特許第6859087号(P6859087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6859087
(24)【登録日】2021年3月29日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】複合成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20210405BHJP
   B23K 26/384 20140101ALI20210405BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B23K26/384
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-240306(P2016-240306)
(22)【出願日】2016年12月12日
(65)【公開番号】特開2018-94778(P2018-94778A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年10月3日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501041528
【氏名又は名称】ダイセルポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】板倉 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】片山 昌広
(72)【発明者】
【氏名】宇野 孝之
【審査官】 松田 成正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−121745(JP,A)
【文献】 特開2013−052669(JP,A)
【文献】 特開2011−005553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
B23K 26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成形体と繊維径5〜30μmの繊維状充填材を含有する樹脂成形体が接合された複合成形体の製造方法であって、
前記金属成形体の前記繊維径5〜30μmの繊維状充填材を含有する樹脂成形体との接合面に対して、エネルギー密度1MW/cm2以上で、照射速度2000mm/sec以上、レーザー光の焦点はずし距離を−0.5〜−0.05mmでレーザー光を照射して粗面化する工程と、
前工程において粗面化された金属成形体の接合面を含む部分を金型内に配置し、繊維径5〜30μmの繊維状充填材を含有する樹脂を射出成形して複合成形体を得る工程を有しており、
前記粗面化された金属成形体の接合面が、表面から最大深さが500μmを超え、表面からの平均深さが400〜600μmの孔を含む多孔構造を有しており、
前記金属成形体と前記繊維径5〜30μmの繊維状充填材を含有する樹脂成形体の接合強度が60MPa以上である、複合成形体の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー光を照射して粗面化する工程が、粗面化対象となる金属成形体の接合面に対して直線、曲線または直線と曲線の組み合わせになるようにレーザー光を照射するとき、レーザー光を連続照射する工程である、請求項記載の複合成形体の製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光を照射して粗面化する工程が、粗面化対象となる金属成形体の表面に対して、直線、曲線または直線と曲線の組み合わせになるようにレーザー光を照射するとき、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射する工程である、請求項記載の複合成形体の製造方法。
【請求項4】
前記レーザー光の照射工程が、レーザーの駆動電流を直接変換する直接変調方式の変調装置をレーザー電源に接続したファイバーレーザー装置を使用し、デューティ比を調整してレーザー照射する工程である、請求項記載の複合成形体の製造方法。
【請求項5】
前記レーザー光の照射工程が、レーザー光照射の繰り返し回数を15回以上にする、請求項1〜のいずれか1項記載の複合成形体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂成形体が30質量%以上の繊維状充填剤を含有している、請求項1〜のいずれか1項記載の複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属成形体と樹脂成形体からなる複合成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属成形体と樹脂成形体からなる複合成形体を製造するとき、金属成形体の表面を粗面化した後で一体化させる技術が知られている。
特許文献1には、金属成形体の表面に対して、連続波レーザーを使用して2000mm/sec以上の照射速度でレーザー光を連続照射することで前記金属成形体の表面を粗面化す
る、金属成形体の粗面化方法(請求項1)が記載されている。
特許文献1の発明の粗面化方法を実施した後、樹脂成形体と接合して得た複合成形体は、金属成形体と樹脂成形体が高い接合強度で接合されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5774246号公報
【特許文献2】特許第5701414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、金属成形体と樹脂成形体の接合強度の高い複合成形体が得られる、複合成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体の製造方法であって、
前記金属成形体の前記樹脂成形体との接合面に対して、エネルギー密度1MW/cm2以上で、照射速度2000mm/sec以上でレーザー光を照射して粗面化する工程と、
前工程において粗面化された金属成形体の接合面を含む部分を金型内に配置し、樹脂を射出成形して複合成形体を得る工程を有しており、
前記粗面化された金属成形体の接合面が、表面から最大深さが500μmを超える孔を含む多孔構造を有しており、
前記金属成形体と前記樹脂成形体の接合強度が60MPa以上である、複合成形体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の複合成形体の製造方法によれば、金属成形体と樹脂成形体の接合強度の高い複合成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の金属成形体の粗面化方法を実施するときの一実施形態のレーザー光の照射状態を示す図。
図2図1に示す実施形態のレーザー光の照射パターンを示す図であり、(a)は同方向の照射パターン、(b)は双方向の照射パターン。
図3】(a)、(b)は、図1に示す実施形態とは異なる実施形態におけるレーザー光の照射工程を説明するための図。
図4】実施例および比較例で使用した金属成形体の斜視図。
図5】実施例および比較例で得た複合成形体を使用した試験方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の複合成形体の製造方法は、前記金属成形体の前記樹脂成形体との接合面に対して、エネルギー密度1MW/cm2以上で、照射速度2000mm/sec以上でレーザー光を照射して粗面化する工程を有している。
【0009】
本発明で使用する金属成形体の形状および大きさは特に制限されず、複合成形体の用途に応じて選択することができる。
本発明で使用する金属成形体の金属は特に制限されるものではなく、用途に応じて公知の金属から適宜選択することができる。
例えば、鉄、各種ステンレス、アルミニウム、亜鉛、チタン、銅、黄銅、クロムめっき鋼、マグネシウムおよびそれらを含む合金、タングステンカーバイド、クロミウムカーバイドなどのサーメットから選ばれるものを挙げることができ、これらの金属に対して、アルマイト処理、めっき処理などの表面処理を施したものに適用できる。
【0010】
レーザー光照射して粗面化する工程におけるレーザー光の照射方法としては、
(I)粗面化対象となる金属成形体の接合面に対して直線、曲線または直線と曲線の組み合わせになるようにレーザー光を連続的に照射する方法(第1のレーザー光照射方法)と、
(II)粗面化対象となる金属成形体の表面に対して、直線、曲線または直線と曲線の組み合わせになるようにレーザー光を照射するとき、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射する方法(第2のレーザー照射方法)のいずれかのレーザー照射方法を使用することができる。
【0011】
<第1のレーザー照射方法>
第1のレーザー照射方法は公知であり、特許第5774246号公報、特許第5701414号公報、特許第5860190号公報、特許第5890054号公報、特許第5959689号、特開2016−43413号公報、特開2016−36884号公報、特開2016−44337号公報に記載されたレーザー光の連続照射方法と同様にして実施することができる。
【0012】
但し、エネルギー密度は1MW/cm2以上にする必要がある。レーザー光の照射時のエネルギー密度は、レーザー光の出力(W)と、レーザー光(スポット面積(cm2)(π・〔スポット径/2〕2)から求められる。レーザー光の照射時のエネルギー密度は、2〜1000MW/cm2が好ましく、10〜800MW/cm2がより好ましく、10〜700MW/cm2がさらに好ましい。
レーザー光の照射速度は2,000〜20,000mm/secが好ましく、2,000〜18、000mm/secがより好ましく、3,000〜15、000mm/secがさらに好ましい。
レーザー光の出力は4〜4000Wが好ましく、50〜2500Wがより好ましく、150〜2000Wがさらに好ましい。他のレーザー光の照射条件が同一であれば、出力が大きいほど孔(溝)深さは深くなり、出力が小さいほど孔(溝)深さは浅くなる。
波長は500〜11,000nmが好ましい。
ビーム径(スポット径)は5〜80μmが好ましい。
焦点はずし距離は、-5〜+5mmが好ましく、−1〜+1mmがより好ましく、−0.5〜+0.1mmがさらに好ましい。焦点はずし距離は、設定値を一定にしてレーザー照射しても良いし、焦点はずし距離を変化させながらレーザー照射しても良い。例えば、レーザー照射時に、焦点はずし距離を小さくしていくようにしたり、周期的に大きくしたり小さくしたりしても良い。焦点はずし距離がマイナス(−)であると(金属成形体表面の内側に焦点を合わせたとき)、孔深さは深くなる。孔深さを深くするときは、焦点はずし距離は−0.5〜−0.05mmが好ましく、−0.3〜−0.05mmがより好ましく、−0.15〜−0.05mがさらに好ましい。
以上のレーザー光の照射条件によるレーザー光の照射と共に、レーザー光を照射するときの繰り返し回数を調整することで、粗面化された金属成形体の接合面が、表面からの最大深さが500μmを超える孔(溝)が形成された多孔構造を有するように調整することができる。
繰り返し回数(一つの孔または溝を形成するための合計のレーザー光の照射回数)は、10〜30回が好ましく、15〜25回がより好ましい。同一のレーザー照射条件であれば、繰り返し回数が多いほど孔(溝)深さが深くなり、繰り返し回数が少ないほど孔(溝)深さが浅くなる。
孔(溝)の表面からの最大深さは550μm以上が好ましく、600μm以上がより好ましい。
孔(溝)の表面からの平均深さは400〜700μmが好ましく、400〜600μmがより好ましい。
孔(溝)の深さ範囲は、50μm以上1000μm未満が好ましく、100〜900μmがより好ましく、100〜800μmがさらに好ましい。
【0013】
<第2のレーザー照射方法>
第2のレーザー照射方法において、レーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じるように照射するとは、図1に示すように照射する実施形態を含んでいる。
図1は、レーザー光の照射部分101と隣接するレーザー光の照射部分101の間にあるレーザー光の非照射部分102が交互に生じて、全体として点線状に形成されるように照射した状態を示している。
このとき、繰り返して照射して、図1に示すように外観上1本の点線にすることもできる。繰り返し回数は、例えば1〜20回にすることができる。
複数回照射するときは、レーザー光の照射部分を同じにしてもよいし、レーザー光の照射部分を異ならせる(レーザー光の照射部分をずらす)ことで、金属片全体が粗面化されるようにしてもよい。
レーザー光の照射部分を同じにして複数回照射したときは点線状に照射されるが、レーザー光の照射部分をずらして、即ち、最初はレーザー光の非照射部分であった部分にレーザー光の照射部分が重なるようにずらして照射することを繰り返すと、点線状に照射した場合であっても、最終的には実線状態に照射されることになる。
金属成形体に対して連続的にレーザー光を照射すると、照射面の温度が上昇することから、厚さの小さい成形体ではそりなどの変形が生じるおそれもあるため、冷却するなどの対策が必要になる場合がある。
しかし、図1に示すように点線状にレーザー照射すると、レーザー光の照射部分101とレーザー光の非照射部分102が交互に生じ、レーザー光の非照射部分102では冷却されていることになるため、レーザー光の照射を継続した場合、厚さの小さい成形体でもそりなどの変形が生じ難くなるので好ましい。このとき、上記のようにレーザー光の照射部分を異ならせた(レーザー光の照射部分をずらせた)場合でも、レーザー光の照射時には点線状に照射されているため、同様の効果が得られる。
【0014】
レーザー光の照射方法は、金属成形体110の表面に対して、図2(a)に示すように一方向に照射する方法、または図2(b)に示す点線のように双方向から照射する方法を使用することができる。その他、レーザー光の点線照射部分が交差するように照射する方法でもよい。
照射後の各点線の間隔b1は、金属成形体の照射対象面積などに応じて調整することができるものであるが、例えば、0.01〜5mmの範囲にすることができる。
【0015】
図1に示すレーザー光の照射部分101の長さ(L1)とレーザー光の非照射部分102の長さ(L2)は、L1/L2=1/9〜9/1の範囲になるように調整することができる。
レーザー光の照射部分101の長さ(L1)は、複雑な多孔構造に粗面化するためには0.05mm以上であることが好ましく、0.1〜10mmがより好ましく、0.3〜7mmがさらに好ましい。
【0016】
第2のレーザー照射方法では、レーザーの駆動電流を直接変換する直接変調方式の変調装置をレーザー電源に接続したファイバーレーザー装置を使用し、デューティ比(duty ratio)を調整してレーザー照射する。
レーザーの励起には、パルス励起と連続励起の2種類があり、パルス励起によるパルス波レーザーは一般にノーマルパルスと呼ばれる。
連続励起であってもパルス波レーザーを作り出すことが可能であり、ノーマルパルスよりパルス幅(パルスON時間)を短くして、その分ピークパワーの高いレーザーを発振させるQスイッチパルス発振方法、AOMやLN光強度変調機により時間的に光を切り出すことでパルス波レーザーを生成させる外部変調方式、レーザーの駆動電流を直接変調してパルス波レーザーを生成する直接変調方式によりパルス波レーザーを作り出すことができる。
上記した好ましい実施形態では、レーザーの駆動電流を直接変換する直接変調方式の変調装置をレーザー電源に接続したファイバーレーザー装置を使用することで、レーザーを連続励起させてパルス波レーザーを作り出したものであり、第1のレーザー照射方法で使用した連続波レーザーとは別のものである。
但し、エネルギー密度、レーザー光の照射速度、レーザー光の出力、波長、ビーム径(スポット径)、焦点はずし距離は、第1のレーザー照射方法と同様に実施する。
【0017】
デューティ比は、レーザー光の出力のON時間とOFF時間から次式により求められる比である。
デューティ比(%)=ON時間/(ON時間+OFF時間)×100
デューティ比は、図1に示すL1/L2に対応するものであるから、10〜90%の範囲から選択することができる。
デューティ比を調整してレーザー光を照射することで、図1に示すような点線状に照射することができる。デューティ比が大きいと粗面化工程の効率は良くなるが、冷却効果は低くなり、デューティ比が小さいと冷却効果は良くなるが、粗面化効率は悪くなる。目的に応じて、デューティ比を調整する。
【0018】
第2のレーザー照射工程では、粗面化対象となる金属成形体の表面上に、間隔をおいてレーザー光を通過させないマスキング材を配置した状態でレーザーを連続照射する方法を適用できる。マスキング材は、金属成形体に直接接触しても接触していなくとも良い。複数回照射するときは、マスキング材の位置を変化させることで、金属成形体全体を粗面化させることができる。
この実施形態は、図3(a)のように金属成形体110の上に間隔をおいて複数枚のマスキング材111を配置した状態で、レーザーを連続照射する。マスキング材としては、熱伝導率の小さい金属などを使用することができる。
その後、マスキング材111を取り去ると、図3(b)に示すとおり、図1と同様にレーザー光の照射部分と非照射部分が交互に生じた点線が形成されている。
図3(a)、(b)に示す実施形態の場合にも、マスキング材111の部分では冷却されていることになるため、レーザー光の照射を継続した場合、厚さの小さい成形体でもそりなどの変形が生じ難くなるので好ましい。
【0019】
レーザー光の照射部分101の長さ(L1)とレーザー光の非照射部分102の長さ(L2)は、L1/L2=1/9〜9/1の範囲になるように調整することができる。
レーザー光の照射部分101の長さ(L1)は、複雑な多孔構造に粗面化するためには0.05mm以上であることが好ましく、0.1〜10mmが好ましく、0.3〜7mmがより好ましい。
【0020】
第1のレーザー照射方法と第2レーザー照射方法で使用するレーザーは公知のものを使用することができ、例えば、YVO4レーザー、ファイバーレーザー(シングルモードファイバーレーザー、マルチモードファイバーレーザー)、エキシマレーザー、炭酸ガスレーザー、紫外線レーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、ガラスレーザー、ルビーレーザー、He−Neレーザー、窒素レーザー、キレートレーザー、色素レーザーを使用することができる。
【0021】
レーザー光照射して粗面化する工程において、第1のレーザー照射方法または第2レーザー照射方法を実施したときは、上記したエネルギー密度と照射速度を満たすように金属成形体にレーザー光を照射すると、金属成形体の表面は溶融しながら一部が蒸発されることから、複雑な構造の多孔構造が形成される。
このときに形成される多孔構造は、特許第5774246号公報の図7図8、特許第5701414号公報の図7図8に示されるものと同じ複雑な多孔構造か、類似する多孔構造である。
一方、上記したエネルギー密度と照射速度を満たさない場合には、金属成形体の表面は昇華して孔が形成されるか(通常のパルスレーザー照射により形成される孔)、または溶融(レーザー溶接)してしまい、複雑な構造の孔は形成されない。
【0022】
次の工程にて、前工程において粗面化された金属成形体の接合面(レーザー光照射部17a、17b)を金型内に配置して、前記樹脂成形体となる樹脂を射出成形して前記開口部をシールする。
射出成形時において粗面化された接合面(レーザー光照射部17a、17b)の多孔構造内部に溶融状態の樹脂が入り込んだ後で固まることで、金属成形体の接合面(レーザー光照射部)と樹脂成形体の間が強い接合力で一体化される。
【0023】
樹脂成形体に使用する樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のほか、熱可塑性エラストマーも含まれる。
熱可塑性樹脂は、用途に応じて公知の熱可塑性樹脂から適宜選択することができる。例えば、ポリアミド系樹脂(PA6、PA66等の脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド)、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等のスチレン単位を含む共重合体、ポリエチレン、エチレン単位を含む共重合体、ポリプロピレン、プロピレン単位を含む共重合体、その他のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂を挙げることができる。
【0024】
熱硬化性樹脂は、用途に応じて公知の熱硬化性樹脂から適宜選択することができる。例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レソルシノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルウレタンを挙げることができる。
【0025】
熱可塑性エラストマーは、用途に応じて公知の熱可塑性エラストマーから適宜選択することができる。例えば、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ニトリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーを挙げることができる。
【0026】
これらの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマーには、公知の繊維状充填材を配合することができる。
公知の繊維状充填材としては、炭素繊維、無機繊維、金属繊維、有機繊維等を挙げることができる。
炭素繊維は周知のものであり、PAN系、ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等のものを用いることができる。
無機繊維としては、ガラス繊維、玄武岩繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維等を挙げることができる。
金属繊維としては、ステンレス、アルミニウム、銅等からなる繊維を挙げることができる。
有機繊維としては、ポリアミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維、ジアミンとジカルボン酸のいずれか一方が芳香族化合物である半芳香族ポリアミド繊維、脂肪族ポリアミド繊維)、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリオキシメチレン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリエステル繊維(全芳香族ポリエステル繊維を含む)、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリイミド繊維、液晶ポリエステル繊維などの合成繊維や天然繊維(セルロース系繊維など)や再生セルロース(レーヨン)繊維などを用いることができる。
【0027】
これらの繊維状充填材は、繊維径が3〜60μmの範囲のものを使用することができるが、これらの中でも、例えば金属成形体10の接合面12が粗面化されて形成される開放孔30などの開口径より小さな繊維径のものを使用することが好ましい。繊維径は、より望ましくは5〜30μm、さらに望ましくは7〜20μmである。
【0028】
本発明の製造方法では、粗面化された金属成形体の接合面が、表面から最大深さが500μmを超える孔を含む多孔構造を有しており、前記多孔構造内部に樹脂が入り込んだ状態で、金属成形体と樹脂成形体が一体化されている。
本発明の製造方法で得られた複合成形体は、前記金属成形体と前記樹脂成形体の接合強度が60MPa以上のものである。
本発明の製造方法で得られた複合成形体は、金属成形体に形成された孔(溝)の最大深さが500μmを超える深さであること、孔(溝)深さが深いと孔(溝)の開口部が大きくなって溶融状態の樹脂(繊維も含む)が入り易くなることから、接合強度が大きくなるものと考えられる。
【実施例】
【0029】
実施例1〜3、比較例1、2
実施例および比較例は、図4に示す金属成形体(アルミニウム:A5052)10の接合面11全面(40mm2の広さ範囲)に対して、表1に示す条件でレーザー光を第1のレーザー光照射方法により連続照射してレーザー光照射面を粗面化した。
なお、照射パターンは図2(b)と同じ双方向であるが、第1のレーザー光照射方法(レーザー光の連続照射)であるから、図2(b)と同じ照射パターンで、かつ実線で示される照射パターンになる。
レーザー装置は次のものを使用した。
発振機:IPG-Ybファイバー;YLR−300−SMAC
集光系:fc=80mm/fθ=100mm
【0030】
次に、処理後の金属成形体を使用して、下記の方法で射出成形して、実施例および比較例の金属成形体10と樹成形体20からなる図5に示す複合成形体1を得た。樹脂成形体20は、金属成形体10と同形状および同寸法である。
【0031】
<射出成形>
GF30%強化PA6樹脂(プラストロンPA6-GF30-01,長さ9mm:ダイセルポリマー(株)製)
樹脂温度:280℃
金型温度:100℃
射出成形機:ファナック製ROBOSHOT S2000i100B)
【0032】
(溝深さ)
溝(孔)の最大深さは、レーザー光照射後の面(40mm2の広さ範囲)の一部(1mm×1mm=1mm2の面積)を選び、デジタルマイクロスコープM205C(ライカ・マイクロシステムズ(株))で測定した。具体的には、1mm×1mm の正方形に100μm間隔で平行に9本の直線を引き、その直線部分の断面観察から深さを測定した。この測定を10箇所の部分で測定し、その測定の中で最大の深さを最大深さとした。
平均溝(孔)深さも、上記方法で個々の深さを測定しその数平均値として評価した。
最大溝(孔)深さは、前記デジタルマイクロスコープにより測定可能な範囲を超えたときは、測定可能な範囲内を最大値とした。
【0033】
〔引張試験〕
実施例および比較例の図に示す複合成形体を用い、引張試験を行ってせん断接合強度を評価した。結果を表1に示す。
引張試験は、樹脂成形体20側の端部を固定した状態で図5に示すX方向に引っ張った場合の金属成形体10と樹脂成形体20の接合面が破壊されるまでの最大荷重を測定した。
<引張試験条件>
試験機:(株)島津製作所製のオートグラフAG-X plus(50kN)
引張速度:10mm/min
チャック間距離:50mm
【0034】
【表1】
【0035】
実施例1〜4の対比から、焦点はずし距離をマイナス(−)にすることで最大溝深さがより深くなったことが確認できた。
実施例1、2と比較例1、2の対比から、レーザー光照射の繰り返し回数を増加させることで、平均溝深さと最大溝深さがより深くなったことが確認できた。
実施例と比較例の対比から、最大溝深さの違いにより接合強度に明確な差が生じたことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の複合成形体の製造方法は、金属製品の一部を樹脂成形体で代替して軽量化するために利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5