(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記陽極と前記隔壁とで挟まれた領域A、及び前記陰極と前記隔壁とで挟まれた領域B、のそれぞれにおいて、前記吐出口が2個設けられている、請求項1から3のいずれか一項に記載の外部ヘッダー型複極式電解槽。
前記陽極と前記隔壁とで挟まれた領域A、及び/又は前記陰極と前記隔壁とで挟まれた領域Bにおいて、複数個の前記吐出口が鉛直方向に異なる位置に設けられ、鉛直方向に最も高い位置の吐出口が、鉛直方向に最も低い位置の吐出口から排出するガス量よりも多くのガスを排出する吐出口である、請求項1から4のいずれか一項に記載の外部ヘッダー型複極式電解槽。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0032】
以下、本実施形態の複極式エレメント、本実施形態の複極式エレメントを含む複極式電解槽、及び水素製造方法の構成要素について詳細に説明する。また、以下では、本発明の効果を高めるための好適形態についても詳述する。
【0033】
図1に、本実施形態のアルカリ水電解用外部ヘッダー型複極式電解槽の一例の全体についての側面図を示す。
図3に、本実施形態のアルカリ水電解用外部ヘッダー型複極式電解槽の一例の一部の、複極式エレメント、ヘッダー(ホース)、導管についての斜視図を示す。
図4に、本実施形態のアルカリ水電解用外部ヘッダー型複極式電解槽の一例の一部における電解液の流れについての斜視図を示す。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50は、
図1に示すとおり、陽極2aと、陰極2cと、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁1と、隔壁1を縁取る外枠3とを備える複数の複極式エレメント60が隔膜4を挟んで重ね合わせられている複極式電解槽50であってよい。
【0034】
(複極式電解槽)
複極式とは、多数の複極式エレメントを電源に接続する方法の1つであり、片面が陽極2a、片面が陰極2cとなる複数の複極式エレメント60を同じ向きに並べて直列に接続し、両端のみを電源に接続する方法である。
複極式電解槽50は、電源の電流を小さくできるという特徴を持ち、電解によりガスや所定の物質等を短時間で大量に製造することができる。電源設備は出力が同じであれば、定電流、高電圧の方が安価でコンパクトになるため、工業的には単極式よりも複極式の方が好ましい。
【0035】
((複極式エレメント))
一例のアルカリ水電解用複極式電解槽50に用いられる複極式エレメント60は、
図6に示すように、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁1を備え、隔壁1を縁取る外枠3を備えている。より具体的には、隔壁1は導電性を有し、外枠3は隔壁1の外縁に沿って隔壁1を取り囲むように設けられている。
【0036】
なお、本実施形態では、複極式エレメント60は、通常、隔壁1に沿う所与の方向D1が、鉛直方向となるように、使用してよく、具体的には、
図2〜6に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、隔壁1に沿う所与の方向D1が、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向となるように、使用してよい。
【0037】
本実施形態のアルカリ水電解用外部ヘッダー型複極式エレメント60(本明細書において、単に「複極式エレメント」と称する場合がある。)は、陽極2aと陰極2cとを含む電極2と、前記陰極2cと前記陽極2aとを隔離する隔壁1と、前記電極2で発生したガスを含む電解液を排出する吐出口5o(電解液出口)とを備え、前記陽極又は前記陰極と前記隔壁とで挟まれた領域において、前記吐出口を複数個有する。
上記領域としては、上記陽極と上記隔壁とで挟まれた領域60a(本明細書において「領域A」と称する場合がある)と、上記陰極と上記隔壁とで挟まれた領域60b(本明細書において「領域B」と称する場合がある)とが挙げられる(
図6)。
【0038】
従来、電極で発生したガスを含む電解液が、複極式エレメントから排出される際、ガスが吐出口近傍にたまり、電解液の流れが滞ることがあった。特に、複極式エレメントが薄くなると、吐出口近傍にガスが一層溜まり易くなるため、従来は複極式エレメントを薄くすることが困難であった。
本実施形態の複極式エレメントによれば、領域A及び領域Bに吐出口が複数設けられているため、吐出口近傍にガスが溜まりにくくなり、複数の吐出口でガスと電解液とを分離して、効率よく電解液を循環させることができる。さらに、長期連続運転をした場合でも隔膜の温度が高くなりにくい。特に、複極式エレメントを薄くした場合に、この効果が一層顕著となる。
【0039】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)の上記複極式エレメントにおいて、各領域に設けられた複数の吐出口は、鉛直方向に同じ位置に設けられていてもよいし、鉛直方向に異なる位置に設けられていてもよいが、電極で発生したガスと電解液とが、吐出口で分離されやすくなり、電解液が一層効率よく循環する観点から、少なくとも1個の吐出口が他の吐出口より鉛直方向に高い位置に設けられていることが好ましく、全ての吐出口が鉛直方向に異なる位置に設けられていることがより好ましい。
上記領域Aと上記領域Bとで、複数の各吐出口が設けられている位置は、鉛直方向に同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0040】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)において、鉛直方向に異なる位置に設けられている吐出口は、吐出口での気液分離性が一層向上する観点から、鉛直方向に最も高い位置の吐出口の鉛直方向下端が、鉛直方向に最も低い位置の吐出口の鉛直方向上端より鉛直方向上側にあることが好ましく、鉛直方向に最も高い位置の吐出口の鉛直方向下端と鉛直方向に最も低い位置の吐出口の鉛直方向上端との距離が10mm以上であることがより好ましい。
【0041】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)の上記複極式エレメントにおいて、各領域に設けられる吐出口の数は、2個以上であり、電解液の吐出量に応じて3個以上(例えば、3個)にすることもできる。中でも、吐出口の数は、製作容易性の観点から、2個であることが最も好ましい。
吐出口の数は、上記領域Aと上記領域Bとで、異なっていてもよいし同じであってもよいが、複極式エレメントの製作のしやすさの観点から、上記領域A及び上記領域Bともに、2個以上の同じ数の吐出口が設けられていることが好ましく、2個の吐出口が設けられていることがより好ましい。
【0042】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)の上記複極式エレメントにおいて、電極で発生した上記ガスは、鉛直方向に最も高い位置の吐出口から排出されることが好ましい。例えば、上記領域に吐出口が2個設けられている場合、上記ガスは、鉛直方向に高い位置の吐出口から排出されることが好ましい。
中でも、電極で発生した上記ガスは、鉛直方向に最も高い位置の吐出口のみから排出され、鉛直方向に最も低い位置の吐出口からは電解液のみが排出されることが好ましい。例えば、上記領域に吐出口が2個設けられている場合、鉛直方向に上側に位置する吐出口からは上記ガスのみが排出され、鉛直方向に下側に位置する吐出口からは上記電解液のみが排出されることが好ましい。
【0043】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)において、上記吐出口の断面積は、吐出口でガスと電解液との気液分離性が一層向上し、循環する電解液の流速を十分確保できることとなり、長期連続運転をした場合でも隔膜の温度が高くなりにくい観点から、1.25×10
−5m
2以上であることが好ましく、より好ましくは2.83×10
−5m
2以上である。また、上記吐出口の断面積は、7.85×10
−5m
2以下であることが好ましく、より好ましくは5.03×10
−5m
2以下である。
各領域における複数の上記吐出口は、断面積が同じであってもよいし異なっていてもよい。中でも、製造が容易である観点から、全ての吐出口の断面積が同じであることが好ましい。また、少なくとも1個の吐出口が上記を満たすことが好ましく、全ての吐出口が上記を満たすことがより好ましい。
【0044】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)において、上記吐出口の形状としては、特に限定されないが、例えば、略円状、略多角形状等が挙げられる。上記吐出口の形状が略円状である場合、上記吐出口の内径は、直径4mm以上であることが好ましく、より好ましくは直径6mm以上である。また、上記吐出口の内径は、直径16mm以下であることが好ましく、より好ましくは直径10mm以下、更に好ましくは直径8mm以下である。
吐出口の形状及び/又は内径は、全ての吐出口において同じであってもよいし異なっていてもよい。また、少なくとも1個の吐出口が上記を満たすことが好ましく、全ての吐出口が上記を満たすことがより好ましい。
【0045】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)において、上記複極式エレメントの厚さは、電解槽を一層コンパクトにできる観点から、50mm以下であることが好ましく、より好ましくは50mm未満、さらに好ましくは15mm以上40mm以下、特に好ましくは20mm以上35mm以下である。複極式エレメントの厚さは、例えば、吐出口の断面積等により調整することができる。
なお、複極式エレメントの厚さとは、隔壁を挟んで設けられた陽極と陰極との距離(陽極外端から陰極外端までの距離)をいう。
【0046】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)において、上記複極式エレメントの、吐出口における気液分離性と、電解セル全体の厚みを薄くすること、とを一層高いレベルで実現する観点から、上記吐出口の内径D(mm)と上記複極式エレメントの厚さT(mm)との関係D/Tは、0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.15以上、更に好ましくは0.2以上である。また、上記関係D/Tは、0.9以下であることが好ましく、より好ましくは0.4以下である。
ここで、吐出口の内径とは、吐出口の内側の二点の距離のうち最も長い距離をいう。
【0047】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)において、上記複極式エレメントでは、電解液を導入する電解液入口は、各領域につき1個であることが好ましい。特に、電解液を効率よく循環させる観点から、電解液入口を1個設け、吐出口(電解液出口)を複数設けることが好ましい。
例えば、上記領域Aにおいて、1個の陽極電解液入口5aiと、複数の陽極電解液出口5aoとが設けられ、上記領域Bにおいて、1個の陰極電解液入口5ciと複数の陰極電解液出口5coとが設けられることが好ましい。
【0048】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)において、上記複極式エレメントの、吐出口の鉛直方向に最も高い位置の吐出口の傾きθ1は、該吐出口における気液分離性が一層向上する観点から、水平方向に対して鉛直方向に0°以上90°以下であることが好ましく、より好ましくは10°以上90°以下、更に好ましくは15°以上75°以下である。
また、本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)において、鉛直方向に最も低い位置の吐出口の傾きθ2は、該吐出口における気液分離性が一層向上する観点から、水平方向に対して鉛直方向に−90°以上−10°以下であり、より好ましくは−75°以上−15°以下であり、−90°以上0°以下であってもよい。
ここで、吐出口の傾きとは、複極式エレメントの鉛直方向断面(隔壁に平行方向の面)において、吐出口の二外端を結ぶ線分であって最も長い線分を形成する二外端を結ぶ直線と、水平方向とがなす角度をいう(
図9)。ここで、本明細書において、水平方向に対して鉛直方向上向きを正の角度とし、鉛直方向下向き(重力方向、地球の中心に向かう方向)を負の角度とする。また、本明細書において、水平方向とは、鉛直方向に対して垂直な面の方向をいう。
【0049】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)において、上記複極式エレメントの、吐出口を設ける位置は、例えば、複極式エレメントの鉛直方向上端から電極又は隔壁の鉛直方向中心までの間に設けられることが好ましく、鉛直方向上端から電極又は隔壁の鉛直方向長さの30%までの間に設けられることがより好ましく、鉛直方向上端から電極又は隔壁の鉛直方向長さの15%までの間に設けられることがより好ましい。なお、吐出口は、複極式エレメントの電極が設けられている面以外の面(例えば、鉛直方向上端面、水平方向両端面等)に設けられることが好ましい。なお、吐出口を設ける位置とは、吐出口の鉛直方向中心の位置をいうものとする。
吐出口を設ける位置は、領域Aと領域Bとで異なっていてもよいし同じであってもよい。また、少なくとも1個の吐出口が上記を満たすことが好ましく、全ての吐出口が上記を満たすことがより好ましい。
【0050】
本実施形態の外部ヘッダー型複極式電解槽(本明細書において、単に「複極式電解槽」と称する場合がある。)は、上記外部ヘッダー型複極式エレメント(好ましくは、アルカリ水電解用外部ヘッダー型複極式エレメント)を含む。
本実施形態では、
図1に示すとおり、複極式電解槽50は複極式エレメント60を必要数積層することで構成されている。
図1に示す一例では、複極式電解槽50は、一端からファストヘッド51g、絶縁板51i、陽極ターミナルエレメント51aが順番に並べられ、更に、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7、複極式エレメント60が、この順番で並べて配置される。このとき、複極式エレメント60は陽極ターミナルエレメント51a側に陰極2cを向けるよう配置する。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までは、設計生産量に必要な数だけ繰り返し配置される。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までを必要数だけ繰り返し配置した後、再度、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7を並べて配置し、最後に陰極ターミナルエレメント51c、絶縁板51i、ルーズヘッド51gをこの順番で配置される。複極式電解槽50は、全体をタイロッド方式51r(
図1参照)や油圧シリンダー方式等の締め付け機構により締め付けることによりー体化され、複極式電解槽50となる。
複極式電解槽50を構成する配置は、陽極2a側からでも陰極2c側からでも任意に選択でき、上述の順序に限定されるものではない。
【0051】
図1に示すように、複極式電解槽50では、複極式エレメント60が、陽極ターミナルエレメント51aと陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。隔膜4は、陽極ターミナルエレメント51aと複極式エレメント60との間、隣接して並ぶ複極式エレメント60同士の間、及び複極式エレメント60と陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。
【0052】
また、本実施形態における複極式電解槽50では、
図2に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。ここで、上記陽極と上記隔壁とで挟まれた領域A60aとは陽極室内の領域であり、上記陰極と上記隔壁とで挟まれた領域B60bとは陰極室内の領域をいう。複数のエレメントが隔膜を挟んで重ね合わされている場合、陽極室及び陰極室の各電極室に、複数の上記吐出口が設けられていることが好ましい。
【0053】
本実施形態では、特に、複極式電解槽50における、隣接する2つの複極式エレメント60間の互いの隔壁1間における部分、及び、隣接する複極式エレメント60とターミナルエレメントとの間の互いの隔壁1間における部分を電解セル65と称する(
図1)。電解セル65は、一方のエレメントの隔壁1、陽極室5a、陽極2a、及び、隔膜4、及び、他方のエレメントの陰極2c、陰極室5c、隔壁1を含む。
【0054】
詳細には、電極室5は、外枠3との境界において、電極室5に電解液を導入する電解液入口5iと、電極室5から電解液を導出する電解液出口5oとを有する。なお、本明細書において、電解液出口5oは上記吐出口に相当する。より具体的には、陽極室5aには、陽極室5aに電解液を導入する陽極電解液入口5aiと、陽極室5aから導出(排出、吐出)する電解液を導出する陽極電解液出口5ao、5agoとが設けられる。同様に、陰極室5cには、陰極室5cに電解液を導入する陰極電解液入口5ciと、陰極室5cから導出(排出、吐出)する電解液を導出する陰極電解液出口5co、5cgoとが設けられる。
【0055】
本実施形態では、陽極室5a及び陰極室5cにおいて、電解液を電解槽50内部で、電極面内に均一に分配するための内部ディストリビュータを備えてもよい。また、電極室5は、電解槽50内部での液の流れを制限する機能を備えるバッフル板を備えてもよい。さらに、陽極室5a及び陰極室5cにおいて、電解槽50内部での電解液の濃度や温度の均一化、及び、電極2や隔膜4に付着するガスの脱泡の促進のために、カルマン渦を作るための突起物を備えてもよい。
【0056】
そして、本実施形態における複極式電解槽50は、外枠3の外方に、電極室5に連通するヘッダー10を備える(
図3〜5参照)。
【0057】
図3、
図4に示す一例では、複極式エレメントに、ガスや電解液を配液又は集液する管であるヘッダー10(ホース)が取り付けられる。詳細には、ヘッダー10は、配液管から電極室5に電解液を入れるための入口ヘッダーと、電極室5から集液管にガスや電解液を出すための出口ヘッダーとからなる。
一例では、隔壁1の端縁にある外枠3の下方に、領域A(陽極室5aの一部)に電解液を入れる陽極入口ヘッダー10Oaiと、領域B(陰極室5cの一部)に電解液を入れる陰極入口ヘッダー10Ociとを備えており、また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3の上側方に、領域Aから電極液及びガスを排出する陽極出口ヘッダー10Oao、10Oagoと、領域Bから電解液及びガスを排出する陰極出口ヘッダー10Oco、10Ocgoとを備えている。本実施形態の複極式エレメントは、吐出口(電解液出口)を複数有するため、複数の出口ヘッダーと接続される。
また、一例では、領域A(陽極室5aの一部)及び領域B(陰極室5cの一部)において、入口ヘッダーと出口ヘッダーとが、各領域の中央部(電極室5の中央部)を挟んで向かい合うように設けられている。
【0058】
特に、この一例の複極式電解槽50は、複極式電解槽50とヘッダー10とが独立している形式である外部ヘッダー10O型複極式エレメントを採用している。
図4に、本実施形態のアルカリ水電解用外部ヘッダー型複極式電解槽の一例を示す。
【0059】
さらに、
図3、
図4に示す一例では、ヘッダー10に、配液又は集液されたガスや電解液を集める管である導管20が取り付けられる。詳細には、導管20は、入口ヘッダーに連通する配液管と、出口ヘッダーに連通する集液管とからなる。
一例では、外枠3のうちの下方に、陽極入口ヘッダー10Oaiに連通する陽極用配液管20Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociに連通する陰極用配液管20Ociとを備えており、また、同様に、外枠3のうちの側方に、陽極出口ヘッダー10Oao、10Oagoに連通する陽極用集液管20Oaoと、陰極出口ヘッダー10Oco、10Ocgoに連通する陰極用集液管20Ocoとを備えている。
ここで、吐出口(電解液出口)が複数設けられている場合、陽極電解液出口5aoのうち鉛直方向に最も高い位置の吐出口を5ago、陰極電解液出口5coのうち鉛直方向に最も高い位置の吐出口を5cgoとする場合がある。また、電解液出口5ao、5coから延びる出口側ホース(出口ヘッダー)10Oao、10Ocoのうち、鉛直方向に最も高い位置の吐出口5ago、5cgoから延びる出口側ホース(出口ヘッダー)を10Oago、10Ocgoとする場合がある。
上記鉛直方向に最も高い位置の吐出口5ago、5cgoが、鉛直方向に最も低い位置の吐出口から排出するガス量よりも多くのガスを排出する吐出口であることが好ましい。また、上記鉛直方向に最も高い位置の吐出口5ago、5cgoが、鉛直方向に最も低い位置の吐出口から排出する電解液量よりも少ない電解液を排出する吐出口であることが好ましい。そうすることで、集液管内での気液分離状態が向上し、気液分離タンク内での気液分離効率を向上させることができる。中でも、最も高い位置の吐出口から排出されるガス量が、最も低い位置の吐出口から排出されるガス量の10倍以上であることが好ましい。また、最も高い位置の吐出口から排出される電解液量が、最も低い位置の吐出口から排出される電解液量の1/10以下であることが好ましい。ここで、上記ガス量、及び上記電解液量とは、単位時間当たりに流れるガスの総量及び電解液の総量をいうものとする。
上記鉛直方向に最も高い位置の吐出口5ago、5cgoから延びる出口側ホース(出口ヘッダー)10Oago、10Ocgoからは、ガスのみが排出されることが好ましい。
【0060】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)では、陽極室5a及び陰極室5cにおいて、入口ヘッダーと出口ヘッダーとは、水電解効率の観点から、離れた位置に設けられることが好ましく、電極室5の中央部を挟んで向かい合うように設けられることが好ましく、
図3、
図4に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、長方形の中心を挟んで設けられることが好ましい。
【0061】
通常、陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Ocoは、各電極室5に1つずつ設けられるが、本実施形態では、これに限定されず、複数の電極室5で兼用されてもよい。
【0062】
なお、図示した例では、平面視で長方形形状の隔壁1と平面視で長方形形状の隔膜4とが平行に配置され、また、隔壁1の端縁に設けられる直方体形状の外枠の隔壁1側の内面が隔壁1に垂直となっているため、電極室5の形状が直方体となっている。しかしながら、本実施形態において、電極室5の形状は、図示の例の直方体に限定されることなく、隔壁1や隔膜4の平面視形状、外枠3の隔壁1側の内面と隔壁1とのなす角度等により、適宜変形されてよく、本発明の効果が得られる限り、いかなる形状であってもよい。
【0063】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)では、電極室5とヘッダー10との位置関係は、特に限定されず、
図3、
図4に示すように、複極式エレメント60を隔壁1に沿う所与の方向D1が鉛直方向となるように使用した場合に、入口ヘッダーは、電極室5に対して下方や側方に位置し(図示では、下方)、出口ヘッダーは、電極室5に対して上方や側方に位置していてよく(図示では、上側方)、また、入口ヘッダーに連通する配液管は、電極室5に対して下方や側方に位置し(図示では、下方)、出口ヘッダーに連通する集液管は、電極室5に対して上方や側方に位置していてよい(図示では、上側方)。
【0064】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)では、導管20の延在方向は、特に限定されないが、
図3、
図4に示す一例のように、本発明の効果を得られやすくする観点から、配液管(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci)及び集液管(陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)は、ぞれぞれ、隔壁1に垂直な方向に延びることが好ましく、導管20のいずれもが、隔壁1に垂直な方向に延びることがさらに好ましい。
【0065】
なお、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、電解室5内における気液の流れの乱れにより電解室5に生じる対流を低減して、局所的な電解液の温度の上昇を抑制するため、隔壁1に沿う所与の方向D1に対して平行に配置される複数の整流板6(リブ)を備えていてもよい。
【0066】
本実施形態の複極式電解槽は、複数の上記吐出口と、上記電解液集液管とがホース(陽極出口ヘッダー10Oao、10Oago、陰極出口ヘッダー10Oco、10Ocgo)でつながれていることが好ましい。
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)において、鉛直方向に最も高い位置の吐出口における上記ホースの傾きθ3は、該吐出口における気液分離性が一層向上する観点から、水平方向に対して鉛直方向に0°以上90°以下であってよく、10°以上90°未満であることが好ましく、より好ましくは15°以上75°以下である。また、鉛直方向に最も低い位置の吐出口における上記ホースの傾きθ4は、該吐出口における気液分離性が一層向上する観点から、水平方向に対して鉛直方向に−90°以上0°以下であってよく、−90°超−10°以下であることが好ましく、より好ましくは−75°以上−15°以下である。
ここで、ホースの傾きとは、複極式エレメントの鉛直方向断面(隔壁に平行方向の面)において、吐出口とホースとの接続箇所における、ホースの向きと水平方向とがなす角度をいう(
図9)。具体的には、ホースの電解液が流れる方向に対して垂直なホース断面の中心を結んだ線分(例えば、上記接続個所から長さ1mmの線分、接続個所と接続個所から1mmの位置の上記ホース断面中心とを結んだ線分)と水平方向とがなす角度をいう。
【0067】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)において、上記複極式電解槽は、電解により生成したガスと電解液の分離性を向上するために、相対的に重たい電解液を下側に位置付ける観点から、上記電解液集液管が、上記吐出口より鉛直方向下側に設けられていることが好ましく、鉛直方向に最も低い位置の吐出口より鉛直方向下側に設けられていることがより好ましい。
具体的には、鉛直方向に最も低い位置の吐出口の鉛直方向中心と、電解液集液管の鉛直方向断面の鉛直方向中心との距離hが、100mm以上であることが好ましく、より好ましくは200〜1400mm、さらに好ましくは600〜1200mmである。
【0068】
本実施形態(例えば、上記[1]〜[18]の形態等)において、上記複極式電解槽は、電解により生成したガスと電解液の分離性を向上するために、相対的に軽いガスを上側に位置付ける観点から、鉛直方向に最も高い位置の吐出口から延びるホースが上記電解液集液管の鉛直方向断面の鉛直方向中心より鉛直方向上側で上記電解液集液管に接続され、鉛直方向に最も低い位置の吐出口から延びるホースが上記電解液集液管の鉛直方向断面の鉛直方向中心より鉛直方向下側で上記電解液集液管に接続されることが好ましい(
図7、9)。例えば、吐出口の数が2個である場合、鉛直方向上側の吐出口から延びるホース10Oago、10Ocgoが、電解液集液管20Oao、20coの断面中心20hより鉛直方向上側に接続され、鉛直方向下側の吐出口から延びるホース10Oao、10Ocoが、電解液集液管20Oao、20coの断面中心20hより鉛直方向下側に接続されることが好ましい(
図7、9)。
【0069】
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50は、複数の複極式エレメント60を有することが好ましい。
【0070】
以下、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50の構成要素について詳細に説明する。
また、以下では、本発明の効果を高めるための好適形態についても詳述する。
【0071】
−隔壁−
本実施形態における隔壁1の形状は、所定の厚みを有する板状の形状としてよいが、特に限定されない。
【0072】
なお、隔壁1は、通常、隔壁1に沿う所与の方向D1が、鉛直方向となるように、使用してよく、具体的には、
図3〜5に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、隔壁1に沿う所与の方向D1が、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向となるように、使用してよい。
【0073】
隔壁1の材料としては、電力の均一な供給を実現する観点から、導電性を有する材料が好ましく、耐アルカリ性や耐熱性といった面から、ニッケル、ニッケル合金、軟鋼、ニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
【0074】
−電極−
本実施形態のアルカリ水電解による水素製造において、エネルギー消費量の削減、具体的には電解電圧の低減は、大きな課題である。この電解電圧は電極2に大きく依存するため、両電極2の性能は重要である。
【0075】
アルカリ水電解の電解電圧は、理論的に求められる水の電気分解に必要な電圧の他に、陽極反応(酸素発生)の過電圧、陰極反応(水素発生)の過電圧、陽極2aと陰極2cとの電極2間距離による電圧とに分けられる。ここで、過電圧とは、ある電流を流す際に、理論分解電位を越えて過剰に印加する必要のある電圧のことを言い、その値は電流値に依存する。同じ電流を流すとき、過電圧が低い電極2を使用することで消費電力を少なくすることができる。
【0076】
低い過電圧を実現するために、電極2に求められる要件としては、導電性が高いこと、酸素発生能(或いは水素発生能)が高いこと、電極2表面で電解液の濡れ性が高いこと等が挙げられる。
【0077】
アルカリ水電解の電極2として、過電圧が低いこと以外に、再生可能エネルギーのような不安定な電流を用いても、電極2の基材及び触媒層の腐食、触媒層の脱落、電解液への溶解、隔膜4への含有物の付着等が起きにくいことが挙げられる。
【0078】
本実施形態における電極2としては、電解に用いられる表面積を増加させるため、また、電解により発生するガスを効率的に電極2表面から除去するために、多孔体が好ましい。特に、ゼロギャップ電解槽の場合、隔膜4との接触面の裏側から発生するガスを脱泡する必要があるため、電極2の膜に接する面と反対に位置する面が、貫通していることが好ましい。
【0079】
多孔体の例としては、平織メッシュ、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金属発泡体等が挙げられる。
【0080】
本実施形態における電極2は、基材そのものとしてもよく、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものとしてもよいが、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものが好ましい。
【0081】
基材の材料は、特に制限されないが、使用環境への耐性から、軟鋼、ステンレス、ニッケル、ニッケル基合金が好ましい。
【0082】
陽極2aの触媒層は、酸素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、或いはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子等の有機物が含まれていてもよい。
【0083】
陰極2cの触媒層は、水素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、或いはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子材料等の有機物が含まれていてもよい。
【0084】
基材上に触媒層を形成させる方法としては、めっき法、プラズマ溶射法等の溶射法、基材上に前駆体層溶液を塗布した後に熱を加える熱分解法、触媒物質をバインダー成分と混合して基材に固定化する方法、及び、スパッタリング法等の真空成膜法といった手法が挙げられる。
【0085】
−外枠−
本実施形態における外枠3の形状は、隔壁1を縁取ることができる限り特に限定されないが、隔壁1の平面に対して垂直な方向に沿う内面を隔壁1の外延に亘って備える形状としてよい。
外枠3の形状としては、特に限定されることなく、隔壁1の平面視形状に合わせて適宜定められてよい。
【0086】
外枠3の材料としては、導電性を有する材料が好ましく、耐アルカリ性や耐熱性といった面から、ニッケル、ニッケル合金、軟鋼、ニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
【0087】
−隔膜−
本実施形態の複極式電解槽50において用いられる隔膜4としては、イオンを導通しつつ、発生する水素ガスと酸素ガスを隔離するために、イオン透過性の隔膜4が使用される。このイオン透過性の隔膜4は、イオン交換能を有するイオン交換膜と、電解液を浸透することができる多孔膜が使用できる。このイオン透過性の隔膜4は、ガス透過性が低く、イオン伝導率が高く、電子電導度が小さく、強度が強いものが好ましい。
【0088】
−−多孔膜−−
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有し、隔膜4を電解液が透過できる構造を有する。電解液が多孔膜中に浸透することにより、イオン伝導を発現するため、孔径や気孔率、親水性といった多孔構造の制御が非常に重要となる。一方、電解液だけでなく、発生ガスを通過させないこと、すなわちガスの遮断性を有することが求められる。この観点でも多孔構造の制御が重要となる。
【0089】
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有するものであるが、高分子多孔膜、無機多孔膜、織布、不織布等が挙げられる。これらは公知の技術により作製することができる。
【0090】
多孔膜の厚みは、特に限定されないが、200μm以上700μm以下であることが好ましい。多孔膜の厚みが、250μm以上であれば、一層優れたガス遮断性が得られ、また、衝撃に対する多孔膜の強度が一層向上する。この観点より、多孔膜の厚みの下限は、300μm以上であることがより好ましく、350μm以上であることが更に好ましく400μm以上でることがより一層好ましい。一方で、多孔膜の厚みが、700μm以下であれば、運転時に孔内に含まれる電解液の抵抗によりイオンの透過性を阻害されにくく、一層優れたイオン透過性を維持すことができる。かかる観点から、多孔膜の厚みの上限は、600μm以下であることがより好ましく、550μm以下であることが更に好ましく、500μm以下であることがより一層好ましい。特に、高分子樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものである場合に、かかる効果は一層向上する。
【0091】
−−イオン交換膜−−
イオン交換膜としては、カチオンを選択的に透過させるカチオン交換膜とアニオンを選択的に透過させるアニオン交換膜があり、いずれの交換膜でも使用することができる。
イオン交換膜の材質としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、含フッ素系樹脂やポリスチレン・ジビニルベンゼン共重合体の変性樹脂が好適に使用できる。特に耐熱性及び耐薬品性等に優れる点で、含フッ素系イオン交換膜が好ましい。
【0092】
((ゼロギャップ構造))
ゼロギャップ型セルにおける複極式エレメント60では、極間距離を小さくする手段として、電極2と隔壁1との間に弾性体であるバネを配置し、このバネで電極2を支持する形態をとることが好ましい。例えば、第1の例では、隔壁1に導電性の材料で製作されたバネを取り付け、このバネに電極2を取り付けてよい。また、第2の例では、隔壁1に取り付けた電極リブ6にバネを取り付け、そのバネに電極2を取り付けてよい。なお、このような弾性体を用いた形態を採用する場合には、電極2が隔膜4に接する圧力が不均一にならないように、バネの強度、バネの数、形状等必要に応じて適宜調節する必要がある。
【0093】
本実施形態のアルカリ水電解用外部ヘッダー型複極式エレメント60では、
図2、
図6に示すように、陰極2c又は陽極2aと隔壁1との間に、導電性弾性体2e及び集電体2rが、導電性弾性体2eが陰極2c又は陽極2aと集電体2rとに挟まれるように、設けられている。
【0094】
−集電体−
集電体2rは、その上に積層される導電性弾性体2eや電極2へ電気を伝えるとともに、それらから受ける荷重を支え、電極2から発生するガスを隔壁1側に支障なく通過させる役割がある。従って、この集電体2rの形状は、エキスパンドメタルや打ち抜き多孔板等が好ましい。この場合の集電体2rの開口率は、電極2から発生した水素ガスを支障なく隔壁1側に抜き出せる範囲であることが好ましい。しかし、あまり開口率が大きいと強度が低下する、或いは導電性弾性体2eへの導電性が低下する等の問題が生ずる場合があり、小さすぎるとガス抜けが悪くなる場合がある。
【0095】
集電体2rの材質は、導電性と耐アルカリ性の面からニッケル、ニッケル合金、ステンレススチール、軟鋼等が利用できるが、耐蝕性の面からニッケル或いは軟鋼やステンレススチールニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。このような集電体2rのリブ6への固定は、スポット溶接、レーザー溶接等の手段で固定される。
【0096】
−導電性弾性体−
導電性弾性体2eは、集電体2rと電極2の間にあって集電体2r及び電極2と接しており、電気を電極2に伝えること、電極2から発生したガスの拡散を阻害しないことが必須要件である。ガスの拡散が阻害されることにより、電気的抵抗が増加し、また電解に使用される電極2面積が低下することで、電解効率が低下するためである。そして最も重要な役割は、隔膜4を損傷させない程度の適切な圧力を電極2に均等に加えることで、隔膜4と電極2とを密着させることである。
【0097】
導電性弾性体2eとしては、通常公知のものが使用でき、例えば、線径0.05〜0.5mm程度のニッケル製ワイヤーを織ったものを波付け加工したクッションマットが、ゼロギャップ構造Zを維持しやすいため、好ましい。
材質は限定されるものではないが、導電性、耐アルカリ性の面からニッケル、ニッケル合金又はステンレススチール又は軟鋼にニッケルメッキを施したものが好ましい。
またこのような導電性弾性体2eの厚みは、通常1mm〜20mm程度のものが使用できる。
【0098】
ゼロギャップ構造Zに使用できる電極2基材としては、線径が細くメッシュの小さい電極2が柔軟性も高く好ましい。このような基材材質は通常公知のものを使用できる。例えば、陰極2cの基材としては、ニッケル、ニッケル合金、ステンレススチール、軟鋼、或いはニッケル合金又はステンレススチール又は軟鋼上にニッケルメッキを施したものを用いることができる。これらの基材の線径は0.05〜0.5mmで、目開きが30メッシュから80メッシュ程度の範囲が好ましい。
【0099】
−電極室−
本実施形態における電解セル65では、
図2に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。
【0100】
−整流板−
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、隔壁1に整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)が取り付けられ、整流板6(リブ)が電極2と物理的に接続されていることが好ましい。かかる構成によれば、整流板6が電極2の支持体となり、ゼロギャップ構造Zを維持しやすい。
ここで、整流板6に、電極2が設けられていてもよく、整流板6に、集電体2r、導電性弾性体2e、電極2がこの順に設けられていてもよい。
前述の一例のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、陰極室5cにおいて、整流板6−集電体2r−導電性弾性体2e−電極2の順に重ね合わせられた構造が採用され、陽極室5aにおいて、整流板6−電極2の順に重ね合わせられた構造が採用されている。
【0101】
なお、前述の一例のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、陰極室5cにおいて上記「整流板6−集電体2r−導電性弾性体2e−電極2」の構造が採用され、陽極室5aにおいて上記「整流板6−電極2」の構造が採用されているが、本発明ではこれに限定されることなく、陽極室5aにおいても「整流板6−集電体2r−導電性弾性体2e−電極2」構造が採用されてもよい。
【0102】
整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)には、陽極2a又は陰極2cを支える役割だけでなく、電流を隔壁1から陽極2a又は陰極2cへ伝える役割を備えることが好ましい。
【0103】
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、整流板6の少なくとも一部が導電性を備えことが好ましく、整流板6全体が導電性を備えことがさらに好ましい。かかる構成によれば、電極たわみによるセル電圧の上昇を抑制することができる。
【0104】
整流板6の材料としては、一般的に導電性の金属が用いられる。例えば、ニッケルメッキを施した軟鋼、ステンレススチール、ニッケル等が利用できる。
【0105】
隣接する陽極整流板6a同士の間隔、又は隣接する陰極整流板6c同士の間隔は、電解圧力や陽極室5aと陰極室5cの圧力差等を勘案して決められる。
【0106】
整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)の長さは、隔壁1のサイズに応じて、適宜に定められてよい。
整流板6の高さは、隔壁1から各フランジ部までの距離、ガスケット7の厚さ、電極2(陽極2a、陰極2c)の厚さ、陽極2aと陰極2cとの間の距離等に応じて、適宜に定められてよい。
また、整流板6の厚みは、コストや製作性、強度等も考慮して、0.5mm〜5mmとしてよく、1mm〜2mmのものが用いやすいが、特に限定されない。
【0107】
−ガスケット−
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、隔壁1を縁取る外枠3同士の間に隔膜4を有するガスケット7が挟持されることが好ましい。
ガスケット7は、複極式エレメント60と隔膜4の間、複極式エレメント60間を電解液と発生ガスに対してシールするために使用され、電解液や発生ガスの電解槽外への漏れや両極室間におけるガス混合を防ぐことができる。
【0108】
ガスケット7の材質としては、特に制限されるものではなく、絶縁性を有する公知のゴム材料や樹脂材料等を選択することができる。
ゴム材料や樹脂材料としては、具体的には、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム(SR)、エチレン−プロピレンゴム(EPT)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)、イソブチレン−イソプレンゴム(IIR)、ウレタンゴム(UR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素樹脂材料や、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアセタール等の樹脂材料を用いることができる。これらの中でも、弾性率や耐アルカリ性の観点でエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)が特に好適である。
【0109】
ガスケット7のサイズは、特に制限されるものではなく、電極室5や膜の寸法に合わせて設計すればよいが、幅が10mm〜40mmにするのがよい。
【0110】
ガスケット7の厚みは、特に制限されるものではなく、ガスケット7の材質や弾性率、セル面積に応じて設計される。好ましい厚みの範囲としては、1.0mm〜10mmが好ましく、3.0mm〜10mmがより好ましい。
【0111】
ガスケット7の弾性率は、特に制限されるものではなく、電極2の材質やセル面積に応じて設計される。好ましい弾性率の範囲としては、100%変形時の引張応力で、0.20MPa〜20MPaの範囲がより好ましく、シーリング特性やスタック時のセル強度の観点から、1.0MPa〜10MPaの範囲がより好ましい。
なお、引張応力は、JIS K6251に準拠して、測定することができる。例えば、島津製作所社製のオートグラフAGを用いてよい。
【0112】
−ヘッダー−
アルカリ水電解用複極式電解槽50は、電解セル65毎に、陰極室5c、陽極室5aを有する。電解槽50で、電気分解反応を連続的に行うためには、各電解セル65の陰極室5cと陽極室5aとに電気分解によって消費される原料を十分に含んだ電解液を供給し続ける必要がある。
【0113】
電解セル65は、複数の電解セル65に共通するヘッダー10と呼ばれる電解液の給排配管と繋がっている。一般に、陽極用配液管は陽極入口ヘッダー10ai、陰極用配液管は陰極入口ヘッダー10ci、陽極用集液管は陽極出口ヘッダー10ao、陰極用集液管は陰極出口ヘッダー10coと呼ばれる。電解セル65はホース等を通じて各電極用配液管及び各電極用集液管と繋がっている。
【0114】
ヘッダー10の材質は特に限定されないが、使用する電解液の腐食性や、圧力や温度等の運転条件に十分耐えうるものを採用する必要がある。ヘッダー10の材質に、鉄、ニッケル、コバルト、PTFE、ETFE、PFA、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等を採用しても良い。
【0115】
本実施形態において、電極室5の範囲は、隔壁1の外端に設けられる外枠3の詳細構造により、変動するところ、外枠3の詳細構造は、外枠3に取り付けられるヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)の配設態様により異なることがある。複極式電解槽50のヘッダー10の配設態様としては、内部ヘッダー型及び外部ヘッダー10O型が代表的である。
【0116】
−外部ヘッダー−
外部ヘッダー10O型とは、複極式電解槽50とヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)とが独立している形式をいう。
【0117】
外部ヘッダー10O型複極式電解槽50は、陽極入口ヘッダー10Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociとが、電解セル65の通電面に対し、垂直方向に、電解槽50と並走する形で、独立して設けられる。この陽極入口ヘッダー10Oai及び陰極入口ヘッダー10Ociが、各電解セル65に接続される。
【0118】
外部ヘッダー10O型複極式電解槽50に外在的に接続される、陽極入口ヘッダー10Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociと、陽極出口ヘッダー10Oao、10Oagoと、陰極出口ヘッダー10Oco、10Ocgoを総称して、外部ヘッダー10Oと呼ぶ。
外部ヘッダー10O型の例では、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの下方に位置する部分に設けられたヘッダー10用貫通孔に、管腔状部材が設置され、管腔状部材が、陽極入口ヘッダー10Oai及び陰極入口ヘッダー10Ociに接続されており、また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの上方に位置する部分に設けられたヘッダー10用貫通孔に、管腔状部材(例えば、ホースやチューブ等)が設置され、かかる管腔状部材が、陽極出口ヘッダー10Oao及び陰極出口ヘッダー10Ocoに接続されている。
【0119】
なお、内部ヘッダー型及び外部ヘッダー型の複極式電解槽50において、その内部に電解によって発生した気体と、電解液を分離する気液分離ボックスを有してもよい。気液分離ボックスの取付位置は、特に限定されないが、陽極室5aと陽極出口ヘッダー10aoとの間や、陰極室5cと陰極出口ヘッダー10coとの間に取付けられてもよい。
【0120】
気液分離ボックスの表面は、電解液の腐食性や、圧力や温度等の運転条件に十分耐えうる材質のコーティング材料で、被覆されていても良い。コーティング材料の材質は、電解槽内部での漏洩電流回路の電気抵抗を大きくする目的で、絶縁性のものを採用してもよい。コーティング材料の材質に、EPDM、PTFE、ETFE、PFA、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等を採用してもよい。
【0121】
(アルカリ水電解用電解装置)
図8に、本実施形態のアルカリ水電解用電解装置の概要を示す。
本実施形態のアルカリ水電解用電解装置70は、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50と、電解液を循環させるための送液ポンプ71と、電解液と水素及び/又は酸素とを分離する気液分離タンク72と、電解により消費した水を補給するための水補給器73とを有する。
【0122】
本実施形態のアルカリ水電解用電解装置70によれば、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の効果を得ることができる。
すなわち、本実施形態によれば、再生可能エネルギー等の変動電源での運転時に、電極2の逆電吸収体の機能により、大電力の長期間貯蔵及び長距離輸送を実現することが可能となり、電力供給を停止した際に生じる自己放電を低減して、電気制御システムの安定化が可能となる。本実施形態によれば、さらには、高効率での電力の貯蔵、具体的には、ポンプ動力の低減やリーク電流の低減を実現することが可能となる。
【0123】
以下、本実施形態のアルカリ水電解用電解装置70の構成要素について説明する。
【0124】
−送液ポンプ−
本実施形態において用いられる送液ポンプ71としては、特に限定されず、適宜定められてよい。
【0125】
−気液分離タンク−
本実施形態において用いられる気液分離タンク72は、電解液と水素ガスとを分離する水素分離タンク72hと、電解液と酸素ガスとを分離する酸素分離タンク72oとを含む。
水素分離タンク72hは陰極室5cに接続され、酸素分離タンク72oは陽極室5aに接続されて用いられる。
【0126】
アルカリ水電解システムの気液分離タンク72は、陽極室5a用に用いられる酸素分離タンク72oと、陰極室5cに用に用いられる水素分離タンク72hの二つが備えられる。
【0127】
陽極室5a用の気液分離タンク72は、陽極室5aで発生した酸素ガスと電解液を分離し、陰極室5c用の気液分離タンク72は、陰極室5cで発生した水素ガスと電解液を分離する。
【0128】
電解セル65から電解液と発生ガスが混合した状態で排出されたものを、気液分離タンク72に流入させる。気液分離が適切に行われなかった場合は、陰極室5cと陽極室5aの電解液が混合したときに、酸素ガス、水素ガスが混合されてしまい、ガスの純度が低下する。最悪の場合、爆鳴気を形成してしまう危険性がある。
【0129】
気液分離タンク72に流入したガスと電解液は、ガスはタンク上層の気相へ、電解液はタンク下層の液相に分かれる。気液分離タンク72内での電解液の線束と、発生したガス気泡の浮遊する速度と、気液分離タンク72内の滞留時間によって、気液分離の度合いが決まる。
【0130】
ガスが分離された後の電解液は、タンク下方の流出口から流出し、電解セル65に再び流入することで循環経路を形成する。タンク上方の排出口から排出された酸素、及び水素ガスは、いずれもアルカリミストを含んだ状態であるため、排出口の下流に、ミストセパレーターや、クーラー等の、余剰ミストを液化し気液分離タンク72に戻すことが可能な装置を取り付けることが好ましい。
【0131】
気液分離タンク72には、内部に貯留する電解液の液面高さを把握するために、液面計を備えることも可能である。
【0132】
また、前記気液分離タンク72は、圧力解放弁を備えることが好ましい。これにより電解で発生するガスによる圧力の上昇を受けても、設計圧力を超えた場合、安全に圧力を下げることが可能となる。
【0133】
気液分離タンク72への流入口は、気液分離性を向上させる上で、電解液面よりも上面に位置することが好ましいが、これに限定されるものではない。
循環停止時の電解槽中の液面の低下を防ぐ目的で、気液分離タンク72内の電解液面を電解槽上面よりも高いことが好ましいが、これに限定されるものではない。
電解セル65と気液分離タンク72との間に遮断弁を付けることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0134】
気液分離タンク72の材料には、ニッケル等の耐アルカリ性金属が用いられる。一方、鉄等の汎用金属をタンク筐体材料として用いる場合においては、タンク内部の電解液接触面に、フッ素系樹脂等で被覆処理を施したものを用いることもあるが、本発明における気液分離タンク72の素材を限定するものではない。
【0135】
気液分離タンク72の容量は、設置容積を考慮すると、小さい方が好ましいが、容積が小さすぎると、陰極2cと陽極2aの圧力差が大きくなった場合や電解電流値に変動が生じた場合、タンク内の液面が変動するため、この変動分を考慮する必要がある。
また、タンク高さも同様に、高さが低い場合は、上記変動の影響を受けやすいため、高くすることが好ましい。
【0136】
−水補給器−
本実施形態において用いられる水補給器73としては、特に限定されず、適宜定められてよい。
水としては、一般上水を使用してもよいが、長期間に渡る運転を考慮した場合、イオン交換水、RO水、超純水等を使用することが好ましい。
【0137】
−その他−
本実施形態のアルカリ水電解用電解装置70は、複極式電解槽50、気液分離タンク72、水補給器73以外にも、整流器74、酸素濃度計75、水素濃度計76、流量計77、圧力計78、熱交換器79、圧力制御弁80、温度計81、82等を備えてよい。
【0138】
また、本実施形態のアルカリ水電解用電解装置70は、さらに、電力供給の停止を検知する検知器、及び、送液ポンプを自動停止する制御器を備えることが好ましい。検知器及び制御器を備えることで、再生可能エネルギーのように、変動が激しい電力源下でも、人為的な操作なしに、自己放電の影響を効率的に低減することが可能になる。
【0139】
(アルカリ水電解方法)
本実施形態のアルカリ水電解方法は、本実施形態のアルカリ水電解用電解装置70を用いて、実施することができる。本実施形態のアルカリ水電解方法によれば、水素、酸素等のガスを製造することができる。
本実施形態の水素の製造方法は、アルカリを含有する水を、電解槽により水電解し、水素を製造する水素製造方法において、前記電解槽は少なくとも複極式エレメントを有し、前記複極式エレメントは、陽極と陰極とを含む電極と、前記陰極と前記陽極とを隔離する隔壁と、前記電極で発生したガスを含む電解液を排出する吐出口とを備え、前記陽極又は前記陰極と前記隔壁とで挟まれた領域において、前記吐出口を複数個有する、外部ヘッダー型複極式エレメントである。
方法の好適な条件を以下に記載する。
【0140】
本実施形態において用いられる電解液としては、アルカリ塩が溶解されたアルカリ性の水溶液としてよく、例えば、NaOH水溶液、KOH水溶液等が挙げられる。
アルカリ塩の濃度としては、20質量%〜50質量%が好ましく、25質量%〜40質量%がより好ましい。
本実施形態では、イオン導電率、動粘度、冷温化での凍結の観点から、25質量%〜40質量%のKOH水溶液が特に好ましい。
【0141】
本実施形態のアルカリ水電解方法において、電解セル65内にある電解液の温度が80℃〜130℃であることが好ましい。
上記温度範囲とすれば、高い電解効率を維持しながら、ガスケット7、隔膜4等の電解装置70の部材が熱により劣化することを効果的に抑制することができる。
電解液の温度は、85℃〜125℃であることがさらに好ましく、90℃〜115℃であることが特に好ましい。
【0142】
本実施形態のアルカリ水電解方法において、電解セル65に与える電流密度としては、4kA/m
2〜20kA/m
2であることが好ましく、6kA/m
2〜15kA/m
2であることがさらに好ましい。
特に、変動電源を使用する場合には、電流密度の上限を上記範囲にすることが好ましい。
【0143】
本実施形態のアルカリ水電解方法において、電解セル65内の圧力としては、3kPa〜1000kPaであることが好ましく、3kPa〜300kPaであることがさらに好ましい。
【0144】
本実施形態では、前述のアルカリ水電解用電解装置70の構成要素を用いて、例えば、
図8に示すような構成のアルカリ水電解用電解装置70を作製することができるが、これに限定されるものではない。
【0145】
また、本実施形態の複極式電解槽及びアルカリ水電解方法では、アルカリ水電解用複極式電解槽への電力供給の停止時に、送液ポンプを停止することで、出口ホース内の電解液の流れを停止することが好ましい。出口ホース内の電解液の流れを停止することで、電解液の自重によって電解液が出口ヘッダーに流れ落ちるため、出口ホース内に絶縁性のガス層が形成される。これにより、出口ホースの液抵抗が無限に増大するため、出口ホースにリーク電流がほぼ流れなくなる。その結果、自己放電の影響を低減することが可能になる。
本実施形態の複極式電解槽は、電解液の流れが停止した後に、ホース内にガス層が形成される機構を備えることが好ましい。上記機構としては、例えば、気液分離タンク液面を吐出口よりも低い位置に有する構造、吐出口と電解液集液管との間のホースが、鉛直方向上向きから鉛直方向下向きに変わる点を有する構造、鉛直方向下向きから鉛直方向上向きに変わる点を有する構造、電解液の流れの停止と連動してホースを閉じる弁が設けられた構造等が挙げられる。
上記ホースは絶縁性の材料からなることが重要であり、上記ホースが1MΩ・cm以上の電気抵抗率を有することがより好ましい。電気抵抗率は、絶縁抵抗計により測定することができ、既存のMΩテスターを使用することができる。
さらに、上記ホースは、外部からホース内部を視認可能なホースであることが好ましい。視認可能なホースとしては、光透過性を有するホース等が挙げられる。ホース内の気液状況が確認できることで、電解中の運転状態が安定状態にあるか確認することが可能となる。例えば、電解液の循環量が多すぎる場合、気液分離性が悪化し、気体用ホース側に電解液が流出することが確認できる。また、電解電密が大きすぎる場合は、気液分離性が悪化し、液体用ホース側に発生ガスが定常、または間欠的に発生するため、これも確認することが可能となる。そのため、透明性はできるだけ高い方が好ましい。
このようなホースの材質は、アルカリ、高温、および耐圧力性があるものであり、例えば、フッ素系が好ましく、PTFEやPFA製のホースなどがある。
上記光透過性としては、JIS K7361−1に準拠して測定した光透過率から判定することができる。視認可能な上記ホースは、上記光透過率が10%以上であるホースであることが好ましい。
【0146】
以上、図面を参照して、本発明の実施形態の複極式電解槽、電解装置、アルカリ水電解方法、水素製造方法について例示説明したが、本発明の複極式電解槽、電解装置、アルカリ水電解方法。水素製造方法は、上記の例に限定されることはなく、上記実施形態には、適宜変更を加えることができる。
【実施例】
【0147】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0148】
アルカリ水電解用外部ヘッダー型複極式エレメント及びそれを用いた電解装置は、下記のとおり作製した。
【0149】
−隔壁、外枠−
複極式エレメントとして、陽極と陰極とを区画する隔壁と、隔壁を取り囲む外枠3と、を備えたものを用いた。隔壁及び複極式エレメントのフレーム等の電解液に接液する部材の材料は、全てニッケルとした。
【0150】
−陽極−
陽極としては、あらかじめブラスト処理を施したニッケルエキスパンド基材を用い、酸化ニッケルの造粒物をプラズマ溶射法によって導電性基材の両面に吹き付けて製作した。この電極を、切断加工により、寸法を、縦1155mm×横2354mmに調整した陽極とした。
【0151】
−陰極−
導電性基材として、直径0.15mmのニッケルの細線を40メッシュで編んだ平織メッシュ基材上に白金を担持したものを用いた。
陰極のサイズは、平面視でのサイズは1155mm×2354mmとした。
【0152】
−ゼロギャップ構造−
複極式エレメントを隔膜を保持したガスケットを介してスタックさせ、複極式電解槽を組み立てることによって、陰極サンプルと陽極サンプルとを隔膜の両側から押し付けて接触させ、ゼロギャップ構造を形成した。
陽極側では陽極サンプルのみを用い、陰極側は「陰極−導電性弾性体−集電体」の組み合わせからなる陰極サンプルを用いた。
陽極サンプルとしては、前述のものを用いた。集電体として、あらかじめブラスト処理を施したニッケルエキスパンド基材を用いた。基材の厚みは1mmであり、開口率は54%であった。導電性弾性体として、線径0.15mmのニッケル製ワイヤー4本を用いて織物として更に波高さ5mmになるように波付け加工したものを使用した。厚みは5mmであり、50%圧縮変形時の反発力は150g/cm
2、目開きは5メッシュ程度であった。導電性弾性体を集電体上にスポット溶接して固定した。陰極サンプルとしては、前述のものを用いた。
【0153】
−隔膜−
酸化ジルコニウム(商品名「EP酸化ジルコニウム」、第一稀元素化学工業社製)、N−メチル−2−ピロリドン(和光純薬工業社製)、ポリスルホン(「ユーデル」(登録商標)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製)、及びポリビニルピロリドン(重量平均分子量(Mw)900000、和光純薬工業社製)を用いて、以下の成分組成の塗工液を得た。
ポリスルホン:15質量部
ポリビニルピロリドン:6質量部
N−メチル−2−ピロリドン:70質量部
酸化ジルコニウム:45質量部
上記塗工液を、基材であるポリフェニレンサルファイドメッシュ(くればぁ社製、膜厚280μm、目開き358μm、繊維径150μm)の両表面に対して塗工した。塗工後直ちに、塗工液を塗工した基材を蒸気下へ晒し、その後、凝固浴中へ浸漬して、基材表面に塗膜を形成させた。その後、純水で塗膜を十分洗浄して多孔膜を得た。隔膜を、切断加工により、縦1172mm×幅2369mmに調整し、隔膜サンプルとした。
【0154】
−複極式電解槽、複極式エレメント−
複極式エレメントを4個使用し、
図1に示すように、一方の端側で、ファストヘッド、絶縁板、陽極ターミナルユニットを配置し、さらに、陽極側ガスケット部分、隔膜、陰極側ガスケット部分、複極式エレメントをこの順に並べたものを4組配置し、さらに、陽極側ガスケット部分、隔膜、電陰極側ガスケット部分を配置し、もう一方の端側で、陰極ターミナルユニット、絶縁板、ルーズヘッドを配列し、その後、これらをファストヘッド及びルーズヘッドの両側からガスケットのシール面圧で2450kN/m
2で締め付けることでスタックし、複極式電解槽を組み立てた。
この実施例においては、陰極室及び陽極室が、それぞれ5室ある5対の直列接続構造を有していた。
【0155】
−ガスケット−
ガスケットは、厚み4.0mm、幅18mmの内寸1155mm×2354mmの四角形状のもので、内側に平面視で電極室と同じ寸法の開口部を有し、隔膜を挿入することで保持するためのスリット構造を有するものを使用した。
【0156】
(実施例1)
−複極式エレメント−
陽極室、陰極室のリブ高さがそれぞれ7mmであり、複極式エレメントの厚みが21mmとなる複極式エレメントを用いた。
【0157】
−ヘッダー、導管−
外部ヘッダー型の複極式エレメントを採用した。
図3、4に示すように、この実施例の複極式電解槽50では、電解槽50の筐体の外方に、電解液を配液及び集液するための導管20(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)を設けた。更に、この電解槽50では、これらの配液管20i(入側導管)から電極室5に電解液を通過させる入側ヘッダー10iとしてのホース(陽極入口ヘッダー10Oai、陰極入口ヘッダー10Oci)を外部から取りつけ、電極室5から集液管20o(出側導管)に電解液及び/又はガスを通過させる出側ヘッダー10o(陽極出口ヘッダー10Oao、10Oago、陰極出口ヘッダー10Oco、10Ocgo)を、外部から取り付けた。出側ヘッダーのうち、鉛直方向に高い位置の吐出口に接続されるヘッダー10Oago、10Ocgoと、鉛直方向に低い位置の吐出口に接続されるヘッダー10Oao、10Ocoとを設けた。
ここで、
図3、4に示すように、入口ヘッダー(陽極入口ヘッダー10Oai、陰極入口ヘッダー10Oci)は複極式エレメント60の鉛直方向下端側から外方に、出口ヘッダー(陽極出口ヘッダー10Oao、10Oago、陰極出口ヘッダー10Oco、10cgo)は、複極式エレメント60の隔壁1の側方から外方に延びるように、配置した。また、
図3、4に示すように、導管20(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)のいずれもが、複極式エレメント60の隔壁1に垂直な方向に延びるように、配置した。
また、下方に位置する電解液出口(吐出口)5co、5aoの傾きθ2は−45°に設置され、電解液出側ヘッダー10Oao、10Ocoの傾きθ4は、−45°に接続されている。一方、鉛直方向上方に位置する電解液出口(吐出口)5cgo、5agoの傾きθ1は45°に設置され、電解ガス出側ヘッダー10Oago、10Ocgoの傾きθ3は、45°に接続されている。
図3、4に示すように、鉛直方向上方に位置する吐出口の吐出口を設ける位置は、吐出口の鉛直方向上端が複極式エレメントの鉛直方向上端から28mmの位置に、鉛直方向下方に位置する吐出口の吐出口を設ける位置は、吐出口の鉛直方向上端が複極式エレメントの鉛直方向上端から135mmの位置になるように設けた。
さらに、電解液入側導管20i(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci)には、入側電解液の温度を測定する入口側温度計81を取り付け、電解液出側導管20o(陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)には、出側電解液の温度を測定する出口側温度計82をそれぞれ取り付けた(
図8)。
陰極入口ヘッダー10Ociを介して陰極室5cへ、陰極室5cから陰極出口ヘッダー10Oco、10cgoを介して、電解液を流した。また、陽極入口ヘッダー10Oaiを介して陽極室5aへ、陽極室5aから陽極出口ヘッダー10Oao、10Oagoを介して、電解液を流した。
図3、4に示すように、入口ホースは側面視で長方形の外枠3の下辺の一方端側に、出口ホースは側面視で長方形の外枠3の下辺の他方端側に繋がる側辺の上側に、それぞれ接続されている。ここでは、入口ホースと出口ホースとを、側面視で長方形の電極室5において電極室5の中央部を挟んで向かい合うように、設けた。電解液は、鉛直方向に対して傾斜しながら下方から上方へ流れ、電極面に沿って上昇した(
図4)。
この実施例の複極式電解槽50では、陽極室5aや陰極室5cの入口ホースから、陽極室5aや陰極室5cに、電解液が流入し、陽極室5aや陰極室5cの出口ホースから、電解液と生成ガスとが、電解槽50外へ流出する構造とした。
尚、上記ホースは全て、PFA製で半透明(白色光の透過率が約50%)であり、ホース内の気液状況を目視することができる。また、ホースの電気抵抗率は1MΩ・cm以上である。
【0158】
実施例1の複極式電解槽は下記のとおりの手順で作製した。
陰極を複極式フレームの陰極面に取付け、陽極を複極式エレメントのフレームの陽極面に取付けたものを、複極式エレメントとした。また、陰極を陰極ターミナルエレメントのフレームに取付けたものを、陰極ターミナルエレメントとした。陽極を陽極ターミナルエレメントのフレームに取付けたものを、陽極ターミナルエレメントとした。
【0159】
複極式エレメントに取り付けた電極(陽極及び陰極)の面積S1は、2.7m
2に調整した。
外枠の側方に設けられた、ヘッダー(陽極入口ヘッダー、陽極出口ヘッダー、陰極入口ヘッダー、陰極出口ヘッダー)において、吐出口内径はφ6mmとし、吐出口断面積は、2.83×10
−5m
2に調整した。
鉛直方向下側の吐出口の鉛直方向中心と、電解液集液管の鉛直方向断面の鉛直方向中心との距離hは600mmとした。
また、複極式エレメントの厚みTは、21mmに調整した。
【0160】
上記複極式エレメントを4個用意した。また、上記陰極ターミナルエレメント、上記陽極ターミナルエレメントを、1個ずつ用意した。
【0161】
全ての複極式エレメントと、陰極ターミナルエレメントと、陽極ターミナル電解セルエレメントの、金属フレーム部分にガスケットを貼付けた。
【0162】
陽極ターミナルエレメントと、複極式エレメントの陰極側との間に、隔膜を1枚挟み込んだ。4個の複極式エレメントを、隣接する複極式エレメントのうちの一方の陽極側と他方の陰極側とが対向するように、直列に並べ、隣接する複極式エレメントの間に、3枚の隔膜を1枚ずつ挟み込んだ。更に、4個目の複極式エレメントの陽極側と、陰極ターミナルエレメントとの間に、隔膜を1枚挟み込んだ。これらを、ファストヘッド、絶縁板、ルーズヘッドを用いたうえで、プレス機で締付けたものを、実施例1の複極式電解槽とした。
【0163】
電解液として、30%KOH水溶液を用いた。
送液ポンプにより、陽極室、酸素分離タンク(陽極用気液分離タンク)、陽極室の循環を、また、陰極室、水素分離タンク(陰極用気液分離タンク)、陰極室の循環を行った。
電解液の温度は入側温度計81の温度を80℃に調整した。
【0164】
なお、循環流路として、配管の電解液に接液する部分についてSGP(配管用炭素鋼鋼管)にテフロン(登録商標)ライニング内面処理を施した、20Aの配管を用いた。
【0165】
気液分離タンクは、高さ1400mm、容積1m
3のものを用意した。
気液分離タンクの液量は、それぞれ設計容積の50%程度とした。
【0166】
整流器から複極式電解槽に、各々の陰極及び陽極の面積に対して、10kA/m
2となるように電流を流した。実施例1においては、電極の面積S1は2.7mm
2であるため、整流器から複極式電解槽に、27kAを通電した。
【0167】
電解槽内の圧力は、圧力計で測定し、陰極側圧力が50kPa、酸素側圧力が49kPaとなるとように調整しながら、電気分解を行った。圧力調整は、圧力計の下流に設置した圧力制御弁により行った。
【0168】
そして、実施例1におけるアルカリ水電解について下記のとおり評価した。
【0169】
(電解試験)
電流密度10kA/m
2で8時間連続通電し、水電解を行った。電解槽のセル電圧Vを測定し、電解セルの相加平均値(V)を計算により求めた。
【0170】
送液ポンプには、インバーターを取付け、セル内線速が0.015m/secになるように周波数を調整した。
10kA/m
2の高電密においても、陽極、陰極共に、気液分離性が良好で、鉛直方向上側に設けた吐出ヘッダーからガスが、鉛直方向下側に設けた吐出ヘッダーから電解液が排出された。また、出口側温度計82により測定される出側電解液の温度は90℃であり、隔膜の耐熱温度以下であった。
【0171】
(実施例2)
陽極室、陰極室のリブ高さがそれぞれ14mmであり、複極式エレメントの厚みが35mmとなる複極式エレメントを用いた以外は、実施例1と同様に作製した。セル内線速は0.007m/secになるように周波数を調整した。
10kA/m
2の高電密においても、陽極、陰極共に、気液分離性が良好で、鉛直方向上側に設けた吐出ヘッダーからガスが、鉛直方向下側に設けた吐出ヘッダーから電解液が排出された。
出側電解液の温度は90℃であり、隔膜の耐熱温度以下であった。
【0172】
(実施例3)
鉛直方向下側の吐出口の鉛直方向中心と、電解液集液管の鉛直方向断面の鉛直方向中心との距離hを300mmとした以外は実施例1と同様に作製した。セル内線速が0.015m/secになるように周波数を調整した。
10kA/m
2の高電密においても、陽極、陰極共に、気液分離性が良好で、鉛直方向上側に設けた吐出ヘッダーからガスが、鉛直方向下側に設けた吐出ヘッダーから電解液が吐出された。
出側電解液の温度は90℃であり、隔膜の耐熱温度以下であった。
【0173】
(実施例4)
鉛直方向下側の吐出口の鉛直方向中心と、電解液集液管の鉛直方向断面の鉛直方向中心との距離hを1200mmとした以外は実施例1と同様に作製した。セル内線速が0.015m/secになるように周波数を調整した。
10kA/m
2の高電密においても、陽極、陰極共に、気液分離性が良好で、鉛直方向上側に設けた吐出ヘッダーからガスが、鉛直方向下側に設けた吐出ヘッダーから電解液が吐出された。
出側電解液の温度は90℃であり、隔膜の耐熱温度以下であった。
【0174】
(実施例5)
外枠の側方に設けられた、ヘッダー(陽極入口ヘッダー、陽極出口ヘッダー、陰極入口ヘッダー、陰極出口ヘッダー)において、吐出口内径はφ4mmとし、吐出口断面積は、1.26×10
−5m
2に調整した以外は実施例1と同様に作製した。セル内線速が0.015m/secになるように周波数を調整した。
10kA/m
2の高電密においても、陽極、陰極共に、気液分離性が良好で、鉛直方向上側に設けた吐出ヘッダーからガスが、鉛直方向下側に設けた吐出ヘッダーから電解液が吐出された。
出側電解液の温度は90℃であり、隔膜の耐熱温度以下であった。
【0175】
(実施例6)
鉛直方向下側の吐出口の鉛直方向中心と、電解液集液管の鉛直方向断面の鉛直方向中心との距離hを100mmとした以外は実施例1と同様に作製した。セル内線速が0.015m/secになるように周波数を調整した。
10kA/m
2の高電密においても、陽極、陰極共に、気液分離性が良好であった。鉛直方向上側に設けた吐出ヘッダーからガスが、鉛直方向下側に設けた吐出ヘッダーからごく少量のガスが混ざったが、主に電解液が吐出された。脈動は見られなかった。
出側電解液の温度は90℃であり、隔膜の耐熱温度以下であった。
【0176】
(実施例7)
電解液出側吐出口5co、5aoの傾きθ2が−90°、電解液出側ヘッダー10Oao、10Ocoの傾きθ4が0°の角度で接続され、電解ガス出側吐出口5cgo、5agoの傾きθ1が90°、電解ガス出側ヘッダー10Oago、10Ocgoの傾きθ3が0°の角度に接続されている以外は実施例2と同様に作製した。セル内線速が0.007m/secになるように周波数を調整した。
実施例2と比較して、わずかに気液分離性が悪化し、上側に設けたガス吐出口に電解液が流れこんだが電解液流れに脈動が発生することは無かった。
【0177】
(比較例1)
鉛直方向上側の吐出口は設けなかったこと以外は実施例1と同様に作製した。セル内線速が0.015m/secになるように周波数を調整した。
吐出口における気液分離性が悪化し、出口側ホース内に、電解液と電解ガスの混相流による脈動が激しく発生した。
【0178】
(比較例2)
鉛直方向上側の吐出口は設けなかった以外は実施例2と同様に作製した。セル内線速が0.007m/secになるように周波数を調整した。
【0179】
【表1】