(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施の形態に即して説明する。
【0011】
本発明者らは、基材上に、少なくとも光電変換層と透明電極とを有し、光電変換層が有機無機ペロブスカイト化合物を含む太陽電池について検討してきた。しかしながら、生産性の向上のためには太陽電池の大型化又は大面積化が求められるところ、太陽電池の面積を大きくしようとすると、抵抗(電気抵抗)の高い透明電極の面積も大きくなり、充分な光電変換効率が得られないという問題が生じた。
【0012】
本発明者らは、透明電極上に、例えば銀ペースト等を用いて形成される線状(複数本の線状)、格子状、網目状等の引出し配線を設けることにより、透明電極の面積が大きくなったとしても高い光電変換効率が得られることを見出した。
ここで、有機無機ペロブスカイト化合物は水分に非常に弱いため、光電変換層が有機無機ペロブスカイト化合物を含む太陽電池では、他の太陽電池(例えば、CIGS太陽電池等)と比べて大気中の水分の浸入による光電変換層の劣化が問題となりやすい。そして、上記のような引出し配線は水分が透過しやすいことから、大気中の水分の浸入を抑制するためには、引出し配線を覆って封止するバリア層を設けることが望まれる。
しかしながら、引出し配線は、電流の取出しのためにその端部(取出し部)がバリア層に覆われず露出している必要がある。
図1は、引出し配線の端部(取出し部)がバリア層に覆われず露出している太陽電池の一例を模式的に示す上面図(
図1(a))及び断面図(
図1(b))である。
図1においては、基材1上に、光電変換層3と透明電極4とが設けられており、透明電極4上に引出し配線5が設けられており、引出し配線5を覆って封止するバリア層7が設けられている。ただし、引出し配線5の端部(取出し部)51は、バリア層7に覆われず露出している。このような太陽電池では、バリア層に覆われていない引出し配線の端部(取出し部)から大気中の水分が浸入し、引出し配線を透過して光電変換層を劣化させるという問題が生じていた。
【0013】
上記問題に対して、本発明者らは、引出し配線と電流の取出し部とを分離した構造とすることにより、引出し配線の全体を覆って封止するバリア層を設けることが可能となることを見出した。即ち、本発明者らは、引出し配線の全体を覆って封止するバリア層を設けるとともに、バリア層の外側に別途取出し電極を設けることにより、引出し配線からの大気中の水分の浸入を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
本発明の太陽電池は、基材上に、少なくとも光電変換層と透明電極とを有する。
なお、本明細書中、「層」とは、明確な境界を有する層だけではなく、含有元素が徐々に変化する濃度勾配のある層をも意味する。なお、層の元素分析は、例えば、太陽電池の断面のFE−TEM/EDS線分析測定を行い、特定元素の元素分布を確認する等によって行うことができる。また、本明細書中、層とは、平坦な薄膜状の層だけではなく、他の層と一緒になって複雑に入り組んだ構造を形成しうる層をも意味する。
【0015】
上記基材は特に限定されないが、フレキシブル基材が好ましく、例えば、ポリイミド、ポリエステル系の耐熱性高分子や金属箔を有する基材が挙げられる。なかでも、金属箔を有することが好ましい。
上記金属箔を用いることにより、耐熱性高分子を用いる場合と比べてコストを抑えられるとともに、高温処理を行うことができる。即ち、有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層形成時において耐光性(光劣化に対する耐性)を付与する目的で80℃以上の温度で熱アニール(加熱処理)を行っても、歪みの発生を最小限に抑えて、高い光電変換効率を得ることができる。
【0016】
上記金属箔は特に限定されず、例えば、アルミニウム、チタン、銅、金等の金属や、ステンレス鋼(SUS)等の合金からなる金属箔が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、アルミニウム箔が好ましい。上記アルミニウム箔を用いることにより、他の金属箔を用いる場合と比べてもコストを抑えられ、また、柔軟性があることから作業性を向上できる。
【0017】
上記基材は、上記金属箔のみからなるものであってもよい。この場合、上記金属箔は、電極としての役割も果たしてもよい。
また、上記基材は、更に、上記金属箔上に形成された絶縁層を有していてもよい。この場合、本発明の太陽電池は、更に、上記絶縁層上に形成された電極を有することが好ましい。
【0018】
上記絶縁層は特に限定されず、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛等からなる無機絶縁層、エポキシ樹脂、ポリイミド等からなる有機絶縁層が挙げられる。なかでも、上記金属箔がアルミニウム箔である場合には、上記絶縁層が酸化アルミニウム被膜であることが好ましい。
上記絶縁層として上記酸化アルミニウム被膜を用いることにより、有機絶縁層の場合と比べて、大気中の水分が絶縁層を透過して有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層を劣化させることを抑制することができる。また、上記絶縁層として上記酸化アルミニウム被膜を用いることにより、上記アルミニウム箔と接することで時間の経過とともに有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層に変色が生じ、腐食が起きるという現象を抑制することができる。
なお、一般的な他の太陽電池では光電変換層がアルミニウムと反応して変色が生じること等は報告されておらず、上記のような腐食が起きるという現象は、光電変換層が有機無機ペロブスカイト化合物を含むペロブスカイト太陽電池に特有の問題として本発明者らが見出したものである。
【0019】
上記酸化アルミニウム被膜の厚みは特に限定されないが、好ましい下限が0.1μm、好ましい上限が20μmであり、より好ましい下限が0.5μm、より好ましい上限が10μmである。上記酸化アルミニウム被膜の厚みが0.5μm以上であれば、上記酸化アルミニウム被膜が上記アルミニウム箔の表面を充分に覆うことができ、上記アルミニウム箔と電極との間の絶縁性が安定する。上記酸化アルミニウム被膜の厚みが10μm以下であれば、上記基材を湾曲させても上記酸化アルミニウム被膜にクラックが生じにくい。
上記酸化アルミニウム被膜の厚みは、例えば、上記基材の断面を電子顕微鏡(例えば、S−4800、HITACHI社製等)で観察し、得られた写真のコントラストを解析することにより測定することができる。
【0020】
上記酸化アルミニウム被膜の厚みの比率は特に限定されないが、上記基材の厚み100%に対する好ましい下限が0.1%、好ましい上限が15%である。上記比率が0.1%以上であれば、上記酸化アルミニウム被膜の硬度が上がり、上記電極をパターニングする際に上記酸化アルミニウム被膜の剥離を抑制しつつパターニングを良好に行うことができ、絶縁不良及び導通不良の発生を抑制することができる。上記比率が15%以下であれば、有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層形成時に加熱処理を行う際に、上記アルミニウム箔との熱膨張係数の差によって上記酸化アルミニウム被膜及び/又はその上に形成された上記電極にクラックが生じることを抑制することができる。これにより、太陽電池の抵抗値が上昇してしまったり、上記アルミニウム箔が露出して有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層に腐食が起きたりすることを抑制することができる。上記比率のより好ましい下限は0.5%、より好ましい上限は5%である。
【0021】
上記酸化アルミニウム被膜を製膜する方法は特に限定されず、例えば、上記アルミニウム箔に陽極酸化を施す方法、上記アルミニウム箔の表面にアルミニウムのアルコキシド等を塗布する方法、上記アルミニウム箔の表面に熱処理による自然酸化被膜を形成する方法等が挙げられる。なかでも、上記アルミニウム箔の表面全体を均一に酸化させることができることから、上記アルミニウム箔に陽極酸化を施す方法が好ましい。即ち、上記酸化アルミニウム被膜は、陽極酸化被膜であることが好ましい。
上記アルミニウム箔に陽極酸化を施す場合には、陽極酸化における処理濃度、処理温度、電流密度、処理時間等を変更することにより、上記酸化アルミニウム被膜の厚みを調整することができる。上記処理時間は特に限定されないが、上記基材の作製の容易さの観点から、好ましい下限は5分、好ましい上限は120分であり、より好ましい上限は60分である。
【0022】
上記基材の厚みは特に限定されないが、好ましい下限が5μm、好ましい上限が500μmである。上記基材の厚みが5μm以上であれば、充分な機械的強度を持つ、取扱い性に優れた太陽電池とすることができる。上記基材の厚みが500μm以下であれば、フレキシブル性に優れた太陽電池とすることができる。上記基材の厚みのより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は100μmである。
上記基材の厚みとは、上記基材が上記金属箔と上記金属箔上に形成された絶縁層とを有する場合、上記金属箔と上記絶縁層とを含む上記基材全体の厚みを意味する。
【0023】
上述したように上記基材が上記金属箔と上記金属箔上に形成された絶縁層とを有する場合、本発明の太陽電池は、更に、上記絶縁層上に形成された電極を有することが好ましい。上記電極は、上記基材の上記絶縁層側に配置される。
上記電極及び上記透明電極は、どちらが陰極になってもよく、陽極になってもよい。上記電極及び上記透明電極の材料として、例えば、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、Al/Al
2O
3混合物、Al/LiF混合物、金等の金属、CuI、ITO(インジウムスズ酸化物)、SnO
2、AZO(アルミニウム亜鉛酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)、GZO(ガリウム亜鉛酸化物)等の導電性透明材料、導電性透明ポリマー等が挙げられる。これらの材料は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
上記光電変換層は、有機無機ペロブスカイト化合物を含む。
上記光電変換層に上記有機無機ペロブスカイト化合物を用いることにより、太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。上記有機無機ペロブスカイト化合物は、一般式R−M−X
3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表されることが好ましい。
【0025】
上記Rは有機分子であり、C
lN
mH
n(l、m、nはいずれも正の整数)で示されることが好ましい。
上記Rは、具体的には例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、エチルメチルアミン、メチルプロピルアミン、ブチルメチルアミン、メチルペンチルアミン、ヘキシルメチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、イミダゾール、アゾール、ピロール、アジリジン、アジリン、アゼチジン、アゼト、イミダゾリン、カルバゾール、メチルカルボキシアミン、エチルカルボキシアミン、プロピルカルボキシアミン、ブチルカルボキシアミン、ペンチルカルボキシアミン、ヘキシルカルボキシアミン、ホルムアミジニウム、グアニジン、アニリン、ピリジン及びこれらのイオン(例えば、メチルアンモニウム(CH
3NH
3)等)やフェネチルアンモニウム等が挙げられる。なかでも、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、プロピルカルボキシアミン、ブチルカルボキシアミン、ペンチルカルボキシアミン、ホルムアミジニウム、グアニジン及びこれらのイオンが好ましく、メチルアミン、エチルアミン、ペンチルカルボキシアミン、ホルムアミジニウム、グアニジン及びこれらのイオンがより好ましい。なかでも、高い光電変換効率が得られることから、メチルアミン、ホルムアミジニウム及びこれらのイオンが更に好ましい。
【0026】
上記Mは金属原子であり、例えば、鉛、スズ、亜鉛、チタン、アンチモン、ビスマス、ニッケル、鉄、コバルト、銀、銅、ガリウム、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、インジウム、アルミニウム、マンガン、クロム、モリブデン、ユーロピウム等が挙げられる。なかでも、電子軌道の重なりの観点から、鉛又はスズが好ましい。これらの金属原子は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
上記Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子であり、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、硫黄、セレン等が挙げられる。これらのハロゲン原子又はカルコゲン原子は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、構造中にハロゲンを含有することで、上記有機無機ペロブスカイト化合物が有機溶媒に可溶になり、安価な印刷法等への適用が可能になることから、ハロゲン原子が好ましい。更に、上記有機無機ペロブスカイト化合物のエネルギーバンドギャップが狭くなることから、ヨウ素がより好ましい。
【0028】
上記有機無機ペロブスカイト化合物は、体心に金属原子M、各頂点に有機分子R、面心にハロゲン原子又はカルコゲン原子Xが配置された立方晶系の構造を有することが好ましい。
図2は、体心に金属原子M、各頂点に有機分子R、面心にハロゲン原子又はカルコゲン原子Xが配置された立方晶系の構造である、有機無機ペロブスカイト化合物の結晶構造の一例を示す模式図である。詳細は明らかではないが、上記構造を有することにより、結晶格子内の八面体の向きが容易に変わることができるため、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上すると推定される。
【0029】
上記有機無機ペロブスカイト化合物は、結晶性半導体であることが好ましい。結晶性半導体とは、X線散乱強度分布を測定し、散乱ピークが検出できる半導体を意味している。
上記有機無機ペロブスカイト化合物が結晶性半導体であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上する。また、上記有機無機ペロブスカイト化合物が結晶性半導体であれば、太陽電池に光を照射し続けることによる光電変換効率の低下(光劣化)、特に短絡電流の低下に起因する光劣化が抑制されやすくなる。
【0030】
また、結晶化の指標として結晶化度を評価することもできる。結晶化度は、X線散乱強度分布測定により検出された結晶質由来の散乱ピークと非晶質部由来のハローとをフィッティングにより分離し、それぞれの強度積分を求めて、全体のうちの結晶部分の比を算出することにより求めることができる。
上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度の好ましい下限は30%である。上記結晶化度が30%以上であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上する。また、上記結晶化度が30%以上であれば、太陽電池に光を照射し続けることによる光電変換効率の低下(光劣化)、特に短絡電流の低下に起因する光劣化が抑制されやすくなる。上記結晶化度のより好ましい下限は50%、更に好ましい下限は70%である。
また、上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を上げる方法として、例えば、熱アニール(加熱処理)、レーザー等の強度の強い光の照射、プラズマ照射等が挙げられる。
【0031】
また、他の結晶化の指標として結晶子径を評価することもできる。結晶子径は、X線散乱強度分布測定により検出された結晶質由来の散乱ピークの半値幅からhalder−wagner法で算出することができる。
上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶子径が5nm以上であれば、太陽電池に光を照射し続けることによる光電変換効率の低下(光劣化)、特に短絡電流の低下に起因する光劣化が抑制される。また、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上する。上記結晶子径のより好ましい下限は10nm、更に好ましい下限は20nmである。
【0032】
上記光電変換層は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物に加えて、更に、有機半導体又は無機半導体を含んでいてもよい。
上記有機半導体として、例えば、ポリ(3−アルキルチオフェン)等のチオフェン骨格を有する化合物等が挙げられる。また、例えば、ポリパラフェニレンビニレン骨格、ポリビニルカルバゾール骨格、ポリアニリン骨格、ポリアセチレン骨格等を有する導電性高分子等も挙げられる。更に、例えば、フタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格、ペンタセン骨格、ベンゾポルフィリン骨格等のポルフィリン骨格、スピロビフルオレン骨格等を有する化合物や、表面修飾されていてもよいカーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等のカーボン含有材料も挙げられる。
【0033】
上記無機半導体として、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ガリウム、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛、CuSCN、Cu
2O、CuI、MoO
3、V
2O
5、WO
3、MoS
2、MoSe
2、Cu
2S等が挙げられる。
【0034】
上記光電変換層は、上記有機無機ペロブスカイト化合物と上記有機半導体又は上記無機半導体とを含む場合、薄膜状の有機半導体又は無機半導体部位と薄膜状の有機無機ペロブスカイト化合物部位とを積層した積層体であってもよいし、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物部位とを複合化した複合膜であってもよい。製法が簡便である点では積層体が好ましく、上記有機半導体又は上記無機半導体中の電荷分離効率を向上させることができる点では複合膜が好ましい。
【0035】
上記薄膜状の有機無機ペロブスカイト化合物部位の厚みは、好ましい下限が5nm、好ましい上限が5000nmである。上記厚みが5nm以上であれば、充分に光を吸収することができるようになり、光電変換効率が高くなる。上記厚みが5000nm以下であれば、電荷分離できない領域が発生することを抑制できるため、光電変換効率の向上につながる。上記厚みのより好ましい下限は10nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は20nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0036】
上記光電変換層が、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物部位とを複合化した複合膜である場合、上記複合膜の厚みの好ましい下限は30nm、好ましい上限は3000nmである。上記厚みが30nm以上であれば、充分に光を吸収することができるようになり、光電変換効率が高くなる。上記厚みが3000nm以下であれば、電荷が電極に到達しやすくなるため、光電変換効率が高くなる。上記厚みのより好ましい下限は40nm、より好ましい上限は2000nmであり、更に好ましい下限は50nm、更に好ましい上限は1000nmである。
【0037】
上記光電変換層は、光電変換層形成後に熱アニール(加熱処理)が施されていることが好ましい。熱アニール(加熱処理)を施すことにより、光電変換層中の有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を充分に上げることができ、光を照射し続けることによる光電変換効率の低下(光劣化)をより抑制することができる。
従来の耐熱性高分子からなる基材を用いた太陽電池にこのような熱アニール(加熱処理)を行うと、基材と光電変換層等との熱膨張係数の差により、アニール時に歪みが生じ、その結果、高い光電変換効率を達成することが難しくなる。上記金属箔を用いた場合には、熱アニール(加熱処理)を行っても、歪みの発生を最小限に抑えて、高い光電変換効率を得ることができる。
【0038】
上記熱アニール(加熱処理)を行う場合、上記光電変換層を加熱する温度は特に限定されないが、100℃以上、250℃未満であることが好ましい。上記加熱温度が100℃以上であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を充分に上げることができる。上記加熱温度が250℃未満であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物を熱劣化させることなく加熱処理を行うことができる。より好ましい加熱温度は、120℃以上、200℃以下である。また、加熱時間も特に限定されないが、3分以上、2時間以内であることが好ましい。上記加熱時間が3分以上であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を充分に上げることができる。上記加熱時間が2時間以内であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物を熱劣化させることなく加熱処理を行うことができる。
これらの加熱操作は真空又は不活性ガス下で行われることが好ましく、露点温度は10℃以下が好ましく、7.5℃以下がより好ましく、5℃以下が更に好ましい。
【0039】
本発明の太陽電池は、上記基材及び上記透明電極のうちの陰極となる側と、上記光電変換層との間に、電子輸送層を有してもよい。
上記電子輸送層の材料は特に限定されず、例えば、N型導電性高分子、N型低分子有機半導体、N型金属酸化物、N型金属硫化物、ハロゲン化アルカリ金属、アルカリ金属、界面活性剤等が挙げられ、具体的には例えば、シアノ基含有ポリフェニレンビニレン、ホウ素含有ポリマー、バソキュプロイン、バソフェナントレン、ヒドロキシキノリナトアルミニウム、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸化合物、ペリレン誘導体、ホスフィンオキサイド化合物、ホスフィンスルフィド化合物、フルオロ基含有フタロシアニン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ガリウム、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛等が挙げられる。
【0040】
上記電子輸送層は、薄膜状の電子輸送層(バッファ層)のみからなっていてもよいが、多孔質状の電子輸送層を含むことが好ましい。特に、上記光電変換層が、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物を複合化した複合膜である場合、より複雑な複合膜(より複雑に入り組んだ構造)が得られ、光電変換効率が高くなることから、多孔質状の電子輸送層上に複合膜が製膜されていることが好ましい。
【0041】
上記電子輸送層の厚みは、好ましい下限が1nm、好ましい上限が2000nmである。上記厚みが1nm以上であれば、充分にホールをブロックできるようになる。上記厚みが2000nm以下であれば、電子輸送の際の抵抗になり難く、光電変換効率が高くなる。上記電子輸送層の厚みのより好ましい下限は3nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は5nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0042】
本発明の太陽電池は、上記光電変換層と、上記基材及び上記透明電極のうちの陽極となる側との間に、ホール輸送層を有してもよい。
上記ホール輸送層の材料は特に限定されず、例えば、P型導電性高分子、P型低分子有機半導体、P型金属酸化物、P型金属硫化物、界面活性剤等が挙げられ、具体的には例えば、ポリ(3−アルキルチオフェン)等のチオフェン骨格を有する化合物等が挙げられる。また、例えば、トリフェニルアミン骨格、ポリパラフェニレンビニレン骨格、ポリビニルカルバゾール骨格、ポリアニリン骨格、ポリアセチレン骨格等を有する導電性高分子等も挙げられる。更に、例えば、フタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格、ペンタセン骨格、ベンゾポルフィリン骨格等のポルフィリン骨格、スピロビフルオレン骨格等を有する化合物、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化スズ、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化銅、硫化スズ等、フルオロ基含有ホスホン酸、カルボニル基含有ホスホン酸、CuSCN、CuI等の銅化合物、カーボンナノチューブ、グラフェン等のカーボン含有材料等が挙げられる。
【0043】
上記ホール輸送層は、その一部が上記光電変換層に浸漬していてもよいし、上記光電変換層上に薄膜状に配置されてもよい。上記ホール輸送層が薄膜状に存在する時の厚みは、好ましい下限は1nm、好ましい上限は2000nmである。上記厚みが1nm以上であれば、充分に電子をブロックできるようになる。上記厚みが2000nm以下であれば、ホール輸送の際の抵抗になり難く、光電変換効率が高くなる。上記厚みのより好ましい下限は3nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は5nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0044】
本発明の太陽電池は、更に、上記透明電極上に配置された引出し配線を有する。
上記引出し配線を設けることにより、上記透明電極の面積が大きくなったとしても高い光電変換効率を得ることができる。
【0045】
上記引出し配線は、導電性材料からなる配線であれば特に限定されず、例えば、銅、アルミニウム、銀、金、白金等の金属又はこれらの合金等からなる配線、炭素からなる配線等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
銀からなる配線である場合、上記引出し配線は、上記透明電極上に例えば銀ペースト等を用いて形成される。
【0046】
上記引出し配線の形状は特に限定されず、例えば、線状(複数本の線状)、格子状、網目状等が挙げられる。これらの形状は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0047】
上記引出し配線の幅は特に限定されないが、好ましい下限は5μm、好ましい上限は500μmである。上記引出し配線の幅が5μm以上であれば、上記引出し配線の抵抗を低くすることができる。上記引出し配線の幅が500μmを超えると、入射光が遮られる面積が大きくなるため、太陽電池の光電変換効率が低くなることがある。上記引出し配線の幅のより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は200μmである。
上記引出し配線の幅は、例えば、測長機能付き光学顕微鏡、線幅測定装置等により測定することができる。
【0048】
本発明の太陽電池は、更に、上記引出し配線の全体を覆って封止するバリア層と、上記透明電極上の上記バリア層の外側に配置された取出し電極とを有する。
上記引出し配線の全体を覆って封止するバリア層を設けるとともに、上記バリア層の外側に別途上記取出し電極を設けることにより、上記引出し配線からの大気中の水分の浸入を抑制することができる。これにより、大気中の水分の浸入による上記光電変換層の劣化を抑制することができる。
一方、上記引出し配線と上記取出し電極とは繋がっておらず、分離しているが、電流は、上記引出し配線の端部から一旦上記透明電極を通り、次いで上記取出し電極へと流れるため、電流の取出しは問題なく行うことができる。
【0049】
上記バリア層の材料としては水蒸気バリア性を有していれば特に限定されないが、無機材料が好ましい。上記無機材料としては、Si、Al、Zn、Sn、In、Ti、Mg、Zr、Ni、Ta、W、Cu若しくはこれらを2種以上含む合金の酸化物、窒化物又は酸窒化物が挙げられる。なかでも、上記バリア層に水蒸気バリア性及び柔軟性を付与するために、Zn、Snの両金属元素を含む金属元素の酸化物、窒化物又は酸窒化物が好ましい。
【0050】
上記バリア層の材料が無機材料である場合、バリア層(無機層)の厚みは、好ましい下限が30nm、好ましい上限が3000nmである。上記厚みが30nm以上であれば、上記無機層が充分な水蒸気バリア性を有することができ、太陽電池の耐久性が向上する。上記厚みが3000nm以下であれば、上記無機層の厚みが増した場合であっても、発生する応力が小さいため、上記無機層と他の層との剥離を抑制することができる。上記厚みのより好ましい下限は50nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は100nm、更に好ましい上限は500nmである。
上記無機層の厚みは、光学干渉式膜厚測定装置(例えば、大塚電子社製のFE−3000等)を用いて測定することができる。
【0051】
上記バリア層の材料のうち、上記無機材料で上記引出し配線の全体を覆って封止する方法として、真空蒸着法、スパッタリング法、気相反応法(CVD)、イオンプレーティング法が好ましい。なかでも、緻密な層を形成するためにはスパッタリング法が好ましく、スパッタリング法のなかでもDCマグネトロンスパッタリング法がより好ましい。
上記スパッタリング法においては、金属ターゲット、及び、酸素ガス又は窒素ガスを原料とし、上記引出し配線上に原料を堆積して製膜することにより、無機材料からなる無機層を形成することができる。
【0052】
上記取出し電極は、導電性材料からなる電極であれば特に限定されず、例えば、上記引出し配線と同様の材料からなる電極が挙げられる。
上記取出し電極は、上記透明電極上の上記バリア層の外側に配置されていればよいが、太陽電池の4つの辺のうちの少なくとも1つの辺に沿って、線状に配置されていることが好ましい。更に、線状(複数本の線状)に設けられた上記引出し配線に対して垂直となるように、線状に配置されていることがより好ましい。これにより、電流の取出しをより良好に行うことができる。
【0053】
図3は、本発明の太陽電池の一例を模式的に示す上面図(
図3(a))及び断面図(
図3(b))である。
図3においては、基材1上に、光電変換層3と透明電極4とが設けられており、透明電極4上に引出し配線5が線状(複数本の線状)に設けられており、引出し配線5を覆って封止するバリア層7が設けられている。ここで、引出し配線5は、バリア層7によりその全体が覆われて封止されており、バリア層7に覆われず露出している部分はない。
図3においては、更に、透明電極4上のバリア層7の外側に取出し電極8が線状に設けられている。引出し配線5と取出し電極8とは繋がっておらず、分離しているが、電流は、引出し配線5の端部から一旦透明電極4を通り、次いで取出し電極8へと流れるため、電流の取出しは問題なく行うことができる。
なお、
図3においては、後述するような絶縁層からなる外枠2及び平坦化層6も設けられているが、本発明の太陽電池は、必ずしもこれらを有していなくてもよい。
【0054】
上述したように、本発明の太陽電池においては、上記引出し配線と上記取出し電極とは繋がっておらず、分離しているが、電流は、上記引出し配線の端部から一旦上記透明電極を通り、次いで上記取出し電極へと流れるため、電流の取出しは問題なく行うことができる。抵抗を低減する観点からは、上記引出し配線の端部の幅が、上記引出し配線の他の部分の幅以上であることが好ましく、他の部分の幅の2倍以上であることがより好ましい。なお、上記引出し配線の端部とは、上記引出し配線の上記取出し電極に近い側の端部を意味し、上記引出し配線の他の部分とは、上記引出し配線の端部以外の部分を意味する。
図4及び
図5は、本発明の太陽電池における、引出し配線の端部の一例を模式的に示す上面図である。
図4及び5において、引出し配線5は、線状(複数本の線状)に設けられており、引出し配線5の端部の形状は、それぞれ「端部接続型」及び「T字型」であるということができる。
図4の「端部接続型」に示すように、引出し配線5は、複数の引出し配線5同士が端部において接続されるように該複数の引出し配線5に直行するような又はそれに準じるような配線を有していてもよい。
図4及び5において、引出し配線5の端部の幅は、他の部分の幅以上となっている。これにより、抵抗を低減し、より高い光電変換効率を得ることができる。
【0055】
また、上記引出し配線の端部から上記バリア層の端部までの距離は、水蒸気バリア性の観点からは長いほうが好ましく、抵抗を低減する観点からは短いほうが好ましい。上記引出し配線の端部から上記バリア層の端部までの距離が短いほど、上記引出し配線の端部から上記取出し電極までの距離も短くなるため、電流が上記透明電極を通る距離が短くなり、抵抗を低減することができる。
水蒸気バリア性と抵抗の低減とを両立する方法として、例えば、上記引出し配線の端部から上記バリア層の端部までの間に、この間を複数の区画に分離する更なる配線を設ける方法が挙げられる。これにより、水蒸気バリア性を高めつつ、電流が上記透明電極を通る距離を短くして抵抗を低減することができる。上記更なる配線は、複数であってもよい。
図6は、本発明の太陽電池における、引出し配線の端部の一例を模式的に示す上面図(
図6(a)及び(b))である。
図6(b)に示すように、本発明の太陽電池は、引出し配線5の端部からバリア層7の端部までの間に、この間を複数の区画に分離する更なる配線9を有していてもよい。
【0056】
本発明の太陽電池は、必要に応じて、更に、上記光電変換層の側面を取り囲むようにして上記透明電極の下に配置された、絶縁層からなる外枠を有していてもよい。
上記光電変換層の周囲に上記絶縁層からなる外枠を配置することにより、上記光電変換層の端部からの水分の浸入を抑制することができるため、太陽電池の信頼性が向上する。
【0057】
上記絶縁層からなる外枠の材料は水蒸気バリア性を有していれば特に限定されず、無機絶縁性材料であってもよいし、有機絶縁性材料であってもよい。
上記無機絶縁性材料として、例えば、SiO
2、Al
2O
3、ZrO等の無機酸化物、ガラス、グレースト等が挙げられる。上記有機絶縁性材料は、耐熱性が充分良好であるものが好ましく、このような有機絶縁性材料として、例えば、熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。
【0058】
本発明の太陽電池は、必要に応じて、更に、上記透明電極と上記バリア層との間に配置された平坦化層を有していてもよい。
上記平坦化層の材料としては水蒸気バリア性を有していれば特に限定されないが、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が挙げられる。上記熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ブチルゴム、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリブタジエン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリイソブチレン等が挙げられる。
【0059】
上記平坦化層の材料が熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である場合、平坦化層(樹脂層)の厚みは、好ましい下限が100nm、好ましい上限が100000nmである。上記厚みのより好ましい下限は500nm、より好ましい上限は50000nmであり、更に好ましい下限は1000nm、更に好ましい上限は20000nmである。
【0060】
上記平坦化層の材料のうち、上記熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂で上記引出し配線の全体を覆って封止する方法は特に限定されず、例えば、シート状の平坦化層の材料を用いて上記引出し配線の全体をシールする方法、平坦化層の材料を有機溶媒に溶解させた溶液を上記引出し配線の全体に塗布する方法、平坦化層となる液状モノマーを上記引出し配線の全体に塗布した後、熱又はUV等で液状モノマーを架橋又は重合させる方法、平坦化層の材料に熱をかけて融解させた後に冷却させる方法等が挙げられる。
【0061】
本発明の太陽電池においては、更に、上記バリア層上を、例えば樹脂フィルム、無機材料を被覆した樹脂フィルム等のその他の材料が覆っていてもよい。これにより、仮に上記バリア層にピンホールがあった場合にも充分に水蒸気をブロックすることができ、太陽電池の耐久性をより向上させることができる。
【0062】
本発明の太陽電池を製造する方法は特に限定されず、例えば、上記基材上に上記電子輸送層を配置する工程と、上記電子輸送層上に上記光電変換層を配置する工程と、上記光電変換層上に上記ホール輸送層を配置する工程と、上記ホール輸送層上に上記透明電極を配置する工程と、上記透明電極上に引出し配線を設ける工程と、上記引出し配線の全体を覆って封止するバリア層を設ける工程と、上記透明電極上の上記バリア層の外側に上記取出し電極を設ける工程とを有する製造方法が挙げられる。