特許第6859101号(P6859101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6859101
(24)【登録日】2021年3月29日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20210405BHJP
【FI】
   F16J15/34 K
   F16J15/34 L
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-257156(P2016-257156)
(22)【出願日】2016年12月29日
(65)【公開番号】特開2018-109430(P2018-109430A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2019年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201259
【弁理士】
【氏名又は名称】天坂 康種
(74)【代理人】
【識別番号】100116506
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 義宏
(72)【発明者】
【氏名】板谷 壮敏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】千葉 啓一
(72)【発明者】
【氏名】吉野 顯
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭48−021699(JP,Y1)
【文献】 英国特許出願公告第00802386(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸側に固定される回転環と、
固定壁側に固定される固定環と、
前記固定環を密封する第1シール部前記固定壁側を密封する第2シール部及び前記第1シール部と前記第2シール部とを接続する屈曲部を有するベローズと、
前記ベローズの前記屈曲部の外周側に前記ベローズの径方向の変形を規制する規制部材と、を備え、
前記回転環と前記固定環とが摺動面にて互いに対向摺動して前記摺動面の内径側から外径側へ向かう流体をシールするメカニカルシールであって、
前記規制部材は、少なくとも前記ベローズの線膨張係数と略等しい材料からなる第1コア部を備えることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】
前記規制部材は、少なくとも前記ベローズより高い弾性係数を有する材料からなる第2コア部を備えることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記規制部材は、少なくとも低摩擦係数の材料からなる被覆部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記規制部材は環状部材からなることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載のメカニカルシール。
【請求項5】
回転軸側に固定される回転環と、
固定壁側に固定される固定環と、
前記固定環を密封する第1シール部、前記固定壁側を密封する第2シール部及び前記第1シール部と第2シール部とを接続する屈曲部を有するベローズと、
前記ベローズの前記屈曲部の外周側に前記ベローズの径方向の変形を規制する規制部材と、を備え、
前記回転環と前記固定環とが摺動面にて互いに対向摺動して前記摺動面の内径側から外径側へ向かう流体をシールするメカニカルシールであって、
前記規制部材は、少なくとも低摩擦係数の材料からなる被覆部を備えることを特徴とするメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸側に固定される回転環と、ベローズを介して固定壁側に固定される固定環との相対位置が、温度変化により大きく変位するメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、全閉形回転電機において、回転子を液体冷却するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。液冷却方式の回転子4は、冷却液箱6に取着された入液パイプ6aの入液口6cから中空軸5に設けられた穴5aに供給された冷却液が、穴の端面5bで反転して中空軸の穴5aと入液パイプ6aの外周との隙間5cを逆流し、穴の開口部5dから冷却液箱6に設けられた排液口6bから流出して、回転子130の冷却を行うものである。そしてメカニカルシール・ユニット7のスラスト方向摺動リング7bと回転リング7cは、互いに接触シール面Bで摺動して中空軸5の穴5aを流れる冷却液の漏れを防止している。
【0003】
さらに、全閉形回転電機において回転子を液体冷却するものとして、特許文献2のものがある。特許文献2においては、メカニカルシールのメイティングリング41を中空軸5の内周部に配置して、摺動面の内径側から外径側に向かう流体の漏れを制限するアウトサイド形のメカニカルシールとすることによって、メイティングリング41とシールリング42との摺動面の径を小さくして、摺動面における周速を抑えることにより、高速、大容量の液冷却方式の回転子を実現している。
【0004】
また、特許文献2において、シールリング42は、複数の折り返し部を有するゴム製の弾性ベローズ44を介してキャリア37に密封状に固定されるとともに、シールリング42は、スプリング45によって軸方向に付勢されている。このように、弾性ベローズ44は折り返し部を複数設けることによって、中空軸5とキャリア37との相対変位を吸収できるので、温度変化により中空軸5が大きく伸縮しても、シールリング42はメイティングリング41の動きに追従して流体をシールできるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−170694号公報(第2−3ページ、図1図2
【特許文献2】国際公開第2016/050534号パンフレット(第8ページ、FIG1,FIG4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にあっては、メカニカルシール・ユニット7は、中空軸5の外周側に配設されているためスラスト方向摺動リング7bと回転リング7cの接触シール面Bにおける径が大きくなり、周速が高くなる。このため、メカニカルシール・ユニット7は、大形機や高速機に対して適用することが困難であった。
【0007】
一方、特許文献2のメカニカルシールにおいては、大形機や高速機に対して適用することができるものの、温度変化により回転軸が伸び、弾性ベローズ44が軸方向に縮んだ状態で、ベローズ内部から流体圧が作用すると、弾性ベローズ44は樽状に変形してしまい、最悪の場合には弾性ベローズ44がスプリング45に接触してスプリング45の動きを阻害し、十分なシール性能を発揮できない虞がある。逆に樽状に変形した状態から弾性ベローズ44が元の形状に戻るためには2方向に逆向きに変位させる力、すなわち回転軸が縮んで弾性ベローズ44が軸方向に伸びる力と弾性ベローズ44に対し径方向内側へ作用する力必要がある。しかし、弾性ベローズ44内には常に流体圧が作用しているため、弾性ベローズ44は樽状に変形した状態から元の形状に戻ることができない。すなわち、回転環と固定環との相対位置が変化して軸方向に縮んだ状態で弾性ベローズ44に内圧が作用すると、径方向に大きく変形して元の形状に戻ることができない非可逆的変形を引き起こす。
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、回転軸側に固定される回転環と、ベローズを介して固定壁側に固定される固定環との相対位置が変化することによりベローズが大きく変形し、この状態でベローズに流体圧が作用しても、ベローズは非可逆的な変形をすることなく、回転環の動きに固定環が追従して確実にシール性能を発揮できるメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシールは、
回転軸側に固定される回転環と、
固定壁側に固定される固定環と、
前記固定環を密封する第1シール部前記固定壁側を密封する第2シール部及び前記第1シール部と第2シール部とを接続する屈曲部を有するベローズと、
前記ベローズの前記屈曲部の外周側に前記ベローズの径方向の変形を規制する規制部材と、
を備え、
前記回転環と前記固定環とが摺動面にて互いに対向摺して前記摺動面の内径側から外径側へ向かう流体をシールするメカニカルシールであって、
前記規制部材は、少なくとも前記ベローズの線膨張係数と略等しい材料からなる第1コア部を備えることを特徴としている。
【0010】
この特徴によれば、回転環と固定環との相対位置が変化することによりベローズが大きく変形し、この状態でベローズに流体力が作用しても、第1シール部と第2シール部との間の屈曲部は規制部材によって変位が規制されるので、ベローズの非可逆的な変形を防止して、回転環の動きに固定環が追従して確実にシール性能を発揮できる。また、規制部材は、少なくともベローズの線膨張係数と略等しい材料からなる第1コア部を備えるので、メカニカルシールが使用される温度範囲が大きく変化しても、規制部材及びベローズの熱膨張差による過度の締付け、過大な隙間の発生により規制部材がベローズの変形を規制できなくなることを防止できる。
【0011】
本発明のメカニカルシールは、少なくとも前記ベローズより高い弾性係数を有する材料からなる第2コア部を備えることを特徴としている。
【0012】
この特徴によれば、ベローズの材料の弾性係数より高い第2コア部を有する規制部材によって、ベローズの過大な変形を確実に規制することができる。
【0013】
本発明のメカニカルシールは、
前記規制部材は、少なくとも低摩擦係数の材料からなる被覆部を備えることを特徴としている。
【0014】
この特徴によれば、低摩擦係数の材料からなる被覆部によって、規制部材とベローズとの間の相対変位による損傷を防止することができる。
【0015】
本発明のメカニカルシールは、
前記規制部材は環状部材からなることを特徴としている。
【0016】
この特徴によれば、環状部材からなる規制部材はベローズに容易に取付けることができ、ベローズの変形を規制することができる。
【0017】
本発明のメカニカルシールは、
回転軸側に固定される回転環と、
固定壁側に固定される固定環と、
前記固定環を密封する第1シール部、前記固定壁側を密封する第2シール部及び前記第1シール部と第2シール部とを接続する屈曲部を有するベローズと、
前記ベローズの前記屈曲部の外周側に前記ベローズの径方向の変形を規制する規制部材と、を備え、
前記回転環と前記固定環とが摺動面にて互いに対向摺動して前記摺動面の内径側から外径側へ向かう流体をシールするメカニカルシールであって、
前記規制部材は、少なくとも低摩擦係数の材料からなる被覆部を備えることを特徴としている。
【0018】
この特徴によれば、回転環と固定環との相対位置が変化することによりベローズが大きく変形し、この状態でベローズに流体力が作用しても、第1シール部と第2シール部との間の屈曲部は規制部材によって変位が規制されるので、ベローズの非可逆的な変形を防止して、回転環の動きに固定環が追従して確実にシール性能を発揮できる。また、低摩擦係数の材料からなる被覆部によって、規制部材とベローズとの間の相対変位による損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るメカニカルシールを適用したモータの縦断面図である。
図2】本発明に係るメカニカルシールを示す縦断面図である。
図3】本発明のメカニカルシールを構成するケース部材を示す図である。
図4】本発明の規制部材の断面構造を示す図で、(a)は規制部材を第1コア部から構成した図、(b)は規制部材を第1コア部と第2コア部から構成した図、(c)は(a)の規制部材、(b)の規制部材に被覆部を設けた図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るメカニカルシールを実施するための形態を図1から図4を参照して例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは、特に明示的な記載がない限り、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0021】
図1において、モータ100は、本発明のメカニカルシール200が適用された全閉形液冷媒冷却方式である。モータ100は、固定子ハウジング110内に支持された固定子120、軸受部151、155によって回転自在に支持された回転子130、メカニカルシール200から主に構成される。固定子120は、固定子鉄心121と固定子コイル122から主に構成され、回転子130は回転子鉄心131、回転子導体132及び中空回転軸133から主に構成される。モータ100は、外部より固定子120に電力が供給され、回転磁界が発生すると、回転子130は回転駆動力を発生する。また固定子120及び回転子130は、通電による電気的な損失や回転子130の回転による摩擦損失が発生する。この固定子120及び回転子130から発生する損失は、以下に説明するように主に液冷媒によって冷却される。
【0022】
固定子120を支持する固定子ハウジング110は、主に筒状の外側ハウジング111と、外周に冷媒流路112aが形成された筒状の内側ハウジング112とからなり、内側ハウジング112が、外側ハウジング111内に密封嵌合される。また、外側ハウジング111は、内側ハウジング112の冷媒流路112aに連通する冷媒入口孔、冷媒出口孔(図示せず)を有し、冷媒入口孔から流入した冷媒は、冷媒流路112aを流れ、冷媒出口孔から流出する。このように構成された固定子120は、固定子ハウジング110内の冷媒流路112aを流れる冷媒によって冷却される。
【0023】
一方、中空回転軸133を有する回転子130は以下のように冷却される。図1に示すように、中空回転軸133は、回転子鉄心131の略全長に亘って設けられる中空部133aを備え、該中空部133aは内周壁133d、該内周壁133dの一端を外部に連通する開口端部133b、他端を閉塞する閉塞部133cからなる。また、中空回転軸133の中空部133aには、冷媒導入手段160によって冷媒が導入される。冷媒導入手段160は、中空部133aより小径の冷媒導入管161、該冷媒導入管161と一体に形成されたフランジ162から構成される。冷媒導入管161は中空部133aに挿入され、フランジ162は中空回転軸133の開口端部133b側のケーシング170を介してブラケット157に固定される。さらにフランジ162には冷媒供給管163が接続され、冷媒供給管163から供給される冷媒は、図1の矢印に示されるように冷媒導入管161内を通り、中空部133aの閉塞部133cまで送り込まれ、冷媒は中空部133aの内周壁133dと冷媒導入管161との隙間を逆流して、フランジ162に設けられた冷媒排出孔162aから回転子130の外部へ流出する。こうして回転子鉄心131及び回転子導体132は、中空回転軸133の中空部133aの内周壁133dと冷媒導入管161との隙間を流れる冷媒によって冷却される。
【0024】
また、図1及び図2に示すように、モータ100は、中空回転軸133の中空部133aを流れる冷媒をシールするためにメカニカルシール200を備える。メカニカルシール200は、中空回転軸133(本発明に係る回転軸)の内周壁133dの開口端部133b側に固定され、中空回転軸133と一体に回転する回転側カートリッジ210と、ケーシング170に非回転状態で固定される固定側カートリッジ220とからなる。回転側カートリッジ210に配設される回転環211と、固定側カートリッジ220に配設される固定環221とが摺動面Sで互いに密接摺動することにより、中空回転軸133の中空部133aを流れる流体としての冷媒が、摺動面Sの内径側から外径側に向かって漏れようとする流体を密封するアウトサイド形のメカニカルシールである。
【0025】
しかし、図1に示すモータ100を車載用のモータとして使用した場合には、その周囲温度は−40℃から65℃の範囲で変化する場合があり、この温度範囲でモータ100が運転されると、モータ100の温度は−40℃から140℃の範囲で変動し、モータ100の中空回転軸133はセット状態から±1mm程度伸び縮みする可能性がある。通常、回転側カートリッジと固定側カートリッジの軸方向変位は±0.1mm程度であれば、ベローズ全体が変形して固定環は回転環の相対変位に追従してシールすることができる。ところが、回転側カートリッジと固定側カートリッジとの間の相対変位が±1mm程度になると、固定環は回転環の相対変位に追従してシールすることができない虞がある。また、ベローズが±1mm程度の相対変位に追従できるようにベローズ全体を薄肉に形成することもできるが、薄肉のベローズでは、流体圧により樽状に非可逆に変形してしまう虞もある。
【0026】
そこで、本発明のメカニカルシール200は、回転環211と固定環221との相対位置が大きく変化することによりベローズ222が大きく変形し、この状態でベローズ222に流体圧が作用しても、ベローズ222は非可逆的な変形をすることなく、回転環211の動きに固定環221が追従して確実にシール性能を発揮できるものである。以下、本発明のメカニカルシール200を構成する回転側カートリッジ210、固定側カートリッジ220の構成について説明する。
【0027】
回転側カートリッジ210は、回転環211と、該回転環211と中空回転軸133の内周壁133dとの間を密封するカップガスケット212とから主に構成され、回転側カートリッジ210は中空回転軸133の内周壁133dに圧入固定される。
【0028】
図2に示すように、回転環211は、断面略矩形の環状部材からなり、機械強度が高く、耐摩耗性に優れた炭化ケイ素、アルミナ等の各種セラミクスや、超硬合金等から構成される。固定環221と対向する回転環211の前面側には、ラッピング等により鏡面仕上げされた摺動面Sが設けられている。
【0029】
カップガスケット212は、回転環211の外周面に嵌合される外筒部212a、回転環211の背面を覆う径方向部212bからなる断面略L字状の環状部材であり、ゴム等の弾性体からなる。回転環211の摺動面Sは、固定側カートリッジ220の固定環221に対向して配設される。カップガスケット212の外筒部212aは、回転環211の外周面と中空回転軸133の内周壁133dとの間で適切な締め代が付与されることによって、密封性が確保されるとともに、回転環211は中空回転軸133と一体に固定される。
【0030】
つぎに、固定側カートリッジ220について説明する。固定側カートリッジ220は、ケーシング170に密封状に固定されるハウジング226(本発明に係る固定壁)と、該ハウジング226の環状空間226d側に収容される固定環221、固定環221を密封するベローズ222、ベローズ222の一端を固定環221に対し密封固定するためのケース部材223、ベローズ222の他端をハウジング226に対して密封固定するためのドライブリング224、及びケース部材223を介して固定環221を回転環211に向けて付勢するスプリング225から主に構成される。以下、固定側カートリッジ220の各構成について説明する。
【0031】
図2に示すように、ハウジング226は、ケーシング170に圧入固定される外側環状部226c、該外側環状部226cの一端から径方向内側に延設される壁部226b、及び該壁部226bの内径側端部から軸方向に延設される内側環状部226aから主に構成される断面略U字状の環状部材である。ハウジング226の開放部は、回転環211の摺動面Sに対向するようにケーシング170に圧入固定される。なお、ハウジング226をケーシング170に圧入固定して形成したが、ハウジング226とケーシング170とを一体に形成してもよい。
【0032】
図2に示すように、固定環221は、環状部材からなり、カーボン等の自己潤滑性、摺動性に優れた材料から構成される。固定環221には、回転環211と摺動する摺動面Sが形成されている。固定環221の摺動面Sは、軸方向に突出した環状部に形成され、ラッピング等により平滑に鏡面仕上げされている。また固定環221の外周端部221aには、後述するベローズ222によって覆われ密封される外周端部221aが形成されている。なお、回転環211及び固定環221の材質は、耐摩耗性に優れた炭化珪素(SiC)と自己潤滑性に優れたカーボンとの組合せとしたが、例えば、両者を炭化ケイ素、アルミナ等の各種セラミクスや、超硬合金等から形成してもよい。
【0033】
図2に示すように、ベローズ222は、軸方向に延設された内筒部222a(本発明の第2シール部)、内筒部222aより大径に形成された外筒部222c(本発明の第1シール部)、及び内筒部222aと外筒部222cを接続する断面略L字状に形成された屈曲部222bから少なくとも構成される環状部材で、たとえばニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FKM)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのエラストマーからなる。
【0034】
また、ベローズ222の屈曲部222bの外周側、すなわち低圧流体側には、開口部を有し、径方向内側に向かって形成された断面略半円状の環状凹部222gが形成される。屈曲部222bは、環状凹部222gを設けることによって内筒部222aと外筒部222cとの間において最小の肉厚、幅狭の薄肉部が形成される。
【0035】
これにより、ベローズ222内に流体圧が作用しても、ベローズ全体が樽状に膨らむ変形を防止できる肉厚を確保できるとともに、薄肉かつ幅狭に形成した屈曲部222bが局所的に大きく変形し、ベローズ222全体として屈曲変形する。中空回転軸133が熱膨張してベローズ222が縮むと、略L字状に折れ曲がる屈曲部222bは鋭角に折れ曲がり、逆に、中空回転軸133が冷えて収縮すると略L字状に折れ曲がる屈曲部222bは鈍角に折れ曲がり、ベローズ222は屈曲変形することにより、軸方向の一方向に可逆的に伸縮変形する。
【0036】
図2図3に示すように、ケース部材223は、軸方向に延設され、周方向に4等配で形成される鍔部223a及び収容部223bから構成される。収容部223bは鍔部223aの一端から径方向外側へ延設される周方向に連続した壁部223c、壁部223cの外径側端部から軸方向に延設され外側円筒部223d、外側円筒部223dの端部に延設され薄肉に形成された外側端部223eから構成される。鍔部223aは後述するドライブリング224の外周に形成された溝部224aと係合して案内部を形成する。
【0037】
固定環221の外周端部221aは、ベローズ222の外筒部222cによって覆われるとともに、さらにその外径側からケース部材223の収容部223bによって収容される。収容部223bの外側端部223eが折り曲げられることによって、固定環221の外周端部221aは、外筒部222cにより両側から挟み込まれて密封されるとともに、ベローズ222と一体に固定される。これにより、固定環221とベローズ222は、接着剤を使用しないで一体に固定できるので、接着剤の劣化による緩みを防止することができる。さらに、ベローズ222の外筒部222cは固定環221の外周端部221aを軸方向に挟んで密封するので、温度変化により回転側カートリッジ210と固定側カートリッジ220とが軸方向両側に伸び、縮みしても、ベローズ222は固定環221の外周端部221aを確実に密封できる。
【0038】
図2図4に示すように、ドライブリング224は、断面略矩形の環状部材である。ドライブリング224の内周部は全長に亘って同径に形成された円筒面からなり、ドライブリング224の外周部は、同径に形成された円筒面の周方向に溝部224aが4等配に形成されている。ベローズ222の内筒部222aに外嵌され、ドライブリング224とハウジング226の内側環状部226aとの間でベローズ222の内筒部222aは適切な締め代が付与されることによって、ベローズ222とハウジング226は一体に密封、固定される。
【0039】
図2に示すように、断面円形の環状一体に形成された規制部材230は、ベローズ222の環状凹部222gの外側から嵌合され、ベローズ222の径方向の変形は規制部材230によって規制される。一方、ベローズ222の屈曲変形は規制部材230により規制されないので、ベローズ222の軸方向の変形は阻害されない。これにより固定環221は回転環211の動きに追従して確実にシール性能を発揮できる。
【0040】
図4に規制部材230の断面構造を示す。図4(a)に示す規制部材230の第1コア部234は、少なくともニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FKM)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のエラストマーからなる。また、第1コア部234の断面積、形状は、ベローズ222の変形量を所定範囲に収められるように決定される。さらに、第1コア部234は単一のエラストマーから構成するだけでなく、ガラス繊維、ケブラー、炭素繊維等を加えて機械的強度を高めることによって、規制部材230の保持強度を高めることができる。
【0041】
ここで、モータ100の温度は−40℃から140℃の範囲で変動する可能性があるため、ベローズ222と規制部材230との間の熱膨張差によって、規制部材230がベローズ222を過度に締付けたり、規制部材230とベローズ222との隙間が過大になる場合がある。例えば、ベローズ222の線膨張係数に対し規制部材230の線膨張係数が小さい場合には、規制部材230は、低温時にベローズ222よりも大きく収縮してベローズ222を過度に締付けた状態となり、この状態でベローズ222の内圧による膨張が作用すると規制部材230は過大な力を受けてベローズ222の変形を保持できなくなる虞がある。逆に、ベローズ222の線膨張係数に対し規制部材230の線膨張係数が大きい場合には、規制部材230は、高温時にベローズ222よりも過大に膨張して、規制部材230とベローズ222との隙間が過大になり、ベローズ222の変形を十分に保持できなくなる虞がある。
【0042】
そこで、温度変動が大きい場合でも、ベローズ222と規制部材230との間の熱膨張差が過大にならないように、規制部材230の第1コア部234は、少なくともベローズ222と同じ材料又はほぼ同じ線膨張係数を有する材料から構成している。第1コア部234の材料は、ベローズ222を構成する材料、たとえばニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FKM)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のエラストマーから構成される。また、図4(a)と同じく、ベローズ222の変形が小さく、規制部材230の断面積を調整してベローズ222の変形量を所定範囲に収めることができる場合には、単一の材料からなるエラストマーによって第1コア部234によって構成することができる。さらに、第1コア部234は単一のエラストマーから構成するだけでなく、ガラス繊維、ケブラー、炭素繊維等を加えて機械的強度を高めることによって、規制部材230はベローズ222とほぼ同じ線膨張係数を有する材料から構成しつつ、規制部材230の保持強度を高めることができる。
【0043】
また、ベローズ222の変形が大きく、規制部材の断面積を調整してもベローズ222の変形量を所定範囲に収めることがでない場合には、図4(b)に示すように、第1コア部234の中心部にベローズ222よりも高い弾性係数を有する材料からなる第2コア部235を設けることもできる。第2コア部235は、環状に形成されたガラス繊維、カーボン繊維、ケブラー繊維、金属線を第1コア部234の中心部に配設したもので、これにより、高い弾性係数を有する材料からなる第2コア部235によって規制部材231は変形しにくくなるので、ベローズ222の径方向の変形を確実に規制できる。
【0044】
図4(c)は規制部材の別の実施形態を示す。図4(c)に示す規制部材232、233は、図4(a)の規制部材230又は図4(b)の規制部材231に対しPTFE等の低摩擦係数のエラストマーからなる被覆部236を設けたものである。低摩擦係数の被覆部236を設けることにより、規制部材232、233とベローズ222とは互いの動きを阻害することなく滑らかに動くことができるとともに、規制部材232、233とベローズ222との相対変位による傷つきを防止することができる。なお、被覆部236は低摩擦係数の単一のエラストマーから構成するだけでなく、ガラス繊維、ケブラー、炭素繊維等を加えて機械的強度を高めることによって、規制部材232、233の耐摩耗性を向上させるとともに、規制部材232、233の保持強度を高めることもできる。
【0045】
ベローズ222は、規制部材230、231、232又は233を備えることで、中空回転軸133が熱膨張してベローズ222が縮んだ状態で流体圧が作用しても、薄肉に形成されたベローズ222の屈曲部222bの径方向の変形は制限されるとともに、ベローズ222全体の径方向の変形も抑えることができる。また、ケース部材223の鍔部223aとドライブリング224の溝部224aとが係合する案内部によって、ベローズ222の相対回転は制限され、ベローズ222の屈曲変形による軸方向の相対移動のみが許容される。これにより、ベローズ222は主に軸方向に大きく変形するので、非可逆的な変形を防止でき、固定環は回転環の動きに追従して確実にシール性能を発揮できる。
【0046】
さらに、図2に示すように、ベローズ222の屈曲部222bの外径側(低圧流体側)、内径側(高圧流体側)には、屈曲部222bの変形を吸収する外側空隙部C1、内側空隙部C2が形成されている。これにより、中空回転軸133が伸縮してベローズ222が大きく変形しても、他の部材に影響を与えることなくベローズの変形は外側空隙部C1と内側空隙部C2内に吸収される。
【0047】
以上説明したように、本発明のメカニカルシール200は、中空回転軸133に取付けられた回転環211とハウジング226に取付けられた固定環221との相対位置が大きく変位して、ベローズ222が大きく変形した状態で流体圧が作用しても、規制部材230、231、232又は233によってベローズ222の非可逆的な変形が防止され、固定環221は回転環211の動きに追従して確実にシール性能を発揮できる。
【0048】
上記実施形態における規制部材230、231、232又は233は、断面略円形の環状部材であったが、これに限らず断面略矩形の環状部材に構成してもよい。
【0049】
上記実施形態における例におけるメカニカルシール200は、中空回転軸を有するモータ100に適用された場合を説明したが、中空回転軸を有するものであれば、発電機、発電電動機であってもよい。また、上記実施例において、回転子130は、導体を有する回転子であってが、永久磁石回転子であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
100 モータ
110 固定子ハウジング
120 固定子
130 回転子
133 中空回転軸(回転軸)
133a 中空部
133b 開口端部
133d 内周壁
151、155 軸受部
160 冷媒導入手段
170 ケーシング
200 メカニカルシール
210 回転側カートリッジ
211 回転環
212 カップガスケット
220 固定側カートリッジ
221 固定環
222 ベローズ
222a 内筒部(第2シール部)
222b 屈曲部
222c 外筒部(第1シール部)
223 ケース部材
223a 鍔部
224 ドライブリング
224a 溝部
225 スプリング
226 ハウジング(固定壁)
230 規制部材
231 規制部材
232 規制部材
233 規制部材
234 第1コア部
235 第2コア部
236 被覆部
S 摺動面
C1 外側空隙部
C2 内側空隙部
図1
図2
図3
図4