(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
無機繊維及び熱可塑性バインダーを含んでニードルパンチされた第一繊維材と、無機繊維及び熱可塑性バインダーを含んでニードルパンチされた第二繊維材、とを重ねた積層材料を加熱してプレス成形することにより、前記第一繊維材から形成される第一繊維層と、前記第二繊維材から形成される第二繊維層と、の間に脆弱層が形成された状態で前記第一繊維層と前記第二繊維層とが互いに接着している車両用アンダーカバーを製造する、車両用アンダーカバーの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。また、本願において、「Min〜Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。
【0011】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、
図1〜9に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
【0012】
[態様1]
本技術の一態様に係る車両用アンダーカバー1は、第一繊維層10と第二繊維層20とを有し、一体的にプレス成形されている。前記第一繊維層10は、無機繊維11、及び、固化した熱可塑性バインダー12を含み、ニードルパンチされている。前記第二繊維層20は、無機繊維21、及び、固化した熱可塑性バインダー22を含み、同じくニードルパンチされている。本車両用アンダーカバー1は、前記第一繊維層10と前記第二繊維層20との間に脆弱層30が形成された状態で前記第一繊維層10と前記第二繊維層20とが互いに接着している。
【0013】
ニードルパンチされた繊維層は厚みが制限されてしまうが、別々にニードルパンチされた第一繊維層10及び第二繊維層20が間に脆弱層30を有する状態で互いに接着しているので、容易に厚みが確保されている。従って、本態様は、安価な製造方法により得られ、所要の厚みを有する車両用アンダーカバーを提供することができる。
【0014】
ここで、無機繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、炭化けい素繊維、アルミナ繊維、セラミック繊維、岩石繊維、スラッグ繊維、等が含まれる。
熱可塑性バインダーは、繊維状でもよいし、繊維状でなくてもよい。
第一繊維層には、無機繊維と熱可塑性バインダー以外の材料が含まれてもよい。第二繊維層も、無機繊維と熱可塑性バインダー以外の材料が含まれてもよい。第一繊維層と第二繊維層とは、同じ組成でもよいし異なる組成でもよく、同じ厚みでもよいし異なる厚みでもよい。
脆弱層は、車両用アンダーカバーをその厚み方向へ引っ張ったときに剥がれる層を意味する。
車両用アンダーカバーは、無機繊維及び固化した熱可塑性バインダーを含んでニードルパンチされた別の繊維層、表皮層、等といった別の層を有してもよい。
【0015】
[態様2]
図3等に例示するように、本車両用アンダーカバー1は、合成樹脂繊維43、及び、固化した熱可塑性バインダー44を含む表皮層40を、車体101側の面23と車外側の面13との少なくとも一方に有してもよい。この態様は、表面に合成樹脂繊維43と熱可塑性バインダーを含む表皮層40があるので、空力性能及び耐着氷性能を向上させることが可能な車両用アンダーカバーを提供することができる。
【0016】
ここで、表皮層は、第一繊維層における脆弱層とは反対側の面に接着されていてもよいし、別の層を介して第一繊維層側に配置されてもよい。また、表皮層は、第二繊維層における脆弱層とは反対側の面に接着されていてもよいし、別の層を介して第二繊維層側に配置されてもよい。
尚、車両用アンダーカバーに表皮層が無い場合も、本技術に含まれる。
【0017】
[態様3]
図7,8に例示するように、本車両用アンダーカバー1は、部分的に薄くされた厚み低減部1T、及び、該厚み低減部1Tの周りにある一般部1Gを有してもよい。前記厚み低減部1Tにおける車外側の面13の算術平均粗さRa(T)は、前記一般部1Gにおける車外側の面13の算術平均粗さRa(G)よりも小さくてもよい。この態様は、車両が縁石等といった障害物に乗り上げてアンダーカバー1が車両構成部品と障害物とに挟まれた時に引き裂かれ難いので、耐久性を向上させることが可能な車両用アンダーカバーを提供することができる。
【0018】
ここで、算術平均粗さは、粗さ曲線の中心線からの偏差の絶対値の平均値であり、具体的には、JIS B0601:2013(製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラメータ)に規定される算術平均粗さRaとする。
尚、車両用アンダーカバーに厚み低減部が無い場合も、本技術に含まれる。
【0019】
[態様4]
ところで、本技術の一態様に係る車両用アンダーカバー1の製造方法は、無機繊維11及び熱可塑性バインダー12を含んでニードルパンチされた第一繊維材61と、無機繊維21及び熱可塑性バインダー22を含んでニードルパンチされた第二繊維材62、とを重ねた積層材料50を加熱してプレス成形することにより、前記第一繊維材61から形成される第一繊維層10と、前記第二繊維材62から形成される第二繊維層20と、の間に脆弱層30が形成された状態で前記第一繊維層10と前記第二繊維層20とが互いに接着している車両用アンダーカバー1を製造する、態様を有する。
【0020】
ニードルパンチされた繊維材は加熱されても厚み方向D1への膨らみが制限されてしまうが、別々にニードルパンチされた第一繊維材61及び第二繊維材62を重ねた積層材料50を加熱することにより、それぞれ制限内で膨らんだ第一繊維層10及び第二繊維層20が間に脆弱層30を有する状態で互いに接着する。従って、本態様は、所要の厚みを有する車両用アンダーカバーを安価な製造方法により提供することができる。
【0021】
(2)車両用アンダーカバーを有する自動車の構成の具体例:
図1,2は、アンダーカバーを有する自動車の例を模式的に示している。
図1,2に示す自動車100は、道路上で使用されるように設計及び装備された路上走行自動車であり、車体101に囲まれた車室CA1を有する乗用自動車であるものとする。これらの図中、FRONT、REAR、LEFT、RIGHT、UP、DOWNは、それぞれ、前、後、左、右、上、下を示す。左右の位置関係は、車室CA1内の運転席に座って前を見る方向を基準とする。
図1に示す自動車100において、前輪のタイヤ111と後輪のタイヤ112が路面200と接触している。
【0022】
車体101の下には、路面200と接触しないように車両用アンダーカバー1が取り付けられている。アンダーカバー1は、車体101の下において車両走行時に生じる空気抵抗を下げる(燃費を向上させる)機能、車両走行時に跳ね上がる石等といった異物から車体101を保護する機能、及び、車室CA1の静粛性を向上させる吸音機能及び遮音機能を有する。
【0023】
図2に示すアンダーカバー1は、複数のアンダーカバー1a,1b,1c,1c,1d,1dに分けられている。エンジンアンダーカバー1aは、左右の前輪のタイヤ111,111の間において自動車100のエンジンの下に配置されている。ミッションカバー1bは、エンジンアンダーカバー1aから後側において自動車100の変速装置(トランスミッション)の下に配置されている。左右のフロントフロアアンダーカバー1c,1cは、前輪のタイヤ111,111よりも後側において自動車100のフロアパネルの下に配置されている。左右のリヤフロアアンダーカバー1d,1dは、後輪のタイヤ112,112よりも前側であってフロントフロアアンダーカバー1c,1cから後側において自動車100のフロアパネルの下に配置されている。
【0024】
図3は、アンダーカバー1の垂直断面の例を模式的に示している。
図4は、繊維層10,20を形成するための繊維材60の垂直断面を模式的に例示している。
図5は、表皮層40を形成するための表皮材70の垂直断面を模式的に例示している。
図3〜5に示す例の断面は、分かり易くするため誇張して示している。尚、車外側の表皮層41と車体101側の表皮層42を表皮層40と総称する。第一繊維層10を形成するための第一繊維材61と、第二繊維層20を形成するための第二繊維材62とは、同じ材料を用いることができるので、
図4に繊維材60としてまとめて示している。車外側の表皮層41を形成するための表皮材71と、車体側の表皮層42を形成するための表皮材72とは、同じ材料を用いることができるので、
図5に表皮材70としてまとめて示している。
図3〜5に示す符号D1は、アンダーカバー1の厚み方向であり、各層41,10,20,42の厚み方向でもあり、繊維材60の厚み方向でもあり、表皮材70の厚み方向でもある。
【0025】
プレス成形された第一繊維層10は、無機繊維11、及び、固化した熱可塑性バインダー12を含み、ニードルパンチされている。
図3では、無機繊維11が細線で示され、固化した熱可塑性バインダー12は無機繊維11の周りにある。第一繊維層10には、車外側の面(表皮層41との接触面)と車体側の面(第二繊維層20との接触面)とを結ぶニードルパンチの跡15もある。第一繊維層10は、通気性があるため、厚み方向D1へ空気が流通可能であり、吸音性能を発揮する。尚、通気性があるとは、JIS L1096:2010(織物及び編物の生地試験方法)に規定されたA法(フラジール形法)に従った通気度が1cc/cm
2/secよりも大きい(好ましくは3cc/cm
2/sec以上である)ことを意味する。
プレス成形された第二繊維層20は、無機繊維21、及び、固化した熱可塑性バインダー22を含み、ニードルパンチされている。
図3では、無機繊維21が細線で示され、固化した熱可塑性バインダー22は無機繊維21の周りにある。第二繊維層20には、車外側の面(第一繊維層10との接触面)と車体側の面(表皮層42との接触面)とを結ぶニードルパンチの跡25もある。第二繊維層20は、通気性があるため、厚み方向D1へ空気が流通可能であり、吸音性能を発揮する。
【0026】
第一繊維層10と第二繊維層20との間には、脆弱層30が形成されている。この状態で、第一繊維層10と第二繊維層20とが互いに接着している。脆弱層30は、アンダーカバー1を厚み方向D1へ引っ張ったときに剥がれる層を意味する。
【0027】
プレス成形されたアンダーカバー1の車外側の面13には、合成樹脂繊維43、及び、固化した熱可塑性バインダー44を含む表皮層41が形成されている。
図3では、合成樹脂繊維43が細線で示され、固化した熱可塑性バインダー44は合成樹脂繊維43の周りにある。
図3に示す表皮層41は、第一繊維層10における車外側の面(脆弱層30とは反対側の面)に接着されている。多くの場合、アンダーカバー1の車外側の面13には、凹凸が形成されている。表皮層41は、通気性があるため、厚み方向D1へ空気が流通可能であり、吸音性能を発揮する。
プレス成形されたアンダーカバー1の車体101側の面23には、合成樹脂繊維43、及び、固化した熱可塑性バインダー44を含む表皮層42が形成されている。
図3では、合成樹脂繊維43が細線で示され、固化した熱可塑性バインダー44は合成樹脂繊維43の周りにある。
図3に示す表皮層42は、第二繊維層20における車体101側の面(脆弱層30とは反対側の面)に接着されている。多くの場合、アンダーカバー1の車体側の面23には、凹凸が形成されている。表皮層42は、通気性があるため、厚み方向D1へ空気が流通可能であり、吸音性能を発揮する。
【0028】
繊維層10,20の無機繊維11,21は、無機物質を主に含む繊維であり、繊維材60が加熱されても溶融せず繊維の状態を保つ材料である。従って、繊維材60の無機繊維11,21がプレス成形後にも残ることになる。無機繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、炭化けい素繊維、アルミナ繊維、セラミック繊維、岩石繊維、スラッグ繊維、等を用いることができ、特に、比較的安価なガラス繊維が好適である。無機繊維の直径は、特に限定されないが、例えば5〜14μmとすることができる。無機繊維の長さは、特に限定されないが、例えば5〜200mmとすることができる。無機繊維の断面形状は、特に限定されず、真円を含む楕円、三角形、扁平形状、等とすることができる。
【0029】
繊維層10,20の熱可塑性バインダー12,22は、熱可塑性樹脂といった熱可塑性の接着成分を主に含むバインダーであり、繊維層10,20を形成するための繊維材60が加熱されると軟化し更に加熱されると溶融する材料である。熱可塑性バインダー12,22は、溶融されて第一繊維層10と第二繊維層20とを接着させる。熱可塑性バインダー用の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む。)には、ポリプロピレン(PP)樹脂やポリエチレン(PE)樹脂といったポリオレフィン樹脂、これらの合成樹脂にエラストマーを添加した改質樹脂、これらの合成樹脂に着色剤といったといった添加剤を添加した材料、等を用いることができ、特に、比較的安価なPPが好適である。
【0030】
繊維層10,20を形成するための繊維材60の熱可塑性バインダー12,22は、熱可塑性樹脂繊維といった熱可塑性の接着性繊維でもよい。従って、繊維材60の繊維状の熱可塑性バインダー12,22は、溶融によりプレス成形後に繊維状でなくなることがある。接着性繊維には、上述した熱可塑性樹脂の繊維(例えばPP繊維やPE繊維といったポリオレフィン繊維)等を用いることができ、芯鞘構造やサイドバイサイド構造等といったコンジュゲート構造の繊維を用いてもよい。接着性繊維の融点は、例えば100〜220℃とすることができる。接着性繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば2.2〜16dtex(デシテックス)とすることができる。ここで、単位「dtex」は、長さ10km当たりの質量のグラム数を意味する。接着性繊維の長さは、特に限定されないが、例えば27〜76mmとすることができる。接着性繊維の断面形状は、特に限定されず、真円を含む楕円、三角形、扁平形状、等とすることができる。繊維材60は、通気性があるため、厚み方向D1へ空気が流通可能である。
尚、繊維材60の熱可塑性バインダー12,22が繊維でない場合も、本技術に含まれる。
【0031】
繊維材60(すなわち繊維層10,20)に対する無機繊維11,21の配合比(R1とする。)は、例えば、10〜90重量%とすることができる。繊維材60に対する熱可塑性バインダー12,22の配合比(R2とする。)は、例えば、10〜90重量%とすることができる。ただし、R1+R2≦100重量%である。繊維材60には、R1+R2以下の範囲(好ましくはR1+R2≧75重量%となる範囲)の配合比で他の材料(例えば繊維)が添加されてもよい。
【0032】
繊維材60(すなわち繊維層10,20)の目付(単位面積あたりの重量)は、例えば250〜1000g/m
2とすることができる。
尚、第一繊維材61(すなわち第一繊維層10)と第二繊維材62(すなわち第二繊維層20)とは、構成成分の種類が同じでも異なってもよいし、繊維の直径が同じでも異なってもよいし、繊維の長さが同じでも異なってもよいし、繊維の断面形状が同じでも異なってもよいし、構成成分の配合比が同じでも異なってもよい。
【0033】
繊維材60は、例えば、無機繊維11,21と繊維状の熱可塑性バインダー12,22とを含む繊維を混合しマット状に配置してニードルパンチ加工機でニードルパンチすることにより形成することができる。これにより、
図4に示すようなニードルパンチの跡15,25が繊維材60の断面に残る。
【0034】
表皮層40の合成樹脂繊維43は、熱可塑性樹脂といった合成樹脂を主に含む繊維である。合成樹脂繊維43が熱可塑性である場合、合成樹脂繊維の融点は熱可塑性バインダー44の融点よりも高い方が好ましい。高融点の合成樹脂繊維43は、加熱されても繊維としての状態を保ち、表皮層40の穴あきや剥離を防止する。合成樹脂繊維43のための熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む。)には、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂といったポリエステル樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、アクリル(PMMA)樹脂、PP樹脂といったポリオレフィン樹脂、これらの合成樹脂にエラストマーを添加した改質樹脂、これらの合成樹脂に着色剤といったといった添加剤を添加した材料、等を用いることができ、特に、高融点で比較的安価なPET繊維が好適である。合成樹脂繊維43に、コンジュゲート構造の繊維を用いることも可能である。合成樹脂繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば2.2〜16dtexとすることができる。合成樹脂繊維の長さは、特に限定されないが、例えば27〜76mmとすることができる。合成樹脂繊維の断面形状は、特に限定されず、真円を含む楕円、三角形、扁平形状、等とすることができる。
【0035】
表皮層40の熱可塑性バインダー44は、熱可塑性樹脂といった熱可塑性の接着成分を主に含むバインダーであり、表皮層40を形成するための表皮材70が加熱されると軟化し更に加熱されると溶融する材料である。熱可塑性バインダー44は、溶融されて滑らかな表面を形成することにより、耐着氷性を向上させる。また、熱可塑性バインダー44は、溶融されて表皮層41と第一繊維層10、及び、表皮層42と第二繊維層20とを良好に接着させるので、耐チッピング性(剥離し難さ)を向上させる。熱可塑性バインダー用の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む。)には、PP樹脂やPE樹脂といったポリオレフィン樹脂、これらの合成樹脂にエラストマーを添加した改質樹脂、これらの合成樹脂に着色剤といったといった添加剤を添加した材料、等を用いることができ、特に、比較的安価なPPが好適である。
【0036】
表皮層40を形成するための表皮材70の熱可塑性バインダー44は、熱可塑性樹脂繊維といった熱可塑性の接着性繊維でもよい。従って、表皮材70の繊維状の熱可塑性バインダー44は、溶融によりプレス成形後に繊維状でなくなることがある。接着性繊維には、上述した熱可塑性樹脂の繊維(例えばPP繊維やPE繊維といったポリオレフィン繊維)等を用いることができ、コンジュゲート構造の繊維を用いてもよい。接着性繊維の融点は、例えば100〜220℃とすることができる。接着性繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば2.2〜16dtexとすることができる。接着性繊維の長さは、特に限定されないが、例えば27〜76mmとすることができる。接着性繊維の断面形状は、特に限定されず、真円を含む楕円、三角形、扁平形状、等とすることができる。表皮材70は、通気性があるため、厚み方向D1へ空気が流通可能である。
尚、表皮材70の熱可塑性バインダー44が繊維でない場合も、本技術に含まれる。
【0037】
表皮材70(すなわち表皮層40)に対する合成樹脂繊維43の配合比(R3とする。)は、例えば、10〜90重量%とすることができる。表皮材70に対する熱可塑性バインダー44の配合比(R4とする。)は、例えば、10〜90重量%とすることができる。ただし、R3+R4≦100重量%である。表皮材70には、R3+R4以下の範囲(好ましくはR3+R4≧75重量%となる範囲)の配合比で他の材料(例えば繊維)が添加されてもよい。
【0038】
表皮材70(すなわち表皮層40)の目付は、例えば100〜300g/m
2とすることができる。
尚、車外側の表皮材71(すなわち表皮層41)と車体側の表皮材72(すなわち表皮層42)とは、構成成分の種類が同じでも異なってもよいし、繊維の直径が同じでも異なってもよいし、繊維の長さが同じでも異なってもよいし、繊維の断面形状が同じでも異なってもよいし、構成成分の配合比が同じでも異なってもよい。
【0039】
表皮材70も、ニードルパンチされてもよい。この場合、例えば、合成樹脂繊維43と繊維状の熱可塑性バインダー44とを含む繊維を混合しマット状に配置してニードルパンチ加工機でニードルパンチすることにより、表皮材70を形成することができる。
【0040】
尚、アンダーカバーに表皮層41,42の少なくとも一方がなくても、本技術に含まれる。
図6Aは、車外側の表皮層41はあるが車体側の表皮層が無いアンダーカバー1の垂直断面の例を模式的に示している。
図6Bは、車体側の表皮層42はあるが車外側の表皮層が無いアンダーカバー1の垂直断面の例を模式的に示している。
図6Cは、両方の表皮層41,42が無いアンダーカバー1の垂直断面の例を模式的に示している。むろん、
図6Dとともに、
図6A〜6Dに示す例の断面は、分かり易くするため誇張して示している。
【0041】
また、無機繊維、及び、固化した熱可塑性バインダーを含み、ニードルパンチされた繊維層が3層以上有っても、本技術に含まれる。
図6Dは、無機繊維、及び、固化した熱可塑性バインダーを含み、ニードルパンチされた繊維層L1,L2,L3を有するアンダーカバー1の垂直断面の例を模式的に示している。この例において、繊維層L1と繊維層L2との間に脆弱層30が形成された状態で繊維層L1,L2が互いに接着し、繊維層L2と繊維層L3との間に脆弱層30が形成された状態で繊維層L2,L3が互いに接着している。従って、繊維層L1を第一繊維層10に当てはめると、繊維層L2が第二繊維層20に当てはまる。繊維層L2を第一繊維層10に当てはめると、繊維層L3が第二繊維層20に当てはまる。
【0042】
プレス成形されたアンダーカバー1の厚み(
図3には一般部の厚みT1を図示)は、例えば、1〜12mmとすることができる。アンダーカバー1の一般部1G(
図7,8参照)の厚みT1は、例えば、3〜12mmとすることができる。
アンダーカバーの剛性は、アンダーカバーの厚みの3乗にほぼ比例する。ここで、表皮層を除く芯材層として、無機繊維と熱可塑性バインダーとを含んでニードルパンチされた繊維層が1層しか無い場合、アンダーカバーの厚みが制限されてしまう。また、芯材層を発泡樹脂で形成する場合、発泡剤のコストが高いため、結果として製品コストが高くなってしまう。
【0043】
本具体例のアンダーカバー1は、別々にニードルパンチされた繊維層10,20が間に脆弱層30を有する状態で互いに接着しているので、容易に厚みが確保されている。
【0044】
プレス成形されたアンダーカバー1の密度は、例えば、0.05〜0.5g/cm
3(より好ましくは0.1〜0.3g/cm
3)とすることができる。
【0045】
図7,8に示すように、プレス成形されたアンダーカバー1の厚みは、部分的に異なってもよい。
図7は、左側のリヤフロアアンダーカバー1dを例としてアンダーカバー1の底面(車外側の面)を模式的に例示している。
図8は、左側のリヤフロアアンダーカバー1dを例としてアンダーカバー1を
図7のA1−A1に相当する位置で切断したときの垂直端面を模式的に例示している。
【0046】
図7,8に示すアンダーカバー1は、部分的に薄くされた厚み低減部1T、及び、該厚み低減部1Tの周りにある一般部1Gを有している。すなわち、厚み低減部1Tの厚みT2は、アンダーカバー1の大部分を占める一般部1Gの厚みT1よりも薄い。厚み低減部1Tは、アンダーカバー1において、端末部、車両構成部品との締結部、等、車両が縁石等といった障害物に乗り上がった時に車両構成部品と障害物とに挟まれ易い位置に設定されている。厚み低減部1Tの厚みT2は、一般部1Gの厚みT1よりも薄い範囲で、例えば、1〜3mmとすることができる。
【0047】
また、厚み低減部1Tにおける車外側の面13の算術平均粗さRa(T)は、一般部1Gにおける車外側の面13の算術平均粗さRa(G)よりも小さい。これにより、アンダーカバー1の車外側の面13において、厚み低減部1Tは、一般部1Gよりも合成樹脂の光沢感が強く、縁石等といった障害物の接触に対して動摩擦力が小さく、車両構成部品と障害物とに挟まれた時に引き裂かれ難い。尚、一般部1Gの車外側面13の算術平均粗さRa(G)は、例えば、1.5〜5μmとすることができる。厚み低減部1Tの車外側面13の算術平均粗さRa(T)は、Ra(G)よりも小さい範囲で、例えば、0.5〜1.5μmとすることができる。
【0048】
(3)車両用アンダーカバーの製造方法の具体例、並びに、その作用及び効果:
次に、
図9等を参照してアンダーカバー1の製造方法の例を説明する。
図9は、
図3で示したような各層41,10,20,42を有するアンダーカバー1を製造する具体例を示している。
図9に示す製造方法では、まず、各層41,10,20,42をそれぞれ形成するための表皮材71、ニードルパンチされた第一繊維材61、ニードルパンチされた第二繊維材62、及び、表皮材72を順に重ねる(材料積層工程S1)。
【0049】
本具体例では、材料積層工程S1で得られる積層材料50を予備加熱装置で熱可塑性バインダー12,22,44の融点以上に加熱して予備プレス装置で厚み方向D1へプレスしている(予備プレス工程S2)。これにより、熱可塑性バインダー12,22,44の少なくとも一部が一旦溶融して各材料71,61,62,72が互いに接着し、積層材料50が一体化されて扱い易くなる。一体化された積層材料50が熱可塑性バインダー12,22,44の軟化温度よりも低い温度となると、熱可塑性バインダー12,22,44が固化し、積層材料50が一体化された状態で維持される。ここで、一体化された積層材料50の厚みをT3とする。目標の一般部1Gの厚みT1に対する積層材料50の厚みT3は、例えば、0.5×T1≦T3≦1.5×T1とすることができる。
【0050】
その後、一体化された積層材料50を加熱装置で熱可塑性バインダー12,22,44の融点以上に加熱する(積層材料加熱工程S3)。これにより、熱可塑性バインダー12,22,44の少なくとも一部が溶融し、厚み方向D1へ圧縮されていた繊維材61,62の無機繊維11,21の復元力により繊維材61,62が厚み方向D1へ膨らもうとする。しかし、繊維材61,62自体は、ニードルパンチされているので、厚みの復元は限定的である。一方、第一繊維材61と第二繊維材62との間は、ニードルパンチによる拘束が無いので、厚み方向D1へ拡がり易く、
図3で示した脆弱層30が形成される。
尚、本工程S3や予備プレス工程S2の加熱は、赤外線ヒーターによる輻射加熱、サクションヒーター(熱風循環ヒーター)による熱風加熱、熱プレスによる接触加熱、これらの組合せ、等により行うことができる。
【0051】
積層材料加熱工程S3の後、加熱された積層材料50をプレス成形装置300でプレス成形する(プレス成形工程S4)。プレス成形装置300は、アンダーカバー1の車外側の凹凸を有する面13を形成する型310と、アンダーカバー1の車体101側の凹凸を有する面23を形成する型320とを有している。
図9では型310が下型であって型320が上型となっているが、型310が上型であって型320が下型であってもよい。プレス成形は、冷間プレスでよいが、熱間プレスでもよい。第一繊維材61と第二繊維材62との間はニードルパンチによる拘束が無いので、第一繊維層10と第二繊維層20との間に脆弱層30が残る。これにより、第一繊維材61から形成される第一繊維層10と、第二繊維材62から形成される第二繊維層20と、の間に脆弱層30が形成された状態で第一繊維層10と第二繊維層20とが互いに接着しているアンダーカバー1が形成される。アンダーカバー1が熱可塑性バインダー12,22,44の軟化温度よりも低い温度となると、熱可塑性バインダー12,22,44が固化し、アンダーカバー1の形状が維持される。
【0052】
ここで、厚み低減部1Tについては、熱可塑性バインダー12,22,44の密度が高くなっているため、溶融した熱可塑性バインダーが車外側の面13と車体101側の面23に多く染み出す。このため、厚み低減部1Tは一般部1Gよりも滑らかとなり、厚み低減部1Tの車外側面13の算術平均粗さRa(T)は一般部1Gの車外側面13の算術平均粗さRa(G)よりも小さくなる。見た目では、厚み低減部1Tの方が一般部1Gよりも合成樹脂の光沢感が強くなっている。
【0053】
尚、必要に応じてプレス成形品の外周を裁断機で裁断してもよい(裁断工程S5)。裁断方法は、裁断刃による裁断、ウォータージェット裁断、カッターを用いた手裁断、等を採用することができる。
以上説明したようにして、
図3で示したような脆弱層30が第一繊維層10と第二繊維層20との間に形成されたアンダーカバー1を製造することができる。むろん、
図6A〜6Dで示したアンダーカバー1も、同様の製造方法により製造することができる。
【0054】
上述したように、ニードルパンチされた繊維材は加熱されても厚み方向への膨らみが制限されてしまう。例えば、無機繊維と熱可塑性バインダーを含んでニードルパンチされた繊維層が1層しかなく、この繊維層の厚みが3mmに制限され、両面の表皮層の厚みがそれぞれ0.5mmであるとする。この場合、アンダーカバーの一般部の厚みは、3+2×0.5=4mmに制限されてしまう。
【0055】
一方、本具体例のように、無機繊維と熱可塑性バインダーを含んでニードルパンチされた繊維層10,20が2層あり、各繊維層10,20の厚みが3mmに制限され、厚み方向D1へ膨らんだ脆弱層30の厚みが0.5mmであり、両面の表皮層41,42の厚みがそれぞれ0.5mmであるとする。この場合、アンダーカバーの一般部の厚みは、2×3+0.5+2×0.5=7.5mmとなる。従って、無機繊維と熱可塑性バインダーを含んでニードルパンチされた繊維層が1層しかない場合と比べて、アンダーカバーが3.5mm厚くなる。しかも、アンダーカバーの厚みの増加は、ニードルパンチされた繊維層の厚み3mmを超えている。
【0056】
本具体例では、別々にニードルパンチされた第一繊維材61と第二繊維材62とが厚み方向D1へ膨らんだ脆弱層30を間に有する状態で互いに接着する。従って、本具体例は、所要の厚みを有する車両用アンダーカバーを安価な製造方法により提供することができる。尚、車両用アンダーカバーは、安価な製造方法により得られればよく、車両用アンダーカバーの材料自体が安価であることに限定されない。
また、車両が障害物に乗り上がった時に車両構成部品と障害物とに挟まれ易い位置に設定されている厚み低減部1Tが一般部1Gよりも滑らかであるので、障害物の接触に対して動摩擦力が小さく、車両構成部品と障害物とに挟まれた時に引き裂かれ難い。
【0057】
(4)実施例:
以下、実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の例により限定されるものではない。
【0058】
[実施例]
第一繊維材61には、ガラス繊維(無機繊維11の例)とPP繊維(熱可塑性バインダー12の例)を含んでニードルパンチされた繊維材(目付550g/m
2)を用いた。第二繊維材62には、ガラス繊維(無機繊維12の例)とPP繊維(熱可塑性バインダー22の例)を含んでニードルパンチされた繊維材(目付550g/m
2)を用いた。車外側の表皮材71には、PET繊維(合成樹脂繊維43の例)とPP繊維(熱可塑性バインダー44の例)を含む不織布(目付200g/m
2)を用いた。車体側の表皮材72は、使用しなかった。
表皮材71と第一繊維材61と第二繊維材62を順に重ね、
図9で示した製造方法に従って、一般部1Gの厚みT1が7mm、厚み低減部1Tの厚みT2が1.5mmとなるように、
図6Aで示したようなアンダーカバー1のサンプルを形成した。
【0059】
アンダーカバーサンプルの断面を顕微鏡(拡大率25倍)で観察したところ、第一繊維層10と第二繊維層20とにニードルパンチの跡15,25が確認され、第一繊維層10と第二繊維層20との間に繊維の少ない脆弱層30が確認された。アンダーカバーサンプルを厚み方向D1へ引っ張ったところ、脆弱層30で剥がれた。
以上より、所要の厚みを有する車両用アンダーカバーを安価な製造方法により提供することができることが確認された。
【0060】
また、一般部1Gの車外側面13の算術平均粗さRa(G)を求めたところ、2.32μmとなった。厚み低減部1Tの車外側面13の算術平均粗さRa(T)を求めたところ、0.98μmとなった。従って、Ra(T)<Ra(G)である車両用アンダーカバーを安価な製造方法により提供することができることが確認された。
【0061】
(5)変形例:
本発明は、他にも種々の変形例が考えられる。
例えば、表皮層41と第一繊維層10との間に別の層が存在してもよいし、第二繊維層20と表皮層42との間に別の層が存在してもよい。
【0062】
(6)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、安価な製造方法により得られ、所要の厚みを有する車両用アンダーカバー、及び、その製造方法等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。