【文献】
EDFORS, Ove et al.,Is Orbital Angular Momentum (OAM) Based Radio Communication an Unexploited Area?,IEEE Transactions on Antennas and Propagation,米国,IEEE,2012年 2月,Vol.60, No.2,p.1126-1131
【文献】
TAMAGNONE, Michele et al.,The Orbital Angular Momentum (OAM) Multiplexing Controversy: OAM as a subset of MIMO,2015 9th European Conference on Antennas and Propagation (EuCAP),米国,IEEE,2015年 4月13日,p.1-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記送信アンテナの前記複数の円形ループアンテナに、それぞれ別の複数の送信部を接続すると共に、前記受信アンテナの前記複数の円形ループアンテナに、それぞれ別の複数の受信部を接続し、
前記複数の送信部のそれぞれから前記送信アンテナの前記複数の円形ループアンテナの一端及び他端に、差動信号となる送信信号を供給し、前記受信アンテナの前記複数の円形ループアンテナの一端及び他端から、差動信号となる受信信号を前記複数の受信部のそれぞれに供給するようにした
請求項1に記載の無線通信装置。
前記送信アンテナ又は前記受信アンテナの前記複数の円形ループアンテナが配置された前記平面に対して、前記波長の1/20から1/4の距離だけ離れて平行に配置された反射板を備えた
請求項1又は2に記載の無線通信装置。
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナは、放物反射面を有するパラボロイドを備え、前記パラボロイドの放物反射面の焦点位置の近傍に、前記複数の円形ループアンテナを配置し、
前記送信アンテナの前記複数の円形ループアンテナから送信された電磁波を、前記送信アンテナの前記パラボロイドで反射させて前記受信アンテナ側に送信させ、その送信された電磁波を前記受信アンテナの前記パラボロイドで反射させて、前記受信アンテナの前記複数の円形ループアンテナに導くようにした
請求項1又は2に記載の無線通信装置。
前記送信アンテナ及び前記受信アンテナが備える前記パラボロイドの放物反射面の中央部に、前記複数の円形ループアンテナの最外周の円形ループアンテナのサイズと同等以上の開口部を設けた
請求項4に記載の無線通信装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」と称する。)を、
図1〜
図7を参照して説明する。
[1.システム全体の構成]
図1は、本例の無線通信装置全体の構成例を示す図である。
本例の無線通信装置は、比較的近距離で送信アンテナ100から受信アンテナ200に無線通信を行うものである。送信アンテナ100と受信アンテナ200は同一の構成であり、複数(ここでは4個)の円形ループアンテナ110〜140,210〜240を備える。
【0019】
すなわち、送信アンテナ100は、4本の円形ループアンテナ110,120,130,140を備える。この4本の円形ループアンテナ110,120,130,140は、中心位置c
1を一致させた状態で同一の平面内に配置される。
また、受信アンテナ200についても、4本の円形ループアンテナ210,220,230,240を備え、4本の円形ループアンテナ210,220,230,240が、中心位置c
2を一致させた状態で同一の平面内に配置される。
なお、本例の円形ループアンテナ110〜140,210〜240は、後述するように給電部で途切れた円形の導体で構成され、導体が環状には繋がっていない(
図3参照)。
【0020】
送信アンテナ100及び受信アンテナ200を構成する各円形ループアンテナ110〜140,210〜240は、それぞれが独立しており、本例の無線通信装置で無線伝送する周波数から決まる波長の概ね整数倍となる長さを有する。各円形ループアンテナ110〜140,210〜240の長さの詳細については後述する。
【0021】
図1に示すように、送信アンテナ100の中心位置c
1を円形ループアンテナ110〜140と直交する方向に延長させた中心軸φ
0は、受信アンテナ200の中心位置c
2を通過する。すなわち、送信アンテナ100と受信アンテナ200とは、それぞれの中心軸φ
0をほぼ一致させた状態で配置される。
送信アンテナ100と受信アンテナ200との距離は、例えば数0.5cmから数十cm程度の比較的近距離に設定する。
【0022】
送信側の構成について説明すると、送信データ生成部10が、4つの送信データ系列を生成し、生成した4つの送信データ系列を、4つの送信部21,22,23,24に供給する。各送信部21,22,23,24は、同一通信周波数の搬送波を供給される送信データ系列で変調した送信波とする。各送信部21,22,23,24で得た送信波は、信号線31,32,33,34を介して、4本の円形ループアンテナ110,120,130,140に接続された給電部111,121,131,141に供給される。
そして、4本の円形ループアンテナ110,120,130,140は、各給電部111,121,131,141に得られる送信波を無線伝送する。
【0023】
4本の円形ループアンテナ110,120,130,140から無線伝送された信号は、受信アンテナ200の4本の円形ループアンテナ210,220,230,240で個別に受信される。4本の円形ループアンテナ210,220,230,240は、それぞれ別の給電部211,221,231,241を備え、各給電部211,221,231,241に得られる受信波が、信号線41,42,43,44を介して個別の受信部51,52,53,54に供給される。各受信部51,52,53,54は、同じ周波数の搬送波上に載った信号を復調して、受信データ系列を得る。各受信部51,42,53,54で得られた受信データ系列は、受信データ処理部60に供給される。
【0024】
[2.アンテナ装置の構成]
図2及び
図3は、送信アンテナ100の構成を示す。
図2及び
図3は、送信アンテナ100の構成を示すが、受信アンテナ200も送信アンテナ100と同じ構成であるから、
図2及び
図3の説明を適用することができる。
図2に示すように、送信アンテナ100が備える4本の円形ループアンテナ110,120,130,140は、同心円状に配置される。それぞれの円形ループアンテナ110,120,130,140を構成する導体の長さは、送信信号の周波数から決まる波長の約整数倍に設定する。
【0025】
すなわち、無線送信信号の波長をλとしたとき、円形ループアンテナ110,120,130,140の周囲長が、その波長λの約整数倍となるようにする。つまり、同心円の中心c
1から、各円形ループアンテナ110,120,130,140を構成する導体の中心までの半径をa
1,a
2,a
3,a
4とし、この半径a
1〜a
4をa
i(iは1〜4の整数)として示した場合、各円形ループアンテナ110〜140の半径a
iは、以下の[数1]式で示される。
【0027】
但し、niは任意の自然数であり、各円形ループアンテナ110〜140ごとに異なる値の自然数である。
図2に示すように各円形ループアンテナ110,120,130,140を配置したとき、最内周の円形ループアンテナ110が最小の周囲長となり、最外周の円形ループアンテナ140が最大の周囲長となる。つまり、n
iは、例えば、内側から外側に向けて1,2,3,4のように順に増加する自然数である。但し、n
iの値が1つずつ増加する連なった値とするのは1つの例であり、2以上に増加する値でもよい。
【0028】
なお、各円形ループアンテナ110,120,130,140が誘電体基板の上に配置されている場合には、その誘電体基板の誘電率で決まる実効比誘電率ε
eで波長が短縮されるため、各円形ループアンテナ110〜140の半径a
iは、次の[数2]式で示される。
【0030】
また、各円形ループアンテナ110,120,130,140の導体幅dは、ループ半径の1/10以下が望ましい。例えば、各円形ループアンテナ110,120,130,140の導体幅dは、最内周の円形ループアンテナ110の半径の1/10以下の任意の値とする。あるいは、各円形ループアンテナ110〜140ごとに、それぞれの半径の1/10以下となるように、外周側になるに従って導体幅dが太くなるようにしてもよい。
【0031】
図3は、円形ループアンテナ110に接続されるバランの実施の形態例である、給電部111の詳細構成を拡大して示したものである。
円形ループアンテナ110の一端110aと他端110bとの間は非導通状態で近接し、一端110a及び他端110bには、直線状の結合線路111a及び111bが接続される。この結合線路111a及び111bは、約90°曲がった位置に配置された別の直線状の結合線路111c及び111dに接続され、結合線路111c及び111dの端にパッド111e及び111fが形成される。
2つのパッド111e及び111fには、
図1に示す送信部21から互いに逆極性の差動信号が供給される。
【0032】
図3に示す構成の給電部111は、実インピーダンス変換を行うバランとして機能する。このバランとしての機能を持つ給電部111により、例えば円形ループアンテナ110の入力インピーダンスを、同軸ケーブルのインピーダンスである50Ωに合わせることができる。
【0033】
送信アンテナ100が備える他の円形ループアンテナ120,130,140に接続された給電部121,131,141についても、
図3に示す給電部111と同様の構成であり、それぞれの給電部121,131,141に対応した送信部22,23,24から差動信号が供給される。
【0034】
また、受信アンテナ200の各円形ループアンテナ210,220,230,240に接続された給電部211,221,231,241についても、
図1に示す給電部111と同様の構成である。すなわち、各給電部211,221,231,241のパッド(
図3に示すパッド111e及び111fと同様の構成)に、各円形ループアンテナ210,220,230,240で受信した差動信号が得られ、パッドに得られる差動信号が各受信部51,52,53,54に供給される。なおここではバランの一実施例を示したが、本実施の形態例で使用するバランは上記構成に限られることなく、バランの機能を有する任意の構成でもよい。
【0035】
[3.アンテナ装置の動作特性]
次に、送信アンテナ100及び受信アンテナ200の動作特性について説明する。
まず、個々の円形ループアンテナ110〜140,210〜240の単体としての特性を説明する。
図4に示すように、1つの円形ループアンテナ110(又は120,130,140のいずれか)をX軸とY軸で規定されるXY面に配置したとき、その円形ループアンテナ110上の電流分布I(φ)は、フーリエ級数展開することで、次の[数3]式で示される。
【0037】
この[数3]式に基づいて、円形ループアンテナの長さ(周囲長)が波長の整数倍になったときの電流分布を計算した例を、
図5に示す。
ここでは、円形ループアンテナの長さが、波長の1倍の例(
図5A)、波長の2倍の例(
図5B)、波長の3倍の例(
図5C)、波長の4倍の例(
図5D)、波長の5倍の例(
図5E)、波長の6倍の例(
図5F)をそれぞれ示す。
図5において、[mag]は振幅を示し、[ang]は位相を示す。
【0038】
周囲長が波長のn倍の場合は、cos(nφ)の展開係数I
nが圧倒的に大きく、他の係数は大幅に小さい。具体的には、展開係数I
nに隣接する係数I
n±1と係数I
nとの比の最大は−16dB以下である。このことは、周囲長を波長のn倍にした場合、それぞれの円形ループアンテナの電流分布は、ほぼcos(nφ)に比例した電流が流れることを示す。
【0039】
このような電流分布を持つ円形ループアンテナのP点(
図4)における電磁界は、グリーン関数の手法を用いて、波動方程式の固有モードを用いて展開することができ、以下の[数4]式及び[数5]式で求められる。[数4]式及び[数5]式において、Eは電界、Hは磁界を示し、添え字のr、θ、φは、極座標のそれぞれの方向の成分を表す。また、η
0は自由空間の波動インピーダンス、k
0は自由空間の波数、lは軌道角運動量量子数、mは磁気量子数である。ここで、軌道角運動量量子数lは自然数であり、磁気量子数mは絶対値がl以下である0及び負の整数も許される値である。
h
l(2)(x)は、l次の第2種球ハンケル関数、j
l(x)はl次の球ベッセル関数、p
lm(x)は(l,m)次のルジャンドル陪関数を示す。I
mは電流分布のcos(mφ)に関するフーリエ展開係数である。
[数4]式は、l+mが偶数の場合(TM波の場合)であり、[数5]式は、l+mが奇数の場合(TE波)の場合である。
【0042】
この[数4]式及び[数5]式から、電流分布の展開係数がm=nのみで大きい場合は、[数4]式及び[数5]式のmに関する和はm=nのみの項で近似することができる。したがって、周囲長を波長のn倍(
図1例の場合n=1,2,3,4)としたループアンテナが放射する電磁界は、m=nのモードが支配的となり、他のモードを無視して磁気量子数mに関するn次の単独モードで近似できることがわかる。
この例では、OAMモードの±mモードの1次結合になっている。例えば、TM波の場合に関して、+mと−mの項に分割すると、以下の[数6]式のようになる。[数6]式の上側の式は、mが0または正の整数、下側の式は、mが0または負であり、exp(jmφ)に依存して、空間内でφに従って位相が回転するOAMモードになっている。すなわち、位相器を用いることなく、OAM波が生成されていることが判る。
【0044】
また、このような電磁界が、
図1に示すように送信アンテナ100と中心軸φ
0が一致して配置された受信アンテナ200に入射した場合、電磁気学の相反定理から受信電流はフーリエ展開係数がInの係数のみが大きく現れる。したがって、
図1に示すように、波長の整数倍で異なる周囲長を持つ複数の円形ループアンテナ110,120,130,140から電磁界を放射すると、空間には、各円形ループアンテナ110,120,130,140の周囲長によって決まる整数次の磁気量子数を持つ電磁界が放射され、次数の混ざり合った電磁界が形成される。
【0045】
そして、送信アンテナ100と中心軸φ
0が一致した受信アンテナ200を配置すると、受信アンテナ200の各円形ループアンテナ210,220,230,240は、その周囲長で決まる磁気量子数に等しい電磁界成分のみを取り出して受信する。その結果、各円形ループアンテナ210,220,230,240には、磁気量子数に等しい次数nに相当するcos(nφ)の電流のみが大きく励起されることになる。つまり、送信側の円形ループアンテナから送信された電磁波は、その送信側の円形ループアンテナと周囲長が等しい円形ループアンテナで高い感度で受信され、周囲長が異なる円形ループアンテナ間では、信号がわずかしか受信されない。したがって、周囲長が異なる円形ループアンテナから、同一周波数で異なる無線信号を送信すれば、同じ周波数を用いて複数の信号を同時に無線伝送できるようになる。これにより、周波数あたりの伝送レートを大きく向上させることができる。
【0046】
なお、円形ループアンテナ110〜140の放射強度は方位によって決まっており、特に磁気量子数mが0次以外ではその強度が大きい領域は正面方向ではない。
図6は、遠方界の放射パターンの例を示す。ここでは、軌道角運動量量子数lと磁気量子数mの(l,m)次モードの遠方界放射パターンを示し、
図6A、
図6B、及び
図6Cは、それぞれ(1,1)次モード、(2,2)次モード、及び(3,3)次モードの例を示す。
【0047】
ここで、θ=0°が、送信アンテナと受信アンテナが対向する方位であり、(2,2)次モード及び(3,3)次モードでは、遠方ではその方向には電磁波が放射されず受信できない。
しかしながら、近傍では方位が異なっても、位置はほとんど変わらないため、送信アンテナ100と受信アンテナ200との距離が比較的短い場合には、各円形ループアンテナ210〜240で良好に受信できる。
【0048】
図7は、送信アンテナ100と受信アンテナ200を
図1に示すように配置した場合の、各円形ループアンテナ110〜140,210〜240の反射損失とアンテナ間の通過特性を評価した例を示す。
ここでは、各アンテナ100,200の4つの円形ループアンテナ110〜140,210〜240の半径及び導体幅として、以下のように設定する。
・円形ループアンテナ110,210:半径8.7mm、導体幅0.4mm
・円形ループアンテナ120,220:半径16.7mm、導体幅0.4mm
・円形ループアンテナ130,230:半径25.0mm、導体幅0.4mm
・円形ループアンテナ140,240:半径34.0mm、導体幅0.8mm
また、各円形ループアンテナ110〜140,210〜240を構成する導体を、0.1mmの厚さで、比誘電率4.7のプリント基板上に配置する。そして、送信アンテナ100と受信アンテナ200とを10mm間隔で対向して配置して評価したのが、
図7である。この場合の電流及び電磁界のモード次数nは、n=1,2,3,4に相当する。また、各給電部111〜141,211〜214の端子インピーダンスはバランのインピーダンス変換機能によって差動200Ωとなっている。
【0049】
図7Aはループアンテナの反射損失、
図7Bはループアンテナの相互インピーダンス、
図7Cは送信アンテナ100の給電部111と受信アンテナ200の各給電部211,221,231,241との間の通過損失、
図7Dは送信アンテナ100の給電部121と受信アンテナ200の各給電部211,221,231,241との間の通過損失、
図7Eは送信アンテナ100の給電部131と受信アンテナ200の各給電部211,221,231,241との間の通過損失、
図7Fは送信アンテナ100の給電部141と受信アンテナ200の各給電部211,221,231,241との間の通過損失をそれぞれ示す。
【0050】
図7Aに示す反射損失について説明すると、特性S1は円形ループアンテナ110,210の反射損失、特性S2は円形ループアンテナ120,220の反射損失、特性S3は円形ループアンテナ130,230の反射損失、特性S4は円形ループアンテナ140,240の反射損失である。
図7Aでは、4.6GHzから6.6GHzまでの反射損失を示している。
図7Aに示すように反射損失は、周囲長が波長の整数倍となる概ね5.2GHz〜5.4GHzの範囲で、良好な特性となっている。
【0051】
図7Bに示す相互インピーダンスについて説明すると、特性S12は、円形ループアンテナ110,120の相互インピーダンス、特性S13は、円形ループアンテナ110,130の相互インピーダンス、特性S14は、円形ループアンテナ110,140の相互インピーダンス、特性S23は、円形ループアンテナ120,130の相互インピーダンス、特性S24は、円形ループアンテナ120,140の相互インピーダンス、特性S34は、円形ループアンテナ130,140の相互インピーダンスである。
図7Bでは、5GHzから6GHzまでの相互インピーダンスを示す。
図7Bに示すように、送信アレイ内ならびに受信アレイ内で混信の要因となる隣接する円形ループアンテナ間の相互インピーダンスは、この周波数領域では−17dB以下と小さく、サイズの異なることに起因する磁気量子数モードの違いで、その値は十分に小さい。
【0052】
次に、
図7C〜
図7Fの各アンテナの通過損失について説明する。
図7C〜
図7Fは、5GHzから6GHzまでの通過損失を示している。
図7Cは送信アンテナ100の円形ループアンテナ110の給電部111と受信アンテナ200の各円形ループアンテナ210〜240の給電部211〜241との間の通過損失を示す。特性S31は、給電部111と給電部211との通過損失を示す。特性S32は、給電部111と給電部221との通過損失を示す。特性S33は、給電部111と給電部231との通過損失を示す。特性S34は、給電部111と給電部241との通過損失を示す。
【0053】
図7Dは送信アンテナ100の円形ループアンテナ120の給電部121と受信アンテナ200の各円形ループアンテナ210〜240の給電部211〜241との間の通過損失を示す。特性S41は、給電部121と給電部211との通過損失を示す。特性S42は、給電部121と給電部221との通過損失を示す。特性S43は、給電部121と給電部231との通過損失を示す。特性S44は、給電部121と給電部241との通過損失を示す。
【0054】
図7Eは送信アンテナ100の円形ループアンテナ130の給電部131と受信アンテナ200の各円形ループアンテナ210〜240の給電部211〜241との間の通過損失を示す。特性S51は、給電部131と給電部211との通過損失を示す。特性S52は、給電部131と給電部221との通過損失を示す。特性S53は、給電部131と給電部231との通過損失を示す。特性S54は、給電部131と給電部241との通過損失を示す。
【0055】
図7Fは送信アンテナ100の円形ループアンテナ140の給電部141と受信アンテナ200の各円形ループアンテナ210〜240の給電部211〜241との間の通過損失を示す。特性S61は、給電部141と給電部211との通過損失を示す。特性S62は、給電部141と給電部221との通過損失を示す。特性S63は、給電部141と給電部231との通過損失を示す。特性S64は、給電部141と給電部241との通過損失を示す。
【0056】
これら
図7C〜
図7Fに示すように、周囲長が同じ円形ループアンテナ同士の組み合わせの通過損失特性S31,S42,S53,S64は、近距離で無線通信を行うのに十分な値である。例えば、
図7Cに示す最も半径が小さい円形ループアンテナ110からの送信信号の通過損失特性S31は、−6dB以上であり、良好な無線伝送ができる。一方、周囲長が異なる場合の通過損失特性(例えば特性S32,S33,S34)は、−20dB以下であり、周囲長が同じ場合の通過損失よりはるかに大きく、無視できる。
【0057】
以上説明したように、本例のシステムによると、円形ループアンテナ110〜140,210〜240を複数配置した簡単な構成のアンテナ装置で、OAM波を放射することができ、従来のような位相器を必要としないシンプルな構成で、単一の周波数帯でも、円形ループアンテナの配置数に比例して送信データ量を増やすことができる。また、各円形ループアンテナは、ほぼ単独のモードの電磁界を選択的に放射し受容するため、それぞれの受信部51〜54は、各円形ループアンテナの受信信号を復調するだけで、受信データを取り出すことができ、複数系統のデータを分離するための特別な処理が必要なく、送信部21〜24や受信部51〜54の回路構成が非常に簡単になる。
【0058】
[4.他の実施の形態例のアンテナ装置の構成(反射板を配置する例)]
次に、本発明の他の実施の形態例を、順に説明する。
図8及び
図9は、送信アンテナ100に反射板102を配置した例を示す。
図8は送信アンテナ100の各円形ループアンテナ110〜140を配置した基板101を上側から見た平面図であり、
図9は、
図8のI−I線に沿う断面図である。
【0059】
この例では、
図8に示すように、送信アンテナ100は、各円形ループアンテナ110〜140を、基板101の表面に配置する。そして、基板101とほぼ同じサイズの導体よりなる反射板102を用意し、
図9に示すように、この反射板102を距離cだけ離して、基板101と並行に配置する。この場合、距離cは、送信アンテナ100が送信する無線信号の周波数から決まる波長λの1/20から1/4の間で任意に設定する。基板101と反射板102との間は空気層である。
【0060】
この
図8及び
図9に示すように反射板102を配置することで、各円形ループアンテナ110〜140から放射された電磁波は、反射板102で反射され、反射板102が配置された側とは反対側(
図9での上側)にのみ進行する。
この
図9に示す反射板102は、受信アンテナ200に配置するようにしてもよい。受信アンテナ200の場合には、反射板102は、送信アンテナ100から電磁波が到来する方向とは逆の方向に配置する。
送信アンテナ100と受信アンテナ200の双方が反射板102を備えることで、送信アンテナ100と受信アンテナ200の外側に放射される電力が、2つのアンテナ100,200の間に制限され、受信アンテナ200での受信電力が増大するようになる。
【0061】
[5.他の実施の形態例のアンテナ装置の構成(パラボロイドを配置する例)]
図10は、送信アンテナ100と受信アンテナ200にパラボロイド191,292を配置した場合の構成を示す。
この例では、中心軸が一致した状態で対向して配置された送信アンテナ100と受信アンテナ200の外側に、放物反射面を有するパラボロイド191,291を配置する。ここで、各アンテナ100,200の中心軸とパラボロイド191,291の中心軸をほぼ一致させ、パラボロイド191の焦点位置に送信アンテナ100を配置すると共に、パラボロイド291の焦点位置に受信アンテナ200を配置し、アンテナ100,200とパラボロイド191,291とが一直線状に並ぶようにする。
【0062】
このように構成したことで、送信アンテナ100の各円形ループアンテナ110〜140から放射される各電磁波は、磁気量子数がほぼ単一の電磁界になる。この電磁波は、パラボロイド191で反射され、その反射波は波面が中心軸にほぼ垂直になるように変換される。
ここで、円形ループアンテナ110〜140の中心位置を原点にした、極座標系(r,θ,φ)、あるいはQ点で示すように円筒座標系(ρ,φ′,−z)を設定する。中心軸は、極座標系では、θ=0の直線になり、円筒座標系ではz軸となる。
この場合、円形ループアンテナ110〜140から放射された電界並びに磁界のθ成分は、反射波では円筒座標系のρ成分のみに変換され、電界並びに磁界のΦ成分は、反射波では円筒座標系のφ′成分のみに変換される。また、中心軸に垂直な面上の点Qにおける電磁界の分布強度は、パラボロイド191の反射特性から、受信側のパラボロイド291の位置までほぼ同じ分布強度が維持される。
【0063】
その結果、受信側のパラボロイド291で反射された電磁界は、送信側とは逆に、電界並びに磁界の円筒座標系のρ成分は反射波では極座標系のθ成分のみに変換され、電界並びに磁界のφ′成分は反射波では極座標系のφ成分のみに変換される。したがって、送信時の電磁界と波数ベクトルの方向のみが反転した電磁界が、受信アンテナ200の円形ループアンテナ210〜240に入射することになる。このとき、伝搬による位相変化が生じるが、その位相変化は均一な変化であり無視できる。この電磁界は、受信アンテナ200の円形ループアンテナ210〜240に、送信側の円形ループアンテナ110〜140と方向を除いて同じ電流分布を励起するため、送信時の信号が載った搬送波がそのまま受信される。
【0064】
この理由は、送信の場合は、各円形ループアンテナ110〜140は、導体の半径a
iによって決まる磁気量子数の電磁界のみを放射したが、可逆性の原理から受信の場合も同様に導体の半径a
iによって決まる磁気量子数の電磁界のみを受信するため、同じ半径の円形ループアンテナから送信された電磁波を主に受信することによる。すなわち、伝搬空間は同じであるにも関わらず、各円形ループアンテナ110〜140,210〜240は磁気量子数が一定の電磁界(搬送波)を主に放射あるいは受信するため、受信される信号の載った搬送波は同じ半径を持つ円形ループアンテナから放射された信号の載った搬送波が支配的となり、他のアンテナからの信号の載った搬送波と分離できるようになる。この
図10に示すパラボロイド191,291を配置した構成の場合、パラボロイド191により中心軸に垂直な面内の電磁界は、遠方まで保持されるため、送信アンテナ100と受信アンテナ200との距離を離すことができ、比較的長い距離の無線通信が可能になる。
【0065】
[6.他の実施の形態例のアンテナ装置の構成(パラボロイドに開口部を設ける例)]
図10に示すようにパラボロイド191,291を配置する場合に、それぞれのパラボロイド191,291のほぼ中央に、送信アンテナ100及び受信アンテナ200のサイズに対応した開口部(貫通した穴)を設けるようにしてもよい。
すなわち、例えば
図11及び
図12に示すように、パラボロイド191に開口部192を設ける。ここでは、開口部192は、送信アンテナ100の最外周の円形ループアンテナ140と同等か若干大きいサイズとする。
図11はパラボロイド191及び送信アンテナ100を正面から見た図であり、
図12はパラボロイド191の断面を示す。
図示は省略するが、受信側のパラボロイド291についても、中央部に同様の開口部を設ける。
【0066】
このようにパラボロイド191の中央に開口部192を設けることで、送信アンテナ100から放射される電磁波の内で、パラボロイド191の正面方向に向かう電磁波は、開口部192を通過して、パラボロイド191では反射されず、アンテナ100に再度入射することはなくなる。一般に放射電磁界が放射体に再入射する状況では、放射体の反射損失等の特性が変化してしまうが、この構成とすることで、アンテナ特性の変化を低減することができる。
【0067】
[7.他の実施の形態例のアンテナ装置の構成(端子位置をシフトさせる例)]
図13は、端子位置をシフトした送信アンテナ300及び受信アンテナ400を備える無線通信装置の構成例を示す。
図13に示す無線通信装置は、比較的近距離で送信アンテナ300から受信アンテナ400に無線通信を行うものである。送信アンテナ300と受信アンテナ400は同一の構成であり、複数(ここでは3個)の円形ループアンテナ310〜330,410〜430を備える。
【0068】
すなわち、送信アンテナ300は、3本の円形ループアンテナ310,320,330を備える。この3本の円形ループアンテナ310,320,330は、中心位置c
1を一致させた状態で同一の平面内に配置される。
また、受信アンテナ400についても、3本の円形ループアンテナ410,420,430を備え、3本の円形ループアンテナ410,420,430が、中心位置c
2を一致させた状態で同一の平面内に配置される。
各円形ループアンテナ310〜330,410〜430として、それぞれ別の円形の導体で構成され、導体が環状には繋がっていない点は、先に説明した
図1の例の送信アンテナ100及び受信アンテナ200と同じ構成である。
【0069】
送信アンテナ300及び受信アンテナ400を構成する各円形ループアンテナ310〜330,410〜430が、無線通信装置で無線伝送する周波数から決まる波長の整数倍となる長さを有する点についても、先に説明した
図1の例の送信アンテナ100及び受信アンテナ200と同じである。
【0070】
図13に示すように、送信アンテナ300の中心位置c
1を円形ループアンテナ310〜330と直交する方向に延長させた中心軸φ
0は、受信アンテナ400の中心位置c
2を通過する。すなわち、送信アンテナ300と受信アンテナ400とは、それぞれの中心軸φ
0をほぼ一致させた状態で配置される。
送信アンテナ300と受信アンテナ400との距離は、例えば数0.5cmから数十cm程度の比較的近距離に設定する。
【0071】
図13の例では、送信データ生成部10が、3つの送信データ系列を生成し、生成した3つの送信データ系列を、3つの送信部21,22,23に供給する。各送信部21,22,23は、同じ周波数の搬送波をそれぞれ供給される送信データ系列で変調された送信波に変換する。各送信部21,22,23で得た送信波は、信号線31,32,33を介して、3本の円形ループアンテナ310,320,330に接続された給電部311,321,331に供給される。
【0072】
ここで、送信アンテナ300の給電部311を円形ループアンテナ310から引き出した位置と、給電部331を円形ループアンテナ330から引き出した位置とを、中心位置c
1から見た角度φ
2だけシフトさせる。同様に、給電部311を円形ループアンテナ310から引き出した位置と、給電部321を円形ループアンテナ320から引き出した位置とを、中心位置c
1から見た角度φ
3だけシフトさせる。ここでは、角度φ
2を角度φ
3の2倍とする。但し、2倍に設定するのは一例であり、2つの角度φ
2,φ
3に一定の関係がなくてもよい。
【0073】
受信アンテナ400の給電部411を円形ループアンテナ410から引き出した位置と、給電部431を円形ループアンテナ430から引き出した位置との角度φ
2、及び、給電部411を円形ループアンテナ410から引き出した位置と、給電部421を円形ループアンテナ420から引き出した位置との角度φ
3とについても、送信アンテナ300側の角度φ
2,φ
3と同じに設定する。つまり、送信側と受信側の同じサイズの円形ループアンテナどうしで、端子の位置を同じ角度位置として、対向するようにする。ここでの端子の位置とは、各円形ループアンテナ310〜330,410〜430から給電部311〜331,411〜431を引き出す位置である。すなわち、
図3に示す円形ループアンテナ110の一端110a及び他端110bと、直線状の結合線路111a及び111bとを接続する位置が、端子の位置に相当する。
【0074】
送信アンテナ300及び受信アンテナ400のその他の構成については、既に説明した送信アンテナ100及び受信アンテナ200と同様に構成する。各円形ループアンテナ310〜330,410〜430の給電部311〜331,411〜431の詳細な構成についても、
図3に示す給電部111と同様とする。
【0075】
次に、この
図13に示す送信アンテナ300及び受信アンテナ400を使用した場合の動作について説明する。ここでは、送信側及び受信側の3本の円形ループアンテナ310,320,330,41,420,430のループ半径が小さい順に、アンテナ1,2,3と呼ぶ。
【0076】
アンテナi(i=1,2,3)上の電流分布I
i(φ)は以下のように展開できる。ここでI
inの下側添え字はアンテナ番号を、上側添え字はフーリエ級数展開の次数を示す。
【0078】
なお、ループ半径の異なるアンテナ間に関して−20dB以下ではあるが通過量が存在する。これを抑制するには、[数7]式に従って考える必要がある。[数7]式において、I
inはアンテナの構成を定めると一意に定められるものである。しかし、この係数を求めるには複雑な計算を要する。実際、アンテナ1を励振した場合を考えると、アンテナ2,3にも電流が流れている。アンテナ2の受信量を考えると、端子における電流と端子インピーダンスでその電力は決まる。またアンテナ2の端子位置はφ2にあるので端子の電流I
p2は以下のように与えられる。ここでI
2nは端子の位置にはよらない。
【0080】
各次数のY行列で考えると、I
2nは、アンテナ1,3のn次の誘起電圧の影響を受けるため、その計算は非常に複雑である。しかし見方を変えて端子位置φ
2を替えた場合の電流を最小にすればよいことを考えると、φ
2を変化させた場合、端子電流はどこかで最小になると考えられるので、φ
2を替えて端子間の通過特性を評価し、その最小値を求めればよい。この場合の最小値が大幅に低減されれば、
図13に示すように端子位置をシフトさせた場合の有用性が確認されることになる。この場合、通信性能を制限するのは、端子間の通過量の最大値であるので、この最大値が最小となるように制御すればよい。
【0081】
図14は、端子位置が同方向の送受信間の反射損失(
図14A)及び通過特性(
図14B)の例を示す特性図である。すなわち、
図14は、送信アンテナ300と受信アンテナ400として、端子位置をシフトさせない場合(つまり
図1の例と同じ場合)の通過損失を示す。いずれもアンテナの端子インピーダンスを200Ωである。
図15は、端子位置を
図13に示すようにシフトさせた場合の、反射損失(
図15A)及び通過特性(
図15B)の例を示す特性図である。
【0082】
図14A及び
図15Aの特性Saは、送信アンテナ300のアンテナ1(円形ループアンテナ310)と受信アンテナ400のアンテナ1(円形ループアンテナ410)との反射損失を示す。また、
図14A及び
図15Aの特性Sbは、送信アンテナ300のアンテナ2(円形ループアンテナ320)と受信アンテナ400のアンテナ2(円形ループアンテナ420)との反射損失を示す。さらに、
図14A及び
図15Aの特性Scは、送信アンテナ300のアンテナ3(円形ループアンテナ330)と受信アンテナ400のアンテナ3(円形ループアンテナ430)との反射損失を示す。
【0083】
図14B及び
図15Bの特性Sdは、送信アンテナ300のアンテナ1(円形ループアンテナ310)と受信アンテナ400のアンテナ2(円形ループアンテナ420)との通過特性を示す。また、
図14B及び
図15Bの特性Seは、送信アンテナ300のアンテナ1(円形ループアンテナ310)と受信アンテナ400のアンテナ3(円形ループアンテナ430)との通過特性を示す。さらに、
図14B及び
図15Bの特性Sf、送信アンテナ300のアンテナ2(円形ループアンテナ320)と受信アンテナ400のアンテナ3(円形ループアンテナ430)との通過特性を示す。
【0084】
これら
図14と
図15を比較すると分かるように、端子配置を替えても反射損失には大きな差はない。一方反射損失の良い5.4GHzで通過特性を比べると、端子配置が同じ場合は、最大−23.3dB(特性Sd)であるのに比べ、配置を替えた
図13の構成の場合は、−28.5dB(特性Sf)と5.2dB通過が抑制されている。これは干渉波が5.2dB抑制されることに相当し、通信特性は大幅に改善される。
【0085】
[8.その他の変形例]
なお、ここまで説明した実施の形態例の構成は、本発明の要旨を変更しない範囲で、変形や変更が可能である。
例えば、送信アンテナ100や受信アンテナ200に配置する円形ループアンテナ110〜140,210〜240の数は、
図1例では4個としたが、必要な伝送レートに応じて、4個以外の任意の複数個を配置した送信アンテナ及び受信アンテナとしてもよい。端子位置を変える場合の送信アンテナ300や受信アンテナ400の円形ループアンテナ310〜330,410〜430の数も一例であり、必要な伝送レートに応じて、3個以外の任意の複数個を配置した送信アンテナ及び受信アンテナとして構成してもよい。端子位置を変える場合の送信アンテナ300や受信アンテナ400の例では、送信側と受信側のそれぞれで、円形ループアンテナの端子位置をシフトさせればよい。
【0086】
また、各アンテナの周囲長は実効比誘電率が大きいと短縮できるが、さらにインダクタ等の集中定数素子を端子部に装荷してさらに小型にしても良い。
また、
図8及び
図9に示す反射板102を配置する構成と、
図10〜
図12に示すパラボロイド191,291を配置する構成は組み合わせるようにしてもよい。また、2つのパラボロイドの間に配置される2つのループアンテナの端子方向は、送信アンテナと受信アンテナとで180度回転していてもよい。さらに、
図8及び
図9に示す反射板102を配置する構成や、
図10〜
図12に示すパラボロイド191,291を配置する構成において、
図13に示す端子位置をシフトさせる構成を組み合わせるようにしてもよい。
また、
図1や
図13に示す構成では、一方を送信アンテナ100又は300とし、他方を受信アンテナ200又は400としたが、送信アンテナ100又は300と受信アンテナ200又は400は同一の構成であるため、送信側と受信側を随時切り替えて、双方向に無線通信を行うようにしてもよい。
【0087】
さらに、双方向に無線通信を行う場合、同一平面に同心円状に配置した複数の円形ループアンテナを、2つの群に分けて、一方の群の円形ループアンテナ(例えば
図3の円形ループアンテナ110,120)を送信用とし、他方の群の円形ループアンテナ(例えば
図3の円形ループアンテナ130,140)を受信用として、送信と受信を同一周波数で同時に行うようにしてもよい。