特許第6858900号(P6858900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6858900アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液の製造方法、積層体の製造方法及びフレキシブルデバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858900
(24)【登録日】2021年3月26日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液の製造方法、積層体の製造方法及びフレキシブルデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20210405BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20210405BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20210405BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20210405BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C08G73/10
   C08J5/18
   B32B27/34
   B32B17/10
   H05K1/03 610N
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-53189(P2020-53189)
(22)【出願日】2020年3月24日
(62)【分割の表示】特願2016-542526(P2016-542526)の分割
【原出願日】2015年7月15日
(65)【公開番号】特開2020-114919(P2020-114919A)
(43)【公開日】2020年7月30日
【審査請求日】2020年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-164456(P2014-164456)
(32)【優先日】2014年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】秋永 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】滝口 友輝
(72)【発明者】
【氏名】小澤 伸二
【審査官】 横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/125193(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/125194(WO,A1)
【文献】 特開平05−105756(JP,A)
【文献】 特開平02−014242(JP,A)
【文献】 特表2011−514266(JP,A)
【文献】 特開2009−294536(JP,A)
【文献】 特開2007−203489(JP,A)
【文献】 特開2006−007632(JP,A)
【文献】 特開2006−321229(JP,A)
【文献】 特開平03−243625(JP,A)
【文献】 特開昭64−000121(JP,A)
【文献】 特開昭64−069667(JP,A)
【文献】 特開2012−035583(JP,A)
【文献】 特開2019−007020(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/182419(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
C08L 79/08
B32B 17/10
B32B 27/34
C08J 5/18
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを溶媒中で反応させることによりポリアミド酸を得る工程と、
アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物と前記ポリアミド酸とを溶液中で50〜80℃で2〜5時間撹拌しながら反応させることによりアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得る工程とを含んでおり、
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、前記芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比が、0.980以上0.9995以下であり、
前記アルコキシシラン化合物の添加量は、前記アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液中に含まれるポリアミド酸の量を100重量部とした場合に、0.050重量部を超えて0.100重量部未満であることを特徴とするアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液の製造方法によって得られたアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を無機基板上に流延し、熱イミド化することによって、該アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液から得られたポリイミドフィルムが該無機基板上に積層された積層体を得る工程を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリイミドフィルムの線膨張係数が1〜10ppm/℃であることを特徴とする請求項2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記無機基板の厚みが、0.4〜5.0mmであり、
前記ポリイミドフィルムの厚みが、10〜50μmであることを特徴とする請求項2または3に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法によって得られた積層体において、ポリイミドフィルム上に電子素子を形成する工程と、
前記電子素子が形成されたポリイミドフィルムを無機基板より剥離する工程とを含むことを特徴とするフレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項6】
前記ポリイミドフィルムの線膨張係数が1〜10ppm/℃であることを特徴とする請求項5に記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項7】
前記無機基板の厚みが、0.4〜5.0mmであり、
前記ポリイミドフィルムの厚みが、10〜50μmであることを特徴とする請求項5または6に記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液、アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を用いた積層体及びフレキシブルデバイス、並びに積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、フラットパネルディスプレイ及び電子ペーパーなどの電子デバイスの分野では、基板としては、主としてガラス基板が用いられている。しかし、ガラス基板は、重く壊れやすいという問題があるため、必ずしも理想的な基板と言えない。そこで、基板をガラス基板からポリマー材料製の基板へと置き換えたフレキシブルデバイスを実現しようとする検討が盛んに行われてきた。しかしながら、これらのフレキシブルデバイスを生産するための技術の多くは新しい生産技術や装置を必要とする。そのため、ポリマー材料を用いたフレキシブルデバイスは大量生産されるには至っていない。
【0003】
一方で、最近、効率的にフレキシブルデバイスを大量生産する近道として、ガラス基板上にポリイミド樹脂層を形成した積層体を用いることにより、通常のガラス基板用プロセスを用いてフレキシブルデバイスを生産することが提案されている(非特許文献1)。この積層体を用いるプロセスでは、最終段階でポリイミド樹脂層をガラス基板から分離してフレキシブルデバイスを得る。
【0004】
かかるプロセスにおいて積層体には、良好なハンドリングのための平滑性及び低反り性が求められる。すなわち、積層体のポリイミド樹脂層は、ガラスと同程度の線膨張係数を有する必要がある。尚、ガラス基板の材料として一般的にソーダライムガラス及び無アルカリガラスが使用されている。ソーダライムガラスの線膨張係数は8〜9ppm/℃程度であり、無アルカリガラスの線膨張係数は3〜5ppm/℃程度である。また、アモルファスシリコン薄膜トランジスタ製造時のプロセス温度は最高で300〜350℃に達する。一般的なポリイミドの線膨張係数はガラスよりも大きいため、かかるプロセスに好適な材料は自然と限られたものになる。例えば、特許文献1には、無機基板上に、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、パラフェニレンジアミンまたは4,4”ジアミノパラテルフェニルとから得られるポリイミド前駆体の溶液を流延し、熱イミド化して積層体を得る方法が記載されている。一方で、特定構造のポリイミド前駆体は、無機基板上でフィルム化し、さらに一定以上の速度での昇温によって加熱イミド化させると、基板からポリイミドフィルムが剥離することがある。そのため、ポリイミドと無機基板との接着性を改善する目的で、無機基板の表面処理を行ったり(非特許文献2)、ポリイミド前駆体溶液にアミノ基または酸無水物基を有するシランカップリング剤を添加したりすることが行われる(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2012−35583号(2012年2月23日公開)」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開昭63−302069号(1988年12月8日公開)」
【特許文献3】日本国特許公報「特許第2551214号(1996年8月22日登録)」
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日経FPD2008vol.1 トレンド・戦略編、144〜151頁、日経BP社(2008)
【非特許文献2】シランカップリング剤の効果と使用法[新装版]、132〜139頁、サイエンス&テクノロジー株式会社(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示される様な低い線膨張係数を示す特定構造のポリイミド前駆体は、無機基板上でポリイミドフィルムにする際に、一定以上の速度での昇温によって加熱イミド化させると、無機基板からポリイミドフィルムが剥離するという課題があった。一般にイミド化前のフィルムが厚いほど剥離は起こりやすくなるため、厚いポリイミドフィルムとガラス基板との積層体を作製する場合には生産性を上げにくい。また、ポリアミド酸をポリイミド前駆体として用いる場合には、常温で保管した際の粘度変化が大きいために、冷蔵保管する必要があった。
【0008】
これらの課題のうち、無機基板からの剥離に対しては、ポリイミドフィルムと無機基板との接着性を改善する目的で、無機基板の表面処理を行ったり、ポリイミド前駆体溶液にアミノ基または酸無水物基を有するシランカップリング剤を添加したりすることが提案されている。しかし、非特許文献2に示される様な無機基板の表面処理を行う方法には、工程が増えることによる生産性低下という課題がある。また、特許文献2、3に示される様なポリイミド前駆体溶液にシランカップリング剤を添加する方法では、多くの場合に、ポリイミド前駆体溶液の貯蔵安定性が損なわれるという課題がある。
【0009】
本発明は、上記の背景を鑑みてなされたものであり、厚膜でも剥離することなく製膜でき、且つ室温で安定的に保管できるポリアミド酸溶液、及びフレキシブルデバイスの生産に好適に用いることのできるポリイミドフィルムと無機基板との積層体、具体的には1〜10ppm/℃の線膨張係数を有するポリイミドフィルムと無機基板との積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成を以下に示す。本発明に係るアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液は、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物とポリアミド酸とを溶液中で反応させることにより得られるアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液であり、ポリアミド酸は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを溶媒中で反応させることによって得られ、芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比が、0.980以上0.9995以下であり、前記アルコキシシラン化合物の添加量は、前記アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液中に含まれるポリアミド酸の量を100重量部とした場合に、0.050重量部を超えて0.100重量部未満であることを特徴としている。
【0011】
本発明に係るアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液では、前記アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液の水分は、500ppm以上3000ppm以下であってもよい。
【0012】
本発明に係るアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液では、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物が3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物であり、前記芳香族ジアミンが下記式(1)で表される芳香族ジアミンであってもよい。
【0013】
【化1】
【0014】
(式中nは、1〜3の整数である)
本発明に係るアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液では、前記溶媒の主成分がアミド系溶媒であってもよい。
【0015】
本発明に係る積層体の製造方法は、本発明に係るアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を無機基板上に流延し、熱イミド化することによって、該アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液から得られたポリイミドフィルムが該無機基板上に積層された積層体を得る工程を含むことを特徴としている。
【0016】
本発明に係るフレキシブルデバイスの製造方法は、本発明に係る積層体の製造方法によって得られた積層体において、ポリイミドフィルム上に電子素子を形成する工程と、前記電子素子が形成されたポリイミドフィルムを無機基板より剥離する工程とを含むことを特徴としている。
【0017】
本発明に係る積層体は、本発明に係るアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液から得られるポリイミドフィルムと、該ポリイミドフィルムが積層された無機基板とを有する積層体であって、前記ポリイミドフィルムの線膨張係数が1〜10ppm/℃であることを特徴としている。
【0018】
本発明に係る積層体では、前記無機基板の厚みが、0.4〜5.0mmであり、前記ポリイミドフィルムの厚みが、10〜50μmであってもよい。
【0019】
本発明に係るフレキシブルデバイスは、本発明に係るアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液から得られるポリイミドフィルムと、該ポリイミドフィルム上に形成された電子素子とを有することを特徴としている。
【0020】
本発明に係るアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液の製造方法は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを溶媒中で反応させることによりポリアミド酸を得る工程と、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物と前記ポリアミド酸とを溶液中で反応させることによりアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得る工程とを含んでおり、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、前記芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比が、0.980以上0.9995以下であり、前記アルコキシシラン化合物の添加量は、前記アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液中に含まれるポリアミド酸の量を100重量部とした場合に、0.050重量部を超えて0.100重量部未満であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ポリアミド酸の一部の末端をアルコキシシランによって変性したアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を用いることで、該溶液を無機基板上に塗って加熱してポリイミドフィルムを作製する際に、ポリイミドフィルムの無機基板からの剥離(デラミネーション、発泡)を抑制できる。
【0022】
また、ポリアミド酸の末端の大部分がアミノ基になるように調整したアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液は、分解が起きた際にアミド結合が生成しやすくなる。そのため、アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液は、分子量が変化しにくくなり、ワニス保管時の粘度変化を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明について詳細に説明するが、これらは本発明の一態様であり、本発明はこれらの内容に限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上B以下」を意味する。
【0024】
<アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液>
本発明のアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液(以下、単に「溶液」ともいう)は、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物とポリアミド酸とを溶液中で反応させることにより得られる。また、ポリアミド酸は芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを溶媒中で反応させることで得られる。
【0025】
ポリアミド酸の原料及び重合方法については後述するが、本発明では、貯蔵安定性を向上させる目的からポリアミド酸末端がカルボキシル基よりもアミノ基で占められている比率を高くする必要がある。
【0026】
アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物による変性は、ポリアミド酸が溶媒に溶解したポリアミド酸溶液に、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物を添加し、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物とポリアミド酸とを反応させることで行われる。アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノフェニルトリメトキシシラン等があげられる。なかでも、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物としては、第1級アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物が好ましい。アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物が第1級アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物である場合、ポリアミド酸と好適に反応し得る。
【0027】
これらのアミノ基を含有するアルコキシシラン化合物のポリアミド酸100重量部に対する配合割合は、0.050重量部を超えて0.100重量部未満である。ワニス保管時の粘度変化を抑制する点から、前記アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物のポリアミド酸100重量部に対する配合割合は、0.050重量部を超えて0.099重量部以下、0.050重量部を超えて0.095重量部以下、または0.050重量部を超えて0.090重量部以下であることがより好ましい。なお、前記アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物のポリアミド酸100重量部に対する配合割合の下限は、0.051重量部以上であってもよく、0.055重量部以上であってもよく、0.060重量部以上であってもよい。
【0028】
アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物の配合割合が0.050重量部を超えることで、無機基板からのポリイミドフィルムの剥離を抑制する効果は十分に発揮される。アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物の配合割合が0.100重量部未満であるとポリアミド酸の分子量が十分に保たれるため、ポリイミドフィルムの脆化などの問題が生じない。さらに0.100重量部未満であると、アルコキシシラン化合物を添加した後の粘度変化も小さくなる。また、未反応の成分が多い場合には、該未反応の成分が徐々にポリアミド酸と反応してポリアミド酸溶液の粘度が低下したり、アルコキシシラン同士で縮合してポリアミド酸溶液がゲル化したりする。アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物の添加量を必要最低限に抑えることで、無機基板からのポリイミドフィルムの剥離は抑制しながらも、ワニス保管時には減粘及びゲル化などの余計な副反応を抑制することができる。
【0029】
末端の大部分がアミノ基であるポリアミド酸に、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物を添加すると、ポリアミド酸溶液の粘度が下がる。発明者らは、これはポリアミド酸中のアミド結合が解離した際に再生した酸無水物基とアルコキシシラン化合物のアミノ基とが反応し、変性反応が進行するとともに、ポリアミド酸の分子量が低下するためだと推定している。反応温度は、酸無水物基と水との反応を抑制しつつ変性反応が進行しやすくなることから、0℃以上80℃以下であることが好ましく、20℃以上60℃以下であることがより好ましい。
【0030】
ポリアミド酸の種類及び濃度にもよるが、酸二無水物の濃度が小さいため変性反応は遅く、反応温度が低いと粘度が一定となるまでに5日程度要する場合がある。ポリアミド酸の種類及び/または溶媒が異なる場合には、反応温度ごとに時間ごとの粘度変化を記録し、適当な反応温度を選択すれば良い。
【0031】
このように一部の末端をアルコキシシランによって変性することにより得られたポリアミド酸溶液を無機基板上に塗った場合には、加熱して得られるポリイミドフィルムの剥離(デラミネーション、発泡)を抑制できる。またポリアミド酸の末端の大部分がアミノ基になるように調整することによって、アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液の分解が起きた際にもアミド結合が生成しやすくなる。そのため、分子量が変化しにくくなり、ワニス保管時の粘度変化を抑制できる。
【0032】
<ポリアミド酸の原料>
前述のように、ポリアミド酸の原料には芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとが用いられる。
【0033】
1〜10ppm/℃の線膨張係数を有するポリイミドフィルムと無機基板との積層体を得るためには、芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、主として3,3’,4,4’―ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと略記することもある。)を用いることが好ましく、芳香族ジアミンとしては、主として下記式(1)で表される芳香族ジアミンを用いることが好ましい。
【0034】
【化2】
【0035】
(式中nは、1〜3の整数である)
式(1)の芳香族ジアミンは、パラフェニレンジアミン(以下PDAと略記することもある。)、4,4’−ジアミノベンジジン、及び4,4”−ジアミノパラテルフェニル(以下、DATPと略記することもある。)である。これらの芳香族ジアミンの中でも、入手性の良いことからPDA、及びDATPが好ましい。
【0036】
芳香族テトラカルボン酸二無水物は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とすることが好ましい。3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとしてパラフェニレンジアミン等の直線性の高い芳香族ジアミンとを含むアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を用いることで、低いCTEなどのフレキシブルデバイス基板に好適な特性を付与することができる。
【0037】
さらに、本発明の特性を損なわない範囲で、PDA、4,4’−ジアミノベンジジン、及びDATP以外の芳香族ジアミンを用いても良いし、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物以外の芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いても良い。例えば、次の芳香族テトラカルボン酸二無水物及び/または芳香族ジアミンを、ポリアミド酸の原料全体に対してそれぞれ5モル%以下併用しても良い。
【0038】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、9,9’−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−スルホニルジフタル酸二無水物、パラテルフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、メタテルフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。上記酸二無水物の芳香環は、アルキル基置換および/またはハロゲン置換された部位を有していても良い。
【0039】
芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−(4−アミノフェノキシ)ペンタン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン及びビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン等が挙げられる。
【0040】
<ポリアミド酸の重合方法>
本発明に用いるポリアミド酸は、溶液重合により製造可能である。すなわち、原料である1種または2種以上の芳香族テトラカルボン酸二無水物、及び1種または2種以上の芳香族ジアミンを、芳香族ジアミンのモル比がカルボキシル基よりも高くなるように使用し、有機極性溶媒中で重合してポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を得る。
【0041】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比は、好ましくは0.980以上0.9995以下であり、より好ましくは0.995以上0.998以下である。モル比を0.9995以下とすることでポリアミド酸末端がアミノ基で占められる割合が酸無水物基で占められる割合よりも高くなり、貯蔵安定性を改善することができる。この効果は、モル比を小さくすることでさらに改善するが、0.998以下では大幅には改善しない。一方で、強靭なポリイミドフィルムを得るためにはモル比を1.000に近づけ十分に分子量を高める必要がある。モル比が0.980以上であれば、引張強度に優れた丈夫なポリイミドフィルムが得られる。また、好ましくはモル比を0.998以上として、保管時やイミド化時の分子量低下に備えるべきである。なお、引張強度はJIS K7127:1999に記載された引張特性の試験方法によって評価する。
【0042】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒、すなわちN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチル−2−ピロリドンなどである。これらの溶媒を適宜選択して用いることによって、ポリアミド酸溶液の特性、及び、無機基板上でイミド化した後のポリイミドフィルムの特性を制御することができる。上記溶媒は、主成分がアミド系溶媒であることが好ましい。例えば溶媒全体の量を100重量部とした場合にアミド系溶媒の量が50〜100重量部であることが好ましく、70〜100重量部であることがより好ましい。
【0043】
本発明者らの検討では、溶媒にN,N−ジメチルアセトアミドを用いた場合には、ポリアミド酸の貯蔵安定性が悪くなり、ポリイミドフィルムの線膨張係数は高くなる。溶媒にN−メチル−2−ピロリドンを用いた場合には、ポリアミド酸溶液の貯蔵安定性が高く、ポリイミドフィルムの線膨張係数はより低くなる。貯蔵安定性に関してはN−メチル−2−ピロリドンを用いた方がより優れた特性が得られるが、線膨張係数等の特性に関してはどちらか一方が優れている訳ではない。例えば、ポリイミドフィルムがより硬いことが好ましいならばN−メチル−2−ピロリドンを用い、ポリイミドフィルムが柔らかいことが好ましいならばN,N−ジメチルアセトアミドを用いる等のように、目的とする用途ごとに好適な溶媒を選択するべきである。
【0044】
反応装置には、反応温度を制御するための温度調整装置が備えられていることが好ましい。ポリアミド酸を重合する際の反応温度としては0℃以上80℃以下が好ましく、さらに、20℃以上60℃以下であることが、重合の逆反応であるアミド結合の解離を抑制し、しかもポリアミド酸の粘度が上昇しやすいことから好ましい。
【0045】
また、重合後に粘度の調整、すなわち分子量調整を目的として70〜90℃程度で1〜24時間加熱処理を行っても良い。これは、従来クッキングと称されている操作であり、加熱処理をおこなうことでアミド酸の解離、及び系中の水との反応による酸二無水物の失活を促進し、ポリアミド酸溶液をその後の操作に適した粘度にすることを目的としている。未反応の芳香族テトラカルボン酸二無水物が失活しやすくなるため、重合反応とクッキングとは分けて行うことが好ましいが、最初から反応温度を70〜90℃にして重合反応とクッキングとを一括して行うことも可能である。
【0046】
ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の重量%については、有機溶媒中に溶解されているポリアミド酸が5〜30重量%であることが好ましく、8〜25重量%であることがより好ましく、10〜20重量%であることが更に好ましい。ポリアミド酸の重量%が上記範囲であれば、未溶解原料の異常重合に起因するゲル化を抑制することができ、しかも、ポリアミド酸の粘度が上昇しやすいことから好ましい。
【0047】
<アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液の水分>
これまでのすべてのアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液中の水分は、500ppm以上3000ppm以下であることが好ましく、500ppm以上1000ppm以下であることがより好ましい。水分が3000ppm以下であればモル比の調整による貯蔵安定性向上の効果が十分に発揮されるため好ましい。1000ppm以下の場合、ポリアミド酸分子中のアミド結合の分解によって生じた酸無水物基と水とが反応して失活する確率を下げることにより、ワニス保管時の粘度変化を抑制できるためより好ましい。溶液中の水分は、原料由来と作業環境由来とに分けることができる。水分を減らすために様々な方法があるが、余分な工程または過剰な設備を用いて必要以上に水分を減らすことも、コストアップになるため好ましくない。例えば、市販のアミド系溶剤の水分は500ppm程度であるため、それ以下に水分を減らそうとするとコストアップが伴うので好ましくない。
【0048】
水分を減らす方法として、原料の保管を厳密に行って水分の混入を避け、反応雰囲気を乾燥空気または乾燥窒素等で置換することが効果的である。更に減圧下で処理しても良い。
【0049】
<芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比と、アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液の水分との関係>
芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比の好ましい値は、アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液の水分との関係によっても変化し得る。
【0050】
例えば、同程度の水分を含有し、且つ上記モル比が1.000以上であるポリアミド酸溶液に比べて貯蔵安定性に優れたポリアミド酸溶液が得られるという観点からは、上記モル比が0.9975以下であり、且つ水分が2500ppm以下であることが好ましく、上記モル比が0.9975以下であり、且つ水分が2200ppm以下であることがより好ましい。また、上記観点からは、上記モル比が0.9950以下であることがさらに好ましく、0.9901以下であることが特に好ましい。
【0051】
<アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液の流延及び熱イミド化>
ポリイミドフィルムと無機基板とを有する積層体は、前述したアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を、無機基板上に流延し、熱イミド化することによって製造することができる。上記積層体はアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液から得られたポリイミドフィルムが無機基板上に積層された積層体であるとも言える。
【0052】
無機基板としては、ガラス基板及び各種金属基板があげられるが、ガラス基板が好適である。ガラス基板の材料としては、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等が使用されている。特に、薄膜トランジスタの製造工程では無アルカリガラスが一般的に使用されているため、無機基板の材料としては無アルカリガラスがより好ましい。用いる無機基板の厚みとしては、0.4〜5.0mmが好ましい。無機基板の厚みが0.4mm以上であれば無機基板のハンドリングが容易になるため、好ましい。また、無機基板が5.0mm以下であれば無機基板の熱容量が小さくなり加熱または冷却工程での生産性が向上するため好ましい。
【0053】
溶液の流延方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、及び、ダイコート法等の公知の流延方法を挙げることが出来る。
【0054】
アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液としては、前述の反応液をそのまま用いても良いが、必要に応じて溶媒を除去あるいは加えても良い。ポリイミド前駆体溶液(すなわち、アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液)に用いることができる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及び、N−メチル−2−ピロリドンの他に、例えば、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド(Hexamethylphosphoric triamide:HMPA)、アセトニトリル、アセトン、及び、テトラヒドロフランが挙げられる。また、補助溶剤として、キシレン、トルエン、ベンゼン、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2−ビス−(2−メトキシエトキシ)エタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル、及び、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートを併用してもかまわない。
【0055】
ポリイミド前駆体溶液には、必要に応じてイミド化触媒及び/または無機微粒子等を加えても良い。
【0056】
イミド化触媒としては、3級アミンを用いることが好ましい。3級アミンとしては複素環式の3級アミンが更に好ましい。複素環式の3級アミンの好ましい具体例としては、ピリジン、2,5−ジエチルピリジン、ピコリン、キノリン、及び、イソキノリンなどを挙げることができる。イミド化触媒の使用量は、ポリイミド前駆体(すなわち、アルコキシシラン変性ポリアミド酸)の反応部位に対して0.01〜2.00当量、特に0.02〜1.20当量であることが好ましい。イミド化触媒が0.01当量以上である場合は、触媒の効果が十分に得られるため、好ましい。2.00当量以下である場合は、反応に関与しない触媒の割合が少ないため、費用の面で好ましい。
【0057】
無機微粒子としては、微粒子状の二酸化ケイ素(シリカ)粉末及び酸化アルミニウム粉末等の無機酸化物粉末、並びに微粒子状の炭酸カルシウム粉末及びリン酸カルシウム粉末等の無機塩粉末を挙げることができる。本発明の分野ではこれらの無機微粒子の粗大な粒が次工程以降での欠陥の原因となる可能性があるため、これらの無機微粒子は、均一に分散されることが好ましい。
【0058】
熱イミド化は、脱水閉環剤等を作用させずに加熱だけでイミド化反応を進行させる方法である。このときの加熱温度、及び、加熱時間は適宜決めることができ、例えば、以下のようにすれば良い。先ず、溶剤を揮発させるため、温度100〜200℃で3〜120分加熱する。加熱雰囲気は空気下、減圧下、又は窒素等の不活性ガス中で行うことができる。また、加熱装置としては、熱風オーブン、赤外オーブン、真空オーブン、またはホットプレート等の公知の装置を用いることができる。次に、さらにイミド化を進めるため、温度200〜500℃で3分〜300分加熱する。この時の加熱条件は低温から徐々に高温にするのが好ましい。また、最高温度は300〜500℃の範囲が好ましい。最高温度が300℃以上であれば、熱イミド化が進行しやすく、得られたポリイミドフィルムの力学特性が向上するため、好ましい。最高温度が500℃以下であれば、ポリイミドの熱劣化が進行せず、特性が悪化しないため好ましい。
【0059】
従来のポリアミド酸溶液を用いた場合は、ポリアミド酸の種類及び厚み、無機基板の種類及び表面状態、並びに加熱条件及び加熱方法によっては、加熱処理の際に無機基板からポリイミドフィルムが自然に剥離しやすい。しかし、アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を用いれば、自然剥離が抑制されるため、プロセスウィンドウを大きく広げることができる。
【0060】
ポリイミドフィルムの厚みは、5〜50μmであることが好ましい。ポリイミドフィルムの厚みが5μm以上であれば、基板フィルムとして必要な機械強度が確保できる。また、ポリイミドフィルムの厚みが50μm以下だと、加熱条件の調整だけで、ポリイミドフィルムと無機基板との積層体を自然剥離せずに得ることができる。
【0061】
ポリイミドフィルムの厚みが5μm以上だと、基板フィルムとして必要な機械強度が十分に確保できるため、好ましい。ポリイミドフィルムの厚みが50μm以下だと、前述した自然剥離等が抑制され、積層体を安定して得ることが容易になるため、好ましい。本発明により得られた積層体は、貯蔵安定性及びプロセス整合性に優れており、公知の液晶パネル用薄膜トランジスタプロセスによるフレキシブルデバイスの製造に好適に用いることができる。
【0062】
このようにポリイミド前駆体の溶液を無機基板上に流延し、熱イミド化すること、及び、ポリアミド酸骨格に特定の構造を選択することによって線膨張係数が1〜10ppm/℃であるポリイミドフィルムと無機基板とを有する積層体を得ることができる。そしてこの積層体を用いることで、優れた特性を有するフレキシブルデバイスを得ることができる。
【0063】
<電子素子の形成、及び、無機基板からのポリイミドフィルムの剥離>
本発明の積層体を用いることで、優れた特性を有するフレキシブルデバイスを得ることができる。すなわち、本発明の積層体のポリイミドフィルム上に、電子素子を形成し、その後、該ポリイミドフィルムを無機基板から剥離することでフレキシブルデバイスを得ることができる。さらに、上記工程は、既存の無機基板を使用した生産装置をそのまま使用できるという利点があり、フラットパネルディスプレイ及び電子ペーパーなどの電子デバイスの分野で有効に使用でき、大量生産にも適している。
【0064】
無機基板からポリイミドフィルムを剥離する方法には、公知の方法を用いることができる。例えば、手で引き剥がしても良いし、駆動ロールまたはロボット等の機械装置を用いて引き剥がしても良い。更には、無機基板とポリイミドフィルムとの間に剥離層を設ける方法でも良い。また、例えば、多数の溝を有する無機基板上に酸化シリコン膜を形成し、エッチング液を浸潤させることによって剥離する方法、及び無機基板上に非晶質シリコン層を設けレーザー光によって分離させる方法を挙げることが出来る。
【0065】
本発明のフレキシブルデバイスは、ポリイミドフィルムが優れた耐熱性と低線膨張係数とを有しており、また軽量性及び耐衝撃性に優れるだけでなく、反りが改善されたという優れた特性を有している。特に反りに関しては、無機基板と同等の低線膨張係数を有するポリイミドフィルムを無機基板上に直接、流延及び積層する方法を採用することにより、反りが改善されたフレキシブルデバイスを得ることができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施形態の変更が可能である。
【0067】
(特性の評価方法)
(水分)
容量滴定カールフィッシャー水分計 890タイトランド(メトロームジャパン株式会社製)を用いて、JIS K0068の容量滴定法に準じて溶液中の水分を測定した。ただし、滴定溶剤中に樹脂が析出する場合は、アクアミクロンGEX(三菱化学株式会社製)とN−メチルピロリドンとの1:4の混合溶液を滴定溶剤として用いた。
【0068】
(粘度)
粘度計 RE−215/U(東機産業株式会社製)を用い、JIS K7117−2:1999に準じて粘度を測定した。付属の恒温槽を23.0℃に設定し、測定温度は常に一定にした。
【0069】
(線膨張係数)
線膨張係数は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMA/SS120CUを用い、引張荷重法による熱機械分析によって評価した。実施例のポリイミドフィルムを無機基板であるガラス基板から引き剥がして、10mm×3mmの試料を作製した。該試料の長辺に3.0gの荷重を加え、500℃以上に加熱して残留応力を取り除いた後、再び10℃/分の昇温速度で加熱して測定した。この際の100℃〜300℃の範囲における単位温度あたりの試料の歪の変化量を線膨張係数とした。
【0070】
(参考例1)
(1−1)ポリアミド酸溶液の製造
ポリテトラフルオロエチレン製シール栓付き攪拌器、攪拌翼、及び、窒素導入管を備えた容積2Lのガラス製セパラブルフラスコに、モレキュラーシーブを用いて脱水したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を850.0g入れ、パラフェニレンジアミン(PDA)40.31gを加え、得られた溶液を油浴で50.0℃に加熱しながら窒素雰囲気下で30分間攪拌した。原料が均一に溶解したことを確認した後、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)109.41gを加え、原料が完全に溶解するまで窒素雰囲気下で10分間攪拌しながら、溶液の温度を約80℃に調整した。さらに一定の温度で加熱しながら攪拌を3時間続けて粘度を下げ、さらにDMAcを153.8g加えて攪拌し、23℃で粘度25000mPa・sを示す粘調なポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応溶液における芳香族ジアミン及び芳香族テトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は全反応液に対して15重量%であり、芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比は、0.9975である。
【0071】
(1−2)アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物による変性
上記のポリアミド酸溶液を水浴で速やかに冷却し、ポリアミド酸溶液の温度を約50℃に調整した。次に3−アミノプロピルトリエトキシシラン(γ―APS)の1%DMAc溶液7.50gをポリアミド酸溶液に加え、攪拌した。23000mPa・sから粘度が変化しなくなったので5時間後に反応を終え、作業しやすい粘度になるまでDMAcでポリアミド酸溶液を希釈した。この様にして23℃で粘度13700mPa・sであり水分が1400ppmを示すアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応におけるアルコキシシラン化合物(γ―APS)の配合割合(添加量)は、ポリアミド酸100重量部に対して0.050重量部である。
【0072】
得られた溶液を密栓したガラス瓶で23℃55%RHの環境に一週間保管して再度粘度を測定すると12400mPa・s(−9%)になっていた。
【0073】
(1−3)ポリイミド前駆体の流延及び熱イミド化
得られたアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を、両辺150mm、厚さ0.7mmの正方形の、FPD用のガラス基板として一般的に用いられている無アルカリガラス板(コーニング社製 イーグルXG)上に、バーコーターを用いて乾燥厚みが20μmになるように流延し、熱風オーブン内で80℃にて20分乾燥し、次いで150℃にて30分間乾燥した。さらに、220℃と300℃とで30分ずつ、430℃と500℃とで1時間ずつ加熱した。それぞれの温度間は2℃/分で徐々に昇温した。高温で熱イミド化することで、厚み19μmのポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体を得た。ポリイミドフィルムと無アルカリガラス板とは適度な剥離強度を有しており、加熱中に自然に剥離することはないが、無アルカリガラス板からポリイミドフィルムを引き剥がすことが可能であった。得られたポリイミドフィルムの特性について、表1に示す。
【0074】
(参考例2)
γ−APSの1%DMAc溶液の添加量を1.50gに変更した以外は、参考例1と同様にして、アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応におけるγ―APSの添加量は、ポリアミド酸100重量部に対して0.010重量部である。得られた溶液は23℃で粘度13100mPa・sであり水分が2800ppmであった。また、参考例1の方法と同様にして自然剥離せずに厚み20μmのポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体を得ることができた。保管時の粘度変化及びポリイミドフィルムの特性について表1及び表2に示す。
【0075】
(参考例3)
参考例1と同じ実験装置に脱水したDMAcを850.0g入れ、PDA40.39gを加え、得られた溶液を油浴で50.0℃に加熱しながら窒素雰囲気下で30分間攪拌した。原料が均一に溶解したことを確認した後、BPDA109.34gを加え、原料が完全に溶解するまで窒素雰囲気下で10分間攪拌しながら、溶液の温度を約80℃に調整した。さらに一定の温度で加熱しながら攪拌を5時間続けて粘度を下げ、23℃で粘度25300mPa・sを示す粘調なポリアミド酸溶液を得た。なお、このポリアミド酸溶液における芳香族ジアミン及び芳香族テトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は全反応液に対して15重量%であり、芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比は、0.9950である。
【0076】
さらに、このポリアミド酸溶液を水浴で速やかに冷却し、ポリアミド酸溶液の温度を約50℃に調整した。次にγ―APSの1%DMAc溶液7.50gをポリアミド酸溶液に加え、攪拌した。19100mPa・sから粘度が変化しなくなったので5時間後に反応を終え、作業しやすい粘度になるまでDMAcでポリアミド酸溶液を希釈した。この様にして23℃で粘度13800mPa・sであり水分が1900ppmを示すアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応におけるγ―APSの添加量は、ポリアミド酸100重量部に対して0.050重量部である。また、参考例1の方法と同様にして自然剥離せずに厚み22μmのポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体を得ることができた。保管時の粘度変化及びポリイミドフィルムの特性について表1及び表2に示す。
【0077】
(参考例4)
水分量が異なるDMAcを使用した以外は、参考例1と同様にしてアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得た。得られた溶液は23℃で粘度14200mPa・sであり水分が2500ppmであった。保管時の粘度変化について表1に示す。
【0078】
(参考例5)
参考例1と同様にして得られたアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を、乾燥窒素で加圧し、日本ポール株式会社製カプセルフィルターDFA HDC2(定格ろ過精度1.2μm)でろ過した。ろ過作業後、未ろ過で残った溶液は、23℃で粘度12700mPa・sであり水分が2700ppmであった。保管時の粘度変化について表1に示す。
【0079】
(参考例6)
参考例1と同様にして得られたアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を、乾燥窒素で加圧し、日本ポール株式会社製カプセルフィルターDFA HDC2(定格ろ過精度1.2μm)でろ過した。ろ過した溶液は、23℃で粘度12000mPa・sであり水分が3300ppmであった。保管時の粘度変化について表1に示す。
【0080】
(参考例7)
参考例1と同様にして得られたアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を大気下で開封したまま60分間静置した後、均一に攪拌した。得られた溶液は吸湿しており、23℃で粘度12100mPa・sであり水分が4400ppmであった。この溶液の保管時の粘度変化について表1に示す。
【0081】
(参考例8)
参考例4で得られた溶液に、溶液に対して0.3重量%相当の水を添加した。得られた溶液は23℃で粘度13800mPa・sであり水分が4900ppmであった。保管時の粘度変化について表1に示す。
【0082】
(参考例9)
参考例1と同じ実験装置に脱水したDMAcを850.0g入れ、PDA40.34gを加え、得られた溶液を油浴で50.0℃に加熱しながら窒素雰囲気下で30分間攪拌した。原料が均一に溶解したことを確認した後、BPDA109.66gを加え、原料が完全に溶解するまで窒素雰囲気下で10分間攪拌しながら、溶液の温度を約90℃に調整した。さらに一定の温度で加熱しながら攪拌を続けて粘度を下げ、23℃で粘度35500mPa・sを示す粘調なポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応溶液における芳香族ジアミン及び芳香族テトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は全反応液に対して15重量%であり、芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比は、0.9991である。
【0083】
この反応溶液を水浴で速やかに冷却し、溶液の温度を約50℃に調整した。次にγ―APSの1%DMAc溶液7.50gをポリアミド酸溶液に加え、攪拌した。粘度が変化しなくなったので3時間で反応を終え、作業しやすい粘度になるまでDMAcでポリアミド酸溶液を希釈した。この様にして、23℃で粘度13500mPa・sであり水分が1500ppmを示すアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応におけるγ―APSの添加量は、ポリアミド酸100重量部に対して0.050重量部である。また、参考例1の方法と同様の方法で厚み20μmのポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体を得ることができた。ポリイミドフィルムと無アルカリガラス板とは適度な剥離強度を有しており、加熱中に自然に剥離することはないが、無アルカリガラス板からポリイミドフィルムを引き剥がすことが可能であった。保管時の粘度変化及びポリイミドフィルムの特性について表1及び表2に示す。
【0084】
(参考例10)
参考例1と同じ実験装置に脱水したDMAcを850.0g入れ、PDA40.61gを加え、得られた溶液を油浴で50.0℃に加熱しながら窒素雰囲気下で30分間攪拌した。原料が均一に溶解したことを確認した後、BPDA109.39gを加え、原料が完全に溶解するまで窒素雰囲気下で10分間攪拌しながら、溶液の温度を約80℃に調整した。さらに一定の温度で加熱しながら攪拌を続けて粘度を下げ、23℃で粘度31200mPa・sを示す粘調なポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応溶液における芳香族ジアミン及び芳香族テトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は全反応液に対して15重量%であり、芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比は、0.9901である。
【0085】
この反応溶液を水浴で速やかに冷却し、溶液の温度を約50℃に調整した。次にγ―APSの1%DMAc溶液7.50gをポリアミド酸溶液に加え、攪拌した。粘度が変化しなくなったので3時間で反応を終え、作業しやすい粘度になるまでDMAcでポリアミド酸溶液を希釈した。この様にして、23℃で粘度13400mPa・sであり水分が1800ppmを示すアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応におけるγ―APSの添加量は、ポリアミド酸100重量部に対して0.050重量部である。また、参考例1の方法と同様の方法で厚み21μmのポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体を得ることができた。ポリイミドフィルムと無アルカリガラス板とは適度な剥離強度を有しており、加熱中に自然に剥離することはないが、無アルカリガラス板からポリイミドフィルムを引き剥がすことが可能であった。保管時の粘度変化及びポリイミドフィルムの特性について表1及び表2に示す。
【0086】
(参考例11)
参考例1と同じ実験装置に脱水したDMAcを850.0g入れ、PDA40.91gを加え、得られた溶液を油浴で50.0℃に加熱しながら窒素雰囲気下で30分間攪拌した。原料が均一に溶解したことを確認した後、BPDA109.09gを加え、原料が完全に溶解するまで窒素雰囲気下で10分間攪拌しながら、溶液の温度を約80℃に調整した。さらに一定の温度で加熱しながら攪拌を続けて粘度を下げ、23℃で粘度6300mPa・sを示す粘調なポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応溶液における芳香族ジアミン及び芳香族テトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は全反応液に対して15重量%であり、芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比は、0.9801である。
【0087】
この反応溶液を水浴で速やかに冷却し、溶液の温度を約50℃に調整した。次にγ―APSの1%DMAc溶液7.50gをポリアミド酸溶液に加え、攪拌した。粘度が変化しなくなったので2時間で反応を終えた。この様にして、23℃で粘度6100mPa・sであり水分が2200ppmを示すアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応におけるγ―APSの添加量は、ポリアミド酸100重量部に対して0.050重量部である。また、参考例1の方法と同様の方法で厚み20μmのポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体を得ることができた。ポリイミドフィルムと無アルカリガラス板とは適度な剥離強度を有しており、加熱中に自然に剥離することはないが、無アルカリガラス板からポリイミドフィルムを引き剥がすことが可能であった。保管時の粘度変化及びポリイミドフィルムの特性について表1及び表2に示す。
【0088】
(実施例1)
γ−APSの1%DMAc溶液の添加量を13.50gに変更した以外は、参考例1と同様にして、アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応におけるγ―APSの添加量は、ポリアミド酸100重量部に対して0.090重量部である。得られた溶液は23℃で粘度13500mPa・sであり水分が1700ppmであった。また、参考例1の方法と同様にして自然剥離せずに厚み20μmのポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体を得ることができた。保管時の粘度変化及びポリイミドフィルムの特性について表1及び表2に示す。
【0089】
(実施例2)
γ−APSの1%DMAc溶液の添加量を8.25gに変更した以外は、参考例1と同様にして、アルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応におけるγ―APSの添加量は、ポリアミド酸100重量部に対して0.055重量部である。得られた溶液は23℃で粘度13200mPa・sであり水分が1500ppmであった。また、参考例1の方法と同様にして自然剥離せずに厚み20μmのポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体を得ることができた。保管時の粘度変化及びポリイミドフィルムの特性について表1及び表2に示す。
【0090】
(比較例1)
参考例1と同様にしてポリアミド酸溶液を得た後、γ―APSを添加せずに作業しやすい粘度になるまでDMAcで希釈し、粘度13600mPa・sであり水分が1100ppmを示すアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得た。得られた溶液を参考例1と同様にして無アルカリガラス板上に流延及びイミド化したが、熱イミド化の際にポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との間に気泡が発生し、一部が剥離したポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体しか得ることができなかった。得られたポリイミドフィルムの特性について表2に示す。
【0091】
(比較例2)
参考例1と同じ反応容器に脱水したDMAcを850.0g入れ、BPDA110.08gを加え、攪拌して分散させた。分散液を油浴で50.0℃に加熱しながら、PDA40.17gを30分程度かけて徐々に加えた。原料が完全に溶解し粘度が一定になるまで1時間攪拌を続けた。さらにDMAcを250g加えて攪拌し、粘度20100mPa・sを示す粘調なポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応溶液における芳香族ジアミン及び芳香族テトラカルボン酸二無水物の仕込み濃度は全反応液に対して15重量%であり、芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比は、1.0070である。
【0092】
さらに、反応溶液を水浴で速やかに冷却し、溶液の温度を約50℃に調整した。次にγ―APSの1%DMAc溶液7.50gをポリアミド酸溶液に加え、攪拌した。19100mPa・sから粘度が変化しなくなったので5時間後に反応を終え、作業しやすい粘度になるまでDMAcでポリアミド酸溶液を希釈した。この様にして23℃で粘度13600mPa・sであり水分が1400ppmを示すアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得た。なお、この反応におけるγ―APSの添加量は、ポリアミド酸100重量部に対して0.050重量部である。また、参考例1の方法と同様にして自然剥離せずにポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体を得ることができた。保管時の粘度変化及びポリイミドフィルムの特性について表1及び表2に示す。
【0093】
(比較例3)
比較例2で得られた溶液に、溶液に対して0.1重量%相当の水を添加した。得られた溶液は23℃で粘度13300mPa・sであり水分が2600ppmであった。保管時の粘度変化について表1に示す。
【0094】
(比較例4)
比較例2で得られた溶液に、溶液に対して0.3重量%相当の水を添加した。得られた溶液は23℃で粘度13300mPa・sであり水分が4800ppmであった。保管時の粘度変化について表1に示す。
【0095】
なお、下記表1では、参考例1〜11及び比較例2〜4については水分の量に順に並べて示した。また、粘度変化率は、小数点以下を四捨五入して示している。
【0096】
【表1】
【0097】
それぞれの溶液から得られたポリイミドフィルムの無アルカリガラス板への密着性と線膨張係数とを評価した結果を表2に示す。密着性については、目視でポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との間に空隙がなくポリイミドフィルムが均一な外観を有している場合に○、ポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との間に空隙があるかポリイミドフィルム内部に気泡等が発生した場合に×と記した。
【0098】
【表2】
【0099】
液中の水分が多いほど溶液の貯蔵安定性は悪化し粘度が減少するが、同じ水分の場合には本発明の方法で粘度変化を低減することができる。参考例1〜11では水分が増加すると、粘度がより減少する傾向が見られる。また、比較例2〜4でも、水分が増加すると粘度がより減少する。とくに、参考例9と比較して参考例1、3、10はより粘度変化が小さい。参考例1、3、9、10は比較例2と同程度の水分であるが、粘度変化率は小さい。同様に参考例2、4、5、6、11は比較例3と同程度の水分であるが、粘度変化率は小さい。さらに、参考例7、8も比較例4と同程度の水分であるが、粘度変化率は小さい。例えば参考例5、6と比較例2とでは、約3000ppmに対して1400ppmであり、2倍程度水分が異なるにも関わらず、粘度変化率は同程度である。
【0100】
また、これらの結果に対して、A〜Eで評価し、表1の総合評価の項に示す。評価基準は以下の様にした。
【0101】
A:粘度変化率を、同程度の水分の比較例の粘度変化率で除した値が0.4以下
B:粘度変化率を、同程度の水分の比較例の粘度変化率で除した値が0.4より大きく0.5以下
C:粘度変化率を、同程度の水分の比較例の粘度変化率で除した値が0.5より大きく0.6以下
D:粘度変化率を、同程度の水分の比較例の粘度変化率で除した値が0.6より大きく0.7以下
E:粘度変化率を、同程度の水分の比較例の粘度変化率で除した値が0.7より大きい
ここで、比較例の総合評価が「−」となっている場合は、当該比較例が、総合評価において参考例及び実施例と比較する基準となっていることを表す。
【0102】
なお、ある実施例または参考例(実施例αまたは参考例αとする)に対して「同程度の水分の比較例」とは、比較例2〜4のうち、実施例αまたは参考例αとの水分の差の絶対値が最も小さい比較例を指す。例えば、参考例6の場合は、比較例2との水分の差の絶対値が1900、比較例3との水分の差の絶対値が700、比較例4との水分の差の絶対値が1500である。よって、参考例6は比較例3との比較によって評価される。
【0103】
具体的には、総合評価において、参考例1、3、9及び10は、同程度の水分である比較例2と比較した。また、参考例2、4〜6及び11は、同程度の水分である比較例3と比較した。参考例7及び8は、同程度の水分である比較例4と比較した。
【0104】
総合評価の結果について、以下に検討する。芳香族テトラカルボン酸二無水物の総モル数を、芳香族ジアミンの総モル数で除したモル比(以下、単にモル比とも言う)が0.9950以下の場合(参考例3、10及び11)、総合評価はAまたはBとなっている。特に、モル比が0.9901以下の場合(参考例10及び11)、総合評価はAとなっている。
【0105】
モル比が0.9975以下であり、且つ水分が2500以下の場合(参考例1、3、4、10及び11)、総合評価はA、BまたはCとなっている。また、モル比が0.9975以下であり、且つ水分が2200以下の場合(参考例1、3、10及び11)、総合評価はAまたはBとなっている。
【0106】
総合評価において、実施例1及び2は、同程度の水分である比較例2と比較した。その結果、実施例1及び2は、総合評価がAとなっている。このことから、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物の添加量が、0.050重量部を超えて0.100重量部未満である場合、粘度変化率を抑えることができることがわかる。
【0107】
また、参考例1〜3、9〜11のポリイミドフィルムは、20μm程度の乾燥厚みでもポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との間に気泡が発生せず、ポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体を得ることができた。これに対して比較例1のポリイミドフィルムは、20μm程度の乾燥厚みでもポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との間に気泡が発生し、ポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体を得ることができなかった。
【0108】
また、参考例1〜3、9〜11及び比較例2のポリイミドフィルムは無アルカリガラス板から剥離した後も、カールしたり反ったりすることはなかった。これらのポリイミドフィルムの線膨張係数が6〜8ppm/℃であり、無アルカリガラス板の線膨張係数と近いためである。
【0109】
実施例1及び2のポリイミドフィルムも同様に、20μm程度の乾燥厚みでもポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との間に気泡が発生せず、ポリイミドフィルムと無アルカリガラス板との積層体を得ることができた。
【0110】
また、実施例1及び2のポリイミドフィルムは無アルカリガラス板から剥離した後も、カールしたり反ったりすることはなかった。これらのポリイミドフィルムの線膨張係数が6〜8ppm/℃であり、無アルカリガラス板の線膨張係数と近いためである。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上のように、本発明によれば、厚膜でも剥離することなく製膜でき、室温で安定的に保管できるポリアミド酸溶液、及びフレキシブルデバイスの生産に好適に用いることのできるポリイミドフィルムと無機基板との積層体を提供することができる。
【0112】
従って、本発明は、例えば、フラットパネルディスプレイ及び電子ペーパー等の電子デバイスの分野において好適に利用することができる。