特許第6858842号(P6858842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許6858842-焼結摩擦材 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858842
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】焼結摩擦材
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/00 20060101AFI20210405BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20210405BHJP
   C22C 32/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   B22F7/00 B
   C22C1/05 E
   C22C32/00 C
   C22C32/00 D
   C22C32/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-511048(P2019-511048)
(86)(22)【出願日】2017年4月7日
(86)【国際出願番号】JP2017014586
(87)【国際公開番号】WO2018185944
(87)【国際公開日】20181011
【審査請求日】2019年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220435
【氏名又は名称】株式会社ファインシンター
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】久保田 学
(72)【発明者】
【氏名】水井 直光
(72)【発明者】
【氏名】石本 史雄
(72)【発明者】
【氏名】阿佐部 和孝
(72)【発明者】
【氏名】神田 修
(72)【発明者】
【氏名】中野 暁
(72)【発明者】
【氏名】中野 武
(72)【発明者】
【氏名】川崎 一道
(72)【発明者】
【氏名】島添 功
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−081523(JP,A)
【文献】 特開平09−269026(JP,A)
【文献】 特開昭62−080242(JP,A)
【文献】 特開平07−166278(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/157089(WO,A1)
【文献】 薄井晋,燒結金属摩擦材料,日本金属学会会報,1983年,Vol.22,No.8,P.737-744
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00− 8/00
C22C 1/04− 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で
Ni:0%以上5.0%未満、
Sn:0〜10.0%、
Zn:0〜10.0%、
VC:0.5〜5.0%、
Feおよび/またはFe合金:2.0〜40.0%、
潤滑材:5.0〜30.0%、および、
金属酸化物および/または金属窒化物:1.5〜30.0%、
を含有し、残部は40.0〜80.0%のCuおよび/またはCu合金、ならびに不純物からなる混合粉末を、800℃以上で加圧焼結して形成される、焼結摩擦材。
【請求項2】
前記潤滑材は、
黒鉛:5.0〜15.0%、
六方晶窒化硼素:3.0%以下、
二硫化モリブデン:3.0%以下、
マイカ:3.0%以下、ならびに、
二硫化タングステン、硫化鉄、硫化クロム、硫化銅および銅マットから選択される1種以上:10.0%以下、
から選択される1種以上を含む、
請求項1に記載の焼結摩擦材。
【請求項3】
前記金属酸化物および/または金属窒化物は、
マグネシア、ジルコンサンド、シリカ、ジルコニア、ムライトおよび窒化珪素から選択される1種以上を含む、
請求項1または請求項2に記載の焼結摩擦材。
【請求項4】
前記Fe合金は、
フェロクロム、フェロタングステン、フェロモリブデンおよびステンレス鋼から選択される1種以上を含む、
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の焼結摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結摩擦材に関し、特に鉄道用焼結摩擦材に関する。
【0002】
鉄道車両用のブレーキライニングおよびディスクブレーキパッドには、金属粉粒体等を焼結して形成される焼結摩擦材が用いられている。これらの焼結摩擦材では、優れた摩擦特性とともに、優れた耐摩耗性が要求される。
【0003】
例えば、特許文献1および2には、Cuと、SnまたはZnと、黒鉛と、潤滑材と、研磨材とを含有する焼結摩擦材料が開示されている。また、特許文献3および4には、熱的に極めて安定な4a、5a、6a族の炭化物を硬質粒子として含有させて、ディスク面を引っ掻き高摩擦係数を得る技術が開示されている。さらに、特許文献5には、WCを微細分散させてCu基材の高温強度を上げ、耐フェード性に優れた焼結摩擦材を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−106932号公報
【特許文献2】特開昭63−109131号公報
【特許文献3】特開平05−179232号公報
【特許文献4】特開平09−222143号公報
【特許文献5】特開2007−107067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
日本の新幹線、ドイツのICE(Intercity−Express)、フランスのTGV(Train a Grande Vitesse)等の高速鉄道車両の走行速度は、0〜70km/時の低速域、70超〜170km/時の中速域、170超〜280km/時の高速域、280km/時超の超高速域まで達する。したがって、鉄道用の焼結摩擦材では、低速域〜中速域だけでなく、高速域、超高速域においても優れた摩擦特性および耐摩耗性を発揮することが求められる。
【0006】
鉄道用のブレーキ摩擦材において、摩擦特性と耐摩耗性とは、いわゆるトレードオフの関係にある。すなわち、摩擦特性を向上するために摩擦係数を向上しようとすれば、ブレーキ時の摩擦材の摩耗量が増大し、耐摩耗性が劣化して摩擦材の寿命が短くなる。その結果、摩擦材の交換頻度が増加するため、経済性を損なう。
【0007】
一方、耐摩耗性を向上しようとすれば、摩擦係数が低下するため、安全性の観点から好ましくない。したがって、優れた摩擦特性と耐摩耗性とを兼ね備える鉄道用焼結摩擦材は、未だに開発されていないのが現状である。
【0008】
本発明は上記の問題を解決し、低速域、中速域、高速域および280km/時超の超高速域において、摩擦特性と耐摩耗性とを兼ね備える、総合的な特性に優れた鉄道用の焼結摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の焼結摩擦材を要旨とする。
【0010】
(1)質量%で、
Cuおよび/またはCu合金:40.0〜80.0%、
Ni:0%以上5.0%未満、
Sn:0〜10.0%、
Zn:0〜10.0%、
VC:0.5〜5.0%、
Feおよび/またはFe合金:2.0〜40.0%、
潤滑材:5.0〜30.0%、および、
金属酸化物および/または金属窒化物:1.5〜30.0%、
を含有し、残部は不純物からなる混合粉末を、800℃以上で加圧焼結して形成される、焼結摩擦材。
【0011】
(2)前記潤滑材は、
黒鉛:5.0〜15.0%、
六方晶窒化硼素:3.0%以下、
二硫化モリブデン:3.0%以下、
マイカ:3.0%以下、ならびに、
二硫化タングステン、硫化鉄、硫化クロム、硫化銅および銅マットから選択される1種以上:10.0%以下、
から選択される1種以上を含む、
上記(1)に記載の焼結摩擦材。
【0012】
(3)前記金属酸化物および/または金属窒化物は、
マグネシア、ジルコンサンド、シリカ、ジルコニア、ムライトおよび窒化珪素から選択される1種以上を含む、
上記(1)または(2)に記載の焼結摩擦材。
【0013】
(4)前記Fe合金は、
フェロクロム、フェロタングステン、フェロモリブデンおよびステンレス鋼から選択される1種以上を含む、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載の焼結摩擦材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低速域、中速域、高速域および280km/時超の超高速域において、優れた摩擦特性と耐摩耗性とを兼ね備える、鉄道用の焼結摩擦材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、ブレーキ試験に用いられるベンチ試験機の概要を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、低速域、中速域、高速域だけでなく、280km/時超の超高速域での摩擦特性および耐摩耗性について調査および検討を行った。そして、実用上、特に重要な速度域は中高速域〜超高速度域であるため、160〜365km/時における摩擦特性および耐摩耗性について、総合的な評価を行った。
【0017】
その結果、マトリクス成分をCu主体として、適切な量のバナジウム炭化物(以下VCと表記)を含有した混合粉末を周知の加圧焼結法により焼結して形成された焼結摩擦材は、上記の速度域において優れた摩擦特性および耐摩耗性を兼ね備えることを見出した。
【0018】
なお、本発明に係る焼結摩擦材は焼結材である。本焼結材は、加圧焼結時の焼結温度により、焼結材の構造(ネック太さ、粉末粒子同士の結合状態、焼結材内部の空孔の分散状況等)が決定される。これらの構造について、現時点の測定技術および解析技術では、数値限定等により特定することは極めて困難である。そのため、本発明の焼結摩擦材は、上記のとおり、加圧焼結時の焼結温度を発明特定事項に含める。
【0019】
以下、本発明に係る焼結摩擦材について詳しく説明する。
【0020】
1.化学組成
本発明の焼結摩擦材は、上述のとおり、鉄道車両用のブレーキライニングまたはディスクブレーキパッドに利用される。焼結摩擦材の原料となる混合粉末は、次の組成(マトリクスおよび分散剤)を含有する。混合粉末の各粒子の粒径は特に限定されないが、一例としては1〜1000μmである。以下、混合粉末の組成に関する「%」は質量%を意味する。
【0021】
1−1.マトリクス(基材)
Cuおよび/またはCu合金:40.0〜80.0%
銅(Cu)は、焼結摩擦材のマトリクス(基材)として機能する。Cuは高い熱伝導性を有する。そのため、ブレーキ時(摩擦時)における制動対象(ブレーキディスク等)と焼結摩擦材との界面温度の上昇を抑えることができ、過度の焼付き発生を抑制する。そのため、焼結摩擦材の耐摩耗性が高まる。
【0022】
混合粉末中のCuおよび/またはCu合金の合計含有量が40.0%未満では、上記効果が得られない。一方、上記の合計含有量が80.0%を超えると、摩擦係数が過剰に大きくなる。この場合、制動対象(例えばブレーキディスク等)の摺動面に対する凝着による摩擦が過剰に発生して、焼結摩擦材の耐摩耗性が低下する。
【0023】
したがって、Cuおよび/またはCu合金の合計含有量は、40.0〜80.0%とする。上記合計含有量は、50.0%以上であるのが好ましく、55.0%以上であるのがより好ましく、60.0%以上であるのがさらに好ましい。また、75.0%以下であるのが好ましく、70.0%以下であるのがより好ましく、67.0%以下であるのがさらに好ましい。
【0024】
Ni:0%以上5.0%未満
ニッケル(Ni)は、基材のCuに固溶し、基材の融点を高め、高温での強度を高める効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ni含有量が5.0%以上であると、焼結性が低下する場合がある。そのため、Ni含有量は5.0%未満とする。Ni含有量は3.0%以下であることが好ましい。上記効果を得たい場合には、Ni含有量は0.5%以上であることが好ましい。
【0025】
Sn:0〜10.0%
Snは、Cuよりも融点が低い金属であるため、焼結の加熱工程において溶融相を出現させることにより粉体同士が表面張力で引き合う。その結果、焼結体の密度が高くなり、曲げ強度も高まる。そのため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Sn含有量が過剰な場合には、耐熱性を劣化させ、フェードが発生し易くなる。そのため、Sn含有量は10.0%以下とする。Sn含有量は5.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましい。上記効果を得たい場合には、Sn含有量は0.3%以上であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましい。
【0026】
Zn:0〜10.0%
Znは、Cuよりも融点が低い金属であるため、焼結の加熱工程において溶融相を出現させることにより粉体同士が表面張力で引き合う。その結果、焼結体の密度が高くなり、曲げ強度も高まる。そのため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zn含有量が過剰な場合には、耐熱性を劣化させ、フェードが発生し易くなる。そのため、Zn含有量は10.0%以下とする。Sn含有量は5.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましい。上記効果を得たい場合には、Zn含有量は0.3%以上であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましい。
【0027】
なお、上記のSnおよびZnを複合的に含有させる場合には、その合計含有量は5.0%未満であることが好ましく、4.0%以下であることが好ましい。
【0028】
1−2.分散剤
VC:0.5〜5.0%
バナジウム炭化物(VC)は、硬質粒子であり、マトリクス中に粒子として含有される。VC含有による特性向上には、耐摩耗性を向上する効果と、摩擦係数を向上する効果との両方がある。これは、VCが硬質粒子として制動対象(ブレーキディスク等)の摺動面を引掻くことにより、摺動面に生成される酸化膜を除去し、凝着を安定的に発生させる効果を有すると同時に、潤滑材としても機能することによって、摩擦材の摩耗量を低減する効果をも有するためである。
【0029】
このようなVCの特異な機能により、下記の2つの効果が得られることとなる。すなわち、(a)高い摩擦係数を有するが、相対的に耐摩耗特性が劣る摩擦材にVCを添加すると、耐摩耗特性を顕著に向上する効果が得られる。また、(b)耐摩耗特性に優れるが、相対的に摩擦係数が低い摩擦材にVCを添加すると、摩擦係数を向上する効果が得られる。したがって、VCの添加により、摩擦材の特性バランスを改善することが可能となる。その結果、従来トレードオフの関係であった摩擦特性と耐摩耗性とを兼ね備えた摩擦材を得ることができる。
【0030】
しかしながら、VCの含有量が高すぎれば、焼結摩擦材の焼結性が低下して、耐摩耗性が低下する。したがって、VC含有量は0.5〜5.0%とする。VC含有量は0.6%以上であるのが好ましく、1.0%以上であるのがより好ましい。また、VC含有量は3.0%以下であるのが好ましく、2.5%以下であるのがより好ましい。
【0031】
Feおよび/またはFe合金:2.0〜40.0%
鉄(Fe)およびFe合金は、マトリクス中に粒子または凝集体として含有され、マトリクスの強度を高めることによって焼結摩擦材の耐摩耗性を向上させる。また、ディスク中のFeと反応し、ともがね効果と呼ばれる凝着摩擦を生じ、摩擦係数を高める。混合粉末中のFeおよび/またはFe合金の合計含有量が2.0%未満では、上記効果が得られない。一方、上記の合計含有量が40.0%を超えると、過度の凝着が発生しやすくなるだけでなく、焼結摩擦材の焼結性が低下して、耐摩耗性がかえって低下する。
【0032】
したがって、Feおよび/またはFe合金の合計含有量は、2.0〜40.0%とする。上記合計含有量は、5.0%以上であるのが好ましく、10.0%以上であるのがより好ましく、12.0%以上であるのがさらに好ましい。また、35.0%以下であるのが好ましく、30.0%以下であるのがより好ましく、25.0%以下であるのがさらに好ましい。
【0033】
なお、Fe含有量が高すぎれば、過度の凝着が発生しやすくなり、焼結摩擦材の耐摩耗性がかえって低下する。したがって、Fe単体の含有量は20.0%以下であるのが好ましく、15.0%であるのがより好ましく、12.0%以下であるのがさらに好ましい。
【0034】
また、Fe合金としては、例えば、フェロクロム(FeCr)、フェロタングステン(FeW)、フェロモリブデン(FeMo)およびステンレス鋼が挙げられ、これらから選択される1種以上を含有させることができる。Fe合金の合計含有量は20.0%以下であるのが好ましく、18.0%以下であるのがより好ましく、16.0%以下であるのがさらに好ましい。
【0035】
本明細書において、フェロクロムは、JIS G 2303(1998)に規定された高炭素フェロクロム(FCrH0〜FCrH5)、中炭素フェロクロム(FCrM3、FCrM4)、および低炭素フェロクロム(FCrL1〜FCrL4)の1種以上を含む。
【0036】
また、フェロタングステンは、JIS G 2306(1998)に規定された化学組成を有するフェロタングステン(FW)を意味する。さらに、フェロモリブデンは、JIS G 2307(1998)に規定された高炭素フェロモリブデン(FMoH)および低炭素フェロモリブデン(FMoL)の1種以上を含む。
【0037】
そして、本明細書において、ステンレス鋼は、50質量%以上のFeと10.5%以上のクロムとを含有する合金鋼を意味し、より好ましくは、JIS G 4304(2012)に規定されたステンレス鋼を意味する。例えば、上記JIS規格で規定されるSUS403、SUS420に代表されるマルテンサイト系ステンレス鋼でもよいし、SUS430に代表されるフェライト系ステンレス鋼でもよい。SUS304、SUS316、SUS316Lに代表されるオーステナイト系ステンレス鋼でもよい。SUS329J1に代表されるオーステナイト・フェライト系ステンレス鋼でもよい。SUS630に代表される析出硬化系ステンレス鋼でもよい。
【0038】
潤滑材:5.0〜30.0%
本発明の焼結摩擦材は、潤滑材を含有する。潤滑材の含有量が5.0%未満では、摩擦係数の安定化が不足する場合があり、一方、30.0%を超えると、焼結性が劣化し、十分な焼結体強度が得られない場合があるだけでなく、耐摩耗性も劣化する場合がある。したがって、潤滑材の含有量は5.0〜30.0%とする。
【0039】
潤滑材としては、黒鉛、六方晶窒化硼素、二硫化モリブデン、マイカ、二硫化タングステン、硫化鉄、硫化クロム、硫化銅および銅マットから選択される1種以上を含むことが好ましい。特に、潤滑材として黒鉛を以下に示す範囲で含むことが好ましい。その理由について説明する。
【0040】
黒鉛:5.0〜15.0%
本明細書でいう黒鉛は、天然黒鉛と人工黒鉛とを含む。加圧焼結後の焼結摩擦材において、黒鉛は粒子としてマトリクス中に含有される。黒鉛は、潤滑材として機能し、摩擦係数を安定化し、焼結摩擦材の摩耗量を低減する。黒鉛含有量が5.0%未満であると、上記効果が得られない場合がある。一方、黒鉛含有量が15.0%を超えると、加圧焼結時に混合粉末が十分に焼結されず、その結果、焼結摩擦材の耐摩耗性が低下するおそれがある。したがって、黒鉛含有量は5.0〜15.0%であるのが好ましい。黒鉛含有量は8.0%以上であるのが好ましく、9.0%以上であるのがより好ましい。また、黒鉛含有量は13.0%以下であるのが好ましく、12.0%以下であるのがより好ましい。
【0041】
さらに、潤滑材として、下記(a)〜(d)からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
(a)六方晶窒化硼素:3.0%以下
(b)二硫化モリブデン:3.0%以下
(c)マイカ:3.0%以下
(d)二硫化タングステン、硫化鉄、硫化クロム、硫化銅および銅マットから選択される1種以上:10.0%以下
【0042】
六方晶窒化硼素(h−BN)、二硫化モリブデン(MoS)、マイカ(雲母)ならびに、二硫化タングステン(WS)、硫化鉄(FeS)、硫化クロム(CrS)、硫化銅(CuS)および銅マットから選択される1種以上はいずれも、潤滑材として機能する。これらの潤滑材は、黒鉛と同様に、焼結摩擦材の摩擦係数を安定化し、優れた摩擦特性が得られる。
【0043】
しかしながら、これらの各潤滑材の含有量が過剰であると、焼結摩擦材の焼結性が低下して、耐摩耗性が低下する。したがって、六方晶窒化硼素の含有量は3.0%以下であり、二硫化モリブデンの含有量は3.0%以下であり、マイカの含有量は3.0%以下であり、二硫化タングステン、硫化鉄、硫化クロム、硫化銅および銅マットから選択される1種以上の合計含有量は10.0%以下である。
【0044】
銅マットはJIS H 0500(1998)の伸銅品用語 番号5400に記載されているものであり、主として硫化鉄と硫化銅とからなる。硫化鉄、硫化銅はそれぞれ単独で潤滑材として作用する。また、硫化鉄および硫化銅を混合物して使用してもよい。上述の銅マットは硫化鉄と硫化銅との混合物として使用でき、かつ安価であることから経済的な観点で有利である。
【0045】
金属酸化物および/または金属窒化物:1.5〜30.0%
金属酸化物および/または金属窒化物は、いずれも、硬質粒子として機能する。加圧焼結後の焼結摩擦材において、これらは、粒子としてマトリクス中に含有される。金属酸化物および/または金属窒化物はいずれも、制動対象(ブレーキディスク等)の摺動面を引掻くことにより、摺動面に生成される酸化膜を除去し、凝着を安定的に発生させる。これにより、焼結摩擦材の制動対象(ブレーキディスク等)に対する摩擦係数の低下を抑制でき、優れた摩擦特性が得られる。
【0046】
金属酸化物および/または金属窒化物の合計含有量が1.5%未満では、優れた摩擦特性が得られない。一方、これらの合計含有量が30.0%を超えると、焼結摩擦材の焼結性が低下する。この場合、焼結摩擦材の耐摩耗性が低下する。したがって、金属酸化物および/または金属窒化物の合計含有量は1.5〜30.0%とする。上記の合計含有量は2.0%以上であるのが好ましく、4.0%以上であるのがより好ましい。また、合計含有量は25.0%以下であるのが好ましく、20.0%以下であるのがより好ましく、15.0%以下であるのがさらに好ましい。
【0047】
また、金属酸化物および/または金属窒化物としては、例えば、マグネシア(MgO)、ジルコンサンド(ZrSiO)、シリカ(SiO)、ジルコニア(ZrO)、ムライト(3Al・2SiO〜2Al・SiO)および窒化珪素(Si)が挙げられ、これらから選択される1種以上を含有させることができる。
【0048】
焼結摩擦材用の混合粉末の残部は不純物である。ここで、不純物とは、混合粉末を工業的に製造する際に、原料または製造環境などから混入されるものであって、本発明の焼結摩擦材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0049】
2.焼結摩擦材について
本発明による焼結摩擦材は、上述の混合粉末を800℃以上で加圧焼結して形成される。本発明による焼結摩擦材は、Cuを主体とするマトリクスに、特にVCを含有することにより、優れた摩擦特性と耐摩耗性とを兼ね備える。
【0050】
3.製造方法
本発明の焼結摩擦材の製造方法の一例を説明する。本発明の焼結摩擦材の製造方法の一例は、混合粉末製造工程と、成形工程と、加圧焼結工程とを含む。上記製造方法はさらに、コイニング工程および/または切削加工工程を含んでもよい。以下、各工程について説明する。
【0051】
3−1.混合粉末製造工程
上述のマトリクス用および分散剤用の粉粒体を準備する。準備された粉粒体を、周知の混合機を用いて混合(ミキシング)して、混合粉末を製造する。周知の混合機は例えば、ボールミルまたはV型混合機である。
【0052】
3−2.成形工程
製造された混合粉末を所定の形状に成形して圧粉体を製造する。混合粉末の成形には、周知の成形法を適用すればよい。例えば、プレス成形法により、上記圧粉体を製造する。具体的には、所定の形状を成形するための金型(ダイ)を準備する。金型内に混合粉末を充填する。金型に充填された粉粒体は、プレス機により周知の圧力で加圧され、圧粉体に成形される。プレス機での圧力は例えば、196N/mm以上である。成形は大気中で行えばよい。
【0053】
3−3.加圧焼結工程
製造された圧粉体に対して周知の加圧焼結法を実施して、焼結摩擦材を製造する。例えば、加圧焼結装置内の黒鉛板上に圧粉体を配置する。その後、内周面に高周波加熱コイルが配置された筐体状のフレーム内に、圧粉体が配置された黒鉛板を段積みにして格納する。その後、最上段の黒鉛板に圧力を付与して圧粉体を加圧しながら、焼結雰囲気中で所定の焼結温度で焼結する。
【0054】
加圧焼結は、周知の条件で実施すればよい。加圧焼結時の焼結温度は、800℃以上とする。但し、銅の融点は1083℃である。したがって、加圧焼結時の焼結温度は1083℃未満とする必要がある。好ましい焼結温度は、800〜1000℃である。加圧焼結時に圧粉体に付与する圧力は例えば、0.2〜2.0N/mmである。加圧焼結時の上記焼結温度での保持時間は例えば、60〜120分である。加圧焼結時の雰囲気は例えば、AXガス(アンモニア分解ガス、N:H=1:3)、AXガスとNガスとの混合ガス(5〜20%のHガスと、Nガスとの混合ガス)、またはArガス等である。
【0055】
上記加圧焼結により、圧粉体内の粉粒体の接触部にネックが形成され、上述の焼結摩擦材が製造される。
【0056】
3−4.コイニング工程
コイニング工程を加圧焼結工程後に実施してもよい。コイニング工程では、加圧焼結工程後の焼結摩擦材を冷間で加圧して、焼結摩擦材の形状を整える。
【0057】
3−5.切削工程
切削工程を、加圧焼結工程後またはコイニング工程後に実施してもよい。切削工程では、焼結摩擦材を切削加工して、所望の形状とする。
【0058】
以上の製造工程により本発明による焼結摩擦材が製造される。焼結摩擦材がブレーキラインニングである場合、取付板部材に1つまたは複数の焼結摩擦材が固定され、鉄道車両に取り付けられる。
【0059】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0060】
表1に示す組成を有する混合粉末を製造した。なお、本実施例においては、摩擦特性を重視した成分設計としている。
【0061】
【表1】
【0062】
具体的には、原料を、V型混合機に投入した後、回転速度20〜40rpmで20〜100分ミキシングして、混合粉末を製造した。そして、それぞれの混合粉末を用いて、成形加工により圧粉体を製造した。成形加工では、超硬合金からなる金型に混合粉末を充填した後、約343N/mmで加圧して、圧粉体を成形した。
【0063】
圧粉体を加圧焼結法により加圧焼結し、焼結摩擦材を形成した。具体的には、黒鉛板上に圧粉体を配置した。その後、内周面に高周波加熱コイルが配置された筐体状のフレーム内に、圧粉体が配置された黒鉛板を段積みして格納した。950℃で60分加熱し、圧粉体を1.0N/mmで加圧して圧粉体を焼結し、焼結摩擦材を製造した。加圧焼結中のフレーム内の雰囲気は、AXガスとNガスとの混合ガス(5%のHガスと、残部:Nガスとの混合ガス)とした。以上の製造工程により、焼結摩擦材を製造した。
【0064】
[ブレーキ試験]
製造された焼結摩擦材を用いて、ブレーキ試験を実施した。ブレーキ試験には、図1に示すベンチ試験機を用いた。ベンチ試験機は、ブレーキディスクと、フライホイールと、モータと、キャリパとを備える。ブレーキディスクは、シャフトを介して、フライホイールおよびモータと連結されている。ブレーキディスクの材質はSCM440鋼であり、焼入れ焼戻しにより、引張強さ1000MPaにしたものである。なお、ブレーキディスクは、新幹線で用いられるブレーキディスクの約1/2のサイズであり、直径が400mm、厚さが20mmであった。
【0065】
4つの焼結摩擦材(ライナー)を取付板に取り付けた。そして、4つの焼結摩擦材が取り付けられた取付板を2セット用意し、この取付板を各々キャリパの左右の内面に取り付けた。各焼結摩擦材は直方体であり、幅38mm、長さ55mm、高さ15mmであった。4つの焼結摩擦材は、ブレーキディスクの中心から半径170mmの仮想円上に、ブレーキディスクの中心軸まわりに25°ずつずらして一列に配列した。
【0066】
[ブレーキ試験での摩擦係数測定]
その後、ブレーキ試験を実施した。具体的には、回転するブレーキディスクに対して、キャリパの左右内面に取り付けられた焼結摩擦材を、一定の圧力2.24kNでブレーキディスクの両面に押し付けて(ブレーキをかけて)、トルクを測定し、摩擦係数を求めた。ブレーキをかけ始めるときのディスクブレーキの速度(制動初速)を、160、240、300、325、365km/時として、それぞれの制動初速で摩擦係数を求めた。各制動初速において3回ブレーキをかけて摩擦係数を求め、3回の摩擦係数の平均値を、その制動初速での平均摩擦係数と定義した。平均摩擦係数の値が高いほど、摩擦特性が優れることとなる。
【0067】
[ブレーキ試験での摩耗量]
上述の各制動初速でのブレーキ試験の前後での、焼結摩擦材の質量差を求め、得られた質量差から、1回のブレーキ試験でのブレーキディスクの片面あたりの焼結摩擦材の平均摩耗量(g/片面)を求めた。具体的には、焼結摩擦材が取付板に取り付けられた状態で全体の質量を試験前に測定し、3回のブレーキ後に同じ状態で全体の質量を測定し、その質量差を1セットずつ求めた。そして、左右2セットの質量差を合計した後に、ブレーキ回数の3で除し、さらにセット数の2で除した値を、その制動速度での平均摩耗量(g/片面・回)と定義した。平均摩耗量の値が低いほど、耐摩耗性が優れることとなる。
【0068】
[試験結果]
マークD1〜D3の試験結果を表2に示す。また、160〜365km/時における摩擦特性および耐摩耗性について総合的な評価を行うため、表2には、160、240、300、325、365km/時の各測定値の平均値を算出した値を併せて示している。
【0069】
【表2】
【0070】
なお、焼結摩擦材の摩擦係数および摩耗量は、成分および製造条件に大きく依存するため、基準となる材料との相対的な差で、本発明の効果を評価する必要がある。摩擦特性の評価においては、基準となる比較例に比べて、平均摩擦係数が0.01以上増加した場合に、向上効果が認められると判断することとした。また、平均摩擦係数の増加が少ないまたは減少している場合であっても、その値が全ての制動速度で0.30以上であれば、実用上問題ないと判断することとした。
【0071】
さらに、耐摩耗性の評価においては、基準となる比較例に比べて、平均摩耗量が1.0g/片面・回以上減少している場合に、向上効果が認められると判断することとした。また、平均摩耗量の測定結果には比較的ばらつきが生じやすいことから、平均摩耗量が増加する場合も減少する場合も、その変化量が1.0g/片面・回未満である場合には、誤差の範囲内であるため、変化なしと判断することとした。
【0072】
表2を参照して、平均摩耗量が8.568(g/片面・回)である比較例のD1に対して、VCを添加したD2およびD3は、いずれも摩擦材の平均摩耗量が大きく減少し、耐摩耗性が大幅に改善された。平均摩擦係数はVCの添加によってわずかに低下したが、全ての制動速度で0.30を大きく超えており、実用上問題ないと判定した。以上より、VC添加によって総合的に優れた特性を付与することができた。
【実施例2】
【0073】
VCの含有量の影響を系統的に評価するためにさらに調査を行った。表3に示す組成を有する混合粉末を製造した。なお、本実施例においても、実施例1と同様に摩擦特性を重視した成分設計としている。
【0074】
【表3】
【0075】
焼結摩擦材の製造条件、摩擦特性および耐摩耗性の評価方法ならびに評価基準は、実施例1と同じである。マークE1〜E4の試験結果を表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
表4を参照して、平均摩耗量が3.750(g/片面・回)である比較例のE1に対して、VCを添加したE2〜E4は、いずれも摩擦材の平均摩耗量が明らかに減少し、耐摩耗性が改善された。平均摩擦係数はVCの添加によってわずかに低下したものもあるが、全ての制動速度で0.30を大きく超えており、実用上問題ないと判定した。以上より、VC添加によって総合的に優れた特性を付与することができた。
【実施例3】
【0078】
表5に示す組成を有する混合粉末を製造した。なお、本実施例においては、耐摩耗性を重視した成分設計としている。
【0079】
【表5】
【0080】
焼結摩擦材の製造条件、摩擦特性および耐摩耗性の評価方法ならびに評価基準は、実施例1と同じである。マークF1〜F4の試験結果を表6に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
表6を参照して、比較例のF1に対してVCを添加したF2、および比較例のF3に対してVCを添加したF4は、いずれも平均摩擦係数が増加し、摩擦特性が改善された。一方、平均摩耗量の変化は小さく、もともと良好であった耐摩耗特性は変化しなかった。以上より、VC添加によって総合的に優れた特性を付与することができた。
【実施例4】
【0083】
VCの含有量の影響を系統的に評価するためにさらに調査を行った。表7に示す組成を有する混合粉末を製造した。なお、本実施例においても、実施例3と同様に耐摩耗性を重視した成分設計としている。
【0084】
【表7】
【0085】
焼結摩擦材の製造条件、摩擦特性および耐摩耗性の評価方法ならびに評価基準は、実施例1と同じである。マークG1〜G6の試験結果を表8に示す。
【0086】
【表8】
【0087】
表8を参照して、比較例のG1に対してVCを添加したG2〜G6は、いずれも平均摩擦係数が増加し、摩擦特性が改善された。一方、平均摩耗量の変化は小さく、もともと平均摩耗量が2.880(g/片面・回)と良好であった耐摩耗特性は変化しなかった。以上より、VC添加によって総合的に優れた特性を付与することができた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、低速域、中速域、高速域および280km/時超の超高速域において、優れた摩擦特性と耐摩耗性とを兼ね備える、鉄道用の焼結摩擦材が得られる。

図1