B間に出力することができる。さらに、変換器からの励磁電流を測定して、極性の切り替え、励磁電流の変化などがあったときは、第1マルチプレクサ回路120で励磁方向を切り替え、励磁電流によって変化する信号の電圧Vを計算し直して、信号発生装置200と第2マルチプレクサ回路140に書き込むことで、実際の検出器における計測に近い基準流量信号を作り出すことができる。