(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
起振体を有する起振体軸と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、前記起振体と前記外歯歯車との間に配置される起振体軸受けと、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記起振体は、回転軸に垂直な断面の外周線が非円形であり、
前記起振体の外周面が、前記起振体軸受けの転動体が転走する転走面を構成し、
前記起振体軸は、前記起振体とは別体で前記起振体に軸方向に連結される軸部を有し、
前記軸部は、前記起振体よりも密度の小さい素材で構成されている、
撓み噛合い式歯車装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
(実施形態1)
図1は、本発明に係る実施形態1の撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
図2(A)は実施形態1の起振体軸を軸方向から見た正面図、
図2(B)は
図2(A)のA−A線断面図である。以下、撓み噛合い式歯車装置1の回転軸O1に沿った方向を軸方向、回転軸O1から直交する方向を径方向、回転軸O1を中心とする回転方向を周方向と定義する。
【0013】
本発明に係る実施形態1の撓み噛合い式歯車装置1は、軸部11、12及び起振体13を有する起振体軸10、起振体13により撓み変形される外歯歯車21、外歯歯車21と噛合う2つの内歯歯車22、23、及び、起振体軸受け30を備える。
【0014】
起振体軸受け30は、例えばコロ軸受けであり、複数の転動体(例えばコロ)31と、複数の転動体31の周方向の間隔及び軸方向の位置を保持する保持器33と、外歯歯車21の内周面と複数の転動体31の間に挟まれる外輪32とを有する。起振体軸受け30は、起振体13の外周面と外歯歯車21の内周面との間に配置され、起振体13を外歯歯車21に対して相対的に回転可能に支持する。複数の転動体31は周方向に並んで列をなし、さらに、この列が軸方向に二列設けられている。なお、起振体軸受けは、例えば転動体を玉とする玉軸受けなど、その他の形態であってもよい。
【0015】
起振体13は、回転軸O1に垂直な断面の外周線が非円形(楕円状など)の部分を有し、この部分が外歯歯車21に対して相対的に回転することで、外歯歯車21を撓み変形させる。起振体13は、中空構造を有し、中空部によって軽量化が図られる。また、中空部には、配線や配管等の部材が挿通される。起振体13の外周面は、起振体軸受け30の内輪を兼ねており、起振体軸受け30の転動体31が接触して転走する転走面を構成する。起振体13の素材は、鉄系の金属(例えばSUJ2や浸炭鋼などの鋼材)であり、転動体31からの面圧及び摩耗に耐えうる密度及び表面硬度を有する。
【0016】
軸部11、12は、回転軸O1に垂直な断面の外周線が円形の部材であり、起振体13とは別体に起振体13の軸方向の両側に設けられる。軸部11、12は、中空構造を有し、中空部によって軽量化が図られる。軸部11、12の内径は、起振体13の内径よりも小さい。軸部11、12は、例えばアルミ、アルミ合金、マグネシウム合金、FRP(Fiber-Reinforced Plastics)等の樹脂など、起振体13よりも密度の低い素材で構成される。密度の低い素材で構成されることで、軸部11、12の軽量化が図られる。軸部11、12は、起振体13の外周面よりも表面硬度が低くてもよい。
【0017】
一方の軸部11の端部(起振体13とは逆側の端部)と、もう一方の軸部12の端部(起振体13とは逆側の端部)とには、歯車、プーリ等の前段の部材が連結される複数のタップ穴113、123が設けられている。複数のタップ穴113、123は、後述する連結用の挿入穴112、122と周方向に異なる位置に設けられている。
【0018】
一方の軸部11と起振体13とが向き合う両端部には、互いにインロー嵌合するインロー部111、131と、連結用の複数の挿入穴112、132とが設けられている。同様に、起振体13ともう一方の軸部12とが向き合う両端部には、互いにインロー嵌合するインロー部121、131と、連結用の複数の挿入穴122、132とが設けられている。連結用の挿入穴112、122、132は、端部から軸方向に設けられている。さらに、起振体軸10は、起振体13と軸部11、12とを連結する複数の連結体101を備える。連結体101は、挿入穴112、122、132に圧入されて固定されるピン(例えばスプリングピン)である。
【0019】
起振体軸10は、軸部11、12と起振体13とが軸方向に連結されて構成される。ここで、軸方向に連結とは、径方向に見て、部材Aと部材Bとが径方向に見て重なる部分がなく連結されている態様を意味する。あるいは、軸方向に連結とは、径方向に見て一部同士が重なるが部材Aと部材Bとの一方の軸方向の全範囲が他方に重なることなく両者が連結されている態様を意味する。
【0020】
起振体軸10の組み立ての際、起振体13の挿入穴132に連結体101が圧入され、連結体101の一端が挿入穴132から外部へ露出した状態で、起振体13の端部と、軸部11、12の端部とが突き合わされる。そして、連結体101の露出した部分が軸部11、12の挿入穴112、122に圧入され、かつ、起振体13のインロー部131と軸部11、12のインロー部111、121とがインロー嵌合する。インロー嵌合により、起振体13と軸部11、12とが正確に位置決めされ、連結体101により起振体13と軸部11、12とが高い強度で連結される。また、軸部11と起振体13との連結面、軸部12と起振体13との連結面には、液状パッキン等のシール材が設けられている。
【0021】
撓み噛合い式歯車装置1は、さらに、内歯歯車22と一体化された第1連結部材41、内歯歯車23と一体化された第2連結部材42、ケーシング部材43、蓋体44、45、主軸受け51及び軸受け52、53を備える。
【0022】
第1連結部材41は、環状であり、内周面の一部に一方の内歯歯車23が設けられている。第2連結部材42は、環状であり、内周面の一部に他方の内歯歯車22が設けられている。内歯歯車22、23は、剛性を有し、外歯歯車21の一部と噛合い、外歯歯車21の撓み変形により噛合う箇所が変化することで回転運動が伝達される。
【0023】
ケーシング部材43は、第1連結部材41に連結されて、第2連結部材42の外周部を覆う。一方の蓋体44は、環状の形態を有し、第1連結部材41に連結されて、起振体軸受け30及び外歯歯車21の軸方向における一方を覆う。また、蓋体44は、起振体軸10の軸部11の外周側を覆う。もう一方の蓋体45は、環状の形態を有し、第2連結部材42に連結されて、起振体軸受け30及び外歯歯車21の軸方向におけるもう一方を覆う。また、蓋体45は、起振体軸10の軸部12の外周側を覆う。
【0024】
主軸受け51は、ケーシング部材43と第2連結部材42との間に配置され、ケーシング部材43に対して回転可能に第2連結部材42を支持する。軸受け52、53は、蓋体44、45と起振体軸10の軸部11、12との間にそれぞれ配置され、蓋体44、45に対して回転可能に軸部11、12を支持する。
【0025】
<動作説明>
上記構成において、典型的には、起振体軸10が入力軸とされ、一方の内歯歯車22を有する第1連結部材41が出力軸とされ、もう一方の内歯歯車23を有する第2連結部材42が撓み噛合い式歯車装置1の外部の支持部材に固定されて使用される。さらに、一方の内歯歯車22の歯数と外歯歯車21の歯数とが同数に設定され、他方の内歯歯車23の歯数と外歯歯車21の歯数とが異なるように設定される。
【0026】
外部から回転運動が入力されて起振体軸10が回転すると、起振体軸受け30を介して起振体軸10の運動が外歯歯車21に伝わる。このとき、外歯歯車21は、固定された内歯歯車23に一部が噛合っているので、起振体軸10の回転に追従して外歯歯車21が回転することはなく、起振体軸10が外歯歯車21の内側で相対的に回転する。さらに、外歯歯車21は、起振体13の外周面に沿うように規制されているため、起振体軸10の回転に従って撓み変形する。この変形の周期は、起振体軸10の回転周期に比例する。
【0027】
起振体軸10の回転により外歯歯車21が変形すると、起振体13の径が大きい部分が回転方向に移動し、これにより外歯歯車21と内歯歯車23との噛合う位置が回転方向に変化する。外歯歯車21と内歯歯車23との歯数に違いがあるため、噛合う位置が一周するごとに、外歯歯車21と内歯歯車23との噛合う歯がずれていき、これにより外歯歯車21が回転(自転)する。例えば、内歯歯車23の歯数が102で、外歯歯車21の歯数が100であれば、起振体軸10の回転運動は減速比100:2で減速されて外歯歯車21に伝達される。
【0028】
一方、外歯歯車21は内歯歯車22とも同様に噛合っているため、起振体軸10の回転によって外歯歯車21と内歯歯車22との噛合う位置も回転方向に変化する。内歯歯車22の歯数と外歯歯車21の歯数とは同数であるので、外歯歯車21と内歯歯車22とは相対的に回転せず、外歯歯車21の回転運動が減速比1:1で内歯歯車22へ伝達される。これらによって、起振体軸10の回転運動が減速されて、出力軸である第1連結部材41へ出力される。なお、減速比は、外歯歯車21と内歯歯車23、22との歯数の設定により変えることができる。また、入力軸とされる構成要素、出力軸とされる構成要素、支持部材へ固定される構成要素は、上記の例に限られず、起振体軸10、一方の内歯歯車22及び他方の内歯歯車23の間で任意に変更されてもよい。
【0029】
撓み噛合い式歯車装置1が回転運動する際、負荷に応じた入力トルクに加えて、撓み噛合い式歯車装置1の摩擦損失及びグリス撹拌損失に応じた抵抗分、並びに、撓み噛合い式歯車装置1の慣性エネルギーの変化分を補う入力トルクが必要となる。撓み噛合い式歯車装置1においては、外歯歯車21又は内歯歯車22、23の回転に対して起振体軸10が非常に高速に回転する。このため、撓み噛合い式歯車装置1の総合的な慣性モーメントのうち、起振体軸10の慣性モーメントが占める割合が非常に大きい(例えば8割以上)。したがって、起振体軸10の慣性モーメントが増加すると、同様の比率で撓み噛合い式歯車装置1の総合的な慣性モーメントが増加して、撓み噛合い式歯車装置1の回転運動の始動時又は加減速時に、大きな入力トルクが必要となる。
【0030】
しかし、実施形態1の撓み噛合い式歯車装置1においては、起振体軸10は起振体13と軸部11、12とが軸方向に連結されて構成される。そして、起振体13は起振体軸受け30の転動体31からの面圧及び摩擦に十分に耐える素材で構成される一方、軸部11、12が起振体13よりも密度の低い素材で構成される。これらにより、起振体軸10の耐久性を低下することなく、起振体軸10の慣性モーメントを、例えば軸部と起振体軸とが一体化された従来構成と比較して、1/3程度に低減することができる。したがって、回転運動の始動時又は加減速時に、従来構成と比較して、小さい入力トルクで同様の回転運動を伝達することができる。
【0031】
以上のように、実施形態1の撓み噛合い式歯車装置1によれば、起振体軸10の耐久性を低下させることなく、その慣性モーメントを低減できる。したがって、耐久性を維持しつつ、撓み噛合い式歯車装置1並びに回転運動を発生させるモータを含んだシステム全体の消費電力の低減又は回転運動の高速化を図ることができる。
【0032】
また、実施形態1の撓み噛合い式歯車装置1によれば、起振体軸10が、中空軸状の軸部11、12と中空軸状の起振体13とを有する。仮に、軸部と起振体とを一体的に加工する場合、軸方向に長い起振体軸に軸方向に長い中空部を設けることになり、加工の難度が増し、加工コストが高騰する。一方、実施形態1の構成では、軸部11、12及び起振体13に個別に中空部を加工すればよく、加工難度を下げることができる。このため、低い加工コストで高い精度で中空部を加工でき、さらに、中空部の径を大きくすることできる。中空部の径を大きくすることで、起振体軸10の慣性モーメントをより低減することができる。
【0033】
また、一般に、起振体軸の中空部に回転軸を通し、両者を嵌合させて使用することがある。このような場合、起振体軸の中空部のうち軸方向における中央の範囲は内径を大きくし、回転軸が中空部をスムーズに通るように構成する必要がある。軸部と起振体とが一体的に加工される従来の起振体軸では、このような加工は難しく、加工コストが高騰する。しかし、実施形態1の撓み噛合い式歯車装置1によれば、軸部11、12及び起振体13を個別に加工することで、上記のように軸方向の中央の範囲で内径が大きい中空部を容易に形成することができる。
【0034】
(実施形態2)
図3は、本発明に係る実施形態2の撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
図4(A)は実施形態2の起振体軸を軸方向から見た正面図、
図4(B)は
図4(A)のB−B線断面図、
図4(C)は
図4(B)のC−C線断面図である。
【0035】
実施形態2の撓み噛合い式歯車装置1Aは、起振体軸10Aの連結構造が実施形態1と異なる。実施形態1と同一の構成要素については、同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0036】
実施形態2の起振体軸10Aは、起振体13Aと、軸部11A、12Aと、これらを連結する複数の連結体101Aとを備える。
【0037】
起振体13Aは、中空構造を有し、回転軸O1に垂直な断面の外周線が非円形(楕円状など)の部分を有し、この部分が外歯歯車21の内方に配置される。起振体13の外周面は、起振体軸受け30の内輪を兼ねており、転動体31が接触して転走する転走面を構成する。起振体13Aの素材は、鉄系の金属(例えばSUJ2などの鋼材)であり、転動体31からの面圧及び摩耗に耐えうる密度と表面硬度とを有する。
【0038】
起振体13Aの軸方向の両端部には、軸部11A、12Aの外周面と連続するように、軸方向に垂直な断面の外形線が円形の小径部W1、W2が設けられている。起振体軸10Aは、起振体13Aの小径部W1、W2とこれに連続する軸部11A、12Aの端部とが軸受け52、53によって回転自在に支持される。
【0039】
軸部11A、12Aは、中空構造を有しかつ回転軸O1に垂直な断面の外周線が円形の部材であり、起振体13Aとは別体に起振体13Aの軸方向の両側に設けられる。軸部11A、12Aの内径は、起振体13Aの内径よりも小さい。軸部11A、12Aは、例えばアルミ、アルミ合金、マグネシウム合金、FRP等の樹脂など、起振体13Aよりも密度の低い素材で構成される。密度の低い素材で構成されることで、軸部11A、12Aの軽量化がより図られる。軸部11A、12Aは、起振体13Aの外周面よりも表面硬度が低くてもよい。
【0040】
一方の軸部11Aの端部(起振体13Aとは逆側の端部)には、歯車、プーリ等の前段の部材が連結される複数のタップ穴113Aが設けられている。タップ穴113Aは、後述する連結用の貫通孔112A、122Aと周方向に異なる位置に設けられている。図示を省略するが、もう一方の軸部12Aの端部(起振体13Aとは逆側の端部)にも、同様に複数のタップ穴が設けられている。
【0041】
起振体13と軸部11A、12Aとには、これらを軸方向に貫通する連結用の複数の貫通孔132A、112A、122Aが設けられている。貫通孔132A、112A、122Aは、周方向の同一の位置に設けられている。起振体13Aと軸部11Aとが対向する端面、及び、起振体13Aと軸部12Aとが対向する端面は、平面状である。貫通孔112A、122A、132Aは、本発明に係る挿入穴の一例に相当する。
【0042】
連結体101Aは、ノックピンなど、精度の高い位置決めと高強度の連結を可能とする部材である。
【0043】
起振体軸10Aは、軸部11A、12Aと起振体13Aとが軸方向に連結されて構成される。起振体軸10Aの組み立ての際、起振体13Aの貫通孔132Aの両端に連結体101Aが圧入され、連結体101Aの一端が貫通孔132Aから外部へ露出した状態で、起振体13Aの端部と、軸部11A、12Aの端部とが突き合わされる。そして、連結体101Aの露出した部分が軸部11A、12Aの貫通孔112A、122Aに圧入される。このような連結により、精度の高い位置決めと高い強度の連結が実現される。
【0044】
以上のように、実施形態2の撓み噛合い式歯車装置1Aによれば、実施形態1と同様に、起振体13Aを転動体31からの面圧及び摩擦に十分に耐える構成としつつ、起振体軸10Aの慣性モーメントを低減できる。したがって、撓み噛合い式歯車装置1Aの耐久性を低下させずに、撓み噛合い式歯車装置1A及び回転運動を発生させるモータを含んだシステム全体の消費電力の低減又は回転運動の高速化を図ることができる。
【0045】
さらに、実施形態2の撓み噛合い式歯車装置1Aによれば、起振体軸10Aが軸方向において分割されている。これにより、実施形態1と同様に、起振体軸10Aの中空部を高い精度でかつ低い加工コストで設けることができ、また、中空部の径を大きくして起振体軸10Aの慣性モーメントをより低減することができる。加えて、起振体軸10Aの軸方向の中央の範囲で内径が大きくなるような、一体的に加工するには難しい形状の中空部を、低い加工コストで設けることができる。
【0046】
さらに、実施形態2の撓み噛合い式歯車装置1Aによれば、起振体軸10Aが軸方向において分割されているので、起振体軸10Aの側壁部に軸方向の孔を通す加工難度を下げることができる。これにより、連結体101Aが圧入される箇所を貫通孔112A、122A、132Aとすることができる。そして、貫通孔112A、122A、132Aのうち連結体101Aが占有しない部分によって、軸部11A、12A及び起振体13Aの重量の更なる低減を図ることができる。これにより、起振体軸10Aの慣性モーメントをより低減できる。
【0047】
(実施形態3)
図5は、本発明に係る実施形態3の撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
図6(A)は実施形態3の起振体軸を軸方向から見た正面図、
図6(B)は
図6(A)のD−D線断面図、
図6(C)は
図6(B)のE−E線断面図である。
【0048】
実施形態3の撓み噛合い式歯車装置1Bは、起振体軸10Bの連結構造が実施形態1と異なる。実施形態1と同一の構成要素については、同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0049】
実施形態3の起振体軸10Bは、起振体13Bと、軸部11B、12Bと、これらを連結する複数の連結体101Bとを備える。
【0050】
起振体13Bは、中空構造を有し、回転軸O1に垂直な断面の外周線が非円形(楕円状など)の部分を有し、この部分が外歯歯車21の内方に配置される。起振体13の外周面は、起振体軸受け30の内輪を兼ねており、転動体31が接触して転走する転走面を構成する。起振体13Bの素材は、鉄系の金属(例えばSUJ2などの鋼材)であり、転動体31からの面圧及び摩耗に耐えうる密度と表面硬度とを有する。
【0051】
起振体13Bの軸方向の両端部には、軸部11B、12Bの外周面と連続するように、軸方向に垂直な断面の外形線が円形の小径部W1、W2が設けられている。起振体軸10Bは、起振体13Bの小径部W1、W2とこれに連続する軸部11B、12Bの端部とが軸受け52、53によって回転自在に支持される。
【0052】
軸部11B、12Bは、中空構造を有しかつ回転軸O1に垂直な断面の外周線が円形の部材であり、起振体13Bとは別体に起振体13Bの軸方向の両側に設けられる。軸部11B、12Bの内径は、起振体13Bの内径よりも小さい。軸部11B、12Bは、例えばアルミ、アルミ合金、マグネシウム合金、FRP等の樹脂など、起振体13Bよりも密度の低い素材で構成される。密度の低い素材で構成されることで、軸部11B、12Bの軽量化がより図られる。軸部11B、12Bは、起振体13Bの外周面よりも表面硬度が低くてもよい。
【0053】
起振体13Bと一方の軸部11Bとが向き合う端部と、起振体13Bと他方の軸部12Bとが向き合う端部とには、連結用の複数の挿入穴132B、112B、122Bが軸方向に設けられている。起振体13Bと軸部11Bとが対向する端面、及び、起振体13Bと軸部12Bとが対向する端面は、平面状である。
【0054】
一方の軸部11Bの端部(起振体13Bとは逆側の端部)には、歯車、プーリ等の前段の部材が連結される複数のタップ穴113Bが設けられている。タップ穴113Bは、連結用の挿入穴112B、122Bと周方向に異なる位置に設けられている。もう一方の軸部12Bの端部(起振体13Bとは逆側の端部)にも、同様に複数のタップ穴123Bが設けられている。
【0055】
さらに、起振体13Bの側壁部には、軸方向に貫通して別部材が挿入されない複数の貫通孔134が設けられている。貫通孔134は、連結用の挿入穴132Bと周方向に異なる位置、例えば、軸方向に見て、軸部11B、12Bのタップ穴113B、123Bと重なる位置に設けられている。貫通孔134による肉抜きにより、起振体13Bの重量の低減が図られる。なお、貫通孔134は、一方の端部に貫通しない軸方向の穴に代替されてもよい。貫通孔134は、本発明に係る「別部材が挿入されない穴」の一例に相当する。
【0056】
連結体101Bは、ノックピンなど、精度の高い位置決めと高強度の連結を可能とする部材である。
【0057】
起振体軸10Bは、軸部11B、12Bと起振体13Bとが軸方向に連結されて構成される。起振体軸10Bの組み立ての際、起振体13Bの連結用の挿入穴132Bに連結体101Bが圧入され、連結体101Bの一端が挿入穴132Bから外部へ露出した状態で、起振体13Bの端部と、軸部11B、12Bの端部とが突き合わされる。そして、連結体101の露出した部分が軸部11B、12Bの連結用の挿入穴112B、122Bに圧入される。このような連結により、精度の高い位置決めと高い強度の連結が実現される。
【0058】
以上のように、実施形態3の撓み噛合い式歯車装置1Bによれば、実施形態1と同様に、起振体13Bを転動体31からの面圧及び摩擦に十分に耐える構成としつつ、起振体軸10Bの慣性モーメントを低減できる。したがって、撓み噛合い式歯車装置1Bの耐久性を低下させずに、撓み噛合い式歯車装置1B及び回転運動を発生させるモータを含んだシステム全体の消費電力の低減又は回転運動の高速化を図ることができる。
【0059】
さらに、実施形態3の撓み噛合い式歯車装置1Bによれば、起振体軸10Bが軸方向において分割されている。これにより、実施形態1と同様に、起振体軸10Bの中空部を高い精度でかつ低い加工コストで設けることができ、また、中空部の径を大きくして起振体軸10Bの慣性モーメントをより低減することができる。加えて、起振体軸10Bの軸方向の中央の範囲で内径が大きくなるような、一体的に加工するには難しい形状の中空部を、低い加工コストで設けることができる。
【0060】
さらに、実施形態3の撓み噛合い式歯車装置1Bによれば、貫通孔134による起振体13Bの側壁部の肉抜きにより、起振体13Bの重量を更に低減させて、起振体軸10Bの慣性モーメントをより小さくすることができる。肉抜用の構成を、溝とせずに孔とすることで、起振体13Bの剛性の低下を抑えることができる。
【0061】
(実施形態4)
図7は、本発明に係る実施形態4の撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
図8(A)は実施形態3の起振体軸を軸方向から見た正面図、
図8(B)は
図8(A)のF−F線断面図、
図8(C)は起振体軸を軸方向の逆側から見た正面図である。
【0062】
実施形態4の撓み噛合い式歯車装置1Cは、起振体軸10Cの連結構造が実施形態1と異なる。実施形態1と同一の構成要素については、同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0063】
実施形態4の起振体軸10Cは、起振体13Cと、軸部11C、12Cと、これらを連結する複数の連結体101Cとを備える。連結体101Cは本発明に係る第1ボルトの一例に相当する。
【0064】
起振体13Cは、中空構造を有し、回転軸O1に垂直な断面の外周線が非円形(楕円状など)の部分を有し、この部分が外歯歯車21の内方に配置される。起振体13の外周面は、起振体軸受け30の内輪を兼ねており、転動体31が接触して転走する転走面を構成する。起振体13Cの素材は、鉄系の金属(例えばSUJ2などの鋼材)であり、転動体31からの面圧及び摩耗に耐えうる密度と表面硬度とを有する。
【0065】
軸部11C、12Cは、中空構造を有しかつ回転軸O1に垂直な断面の外周線が円形の部材であり、起振体13Cとは別体に起振体13Cの軸方向の両側に設けられる。軸部11C、12Cの内径は、起振体13Cの内径よりも小さい。軸部11C、12Cは、例えばアルミ、アルミ合金、マグネシウム合金、FRP等の樹脂など、起振体13Cよりも密度の低い素材で構成される。密度の低い素材で構成されることで、軸部11C、12Cの軽量化がより図られる。軸部11C、12Cは、起振体13Cの外周面よりも表面硬度が低くてもよい。
【0066】
一方の軸部11Cと起振体13Cとが向き合う端部には、互いにインロー嵌合するインロー部111C、131Cが設けられている。同様に、起振体13Cともう一方の軸部12Cとが向き合う端部には、互いにインロー嵌合するインロー部121C、131Cが設けられている。
【0067】
さらに、軸部11C、12Cと起振体13Cとには、軸方向に貫通し、連結体101Cが挿入される連結用の複数の貫通孔112C、122C、132Cが設けられている。連結用の貫通孔112C、122C、132Cのうち、一方の端部(本発明に係る第1端部に相当)にはボルト頭部を収容する収容穴115が設けられ、収容穴115の反対側の範囲W6には雌ネジが設けられている。雌ネジは軸部12Cの貫通孔122Cに設けられている。起振体13Cの連結用の貫通孔132Cの一部は、起振体13Cの中空部に一部が露出する構成としてもよい。露出する構成の場合、この部分を介して連結体101Cが、起振体13Cの内側に露出することになる。このような構成により、連結の強度を維持したまま、起振体軸10Cの重量をより低減して、起振体軸10Cの慣性モーメントをより低減できる。貫通孔112C、122C、132Cは、本発明に係る挿入穴の一例に相当する。
【0068】
加えて、軸部11C、12C及び起振体13Cには、肉抜き用の複数の貫通孔117、127、137が設けられている。貫通孔117、127、137は、連結用の貫通孔112C、122C、132Cと回転方向に異なる位置に設けられている。肉抜き用の構成を、溝とせずに、貫通孔とすることで、肉抜き用の構成により起振体軸10Cの剛性の低下を抑えることができる。貫通孔117、127、137は、本発明に係る「別部材が挿入されない穴」の一例に相当する。
【0069】
連結体(ボルト)101Cは、軸部12Cの雌ネジの途中まで螺合される長さを有する。
【0070】
起振体軸10Cは、軸部11C、12Cと起振体13Cとが軸方向に連結されて構成される。起振体軸10Cの組み立ての際、インロー部111C、121C、131Cがインロー嵌合するように、起振体13Cと軸部11C並びに起振体13Cと軸部12Cがつき合わされる。そして、連結体(ボルト)101Cが、貫通孔112C、122C、132Cに挿入されて、貫通孔122Cの雌ネジと螺合される。インロー嵌合により起振体13Cと軸部11C、12Cとが正確に位置決めされ、連結体101Cにより起振体13Cと軸部11C、12Cとが高い強度で連結される。
【0071】
以上のように、実施形態4の撓み噛合い式歯車装置1Cによれば、実施形態1と同様に、起振体13Cを転動体31からの面圧及び摩擦に十分に耐える構成としつつ、起振体軸10Cの慣性モーメントを低減できる。したがって、撓み噛合い式歯車装置1Cの耐久性を低下させずに、撓み噛合い式歯車装置1C及び回転運動を発生させるモータを含んだシステム全体の消費電力の低減又は回転運動の高速化を図ることができる。
【0072】
さらに、実施形態4の撓み噛合い式歯車装置1Cによれば、起振体軸10Cが軸方向において分割されている。これにより、実施形態1と同様に、起振体軸10Cの中空部を高い精度でかつ低い加工コストで設けることができ、また、中空部の径を大きくして起振体軸10Cの慣性モーメントをより低減することができる。加えて、起振体軸10Cの軸方向の中央の範囲で内径が大きくなるような、一体的に加工するには難しい形状の中空部を、低い加工コストで設けることができる。
【0073】
さらに、実施形態4の撓み噛合い式歯車装置1によれば、起振体軸10Cが軸方向において分割されているので、起振体軸10Cの側壁部に軸方向の孔を通す加工難度を下げることができる。これにより、連結体101Cを通す貫通孔112C、122C、132Cの形成が容易になる。また、肉抜き用の貫通孔117、127、137の形成も容易になり、起振体軸10Cの慣性モーメントをより低減できる。
【0074】
さらに、実施形態4の撓み噛合い式歯車装置1によれば、貫通孔122Cの起振体13Cの反対側の端部(本発明に係る第2端部に相当)から一部の範囲において、雌ネジの部分が開放されている。そして、この部分を、歯車、プーリ等の前段の部材が連結されるタップ穴として利用できる。
図7には、貫通孔122Cを利用して、別部材としてのプーリ61が第2ボルト62により取り付けられている例を示している。
【0075】
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、起振体軸は、起振体の両側に軸部が連結される構成として説明したが、起振体軸は起振体と一つの軸部とが軸方向に連結される構成としてもよい。また、上記実施形態では、フラット型の撓み噛合い式歯車装置を例にとって説明したが、本発明の撓み噛合い式歯車装置は、例えばカップ型、シルクハット型など、様々な形式の撓み噛合い式歯車装置に適用可能である。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。