特許第6858780号(P6858780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6858780ピコレーザを用いる金属−セラミック基材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858780
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】ピコレーザを用いる金属−セラミック基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/53 20140101AFI20210405BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20210405BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   B23K26/53
   B23K26/00 N
   B23K26/073
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-532128(P2018-532128)
(86)(22)【出願日】2016年12月21日
(65)【公表番号】特表2019-500217(P2019-500217A)
(43)【公表日】2019年1月10日
(86)【国際出願番号】EP2016082180
(87)【国際公開番号】WO2017108950
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年7月11日
(31)【優先権主張番号】15201873.5
(32)【優先日】2015年12月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516039491
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチュラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】ロッグ、アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ワッカー、リチャード
【審査官】 山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−525476(JP,A)
【文献】 特開2005−271563(JP,A)
【文献】 特開2014−200842(JP,A)
【文献】 特開2015−030040(JP,A)
【文献】 特開2003−245784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属−セラミック基材の加工処理方法であって、当該方法においては、
a.レーザスクライブラインが、レーザビームを使用して金属−セラミック基材における所定の切断線として形成され;及び/又は
b.前記金属−セラミック基材がレーザビームを使用して少なくとも部分的に切断され;
そして、前記加工処理がレーザを用いて行われ、かつ所定の切断線として前記レーザスクライブラインを生成する際又は金属−セラミック基材が切断される際に、前記金属−セラミック基材のセラミック基材の溶融相が本質的に形成されないように選択される前記レーザのパルス持続時間が使用され
前記レーザの加工処理速度は0.05m/秒以上19.0m/秒以下であり、
前記レーザスクライブラインが前記金属−セラミック基材のセラミック基材に形成されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記レーザスクライブラインが連続的又は断続的に形成されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記レーザがp秒レーザであることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記レーザが0.1〜100psのパルス持続時間を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
所定の切断線として前記レーザスクライブラインを生成する間に、前記レーザスクライブラインが前記レーザの数回のクロッシングにおいて生成され及び/又は前記金属−セラミック基材の少なくとも部分的な切断が前記レーザの数回のクロッシングにおいて達成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記レーザがIRレーザであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記IRレーザが60〜160ワットのパワーを有することを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記IRレーザの周波数が350〜650kHzであることを特徴とする請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
前記IRレーザのパルスエネルギーが100〜300μJであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記IRレーザのスポット径が20〜100μmであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法がレーザ加工処理によって発生するダストを吸引する吸引装置を有する装置において実施されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記レーザがp秒IRレーザであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜1のいずれか1項に記載の方法によって得られる金属セラミック基材。
【請求項14】
前記金属−セラミック基材が連続的なスクライブ溝を有することを特徴とする請求項1記載の金属セラミック基材。
【請求項15】
前記金属−セラミック基材が、少なくとも20μmの深さの連続的なスクライブ溝を有し、それぞれの溝が当該金属−セラミック基材の平坦面に対して垂直であることを特徴とする請求項1又は1記載の金属セラミック基材。
【請求項16】
前記金属−セラミック基材が直線から外れておりかつレーザビームを用いて前記金属−セラミック基材のセラミック部分を切断することによって得られる外部形状を有していることを特徴とする請求項1記載の金属セラミック基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属化セラミック基材の加工処理方法及びその方法によって得られる金属−セラミック基材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、DCB、AMB及びDABプロセスによって得られる金属−セラミック基材は当業者にとっては既知である。これらの金属−セラミック基材は、いわゆる「多重使用」状態で通常製造される。この多重使用状態において、前記セラミック基板はセラミック層の少なくとも一面に形成されるが、好ましくは、前記セラミック層の両面に形成され、個々の金属化の間で所定の切断線が前記セラミック層に形成され、その結果、これらの所定の切断線に沿って切断することにより、広い面積を有する金属−セラミック基材が単一の基材に分離せしめられ、そしてそれらの単一の基材は各々が回路又はモジュールの回路基板を形成する。
【0003】
上記した多重使用状態の金属−セラミック基材の製造方法の部分的な工程は、通常はレーザを用いて行われる多重使用基材からの単一部分部材の分離工程である。この場合には、例えば、250〜400ワットのCO共振器が通常使用される。上記レーザに起因して、互いに近接する複数のめくら穴が生成される。これらのめくら穴は所定の切断線(ミシン目)を形成する。
【0004】
この工程で使用される運動システムは金属−セラミック基材のためのx−yデスク及び剛性レーザを具備しており、約10.6μmの波長のCOレーザは繊維光導電性でないのでかつ工学系の運動によって、光路の長さが変化しそれによってビーム質が変化する。レンズはレーザをフォーカスするために使用される。
【0005】
次に、それらを保護するために、プロセスガスノズルからレーザ光とともに出て来るプロセスガス(例えば、圧縮空気又は酸素)が使用される。このような方法で、前記基材から排出される部分的に溶融した物体がレンズを汚染するのが防止される(プロセスガスはノズル内の汚染物の侵入を防止する)。しかしながら、同時に、プロセスガスはまたレーザコーンからの溶融物体を吹き飛ばす作用を行う。
【0006】
しばしば起こる刻み目形成についての異なる要求(一方では、所定の切断線の生成が要求され、そして他方では、切断又は開穿、即ち基材の切断が要求される)に起因して、金属−セラミック基材を加工処理するための対応する装置には、しばしば二つの異なるプロセスノズルが装着される。
【0007】
上記した既知の方法の不利な点は、レーザノズルが基材表面に十分に近接しないがために、チップやワイヤボンドのような基材の加工処理が一層困難になるという点である。結果として、レーザコーンは十分に吹かれることがなくそしてガラス相がレーザコーン内に残存する。
【0008】
既知の方法の不利な点は、レーザダストやスプラッシュはクリーニング工程によって表面から除く必要があるということである。
既知の方法のさらなる不利な点はセラミックスを切断する際に機械的に除く必要のあるバリが発生することである。このことは、工程の複雑さを増大させそして製品スクラップの増加のリスクを招く。
【0009】
また、通常使用されるCO共振器は銅の加工処理ができないので、銅を切断することはできない。
【0010】
上記した使用されるCO共振器の他の不利な点は、前記セラミック基材の貫入点(最初の穴)が明瞭に目視可能であることである。溶融する相と残りの部分とを一層乱す事態が発生する。外観不良に起因して、最初の穴は不良個所の領域に通常設ける必要があり、このことはプログラムを作成するための努力の増大を意味しかつより長い加工処理時間を伴う。
【0011】
さらに、金属−セラミック基材が裏側からレーザエッチングされる方法の必要性が生じる。製造工程に起因して、これは金属−セラミック基材の凹面側である。それによって、前記基材のコーナー部及びエッジ部はいくつかの材料の組み合わせによって上向きとなっている。前記金属−セラミック基材の歪みを減らすことは可能であるが、通常のCOレーザを用いて十分な深さのフォーカスを作り出すことは不可能である。従って、エッジ部においてはしばしば不完全なレーザ加工処理及びスクラップが生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この従来技術に基づいて、本発明は上述した従来技術の不利な点を好適に除去するという課題を有する。
【0013】
特に、本発明は、レーザシステムにおいて高い省コスト性及び高い処理能力をもって実施可能な、セラミック又は金属−セラミック基材の加工処理方法を提供することを課題としている。
前記処理は、Al、ZTA(ジルコニウムがドープされたAl)、AIN及びSiタイプのセラミックスに対して特に好適であるべきである。前記処理は、基板上への残留物、即ちレーザダスト又は切断バリの生成なしに好適に実施されるべきである。
【0014】
さらに、本発明方法は、十分なレーザ深さの導入及びマイクロクラックを生成する十分なノッチ効果を導入することが要求されるので、出来るだけ正確に切断する所定の切断線又はレーザスクライブラインが導入されることを好ましくは可能とすべきである。加えて、レーザスクライブラインは続いて行われるガルバニック工程において好ましくは金属化されないべきである。
【0015】
さらにまた、本発明方法は、さらに好ましくは、金属−セラミック基材の銅のアブレーション及び切断を可能とすべきである。
【0016】
最後に、本発明方法は、レーザコーンが吹き飛ばされない場合に発生する不利益を被ることなく、例えば、チップやワイヤボンドを備えるセラミック基材を加工処理することを好ましくは可能とすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの課題は、金属−セラミック基材の加工処理方法によって解決され、その方法においては、
a.レーザスクライブラインが、レーザビームを使用して金属−セラミック基材における所定の切断線として形成され;及び/又は
b.前記金属−セラミック基材がレーザビームを使用して少なくとも部分的に切断される。
【0018】
そして、本発明方法は、前記加工処理がレーザを用いて行われ、かつ所定の切断線として前記レーザスクライブラインを生成する際又は金属−セラミック基材が切断される際に、前記セラミック基材の溶融相が本質的に形成されないように選択される前記レーザのパルス持続時間が使用されることを特徴とする。
【0019】
上記特徴とは別に、本発明方法は、また一般的に、所定の切断線としてレーザスクライブラインを生成する際又は金属−セラミック基材が切断される際に、レーザの加工処理条件は前記セラミック基材の溶融相が本質的に形成されないように選択される。
【0020】
ガラス相は、レーザスクライブライン内の残留物であり、それはレーザによって加熱されかつ溶融されるが、レーザスクライブラインからは除去されずそしてレーザスクライブライン内で凝固する。
【0021】
本発明のコンテキストにおいては、「前記セラミック基材の溶融相が本質的にない」という表現は、レーザスクライブラインが、好ましくは30体積%未満、より好ましくは20体積%未満、さらに好ましくは15体積%未満、そして好ましくは0.1体積%超、より好ましくは0.5体積%超、さらに好ましくは1.0体積%超、の溶融相を含有する場合であると理解される。
【0022】
溶融相の所定量は表面上に生成する(表面被覆)。この溶融相はマイクロクラックを有するのが特徴であり、このマイクロクラックは好ましいノッチ効果を惹き起こし、そして前記セラミック基材の続いての破裂に対するストレスが増大する。
【0023】
本発明のコンテキストにおいては、レーザスクライブラインが少量の溶融相、即ち、特に上記した溶融相の最小量を含有するのが好適である。
【0024】
前記セラミック基材の溶融相の多すぎる量の生成は、レーザが一定の加工処理条件で操作されている場合には避けることが可能である。この条件は特に下記事項を含む。
(a)レーザのパルス持続時間;
(b)前記金属−セラミック基材へのレーザの侵入深さ;及び
(c)レーザのパワー。
【0025】
以後は、レーザの好ましい実施の形態は、前記セラミック基材の加工処理中の溶融相の形成は本質的に排除されている態様で記載される。
【0026】
本発明方法においては、所定の切断線としてレーザスクライブラインを生成する間に、レーザスクライブラインがレーザの1回のクロッシング又は数回のクロッシングにおいて生成されることが可能である(実施の形態a)。また、前記金属−セラミック基材の切断はレーザの数回のクロッシングにおいて達成される(実施の形態b)。
【0027】
本発明のコンテキストにおいては、レーザはn秒レーザ、p秒レーザ又はf秒レーザから選択可能であるが、本発明によればp秒レーザが好適である。
【0028】
さらに、p秒レーザがパルス持続時間を有することが好ましく、即ち、好ましくは、0.1〜100ps、より好ましくは、0.5〜50ps、さらに好ましくは、1〜30psのレーザパルスの持続時間が好適である。選択されたパルス持続時間を用いることにより、レーザ工程をガイドすることが可能となり、その結果、本質的に溶融相の生成はなくなり、そして本質的に基材表面に堆積されるレーザスプラッシュ及びレーザダストの生成はなくなる。同時に、このレーザ持続時間を用いることにより、レーザスクライブラインにおける十分なノッチ効果が達成される。本発明のコンテキストにおいて、本質的にコールドダストのみが形成されそして溶融相は形成されないので、そしてビーム源から基材表面への十分に大きな選択距離のために、プロセスガスの使用が可能となるが、絶対的に必要なことではない。
【0029】
パルスエネルギー、即ち、単一のレーザパルスのエネルギー含量は、好ましくは、10〜500μJ、より好ましくは、50〜400μJ、さらに好ましくは、100〜350μJである。
【0030】
p秒レーザは、好ましくは、20〜400W、より好ましくは、40〜200W、さらに好ましくは、50〜180W、さらにまた好ましくは、60〜160W、一層好ましくは、80〜130W、さらに一層好ましくは、90〜120Wのパワーを有する。
【0031】
レーザの加工処理速度は、好ましくは、少なくとも0.05m/秒、より好ましくは、少なくとも0.1m/秒、さらに好ましくは、少なくとも0.15m/秒、さらにまた好ましくは、少なくとも0.20m/秒、一層好ましくは、少なくとも0.25m/秒である。
【0032】
レーザの加工処理速度は、好ましくは、最大で20.0m/秒、より好ましくは、最大で19.0m/秒、さらに好ましくは、最大で18.0m/秒、さらにまた好ましくは、最大で17.0m/秒、一層好ましくは、最大で16.0m/秒である。
【0033】
レーザの加工処理速度は、好ましくは、0.05〜20.0m/秒、より好ましくは、0.1〜19.0m/秒、さらに好ましくは、0.15〜18.0m/秒、さらにまた好ましくは、0.20〜17.0m/秒、一層好ましくは、0.25〜16.0m/秒である。
【0034】
加工処理速度はレーザがセラミック基材の上方を移動するリアル速度に対応する。本発明による上記したリアル速度をレーザのクロッシングの数で割ったレーザの有効速度が選択される場合に対応する類似の結果が得られ、それによって、2〜50、好ましくは、2〜40、より好ましくは、2〜30、さらに好ましくは、2〜20のクロッシングが想定される。
【0035】
驚くべきことに、レーザによって使用される共振器パワー(xワット)とレーザの最大リアル加工処理速度(ym/秒)との間には関係式が存在することがまた見出された。
【0036】
上記関係式は、一般的に下記の式の通りである:
【数1】
ここで、最大加工処理速度はセラミック基材の厚さとは無関係である。
【0037】
前記リアル加工処理速度が、一般的に上記した値又は上記式によって算出した値を超えている場合には、前記レーザスクライブラインに沿って前記セラミック基材を効果的かつ安全に切断することは不可能である。
【0038】
より好ましい実施の形態において、レーザの加工処理速度は、好ましくは、少なくとも0.05m/秒から上記式によって定義される最大加工処理速度までである。
【数2】
上記式において、xはレーザの共振器パワーWに対応する。
【0039】
より好ましい実施の形態において、レーザの加工処理速度は、好ましくは、少なくとも0.1m/秒から上記式によって定義される最大加工処理速度までである。
【数3】
上記式において、xはレーザの共振器パワーWに対応する。
【0040】
より好ましい実施の形態において、レーザの加工処理速度は、好ましくは、少なくとも0.15m/秒から上記式によって定義される最大加工処理速度までである。
【数4】
上記式において、xはレーザの共振器パワーWに対応する。
【0041】
より好ましい実施の形態において、レーザの加工処理速度は、好ましくは、少なくとも0.20m/秒から上記式によって定義される最大加工処理速度までである。
【数5】
上記式において、xはレーザの共振器パワーWに対応する。
【0042】
より好ましい実施の形態において、レーザの加工処理速度は、好ましくは、少なくとも0.25m/秒から上記式によって定義される最大加工処理速度までである。
【数6】
上記式において、xはレーザの共振器パワーWに対応する。
【0043】
前記レーザのスポット径は、好ましくは、20〜80μm、より好ましくは、30〜70μm、さらに好ましくは、40〜60μmである。
【0044】
本発明の好ましい実施の形態において、使用されるレーザはIRレーザである。
【0045】
本発明の根本的課題は、IRレーザ、より好ましくは、p秒IRレーザの使用によって特に解決され、そこでは理論に縛られることなく、p秒IRレーザ光は、前記セラミック基材の表面又は金属塗膜の表面に特に効果的に結び付けられ、即ち、当該セラミック基材又は金属塗膜によって特に効果的に吸収されるものと考えられる。さらに、IRレーザは高いエネルギー効率を有しており、このことはまた上記課題を解決するために有利である。
【0046】
セラミック基材又は金属−セラミック基材を製造するためにIRレーザを使用することのさらなる利点は、IRレーザ光はダイオード光から直接発生させられることであり、一方、緑色レーザ光は60%の効率でIRレーザ光から最初に発生させられ、順番にUVレーザ光がまた60%のさらなる効率で緑色レーザ光から発生させられる必要がある。
【0047】
p秒IRレーザは、例えば、COレーザとは対称的に、製造される金属−セラミック基材から大幅に離れた位置に配設され、その結果として、高い焦点深度が実現される。
【0048】
さらに、IRレーザの使用によって、COレーザと比較して十分に高い焦点深度が達成される。
【0049】
IRレーザが本発明において使用される場合、IRレーザの周波数は、好ましくは、350〜650kHz,より好ましくは、375〜625kHz,さらに好ましくは、400〜600kHzである。
【0050】
IRレーザが本発明において使用される場合、IRレーザのパルスエネルギーは、好ましくは、100〜300μJ,より好ましくは、125〜275μJ,さらに好ましくは、150〜250μJである。
【0051】
上記した選択肢a.及びb.による本発明方法は、プロセスガスの存在下で実施可能である。そのプロセスガスは、例えば、酸素である。
【0052】
上記した選択肢a.及びb.による本発明方法は、レーザ加工処理によって発生したダストを吸引する吸引装置を有する装置において好ましくは実施される。
【発明を実施するための形態】
【0053】
セラミック基材又は金属−セラミック基材の加工処理の実施の形態についてより詳細に以下に記載する。
【0054】
実施の形態a.:金属−セラミック基材における所定の切断線としてのレーザスクライブライン
【0055】
本発明方法は、金属−セラミック基材における所定の切断線としてレーザスクライブラインを作成するための第1の実施の形態に適している。
【0056】
金属−セラミック基材における所定の切断線として作成されるレーザスクライブラインは、当該金属−セラミック基材において連続的又は不連続的のいずれの態様でも作成可能である。当該金属−セラミック基材の引き続いての切断が容易に可能となるためには、そのレーザスクライブラインの深さが、当該セラミック基材の層厚さの5〜50%が好ましく、より好ましくは、8〜45%、さらに好ましくは、10〜40%である。
【0057】
従来のセラミック基材では、レーザスクライブラインが所定の切断線として作成される場合、使用されるレーザパラメータ、例えば、パルス持続時間、周波数及びパワーは、少なくとも20μm、より好ましくは、少なくとも30μm、さらに好ましくは、少なくとも50μmの深さのスクライブラインが、前記セラミック基材の平坦面に対して各々が直立して作成されるように設定される。
【0058】
本発明方法によれば、必要な場合、上記深さから外れているスクライブラインを作ることができる。例えば、本発明方法は、切断の開始を容易にするため又は切断とスクライブ形状との間における移行期間における切断形状を最適化するため、スクライブ深さがスクライブラインの開始領域におけるよりもより高くなるように設計することが可能である。例えば、金属−セラミック基材の外部形状が丸くなっておりそして小さい曲率半径のために切断する必要がある場合、金属−セラミック基材のコーナー部に穴が設けられることとなり、そのような構造では、スクライブラインからの切断形状を停止しそして当該穴の他の側において再開せしめられることとなる。レーザスクライブライン内にクラックを再度導入する領域において、このクラック再導入工程を容易化するために、より高いスクライブ深さを形成することが好適である。
【0059】
本発明によって形成されるスクライブラインの幅は、好ましくは、20〜70μm、より好ましくは、25〜65μm、さらに好ましくは、30〜60μmであり、金属−セラミック基材のx/y方向に直線状に延びるのが好適である。従って、本発明によれば、レーザスクライブラインのアーチ部又は半径部の形成が行われないのが好ましい。マーキングの目的で、金属−セラミック基材には、輪郭線がレーザによって形成されるのが好適である。
【0060】
既に述べたように、レーザスクライブラインが所定の切断線として作成される間に、レーザ加工処理中にセラミック基材に溶融相が形成されないように選択される、レーザのパルス持続時間が用いられることが好適である。
【0061】
このように、スクライブラインはスクライブラインの側部に本質的にグレージング(所謂、レーザ跳ね上げ物(throw up))を有していない。スクライブラインそのものの内には、ガラス相の残渣(即ち、レーザによって溶融されたが未だ除去されていない物質)が本質的に存在しないか又は少なくともほとんど存在しないのが好ましい。さらに、本発明方法においては、レーザスクライブラインの側部にはレーザダストは本質的に存在しない(少なくとも、ほとんど存在しない)。
【0062】
本発明によって得られるレーザスクライブラインは好ましくはマイクロクラックを有しており、このマイクロクラックはレーザ加工処理中の熱応力によって発生し、そしてこれは引き続いて行われるスクライブラインの切断にとって有利である。さらに、このレーザスクライブラインは次のガルバニックプロセス工程において好ましくは金属化しない。
【0063】
本発明のコンテキストにおいて、レーザスクライブラインは金属−セラミック基材の上方からのレーザの1回のクロッシングによって作成可能である。もう1つのアプローチとしては、レーザスクライブラインはレーザの数回のクロッシングによって所定の切断線として作成され、このアプローチは特定のエネルギー入力、即ち、時間当たりのエネルギー、を減少させるために好適である。しかしながら、クロッシングの数は材料、即ち、使用される金属塗膜又はセラミック基材に依存しかつ所望の加工処理の深さに依存する。
【0064】
レーザの加工処理速度は、実際の加工処理条件、即ち、所望の加工処理の深さに加えて、使用されるレーザ、金属塗膜及びセラミックに用いられる金属に依存する。
【0065】
レーザの加工処理速度は上述したように行うのが好適である。
【0066】
IRレーザの使用と関連するもう1つの利点は、2本のスクライブラインの間のクロッシングポイントがないことである。2本のスクライブラインがクロスオーバーしている場合、COレーザを使用することによって、2つのレーザパルスが同一の場所で重なり合うことができる。これにより、弾丸形穴の深さが増大する。極端なケースでは、弾丸が反対のセラミック部分まで達することも可能である。このことは切断態様又はその後の基板の機械的強度に悪影響を及ぼすこともある。IRレーザ技術の高い精度のために、特にp秒レーザを使用する場合、全てのスクライブラインが多数回交差し、こうして好適なスクライブラインがなくなるという事実に加えて、スクライブラインの1本が単純に妨害され又は交差領域におけるパラメータが調整され、それでクロッシング領域におけるスクライブラインの深さの増大は解消される。
【0067】
COレーザの使用によるもう1つの利点は、本発明によって提供されるIRレーザ、特にp秒IRレーザを用いるセラミックスのプレレーザ加工処理につながることである。金属−セラミック基材の分野においては、プレレーザ加工処理されたセラミックスを使用する製品がある。この製品では、金属部材とセラミック部材の結合工程の前にセラミック部材は既にレーザ加工処理されている。例としては、ビア(複数のビア)又は突出金属(リードオフ)を有する製品を含む。COレーザを使用して加工処理する場合、レーザ加工処理の間に発生するダストやレーザ跳ね上げ物(throw up)は再度除去する必要がある。この除去処理は、例えば、ディスクブラッシュ、超音波クリーニングシステム、ラッピング又は他の機械的方法によって行われる。化学的処理は、高い耐薬品性の故に、アルミナの場合には有効ではない。適切なIRレーザを使用することによって、除去する必要のあるダスト及び跳ね上げ物がなくなる。従って、適切な浄化処理は不要となる。
【0068】
実施の形態b.:レーザビーム使用による金属−セラミック基材の切断
【0069】
金属−セラミック基材に直線とは異なる外部形状を導入する必要性がある程度存在する。これは、例えば、金属−セラミック基材の中心部における穴であり又は金属−セラミック基材のコーナー部における丸み付けである。そのような外部形状はレーザを用いて金属−セラミック基材のセラミック部分を切断することによって得ることが可能である。
【0070】
本発明のコンテキストにおいて、前記セラミック基材がレーザを用いて切断される場合、前記セラミック基材の最初の切断が行われる貫入点は存在しない。従って、本発明のコンテキストにおいて、当該外部形状の外側を傷つけ、開始ランプを含む実際の切断外部形状に近づける必要はない。
【0071】
本発明のコンテキストにおいて、前記セラミック基材がレーザを用いて切断される場合、切断エッジは所定の角度を有しており、その角度は通常は直角から好ましくは最大で30°、より好ましくは最大で25°傾いている。この結果、底部よりも上端部が大きい穴が形成される。
【0072】
IRレーザ、特にp秒IRレーザを用いて前記セラミック基材を本発明方法によって分離することのさらなる利点は、底部、即ち、レーザの出射側において、追加処理工程において除去される必要のあるバリが溶融相によっては生成されないことである。
【0073】
実施の形態a.及びb.の利点
【0074】
上記した実施の形態a.及びb.を考慮すると、金属塗膜及びセラミック基板を同一のレーザを用いて加工処理することが可能である。その結果、構造化された金属塗膜を有する金属−セラミック基板の製造をコスト効率良く実現することができる。
【0075】
詳細に言えば、つぎのことが可能である。
I)上面側の金属塗膜のみを切断すること又は前記セラミック部材まで切断すること、そして、例えば、金属塗膜においてエッチング処理では不可能な微細な構造を作成すること;
II)金属塗膜及びセラミック基材を下面側の金属塗膜まで切断すること(これによって、ビア穴が形成される。適切な盲穴を導電材料で充填する場合、貫通穴が出来る。充填材料は、例えば、金属ペースト又は電気的に生成された材料である。);
III)金属塗膜及びセラミック基材を切断すること又は金属塗膜のみ又はセラミック基材の上面に金属塗膜が存在しない場合(例えば、金属塗膜がエッチングによって既に除去されているか又は金属塗膜の塗布が行われていないために)セラミック基材のみを切断すること。
【0076】
実施の形態a.及びb.による金属−セラミック基材を加工処理する本発明方法は、好ましくは、プロセスガスの存在下で行われ、そこでは酸素又は圧縮空気がプロセスガスとして使用することができる。上述したように、プロセスガスの使用は強制的ではないが、ビーム源を汚染から保護するためにその使用が勧められる。この場合、圧縮空気の使用が好ましい選択である。
【0077】
本発明方法においては、レーザ加工処理によってダストが発生するので、使用する装置は、レーザ加工処理によって発生するダストを吸引する吸引装置を有するのが特に好適である。
【0078】
その吸引装置は、投射されるレーザ光を囲む吸引管又は吸引ボックスによって形成されており、そしてその装置の下端部は金属−セラミック基材の表面から所定の距離、好ましくは、0.5〜10cm、より好ましくは、0.75〜7.5cm、さらに好ましくは、1〜5cmだけ離れて設けられる。
【0079】
本発明のさらに別の目的は上記した方法によって得られる金属−セラミック基材である。
【0080】
本発明の金属−セラミック基材は、連続的又は断続的なスクライブ溝を有することもでき、この溝は、例えば、少なくとも20μm、より好ましくは、少なくとも30μm、さらに好ましくは、少なくとも50μmの深さであり、それぞれの溝は当該セラミック基材の平坦面に対して垂直である。
【0081】
0.38mmの層厚さを有するセラミック基材に対して、レーザスクライブラインの目標深度は、好ましくは、30〜120μm、より好ましくは、40〜110μm、さらに好ましくは、50〜100μmである。
【0082】
0.63mmの層厚さを有するセラミック基材に対して、レーザスクライブラインの目標深度は、好ましくは、40〜140μm、より好ましくは、50〜130μm、さらに好ましくは、60〜120μmである。
【0083】
さらに、金属−セラミック基材は、好ましくは、15〜75μm、より好ましくは、20〜70μm、さらに好ましくは、25〜65μmのスクライブ溝の幅を有している。
【0084】
本発明方法によって加工処理されたセラミック基材は、スクライブラインの側部におけるグレージングは本質的に存在せず、かつスクライブライン内にはガラス相の残渣は本質的に存在しない。スクライブラインの領域に形成されるマイクロクラックに起因して、セラミック基材の破断は困難を伴うことなく可能である。
【0085】
本発明の金属−セラミック基材はIRレーザを用いる加工処理によって得られる外部形状を有し、その外部形状は直線からは外れておりかつレーザビームを用いてセラミック基材を切断することによって得られる。さらに、本発明の金属−セラミック基材は穴及び/又はコーナー部における丸み付けを示し、それらはセラミック基材を切断することによって作成される。
【0086】
p秒IRレーザを用いるIRレーザ法によって得られる金属−セラミック基材は、好ましくは、最大で30°、より好ましくは、最大で25°だけ直角から外れた角度の切断エッジを有している。IRレーザ法によって金属−セラミック基材に穴が形成される場合には、そのサイズはセラミック基材の両側で異なることになる。しかしながら、好ましくは、金属−セラミック基材は穴部分及び/又は丸み付け部分においてバリの発生はない。
【0087】
本発明によるIRレーザ法に起因して、金属−セラミック基材が得られ、その基材はセラミック基材の金属塗膜面にコードを有している。このコード付けは、好ましくは、IRレーザによる金属塗膜のアブレーションによって行われる。
【0088】
さらに、本発明方法を用いて、金属−セラミック基材が得られ、その基材においてセラミック基材上の金属被覆は減衰のための少なくとも1つのエッジを有し、又は電子部品、特にチップを入れるための少なくとも1つの凹部を有し、その凹部はレーザ加工処理によって形成される。
【実施例】
【0089】
本発明は下記する実施例との関連でより詳細に説明される。
【0090】
(実施例1)
(1)金属−セラミック基材
次の実験はDCB法によって得られた金属−セラミック基材について行われた。
セラミック基材はAlセラミック材料である。当該セラミック基材の層厚さは0.38mm(実験シリーズ1)及び0.63mm(実験シリーズ2)である。
(2)レーザ
続きの実験は下記のレーザを用いて行われた。
パワー: 100W
レーザ源: IR
レーザのパルス持続時間: 0.1〜100ps
レーザのパルスエネルギー:10〜500μJ
スポット径: 30μm
レーザの周波数: 350〜650kHz
上記レーザを用いて、レーザスクライブラインがセラミック基材に形成され、そして次に当該セラミック基材はレーザスクライブラインで切断される。
(3)結果
【0091】
【表1】
評価:
+:良好な切断挙動
0:平均的な切断挙動
−:不良な切断挙動
【0092】
実験シリーズは、15m/秒までの間のリアル速度が切断挙動に対しては適切であることを示している。IRレーザのより高いリアル速度は不良な切断挙動を招く。
【0093】
IRレーザのこれらの速度においては、レーザスクライブライン内におけるガラス相の発生は本質的に防がれ、そして充分量のマイクロクラックが形成されており、その結果、セラミック基材の切断が可能である。
【0094】
0.05m/秒未満のリアル速度は、スクライブラインが深くなりすぎる(ガラス相の生成過多)ため、不利である。また、0.05m/秒未満のリアル速度は経済的理由からも不利である。