(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フッ素化鎖状カルボン酸エステルは、酢酸2,2,2−トリフルオロエチル及び3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチルを含む、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
Niを含むリチウム複合酸化物は、例えば、Li原料及びNi原料を含む原料混合物を焼成することにより得られる。しかし、上記原料混合物の焼成温度は、一般的に、Niを含まないリチウム複合酸化物を得るための原料混合物の焼成温度より低いため、Li原料等を過剰に添加しないと、目的とするNiを含むリチウム複合酸化物を得ることができない場合がある。そのため、得られたNiを含むリチウム複合酸化物には、原料の一部が未反応成分として残留しやすい。この未反応成分は、主にLi原料であるLiOHやLiCO
3等のアルカリ成分である。
【0011】
そして、Niを含むリチウム複合酸化物を有する正極活物質、フッ素化鎖状カルボン酸エステルを含む非水電解質を備える非水電解質二次電池において、充放電を行うと、フッ素化鎖状カルボン酸エステルは、前述のアルカリ成分により分解され、正極活物質上にフッ素化鎖状カルボン酸エステル由来の被膜が形成される。正極活物質上に形成されたフッ素化鎖状カルボン酸エステル由来の被膜は、リチウムイオン透過性が低いため、正極活物質へのリチウムイオンの挿入・脱離を阻害する抵抗成分となり、非水電解質二次電池の直流抵抗が上昇すると考えられる。
【0012】
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、フッ素化鎖状カルボン酸エステル由来の被膜の生成を抑制し、非水電解質二次電池の直流抵抗の上昇を抑制する物質として、一般式CF
3CH
2CO−CClR
1R
2(式、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜2のアルキル基、又は炭素数1〜2のハロゲン化アルキル基から選択される)で表される有機塩素化合物が有効であることを見出し、以下に説明する態様の非水電解質二次電池を想到するに至った。なお、本願において、一般式CF
3CH
2CO−CClR
1R
2(式、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜2のアルキル基、又は炭素数1〜2のハロゲン化アルキル基から選択される)で表される有機塩素化合物を、第1化合物と称した箇所がある。
【0013】
本開示の一態様にかかる非水電解質二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極と、非水電解質とを備える。前記正極活物質は、Niを含むリチウム複合酸化物を含む。前記非水電解質は、フッ素化鎖状カルボン酸エステルを含む非水溶媒と、有機塩素化合物とを含む。前記有機塩素化合物は、一般式CF
3CH
2CO−CClR
1R
2(式、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜2のアルキル基、又は炭素数1〜2のハロゲン化アルキル基から選択される)で表される。
【0014】
本開示の一態様にかかる非水電解質二次電池の非水電解質に含まれる上記有機塩素化合物は、フッ素化鎖状カルボン酸エステルより、正極活物質に混入したアルカリ成分との反応性が高いため、アルカリ成分と上記有機塩素化合物とが反応し、アルカリ成分とフッ素化鎖状カルボン酸エステルとの反応が抑制されると考えられる。その結果、正極活物質上でのフッ素化鎖状カルボン酸エステル由来の被膜形成が抑制されると考えられる。
【0015】
上記有機塩素化合物は、以下の反応式(1)に示すように、アルカリ成分により分解され、反応式(1)に示す構造式(A)や(B)等から構成される被膜(以下、有機塩素化合物由来の被膜と称する)が、正極活物質表面に形成されると考えられる。
【0017】
上記構造式(A)や(B)等から構成される有機塩素化合物由来の被膜にはClが含まれる。Clは電気陰性度が高いため、リチウムイオンを引き付け易いが、その一方で、リチウムより原子半径が大きいため、リチウムイオンとの相互作用は小さい。すなわち、非水電解質二次電池の充放電過程において、リチウムイオンは、有機塩素化合物由来の被膜中のClに引き寄せられるが、Clとは結合しないため、有機塩素化合物由来の被膜内を比較的スムーズに移動するものと考えられる。したがって、有機塩素化合物由来の被膜は、Clが存在しないフッ素化鎖状カルボン酸エステル由来の被膜と比べて、リチウムイオンの透過性が高い膜であると考えられる。すなわち、本開示の一態様にかかる非水電解質二次電池によれば、非水電解質中の上記有機塩素化合物により、イオン透過性の低いフッ素化鎖状カルボン酸エステル由来の被膜の形成が抑えられ、イオン透過性の高い有機塩素化合物由来の被膜の形成が促進されるため、非水電解質二次電池の直流抵抗の上昇が抑制されると考えられる。
【0018】
本開示の他の態様にかかる非水電解質二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極と、非水電解質とを備える。前記正極活物質は、Niを含むリチウム複合酸化物を含み、前記非水電解質は、フッ素化鎖状カルボン酸エステルを含む非水溶媒と、2−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロペンタン(CF3−CHCl−CHF−CH2−CH3)とを含む。2−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロペンタンは、有機塩素化合物である。非水電解質に2−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロペンタンを含む場合も、Clを含んだ有機塩素化合物由来の被膜が正極活物質表面に形成される。本開示の他の態様にかかる非水電解質二次電池によれば、Niを含むリチウム複合酸化物を含む正極活物質、フッ素化鎖状カルボン酸エステルを含む非水電解質を備える非水電解質二次電池において、非水電解質二次電池の直流抵抗の上昇を抑制することが可能となる。
【0019】
本開示の一態様にかかる非水電解質二次電池の実施形態について詳細に説明する。以下で説明する実施形態は一例であって、本開示はこれに限定されるものではない。
【0020】
実施形態の一例である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備える。正極と負極との間には、セパレータを設けることが好適である。具体的には、正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる巻回型の電極体と、非水電解質とが外装体に収容された構造を有する。電極体は、巻回型の電極体に限定されず、正極及び負極がセパレータを介して積層されてなる積層型の電極体など、他の形態の電極体が適用されてもよい。また、非水電解質二次電池の形態としては、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、ボタン型、ラミネート型などが例示できる。
【0021】
以下、実施形態の一例である非水電解質二次電池に用いられる非水電解質、正極、負極、セパレータについて詳述する。
【0022】
[非水電解質]
非水電解質は、フッ素化鎖状カルボン酸エステルを含む非水溶媒と、有機塩素化合物と、電解質塩とを含む。非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0023】
非水溶媒に含まれるフッ素化鎖状カルボン酸エステルは、鎖状カルボン酸エステルにおおける水素の少なくとも1つがフッ素で置換されている化合物であれば特に制限されるものではないが、例えば、非水電解質二次電池の充放電サイクル特性の低下を抑制する点等から、下記一般式で表されるフッ素化鎖状カルボン酸エステルを含むことが好ましい。
【0024】
R
1−CH
2−COO−R
2
(式中、R
1は水素又はアルキル基、R
2はアルキル基を表し、R
1とR
2における炭素数の和が3以内であり、R
1が水素である場合には、R
2における水素の少なくとも一部がフッ素で置換され、R
1がアルキル基である場合には、R
1及びR
2のうちの少なくともいずれか一方の水素の少なくとも一部がフッ素で置換されている)。
【0025】
具体的なフッ素化鎖状カルボン酸エステルとしては、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチル、酢酸2,2,2−トリフルオロエチル、2,3,3,3−テトラフルオロプロピオン酸メチル、2,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチル等から選択される少なくとも1種が挙げられる。非水電解質二次電池の充放電サイクル特性の低下を抑制する点等から、フッ素化鎖状カルボン酸エステルは、酢酸2,2,2−トリフルオロエチル(CH
3CH
2CO−OCH
2CF
3)を含むことが好ましく、酢酸2,2,2−トリフルオロエチル(CH
3CO−OCH
2CF
3)及び3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチル(CF
3CH
2CO−OCH
3)を含むことがより好ましい。酢酸2,2,2−トリフルオロエチル(CH
3CH
2CO−OCH
2CF
3)と3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチル(CH
3CO−OCH
2CF
3)は同じ分子量を持つ異性体であるために、構造も近いことから反応性が類似している。一般式CF
3CH
2CO−CClR
1R
2の有機塩素化合物も含め、これらは同じCF
3CH
2基を有しているため、CF
3CH
2基を有さない他の分子よりも立体反発が小さい。これら分子が共存していると、一般式CF
3CH
2CO−CClR
1R
2の有機塩素化合物から始まる被膜形成反応において、フッ素化鎖状カルボン酸エステルが被膜形成反応に取り込まれ易く、緻密な被膜が形成されると考えられる。なお、非水電解液に酢酸2,2,2−トリフルオロエチル及び3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチルを含むほうが、非水電解液に3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチルが含まれない場合よりも、緻密な被膜となると考えられる。
【0026】
フッ素化鎖状カルボン酸エステルの含有量は、例えば、非水溶媒の総量に対して30体積%以上であることが好ましく、50体積%以上90体積%以下であることがより好ましい。フッ素化鎖状カルボン酸エステルの含有量が、非水溶媒の総量に対して30体積%未満では、上記範囲を満たす場合と比較して、例えば、非水電解質二次電池の充放電サイクル特性の低下を十分に抑制することができない場合がある。また、フッ素化鎖状カルボン酸エステルが酢酸2,2,2−トリフルオロエチルを含む場合、酢酸2,2,2−トリフルオロエチルの含有量は、例えば、非水溶媒の総量に対して30体積%以上90体積%以下であることが好ましい。酢酸2,2,2−トリフルオロエチルの含有量が、非水溶媒の総量に対して30体積%未満であると、上記範囲を満たす場合と比較して、例えば、非水電解質二次電池の充放電サイクル特性の低下を十分に抑制することができない場合がある。
【0027】
非水溶媒は、フッ素化鎖状カルボン酸エステルの他に、他の非水溶媒を含んでいてもよい。他の非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類、酢酸メチル、酢酸エチル等のカルボン酸エステル類、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル等の鎖状エーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類等から選択される少なくとも1種の非水溶媒等が挙げられる。
【0028】
非水電解質に含まれる有機塩素化合物は、一般式CF
3CH
2CO−CClR
1R
2(式、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜2のアルキル基、又は炭素数1〜2のハロゲン化アルキル基から選択される)で表される。上記有機塩素化合物としては、例えば、1−クロロ−1,4,4,4−テトラフルオロブタン−2−オン、1−クロロ−4,4,4−テトラフルオロブタン−2−オン、4−クロロ−1,1,1−トリフルオロペンタン−3−オン等から選択される少なくとも1種の有機塩素化合物等が挙げられる。上記有機塩素化合物は、非水電解質二次電池の直流抵抗を抑制する点等から、1−クロロ−1,4,4,4−テトラフルオロブタン−2−オンを含むことが好ましい。
【0029】
非水電解質に含まれる有機塩素化合物は、一般式CF
3CH
2CO−CClR
1R
2(式、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜2のアルキル基、又は炭素数1〜2のハロゲン化アルキル基から選択される)と2−クロロ−1,1,1,3−テトラフルオロペンタンの両方を含んでいても良い。
【0030】
上記有機塩素化合物の含有量は、例えば、非水電解質の総量に対して0.002質量%以上0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.05質量%以下であることがより好ましい。上記有機塩素化合物の含有量が、非水電解質の総量に対して0.002質量%未満であると、上記範囲を満たす場合と比較して、フッ素化鎖状カルボン酸由来の被膜の形成を十分に抑制することができず、非水電解質二次電池の直流抵抗が高くなる場合がある。また、上記有機塩素化合物の含有量が、非水電解質の総量に対して0.1質量%を超えると、上記範囲を満たす場合と比較して、負極に有機塩素化合物由来の被膜が形成され、容量が低下する場合がある。
【0031】
非水電解質に含まれる電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩には、従来の非水電解質二次電池において支持塩として一般に使用されているものを用いることができる。具体例としては、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiClO
4、LiCF
3SO
3、LiN(FSO
2)
2、LiN(C
1F
2l+1SO
2)(C
mF
2m+1SO
2)(l,mは1以上の整数)、LiC(C
pF
2p+1SO
2)(C
qF
2q+1SO
2)(C
rF
2r+1SO
2)(p、q、rは1以上の整数)、Li[B(C
2O
4)
2](ビス(オキサレート)ホウ酸リチウム(LiBOB))、Li[B(C
2O
4)F
2]、Li[P(C
2O
4)F
4]、Li[P(C
2O
4)
2F
2]等が挙げられる。これらのリチウム塩は、1種単独でもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
[正極]
正極は、例えば金属箔等の正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とで構成される。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極活物質層は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む。
【0033】
正極は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布・乾燥することによって、正極集電体上に正極活物質層を形成し、当該正極活物質層を圧延することにより得られる。
【0034】
正極活物質は、Niを含むリチウム複合酸化物を含む。Niを含むリチウム複合酸化物としては、特に限定されるものではないが、例えば、Li−Ni複合酸化物、Li−Ni−Co複合酸化物、Li−Ni−Mn−Co複合酸化物、Li−Ni−Co−M複合酸化物、Li−Mn−Co−M複合酸化物、Li−Ni−Mn−Co−M複合酸化物等から選択される少なくとも1種のリチウム複合酸化物等が挙げられ、これらの中では、Li−Ni複合酸化物、Li−Ni−Co複合酸化物等が好ましい。上記Mは、Li、Ni、Co以外の少なくとも1種の元素であれば特に制限されるものではなく、例えば、Al、Mg、Ti、Cr、Cu、Ze、Sn、Zr、Nb、Mo、Ta、W、Na、K、Ba、Sr、Bi、Be、Mn及びBから選ばれる少なくとも1種の元素等が挙げられる。
【0035】
Niを含むリチウム複合酸化物は、当該リチウム複合酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対するNiの割合が、20モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることが好ましい。当該リチウム複合酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対するNiの割合が、20モル%未満の場合、上記範囲を満たす場合と比較して、非水電解質二次電池の充放電容量が低下する場合がある。
【0036】
Niを含むリチウム複合酸化物は、結晶構造の安定性等の点から、Coを含むことが好ましいが、当該リチウム複合酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対するCoの割合は、1モル%以上20モル%以下の範囲であることが好ましく、5モル%以上15モル%以下の範囲であることがより好ましい。当該リチウム複合酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対するCoの割合が、1モル%未満であると、上記範囲を満たす場合と比較して、結晶構造が不安定となり、充放電サイクル特性が低下する場合がある。また、当該リチウム複合酸化物中のリチウムを除く金属元素の総モル量に対するCoの割合が20モル%を超えると、上記範囲を満たす場合と比較して、非水電解質二次電池の充放電容量が低下する場合がある。
【0037】
Niを含むリチウム複合酸化物を構成する各元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)や電子線マイクロアナライザー(EPMA)、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により測定することができる。
【0038】
Niを含むリチウム複合酸化物の含有量は、正極活物質の総量に対して50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。Niを含むリチウム複合酸化物の含有量が、正極活物質の総量に対して50質量%未満であると、上記範囲を満たす場合と比較して、非水電解質二次電池の充放電容量が低下する場合がある。
【0039】
Niを含むリチウム複合酸化物の製造方法の一例を説明する。例えば、LiOHやLiCO
3等のLi原料、Niを含む遷移金属酸化物を所定の混合比率で混合した原料混合物を所定温度で焼成する方法が挙げられる。焼成温度は、例えば、650℃以上900℃以下であることが好ましく、特に700℃から850℃であることが好ましい。なお、この焼成温度は、Niを含まないリチウム複合酸化物を製造する際の一般的な焼成温度より低いため、Li原料等を過剰に添加しないと、目的とするNiを含むリチウム複合酸化物を得ることができない場合がある。Li原料は、例えば、混合物中のLiを除く金属に対するLiのモル比が、1.03以上となるように添加されることが好ましく、1.05以上となるように添加されることがより好ましい。混合物中のLiのモル比が1.03未満であると、目的とするNiを含むリチウム複合酸化物を得ることができない場合がある。
【0040】
正極活物質は、Niを含むリチウム複合酸化物の他に、Niを含まないリチウム複合酸化物を含んでいてもよい。Niを含まないリチウム複合酸化物としては、特に制限されるものではないが、例えば、Li−Co複合酸化物、Li−Co−M複合酸化物(Mは、例えば、Al、Mg、Ti、Cr、Cu、Ze、Sn、Zr、Nb、Mo、Ta、W、Na、K、Ba、Sr、Bi、Be、Mn及びB等から選択される1種以上の添加金属)等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
導電材としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末等が挙げられる、これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
結着剤としては、例えば、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。フッ素系高分子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等が挙げられ、ゴム系高分子としては、例えば、エチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
[負極]
負極は、例えば金属箔等の負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とを備える。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極活物質層は、例えば、負極活物質、結着材、増粘剤等を含む。
【0044】
負極は、例えば、負極活物質、増粘剤、結着剤を含む負極合材スラリーを負極集電体上に塗布・乾燥することによって、負極集電体上に負極活物質層を形成し、当該負極活物質層を圧延することにより得られる。
【0045】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な材料であれば特に制限されるものではなく、例えば、金属リチウム、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−鉛合金、リチウム−シリコン合金、リチウム−スズ合金等のリチウム合金、黒鉛、コークス、有機物焼成体等の炭素材料、SnO
2、SnO、TiO
2等の金属酸化物等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
結着剤としては、例えば、正極の場合と同様にフッ素系高分子、ゴム系高分子等を用いることもできるが、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。
【0047】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。これらは、1種単独でもよし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
[セパレータ]
セパレータには、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
<実施例>
[正極の作製]
LiOHと、共沈により得られたNi
0.82Co
0.15Al
0.03(OH)
2で表されるニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物を熱処理して得られた酸化物とを、Liと、Li以外の金属全体とのモル比が1.1:1となるように混合し、この混合物を酸素雰囲気中にて760℃で20時間熱処理することにより、LiNi
0.82Co
0.15Al
0.03O
2(NCA)で表されるリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物を得た。これを正極活物質とした。当該正極活物質と、導電材としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを、質量比で100:1:0.9となるように混合した後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて、正極合材スラリーを調製した。次いで、この正極合材スラリーを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布した。塗膜を乾燥した後、圧延ローラを用いて圧延することにより、正極集電体の両面に正極活物質層が形成された正極を作製した。正極活物質の充填密度は3.6g/cm
3であった。
【0051】
[負極の作製]
負極活物質としての人造黒鉛と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩と、結着材としてのスチレン−ブタジエン共重合体とを、質量比で100:1:1となるように混合して、負極合材スラリーを調製した。次いで、この負極合材スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布した。塗膜を乾燥させた後、圧延ローラを用いて圧延することにより、負極集電体の両面に負極活物質層が形成された負極を作製した。負極活物質の充填密度は1.7g/cm
3であった。
【0052】
[非水電解液の調製]
フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、プロピレンカーボネート(PC)と、3,3,3−トリフルオロプロピオン酸メチル(FMP)と、酢酸2,2,2−トリフルオロエチル(FEA)とを、15:5:40:40の体積比で混合した混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を1.3モル/Lの濃度となるように溶解させ、電解液を調製した。当該電解液100質量部に対して、1.5質量部の割合(1.5質量%)でビニレンカーボネート(VC)と、0.015質量部の割合(0.014質量%)で1−クロロ−1,4,4,4−テトラフルオロブタン−2−オン(CTFB:CF
3CH
2CO−CClHF)を含むように調製し、これを実施例の非水電解液とした。
【0053】
[電池の作製]
上記正極(30×40mm)及び負極(32×42mm)に、それぞれリード端子を取り付けた。次に、正極及び負極がセパレータを介して対向するように電極体を作製し、当該電極体を上記非水電解液と共に、アルミニウムのラミネート外装体に封入し、設計容量が50mAhの非水電解質二次電池を作製した。作製した非水電解質二次電池を0.5It(25mA)で、電圧が4.35Vになるまで定電流充電を行った。次に、電圧4.35Vの定電圧で、電流が0.05It(2.5mA)になるまで定電圧充電した後、20分間放置した。その後、0.5It(25mA)で、電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った。この充放電を2サイクル行い、電池を安定化させた。これを実施例の電池とした。
【0054】
<比較例>
非水電解質の調製において、1−クロロ−1,4,4,4−テトラフルオロブタン−2−オン(CTFB:CF
3CH
2CO−CClHF)を含まないこと以外は実施例と同様に非水電解質を調製した。これを比較例の非水電解質として用いたこと以外は、実施例と同様にして電池を作製した。
【0055】
[初期容量の測定]
25℃の恒温槽で、実施例及び比較例の電池を0.2It(10mA)で、電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行った。次に、電圧4.2Vの定電圧で電流が0.2It(1mA)になるまで定電圧充電した後、20分間放置した。その後、0.2It(650mA)で、電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。この時の放電容量を初期放電容量として、実施例及び比較例の電池の初期容量を以下の式により求めた。
【0056】
初期容量(mAh/g)=初期放電容量(mAh)/正極活物質重量(g)
[直流抵抗(DC−IR)の測定]
25℃の恒温槽で、実施例及び比較例の電池を0.2It(10mA)で、電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行った。このときの電圧をV
0とした。次に、0.2It(10mA)で1分間定電流放電を行った。このときの1分後の電圧をV
1とした。そして、以下の式からDC−IRを求めた。
【0057】
DC−IR=(V
0−V
1)/10mA
[容量維持率の測定]
25℃の恒温槽で、実施例及び比較例の電池を0.2It(10mA)で、電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行った。次に、電圧4.2Vの定電圧で電流が0.02It(1mA)になるまで定電圧充電した後、20分間放置した。その後、0.2It(650mA)で、電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。この充放電を300サイクル行った。そして、以下の式により、容量維持率を求めた。
【0058】
容量維持率=(300サイクル時点での放電容量/1サイクル時点での放電容量)×100
表1に、実施例の電池及び比較例の電池で使用した正極活物質、非水溶媒の組成、1−クロロ−1,4,4,4−テトラフルオロブタン−2−オンの有無、実施例の電池及び比較例の電池の初期容量、直流抵抗(DC−IR)、及び容量維持率の結果をまとめた。但し、表1の直流抵抗においては、比較例の電池の直流抵抗を基準(100%)として、実施例の電池の直流抵抗を相対的に示し、表1の容量維持率においては、比較例の電池の容量維持率を基準(100%)として、実施例の電池の容量維持率を相対的に示している。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例の電池は、比較例の電池と比較して、初期容量及び容量維持率は同等の性能であったが、直流抵抗は低い値を示した。すなわち、実施例の電池のように、Ni含有リチウム複合酸化物を含む正極活物質と、フッ素化鎖状カルボン酸エステルを含む非水電解質を用いた非水電解質二次電池においては、当該非水電解質に、一般式CF
3CH
2CO−CClR
1R
2(式、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜2のアルキル基、又は炭素数1〜2のハロゲン化アルキル基から選択される)で表される有機塩素化合物を含むことで、非水電解質二次電池の直流抵抗の上昇を抑制することが可能となった。
【0061】
<参考例1>
LiOHと、水酸化コバルトとを、LiとCoとのモル比が1:1となるように混合した混合物を酸素雰囲気中にて950℃で20時間熱処理することにより、LiCoO
2(LCO)で表されるリチウムコバルト複合酸化物を得た。これを参考例1の正極活物質として用いたこと以外は、実施例と同様にして電池を作製した。
【0062】
<参考例2>
LiOHと、水酸化コバルトとを、LiとCoとのモル比が1:1となるように混合した混合物を酸素雰囲気中にて950℃で20時間熱処理することにより、LiCoO
2(LCO)で表されるリチウムコバルト複合酸化物を得た。これを参考例2の正極活物質として用いた。また、非水電解質の調製において、1−クロロ−1,4,4,4−テトラフルオロブタン−2−オン(CTFB:CF
3CH
2CO−CClHF)を含まないこと以外は実施例と同様に非水電解質を調製した。これを参考例2の非水電解質とした。これらの正極活物質及び非水電解質を用いたこと以外は、実施例と同様にして電池を作製した。
【0063】
参考例1及び2の電池において、上記と同じ条件で初期容量、直流抵抗(DC−IR)、及び容量維持率を測定した。
【0064】
表2に、参考例1及び2の電池で使用した正極活物質、非水溶媒の組成、1−クロロ−1,4,4,4−テトラフルオロブタン−2−オンの有無、参考例1及び2の電池の初期容量、直流抵抗(DC−IR)、及び容量維持率の結果をまとめた。但し、表2の直流抵抗においては、比較例の電池の直流抵抗を基準(100%)として、参考例1,2の電池の直流抵抗を相対的に示し、表2の容量維持率においては、比較例の電池の容量維持率を基準(100%)として、参考例1,2の電池の容量維持率を相対的に示している。
【0065】
【表2】
【0066】
参考例1の電池と参考例2の電池とを比較すると、直流抵抗はほとんど差がなく、同等の性能であった。すなわち、NiやMnを含まないリチウム複合酸化物を有する正極活物質と、フッ素化鎖状カルボン酸エステルを含む非水電解質を用いた非水電解質二次電池においては、当該非水電解質に、一般式CF
3CH
2CO−CClR
1R
2(式、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、炭素数1〜2のアルキル基、又は炭素数1〜2のハロゲン化アルキル基から選択される)で表される有機塩素化合物を添加しても、非水電解質二次電池の直流抵抗の上昇を抑制する効果が十分に得られないと言える。これは、NiやMnを含まないリチウム複合酸化物の合成においては、フッ素化鎖状カルボン酸エステルや上記有機塩素化合物と反応するアルカリ成分が、ほとんど正極活物質中に存在していないためであると考えられる。なお、参考例1や参考例2の電池の直流抵抗が、比較例1の直流抵抗より高い原因は、使用した正極活物質の性能によるものであると考えられる。