特許第6859079号(P6859079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6859079
(24)【登録日】2021年3月29日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】新規フルオレン化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 39/17 20060101AFI20210405BHJP
   C07C 43/23 20060101ALI20210405BHJP
   C07C 41/30 20060101ALI20210405BHJP
   C07C 37/20 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C07C39/17CSP
   C07C43/23 D
   C07C41/30
   C07C37/20
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-220612(P2016-220612)
(22)【出願日】2016年11月11日
(65)【公開番号】特開2017-178918(P2017-178918A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年6月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-66602(P2016-66602)
(32)【優先日】2016年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】川口 絵理
(72)【発明者】
【氏名】緒方 和幸
(72)【発明者】
【氏名】塚田 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【審査官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−080572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 39/17
C07C 37/20
C07C 41/30
C07C 43/23
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される新規フルオレン化合物。
【化1】
(式中、nは0又は1を示す。)
【請求項2】
下記式(2)で表される化合物と、下記式(3)で表される化合物とを反応させて請求項1記載の新規フルオレン化合物を製造する方法。
【化2】
(式中、nは請求項1に同じ。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率及び耐熱性が高く、広範な有機溶媒に対する優れた溶解性を有する新規フルオレン化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱的特性(耐熱性など)、光学的特性(高い屈折率など)などの重要な特性を付与又は改善するため、樹脂の重合成分を選択したり、樹脂を改質可能な化合物を添加するなどの方法がとられている。例えば、フルオレン骨格(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格など)を有する化合物は、屈折率、耐熱性などに優れた機能を有することが知られている。このようなフルオレン骨格の優れた機能を樹脂に発現する方法としては、反応性基(例えば、ヒドロキシル基など)を有するフルオレン化合物、例えば、ビスフェノールフルオレン(BPF)、ビスクレゾールフルオレン(BCF)、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)などを樹脂の構成成分として利用し、樹脂の骨格構造の一部にフルオレン骨格を導入する方法が一般的である。しかし、屈折率、耐熱性などにおいてさらなる向上が求められている。
【0003】
特開2009−57322号公報(特許文献1)には、下記一般式で表されるジベンゾフルオレン化合物が、高い耐熱性、高い屈折率、低線膨張性などの特性を有することが開示されている。
【0004】
【化1】
【0005】
(式中、環Zはアリール環を示し、Eは酸素原子又は硫黄原子、R〜Rは置換基、kは0〜2の整数、lは0〜3の整数、m、nは0以上の整数、pは1以上の整数を示す)
【0006】
しかし、ジベンゾフルオレン化合物の原料(反応成分)であるジベンゾフルオレノンは、有機溶媒に対する溶解性が非常に低いため、ジベンゾフルオレノンとフェノールとを溶融させて反応させる必要があり、合成手法が制限される。また、生成するジベンゾフルオレン化合物も溶解性が十分ではなく、原料(モノマー)として用いその誘導体や樹脂を有機溶媒中で調製できず、誘導体及び樹脂の製造方法が制限される。このため、高い耐熱性、高い屈折率などの特性だけでなく、有機溶媒に対する溶解性が優れた材料の開発が求められる。
【0007】
一方、特許第5068828号公報(特許文献2)には、フラーレンと、下記一般式で表される化合物と、この化合物とアルデヒド類との縮合反応により得られるフェノール樹脂とを含むレジスト下層膜形成用組成物が、エッチング加工によりパターンを精度よく形成できることが開示されている。
【0008】
【化2】
【0009】
(式中、R〜Rは水素原子又は酸素原子又はヒドロキシル基を含んでもよいC6−12炭化水素基であり、R〜Rはベンゼン環又はナフタレン環を示し、1≦m1+m2≦2、1≦m3+m4≦2、n1=n2=1を示す。)
【0010】
また、この文献には、前記化合物の具体例として、下記式で表される化合物が記載されている。
【0011】
【化3】
【0012】
しかし、この文献には、これらの化合物の製造方法及び物性について記載されていない。
【0013】
WO2014/050690号パンフレット(特許文献3)には、少なくとも1つの芳香族縮合環骨格を有し、複数の重合性基を有する特定モノマーと、特定の非共役ビニリデン基含有化合物とを含む硬化樹脂組成物を用いると、成型時のバリの発生が抑制され、低アッベ数かつ高い屈折率である硬化物を製造可能であることが開示されている。この文献には、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2,3−ベンゾフルオレンとアクリル酸クロリドとを反応させて、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]−2,3−ベンゾフルオレン(下記化合物Xa−4)を調製すること、さらには9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル)]−2,3−ベンゾフルオレンとアクリル酸クロリドとを反応させて、9,9−ビス[6−(2−アクリロイルオキシエトキシ)−2−ナフチル)]−2,3−ベンゾフルオレン(化合物Xa−10)を調製することが記載されている。
【0014】
【化4】
【0015】
しかし、この文献には、反応基質として使用した9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2,3−ベンゾフルオレン及び9,9−ビス[2−(6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル)]−2,3−ベンゾフルオレンの特性については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2009−57322号公報(特許請求の範囲、[実施例])
【特許文献2】特許第5068828号公報(特許請求の範囲、[0040]〜[0043][実施例])
【特許文献3】WO2014/050690号パンフレット(請求の範囲、[実施例])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明の目的は、有機溶媒に対する優れた溶解性を有する新規フルオレン化合物及びその製造方法を提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的は、高い屈折率を有する新規フルオレン化合物及びその製造方法を提供することにある。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、高い耐熱性を有する新規フルオレン化合物及びその製造方法を提供することにある。
【0020】
本発明の別の目的は、有機溶媒を用いてベンゾフルオレン誘導体又はそれを用いた樹脂などを調製するのに有用な新規フルオレン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ベンゾフルオレン骨格とヒドロキシル基含有環集合アレーン環とを組み合わせた新規フルオレン化合物は、広範な有機溶媒に対する溶解性、屈折率、耐熱性などが高いことを見出し、本発明を完成した。
【0022】
すなわち、本発明の新規フルオレン化合物は、下記式(1)で表される。
【0023】
【化5】
【0024】
(式中、Zは環集合アレーン環、Arはナフタレン環、R〜Rは置換基、Rはアルキレン基、kは0〜6の整数、jは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは0〜5の整数、pは1以上の整数を示す。)
【0025】
本発明の新規フルオレン化合物は、下記式(1a)で表される化合物であってもよい。
【0026】
【化6】
【0027】
(式中、kは0〜2の整数を示し、Z、R〜R、j、m、n及びpは前記に同じ。)
【0028】
Zは、ビフェニル環であってもよい。また、Rは、アルキル基であってもよく、Rは、C2−4アルキレン基であってもよく、kは、0、mは、0〜6程度の整数、nは、1〜3程度の整数、pは、1であってもよい。本発明の新規フルオレン化合物は、9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレン及び9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレンからなる群から選択された少なくとも1種であってもよい。なお、式(1a)に付した番号及び符号は、フルオレンの位置に対応して、以下に記載のベンゾフルオレン化合物の位置を示す。
【0029】
本発明は、下記式(2)で表される化合物と、下記式(3)で表される化合物とを反応させて新規フルオレン化合物を製造する方法を含む。
【0030】
【化7】
【0031】
(式中、Z、Ar、R〜R、k、j、m、n及びpは前記式(1)に同じ。)
【0032】
また、本発明は、樹脂の屈折率を向上させるための添加剤であって、新規ベンゾフルオレン化合物で構成された屈折率向上剤、さらには樹脂にこの屈折率向上剤を添加し、樹脂の屈折率を向上させる方法も含む。
【0033】
なお、本発明において、「(ポリ)アルコキシ」とは、「アルコキシ」と複数の「アルコキシ」が繋がった「ポリアルコキシ」との双方を含む意味に用いる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の新規フルオレン化合物は、ベンゾフルオレン骨格と、ヒドロキシル基含有アレーン環とを組み合わせているため、広範な有機溶媒に対する溶解性、屈折率、耐熱性などが高い。また、反応成分であるベンゾフルオレノンも溶解性が高いため、簡便に効率よく新規フルオレン化合物を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の新規フルオレン化合物(ベンゾフルオレン化合物ということがある)は、下記式(1)で表される。
【0036】
【化8】
【0037】
(式中、Zは環集合アレーン環、Arはナフタレン環、R〜Rは置換基、Rはアルキレン基、kは0〜6の整数、jは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは0〜5の整数、pは1以上の整数を示す。)
【0038】
上記式(1)において、ベンゾフルオレン骨格としては、1,2−ベンゾフルオレン(ベンゾ[a]フルオレン)骨格、2,3−ベンゾフルオレン(ベンゾ[b]フルオレン)骨格、3,4−ベンゾフルオレン(ベンゾ[c]フルオレン)骨格が例示でき、通常、2,3−ベンゾフルオレン(ベンゾ[b]フルオレン)骨格であることが多い。
【0039】
2,3−ベンゾフルオレン骨格を有する化合物、1,2−ベンゾフルオレン骨格を有する化合物、3,4−ベンゾフルオレン骨格を有する化合物は、それぞれ下記式(1a)〜(1c)で表されるベンゾフルオレン骨格を有している。
【0040】
【化9】
【0041】
(式中、kは0〜2の整数を示し、R〜R、jは前記に同じ。)
【0042】
上記式(1)において、環Zで表される環集合アレーン環としては、ビアレーン環(例えば、ビフェニル環、ビナフチル環(例えば、1,1’−ビナフチル環、1,2’−ビナフチル環、2,2’−ビナフチル環など)、フェニルナフタレン環(例えば、1−フェニルナフタレン環、2−フェニルナフタレン環など)、ターフェニル環などの環集合C12−18アレーン環などが例示でき、高い屈折率と高い溶解性とをバランスよく付与できる観点からビフェニル環であるのが好ましい。
【0043】
基R及び基Rで表される置換基としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシカルボニル基など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などが例示でき、特に、アルキル基である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。なお、k又はjが複数(2以上)である場合、複数の基R(又は基R)は互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、ベンゾフルオレン骨格を形成するナフタレン環に置換する基R、ベンゼン環に置換する基Rは、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、ベンゾフルオレン骨格を形成するナフタレン環に対する基R、ベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。
【0044】
基Rの置換数kは、0〜6であり、好ましくは0〜2、さらに好ましくは0〜1、特に0であってもよい。基Rの置換数jは、0〜4であり、好ましくは0〜3、さらに好ましくは0〜2、特に0〜1、通常0であってもよい。なお、ベンゾフルオレン骨格を構成するナフタレン環の置換数k、ベンゼン環の置換数jは、それぞれ互いに同一又は異なっていてもよい。
【0045】
基Rとして表される置換基としては、例えば、基R、Rとして例示したアリール基を除く置換基が例示でき、特にアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−20アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)である場合が多い。置換基Rは、同一の環Zにおいて、単独で又は2種以上組み合わせて置換していてもよい(すなわち、mが複数である場合、Rは互いに同一又は異なっていてもよい)。また、異なる環Zに置換する置換基Rは互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であってもよい。
【0046】
置換基Rの置換数mは、環Zの種類などに応じて適宜選択でき、特に限定されず、例えば、0〜8、好ましくは0〜6(例えば、1〜5)、さらに好ましくは0〜4程度であってもよい。好ましい置換数mは、0〜4、好ましくは0〜2、さらに好ましくは0又は1、特に0であってもよい。なお、置換数mは、2つの環Zにおいて、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。なお、置換基Rの置換位置は、特に限定されず、環Zに対する基−[(OR−OH]の置換位置に応じて適宜選択できる。
【0047】
環Zに置換する基−[(OR−OH]において、基Rで表されるアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、C2−10アルキレン基(例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基、ヘキシレン基などのC2−6アルキレン基)などが例示でき、特に、C2−4アルキレン基(特に、エチレン基、プロピレン基などのC2−3アルキレン基)が好ましい。なお、Rは、同一の環Zにおいて、互いに同一の又は異なるアルキレン基であってもよい(すなわち、nが複数である場合、Rは互いに同一又は異なっていてもよい)。すなわち、nが2〜5の場合、ポリアルコキシ(ポリオキシアルキレン)基は、同一のオキシアルキレン基で構成されていてもよく、複数のオキシアルキレン基(例えば、オキシエチレン基とオキシプロピレン基など)で構成されていてもよい。通常、Rは同一の環Zにおいて、同一のアルキレン基であってもよい。また、Rは、異なる環Zにおいて、互いに同一又は異なってもいてもよく、通常、同一であってもよい。
【0048】
オキシアルキレン基(OR)の数(付加モル数)nは、それぞれ0〜5程度の範囲から選択でき、例えば、0〜4(例えば、1〜4)、好ましくは0〜3(例えば、1〜3)、さらに好ましくは0〜2(例えば、1〜2)、特に0又は1(例えば、1)である。なお、nは、整数でも平均値であってもよく、異なる環Zにおいて、同一であっても、異なっていてもよい。また、2つの環Zにおいて、オキシアルキレン基の合計(n×2)は、0〜10程度の範囲から選択でき、例えば、0〜8(例えば、2〜8)、好ましくは0〜6(例えば、2〜6)、さらに好ましくは0〜4(例えば、2〜4)、特に0〜2(例えば、2)である。付加モル数nが1〜5のベンゾフルオレン化合物は、アルコール性ヒドロキシル基を利用して、例えば、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル酸エステルの原料として用いた場合、反応進行性がよいため有利である。また、付加モル数nが0のベンゾフルオレン化合物は、フェノール性ヒドロキシル基を利用して、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの原料として用いた場合、反応進行性がよいため有利である。また、付加モル数nは屈折率を大きくする観点から小さい方が好ましく、付加モル数nが0のベンゾフルオレン化合物であれば、オキシアルキレン基が付加したベンゾフルオレン化合物よりも屈折率を大きくすることができる。
【0049】
また、環Zに置換する基−[(OR−OH]の置換数pは、1以上の整数であればよく、例えば、1〜5、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。なお、pは異なる環Zにおいて、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であってもよい。
【0050】
環Zに置換する基−[(OR−OH]の置換位置は、特に限定されず、pの数などに応じて、適宜選択できる。例えば、環Zに置換する基−[(OR−OH]の置換位置は、環Zがビフェニル環であるとき、基−[(OR−OH]は、ベンゾフルオレン骨格に置換するフェニル基、又はこのフェニル基に置換するフェニル基のいずれに置換してもよいが、前者に基−[(OR−OH]が置換している場合が多い。
【0051】
具体的な新規フルオレン化合物としては、2つのヒドロキシル基を有する新規フルオレン化合物[例えば、(a)9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレン類、(b)9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレン類]などが例示できる。
【0052】
(a)9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレン類(前記式(1a)において、環Zがビフェニル環、nが0、pが1である化合物)としては、例えば、9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレン類{例えば、9,9−ビス[4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレン、9,9−ビス[3−ヒドロキシ−4−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレンなどの置換基(例えば、C1−4アルキル基など)を有してもよい9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレンなど};などが例示できる。
【0053】
(b)9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレン類(前記式(1a)において、環Zがビフェニル環、nが1〜5、pが1である化合物)としては、例えば、(b−1)9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシアルコキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレン類{例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)−3−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレン、9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)−3−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレンなどの置換基(例えば、C1−4アルキル基など)を有してもよい9,9−ビス(4−ヒドロキシC2−4アルコキシ−3−フェニルフェニル)−2,3−ベンゾフルオレン、9,9−ビス[3−(2−ヒドロキシエトキシ)−4−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレン、9,9−ビス[3−(3−ヒドロキシプロポキシ)−4−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレン、9,9−ビス[3−(2−ヒドロキシプロポキシ)−4−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレン、9,9−ビス[3−(4−ヒドロキシブトキシ)−4−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレンなどの置換基(例えば、C1−4アルキル基など)を有してもよい9,9−ビス(3−ヒドロキシC2−4アルコキシ−4−フェニルフェニル)−2,3−ベンゾフルオレンなど};(b−2)前記(b−1)に対応し、前記式(1)においてnが2〜5である9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシポリアルコキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレン類(例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]−3−フェニルフェニル}−2,3−ベンゾフルオレンなどの9,9−ビス[フェニル−(ヒドロキシC2−4アルコキシ)C2−4アルコキシフェニル]−2,3−ベンゾフルオレン(n=2の化合物)、9,9−ビス[フェニル−(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシ)フェニル]−2,3−ベンゾフルオレンなど}などが例示できる。
【0054】
好ましい化合物としては、9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレン、9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレン[例えば、9,9−ビス(フェニル−ヒドロキシC2−4アルコキシフェニル)−2,3−ベンゾフルオレン]などが挙げられる。
【0055】
なお、具体的な新規フルオレン化合物として2,3−ベンゾフルオレン化合物について例示したが、これらの化合物(a)及び(b)に対応する1,2−ベンゾフルオレン化合物、3,4−ベンゾフルオレン化合物であってもよい。
【0056】
[ベンゾフルオレン化合物の製造方法]
本発明の方法では、下記式(2)で表されるベンゾフルオレノン化合物と、下記式(3)で表される化合物とを反応させる工程(工程(A))により製造できる。本発明の製造方法では、有機溶媒に対して前記ベンゾフルオレノン化合物の溶解性が高いため、簡便に効率よく本発明の新規フルオレン化合物を製造できる。
【0057】
【化10】
【0058】
(式中、Ar、Z、R〜R、k、j、p、m及びnは前記式(1)に同じ。)
【0059】
上記式(2)で表される化合物は、前記式(1)においてベンゾフルオレン骨格に対応するベンゾフルオレノン化合物である。
【0060】
上記式(2)で表される化合物は、前記式(1a)〜(1c)においてベンゾフルオレン骨格に対応する下記式(2a)〜(2c)で表される化合物であってもよい。
【0061】
【化11】
【0062】
(式中、R、R、k及びjは前記式(1a)に同じ。)
【0063】
なお、式(2a)〜(2c)に付した番号及び符号は、フルオレノンの位置に対応して以下に記載のベンゾフルオレノン化合物の位置を示す。
【0064】
前記式(2)、(2a)〜(2c)において、R、R、k、及びjは前記式(1)、(1a)〜(1c)と同じであり、好ましい態様なども同じである。
【0065】
使用するベンゾフルオレノン化合物の純度は、特に限定されないが、通常、95%以上、好ましくは99%以上である。なお、ベンゾフルオレノン類は、市販品を用いてもよく、合成したものを使用してもよい。ベンゾフルオレノン類を製造する方法としては、例えば、特許文献3に記載の方法、すなわち1−インダノンとo−フタルアルデヒドとを水酸化カリウムの存在下で反応させる方法などが挙げられる。
【0066】
上記式(3)で表される化合物は、前記式(1)において(ポリ)ヒドロキシル基含有アレーン環に対応している。すなわち、前記式(3)において、環Zは前記式(1)における環Zに対応しており、前記例示の環集合アレーン環(例えば、ビフェニル環など)が例示できる。また、前記式(3)において、基R、基R、m、n及びpは前記と同じであり、好ましい態様なども同じである。
【0067】
前記式(3)で表される化合物としては、(i)オキシアルキレン基の付加モル数nが0である化合物と、(ii)オキシアルキレン基の付加モル数nが1〜5である化合物とに大別できる。
【0068】
(i)オキシアルキレン基の付加モル数nが0である化合物
前記式(3)においてnが0である代表的な化合物としては、環Zがビフェニル環である化合物が例示できる。
【0069】
環Zがビフェニル環である化合物としては、フェニルフェノール類{例えば、フェニルフェノール(o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール)、置換基を有するフェニルフェノール[例えば、アルキルフェニルフェノール(例えば、モノ又はジC1−4アルキル−フェニルフェノールなど)、シクロアルキルフェニルフェノール(例えば、C5−8シクロアルキル−フェニルフェノールなど)など}などが挙げられる。
【0070】
(ii)オキシアルキレン基の付加モル数nが1〜5である化合物
環Zがビフェニル環である代表的なアルコール類としては、例えば、(ii−1)アルキレングリコールビフェニリルエーテル(例えば、2−(o−フェニルフェノキシ)エタノール、2−(m−フェニルフェノキシ)エタノール、2−(p−フェニルフェノキシ)エタノール、2−(o−フェニルフェノキシ)プロパノール、2−(m−フェニルフェノキシ)プロパノール、2−(p−フェニルフェノキシ)プロパノール、3−(o−フェニルフェノキシ)プロパノール、3−(m−フェニルフェノキシ)プロパノール、3−(p−フェニルフェノキシ)プロパノールなどのC2−4アルキレングリコールモノ(フェニルフェニル)エーテルなど;前記(ii−1)に対応し、nが2〜5のアルキレンオキサイドの付加体(例えば、ジC2−4アルキレングリコールビフェニリルエーテル(例えば、2−[2−(o−フェニルフェノキシ)エトキシ]エタノール、2−[2−(m−フェニルフェノキシ)エトキシ]エタノール、2−[2−(p−フェニルフェノキシ)エトキシ]エタノールなどのC2−4ジアルキレングリコールモノ(フェニルフェニル)エーテルなど)などが挙げられる。
【0071】
これらの前記式(3)で表される化合物は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0072】
これらの前記式(3)で表される化合物は、市販品を用いてもよく、合成したものを使用してもよい。
【0073】
原料として使用する前記式(3)で表される化合物(例えば、アルキレングリコールビフェニリルエーテル類など)の純度は特に限定されないが、通常、95%以上であり、好ましくは99%以上である。
【0074】
反応において、前記式(3)で表される化合物の割合(使用割合)は、前記式(2)で表される化合物(ベンゾフルオレノン化合物)1モルに対して、例えば、2〜100モル(例えば、2.3〜80モル)、好ましくは2.5〜70モル(例えば、2.7〜60モル)、さらに好ましくは3〜50モル程度であってもよい。特に、酸触媒として後述の無機酸又は有機酸を用いる場合、前記式(3)で表される化合物の割合は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば、2〜20モル、好ましくは2.2〜10モル、さらに好ましくは2.5〜5モル程度であってもよい。
【0075】
前記式(2)で表される化合物と前記式(3)で表される化合物との反応(縮合反応)は、特に限定されないが、通常、酸触媒の存在下で行うことができる。酸触媒としては、無機酸[例えば、硫酸、塩化水素、塩酸、リン酸など]、有機酸[例えば、スルホン酸(メタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸など)など]などが挙げられる。酸触媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0076】
好ましい酸触媒には、触媒活性の点から硫酸が含まれる。特に、硫酸と後述のチオール類とを組み合わせると、簡便にかつ効率よく、残留硫黄分が少ない高純度の新規フルオレン化合物を高収率で得ることができる。
【0077】
酸触媒の使用量は、酸触媒の種類に応じて選択でき、例えば、前記無機酸又は有機酸を使用する場合、ベンゾフルオレノン類(前記式(2)又は(2a)〜(2c)で表される化合物)100重量部に対して、0.001〜1000重量部、好ましくは0.005〜300重量部、さらに好ましくは0.01〜100重量部程度であってもよい。特に、触媒として硫酸を使用する場合、硫酸(HSO換算)の使用量は、通常、ベンゾフルオレノン類1重量部に対して、0.1〜30重量部(例えば、0.5〜25重量部)の範囲から選択でき、例えば、1〜20重量部、好ましくは3〜15重量部、さらに好ましくは5〜12重量部(例えば、7〜10重量部)程度であってもよい。
【0078】
反応は、通常、酸触媒に加えて、助触媒としてのチオール類を併用してもよい。チオール類と組み合わせることにより、反応を有効に進行できる。チオール類としては、助触媒として機能する慣用のチオール類、例えば、メルカプトカルボン酸(チオ酢酸、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸など)、アルキルメルカプタン(メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのC1−16アルキルメルカプタン(特にC1−4アルキルメルカプタン)など)、アラルキルメルカプタン(ベンジルメルカプタンなど)又はこれらの塩などが挙げられる。塩としては、例えば、アルカリ金属塩(例えば、メチルメルカプタンナトリウム、エチルメルカプタンナトリウムなどのナトリウム塩など)が例示できる。これらのチオール類のうち、メルカプトC2−6カルボン酸(例えば、β−メルカプトプロピオン酸)が好ましい。チオール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0079】
チオール類の使用量は、ベンゾフルオレノン類(前記式(2)又は(2a)〜(2c)で表される化合物)1重量部に対して、0〜1重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.001〜0.8重量部、好ましくは0.005〜0.7重量部(例えば、0.01〜0.6重量部)、さらに好ましくは0.02〜0.5重量部程度であってもよく、通常0.001〜0.5重量部程度であってもよい。
【0080】
また、チオール類の使用量は、酸触媒(無機酸又は有機酸)1重量部に対して、0〜50重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.1〜40重量部、好ましくは0.5〜30重量部、さらに好ましくは1〜20重量部程度であってもよい。特に、硫酸を使用する場合には、硫酸(HSO換算)1重量部に対して、チオール類0.001〜1重量部(例えば、0.03〜0.7重量部)、好ましくは0.05〜0.5重量部(例えば、0.05〜0.3重量部)、さらに好ましくは0.06〜0.1重量部(例えば、0.065〜0.09重量部)程度であってもよく、通常0.001〜0.1重量部程度であってもよい。
【0081】
反応は、溶媒の非存在下で行ってもよく、溶媒中で行ってもよい。溶媒(反応溶媒)は、前記酸触媒に対して非反応性で、かつベンゾフルオレノン類(前記式(2)又は(2a)〜(2c)で表される化合物)及び前記式(3)で表される化合物を溶解可能であれば特に限定されない。前記ベンゾフルオレノン類は、溶解性が高いため広範な溶媒を使用できる。代表的な溶媒(有機溶媒)としては、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、炭化水素類(例えば、シクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素類、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、クロロホルムなど)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテルなど)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシドなど)などが例示できる。溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0082】
溶媒の使用量は、前記ベンゾフルオレノン類1重量部に対して、0〜50重量部(例えば、0.5〜30重量部)程度の範囲から選択でき、例えば、1〜20重量部、好ましくは2〜15重量部、さらに好ましくは3〜10重量部程度であってもよい。
【0083】
反応は、使用する原料や触媒などの種類に応じて異なるが、通常、10〜150℃、好ましくは20〜120℃、さらに好ましくは30〜80℃(例えば、40〜70℃)程度で行う場合が多い。また、反応時間は、原料の種類、反応温度や溶媒中の濃度などに応じて調整でき、例えば、30分〜48時間、通常、1〜20時間、好ましくは1〜10時間程度である。また、反応は、攪拌しながら行ってもよく、空気中又は不活性雰囲気(窒素、希ガスなど)中で行ってもよく、常圧又は加圧下で行ってもよい。
【0084】
反応終了後の反応混合物には、通常、生成した前記式(1)又は(1a)〜(1c)で表される化合物以外に、未反応のベンゾフルオレノン類、未反応のアルコール類、触媒(酸触媒、チオール類)、副反応生成物などが含まれている。そのため、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー、再沈殿などの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。例えば、慣用の方法(アルカリ水溶液を加えて中和する方法など)により酸触媒(およびチオール類)を除去したのち、晶析溶媒を添加して冷却して結晶化させ、次いで、濾過して分離することにより精製してもよい。
【0085】
前記晶析溶媒としては、炭化水素類[脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタンなど)、脂環族炭化水素(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタンなど)など]、水、アルコール類[メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどの低級脂肪族アルコール(C1−3アルカノールなど)]、ケトン類[アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトンなどの低級脂肪族ケトン(C3−7ジアルキルケトンなど)、シクロヘキサノンなど]、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテルなど)、ニトリル類、セロソルブ類、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、スルホキシド類などが挙げられる。晶析溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。また、晶析溶媒の使用量は、特に限定されず、反応混合物(固形分換算)1重量部に対して、0.5〜50重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部程度であってもよい。
【0086】
このような晶析操作は一回で行ってもよく、複数回繰り返して行ってもよい。特に、前記縮合反応において、前記酸触媒(特に硫酸)とチオール類とを組み合わせると、簡便にかつ効率よく、しかも、一回の晶析操作(又は再結晶)であっても、低い残留硫黄濃度で[例えば、反応生成物(又は晶析物、精製物)全体に対する硫黄濃度が、硫黄Sの重量換算で30ppm以下(例えば、0〜25ppm)、好ましくは20ppm以下(例えば、1〜15ppm)、さらに好ましくは10ppm以下(例えば、2〜9ppm)で]、前記式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0087】
以上のような工程(工程(A))により、前記式(1)で表される化合物を得ることができる。なお、前記式(1)において、オキシアルキレン基の付加モル数nが1〜5である化合物は、前記工程(A)において、式(3)で表される化合物として、オキシアルキレン基の付加モル数nが0である化合物を用いて、前記式(1)においてオキシアルキレン基の付加モル数nが0である化合物を生成した後、生成した化合物(前記式(1)においてオキシアルキレン基の付加モル数nが0である化合物)と、アルキレン基R(又はオキシアルキレン基OR)に対応する化合物とを反応させる工程(工程(B))によって得ることもできる。
【0088】
アルキレン基Rに対応する化合物としては、アルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどのC2−4アルキレンオキシド、特にC2−3アルキレンオキシドなど)、アルキレンカーボネート(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのC2−4アルキレンカーボネート、特にC2−3アルキレンカーボネートなど)、ハロアルカノール(例えば、3−クロロプロパノールなどのハロC2−6アルカノールなど)などが例示できる。これらの化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、アルキレンオキシド又はアルキレンカーボネートを反応させると、前記式(1)で表される化合物(オキシアルキレン基の付加モル数nが0である化合物)のヒドロキシル基を介して(ポリ)オキシアルキレン単位を導入できる。アルキレンカーボネートを使用する場合、アルキレンカーボネートが付加したのち、脱炭酸反応が生じることにより、オキシアルキレン単位(アルコキシ単位)が導入される。
【0089】
本発明の製造方法により得られる新規フルオレン化合物の純度は、60〜100%の広い範囲から選択でき、例えば、70%以上(例えば、70〜99%程度)、好ましくは80%以上(例えば、80〜97%程度)、さらに好ましくは90%以上(例えば、90〜95%程度)である。
【0090】
[新規フルオレン化合物の特性及び用途]
本発明の新規フルオレン化合物は、ベンゾフルオレン骨格と、アレーン環とを組み合わせているため、屈折率、耐熱性などが高い。通常、フルオレン骨格にアレーン環を組み合わせると、屈折率を向上できるが、有機溶媒に対する溶解性が低下する。これに対し、本発明の新規フルオレン化合物は、ベンゾフルオレン骨格を有しているためか、屈折率が高いにもかかわらず、広範な有機溶媒に容易に溶解できる。さらに、アレーン環には、1つ以上のヒドロキシル基を有し、フルオレン化合物全体で複数のヒドロキシル基を有しているため、反応性が高い。このため、本発明の新規フルオレン化合物は、種々の樹脂の原料(モノマー)として使用できる。例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂など)や熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸エステル)など)のポリオール成分として用いることができる。本発明の新規フルオレン化合物をポリオール成分として用いると、ベンゾフルオレン骨格の9−位に環集合アレーン環が置換されているためか、得られる樹脂は、高い屈折率と低複屈折性とを高いレベルで両立できるという利点を備える。
【0091】
また、本発明の新規フルオレン化合物は、汎用な溶媒中で効率よく誘導体を調製できる。
【0092】
本発明の新規フルオレン化合物が溶解可能な有機溶媒としては、例えば、炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素類、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類)、ハロゲン化炭化水素類(例えば、クロロホルム、ジクロロメタンなど)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテルなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのジアルキルケトン、シクロヘキサノンなど)、エステル類(例えば、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチルなどのカルボン酸アルキルエステルなど)、アミド類(例えば、ジメチルホルムアミドなど)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシドなど)などが例示できる。好ましい有機溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類など(特にエーテル類、ケトン類)であってもよい。
【0093】
本発明の新規フルオレン化合物の屈折率(25℃、589nm)は、例えば、1.6〜1.75、好ましくは1.62〜1.72、さらに好ましくは1.65〜1.7程度であってもよい。屈折率は後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0094】
本発明の新規フルオレン化合物の融点は、50〜300℃の広い範囲から選択でき、例えば、55〜200℃、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは65〜120℃、特に70〜100℃程度であってもよい。
【0095】
なお、本発明の新規フルオレン化合物は、前記特性(高い屈折率、高い耐熱性など)を付与するために樹脂の添加剤として用いることもできる。換言すれば、本発明の新規フルオレン化合物は、樹脂における種々の前記特性を向上(改質)できる。そのため、本発明には、樹脂の特性(例えば、屈折率、耐熱性)を向上させるための添加剤であって、前記新規フルオレン化合物で構成された改質剤(例えば、屈折率改質剤、耐熱性改質剤など)、さらには、樹脂にこのような改質剤を添加し、樹脂の特性(例えば、屈折率、耐熱性など)を向上又は改善させる方法を含む。
【0096】
添加剤としては、樹脂用添加剤(又は樹脂添加剤)、硬化剤(樹脂用硬化剤など)などが例示できる。添加剤として用いる場合、樹脂とベンゾフルオレン化合物とを含む樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物、熱又は光硬化性樹脂組成物、特に熱硬化性樹脂)を構成できる。熱硬化性樹脂と新規フルオレン化合物(例えば、フェノール性ヒドロキシル基を有する化合物)とを組み合わせる場合、新規フルオレン化合物は硬化剤(又は硬化促進剤)として用いるのが好ましく、前記樹脂として、エポキシ系樹脂(例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂など)を用いるのが好ましい。また、前記樹脂組成物は、樹脂の種類などに応じて溶媒を含む組成物(コーティング組成物など)であってもよい。
【実施例】
【0097】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0098】
なお、実施例において、各種測定は以下のように行った。
【0099】
(屈折率)
多波長アッベ屈折計「アタゴ(株)製、DR−M2(循環式恒温水槽60−C3使用)」を用い、温度25℃を保持し、屈折率を測定した。化合物の1,4−ジオキサン溶液を3水準調整し、589nmの屈折率を検量線からの外挿法により計算した。
【0100】
(HPLC条件)
使用機器:(株)島津製作所製 LCMS−2010Aシリーズ
カラム:TSKgel ODS−80TM 250×4.5mm
溶出液(体積):アセトニトリル:水(0.1重量%リン酸)=55:45〜95:5(グラジェント)。
【0101】
(NMR測定条件)
装置:BRUKER社製 UltraSheid 300MHz
溶媒:CDCl
【0102】
(実施例1)
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレン(9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]ベンゾ[b]フルオレン、BOPPEBF)の合成
【0103】
【化12】
【0104】
2,3−ベンゾフルオレノン(ベンゾ[b]フルオレノン)11.6g(50mmol)及び2−(o−フェニルフェノキシ)エタノール53.6g(250mmol)を50℃でトルエン40gに溶解した。溶液に硫酸21.5g(215mmol)を加え、温度50℃で2時間攪拌した。反応混合物をメチルイソブチルケトンに溶解し、水洗し、有機層を減圧濃縮後、トルエンで再結晶して得られた粗結晶を、メタノールで再沈殿し固体を得た。
【0105】
得られた固体をH−NMRにより分析したところ9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレンであることを確認した。また、HPLCにより測定した固体の純度は90.7%であった。
【0106】
H−NMR(300MHz、CDCl)ppm:δ:8.2(1H)、7.8(4H)、7.3(19H)、7.1(2H)、7.0(2H)、4.0(4H)、3.8(4H)、1.8(2H)。
【0107】
実施例1で得られたベンゾフルオレン化合物における汎用の各種溶媒(トルエン、キシレン、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、テトラヒドロフラン(THF))への溶解性を調べたところ、アセトン、MIBK、THFには室温で容易に溶解し、トルエン、キシレンには40℃で容易に溶解した。
【0108】
また、得られたベンゾフルオレン化合物の屈折率は1.68であった。
【0109】
(実施例2)
9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシ)−3−フェニルフェニル]2,3−ベンゾフルオレン(9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシ)−3−フェニルフェニル]2,3−ベンゾ[b]フルオレン、BOPPBF)の合成
【0110】
【化13】
【0111】
2,3−ベンゾフルオレノン(ベンゾ[b]フルオレノン)23.2g(100mmol)、o−フェニルフェノール85.2g(500mmol)、β−メルカプトプロピオン酸1.6gを50℃でトルエン80gに溶解した。溶液に硫酸51.6gを加え、温度50℃で4時間攪拌した。反応混合物をメチルイソブチルケトンに溶解し、有機層を水洗した。水洗後、有機層を冷却することで固体を析出させ、メタノールで洗浄して固体を得た。
【0112】
得られた固体をH−NMRにより分析したところ9,9−ビス[4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル]−2,3−ベンゾフルオレンであることを確認した。また、HPLCにより測定した固体の純度は99.5%であった。
【0113】
H−NMR(300MHz、CDCl)ppm:δ:8.2(1H)、7.9(2H)、7.8(2H)、7.4(15H)、7.2(4H)、6.8(2H)、5.1(2H)。
【0114】
また、得られたベンゾフルオレン化合物の屈折率は1.70であった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の新規フルオレン化合物は、高い屈折率、高い耐熱性、広範な有機溶媒に対する高い溶解性などの優れた特性を有しており、樹脂の原料(モノマー)、誘導体の反応成分などに好適に用いることができる。
【0116】
そのため、本発明の新規フルオレン化合物若しくはその誘導体、又は新規フルオレン化合物を樹脂原料(モノマー)とする樹脂は、例えば、フィルム(例えば、光学フィルム、液晶用フィルム、有機EL(エレクトロルミネッセンス)用フィルム、EMIシールドフィルムなど)、レンズ(例えば、ピックアップレンズなど)、保護膜(例えば、電子機器、液晶部材用などの保護膜など)、電気・電子材料(キャリア輸送剤、発光体、有機感光体、有機感光体、感熱記録材料、ホログラム記録材料、フォトクロミック材料など)、電気・電子部品又は機器(例えば、光ディスク、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ、有機半導体レーザ、色素増感型太陽電池、EMIシールドフィルム、有機EL素子、カラーフィルタなど)、機械部品又は機器(自動車、航空・宇宙材料、センサ、摺動部材など)などに好適に利用できる。
【0117】
特に、本発明の新規フルオレン化合物とする樹脂は、光学的特性に優れているため、光学用途の成形体を構成するのに有用である。このような光学用成形体としては、光学フィルムなどが挙げられる。光学フィルムとしては、偏光フィルム(及びそれを構成する偏光素子と偏光板保護フィルム)、位相差フィルム、配向膜(配向フィルム)、視野角拡大(補償)フィルム、拡散板(フィルム)、導光板、輝度向上フィルム、近赤外吸収フィルム、反射フィルム、反射防止(AR)フィルム、反射低減(LR)フィルム、アンチグレア(AG)フィルム、透明導電(ITO)フィルム、異方導電性フィルム(ACF)、電磁波遮蔽(EMI)フィルム、電極基板用フィルム、バリアフィルム、カラーフィルタ層、ブラックマトリクス層、光学フィルム同士の接着層もしくは離型層などが挙げられる。とりわけ、前記フィルムは、機器のディスプレイに用いる光学フィルムとして有用である。このような前記光学フィルムを備えたディスプレイ用部材(又はディスプレイ)としては、具体的には、パーソナル・コンピュータのモニタ、テレビジョン、携帯電話、カー・ナビゲーション、タッチパネルなどのFPD装置(例えば、LCD、PDPなど)などが挙げられる。