(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6859120
(24)【登録日】2021年3月29日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】積層体の製法及び焼結体の製法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/129 20170101AFI20210405BHJP
B29C 64/364 20170101ALI20210405BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20210405BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20210405BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20210405BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20210405BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
B29C64/129
B29C64/364
B33Y10/00
B33Y80/00
B28B1/30
B22F3/105
B22F3/16
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-16722(P2017-16722)
(22)【出願日】2017年2月1日
(65)【公開番号】特開2018-122524(P2018-122524A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年12月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/革新的設計生産技術 高付加価値セラミックス造形技術の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 遼
(72)【発明者】
【氏名】今枝 美能留
【審査官】
関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−172429(JP,A)
【文献】
特開2015−196267(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/151614(WO,A1)
【文献】
国際公開第2017/018525(WO,A1)
【文献】
特開平10−249943(JP,A)
【文献】
特開平08−034096(JP,A)
【文献】
特開2005−067998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
B33Y 10/00、80/00
B22F 3/16
B28B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末及びセラミック粉末の少なくとも一方であるフィラーと光重合性化合物と光重合開始剤とを含む光硬化性液状組成物を用いてリコート層を形成したあと、前記リコート層に光を照射することにより光が照射されなかった部分は硬化されず光が照射された部分は硬化された処理済層を形成するという一連の操作を、前記処理済層が所定数積層されるまで繰り返し行い、その後前記所定数積層された前記処理済層のうち硬化した部分のみからなる立体形状の積層体を取り出す、積層体の製法であって、
前記光硬化性液状組成物は、前記リコート層を形成する際の粘度ηが55000cP≦η≦100000cPとなるように温度調整されると共に、前記リコート層に光を照射する際の粘度ηが130000cP≦ηとなるように温度調整される、
積層体の製法。
【請求項2】
前記光硬化性液状組成物を温度調整する際、前記光硬化性液状組成物が熱硬化しない温度範囲で前記光硬化性液状組成物を温度調整する、
請求項1に記載の積層体の製法。
【請求項3】
前記熱硬化しない温度範囲は35℃以上60℃以下である、
請求項2に記載の積層体の製法。
【請求項4】
前記光硬化性液状組成物は、前記リコート層を形成する際の粘度ηが55000cP≦η≦100000cPとなるように35〜45℃の範囲で温度調整されると共に、前記リコート層に光を照射する際の粘度ηが130000cP≦ηとなるように20〜30℃の範囲で温度調整される、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体の製法。
【請求項5】
前記光硬化性液状組成物は、前記フィラーの含有率が49体積%以上58体積%以下である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層体の製法。
【請求項6】
各リコート層の目標厚みは、100μm以上400μm以下の範囲に設定されている、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体の製法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層体の製法によって得られた前記積層体を焼成することにより、前記積層体を構成する各層は有機成分が燃焼して焼失し前記フィラーが焼結した焼結層となり、前記焼結層が前記所定数積層した立体形状の焼結体を得る、
焼結体の製法。
【請求項8】
前記光硬化性液状組成物は、前記リコート層を形成する際の粘度ηが60000cP≦η≦100000cPとなるように温度調整されると共に、前記リコート層に光を照射する際の粘度ηが150000cP≦ηとなるように温度調整される、
請求項7に記載の焼結体の製法。
【請求項9】
各焼結層の目標厚みは、100μm以上350μm以下の範囲に設定されている、
請求項7又は8に記載の焼結体の製法。
【請求項10】
各焼結層の目標厚みは、すべて同じ値に設定されており、
前記焼結体は、各焼結層の実際の厚みの最小値をTmin、最大値をTmaxとしたときにTmax/Tmin≦1.15を満たす、
請求項7〜9のいずれか1項に記載の焼結体の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製法、焼結体の製法及び焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光学的に立体形状物を造形する方法が知られている。例えば、特許文献1には、セラミックス粉末と光硬化性樹脂とを含むスラリーのリコート層を形成し、そのリコート層に光を照射することにより光が照射された部分のみ硬化された処理済層を形成する操作を、処理済層が所定数積層されるまで繰り返し行うことにより積層体(立体造形物)を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−67998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リコート層の形状を保持させようとしてスラリーの粘度を高くすると、リコート層を形成した際に部分的にかすれることがあった。また、スラリーの粘度が低すぎると、リコート層を形成した際に自重で広がってしまいリコート層の形状を保持することができないという問題があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、リコート層のカスレを防止すると共にリコート層の形状を保持することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層体の製法は、
金属粉末及びセラミック粉末の少なくとも一方であるフィラーと光重合性化合物と光重合開始剤とを含む光硬化性液状組成物を用いてリコート層を形成したあと、前記リコート層に光を照射することにより光が照射されなかった部分は硬化されず光が照射された部分は硬化された処理済層を形成するという一連の操作を、前記処理済層が所定数積層されるまで繰り返し行い、その後前記所定数積層された前記処理済層のうち硬化した部分のみからなる立体形状の積層体を取り出す、積層体の製法であって、
前記光硬化性液状組成物は、前記リコート層を形成する際の粘度ηが55000cP≦η≦100000cPとなるように温度調整されると共に、前記リコート層に光を照射する際の粘度ηが130000cP≦ηとなるように温度調整される、
ものである。
【0007】
この積層体の製法では、光硬化性液状組成物の温度を調整することによって、リコート層を形成する際にカスレなどが生じない粘度に調整したり、リコート層に光を照射する際に形状が保持されるような粘度に調整したりする。その結果、リコート層を形成する際のカスレを防止すると共に、リコート層に光を照射する際のリコート層の形状を保持することができる。
【0008】
本発明の焼結体の製法は、
上述した積層体の製法によって得られた前記積層体を焼成することにより、前記積層体を構成する各層は有機成分が燃焼して焼失し前記フィラーが焼結した焼結層となり、前記焼結層が前記所定数積層した立体形状の焼結体を得る、
ものである。
【0009】
この焼結体の製法によれば、上述した積層体の製法によって得られた積層体を焼成することにより焼結体を得る。そのため、得られる焼結体の各焼結層の厚みは目標厚みによく一致したものとなる。
【0010】
本発明の焼結体は、
フィラーが焼結した焼結層が所定数積層された構造を有する焼結体であって、
各焼結層の厚みの最小値をTmin、最大値をTmaxとしたときにTmax/Tmin≦1.15を満たす
ものである。
【0011】
この焼結体は、例えば上述した焼結体の製法によって好適に得られるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好適な実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態の積層体の製法は、金属粉末及びセラミック粉末の少なくとも一方であるフィラーと光重合性化合物と光重合開始剤とを含む光硬化性液状組成物を用いてリコート層を形成したあと、そのリコート層に光を照射することにより光が照射されなかった部分は硬化されず光が照射された部分は硬化された処理済層を形成するという一連の操作を、処理済層が所定数積層されるまで繰り返し行い、その後所定数積層された処理済層のうち硬化した部分のみからなる立体形状の積層体を取り出す方法である。
【0015】
フィラーは、金属粉末及びセラミック粉末の少なくとも一方である。金属粉末としては、マルエージング鋼、ステンレス鋼、チタンなどが挙げられる。セラミック粉末としては、照射波長の光を実質的に吸収しない材質のものが好ましい。このようなセラミック粉末としては、例えば、アルミナ、ジルコニア及びシリカ等の酸化物、炭化ジルコニウム及び炭化ケイ素等の炭化物、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素等の窒化物のほか、これらの混合物などが挙げられる。
【0016】
光重合性化合物としては、光ラジカル重合性化合物や光カチオン重合性化合物などが挙げられる。
【0017】
光ラジカル重合性化合物としては、例えば、重合性不飽和基を1個有する単量体、重合性不飽和基を2個有する単量体、重合性不飽和基を3個以上有する単量体などが挙げられ、これら単量体のうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このうち、重合性不飽和基を1個有する単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルフタレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、重合性不飽和基を2個有する単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。更に、重合性不飽和基を3個以上有する単量体としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリロイルオキシエトキシトリメチロールプロパン、グリセリンポリグリシジルエーテルポリ(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる
【0018】
光カチオン重合性化合物としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエーテル樹脂などが挙げられる。
【0019】
光重合開始剤としては、光ラジカル重合性化合物と共に用いる光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合性化合物と共に用いる光カチオン重合開始剤などが挙げられる。
【0020】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、光等のエネルギー線を受けることにより分解し、発生するラジカルによって、ラジカル重合反応を開始させる化合物などが挙げられる。光等のエネルギー線とは可視光、紫外光、赤外光、X線、α線、β線、γ線等を意味する。このような光ラジカル重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、アントラキノン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、カルバゾール、キサントン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,1−ジメトキシデオキシベンゾイン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサントン系化合物、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−2−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、トリフェニルアミン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、フルオレノン、フルオレン、ベンズアルデヒド、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾフェノン、3−メチルアセトフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン(BTTB)、及びBTTBとキサンテン、チオキサンテン、クマリン、ケトクマリンその他の色素増感剤との組み合わせ等が挙げられる。これらは単独又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、ジフェニルヨードニウム塩などが挙げられる。
【0022】
本実施形態の積層体の製法では、光硬化性液状組成物を用いて積層体を製造する。
図1は光造形装置10の説明図である。まず、光硬化性液状組成物をディスペンサ14を用いてステージ12上又は処理済層20上に所定方向(X方向)に沿って吐出させる。次に、吐出された液状組成物をX方向と交差する方向(例えばX方向と直交するY方向)にスキージ16で引き延ばしてリコート層18を形成する。このとき、リコート層18の厚みが目標厚みになるようにスキージ16で引き延ばす。続いて、図示しないフォトマスクを介してリコート層18にレーザ光を照射する。すると、リコート層18のうちレーザ光が照射されなかった部分は硬化されずレーザ光が照射された部分は硬化される。このようにレーザ光が照射された後のリコート層を処理済層と称する。なお、レーザ光の波長、直径及び出力は、光硬化性液状組成物の特性に応じて適宜設定すればよい。
図1ではステージ12上の複数の層のうち最表層はレーザ光照射前のリコート層18であり、残りの層は処理済層20である。このようにリコート層18を形成しそのリコート層18にレーザ光を照射して処理済層20とする操作を、処理済層20が所定数積層されるまで繰り返し行う。その後、処理済層20のうち未硬化部分を除去することにより、立体形状の積層体を取り出す。未硬化部分の除去は、例えば硬化部分を溶解せず未硬化部分を溶解する有機溶剤で処理するか、エアで未硬化部分のみを吹き飛ばすことにより行う。
【0023】
光硬化性液状組成物は、リコート層を形成する際の粘度ηが55000cP≦η≦100000cPとなるように温度調整されると共に、リコート層に光を照射する際の粘度ηが130000cP≦ηとなるように温度調整される。こうすることにより、リコート層を形成する際のカスレを防止すると共に、リコート層に光を照射する際のリコート層の形状を保持することができる。つまりリコート性と保形性の両方を確保することができる。光硬化性液状組成物を温度調整する際、光硬化性液状組成物が熱硬化しない温度範囲で光硬化性液状組成物を温度調整するのが好ましい。光硬化性液状組成物の熱硬化が進行すると粘度が高くなりすぎるおそれがあるからである。ここで、光硬化性液状組成物が熱硬化しない温度範囲とは、光硬化性液状組成物をある温度に維持して5時間放置したときの放置前と放置後とで実質的な粘度上昇がみられない温度範囲をいう。こうした温度範囲は、光硬化性液状組成物の成分や組成等に依存して決まる温度であるが、35℃以上60℃以下が好ましい。35℃未満であると熱硬化しないとしても粘度が高くなりすぎてリコート性を確保できなくなるおそれがあるため好ましくなく、60℃を超えると熱硬化しないとしても粘度が低くなりすぎて保形性が確保できなくなるおそれがあるため好ましくない。光硬化性液状組成物は、リコート層を形成する際の粘度ηが55000cP≦η≦100000cPとなるように35〜45℃の範囲で温度調整されると共に、リコート層に光を照射する際の粘度ηが130000cP≦ηとなるように20〜30℃の範囲で温度調整されるようにしてもよい。リコート層の目標厚みは、100μm以上400μm以下が好ましい。目標厚みが100μm未満だと、未コート部やカスレ等が発生しやすくなったり同じ積層体を製造するのに積層数が多くなりすぎて生産性が低下したりするため、好ましくない。目標厚みが400μmを超えると、リコート層を形成してから光を照射するまでの間に形状が十分保持できないおそれがあったり光が到達せず層深部が硬化しないおそれがあるため、好ましくない。
【0024】
光硬化性液状組成物のフィラーの含有率は、特に限定するものではないが、49体積%以上58体積%以下であることが好ましい。フィラーの含有率が49体積%を下回ると、粘度が低くなりすぎて保形性が確保できなくなるおそれがあるため、好ましくない。フィラーの含有率が58体積%を上回ると、加温しても流動性が十分確保できずリコート性が悪化するおそれがあるため、好ましくない。
【0025】
本実施形態の積層体の製法によって得られた積層体は、そのまま利用してもよい。この積層体には樹脂にフィラーが含まれているため、樹脂のみからなる立体形状物に比べて機械的強度が高い等の利点がある。
【0026】
本実施形態の積層体の製法によって得られた積層体を焼成することにより、焼結体を得るようにしてもよい。具体的には、こうした焼結体の製法では、上述した積層体の製法によって得られた積層体を焼成することにより、積層体を構成する各層は有機成分が燃焼して焼失しフィラーが焼結した焼結層となり、こうした焼結層が所定数積層した立体形状の焼結体が得られる。この焼結体は、上述した積層体の製法によって得られた積層体を焼成するため、各焼結層の厚みは目標厚みによく一致したものとなる。ここで、光硬化性液状組成物は、リコート層を形成する際の粘度ηが60000cP≦η≦100000cPとなるように温度調整されると共に、リコート層に光を照射する際の粘度ηが150000cP≦ηとなるように温度調整されることが好ましい。こうすれば、焼結体を構成する各焼結層の厚みは目標厚みに一層よく一致したものとなる。この焼結体の製法では、焼成を行う前に、積層体を大気脱脂炉を用いて脱脂してもよい。脱脂は、例えば500〜700℃で数時間行うようにしてもよい。焼成温度や焼成時間は、フィラーの成分や組成によって適宜設定すればよい。焼成雰囲気は、有機成分を燃焼させるため、通常は大気雰囲気で行う。積層体を焼成するとき、各焼結層の目標厚みは100μm以上350μm以下に設定するのが好ましい。その場合、リコート層の目標厚みは115μm以上400μm以下に設定するのが好ましい。各焼結層の厚みの目標値はすべて同じ値に設定され、焼結体は各焼結層の実際の厚みの最小値をTmin、最大値をTmaxとしたときにTmax/Tmin≦1.15(特にTmax/Tmin≦1.10)を満たすことが好ましい。
【0027】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0028】
本発明の好適な実施例について、以下に説明する。なお、以下の実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0029】
1.スラリーの調製
スラリー#1は、フィラーとしての平均粒径40μmのアルミナ粉末130gに、ラジカル重合性化合物及びラジカル重合開始剤からなる混合液(JSR製JL−2129)を30g投入し、自公転攪拌機(写真化学製カクハンターSK−350T)にて15分処理することにより調製した。このスラリー#1の粘度を25℃及び35℃のそれぞれで粘弾性レオメーター(アントンパール製)を用いて測定した。また、スラリー#2〜#8は、アルミナ粉末の使用量と混合液の使用量を表1に示す値に設定した以外は、スラリー#1と同様にして調製し、粘度を測定した。スラリー#4については、45℃の粘度も測定した。また、各スラリーのフィラー含有率も求めた。フィラー含有率は、スラリー#6では49体積%未満であったが、その他のスラリーでは49体積%以上58体積%以下であった。それらの結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
2.リコート性の評価(実験例1A−10A)
実験例1Aでは、予め定めた温度で、スラリー#1を平坦な板状にブレードで150mm四方の範囲に厚みTrが150μmとなるように引き延ばしてリコート層を1層形成した後、そのリコート層に未コート部やカスレがあるか否かを目視で判断した。そうしたところ、25℃(粘度220000cP)では未コート部やカスレが発生したため、リコート性は不良(×)と判断した。一方、35℃(粘度95000cP)では未コート部やカスレが発生しなかったため、リコート性は良好(○)と判断した。また、35℃でリコート層を形成した後、放冷して室温(25℃)に戻したときの厚みを測定し、リコート層の形成直後の厚みに対する放冷後の厚みの割合を保形率として算出した。そうしたところ、保形率は100%であった。なお、室温(25℃)はリコート層への光照射を行う際の温度である。
【0032】
実験例2A〜10Aでは、使用したスラリー、リコート層の厚み及びリコート層形成時の温度を表2に示すように設定して、リコート性及び保形率を評価した。実験例6A,10Aでは、スラリー#4,#8をそれぞれ用いて45℃でリコート層を形成した後、放冷して室温(25℃)に戻したときの厚みを測定し、保形率を算出した。それらの結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
表2から明らかなように、実験例1A〜7A、9A、10Aでは、保形率が90%以上だったのに対して、実験例8Aでは、保形率が85%だった。そのため、高い保形率を得るには、実験例1A〜7A、9A、10Aのように、リコート層を形成する際のスラリーの粘度ηが55000cP≦η≦100000cPとなるように、また、リコート層への光照射を行う際の粘度ηが130000cP≦ηとなるように、スラリーの温度を調整すればよいことがわかった。具体的には、リコート層を形成する際のスラリーの温度を35℃以上45℃以下の範囲になるように調整し、リコート層への光照射を行う際のスラリーの温度を室温(25℃)に調整すればよいことがわかった。また、リコート層の目標厚みは100μm以上400μm以下に設定するのが好ましいことがわかった。なお、スラリーを45℃に維持して5時間放置した場合、放置前と放置後とで実質的なスラリー粘度の上昇が見られなかったことから、45℃以下ではスラリーは熱硬化しないと判断した。
【0035】
3.積層体及び焼結体の作成(実験例1B−10B)
実験例1Bでは、光造形装置(写真化学製SZ−2500C)を用いて積層体を作製した。まず、35℃に加温したスラリー#1を、光造形装置のステージ上にディスペンサを用いてX方向に沿って吐出させ、吐出されたスラリー#1をY方向にスキージで引き延ばしてリコート層を形成した。リコート層は、150mm四方の範囲に所定厚み(目標値Tr)になるように形成した。目標値Trは最終的に得られる焼結体の焼結層厚みの目標値Toに基づいて、焼結時の収縮等を考慮して決定した。実験例1Bでは、Toを150μm、Trを165μmとした。続いて、リコート層を室温(25℃)まで放冷した後、図示しないフォトマスクを介してリコート層にレーザ光を照射した。これにより、リコート層のうちレーザ光が照射されなかった部分は硬化されずレーザ光が照射された部分は硬化された。すなわち、リコート層は処理済層になった。ここでは、レーザ光の波長を355nm、直径を100μm、出力を200Wとし、100mm四方の範囲を硬化させた。このようにリコート層を形成しそのリコート層にレーザ光を照射して処理済層とする操作を、処理済層が50層積層されるまで繰り返し行った。その後、処理済層のうち未硬化部分をエアーで除去したあと、残った未硬化部分をエタノールによって溶解させて除去し、立体造形物である積層体を得た。得られた積層体を大気脱脂炉にて600℃で2時間脱脂し、その後、大気焼成炉にて1600℃で2時間焼成した。これにより、積層体を構成する各層は有機成分が燃焼して焼失しアルミナ粉末が焼結した焼結層となり、こうした焼結層が50層積層した立体形状の焼結体を得た。得られた焼結体の断面をSEMで観察し、各焼結層の厚みを計測した。各焼結層の厚みの最小値をTmin、最大値をTmaxとし、Tmax/Tminを算出した。実験例1BではTmax/Tminは1.05であった。
【0036】
実験例2B〜10Bでは、使用したスラリー、焼結層の目標厚みTo及びリコート層の目標厚みTrを表3に示すように設定して焼結体を作製し、その焼結体のTmax/Tminを測定した。実験例2B〜10Bでは、リコート層形成時のスラリー温度を35℃(但し実験例6B、10Bでは45℃)、レーザ光照射時のスラリー温度を室温(25℃)に設定した。それらの結果を表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3から明らかなように、実験例1B〜7B、9B、10Bでは、Tmax/Tminが1.15以下であり各焼結層の厚みの均一性に優れていたのに対して、実験例8Bでは、Tmax/Tminが1.15を超えていた。また、実験例1B〜7B、10Bでは、Tmax/Tminが1.10以下であり各焼結層の厚みの均一性が一層向上した。このように各焼結層の厚みの均一性を一層向上させるには、積層体を作成するにあたり、リコート層を形成する際のスラリーの粘度ηが60000cP≦η≦100000cPとなるように、また、リコート層への光照射を行う際の粘度ηが150000cP≦ηとなるように、スラリーの温度を調整すればよいことがわかった。また、焼結層の目標厚みToを100μm以上350μm以下に設定し、これに見合うようにリコート層の目標厚みTrを115μm以上400μm以下に設定するのが好ましいことがわかった。
【0039】
なお、実験例1A〜7A、9A、10Aは、本発明の積層体の製法の実施例に相当し、実験例1B〜7B、9B、10Bは、本発明の焼結体の製法の実施例及び本発明の焼結体の実施例に相当する。
【符号の説明】
【0040】
10 光造形装置、12 ステージ、14 ディスペンサ、16 スキージ、18 リコート層、20 処理済層。