特許第6859102号(P6859102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フォーシスアンドカンパニーの特許一覧

<>
  • 特許6859102-8角柱の細胞培養用容器 図000002
  • 特許6859102-8角柱の細胞培養用容器 図000003
  • 特許6859102-8角柱の細胞培養用容器 図000004
  • 特許6859102-8角柱の細胞培養用容器 図000005
  • 特許6859102-8角柱の細胞培養用容器 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6859102
(24)【登録日】2021年3月29日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】8角柱の細胞培養用容器
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20210405BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20210405BHJP
【FI】
   C12M3/00 A
   C12N5/07
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-512778(P2016-512778)
(86)(22)【出願日】2015年4月9日
(86)【国際出願番号】JP2015061152
(87)【国際公開番号】WO2015156367
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2018年4月3日
(31)【優先権主張番号】特願2014-81429(P2014-81429)
(32)【優先日】2014年4月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300023028
【氏名又は名称】株式会社フォーシスアンドカンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】長池 一博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寿紀
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−099287(JP,A)
【文献】 特開2013−055911(JP,A)
【文献】 特開2005−323588(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0156350(US,A1)
【文献】 特表2008−543307(JP,A)
【文献】 TPP社製品 特徴紹介, [online],2012年12月19日,TPP社製品 特徴紹介6,[検索日 2015.05.18], インターネット<URL: http://www.bmbio.com/file/202990.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞した下端部および相対向する上端部に液体用開口を有する8角柱の細胞培養用容器であって、該8角柱を形成する各面が平面状であり、該8角柱を形成する各面のうち相対向する2面が水平であり、該8角柱を形成する各面の内側が培養面であり、
上記細胞培養用容器の該8角柱を形成する各面の内側の培養面が、ゼラチン、細胞外基質又はポリカチオン類で修飾され、細胞接着性が高められているものである、
細胞培養用容器。
【請求項2】
上記上端部に開口する液体用開口からはさらに首部が延在し、該首部には、内周ねじ付きの蓋を受けるための外周ねじ山を有する、請求項1に記載の細胞培養用容器。
【請求項3】
上記首部の液体用開口側の根元部の外周には、上記細胞培養用容器を保持するための把手部材もしくは穴空き部材を固定するための凸状部を有している、請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の細胞培養用容器。
【請求項4】
上記閉塞した下端部が円錐状又は8角錐を呈する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の細胞培養用容器。
【請求項5】
上記細胞培養用容器の外側面に目盛りが付されている、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の細胞培養用容器。
【請求項6】
上記細胞培養用容器の8角柱を形成する各面の、任意の面の外側に印が付されている、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の細胞培養用容器。
【請求項7】
上記細胞培養用容器の8角柱を形成する各面が、透明性を有する、樹脂材料、ガラス又は石英からなる、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の細胞培養用容器。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載された8角柱の細胞培養用容器を用いて、
前記容器内に培養液を入れた状態で前記8角柱の1面が底面となるように前記容器を戴置することで前記底面に前記培養液中の少なくとも一部の細胞を付着させ、かつ、
前記8角柱の軸線回りに前記容器を回転させることで前記培養面のそれぞれに前記培養液中の少なくとも一部の細胞を付着させて細胞培養を行う工程を含む、
培養細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養のための容器に関し、さらに詳細には、間葉系細胞や間葉系幹細胞など付着性細胞を含む各種細胞を、均質かつ安価に培養増殖するために用いる、閉塞した下端部および相対向する上端部に液体用開口を有する8角柱の細胞培養用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体から単離した様々な種類の細胞を、生体環境を模した人工的な環境下にて培養し、さらに必要に応じて遺伝子導入を行い、それら細胞や、細胞から産生される各種因子を大量に得て、各種の疾患治療に用いることが行われている。そのような細胞として、細胞と足場との間で各種分子による相互作用により、足場となる部位に付着し、増殖する性質を有する繊維芽細胞、間葉系細胞や間葉系幹細胞などの付着性細胞がある。それら付着性細胞は、付着性を有するようにした培養面を有する細胞培養用の培養皿や培養用フラスコのような付着性細胞培養用の容器を用いることで、増殖させることができる。
【0003】
上記治療に用いるためには、大量の細胞を培養し、細胞や、細胞から産生される因子などの成分を回収する必要がある。しかし、通常、細胞培養用の容器は1つの平板状の培養面からなるため、細胞を増殖させるために要する培養面の面積が限られている。
【0004】
そこで、大量の細胞を培養できるようにするために、使用する細胞培養用の容器サイズを上げ、さらに培養に用いる容器数を増やす対応が取り得る。しかしながら、一般に培養に充てることが可能なスペースには限りがあるため、培養にあたり、用いる容器数を十分に増やすことができないという問題が生じる。
【0005】
培養に充てることが可能なスペースが確保でき、細胞培養用の容器サイズを上げ、細胞培養用の容器数を増やすことが可能な場合であっても、一連の培養に必要とされる工程数が、容器サイズや容器数の増大に比例して飛躍的に増える。そのため、均質の細胞を大量に調製するには大変に手間がかかるとともに、コンタミネーションのリスクも増大し、作業工程への工夫と習熟が求められていた。
【0006】
さらに、培養規模を大きくすると、培養液やそれに添加する血清や各種因子、ピペットや遠心チューブを含む各種培養器具も大量に必要となるため、コストが飛躍的に増大するという問題も生じていた。
【0007】
このように、治療現場や生産現場においては、大量培養に伴う上記各種問題の解決が要請されていた。
【0008】
上記問題を解決する工夫として、様々な工夫が提案されているが、装置等も用いた大量生産を志向した手段として、略円筒形状を有するものであって、該略円筒形状の部分を、その軸線回りに連続的に回転させて用い、該略円筒形状の部分の内面全体を培養面としたローラーボトルが提案されている。さらに、付着性細胞が接着可能となる培養面の表面積を増大させるため、該ローラーボトルの略円筒形状の部分において、軸方向のひだを有する構造にしたローラーボトルも提案されている(特許文献1)。
【0009】
しかし、上記構造のものは、培養液が円筒形状の部分の内面の下部に存在するため、培養面の表面積よりも培養液の液面の表面積が小さくなり、培養液上部の気層との空気交換が不十分になるという問題が生じる。
【0010】
そこで、培養面積を最大限に確保し、かつ、培養面と培養液の液面における表面積の差を最小にすることを両立させたものとして、ローラーボトルの断面の形状を、略円となる形状から、ルーローの多角形の形状、すなわち、丸みを帯びた角を奇数有し辺が湾曲した構造となるようにボトルの円筒形状の部分を成型したものであることを必須の構成要件とした、細胞培養用ボトルも提案されている(特許文献2)。
【0011】
しかしながら、上記の各ローラーボトルは、いずれも細胞の大量培養をなし得る構造とするために培養面を湾曲させることを要することから、培養中の細胞数や細胞形状などの詳細な情報を検鏡による手段により取得することが出来ないため、培養中の細胞状態を管理することができない。そのため、至適の培養条件を確定するまでに、培養を途中で止めて増殖した付着細胞を回収し、細胞数や細胞品質を確認することを何度も繰り返す必要が生じ、大量培養の条件設定のために、多くの細胞を無駄にすることになる。このことは、特に、初期細胞数が極めて少ない、もしくは、得ることが困難な細胞を用いる場合に大きな問題となり、大量培養のための条件設定を完了すること自体が極めて困難な状況となってしまい、本来の目的である治療に入れなくなるため、手法の改善が要請されていた。
【0012】
ところで、疾患治療に用いられる付着性細胞である間葉系幹細胞は、幹細胞としての未分化状態を厳密に維持する必要がある。そのため、治療に要する必要細胞数を得るにあたり、細胞数、細胞密度、及び、培養液の状態などが一定に保持されるように、培養中の状態を厳密に管理し確認しながら、間葉系幹細胞を培養し増殖させる必要がある。特に、幹細胞としての未分化状態を厳密に維持するためには、培養開始時に培養面に付着する細胞数及び細胞密度が一定となるように厳密にコントロールすることが重要である。
【0013】
しかし、従来の培養皿もしくは培養ボトルを用いて、幹細胞としての未分化状態を厳密に維持して培養増殖を行う場合には、上記段落で説明したように、培養規模を拡大する上で困難が生じ、コストもかかるため、培養手段への工夫が要請されている。
【0014】
そこで、上記各特許文献に記載の従来型の細胞の大量培養用ローラーボトルを用いようとしても、問題がある。それらの大量培養用ローラーボトルは、大量培養を達成するために、円筒形状、軸方向のひだを有する円筒形状、もしくはルーローの多角形の形状を必須構造として有するよう設計されている。そのために、いずれのボトルも、培養面が湾曲した構造となっているため、培養液の培養液表面からボトル内側の培養面までの水深の違いが生じるものとなっている。そのため、培養開始時に、培養液の培養液表面からボトル内側の培養面までの水深が深くなるボトル中央部における細胞濃度が濃くなるとともに、付着前の細胞が湾曲した培養面の下部に集まり細胞塊を形成しやすくなる。そうすると、培養開始時に培養面に付着する細胞数及び細胞密度が一定となるように厳密にコントロールすることが出来ないため、間葉系幹細胞の培養には適さない。細胞塊を形成することは、均質な細胞を得るためには、間葉系幹細胞のみならず、他の付着性細胞においても好ましくない。さらに、培養面が湾曲しているため、培養中の細胞状態を検鏡して確認することができず、ボトルから細胞を剥離し回収するまでは、細胞塊の形成の有無や、培養時における細胞密度やその均一性の程度を確認することもできない。
【0015】
そのため、従来、幹細胞としての未分化状態を厳密に維持した均質な間葉系幹細胞を、治療に要する量にまで増殖させ、臨床において使用することには困難があった。
【0016】
これを防止し、細胞を均一に接着しようとすると、細胞が不均一に沈降し細胞塊を形成しないよう、回転条件下にて培養を開始する必要がある。そうすると、回転時の培養液及び培養面の移動に基づく力が細胞にかかり、細胞が有している培養面への接着力が削がれるため、より強い接着力を有する細胞でなければ用いることができなくなり、治療に用いる細胞を選択するにあたり、自由度が減る。
【0017】
また、特定の性質を保持した細胞を得るために、他の細胞を共培養することが必要なものもあるが、治療に用いるためには共培養した細胞を除去するか、その混入をなるべく減らす工夫を要する場合がある。しかし、上記従来の培養皿、培養ボトル及びローラーボトルを用いる場合には、大量に増殖させた治療用細胞から共培養した細胞のみを除去することや、共培養した細胞の混入を抑制することは困難であった。また従来の共培養用容器は、容器のコストが大変高く、治療に用いる程に大量の細胞を培養するために従来の共培養用容器を数多く用いることには困難がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特公平6−61256号公報
【0019】
【特許文献2】米国特許第5866419号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明が解決しようとする課題は、疾患治療に用いる間葉系幹細胞を、幹細細胞としての未分化状態を培養中に確認しながら厳密に維持管理し、疾患治療に必要な量が得られるまで大量培養し、該細胞を均質、安価、かつ効率よく回収することである。
また、本発明が解決しようとする課題は、疾患治療に用いる付着性細胞又は付着性細胞により産生される因子を得るために、細胞状態を培養中に確認しながら、疾患治療に必要な量が得られるまで大量培養し、該細胞又は該因子を均質、安価、かつ効率よく回収することである。
本発明が解決しようとするさらなる課題は、培養規模の拡大に伴い必要量が増大する、培養細胞を回収するためのピペットや遠心チューブの使用量増大によるコストの飛躍的増大を解消し、安価な大量培養手段を提供することである。
また、大量培養時の培養面のコーティング処理や、培養面に付着させる細胞の種類を様々に組み合わせるなどの、幅広い培養条件の設定要求に応えることが可能な大量培養用容器を提供することも、本発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するための本発明の第1の手段は、閉塞した下端部および相対向する上端部に液体用開口を有する8角柱の細胞培養用容器であって、該8角柱を形成する各面が平面状であり、該8角柱を形成する各面のうち相対向する2面が水平である、細胞培養用容器である。
【0022】
上記の課題を解決するための本発明の第2の手段は、上記上端部に開口する液体用開口からはさらに首部が延在し、該首部には、内周ねじ付きの蓋を受けるための外周ねじ山を有する、上記第1の手段の細胞培養用容器である。
【0023】
上記の課題を解決するための本発明の第3の手段は、上記首部の液体用開口側の根元部の外周には、上記細胞培養用容器を保持するための把手部材もしくは穴空き部材を固定するための凸状部を有している、上記第1又は第2のいずれか1の手段の細胞培養用容器である。
【0024】
上記の課題を解決するための本発明の第4の手段は、上記閉塞した下端部が円錐状又は8角錐を呈する、上記第1〜第3のいずれか1の手段の細胞培養用容器である。
【0025】
上記の課題を解決するための本発明の第5の手段は、上記細胞培養用容器の外側面に目盛りが付されている、上記第1〜第4のいずれか1の手段の細胞培養用容器である。
【0026】
上記の課題を解決するための本発明の第6の手段は、上記細胞培養用容器の8角柱を形成する各面の、任意の面の外側に印が付されている、上記第1〜第5のいずれか1の手段の細胞培養用容器である。
【0027】
上記の課題を解決するための本発明の第7の手段は、上記細胞培養用容器の該8角柱を形成する各面の内側の培養面が、ゼラチン、細胞外基質又はポリカチオン類で修飾され、細胞接着性が高められているものである、上記第1〜第6のいずれか1の手段の細胞培養用容器である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の手段の閉塞した下端部および相対向する上端部に液体用開口を有する8角柱の細胞培養用容器で、かつ、該8角柱を形成する各面が平面状であり、該8角柱を形成する各面のうち相対向する2面が水平である、細胞培養用容器を採用することで、細胞の状態を培養しながら確認することが可能となり、初期細胞数が極めて少ない、もしくは、得ることが困難な細胞を用いる場合であっても、大量培養条件を設定でき、かつ、培養面が平面状であることから、細胞密度の均一性を保ち、疾患治療に用いられる間葉系幹細胞のような未分化状態を維持するなど、特定の細胞性状を維持する必要がある付着性細胞を、均質、大量かつ安価に培養し増殖できるものとなった。さらに、閉塞した下端部が円錐状又は8角錐を呈する構造とすることで、遠心チューブの機能を併せ持つ細胞培養用容器となり、更なるコスト低減を図ることが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の8角柱の細胞培養用容器の一例を示した図である。
図2】本発明の8角柱の細胞培養用容器の一例における断面図である。
図3】本発明の8角柱の細胞培養用容器に蓋を閉めた状態の一例を示す図である。
図4】本発明の8角柱の細胞培養用容器を用い培養する状態を説明する図である。
図5】本発明の8角柱の細胞培養用容器の培養面にゼラチンコート処理を1面おきに行った状態の容器を撮影したものを図示して示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明を実施するための形態について、適宜図面を参照しつつ以下に説明する。
【0031】
(素材について)
本発明の細胞培養容器及び蓋の部材を形成するために用いる材料は特に限定されないが、細胞培養において一般的に用いられる材料を使用することができる。
【0032】
上記材料は、例えば、樹脂材料、及び、ガラスや石英等の無機材料、金属を用いることができるが、製造の容易性、コスト低減、細胞培養状態の把握の容易性を考慮し、好ましくは、樹脂材料を用いる。
【0033】
そして、上記樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等の樹脂材料、表面親水化処理を施した上記の少なくとも1種を含む樹脂材料を用いることができる。そして、製造の容易性、コスト低減、細胞培養状態の把握の容易性を考慮し、該樹脂材料として、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート樹脂又はポリスチレン樹脂を用いる。
【0034】
(8角柱の細胞培養用容器の形状について)
本発明の8角柱の細胞培養用容器1は、閉塞した下端部2および相対向する上端部に液体用開口3を有する8角柱の細胞培養用容器の構造を有している。そして、上記8角柱を形成する各面が平面状であり、8角柱を形成する各面のうち相対向する2面は、ほぼ水平となっている構造を有している。
【0035】
また、培養遠心容器として、細胞培養に加えて遠心分離用チューブとしても用いることが可能になるよう、上記閉塞した下端部2については、円錐状又は8角錐の形状を呈する構造を有するものにできる。(図1及び図2)。
【0036】
そして、上端部に開口する液体用開口2からはさらに首部4が延在しており、該首部は、内周ねじ付きの蓋5を受けるための外周ねじ山6を有している。
【0037】
さらに、回転培養を機械制御により行うことを容易とするための構造として、上記首部4の液体用開口側の根元部の外周は、該8角柱の細胞培養用容器を上向きに保持、横向きに保持、並びに、液体用開口2を斜め下向きにし、容器内部に満たした培養液をデカンテーションにて排出するように保持するための、把手部材もしくは穴空き部材を固定するための凸状部7をを有している。
【0038】
また、上記細胞培養用容器1の外側面には、任意に目盛りを付して、該目盛りにより、培養用容器内の培養液量及び細胞量を目視で概算することが可能な構造とすることができる。そして、さらに、上記細胞培養用容器の8角柱を形成する各面の、任意の面の外側に印を付して、培養面をそれぞれ区別することが可能な構造とすることができる。
【0039】
なお、上記細胞培養用容器は1、培養液を満たし培養する際に十分な強度を持つ程度の壁圧を発揮する厚みを有したものとなるようにする必要がある。さらに、下端部が円錐状又は8角錐の形状を呈する構造となり、培養容器としてのみならず、遠心分離用チューブとして細胞回収に用いるようにする場合には、細胞を回収するために要する遠心分離に十分耐えることが可能な強度を持つ厚みを有した細胞培養用容器兼遠心チューブとなるようにするべきである。
【0040】
(製造工程について)
本発明の細胞培養容器は、上記8角柱の細胞培養用容器1の形状に成型できるように調製した金型を用いて製造し、上記樹脂材料を用いる場合には、吹き込み成形により一体成形されたものとすることができる。
【0041】
培養する細胞の種類により、培養途中にて、位相差顕微鏡などを利用して検鏡し培養中の細胞状態を詳細に確認する必要が生じる場合がある。そこで、良好な状態で検鏡し培養中の細胞状態を詳細に確認することができるようにするため、金型の培養面形成部分に鏡面処理を施すなどして、本発明の8角柱の細胞培養用容器の培養面が、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、位相差顕微鏡など各種の顕微鏡による検鏡に適した、ひずみの少ない状態となるようにしてから、容器を製造することができる。
【0042】
(培養面の修飾について)
さらに、本発明の8角柱の細胞培養用容器1の培養面への細胞の付着性を高めるために培養面を修飾するための成分として、ゼラチン、細胞外基質又はポリカチオン類を、培養面の表面に塗布されたものとしても良い。ゼラチン、細胞外基質又はポリカチオン類は、細胞培養に用いられているものであればその種類を特に限定しない。細胞外基質としては、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなど、ポリカチオン類としては、ポリリジン、ポリエチレンイミン、ポリオルチニンなどを用いることができる。
また、上記の各成分は、培養面へのより高い付着性を発揮させることを望む部位に塗布することができ、本発明の8角柱の細胞培養用容器1に8面ある培養面全てに塗布しても良く、1面おきに4面塗布しても良く、所望の面のみに塗布しても良く、また、面によって異なる成分を塗布したものとしても良い。
【0043】
(細胞培養用容器外面へ印をつける工程について)
本発明の8角柱の細胞培養用容器1は、培養面が8面存在することから、各々の培養面を外部から視認もしくは機器にて認識し、区別することが可能となるようにするため、容器の外側に、各面を区別するための印を付したものとすることができる。印は、文字、記号、バーコード、模様などの任意のものを選択して用いることができ、インクを用いて印刷するか、レーザーやエッチングで刻入することで付すことができる。また、該容器金型に予め所望の印をつけ、細胞培養用容器表面に印が付されたものとして製造されるようにしても良い。
【0044】
上記のようにして本発明の8角柱の細胞培養用容器1の外部の必要な部位に印をつけ、該印を識別する装置を併用することで、本発明の8角柱の細胞培養用容器を回転制御する処理装置にて培養用容器並びに該容器における培養面の位置を正確に識別させることができるようになり、回転制御の自由度が高まる。また、作業者が自ら本発明の8角柱の細胞培養用容器を回転制御する際にも、該容器における培養面の位置をそれぞれ識別することが可能となり、作業の正確性が高まる。
【0045】
また、本発明の8角柱の細胞培養用容器1は、容器下部2が円錐状又は8角錐を呈した構造を有したものとすることで、遠心分離機にて、容器培養面から剥離させた細胞を遠心分離することが可能となる、遠心分離用チューブとしての機能も併せ持つ構造のものとすることができる。そこで、遠心分離用後に、容器下部の円錐状又は8角錐部位にペレットとして集まる細胞や、培養液の量を目視により判別できるようにするため、円錐状又は8角錐部位の外側に目盛りを付したものとすることができる。目盛りは、インクを用いて印刷するか、レーザーやエッチングで刻入することで付すことができる。また、容器金型に予め目盛り印をつけ、容器表面に目盛りが付されたものとして製造されるようにしても良い。
【0046】
細胞培養容器に、透明性のある樹脂材料、及び、ガラスや石英等の無機材料などを用いることで、遠心前に、細胞培養容器外部から細胞が懸濁された培養液の濁度を測定することができるため、測定した濁度の数値を外挿することにより細胞が懸濁された培養液中の細胞数を数値化することができ、さらに、遠心後にはペレット量を目視もしくはカメラやセンサー機器を用いて計測し、回収したペレット中の細胞数を大まかに数値化することができるようになる。
【0047】
(滅菌工程について)
本発明の8角柱の細胞培養容器1は、滅菌されたものとして提供され得る。細胞培養容器を滅菌する方法は特に限定されないが、細胞培養容器を滅菌する方法として一般に用いられる方法を用いることができる。該滅菌方法としては、例えば、γ線照射滅菌、電子線滅菌、放射線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、紫外線照射滅菌、過酸化水素滅菌、エタノール滅菌の方法を用いることができる。そして、製造の容易性やコスト低減を考慮し、細胞培養容器を大量かつ簡便に製造するため、該滅菌方法として、好ましくは、電子線滅菌又はγ線照射滅菌を用いる。電子線滅菌は細胞培養容器を劣化させない程度にて行い、また、γ線照射滅菌におけるγ線の照射エネルギーは、細胞培養容器を劣化させない程度にて滅菌することができるよう、5kGy〜30kGy程度の範囲までとすることが好ましいが、使用する細胞に合わせて、好適な滅菌方法を選択し用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の8角柱の細胞培養用容器1を製造し使用した実施例を示す。本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0049】
(実施例1)
本発明の8角柱の細胞培養用容器1を製造した。8角柱の細胞培養用容器1及びそれに合わせて用いる蓋5を成形するための金型を作製した。該金型には、培養面が平滑となるよう、鏡面処理を施し、また、成形後の8角柱の細胞培養用容器1の下部の8角錐部位の外側に目盛りが付されたものとなるようにした。
【0050】
ポリエチレンテレフタレート樹脂を用い、上記金型を用いて吹き込み成形により、8角柱の細胞培養用容器1を一体成形した。各培養面を識別できるよう、容器の培養円外側にインクを用いて印を付した。蓋5についても同様に成形した。製造した8角柱の細胞培養用容器1及び蓋5の一部については、電子線滅菌処理により滅菌した。
【0051】
(実施例2)
色素入りの2%ゼラチン溶液を調製した。
【0052】
8角柱の細胞培養用容器1を横に倒し、8角柱を形成する培養面のうちの1面(図4におけるNo.1で表示した面)が底面となるようにし、容器上端部に配した液体用開口3より、色素入りの2%ゼラチン溶液を、該底面を覆う程度の量注入した後、一定時間放置し、ゼラチン溶液をNo.1の培養面上に定着させた。なお、色素は、ゼラチンによるコーティング処理が均一に施されたことを容易外側から簡便に判別するために加えたものである。
【0053】
8角柱の細胞培養用容器1を横に倒したまま、該容器の8角柱の軸線回りに時計回りに回転させる作業を行い、先に底面となるようにした培養面から時計回りに2つ目の培養面(図4におけるNo.3の面)が新たな底面となるようにした。そして、容器上端部に配した液体用開口3より、色素入りの2%ゼラチン溶液を、該底面を覆う程度の量注入し、一定時間放置し、ゼラチン溶液をNo.1の培養面上に定着させた。上記作業を繰り返し、図4におけるNo.5及びNo.7の面にも、ゼラチン溶液を定着させた。
【0054】
上記作業により、8角柱を形成する培養面のうち、1面おきに合計4面の培養面を、コーティング処理することができた(図5)。
【0055】
本発明の、8角柱を形成する各培養面が平面状であり、8角柱を形成する各面のうち相対向する2面がほぼ水平である、8角柱の細胞培養用容器1については、各培養面を任意かつ容易に、コーティング処理することが可能であることが明らかとなった。
さらに、上記のように、1面おきに容易に処理できたことから、本発明の8角柱の細胞培養用容器1は、所望の面のみに、培養させることを希望する細胞を付着させる作業も、容易になし得ることが明らかとなった。
【0056】
(実施例3)
イヌ皮下脂肪組織から脂肪由来間葉系幹細胞を分離培養した。全ての実験及び術式は、研究施設内委員会が定めた指針に基づき実施された。
【0057】
イヌを麻酔処置し、皮下脂肪組織を得た。皮下脂肪組織を、酵素処理し、1xPBS緩衝液(希釈倍率,1:1;v/v)で洗浄後、1xPBS緩衝液に再分散させたのち、シリンジ中を複数回通す作業を行った。緩衝液を捨てた後、新たなEDTAを含有させた1xPBS緩衝液を存在下にて、シリンジ内壁や針腔に付着した脂肪由来間葉系幹細胞を回収した。回収した脂肪由来間葉系幹細胞を1xPBS緩衝液で洗浄後、培養用のFBS添加培養液に所定の細胞数にて再懸濁した。
【0058】
本発明の8角柱の細胞培養用容器1中に、上記の脂肪由来間葉系幹細胞を懸濁した培養液8を、容器上端部に配した液体用開口3より容器内部へそっと注入し、容器の首部4に蓋5をした。蓋5はきつく閉めすぎないようにし、細胞培養用インキュベーター中に8角柱の細胞培養用容器1を静置した際に、通気性を十分保てる程度となるようにした。
【0059】
8角柱の細胞培養用容器1を横に倒し、8角柱を形成する培養面のうちの1面(図4におけるNo.1で表示した面)が底面となるようにし、脂肪由来間葉系幹細胞用の温度、湿度、酸素及び二酸化炭素濃度に設定済みの細胞培養用インキュベーター中に静置した。
【0060】
一定時間毎に、8角柱の細胞培養用容器1を横に倒したまま、先に底面となるよにした培養面に隣接した培養面(図4におけるNo.2の面)が新たな底面となるように、該容器の8角柱の軸線回りに時計回りに回転させる作業を行った。これを、一定時間毎に繰り返し、No.3〜No.8の面まで1回転させた。
【0061】
8角柱の細胞培養用容器の8角柱の軸線回りに時計回りに1回転した後、8面ある培養面全てを位相差顕微鏡にて検鏡し、細胞の付着量、分布の程度を確認した。
【0062】
その結果、本発明の8角柱の細胞培養用容器1には、8面ある培養面毎に、均一に脂肪由来間葉系幹細胞が培養面に付着していることが確認された。そして、8角柱の軸線回りに時計回りに回転させるにあたり、静置する時間を長めにすると、培養面No.1からNo.8にかけて細胞密度が減少する傾向が観察された。しかし、静置時間を短めにすると、各培養面に付着する細胞数は少ないものの、細胞密度に差は確認されなかった。
【0063】
このように、本発明の8角柱の細胞培養用容器は、8角柱の軸線回りに時計回りに回転させるにあたり、培養面を静置する時間を好適化することで、初期の脂肪由来間葉系幹細胞の付着密度をほぼ一定にすることができるものであることが判明した。
【0064】
上記の脂肪由来間葉系幹細胞を各面に付着させた8角柱の細胞培養用容器1を、細胞培養用インキュベーター中に静置し、さらに一定時間毎に該容器の8角柱の軸線回りに時計回りに回転させながら、培養を続けた後、検鏡した。そして、蓋5を開け、培養面に付着した脂肪由来間葉系幹細胞の剥離処理を行った後、懸濁液の液量並びに懸濁液中の細胞数を計測した。
そして、更に遠心分離処理を行い、該容器を斜めに傾けて、脂肪由来間葉系幹細胞のペレットを残し、不要な培養上清を、該容器上端部に配した液体用開口3よりデカンテーションにより捨てた。その後、脂肪由来間葉系幹細胞のペレットを回収した。
【0065】
その結果、脂肪由来間葉系幹細胞数が良好に増加したことが確認できた。
【0066】
(比較例)
比較例として、従来のローラーボトルに上記脂肪由来間葉系幹細胞を懸濁した培養液を加え、回転培養を行った。ローラーボトルは培養面が曲面状となっているため、顕微鏡による培養面全体の観察は上手くできなかった。そこで、細胞を剥離させた後、細胞数を計測し、細胞懸濁液を遠心チューブに移して遠心分離処理を行い、脂肪由来間葉系幹細胞をペレットとして回収した。その結果、本発明の8角柱の細胞培養用容器より、細胞数増加率は低かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の手段の閉塞した下端部および相対向する上端部に液体用開口を有する8角柱の細胞培養用容器で、かつ、該8角柱を形成する各面が平面状であり、該8角柱を形成する各面のうち相対向する2面が水平である、細胞培養用容器、及び、さらに、閉塞した下端部が円錐状又は8角錐を呈する構造を有する上記細胞培養用容器を、付着性細胞の大量培養用容器に採用することで、細胞の状態を培養しながら確認することが可能となり、初期細胞数が極めて少ない、もしくは、得ることが困難な細胞を用いる場合であっても、大量培養条件を設定できる。
また、培養容器の培養面が平面状であることから、細胞密度の均一性を保ち、疾患治療に用いられる間葉系幹細胞のような未分化状態を維持するなど、特定の細胞性状を維持する必要がある付着性細胞を、均質、大量かつ安価に培養し増殖できるものとなった。
さらに、各培養面毎に、コーティング処理や、付着させる細胞を換えることが可能となり、幅広い培養条件の設定要求に応えることが可能な大量培養用容器を提供することができるようになった。
【符号の説明】
【0068】
1 8角柱の細胞培養用容器
2 下端部
3 液体用開口
4 首部
5 内周ねじ付きの蓋
6 外周ねじ山
7 凸状部
8 細胞を懸濁した培養液
図1
図2
図3
図4
図5