(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858818
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】二酸化チタンスラリーを用いて製造される再生ポリエステル繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/92 20060101AFI20210405BHJP
【FI】
D01F6/92 301U
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-162786(P2019-162786)
(22)【出願日】2019年9月6日
(65)【公開番号】特開2020-133090(P2020-133090A)
(43)【公開日】2020年8月31日
【審査請求日】2019年9月6日
(31)【優先権主張番号】108106087
(32)【優先日】2019年2月22日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100128923
【弁理士】
【氏名又は名称】納谷 洋弘
(74)【代理人】
【識別番号】100180297
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 裕子
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲テ▼超
(72)【発明者】
【氏名】蘇 崇智
(72)【発明者】
【氏名】▲ライ▼ 佳昇
【審査官】
伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−095228(JP,A)
【文献】
特開平08−199428(JP,A)
【文献】
特開2005−179877(JP,A)
【文献】
特開平11−217492(JP,A)
【文献】
特開2009−097105(JP,A)
【文献】
特開2014−101612(JP,A)
【文献】
特許第3247101(JP,B2)
【文献】
中国特許出願公開第108396404(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第108035012(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−6/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生フレークで製造された再生ポリエステルチップ95.0〜99.99wt%と、二酸化チタンスラリー0.01〜5.0wt%とを素材とし、二酸化チタンを含有するポリエステル粒子が溶融紡糸された再生ポリエステル繊維であって、
前記二酸化チタンスラリーに、
a)油脂イオンのヨウ素価が40〜130にあるバイオ油脂 20〜50wt%
b)アナターゼ型二酸化チタン粉体から選ばれ、粒子径が1μm以下であり、表面が変性剤で処理されてポリエステル繊維に分散し易い二酸化チタン粉体 50〜80wt%
c)酸共重合体、酸性エーテル、変性脂肪酸およびリン酸エステル系ポリマーから選ばれる1種以上の分散剤 0.1〜5wt%
d)ヒンダードフェノール型又はホスファイト型酸化防止剤から選ばれる酸化防止剤 0.01〜3wt%
e)無機染料、有機染料又は顔料から選ばれる着色剤が0.001〜0.1wt%、
の成分が全量で100wt%となるように均等に分散して含まれる、
ことを特徴とする、再生ポリエステル繊維。
【請求項2】
製造される再生ポリエステル繊維はPOY又はFDY繊維であることを特徴とする、請求項1に記載の再生ポリエステル繊維。
【請求項3】
前記二酸化チタンスラリーの粘度値は3000〜15000cpsであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の再生ポリエステル繊維。
【請求項4】
前記二酸化チタンスラリーの耐熱性は300℃による重量損失が5%よりも小さいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の再生ポリエステル繊維。
【請求項5】
JIS Z8729方法で測定した前記再生ポリエステル繊維の色艶に関するL値は70よりも大きいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の再生ポリエステル繊維。
【請求項6】
前記再生ポリエステル繊維の色艶に関するb値は−1.0〜3.2であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の再生ポリエステル繊維。
【請求項7】
前記二酸化チタンスラリーのバイオ油脂の油脂イオンのヨウ素価は110であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の再生ポリエステル繊維。
【請求項8】
前記二酸化チタンスラリーの二酸化チタンはアナターゼ型二酸化チタン粉体から選ばれ、その粒子径が1μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の再生ポリエステル繊維。
【請求項9】
前記二酸化チタンスラリーの分散剤は変性脂肪酸であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の再生ポリエステル繊維。
【請求項10】
前記酸化防止剤はビス(2,6−ジーt−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の再生ポリエステル繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生ポリエステル繊維に関し、特に、再生材料から二酸化チタンを含有したポリエステル繊維を生成するプロセスに適用し、生成されたポリエステル繊維の色艶が要求に合致するように、色艶を調整することができる二酸化チタンスラリーを用いて製造される再生ポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者は、断熱 および冷却、吸湿および急速乾燥、保温、消毒および消臭、ならびに織物製品の帯電防止効果などの織物製品の着用快適性にますます重点を置いている。したがって、様々な種類の機能性繊維が次第に開発されてきた。さらに、抗UV機能を備えたポリエステル糸の市場は、アウトドアスポーツの必要性と地球温暖化の影響により、継続的に拡大されている。
【0003】
ポリエステル繊維は優れた光透過性を有するため、光遮蔽の効果を達成して布生地が光を透過させないために、またはその光透過性を低減させるために、その光透過に対して遮光処理が施されている必要がある。二酸化チタンの遮光性について、紫外線防止という機能を付加させるために、二酸化チタンを含有するポリエステル繊維と、繊維に二酸化チタンを加えることは既知の技術である。
【0004】
従来、このような二酸化チタンを含有するポリエステル繊維については、中国特許公報CN101864067Bにおいて、重縮合反応工程において二酸化チタン粉体を添加し、紫外線防止機能を有するポリエステル繊維の製造について開示されている。しかし、この方法では、プロセスにおいて二酸化チタンが良好に分散しないと、凝集現象が生じる恐れがあり、また、二酸化チタン粉体を添加する際に、発塵現象が生じやすいという欠点がある。
【0005】
類似的な技術としては、中国特許公報CN101993525Aにおいて、重縮合反応において二酸化チタンスラリーを添加し、遮光性のポリエステル繊維を製造することが開示されている。しかし、この方法によれば、二酸化チタン粉体の凝集現象を低減できるが、重合反応レートの問題について依然として注意すべきである。
【0006】
ポリエステルの再生フレークで二酸化チタンを含有する再生ポリエステルを製造することについては、中国特許公報CN100473764Cに、押出造粒工程中に二酸化チタンマスターバッチを再生ポリエステルに配合し、そして、紡糸することにより、再生ポリエステル繊維を得ることができることが開示されている。しかし、この方法は生産には有益であるが、再生フレークの供給源が異なる場合、再生フレークの色の差異により、ポリエステルチップの製造に際して、ポリエステルチップの色を効果的かつ迅速に調整することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】中国特許公報CN101864067B
【特許文献2】中国特許公報CN101993525A
【特許文献3】中国特許公報CN100473764C
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した従来技術の問題を解決するために、本発明の主な目的は、セミダル(半艶消し)またはフルダル(全艶消し)の再生ポリエステル繊維を提供することである。特に、回収ポリエステルボトルフレークに、液体の二酸化チタンスラリーを添加することにより、色艶が規格又はユーザ要求に合致するセミダル又はフルダルのポリエステル繊維を製造することに関する。
【0009】
特に、本発明の主な目的は、セミダルのポリエステル繊維の製造を提供することにあり、特に、再生ボトルフレークで製造された再生ポリエステルチップを利用して紡糸した後、物性が合格で色艶が規格に合致することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る二酸化チタンスラリーは、担体としてバイオ油脂又は合成油脂を含み、少なくとも1種の粉体、分散剤、酸化防止剤、又は他の機能添加剤を含むスラリーである。
【0011】
本発明に利用される油脂は、バイオ油脂から選ばれ、大豆油、グレープシード油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、落花生油、ヒマワリ油、コムギ胚芽油、アーモンド油、ヒマシ油、ゴマ油、及びこれらの組み合わせを含むが、これに制限されない。本発明に利用される油脂は、キャノーラ油を含むことが好ましい。
【0012】
本発明に利用される分散剤は、酸性コポリマー、酸性ポリエーテル類、変性脂肪酸、及びリン酸塩類高分子から選ばれ、その中でも、変性脂肪酸が好ましい。
【0013】
本発明の酸化防止剤は、ヒンダードフェノール型又はホスファイト型酸化防止剤から選ばれ、好ましくはビス(2,6−ジーt−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトから選ばれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るポリエステル繊維によれば、再生フレークの色艶の差異度に基づいてスラリーにおける色材の濃度を調整して調製し、二酸化チタンを含有するポリエステル繊維を合格の色差値に達成させることができる。
【0015】
本発明に係る二酸化チタンを含有するポリエステル粒子によれば、樹脂粒子を製造する押出プロセスにおいて二酸化チタンスラリーや、再生フレークで製造された再生ポリエステルチップを添加し、更にセミダル又はフルダルのポリエステル繊維を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るポリエステル繊維は、再生フレークで製造された再生ポリエステルチップ95.0〜99.99wt%、及び二酸化チタンスラリー0.01〜5.0wt%を素材とし、紡糸された後、その物性が合格で色艶が規格に合致するようになる。詳細には、JIS Z8729方法で測定すると、上記再生ポリエステル繊維の色艶に関するL値(明度)は70よりも大きく、色艶に関するb値(色度)が−1.0〜3.2である。
【0017】
本発明に係るポリエステル繊維は、取得された再生フレークの色艶の差異度に基づいてスラリーにおける色材の濃度を調整して調製され、二酸化チタンを含有するポリエステル繊維を合格の色差値に達させることができる。本発明の二酸化チタンスラリーの粘度値は、3000〜15000cpsであり、上記二酸化チタンスラリーの細かさは5μmよりも小さい。上記二酸化チタンスラリーの耐熱性は、300℃による重量損失が5%よりも小さい。
【0018】
本発明の二酸化チタンスラリーの1種としては、熱安定性が良い無機粉体であり、アナターゼ型二酸化チタン粉体から選ばれ、その粒子径は1μm以下であり、二酸化チタン粉体としては、堺化学工業社製のSA−1、富士チタン工業(Fuji Titanium Industry)社製のTA300、Venator社製のhombitan(登録商標)MCT−120から選ばれてもよく、添加量はスラリー重量の1〜80wt%であり、好ましくは70〜80wt%である。
【0019】
本発明に利用される油脂は、バイオ油脂から選ばれ、大豆油、グレープシード油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、落花生油、ヒマワリ油、コムギ胚芽油、アーモンド油、ヒマシ油、又はゴマ油の1種以上を含むが、これに制限されない。本発明に利用される油脂は、キャノーラ油を含むことが好ましい。
【0020】
本発明に利用される分散剤は、酸性コポリマー、酸性ポリエーテル類、変性脂肪酸、及びリン酸塩類高分子から選ばれ、変性脂肪酸が好ましい。
【0021】
本発明における酸化防止剤は、ヒンダードフェノール型又はホスファイト型酸化防止剤から選ばれ、ビス(2,6−ジーt−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0022】
本発明に利用される染料は、無機と有機染料又は顔料を含み、ブルー染料(Solvent blue)シリーズOracet(登録商標)Blue 690、700FA、720、780FE及びPolysynthren Blue RLS、Polysynthren Blue RBLから選ばれ、PolysynthrenBlueRBLが好ましい。
【0023】
本発明に係るスラリーを調製する流れとしては、以下のステップを含む。
【0024】
油脂を攪拌槽に投入し、配合全体の重量に対して、変性脂肪酸1〜10wt%を分散剤として、1000rpmの回転数で攪拌し、30分間攪拌して0.1〜2wt%の酸化防止剤としてのビス(2,6−ジーt−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトと、0.001〜0.01wt%の染料POLYSYNTHREN BLUE RBLを逐次加え、室温で攪拌槽によって3000rpmの回転数で60分間攪拌し、二酸化チタン粉体を添加した。
【0025】
均一に分布できるようにスラリーにおける二酸化チタンの分散性を確保するために、3本ロールミルで複数回研磨して分散し、操作温度25℃〜100℃、好ましくは40〜80℃で行った。孔径10μmのバッグフィルターで研磨後のスラリーをろ過し、生成され得る粗粒を除去した。
【0026】
本発明に係る再生ポリエステルチップの生成は、以下のステップを含む。
【0027】
本発明に係るスラリーについては、回収されたポリエステル瓶チップ材をダブルスクリュー押出機へフィードすると同時に、スクリュー側辺にサイドフィード装置を追加し、配合された上記スラリーを注入し、再生ポリエステルチップを生成することができる。本発明に利用されるダブルスクリュー押出機には排気口と真空吸引装置が設けられ、排気と同時に、各種の有機化合物不純物も徹底的に除去される。
【0028】
本発明に係る再生ポリエステル繊維の製造方法は、以下のステップを含む。
【0029】
再生ポリエステルチップ材を溶融した後、溶融体をメッシュフィルター及び金属砂でろ過して固体不純物を除去し、そしてギアポンプで秤量した後、溶融物を紡糸ボックスに供給し、紡糸するために230℃〜290℃の温度で紡糸する。そして、得られた糸束をサイドブローで冷却し、糸線にオイルを塗布した後、高速で巻き取ってPOY又はFDY繊維を製造した。
【0030】
再生ポリエステル繊維の具体的製法では、再生フレークで製造された再生ポリエステルチップ95.0〜99.99wt%、及び二酸化チタンスラリー0.01〜5.0wt%を素材として、二酸化チタンを含有するポリエステル粒子を溶融紡糸して再生ポリエステル繊維を製造する。それに使用される二酸化チタンスラリーでは、全量が100wt%となるように下記の成分を含む。
【0031】
a)油脂イオンのヨウ素価が40〜130にあり、好ましくは110であるバイオ油脂 20〜50wt%
【0032】
b)アナターゼ型二酸化チタン粉体から選ばれ、粒子径≦1μmであり、表面が変性剤で処理されてポリエステル繊維に分散し易い二酸化チタン粉体 50〜80wt%
【0033】
c)酸共重合体、酸性エーテル、変性脂肪酸およびリン酸エステル系ポリマーから選ばれ、好ましくは変性脂肪酸である分散剤 0.1〜5wt%
【0034】
d)ヒンダードフェノール型又はホスファイト型酸化防止剤から選ばれ、好ましくはビス(2,6−ジーt−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトである酸化防止剤 0.01〜3wt%
【0035】
e)無機と有機染料又は顔料であり、ブルー染料(Solvent blue)シリーズOracet(登録商標)Blue 690、700FA、720、780FE及びPolysynthren Blue RLS、Polysynthren Blue RBLから選ばれ、好ましくはPolysynthren Blue RBLである染料 0.001〜0.1wt%
という成分を含む。
【0036】
以下、実施例ではその実施形態を説明して示す。
【0037】
実施例1及び2
表1の二酸化チタンスラリーに係る配合に従ってスラリー配合A1(実施例1)及びA2(実施例2)を調製した。スラリー配合A1及びA2の性質を表1に示す。
【0038】
表2の素材割合で、再生フレークをポリエステルとして、スラリー配合A1及びA2と一緒に素材として二酸化チタンを含有するポリエステル繊維を製造した。製造された二酸化チタンを含有するポリエステル繊維の色艶物性を表2に示す。