(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接着層が、変成シリコーン樹脂と、前記変成シリコーン樹脂100重量部に対し1重量部以上100重量部以下の含有量のエポキシ樹脂とを含む接着剤樹脂組成物の硬化物である、請求項1に記載のセメント硬化体構造物の保護構造。
前記接着層が、変成シリコーン樹脂と、前記変成シリコーン樹脂100重量部に対し1重量部以上60重量部以下の含有量のエポキシ樹脂とを含む接着剤樹脂組成物の硬化物である、請求項1または2に記載のセメント硬化体構造物の保護構造。
セメント硬化体構造物の表面、および引張弾性率が5.0GPa以下である保護シートの表面の少なくともいずれかに、変性シリコーン樹脂とエポキシ樹脂とを含みかつ硬化後における10%伸長時の応力M10が0.6N/mm2以下となる接着剤樹脂組成物の層を設ける工程と、
前記セメント硬化体構造物の表面と前記保護シートの表面とを、前記接着剤樹脂組成物を介して接着する工程と、
を含み、
前記接着剤樹脂組成物の層は、80℃雰囲気中で500時間加熱された後の前記応力M10が1.0N/mm2以下である、セメント硬化体構造物の保護工法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の要素には同一の符号を付しており、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0020】
[1.セメント硬化体構造物の保護構造]
図1は、本発明のセメント硬化体構造物の保護構造の一例を示す模式的断面図である。
図1に示すコンクリート保護構造100は、コンクリート建造物200と、保護シート300と、それらの間に介在する接着層400とを含む。
【0021】
[1−1.セメント硬化体構造物]
図1では、セメント硬化体構造物の例としてコンクリート建造物200を挙げる。コンクリート建造物200は、コンクリート210と、鉄筋などの芯材220とを含む。コンクリート210は、セメントに、水、砂利、砂などを混合し、セメントの水和反応により硬化したものである。コンクリート建造物200は、新設の物であってもよいし、補修対象物であってもよい。コンクリート建造物200としては、コンクリート高架橋(特に梁、柱)、コンクリート桁橋、電架柱、ビル、住宅などが挙げられる。
【0022】
なお、本発明における保護対象としてはセメント硬化体構造物であればよいため、セメント硬化体構造物としては、コンクリート建造物200のほか、樹脂製の芯材を有するコンクリート建造物であってもよいし、芯材を有しないコンクリート構造物であってもよいし、モルタル構造物であってもよい。
【0023】
[1−2.保護シート]
保護シート300は、接着層400を介してコンクリート建造物200を覆う。
保護シート300は樹脂製であり、JIS K7161に準拠した引張弾性率が5.0GPa以下である。これによって、経年に抗い耐疲労性を維持する性質(耐疲労維持性)が良好となる。したがって、経年後に、コンクリート構造物の振動、コンクリート構造物に生じているひび割れの開閉(例えば列車などの車両の通過により生じる振動に起因するもの)、および/またはコンクリート構造物自体の収縮(温度変化に起因するもの)などによって、接着層400を介して保護シート300に繰り返し応力が加わったとしても、接着層400への追随性が良好であるため、疲労による保護シート300の破断を防止することができる。特に、環境負荷としての光ならびに水および/または水蒸気への経年曝露に対し耐疲労性を良好に維持することができる。
【0024】
保護シート300は、単層構造であってもよいし、複層構造であってもよい。保護シート300が上記の引張弾性率を有する限りにおいて、保護シート300を構成する樹脂は特に限定されない。たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0025】
保護シート300の膜厚は、たとえば1μm以上1000μm以下、好ましくは10μm以上500μm以下である。上記下限値以上であることは、コンクリート210の中性化を抑制する効果を得られやすい点で好ましい。上記上限値以下であることは、保護シート300のセメント硬化体構造物(コンクリート建造物200)への良好な接着施工性を得る点で好ましい。
【0026】
保護シート300の、JIS K7197に準拠した線膨張率は、10×10
−5/K以下であることが好ましく、さらに好ましくは5×10
−5/K以下である。上記上限値以下であることにより、保護シート300の割れを防止しやすい。
【0027】
[1−3.接着層]
接着層400は、変成シリコーン樹脂硬化物とエポキシ樹脂硬化物とを含む硬化樹脂で構成され、JIS K6251に準拠した10%伸長時の応力(10%モジュラス)M
10が0.6N/mm
2以下であり、好ましくは0.5N/mm
2以下、より好ましくは0.4N/mm
2以下であってよい。これによって、接着層を介したセメント硬化体構造物への保護シートの接着強度が高くなり、コンクリート保護構造100の耐疲労性が良好となる。したがって接着層400を介して保護シート300に繰り返し応力が加わったとしても、接着層400が応力を効果的に吸収するため、当該繰り返し応力に対し接着層400が良好に追随することができる。さらに、このような接着層400は保護シート300を良好に追随させることができるため、保護シート300のひび割れを防止することができる。
【0028】
接着層400は、80℃雰囲気中で500時間加熱された後における10%伸長時の応力M
10が、1.0N/mm
2以下であってよく、好ましくは0.9N/mm
2以下、より好ましくは0.8N/mm
2以下であってよい。これによって、環境負荷としての温度への経年曝露に対し接着強度および耐疲労性を良好に維持することができる。したがって経年後に接着層400を介して保護シート300に繰り返し応力が加わったとしても、接着層400が依然として応力を効果的に吸収するため、当該繰り返し応力に対し接着層400が良好に追随することができる。さらに、このような接着層400は保護シート300を良好に追随させることができるため、保護シート300のひび割れを防止することができる。なお、この接着強度および耐疲労性の維持性は、環境負荷としての温度、光ならびに水および/または水蒸気への経年曝露に対しても良好に得ることができる。
【0029】
接着層400を構成する変成シリコーン樹脂硬化物とエポキシ樹脂硬化物とを含む硬化樹脂は、変成シリコーン樹脂硬化物とエポキシ樹脂硬化物とのポリマーアロイである。好ましくは、変成シリコーン樹脂硬化物を主成分とし、変成シリコーン樹脂硬化物相中に、エポキシ樹脂硬化物相が分散した海島構造を有する。これによって、接着層400は、エポキシ樹脂硬化物に由来する靭性と変成シリコーン樹脂硬化物に由来する弾性との両方を兼ね備える。
【0030】
接着層400を構成する硬化樹脂は、変成シリコーン樹脂と、エポキシ樹脂と、それぞれの樹脂を硬化させるための硬化剤とを含む接着剤樹脂組成物を硬化させることによって調製される。当該接着剤樹脂組成物は、いわゆる1液型の樹脂組成物であってもよいし、いわゆる2液混合型の樹脂組成物の2液混合物であってもよい。
【0031】
1液型の樹脂組成物である場合は、作業が容易であるとともに作業効率も良好であり、また、硬化に供する接着剤樹脂組成物の均一性が良好である点で硬化不良が起こりにくく、したがって容易に良好な接着性を得ることができる。
2液混合型の樹脂組成物である場合は、セメント硬化体構造物表面における凹凸および/または割れの程度に関わらず接着性が良好であり、さらに、耐候性も良好である点で好ましい。
【0032】
接着剤樹脂組成物が1液型である場合、接着剤樹脂組成物として、変成シリコーン樹脂と、エポキシ樹脂と、シラノール縮合触媒と、エポキシ硬化剤とを含む混合物が挙げられる。
接着剤樹脂組成物が2液混合型の樹脂組成物の2液混合物である場合、第I剤および第II剤としては次のものが挙げられる。第I剤には変成シリコーン樹脂が含まれ、第II剤にはエポキシ樹脂が含まれる。この場合、第I剤にさらにエポキシ硬化剤が含まれ、第II剤にさらにシラノール縮合触媒が含まれる。
【0033】
変成シリコーン樹脂としては特に限定されないが、好ましくは湿気硬化型の変成シリコーン樹脂であり、この場合、加水分解性ケイ素基を有する。加水分解性ケイ素基を有する変成シリコーン樹脂は、ポリエーテル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーおよびアクリル系ポリマーからなる群から選ばれるポリマーを主鎖(加水分解性ケイ素基を除く部分)とする。したがって、主鎖は、アルキレンオキサイド成分、オレフィン成分およびアクリル成分からなる群から選ばれるモノマーの重合体であってよく、この重合体は、単独重合体および共重合体を問わない。共重合体である場合、共重合成分としては、アルキレンオキサイド成分、オレフィン成分、アクリル成分、および他のビニル成分からなる群から選ばれてよい。
【0034】
アルキレンオキサイド成分としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどが挙げられる。主鎖は、硬化後の伸びおよび粘性的な取り扱い易さの観点から、主としてプロピレンオキサイド単位から構成されるポリプロピレンオキサイドが好ましい。
オレフィン成分としては、イソブチレンが挙げられる。
【0035】
アクリル成分としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−3−メチルブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2−[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル2−ヒドロキシエチルフタル酸、2−[(メタ)アクリロイルオキシ]エチル2−ヒドロキシプロピルフタル酸などが挙げられる。なお、アクリル系ポリマーが、他のビニルモノマー成分が共重合されたものである場合、加水分解性ケイ素基を有するビニルモノマー成分を共重合することにより加水分解性ケイ素基を導入することができる。
【0036】
主鎖がアクリル単位を含んでいることは、耐候性が良好となる点で好ましい。さらに、耐候性の観点からは、主鎖中のアクリル単位の含有量は、5重量%以上20重量%以下であることが好ましい。
【0037】
加水分解性ケイ素基としては特に限定されないが、ハロゲン化シリル基、アルケニルオキシシリル基、アシロキシシリル基、アミノシリル基、アミノオキシシリル基、オキシムシリル基、アミドシリル基、アルコキシシリル基などが挙げられる。ここで、加水分解性ケイ素基におけるケイ素原子に結合した加水分解性基の数は1以上3以下が好ましい。また、1つのケイ素原子に結合した加水分解性基は1種であってもよく、複数種であってもよい。更に、加水分解性基と非加水分解性基とが1つのケイ素原子に結合していてもよい。加水分解性ケイ素基としては、安定性に優れ、取り扱いが容易である点で、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基などのアルコキシシリル基が好ましい。
変成シリコーン樹脂は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0038】
加水分解性ケイ素基を有する変成シリコーン樹脂の数平均分子量は、たとえば、1,000以上500,000以下、1,000以上100,000以下、10,000以上30,000以下、4,000以上500,000以下、または4,000以上30,000以下である。上記下限値以上であることは、接着剤樹脂組成物の硬化時間が短い点、または硬化後の接着強度が良好である点で好ましい。上記上限値以下であることは、接着剤樹脂組成物の粘度が適当であり取扱性が良好である点で好ましい。
【0039】
シラノール縮合触媒は、変成シリコーン樹脂組成物を短時間で硬化させるために用いられる。シラノール縮合触媒としては、ポリ(ジアルキルスタノキサン)ジシリケート化合物、モノアルキル錫エステルおよびジアルキル錫エステルなどの錫触媒、有機チタネートなどが挙げられる。
【0040】
モノアルキル錫エステルとしては、例えば、ブチルスズトリス(2−エチルヘキサノエート)などが挙げられ、ジアルキル錫エステルとしては、例えば、ジブチル錫アセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジオレート、ジブチル錫ジメトキシド、ジブチル錫ジフェノキシド、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫アセトアセテート、オクタン酸第一錫などが挙げられる。
有機チタネートとしては、例えば、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシルチタネート)トリエタノールアミンチタネートなどのチタンアルコキシド類、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンエチルアセトアセテート、オクチレングリコレートなどのチタンキレート類などが挙げられる。
シラノール縮合触媒は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0041】
接着剤組成物中のシラノール縮合触媒の含有量は、変成シリコーン樹脂100重量部に対して、0.1重量部以上10重量部以下、好ましくは1重量部以上5重量部以下である。上記下限値以上であることは、硬化時間の短縮の点で好ましい。上記上限値以下であることは接着強度などの物性を担保する点で好ましい。
【0042】
エポキシ樹脂としては特に限定されず、エポキシ基を有する樹脂であればよい。具体的には、不飽和の脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物、および複素環式化合物からなる群から選ばれる化合物にグリシジル基が結合したものが挙げられる。中性化抑制効果の観点からは、芳香族化合物を含むものであることが好ましい。
【0043】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型およびこれらの水添化物などのビスフェノール型エポキシ樹脂;ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂などのエステル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型およびクレゾールノボラック型などのノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂およびこれらの水添化物;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂などのトリスフェノール型の多官能エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート型、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型、テトラグリシジルメタキシレンジアミン型、ヒダントイン型などの含窒素環型多官能エポキシ樹脂;ナフタレン型などの縮環型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;エーテルエステル型エポキシ樹脂;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどの脂環式構造を有するエポキシ樹脂;ウレタン型エポキシ樹脂;ポリブタジエンおよびアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのゴム骨格を有するゴム変成エポキシ樹脂などを用いることができる。
エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
接着剤組成物中のエポキシ樹脂の含有量は、変成シリコーン樹脂100重量部に対し、たとえば1重量部以上100重量部以下、好ましくは2重量部以上80重量部以下である。上記下限値以上であることにより、硬化後の接着層において良好な靭性を得ることができ、上記上限値以下であることにより、硬化後の接着層において良好な弾性を得ることができる。したがって、良好な耐疲労性が得られ、保護シートのひび割れを好ましく抑制することができる。
【0045】
さらに、接着剤組成物中のエポキシ樹脂の含有量は、変成シリコーン樹脂100重量部に対し1重量部以上60重量部以下、好ましくは1重量部以上50重量部以下、より好ましくは1重量部以上40重量部以下、さらに好ましくは1重量部以上30重量部以下、より一層好ましくは1重量部以上20重量部、さらに一層好ましくは1重量部以上10重量部以下、さらに一層好ましくは1重量部以上5重量部以下であってよい。これによって、接着層400と保護シート300との間の良好な接着強度を得ることができるとともに、環境負荷に対する接着層400の物性の経年変化を抑制し、コンクリート保護構造100の耐疲労維持性をより良好に得ることができる。この耐疲労維持性は、環境負荷としての温度、光ならびに水および/または水蒸気への経年曝露に対して(特に、光ならびに水および/または水蒸気への経年曝露に対して)より良好に得ることができる。経年変化が抑制される当該物性としては、応力M
10および接着強度が挙げられる。具体的には、環境負荷としての温度への経年曝露に対し10%伸長時の応力M
10の上昇を抑制しやすい、環境負荷としての光ならびに水および/または水蒸気への経年曝露に対し接着強度の低下を抑制しやすい、などの利点が挙げられる。
【0046】
エポキシ硬化剤としては、たとえばアミン化合物が挙げられる。アミン化合物としては、N,N−ジメチルプロピルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族3級アミン類、N−メチルピペリジン、N,N’−ジメチルピペラジンなどの脂環族3級アミン類、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルフェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの芳香族3級アミン類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン類、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソフォロンジアミン、ノルボルデンジアミンなどの脂環式ジアミン類、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ジアミン類が挙げられる。
上記以外にも、エポキシ硬化剤としては、ポリアミド樹脂;2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;無水フタル酸などのカルボン酸無水物などの化合物が挙げられる。
【0047】
さらに、エポキシ硬化剤としては、活性アミンがブロックされており、水分などの所定の条件下で活性化するケチミンなどの潜在型硬化剤であってもよい。たとえばケチミンは、水分がない状態では安定に存在するが、水分の存在によって一般に一級アミンとなり、エポキシ樹脂と反応する。具体的には、2,5,8-トリアザ-1,8- ノナジエン、2,10- ジメチル-3,6,9- トリアザ-2,9- ウンデカジエン、2,10- ジフェニール-3,6,9- トリアザ-2,9- ウンデカジエン、3,11- ジメチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、3,11- ジエチル-4,7,10-トリアザ-3,10-トリデカジエン、2,4,12,14-テトラメチル-5,8,11-トリアザ-4,11-ペンタデカジエン、2,4,20,22-テトラメチル-5,12,19- トリアザ-4,19-トリエイコサジエン、2,4,15,17-テトラメチル-5,8,11,14- テトラアザ-4,14-オクタデカジエンなどが挙げられる。
エポキシ硬化剤は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0048】
接着剤樹脂組成物中のエポキシ硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対し、たとえば20重量部以上60重量部以下、好ましくは30重量部以上50重量部以下である。あるいは、エポキシ硬化剤として潜在型硬化剤を用いる場合は、活性化により生じる活性アミノ基の総モル数に対する、エポキシ樹脂のエポキシ基の総モル数(エポキシ基の総モル数/活性アミノ基の総モル数)は、たとえば0.8以上1.2以下、好ましくは0.9以上1.1以下である。上記下限値以上であることは、硬化膜の弾性率の観点で好ましく、上記上限値以下であることは、貯蔵安定性の点で好ましい。
【0049】
接着剤樹脂組成物中には、必要に応じて、他の添加剤をさらに含んでいてもよい。他の添加剤としては、脱水剤、エポキシシランカップリング剤、酸化防止剤、充填材、可塑剤、タレ防止剤、紫外線吸収剤、顔料、溶剤、及び香料などが挙げられる。
【0050】
接着層400の層厚は、たとえば100μm以上1000μm以下、好ましくは200μm以上800μm以下である。上記下限値以上であることは、良好な弾性を得る点で好ましく、上記上限値以下であることは、製膜容易性の点で好ましい。
【0051】
[2.セメント硬化体構造物の保護工法]
セメント硬化体構造物の保護工法(コンクリート保護構造100の施工)においては、コンクリート建造物200の表面、コンクリート建造物200の表面と保護シート300の表面との両方、または、保護シート300の表面に、上述の接着剤樹脂組成物の層が設けられる。接着剤樹脂組成物の層を設ける方法としては、塗布法、浸漬法、スプレー法など特に限定されない。塗布法としては、ロール、ヘラ、コテなどを用いた塗布、しごき塗り、刷毛塗り、流し塗りなどの方法が挙げられる。ロールを用いて塗布する場合、ゴム製または金属性のロールを用いることができ、さらに、2本ロールまたは3本ロールの態様で塗布することができる。
【0052】
施工時に用いられる接着剤樹脂組成物としては、上述した接着剤樹脂組成物にさらに水が加えられた、非加熱または加熱されたものが用いられる。加熱される場合、たとえば40度以上80度以下の温度とすることができる。上記下限値以上であることは、短時間で十分な接着力を得る点で好ましい。上記上限値以下であることは、保護シート300の損傷を防ぐ点で好ましい。
【0053】
施工時における接着剤樹脂組成物の粘度は、JIS K6833に準拠し、23℃、50%RHにおける初期粘度が10Pa・S以上1000Pa・S以下(初期粘度とは、BS型粘度計のローター7を使用し、回転数10rpmで測定した粘度)であることが好ましい。上記下限値以上であることは、適度な粘性となり施工性の点で好ましい。上記上限値以下であることは、コンクリート建造物200表面の凹凸への密着性が良好となり、接着性の点で好ましい。
【0054】
その後、コンクリート建造物200の表面と保護シート300とを、接着剤樹脂組成物の層を介して張り合わせ、養生して硬化させることにより接着する。
【0055】
なお、コンクリート建造物200の表面に予め必要に応じて下地調整塗膜を設けておき、下地調整塗膜の上に接着剤樹脂組成物の層が設けられてもよい。下地調整用塗料としては、エチレン酢酸ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、アクリルカチオン系エマルジョンなどが挙げられる。
【実施例】
【0056】
<保護シート>
以下の2種類の保護シートを準備した。
【0057】
ポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルム(以下、PETフィルムとする)として、東レ株式会社製のX10Sを用意した。このPETフィルムの引張弾性率(JIS K7161に準拠、以下において同様)は4.7GPaであり、膜厚は125μmであった。
【0058】
また、ポリエチレンナフタレート(PEN)製のフィルム(以下、PENフィルムとする)として、帝人デュポンフィルム株式会社製のテオネックスを用意した。このPENフィルムの引張弾性率は6.2GPaであり、膜厚は125μmであった。
【0059】
<接着剤樹脂組成物>
以下の3種類の接着剤樹脂組成物を準備した。
【0060】
変成シリコーン樹脂と、エポキシ樹脂と、シラノール縮合触媒と、エポキシ硬化剤とを含む1液型変成シリコーン−エポキシ系接着剤を用意した。この接着剤樹脂組成物において、変成シリコーン樹脂100重量部に対するエポキシ樹脂の混合量は3重量部であった。
この接着剤樹脂組成物を、2mmの厚みのシート状にし、十分に硬化させた。硬化後における10%伸長時の応力M
10は0.3N/mm
2であった。さらに、硬化されたシートを80℃に保持した加熱炉に500時間静置した後に応力M
10を測定したところ、0.4N/mm
2であった。
【0061】
変成シリコーン樹脂とエポキシ硬化剤とを含む第I剤と、エポキシ樹脂とシラノール縮合触媒とを含む第II剤と、を混合し、2液型変成シリコーン−エポキシ系接着剤樹脂組成物を調製した。この接着剤樹脂組成物において、変成シリコーン樹脂100重量部に対するエポキシ樹脂の混合量は70重量部であった。
この接着剤樹脂組成物を、2mmの厚みのシート状にし、十分に硬化させた。硬化後における10%伸長時の応力M
10(JIS K6251に準拠、以下において同様)は0.3N/mm
2であった。さらに、硬化されたシートを80℃に保持した加熱炉に500時間静置した後に応力M
10を測定したところ、0.7N/mm
2であった。
【0062】
変成シリコーン不含エポキシ系接着剤樹脂組成物として、エスダイン#3450(積水化学工業(株)製)を用いた。この接着剤樹脂組成物を、2mmの厚みのシート状にし、十分に硬化させた。硬化後における10%伸長時の応力M
10は2.3N/mm
2であった。さらに、硬化されたシートを80℃に保持した加熱炉に500時間静置した後に応力M
10を測定したところ、2.4N/mm
2であった。
【0063】
<コンクリート構造物の保護構造の作製と評価>
<A.平面接着性試験>
保護シートを70mm×70mmの大きさに切り出した。70mm×70mm×20mmのコンクリート基板に対し、接着剤樹脂組成物を0.5Kg/m
2となるよう塗布し、接着剤樹脂組成物の塗膜の上に保護シートを貼り付け、28日間養生した。
平面接着性試験は、JSCE−K531−1999「表面保護材の付着強さ試験法」に準じて行った。平面接着性試験は、促進耐候性試験後の前(初期)および後(耐候後)において行った。促進耐候性試験は、JIS−K−5600−7−7に準じて行った。具体的には、光源としてキセノンアークランプを用いた促進試験装置内で、水及び水蒸気の作用を含めた促進耐候性試験によって保護構造を暴露した。試験時間は700時間とした。
平面接着性試験後、破断面を観察し、破壊部位を記録した。
【0064】
<B.促進耐候後耐疲労性試験>
保護シートを150mm×50mmの大きさに切り出した。
図2に示すように、一対のコンクリート製の基板211,212を、0.2mmの隙間Iをおいて配置した。基板211,212の表面に、接着剤樹脂組成物を、後に保護シートを貼る領域全体にヘラを用いて0.5Kg/m
2の塗布量となるように塗布し、接着剤樹脂組成物の塗膜の上に隙間Iにまたがるように保護シートを貼り付け、28日間養生した。
作製した保護構造に対し、促進耐候性試験を行った。促進耐候性試験は、上述と同様にJIS−K−5600−7−7に準じて行い、試験時間は700時間とした。
保護構造の耐疲労性は、JIS A1436−2006「建築用被覆材料の下地不連続部における耐疲労性試験方法」に準じて評価した。具体的には、一方の基板211を固定し、他方の基板212を、
図2に示す矢印方向に沿って、振幅0.04mm、周期0.1secで往復移動させた。具体的には、20℃、60℃、および−10℃の順に、それぞれの温度条件下において600万回、合計で1800万回往復移動を行った。その後、保護シートの表面を目視により観察し、変状を調べた。
【0065】
<実施例1>
保護シートとしてPETフィルム、接着剤樹脂組成物として1液型変成シリコーン−エポキシ系接着剤を用いて保護構造を作製し、上述の平面接着性試験および促進耐候後耐疲労性試験により評価を行った。
【0066】
<実施例2>
接着剤樹脂組成物として2液型変成シリコーン−エポキシ系接着剤樹脂組成物を用いたことを除いて、実施例1と同様にコンクリート構造物の保護構造を作製し、評価を行った。
【0067】
<比較例1>
接着剤樹脂組成物として変成シリコーン不含エポキシ系接着剤(エスダイン#3450(積水化学工業(株)製))を用いたことを除いて、実施例1と同様にコンクリート構造物の保護構造を作製し、評価を行った。
【0068】
<比較例2>
保護シートとしてPENフィルムを用いたことを除いて実施例1と同様にコンクリート構造物の保護構造を作製し、評価を行った。
【0069】
<比較例3>
保護シートとしてPENフィルムを用い、接着剤樹脂組成物としてとして2液型変成シリコーン−エポキシ系接着剤を用いたことを除いて実施例1と同様にコンクリート構造物保護構造を作製し、評価を行った。
【0070】
<結果>
実施例1および実施例2ならびに比較例1から比較例3の概要および評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
実施例1の保護構造では、加熱後の10%伸長時の応力M
10が非常に良好に維持され、促進対候性試験前において保護シートが非常に優れた平面接着性を有し、かつ、促進耐候性試験後においても保護シートと接着層との間で非常に優れた平面接着性を維持しており、耐疲労性試験後においても破断および白化のいずれも認められず非常に良好な状態であった。
実施例2の保護構造では、加熱後の10%伸長時の応力M
10が良好に維持され、促進対候性試験前において保護シートが優れた平面接着性を有し、かつ、促進耐候性試験後においても保護シートが優れた平面接着性を保持しており、耐疲労性試験後において若干の白化が確認されたもののシート破断はなく良好な状態であった。
【0073】
一方、比較例1については、初期および加熱後ともに10%伸長時の応力M
10が大きく、促進耐候性試験の前後ともに保護シートの平面接着性が低く、耐疲労性試験後において接着層および保護シートの両方で破断が認められた。
比較例2については、初期および加熱後の10%伸長時の応力M
10および促進対候性試験前後の保護シートの平面接着性は実施例1と同様であったものの、耐疲労性試験後においてシートの破断が認められた。
比較例3については、初期および加熱後の10%伸長時の応力M
10および促進対候性試験前後の保護シートの平面接着性は実施例2と同様であったものの、耐疲労性試験後においてシートの破断が認められた。
【0074】
本発明の好ましい実施形態は上記の通りであるが、本発明はそれらのみに限定されるものではなく、本発明の趣旨と範囲とから逸脱することのない様々な実施形態が他になされる。さらに、本実施形態において述べられる作用および効果は一例であり、本発明を限定するものではない。
【0075】
本明細書において、コンクリート保護構造100は請求項における「セメント硬化体構造物の保護構造」に相当し、コンクリート建造物200は「セメント硬化体構造物」に相当し、保護シート300が「保護シート」に相当し、接着層400が「接着層」に相当する。