特許第6858663号(P6858663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858663
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス向け恒温槽
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/06 20130101AFI20210405BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20210405BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20210405BHJP
   H01G 11/84 20130101ALI20210405BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20210405BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20210405BHJP
【FI】
   H01G11/06
   H01M10/04 Z
   H01M10/058
   H01G11/84
   H01G11/50
   H01G13/00 381
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-144612(P2017-144612)
(22)【出願日】2017年7月26日
(65)【公開番号】特開2019-29403(P2019-29403A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】五島 寛文
(72)【発明者】
【氏名】田口 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】梅津 和照
【審査官】 田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−017286(JP,A)
【文献】 特開2000−188135(JP,A)
【文献】 特開2001−345095(JP,A)
【文献】 国際公開第00/016354(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0178594(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/06
H01G 11/50
H01G 11/84
H01G 13/00
H01M 10/04
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の非水系蓄電デバイスに通電して充放電を行うための充放電治具と、
恒温槽の外部の気体を該恒温槽の内部に取り込むことが可能な少なくとも1つの給気口と、
該恒温槽の内部から該恒温槽の外部へ気体を送り出すことが可能な少なくとも1つの排気口と、
該恒温槽の内部の気体の一部又は全部に該排気口を通過させることが可能な機構と、
該非水系蓄電デバイスから発生する気体の量に対応して気体の排気量を調整することが可能な機構と、
を備える恒温槽。
【請求項2】
前記恒温槽が、二酸化炭素(CO)、一酸化炭素(CO)、及び水素(H)のうち少なくとも1種類をモニタリング可能である、請求項1に記載の恒温槽。
【請求項3】
前記恒温槽が、有機溶媒をモニタリング可能である、請求項1又は2に記載の恒温槽。
【請求項4】
前記恒温槽は、COの燃焼又は吸着が可能な装置を備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の恒温槽。
【請求項5】
前記恒温槽は、有機溶媒の燃焼、吸着及び回収のうち少なくとも1つが可能な装置を備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の恒温槽。
【請求項6】
前記恒温槽が、乾燥空気を該恒温槽内に供給可能な装置を備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載の恒温槽。
【請求項7】
前記乾燥空気を前記恒温槽内に供給する前にプレヒート可能な装置を備える、請求項6に記載の恒温槽。
【請求項8】
前記恒温槽が、アルゴン又は窒素を該恒温槽内に供給可能な装置を備える、請求項1〜7のいずれか1項に記載の恒温槽。
【請求項9】
前記恒温槽が、給気量と排気量を連動可能な装置を備える、請求項1〜8のいずれか1項に記載の恒温槽。
【請求項10】
前記恒温槽の内部又は排気経路の少なくとも一部が、耐腐食性材質から成る、請求項1〜9のいずれか1項に記載の恒温槽。
【請求項11】
以下の工程:
請求項1〜10のいずれか1項に記載の恒温槽内で前記非水系蓄電デバイスを前記充放電治具に接続して前記非水系蓄電デバイスに通電することにより前記非水系蓄電デバイスをドープ処理に供する工程;及び
ドープ処理された非水系蓄電デバイスをエージング処理に供する工程;
を含む非水系蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス向け恒温槽に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全及び省資源を目指したエネルギーの有効利用の観点から、深夜電力貯蔵システム、太陽光発電技術に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車用の蓄電システム等が注目を集めている。これらの蓄電システムには高エネルギー密度及び高出力特性を持つデバイスが求められており、性能を満たすデバイスの有力候補として、リチウムイオンキャパシタ/リチウムイオン二次電池の開発が進められている。
【0003】
リチウムイオンキャパシタの製造においては、ドープ・エージング工程が必須である。ドープ・エージング工程では、ドープガス又は有機電解液のガスが発生するため、外装体にガス抜き孔を設けて外装体からガスを放出させ、ガスによる外装体の膨張を防止している。
【0004】
ドープ・エージング工程は、工程の短縮化のために、高温で行う。高温でのドープ・エージング時には反応が促進され、ドープガス又は有機電解液のガスが大量に発生し、恒温槽内に蓄積してしまうため、引火爆発の危険性がある。しかしながら、引火爆発を避けるために強制的に恒温槽内のガスを排気しようとすると、恒温槽内の温度が均一に保てなくなってしまう。
【0005】
これに対して下記特許文献1では、電池のエージング装置の内部に可燃性ガスが過剰に蓄積した場合に備え、内部の雰囲気を検出するための雰囲気センサーを装置に配設し、雰囲気センサーの信号により、消火性のガスを装置内に供給する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−188135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載した方法は、電池が発火・爆発した場合に消火する用途としてしか使用できないため、引火爆発の危険性を減らすことはできないという問題があった。また、消火ガスが噴出した場合には、後始末に人手を要するだけでなく、仕掛品の電池が無駄になってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、以上の現状に鑑みて為されたものである。従って、本発明が解決しようとする課題は、恒温槽を所定の温度に保ちながら、リチウムイオンキャパシタから発生したガスを恒温槽の外部へ排出することができる、安全性に優れた恒温槽を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、充放電冶具、吸気口及び排気口を備える恒温槽において、内部の気体の一部又は全部に排気口を通過させる機構と、蓄電デバイスから発生する気体の量に対応して気体の排気量を調整できる機構とを設置することにより、恒温槽を所定の温度に保ちながら、蓄電デバイスから発生したガスを排出することができ、優れた安全性を提供できることを見出して、本発明を完成させた。即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]
複数の非水系蓄電デバイスに通電して充放電を行うための充放電治具と、
恒温槽の外部の気体を該恒温槽の内部に取り込むことが可能な少なくとも1つの給気口と、
該恒温槽の内部から該恒温槽の外部へ気体を送り出すことが可能な少なくとも1つの排気口と、
該恒温槽の内部の気体の一部又は全部に該排気口を通過させることが可能な機構と、
該非水系蓄電デバイスから発生する気体の量に対応して気体の排気量を調整することが可能な機構と、
を備える恒温槽。
[2]
前記恒温槽が、二酸化炭素(CO)、一酸化炭素(CO)、及び水素(H)のうち少なくとも1種類をモニタリング可能である、[1]に記載の恒温槽。
[3]
前記恒温槽が、有機溶媒をモニタリング可能である、[1]又は[2]に記載の恒温槽。
[4]
前記恒温槽は、COの燃焼又は吸着が可能な装置を備える、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の恒温槽。
[5]
前記恒温槽は、有機溶媒の燃焼、吸着及び回収のうち少なくとも1つが可能な装置を備える、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の恒温槽。
[6]
前記恒温槽が、乾燥空気を該恒温槽内に供給可能な装置を備える、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の恒温槽。
[7]
前記乾燥空気を前記恒温槽内に供給する前にプレヒート可能な装置を備える、[6]に記載の恒温槽。
[8]
前記恒温槽が、アルゴン又は窒素を該恒温槽内に供給可能な装置を備える、[1]〜[7]のいずれか1項に記載の恒温槽。
[9]
前記恒温槽が、給気量と排気量を連動可能な装置を備える、[1]〜[8]のいずれか1項に記載の恒温槽。
[10]
前記恒温槽の内部又は排気経路の少なくとも一部が、耐腐食性材質から成る、[1]〜[9]のいずれか1項に記載の恒温槽。
[11]
以下の工程:
[1]〜[10]のいずれか1項に記載の恒温槽内で前記非水系蓄電デバイスを前記充放電治具に接続して前記非水系蓄電デバイスに通電することにより前記非水系蓄電デバイスをドープ処理に供する工程;及び
ドープ処理された非水系蓄電デバイスをエージング処理に供する工程;
を含む非水系蓄電デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安全性に優れた恒温槽を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本実施形態に係る恒温槽は、非水系蓄電デバイスの製造、特に非水系蓄電デバイスのドープ及び/又はエージング工程のために使用されることができる。非水系蓄電デバイスは、ドープ工程又はエージング工程においてガスを発生する可能性のあるデバイスでよく、例えば、リチウムイオンキャパシタ、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等である。これらの中でも、代表的な非水系蓄電デバイスとして、リチウムイオンキャパシタの構成及び製造方法を以下に説明する。
【0013】
<リチウムイオンキャパシタの構成及び製造プロセス>
リチウムイオンキャパシタは一般に、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを主な構成要素とする。電解液としては、リチウムイオンを含む有機溶媒(以下、「非水系電解液」ともいう。)を用いる。また、リチウムイオンキャパシタの製造プロセスは、一般的に、セル組立工程、注液・含浸・封止工程、ドープ工程、エージング工程、ガス抜き工程の順で行われる。
【0014】
[正極]
本実施形態における正極は、正極集電体と、その片面又は両面上に設けられた、正極活物質を含む正極活物質層とを有する。
【0015】
本実施形態における正極は、リチウムイオンキャパシタを組み立てる前の正極前駆体として、リチウム化合物を含むことが好ましい。後述のように、本実施形態ではリチウムイオンキャパシタを組み立てる工程において、負極にリチウムイオンをプレドープすることが好ましい。本実施形態におけるプレドープ方法としては、リチウム化合物を含む正極前駆体と、負極と、セパレータと、非水系電解液とを用いてリチウムイオン二次電池を組み立てた後に、正極前駆体と負極との間に電圧を印加することが好ましい。リチウム化合物は、正極前駆体の正極集電体上に形成された正極活物質層内に含有されていることが好ましい。
【0016】
リチウム化合物としては、後述のリチウムドープ工程において正極で分解し、リチウムイオンを放出することが可能である、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、フッ化リチウム、塩化リチウム、シュウ化リチウム、ヨウ化リチウム、窒化リチウム、硫化リチウム、リン化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、リン酸リチウム、シュウ酸リチウム、ギ酸リチウム、及び酢酸リチウムからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。リチウム化合物としては、好ましくは炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウムであり、更に好ましくは、空気中での取り扱いが可能であり、吸湿性が低い炭酸リチウムである。このようなリチウム化合物は、電圧の印加によって分解し、負極へのリチウムドープのドーパント源として機能するとともに、正極活物質層において空孔を形成するので、電解液の保持性に優れ、イオン伝導性に優れる正極を形成することができる。
【0017】
[負極]
本実施形態における負極は、負極集電体と、その片面又は両面上に設けられた、負極活物質を含む負極活物質層とを有する。
【0018】
負極活物質層は、リチウムイオンを吸蔵・放出できる負極活物質を含み、必要に応じて、導電性フィラー、結着剤、分散材安定剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0019】
[セパレータ]
正極前駆体及び負極は、セパレータを介して積層又は捲回され、正極前駆体、負極及びセパレータを有する電極積層体または電極捲回体が形成される。
前記セパレータとしては、リチウムイオン二次電池に用いられるポリエチレン製の微多孔膜若しくはポリプロピレン製の微多孔膜、又は電気二重層キャパシタで用いられるセルロース製の不織紙等を用いることができる。これらのセパレータの片面または両面に、有機または無機の微粒子からなる膜が積層されていてもよい。また、セパレータの内部に有機または無機の微粒子が含まれていてもよい。
【0020】
[電解液]
本実施形態の電解液は、非水系電解液である。すなわち、この電解液は、後述する非水溶媒を含む。非水系電解液は、該非水系電解液の総量を基準として、0.5mol/L以上のリチウム塩を含有することが好ましい。すなわち、非水系電解液は、リチウムイオンを電解質として含む。
【0021】
[リチウム塩]
本実施形態の非水系電解液は、リチウム塩として、例えば、(LiN(SOF))、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiN(SOCF)(SOH)、LiC(SOF)、LiC(SOCF、LiC(SO、LiCFSO、LiCSO、LiPF、LiBF等を単独で用いることができ、2種以上を混合して用いてもよい。高い伝導度を発現できることから、LiPF及び/又はLiN(SOF)を含むことが好ましい。
【0022】
[非水溶媒]
本実施形態の非水系電解液は、非水溶媒として、好ましくは、環状カーボネートを含有する。非水系電解液が環状カーボネートを含有することは、所望の濃度のリチウム塩を溶解させる点、及び正極活物質層にリチウム化合物を適量堆積させる点で有利である。環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0023】
本実施形態の非水系電解液は、非水溶媒として、好ましくは、鎖状カーボネートを含有する。非水系電解液が鎖状カーボネートを含有することは、高いリチウムイオン伝導度を発現する点で有利である。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネート化合物が挙げられる。ジアルキルカーボネート化合物は典型的には非置換である。
【0024】
[添加剤]
本実施形態の非水系電解液は、更に添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、特に制限されないが、例えば、スルトン化合物、環状ホスファゼン、非環状含フッ素エーテル、含フッ素環状カーボネート、環状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、及び環状酸無水物等を単独で用いることができ、また、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
[組立]
セル組み立て工程では、枚葉の形状にカットした正極前駆体及び負極を、セパレータを介して積層して成る積層体に、正極端子及び負極端子を接続して、電極積層体を作製する。代替的には、正極前駆体及び負極を、セパレータを介して積層及び捲回した捲回体に、正極端子及び負極端子を接続して、電極捲回体を作製する。電極捲回体の形状は円筒型であっても、扁平型であってもよい。
【0026】
正極端子及び負極端子の接続方法は、特に限定されないが、抵抗溶接、超音波溶接などの方法で行うことができる。
【0027】
[外装体]
外装体としては、金属缶、ラミネート包材等を使用できる。金属缶としては、アルミニウム製のものが好ましい。ラミネート包材としては、金属箔と樹脂フィルムとを積層したフィルムが好ましく、外層樹脂フィルム/金属箔/内装樹脂フィルムの3層から構成されるラミネート包材が例示される。外層樹脂フィルムは、接触等により金属箔が損傷を受けることを防止するためのものであり、ナイロン又はポリエステル等の樹脂が好適に使用できる。金属箔は水分及びガスの透過を防ぐためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。また、内装樹脂フィルムは、内部に収納する電解液から金属箔を保護するとともに、外装体のヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン等が好適に使用できる。
【0028】
[外装材への収納]
乾燥した電極積層体または電極捲回体は、金属缶又はラミネート包材に代表される外装体の中に収納し、開口部を1方だけ残して封止することが好ましい。外装体の封止方法は、特に限定されないが、ラミネート包材を用いる場合は、ヒートシール、インパルスシールなどの方法を用いることができる。
【0029】
[注液、含浸、封止工程]
組立工程の終了後に、外装体の中に収納された電極積層体に、非水系電解液を注液する。注液後に、更に含浸を行い、正極、負極、及びセパレータを非水系電解液で十分に浸すことが望ましい。正極、負極、及びセパレータのうちの少なくとも一部に非水系電解液が浸っていない状態では、得られるリチウムイオン二次電池の抵抗が上昇したり、耐久性が低下したりする。含浸の方法としては、特に制限されないが、例えば、非水系電解液を注液後に、電極積層体を外装材が開口した状態で減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にし、再度大気圧に戻す方法等を用いることができる。含浸後には、外装材が開口した状態で電極積層体を減圧しながら封止することで密閉することができる。封止は、シールの貼付、再度のラミネート処理、金属の溶接などで外装体の開口部を塞ぐことにより行なわれることができる。
【0030】
[リチウムドープ工程]
本実施形態において、リチウムイオンを含む正極活物質及びリチウム化合物が、負極活物質へのリチウムイオンのドーパント源として機能する。リチウムドープ工程では、正極前駆体と負極との間に電圧を印加して、正極前駆体中のリチウム化合物を分解してリチウムイオンを放出し、負極でリチウムイオンを還元することにより負極活物質層にリオチウムイオンをプレドープすることが好ましい。
【0031】
リチウムドープ工程において、正極前駆体中のリチウム化合物の酸化分解に伴い、CO等のガスが発生する。そのため、電圧を印加する際には、発生したガスを外装体の外部に放出する手段を講ずることが好ましい。この手段としては、例えば、外装体の一部を開口させた状態で電圧を印加する方法;外装体の一部に予めガス抜き弁、ガス透過フィルム等の適宜のガス放出手段を設置した状態で電圧を印加する方法等を挙げることができる。
【0032】
[エージング工程]
リチウムドープ後に、電極積層体にエージングを行うことが好ましい。エージングでは、非水系電解液中の溶媒が負極で分解し、負極表面にリチウムイオン透過性の固体高分子被膜が形成される。エージング工程においては、非水系電解液中の溶媒の分解による、有機電解液のガス等が発生する。そのため、エージング工程においても、発生したガスを外装体の外部に放出する手段を講ずることが好ましい。この手段としては、例えば、外装体の一部を開口させた状態で電圧を印加する方法;外装体の一部に予めガス抜き弁、ガス透過フィルム等の適宜のガス放出手段を設置した状態で電圧を印加する方法等を挙げることができる。
【0033】
エージングの方法としては、特に制限されないが、例えば高温環境下で電解液中の溶媒を反応させる方法等を用いることができる。
【0034】
[ガス抜き工程]
エージング後に、更にガス抜きを行い、電解液、正極、及び負極中に残存しているガスを確実に除去することが好ましい。電解液、正極、及び負極の少なくとも一部にガスが残存している状態では、イオン伝導が阻害されるため、得られるリチウムイオンキャパシタの抵抗が上昇してしまう。
【0035】
ガス抜きの方法としては、特に制限されないが、例えば、外装体を開口した状態で電極積層体を減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にする方法等を用いることができる。ガス抜き後、外装体をシールすることにより外装体を密閉し、リチウムイオンキャパシタを作製することができる。
【0036】
<リチウムイオンキャパシタ>
以上の工程を含む方法により、リチウムイオンキャパシタを製造することができる。このリチウムイオンキャパシタは、一実施形態において、正極前駆体に含有されていたリチウム化合物が分解されて散逸した跡である空孔を有する多孔性の正極活物質層を有する正極と、リチウム化合物をドーパント源としてドープされた負極活物質層を有する負極と、を具備する。正極は、リチウムドープ工程にて分解しなかったリチウム化合物を含んでいてもよい。
【0037】
<恒温槽>
本実施形態における恒温槽は、主に上記で説明されたリチウムドープ工程及びエージング工程に用いられることを目的とする。リチウムドープ工程が、非水系蓄電デバイスの正負極間に電圧を印加することにより行われるため、本実施形態に係る恒温槽は、単数又は複数の非水系蓄電デバイスに、好ましくは複数の非水系蓄電デバイスに通電して充放電を行うための充放電治具を備える。非水系蓄電デバイスの充放電は、例えば、充放電治具を蓄電デバイスの正負極端子に接続して、必要に応じて外部電源から非水系蓄電デバイスに通電することにより行なわれることができる。なお、本発明は、恒温槽という名称に限定されず、同等の機能を持つ恒温室、恒温倉庫等についても適用可能である。
【0038】
本実施形態に係る恒温槽は、恒温槽の外部の気体を恒温槽の内部に取り込むことが可能な少なくとも1つの給気口と、恒温槽の内部から恒温槽の外部へ気体を送り出すことが可能な少なくとも1つの排気口とを備える。恒温槽が、外部の気体を取り込むことが可能な給気口と、外部へ気体を送り出すことが可能な排気口を有することで、恒温槽内のガスを置換することができ、引火爆発の危険性を下げることができる。
【0039】
本実施形態に係る恒温槽は、恒温槽の内部の気体の一部又は全部に排気口を通過させて、気体を外部に排出できる機構を有する。このような機構を用いることで、恒温槽内の気体を意図的に排出することが可能となり、引火爆発の危険性を大きく下げることができる。このような機構の例として、排気ブロワー、給気ブロワー、循環ブロワーなどが挙げられる。排気ブロワーは、例えば、排気口の奥から気体を引っ張るファン等でよい。給気ブロワー及び循環ブロワーは、排気口の手前から気体を押し出すことができる。中でも、排気ブロワーで気体を払い出す方法が安全上の観点から好ましい。
【0040】
本実施形態に係る恒温槽は、非水系蓄電デバイスから発生する気体の量に対応して気体の排気量を調整することが可能な機構を有する。気体の排気量を適正な値にすることで、恒温槽の温度を安定させつつ、引火爆発の危険性を下げることが可能となる。非水系蓄電デバイスから発生する気体を把握する例として、恒温槽内や排気ガス経路に流量計、圧力計、温度計などの機器を設置する方法が挙げられる。また、ドーパント源のセル内の含有量から、リチウムドープ工程で発生する気体の量を算出して調整する方法も挙げられる。排気量の調整機構は、排気経路にダンパー等の開閉式の調整弁を設ける方法、ファン等のブロワーの流量を制御する方法等が挙げられる。
【0041】
恒温槽は、二酸化炭素(CO)、一酸化炭素(CO)、及び水素(H)のうち少なくとも1種類をモニタリングできることが望ましい。CO、CO、及びHのうち少なくとも1種類の量を計測することで、ドーパント源の反応の進行状況を把握することが容易になり、それらの進行状況に合わせて排気量の調整を行うことが可能となる。CO、CO又はHのモニタリングは、例えば、恒温槽内や排気ガス経路に配置された流量計などの検出器により行なわれることができる。
【0042】
恒温槽は、有機溶媒をモニタリングできることが望ましい。有機溶媒の量を計測することで、有機電解液の揮発量を把握することが容易になり、それらの揮発量に合わせて排気量の調整を行うことが可能となる。有機溶媒のモニタリングは、例えば、恒温槽内や排気ガス経路に配置された流量計などの検出器により行なわれることができる。
【0043】
恒温槽は、COを燃焼又は吸着可能な装置を有することが望ましい。COを燃焼又は吸着して処理することで、排気ガスから有害物質であるCOを取り除くことが可能となり、安全な気体を恒温槽外へ排出することができる。また、蓄電デバイス等のセル内部に含まれるCO濃度が下がると、ドープ時に電極に形成される抵抗成分の量が減り、セルの容量が増加する。CO吸着装置に用いる吸着剤の例として、ゼオライト、シリカゲル、活性炭等が挙げられる。また、CO燃焼装置の例として、加熱炉、ボイラー等が挙げられる。
【0044】
恒温槽は、有機溶媒の燃焼、吸着及び回収のうち少なくとも1つが可能な装置を有することが望ましい。有機溶媒を燃焼、吸着及び回収のうち少なくとも1つの工程で処理することで、排気ガスから有害物質である有機溶媒を取り除くことが可能となり、安全な気体を恒温槽外へ排出することができる。
【0045】
恒温槽は、乾燥空気を恒温槽内に供給可能な装置を有することが望ましい。乾燥空気を恒温槽内に供給することで、内部のセル等の蓄電デバイスに水分が混入するのを防ぐことができる。セル内の水分量が減少することで、セル中の副反応を抑制することが可能となり、セルの容量が増加する。乾燥空気を恒温槽内に供給可能な装置は、例えば、ドライエアースプレー等でよい。また、前記恒温槽は乾燥空気を恒温槽内に供給する前にプレヒートすることが好ましい。乾燥空気をプレヒートすることで槽内の温度が低下するのを防ぎ、槽内の温度の安定化をすることができる。プレヒートの方法としては、熱媒による加熱、熱風による加熱、赤外線による加熱、誘電加熱等が挙げられるが、コストと設置スペースの観点から、熱媒による加熱が好ましい。したがって、乾燥空気をプレヒートすることが可能な装置は、好ましくは、熱媒ヒーターである。
【0046】
恒温槽は、アルゴン又は窒素を恒温槽内に供給可能な装置を有することが望ましい。アルゴン又は窒素を槽内に供給することで、内部のセルに水分が混入することを、アルゴンガス供給器又は窒素供給器を有していない恒温槽よりも防ぐことができる。セル内の水分量が減少することで、セル中の副反応を抑制することが可能となり、セルの容量が増加する。
【0047】
恒温槽は、給気量と排気量を連動可能な装置を有することが望ましい。給気量と排気量が連動することで、槽内の温度が安定し易くなり、また槽内の圧力も安定することができる。このような連動機構の例として、流量計、圧力計、温度計などの機器を用いる方法が挙げられる。
【0048】
恒温槽は、内部又は排気経路の少なくとも一部が、耐腐食性材料から成ることが望ましい。内部部品又は排気経路が耐腐食性を持つことで、ドープガス又は有機電解液のガスによる恒温槽の腐食を防ぎ、恒温槽を長期的に使用することができる。耐腐食性材料として、ステンレス鋼(SUS)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。中でも、耐久性と耐熱性の観点からSUSが好ましい。
【0049】
以上、実施形態を通じて本発明に係る蓄電デバイスの製造装置および製造方法を説明したが、本発明は説明した各構成のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0050】
前述した実施形態では、蓄電デバイスがリチウムイオンキャパシタである場合を説明したが、リチウムイオンキャパシタに限定されず、ドープ工程もしくはエージング工程においてガスを発生する蓄電デバイスであればよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
[正極活物質の調製]
[活性炭の調製]
破砕されたヤシ殻炭化物を、小型炭化炉において窒素中、500℃において3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、1kg/hの水蒸気を予熱炉で加温した状態で前記賦活炉内へ導入し、900℃まで8時間掛けて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却して、賦活された活性炭を得た。得られた活性炭を10時間通水洗浄した後に水切りした。さらに、洗浄された活性炭を、115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した後に、ボールミルで1時間粉砕を行うことにより、粉砕された活性炭を得た。
この活性炭について、島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2000J)を用いて平均粒子径を測定した結果、4.2μmであった。また、ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB−1 AS−1−MP)を用いて細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が2360m/g、メソ孔量(V1)が0.52cc/g、マイクロ孔量(V2)が0.88cc/g、V1/V2=0.59であった。
【0053】
[炭酸リチウムの粉砕]
平均粒子径53μmの炭酸リチウム200gを、アイメックス社製の粉砕機(液体窒素ビーズミルLNM)で、液体窒素で−196℃に冷却化した後、ドライアイスビーズを用い、周速10.0m/sにて9分間粉砕した。−196℃に冷却することで熱変性を防止し、脆性破壊することにより得られた炭酸リチウムについて、平均粒子径を測定することで仕込みの炭酸リチウム粒子径を求めたところ、2.0μmであった。
【0054】
[正極塗工液の調製]
正極活物質として上記で得た活性炭を用い、かつ仕込みのリチウム化合物として上記で得た炭酸リチウムを用いて下記方法で正極塗工液(組成a)を製造した。
活性炭を59.5質量部、炭酸リチウムを28.0質量部、ケッチェンブラックを3.0質量部、PVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を8.0質量部、並びにNMP(N−メチルピロリドン)を混合し、それをPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサーフィルミックスを用いて、周速17.0m/sの条件で分散して塗工液を得た。
【0055】
[正極前駆体の調製]
上記塗工液を東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて厚み15μmのアルミニウム箔の片面又は両面に塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度100℃で乾燥して正極前駆体1を得た。得られた正極前駆体1についてロールプレス機を用いて圧力4kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスを実施した。
【0056】
[負極の調製]
平均粒子径3.0μm及びBET比表面積1,780m/gの市販のヤシ殻活性炭150gをステンレススチールメッシュ製の籠に入れ、石炭系ピッチ(軟化点:50℃)270gを入れたステンレス製バットの上に置き、両者を電気炉(炉内有効寸法300mm×300mm×300mm)内に設置して、熱反応を行うことにより、複合炭素材料1aを得た。この熱処理は、窒素雰囲気下で、600℃まで8時間で昇温し、同温度で4時間保持する方法により行なった。続いて自然冷却により炉内部を60℃まで冷却した後、複合炭素材料を炉から取り出した。
得られた複合炭素材料について、上記と同様の方法で平均粒子径及びBET比表面積を測定した。その結果、平均粒子径は3.2μm、BET比表面積は262m/gであった。石炭系ピッチ由来の炭素質材料の活性炭に対する質量比率は78%であった。
【0057】
次いで、得られた複合炭素材料を負極活物質として用いて、下記のとおり負極を製造した。
複合炭素材料を85質量部、アセチレンブラックを10質量部、及びPVdF(ポリフッ化ビニリデン)を5質量部、並びにNMP(N−メチルピロリドン)を混合し、それをPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサーフィルミックスを用いて、周速15m/sの条件で分散して塗工液を得た。得られた塗工液の粘度(ηb)及びTI値を東機産業社のE型粘度計TVE−35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は2,789mPa・s、TI値は4.3であった。上記塗工液を、東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて、厚さ10μmの電解銅箔の両面に塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度85℃で乾燥して負極1を得た。得られた負極1についてロールプレス機を用いて圧力4kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスを実施した。上記で得られた負極1の負極活物質層の膜厚を小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS−551を用いて、負極の任意の10か所で測定した厚さの平均値から、銅箔の厚さを引いて求めた。その結果、負極活物質層の膜厚は片面当たり40μmであった。
【0058】
[電解液の調製]
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):メチルエチルカーボネート(MEC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、全電解液に対してLiN(SOF)及びLiPFの濃度比が25:75(モル比)であり、かつLiN(SOF)及びLiPFの濃度の和が1.2mol/Lとなるようにそれぞれの電解質塩を溶解して得た溶液を非水系電解液として使用した。
ここで調製した電解液におけるLiN(SOF)及びLiPFの濃度は、それぞれ、0.3mol/L及び0.9mol/Lであった。
【0059】
[リチウムイオンキャパシタの作製]
[組立工程]
得られた両面負極1と両面正極前駆体1を10cm×10cm(100cm)にカットした。最上面と最下面は片面正極前駆体1を用い、更に両面負極1を21枚と両面正極前駆体1を20枚とを用い、負極1と正極前駆体1との間に、厚み15μmの微多孔膜セパレータを挟んで積層した。その後、負極と正極前駆体とに、それぞれ、負極端子と正極端子を超音波溶接にて接続して電極積層体とした。この電極積層体を、温度80℃、圧力50Paで、乾燥時間60hrの条件で真空乾燥した。乾燥した電極積層体を露点−40℃のドライ環境下にて、アルミラミネート包材から成る外装体内に収納し、電極端子部およびボトム部の外装体3方を、温度180℃、シール時間20sec、及びシール圧1.0MPaの条件でヒートシールした。
【0060】
[注液、含浸、封止工程]
アルミラミネート包材の中に収納された電極積層体に、露点−40℃以下のドライエアー環境下にて、上記非水系電解液約80gを温度25℃の大気圧下で注入した。続いて、減圧チャンバーの中に前記リチウムイオンキャパシタを入れ、常圧から−87kPaまで減圧した後、大気圧に戻し、5分間静置した。その後、常圧から−87kPaまで減圧した後、大気圧に戻す工程を4回繰り返した後、15分間静置した。さらに、常圧から−91kPaまで減圧した後、大気圧に戻した。同様に減圧し、大気圧に戻す工程を合計7回繰り返した(それぞれ、−95,96,97,81,97,97,97kPaまで減圧した)。以上の工程により、非水系電解液を電極積層体に含浸させた。
その後、リチウムイオンキャパシタを減圧シール機に入れ、−95kPaに減圧した状態で、180℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることによりアルミラミネート包材を封止し、封止した包材に直径6mmのガス抜き用の孔を設けた。
【0061】
[リチウムドープ工程]
得られたリチウムイオンキャパシタを、外部の気体を取り込むことが可能な少なくとも1つの給気口と、外部へ気体を送り出すことが可能な少なくとも1つの排気口と、内部の気体の一部又は全部を排気口へ排出できる機構とを有する恒温槽の中に入れ、東洋システム社製の充放電装置(TOSCAT−3100U)に接続した。その後、恒温槽を40℃に昇温し、排気ブロワーにて槽内部の気体の一部を槽外へと排出した。排気ブロワーの排気量A(L/min)は、恒温槽の容積をB(L)とすると、下記式(1):
式(1): A = B×0.005
のとおりに算出した。
その後、電流値50mAで電圧4.5Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.5V定電圧充電を24時間継続する手法により初期充電を行い、負極にリチウムドープを行った。
【0062】
[エージング工程]
リチウムドープ後のリチウムイオンキャパシタを恒温槽内で40℃環境下、1.0Aで電圧3.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、3.0V定電流放電を1時間行うことにより電圧を3.0Vに調整した。その後、リチウムイオンキャパシタを40℃環境下で60時間保管した。
【0063】
[ガス抜き工程]
エージング後のリチウムイオンキャパシタのアルミラミネート包材を更に開封し、減圧チャンバーの中に入れ、KNF社製のダイヤフラムポンプ(N816.3KT.45.18)を用いて大気圧から−80kPaまで3分間掛けて減圧した後、3分間かけて大気圧に戻す工程を合計3回繰り返した。その後、減圧シール機にリチウムイオンキャパシタを入れ、−90kPaに減圧した後、200℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることによりアルミラミネート包材を封止した。
以上の工程により、リチウムイオンキャパシタが完成した。
【0064】
[実施例2]
実施例1において、恒温槽にCOの検出器を設置し、排気ブロワーの排気量A(L/min)を、ドープ工程及びエージング工程におけるCOの最大発生速度C(L/min)に対して、下記式(2):
式(2): A = C×0.5
のとおりに算出した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタを得た。
【0065】
[実施例3]
実施例1において、恒温槽にジエチルカーボネートの検出器を設置し、排気ブロワーの排気量A(L/min)を、ドープ工程及びエージング工程におけるジエチルカーボネートの最大発生速度D(L/min)に対して、下記式(3):
式(3): A = D×0.5
のとおりに算出した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタを得た。
【0066】
[実施例4]
実施例1において、恒温槽に、シリカゲルを入れた吸着装置を設置し、シリカゲルの投入量E(g)を、恒温槽の容積B(L)に対して、式(4):
式(4): E = B×0.5
のとおりに算出した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタを得た。
【0067】
[実施例5]
実施例1において、恒温槽に乾燥空気を給気口から投入した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタを得た。
【0068】
[実施例6]
実施例1において、恒温槽に、40℃に加熱した乾燥空気を給気口から投入した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタを得た。
【0069】
[実施例7]
実施例1において、恒温槽にアルゴンを給気口から投入した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタを得た。
【0070】
[実施例8]
実施例1において、恒温槽の給気口に、給気量G(L/min)を測定できる機器を設置し、排気ブロワーの排気量A(L/Min)を、給気量Gに対して、下記式(4):
式(4): A = G×1.02
のとおりに算出した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタを得た。
【0071】
[比較例1]
実施例1において、排気ブロワーの排気量A(L/min)と恒温槽の容積B(L)との関係を下記式(5):
式(5): A = B×0.5
のとおりとした以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタを得た。
なお、比較例1では排気経路のダンパーが全開されていたため、上記式(5)は、排気量Aを意図的に制御しなかったことを表す。
【0072】
[比較例2]
実施例1において、恒温槽の排気ブロワーを作動させなかった以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタを得た。
【0073】
[リチウムイオンキャパシタの評価]
[静電容量の測定]
実施例1〜8及び比較例1〜2で得られたリチウムイオンキャパシタについて、25℃に設定した別の恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、次いで、3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行った。2.2Vまで2Cの電流値で定電流放電を施した際の容量をQとし、式:F=Q/(3.8−2.2)により算出した静電容量Fを表1にまとめた。
【0074】
[電解液中の水分量の測定]
露点−50℃〜−80℃に水分調整された雰囲気中で、リチウムイオンキャパシタのアルミラミネート包材を開封し、10Pa以下の減圧下において70℃で12時間以上乾燥した注射器により、電解液を吸引して試料とした。この試料をカールフィッシャー法による水分検出装置(京都電子工業(株)製のカールフィッシャー水分計に供し、温度25℃、露点−50℃〜−80℃の測定条件で水分含有量を測定した結果を表1にまとめた。
【0075】
[恒温槽の安定性評価]
[温度安定性]
恒温槽の槽内において、給気口付近の壁面、排気口付近の壁面、中央部付近にそれぞれ熱電対を設置し、各測定点での温度変化をモニタリングした。40℃のドープ工程及びエージング工程における各測定点での温度の平均値[℃]を表1にまとめた。
【0076】
[槽内可燃性ガス濃度]
恒温槽の槽内において、給気口付近にHセンサーとジエチルカーボネートセンサーを設置し、40℃のドープ工程及びエージング工程における、ガスの合計最大濃度(ppm)を測定した。
可燃性ガス濃度の評価を下記のとおり分類し、表1にまとめた。
○:検出下限値未満
×:検出下限値以上
【0077】
【表1】
【0078】
表1より、恒温槽に、外部の気体を取り込むことが可能な少なくとも1つの給気口と、外部へ気体を送り出すことが可能な少なくとも1つの排気口と、内部の気体の一部又は全部に排気口を通過させることが可能な機構と、蓄電デバイスから発生する気体の量に対応して排気量を調整することが可能な機構を持たせることで、恒温槽を所定の温度に保ちながら、蓄電デバイスから発生したガスを安全に排出できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の恒温槽は、蓄電デバイスの製造、例えば、自動車における内燃機関、燃料電池、又はモーターと、蓄電デバイスと、を組み合わせたハイブリット駆動システムの製造分野;瞬間電力ピーク時のアシスト電源の製造分野等において、好適に利用することができる。