(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記隔壁の前記回転体に対向する面には、前記ワークの処理対象面に非接触状態で沿う形状が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
前記真空容器は分離構造であり、前記筒部は前記真空容器の分離される一方に設けられ、前記回転体及び前記隔壁は、前記真空容器の分離される他方に設けられていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態(以下、本実施形態と呼ぶ)について、図面を参照して具体的に説明する。
[概要]
図1に示すプラズマ処理装置100は、個々のワークWの表面に、プラズマを利用して化合物膜を形成する装置である。つまり、プラズマ処理装置100は、
図1〜
図3に示すように、回転体31が回転すると、保持部33に保持されたトレイ34上のワークWが円周の軌跡で移動して、成膜部40A、40B又は40Cに対向する位置を繰り返し通過する毎に、スパッタリングによりターゲット41A〜41Cの粒子をワークWの表面に付着させる。また、ワークWが膜処理部50A又は50Bに対向する位置を繰り返し通過する毎に、ワークWの表面に付着した粒子は、導入されたプロセスガスG2中の物質と化合して化合物膜となる。
【0022】
[構成]
このようなプラズマ処理装置100は、
図1〜
図3に示すように、真空容器20、搬送部30、成膜部40A、40B、40C、膜処理部50A、50B、ロードロック部60、制御装置70を有する。
【0023】
[真空容器]
真空容器20は、内部を真空とすることが可能な容器、所謂、チャンバである。真空容器20は、内部に真空室21が形成される。真空室21は、真空容器20の内部の天井20a、内底面20b及び内周面20cにより囲まれて形成される円柱形状の密閉空間である。真空室21は、気密性があり、減圧により真空とすることができる。なお、真空容器20の天井20aは、開閉可能に構成されている。つまり、真空容器20は分離構造となっている。
【0024】
真空室21の内部の所定の領域には、反応ガスGが導入される。反応ガスGは、成膜用のスパッタガスG1、膜処理用のプロセスガスG2を含む(
図3参照)。以下の説明では、スパッタガスG1、プロセスガスG2を区別しない場合には、反応ガスGと呼ぶ場合がある。スパッタガスG1は、電力の印加により生じるプラズマにより、発生するイオンをターゲット41A〜41Cに衝突させて、ターゲット41A〜41Cの材料をワークWの表面に堆積させるためのガスである。例えば、アルゴンガス等の不活性ガスを、スパッタガスG1として用いることができる。
【0025】
プロセスガスG2は、誘導結合により生じるプラズマにより発生する活性種を、ワークWの表面に堆積された膜に浸透させて、化合物膜を形成するためのガスである。以下、このようなプラズマを利用した表面処理であって、ターゲット41A〜41Cを用いない処理を、逆スパッタと呼ぶ場合がある。プロセスガスG2は、処理の目的によって適宜変更可能である。例えば、膜の酸窒化を行う場合には、酸素O
2と窒素N
2の混合ガスを用いる。
【0026】
真空容器20は、
図3に示すように、排気口22、導入口24を有する。排気口22は、真空室21と外部との間で気体の流通を確保して、排気Eを行うための開口である。この排気口22は、例えば、真空容器20の底部に形成されている。排気口22には、排気部23が接続されている。排気部23は、配管及び図示しないポンプ、バルブ等を有する。この排気部23による排気処理により、真空室21内は減圧される。
【0027】
導入口24は、各成膜部40A、40B、40CにスパッタガスG1を導入するための開口である。この導入口24は、例えば、真空容器20の上部に設けられている。この導入口24には、ガス供給部25が接続されている。ガス供給部25は、配管の他、図示しない反応ガスGのガス供給源、ポンプ、バルブ等を有する。このガス供給部25によって、導入口24から真空室21内にスパッタガスG1が導入される。なお、真空容器20の上部には、後述するように、膜処理部50A、50Bが挿入される開口21aが設けられている。
【0028】
[搬送部]
搬送部30の概略を説明する。搬送部30は、真空容器20内に設けられ、ワークWを搭載する回転体31を有し、回転体31を回転させることによりワークWを円周の搬送経路Tで循環搬送させる装置である。循環搬送は、ワークWを円周の軌跡で繰り返し周回移動させることをいう。搬送経路Tは、搬送部30によってワークW又は後述するトレイ34が移動する軌跡であり、ドーナツ状の幅のある円環である。以下、搬送部30の詳細を説明する。
【0029】
回転体31は、円形の板状の回転テーブルである。回転体31は、例えば、ステンレス鋼の板状部材の表面に酸化アルミニウムを溶射したものとしても良い。以降、単に「周方向」という場合には、「回転体31の周方向」を意味し、単に「半径方向」という場合には、「回転体31の半径方向」を意味する。また、本実施形態では、ワークWの例として、平板状の基板を用いているが、プラズマ処理を行うワークWの種類、形状及び材料は特定のものに限定されない。例えば、中心に凹部あるいは凸部を有する湾曲した基板を用いても良い。また、金属、カーボン等の導電性材料を含むもの、ガラスやゴム等の絶縁物を含むもの、シリコン等の半導体を含むものを用いても良い。また、プラズマ処理を行うワークWの数も、特定の数には限定されない。
【0030】
搬送部30は、回転体31に加えて、モータ32、保持部33を有する。モータ32は、回転体31に駆動力を与え、円の中心を軸として回転させる駆動源である。保持部33は、搬送部30により搬送されるトレイ34を保持する構成部である。回転体31の表面に、複数の保持部33が円周等配位置に配設されている。本実施形態でいう回転体31の表面は、回転体31が水平方向である場合に上方を向く面、つまり天面である。例えば、各保持部33がトレイ34を保持する領域は、回転体31の周方向の円の接線に平行な向きで形成され、かつ、周方向において等間隔に設けられている。より具体的には、保持部33は、トレイ34を保持する溝、穴、突起、治具、ホルダ等であり、メカチャック、粘着チャック等によって構成することができる。
【0031】
トレイ34は、方形状の平板の一方に、ワークWを搭載する平坦な載置面を有する部材である。トレイ34の材質としては、熱伝導性の高い材質、例えば、金属とすることが好ましい。本実施形態では、トレイ34の材質をSUSとする。なお、トレイ34の材質は、例えば、熱伝導性の良いセラミクスや樹脂、または、それらの複合材としてもよい。ワークWは、トレイ34の載置面に対して直接搭載されてもよいし、粘着シートを有するフレーム等を介して間接的に搭載されていてもよい。トレイ34毎に単数のワークWが搭載されてもよいし、複数のワークWが搭載されてもよい。
【0032】
本実施形態では、保持部33は6つ設けられているため、回転体31上には60°間隔で6つのトレイ34が保持される。但し、保持部33は、一つであっても、複数であってもよい。回転体31は、ワークWを搭載したトレイ34を循環搬送して成膜部40A、40B、40C、膜処理部50A、50Bに対向する位置を繰り返し通過させる。
【0033】
[成膜部]
成膜部40A、40B、40Cは、搬送経路Tを循環搬送されるワークWに対向する位置に設けられ、スパッタリングによりワークWに成膜材料を堆積させて膜を形成する処理部である。以下、複数の成膜部40A、40B、40Cを区別しない場合には、成膜部40として説明する。成膜部40は、
図3に示すように、スパッタ源4、区切部44、電源部6を有する。
【0034】
(スパッタ源)
スパッタ源4は、ワークWにスパッタリングにより成膜材料を堆積させて成膜する成膜材料の供給源である。スパッタ源4は、
図2及び
図3に示すように、ターゲット41A、41B、41C、バッキングプレート42、電極43を有する。ターゲット41A、41B、41Cは、ワークWに堆積されて膜となる成膜材料によって形成され、搬送経路Tに離隔して対向する位置に配置されている。
【0035】
本実施形態では、3つのターゲット41A、41B、41Cが、平面視で三角形の頂点上に並ぶ位置に設けられている。回転体31の回転中心に近い方から外周に向かって、ターゲット41A、41B、41Cの順で配置されている。以下、ターゲット41A、41B、41Cを区別しない場合には、ターゲット41として説明する。ターゲット41の表面は、搬送部30により移動するワークWに、離隔して対向する。なお、3つのターゲット41A、41B、41Cによって、成膜材料を付着させることができる領域は、半径方向におけるトレイ34の大きさよりも大きい。このように、成膜部40で成膜させる領域に対応し、搬送経路Tに沿った円環状の領域を成膜領域F(
図2の点線で示す)とする。成膜領域Fの半径方向の幅は、半径方向におけるトレイ34の幅よりも長い。また、本実施形態では、3つのターゲット41A〜41Cは、成膜領域Fの半径方向の幅全域で隙間なく成膜材料を付着させることができるように配置されている。
【0036】
成膜材料としては、例えば、シリコン、ニオブなどを使用する。但し、スパッタリングにより成膜される材料であれば、種々の材料を適用可能である。また、ターゲット41は、例えば、円柱形状である。但し、長円柱形状、角柱形状等、他の形状であってもよい。
【0037】
バッキングプレート42は、各ターゲット41A、41B、41Cを個別に保持する部材である。電極43は、真空容器20の外部から各ターゲット41A、41B、41Cに個別に電力を印加するための導電性の部材である。各ターゲット41A、41B、41Cに印加する電力は、個別に変えることができる。なお、スパッタ源4には、必要に応じてマグネット、冷却機構などが適宜具備されている。
【0038】
(区切部)
区切部44は、スパッタ源4によりワークWが成膜される成膜ポジションM2、M4、M5、膜処理を行う膜処理ポジションM1、M3を仕切る部材である。区切部44は、
図2に示すように、搬送部30の回転体31の回転中心から、放射状に配設された方形の壁板である。区切部44は、例えば、
図1に示すように、真空室21の天井20aの膜処理部50A、成膜部40A、膜処理部50B、成膜部40B、成膜部40Cの間に設けられている。区切部44の下端は、ワークWが通過する隙間を空けて、回転体31に対向している。この区切部44があることによって、成膜ポジションM2、M4、M5の反応ガスG及び成膜材料が真空室21に拡散することを抑制できる。
【0039】
成膜ポジションM2、M4、M5の水平方向の範囲は、一対の区切部44によって区切られた領域となる。なお、回転体31により循環搬送されるワークWが、成膜ポジションM2、M4、M5のターゲット41に対向する位置を繰り返し通過することにより、ワークWの表面に成膜材料が膜として堆積する。この成膜ポジションM2、M4、M5は、成膜の大半が行われる領域であるが、この領域から外れる領域であっても成膜材料の漏れはあるため、全く膜の堆積がないわけではない。つまり、成膜が行われる領域は、各成膜ポジションM2、M4、M5よりもやや広い領域となる。
【0040】
(電源部)
電源部6は、ターゲット41に電力を印加する構成部である。この電源部6によってターゲット41に電力を印加することにより、スパッタガスG1をプラズマ化させ、成膜材料を、ワークWに堆積させることができる。各ターゲット41A、41B、41Cに印加する電力は、個別に変えることができる。本実施形態においては、電源部6は、例えば、高電圧を印加するDC電源である。なお、高周波スパッタを行う装置の場合には、RF電源とすることもできる。回転体31は、接地された真空容器20と同電位であり、ターゲット41側に高電圧を印加することにより、電位差を発生させている。
【0041】
このような成膜部40は、複数の成膜部40A、40B、40Cに同じ成膜材料を用いて同時に成膜することにより、一定時間内における成膜量つまり、成膜レートを上げることができる。また、複数の成膜部40A、40B、40Cに互いに異なる種類の成膜材料を用いて同時或いは順々に成膜することにより、複数の成膜材料の層から成る膜を形成することもできる。
【0042】
本実施形態では、
図1及び
図2に示すように、搬送経路Tの搬送方向で、膜処理部50A、50Bとの間に、3つの成膜部40A、40B、40Cが配設されている。3つの成膜部40A、40B、40Cに、成膜ポジションM2、M4、M5が対応している。2つの膜処理部50A、50Bに、膜処理ポジションM1、M3が対応している。
【0043】
[膜処理部]
膜処理部50A、50Bは、搬送部30により搬送されるワークWに堆積した材料に対して膜処理を行う処理部である。以下、この膜処理は、ターゲット41を用いない逆スパッタである。以下、膜処理部50A、50Bを区別しない場合には、膜処理部50として説明する。膜処理部50は、処理ユニット5を有する。この処理ユニット5の構成例を
図3〜
図6を参照して説明する。
【0044】
処理ユニット5は、
図3及び
図4に示すように、筒部H、窓部材52、供給部53、調節部54(
図9参照)、アンテナ55、隔壁58を有する。筒部Hは、一端の開口Hoが、真空容器20の内部の搬送経路Tに向かう方向に延在した構成部である。筒部Hは、筒状体51と対向部hを有する。対向部hは、開口Hoを有し、回転体31に向かう構成部である。これらの筒部Hを構成する部材のうち、まず、筒状体51について説明し、対向部hについては後述する。
【0045】
筒状体51は、水平断面が角丸長方形状の筒である。ここでいう角丸長方形状とは、陸上競技におけるトラック形状であり、一対の部分円を凸側を相反する方向として離隔して対向させ、それぞれの両端を互いに並行な直線で結んだ形状である。筒状体51は、回転体31と同様の材質とする。筒状体51は、開口Hoが回転体31側に離隔して向かうように、真空容器20の天井20aに設けられた開口21aに挿入されている。これにより、筒状体51の側壁の大半は、真空室21内に収容されている。筒状体51は、その長径
方向が回転体31の半径方向と平行となるように配置されている。なお、厳密な平行である必要はなく、多少の傾きがあってもよい。
【0046】
窓部材52は、
図4に示すように、筒部Hに設けられ、真空容器20内のプロセスガスG2が導入されるガス空間Rと外部との間を仕切る部材である。本実施形態では、窓部材52は、筒部Hを構成する筒状体51に設けられている。ガス空間Rは、膜処理部50において、回転体31と筒部Hの内部との間に形成される空間であり、回転体31によって循環搬送されるワークWが繰り返し通過する。窓部材52は、筒状体51の内部に収まり、筒状体51の水平断面と略相似形の石英等の誘電体の平板である(
図8参照)。窓部材52は、上記のように配設された筒状体51の水平断面と略相似形の角丸長方形状の板である。つまり、
図3、
図4に示すように、窓部材52は、搬送経路Tに沿う方向の長さSよりも、搬送経路Tに交差する方向の長さLが長い(
図8参照)。なお、窓部材52は、アルミナ等の誘電体であってもよいし、シリコン等の半導体であってもよい。
【0047】
筒部Hには、
図5に示すように、窓部材52を支持する支持部510が設けられている。本実施形態では、支持部510は、筒部Hを構成する筒状体51に設けられている。支持部510と窓部材52との間に、ガス空間Rと外部との間を封止するシール部材21bが設けられている。
【0048】
以下、支持部510、窓部材52、シール部材21bの構成を、より具体的に説明する。支持部510は、
図4及び
図5に示すように、外周に直交する垂直断面がL字形となるように筒状体51の一端の内縁が全周に亘って、筒状体51の内側に突出した肉厚部である。この支持部510の最内縁が、筒状体51の断面と略相似形の角丸長方形の開口51aである。
【0049】
支持部510は、筒状体51の内壁から開口51aに行くにしたがって低くなる棚面510A、510B、510Cを有することにより、階段状となっている。
【0050】
棚面510Bは、第1の対向面511a、第2の対向面511b及び溝511c(あり溝)を有している。第1の対向面511aは、棚面510Bの一部が全周に亘って窓部材52側に突出した部分の平坦な頭頂面である。第1の対向面511aは、棚面510B上においてガス空間Rの外部側に設けられ、窓部材52に対向する面である。第2の対向面511bは、棚面510Bにおいてガス空間R側に設けられ、窓部材52に対向する面である。第2の対向面511bは、第1の対向面511aの内側の全周に亘って窓部材52側に突出した部分の平坦な頭頂面である。溝511cは、第1の対向面511aと第2の対向面511bとの間に全周に亘って形成された窪み(あり溝)であり、無端状のシール部材21bが嵌め込まれている。シール部材21bは、例えば、Oリングである。このシール部材21bの上部は、溝511cから突出しており、窓部材52が載置されることにより、開口51aが気密に封止されている。
【0051】
支持部510には、
図4及び
図5に示すように、供給口512が形成されている。供給口512は、
図4及び
図5に示すように、プロセスガスG2を筒状体51内に供給する穴である。供給口512は、
図5に示すように、L字形となるように棚面510Aから開口51aまで貫通している。供給口512は、搬送経路Tの下流側と上流側の対向する位置に設けられている。
【0052】
さらに、
図4に示すように、筒状体51の開口51aと反対端には、外周に直交する垂直断面が逆L字形となるように、周縁が全周に亘って外方へ張り出した外フランジ51bが形成されている。外フランジ51bの下面と真空容器20の天面との間には、全周に亘るシール部材21bが配設され、開口21aが気密に封止されている。
【0053】
供給部53は、
図4、
図6及び
図9に示すように、ガス空間RにプロセスガスG2を供給する装置である。供給部53は、図示しないボンベ等のプロセスガスG2の供給源とこれに接続された配管53a、53b、53cを有している。プロセスガスG2は、例えば、酸素及び窒素である。配管53aは、それぞれのプロセスガスG2の供給源からの一対の経路である。配管53bは、一対の経路である配管53aが収束した一つの経路である。配管53bは、一方の供給口512に接続されている。配管53cは、配管53bから分岐して、他方の供給口512に接続されている(
図9参照)。
【0054】
調節部54は、
図9に示すように、供給口512から導入するプロセスガスG2の供給量を調整する。つまり、調節部54は、供給部53の単位時間当たりのプロセスガスG2の供給量を、個別に調節する。調節部54は、配管53aにそれぞれ設けられたマスフローコントローラ(MFC)54aを有する。MFC54aは、流体の流量を計測する質量流量計と流量を制御する電磁弁を有する部材である。
【0055】
アンテナ55は、
図8及び
図10に示すように、
搬送経路Tを通過するワークWを処理するための誘導結合プラズマを発生させる部材である。アンテナ55は、ガス空間Rの外部であって窓部材52の近傍に配置され、電力が印加されることにより、ガス空間RのプロセスガスG2
をプラズマ化する。アンテナ55の形状により発生する誘導結合プラズマの分布形状を変えることができる。本実施形態においては、アンテナ55を以下に示す形状とすることにより、筒状体51内のガス空間Rの水平断面と略相似する形状の誘導結合プラズマを発生させることができる。
【0056】
アンテナ55は、複数の導体551a〜551d及びコンデンサ552を有する。複数の導体551は、それぞれ帯状の導電性部材であり、互いにコンデンサ552を介して接続されることにより、平面方向から見て角丸長方形の電路を形成する。このアンテナ55の外形は、開口51a以下の大きさである。
【0057】
各コンデンサ552は、略円柱形状であり、導体551a、551b、551c、551dの間に直列に接続されている。アンテナ55を導体のみで構成すると、電圧振幅が電源側の端部で過大となってしまい、窓部材52が局所的に削られてしまうため、導体を分割してコンデンサ552を接続することにより、各導体551a、551b、551c、551dの端部で小さな
電圧振幅が生じるようにして、窓部材52の削れを抑えている。
【0058】
但し、コンデンサ552部分では導体551a、551b、551c、551dの連続性が断たれて、プラズマ密度が低下する。このため、窓部材52に対向する導体551a、551b、551c、551dの端部は、互いに平面方向に重なりを生じさせて、コンデンサ552を上下方向から挟むように構成されている。より具体的には、コンデンサ552に対する導体551a、551b、551c、551dの接続端は、
図10に示すように、断面が逆L字形となるように屈曲されている。隣接する導体551a、551bの端部の水平面は、コンデンサ552を上下方向から挟持する間隙が設けられている。同様に、導体551b、551cの端部の水平面、導体551c、551dの端部の水平面には、それぞれコンデンサ552を上下
方向から挟持する間隙が設けられている。
【0059】
アンテナ55には、高周波電力を印加するためのRF電源55aが接続されている。RF電源55aの出力側には整合回路であるマッチングボックス55bが直列に接続されている。例えば、導体551dの一端とRF電源55aとが接続されている。この例では、導体551aが接地側である。RF電源55aと導体551dの一端との間には、マッチングボックス55bが接続されている。マッチングボックス55bは、入力側及び出力側のインピーダンスを整合させることで、プラズマの放電を安定化させる。
【0060】
対向部hは、冷却部56、分散部57を有する。冷却部56は、
図4、
図5及び
図6に示すように、筒状体51と外形の大きさが略同一の角丸長方形状の筒形部材であり、その上面が筒状体51の底面に接して合致する位置に設けられている。冷却部56の内部には、図示はしないが、冷却水が流通するキャビティが設けられている。キャビティには、冷却水を循環供給する冷却水循環装置であるチラーに接続された供給口と排水口が連通している。このチラーにより冷却された冷却水が供給口から供給され、キャビティ内を流通して排水口から排出されることを繰り返すことにより、冷却部56が冷却され、筒状体51及び分散部57の加熱が抑制される。
【0061】
分散部57は、筒状体51、冷却部56と外形の大きさが略同一の角丸長方形状の筒形部材であり、その上面が冷却部56の底面に接して合致する位置に設けられている。分散部57には、分散板57aが設けられている。分散板57aは、供給口512と間隔を空け、且つ、供給口512に対向する位置に配置され、供給口512から導入されるプロセスガスG2を分散させて、ガス空間Rに流入させる。この分散板57aが内側に設けられている分だけ、分散部57は、環状部分の水平方向の幅が、筒状体51よりも大きくなっている。
【0062】
より具体的には、分散板57aは、分散部57の内縁から全周に亘って立ち上げられ、冷却部56を超え、且つ、筒状体51の支持部510の供給口512に離隔して対向する位置を超えて窓部材52の底面に近接する位置まで延設されている。分散板57aと供給口512との間のプロセスガスG2の流路は、
図5に示すように、回転体31側が閉塞されるとともに、窓部材52側がガス空間Rに連通している。つまり、支持部510と分散板57aとの間は、上方が窓部材52の下面に沿って、窓部材52の下方のガス空間Rに連通した環状の隙間を形成している。
【0063】
また、分散板57aは、筒状体51内のガス空間Rに入り込むため、ガス空間Rにおけるプラズマの発生領域は、分散板57aの内側の空間となる。なお、分散板57aと窓部材52との距離は、例えば、1mmから5mmとする。この距離を5mm以下とすると、隙間に異常放電が発生することを防止できる。なお、本実施形態では、分散部57の下端の内縁が対向部hの開口Hoとなり、対向部hの開口Hoが筒部
Hの開口Hoでもある。
【0064】
供給部53から供給口512を介して、ガス空間RにプロセスガスG2を導入し、RF電源55aからアンテナ55に高周波電圧を印加すると、窓部材52を介して、ガス空間Rに電界がかかり、プラズマが発生する。すると、プロセスガスG2がプラズマ化され、電子、イオン及びラジカル等の活性種が発生する。
【0065】
なお、冷却部56と筒状体51との間、冷却部56と分散部57との間には、シート561、562が配設されている。シート561、562は、冷却部56と筒状体51、分散部57との密着性を高めて、熱伝導性を高める薄板状の部材である。例えば、カーボンシートを用いる。
【0066】
隔壁58は、
図4〜
図7に示すように、対向部hと回転体31との間に、非接触且つ不動で介在する部材である。隔壁58は、プラズマを閉じ込めて、プロセスガスG2を成膜部40へ拡散するのを抑制する機能を有する。隔壁58には、開口Hoに対向する位置に設けられ、プラズマ処理の範囲を調節する調節穴58aが形成されている。
【0067】
より具体的には、隔壁58は、筒状体51と外形が略同一の角丸長方形状の環状のプレートであり、基体581、遮蔽板582を有する。基体581は、隔壁58の外形を形成する肉厚の平板部分である。遮蔽板582は、基体581の内縁に形成され、基体581よりも薄肉の平板部分であり、その内側に調節穴58aが形成されている。調節穴58aは、回転体31の外周側と外周より回転体31の中心側(以下、内周側と呼ぶ)とで大きさが異なっている。ワークWに対してプラズマ処理、つまり膜処理を行う処理領域の枠は、調節穴58aで画される。ここで、回転体31の外周側と内周側とを比べると、一定距離を通過する速度に差が生じる。つまり、本実施形態の筒状体51のように、長径
方向が回転体31の半径方向と平行となるように配置されている場合、筒状体51の下部を回転体31が通過する時間は、内周側よりも外周側が短い。このため、本実施形態では、内周側と外周側で、ワークWがプラズマに晒される時間が同じになり、処理レートを合わせるために、上記のように、遮蔽板582によってプラズマを遮蔽する範囲を決定している。つまり、調節穴58aの形状によって、プラズマに晒される範囲を決定していることになる。
このことは、隔壁58に、開口Hoに対向する位置に設けられ、プラズマ処理の範囲を調節する遮蔽板582を有することと、プラズマ処理の範囲を調節する調節穴58aを有することとは、同義であることを意味している。調節穴58aの形状例としては、扇形や三角形を挙げることができる。また、開口Hoより大きくならない範囲で、扇形や三角形の中心角の異なる遮蔽板582に交換することにより、遮蔽の範囲を変更できる。
【0068】
隔壁58は、導電性材料で構成するとよい。また、電気抵抗が低い材料としてもよい。そのような材料として、アルミニウム、ステンレス又は銅が挙げられる。回転体31と同じ材料で構成しても良く、異なる材料で構成しても良い。隔壁58は、例えば、ステンレス鋼の板状部材の表面に酸化アルミニウムを溶射したものとしてもよい。隔壁58は、ワークWと同様にプラズマ処理され、熱によって劣化するので交換する必要がある。そこで、プラズマ処理の内容に応じて、エッチング防止剤、酸化防止剤又は窒化防止剤でコーティングすることにより、交換頻度を減らすことができる。また、筒部Hと分離して構成されているので、交換作業は容易となる。
【0069】
図3に示すように、隔壁58は、支持部材58bによって、対向部hの分散部57と回転体31の間に、非接触で位置するように固定されている。支持部材58bは、回転体31の外側から、隔壁58の半径方向外側を支持固定する部材である。支持部材
58bは、柱状の部材であり、内底面20bから立設され、回転体31の表面よりも高い位置まで延びて、回転体31の外縁の外側に延びた基体581を支持している。つまり、分離構造の真空容器20の一方、つまり開閉可能な天井20aに筒部Hが設けられているのに対して、他方、つまり内底面20bに回転体31及び隔壁58が設けられている。
【0070】
図7に示すように、隔壁58とワークWとの間には間隔Dを確保する。これは、ワークWの通過を許容するとともに、内部のガス空間Rの圧力を維持するためであり、例えば、5mm〜15mmとすることが考えられる。但し、本実施形態では、分散部57と隔壁58との間に間隔dが生じるので、ガス空間Rの圧力を維持するために、間隔Dをなるべく短くするとともに、間隔Dと間隔dとを合わせても、15mmを超えないことが好ましい。つまり、5mm≦D+d≦15mmとするとよい。例えば、間隔D=間隔d=5mm程度とすることが考えられる。
【0071】
さらに、隔壁58は、
図4及び
図5に示すように、冷却部(第2の冷却部)583を有する。冷却部583は、隔壁58の内部に設けられ、冷却水が流通する水路である。水路には、冷却水を循環供給する冷却水循環装置であるチラーに接続された供給口と排水口が連通している。このチラーにより冷却された冷却水が供給口から供給され、水路内を流通して排水口から排出されることを繰り返すことにより、隔壁58が冷却される。水路は配管により構成されるが、例えば、支持部材58bに沿って内底面
20bを気密に通過して、真空容器20の外に延びている。
【0072】
[ロードロック部]
ロードロック部60は、真空室21の真空を維持した状態で、図示しない搬送手段によって、外部から未処理のワークWを搭載したトレイ34を、真空室21に搬入し、処理済みのワークWを搭載したトレイ34を真空室21の外部へ搬出する装置である。このロードロック部60は、周知の構造のものを適用することができるため、説明を省略する。
【0073】
[制御装置]
制御装置70は、プラズマ処理装置100の各部を制御する装置である。この制御装置70は、例えば、専用の電子回路若しくは所定のプログラムで動作するコンピュータ等によって構成できる。つまり、真空室21へのスパッタガスG1及びプロセスガスG2の導入および排気に関する制御、電源部6、RF電源55aの制御、回転体31の回転の制御などに関しては、その制御内容がプログラムされており、PLCやCPUなどの処理装置により実行されるものであり、多種多様なプラズマ処理の仕様に対応可能である。
【0074】
具体的に制御される対象としては、モータ32の回転速度、プラズマ処理装置100の初期排気圧力、スパッタ源4の選択、ターゲット41及びアンテナ55への印加電力、スパッタガスG1及びプロセスガスG2の流量、種類、導入時間及び排気時間、成膜及び膜処理の時間などが挙げられる。
【0075】
特に、本実施形態では、制御装置70は、成膜部40のターゲット41への電力の印加、ガス供給部25からのスパッタガスG1の供給量を制御することにより、成膜レートを制御するとともに、アンテナ55への電力の印加、供給部53からのプロセスガスG2の供給量を制御することにより、膜処理レートを制御する。
【0076】
上記のように各部の動作を実行させるための制御装置70の構成を、仮想的な機能ブロック図である
図11を参照して説明する。すなわち、制御装置70は、機構制御部71、電源制御部72、ガス制御部73、記憶部74、設定部75、入出力制御部76を有する。
【0077】
機構制御部71は、排気部23、ガス供給部25、供給部53、調節部54、モータ32、ロードロック部60等の駆動源、電磁弁、スイッチ、電源等を制御する処理部である。電源制御部72は、電源部6、RF電源55aを制御する処理部である。例えば、電源制御部72は、ターゲット41A、41B、41Cに印加する電力を、個別に制御する。成膜レートをワークWの全体で均一にしたい場合には、上記の内周と外周の速度差を考慮して、ターゲット41A<ターゲット41B<ターゲット41Cというように、順次電力を高くする。つまり、内周と外周の速度に比例させて、電力を決定すればよい。但し、比例させる制御は一例であって、速度が大きくなるほど電力を高くし、処理レートが均一になるように設定すればよい。また、ワークWに形成する膜厚を厚くしたい箇所については、ターゲット41への印加電力を高くして、膜厚を薄くしたい箇所については、ターゲット41への印加電力を低くすればよい。
【0078】
ガス制御部73は、調節部54によるプロセスガスG2の導入量を制御する処理部である。なお、ガス制御部73は、スパッタガスG1の導入量も制御する。記憶部74は、本実施形態の制御に必要な情報を記憶する構成部である。記憶部74に記憶される情報としては、排気部23の排気量、各ターゲット41へ印加する電力、スパッタガスG1の供給量、アンテナ55へ印加する電力、供給口512のプロセスガスG2の供給量を含む。設定部75は、外部から入力された情報を、記憶部74に設定する処理部である。なお、アンテナ55に印加する電力は、例えば、回転体31が1回転する間に成膜される所望の膜厚と回転体31の回転速度(rpm)によって決まる。
【0079】
入出力制御部76は、制御対象となる各部との間での信号の変換や入出力を制御するインタフェースである。さらに、制御装置70には、入力装置77、出力装置78が接続されている。入力装置77は、オペレータが、制御装置70を介してプラズマ処理装置100を操作するためのスイッチ、タッチパネル、キーボード、マウス等の入力手段である。例えば、使用する成膜部40、膜処理部50の選択、所望の膜厚、各ターゲット41A〜41Cの印加電力、供給口512からのプロセスガスG2の供給量等を入力手段により入力することができる。
【0080】
出力装置78は、装置の状態を確認するための情報を、オペレータが視認可能な状態とするディスプレイ、ランプ、メータ等の出力手段である。例えば、出力装置78は、入力装置77からの情報の入力画面を表示することができる。この場合、ターゲット41A、41B、41Cを模式図で表示させて、それぞれの位置を選択して数値を入力できるようにしてもよい。さらに、ターゲット41A、41B、41Cを模式図で表示させて、それぞれに設定された値を数値で表示してもよい。
【0081】
[動作]
以上のような本実施形態の動作を、上記の
図1〜
図11を参照して以下に説明する。なお、図示はしないが、プラズマ処理装置100には、コンベア、ロボットアーム等の搬送手段によって、ワークWを搭載したトレイ34の搬入、搬送、搬出が行われる。
【0082】
複数のトレイ34は、ロードロック部60の搬送手段により、真空容器20内に順次搬入される。回転体31は、空の保持部33を、順次、ロードロック部60からの搬入箇所に移動させる。保持部33は、搬送手段により搬入されたトレイ34を、それぞれ個別に保持する。このようにして、
図2及び
図3に示すように、成膜対象となるワークWを搭載したトレイ34が、回転体31上に全て載置される。
【0083】
以上のようにプラズマ処理装置100に導入されたワークWに対する膜を形成する処理は、以下のように行われる。なお、以下の動作は、成膜部40A
のみ及び膜処理部50Aのみといったように、成膜部40
と膜処理部50の
中からそれぞれ一つを稼働させて成膜及び膜処理を行う例である。但し、複数組の成膜部40、膜処理部50を稼働させて処理レートを高めてもよい。また、成膜部40及び膜処理部50による成膜及び膜処理の例は、ワークWに原子レベルでシリコンを付着させる毎に、酸素イオン及び窒素イオンを浸透させる処理を、ワークWを循環搬送させながら繰り返し行うことにより、酸窒化シリコンの膜を形成する処理である。
【0084】
まず、真空室21は、排気部23によって常に排気され減圧されている。そして、真空室21が所定の圧力に到達すると、
図2及び
図3に示すように、回転体31が回転して、保持部33に保持されたワークWは、搬送経路Tに沿って移動し、成膜部40A、40B、40C、膜処理部50A、50Bの下を通過する。回転体31が所定の回転速度に達すると、次に、成膜部40のガス供給部25は、スパッタガスG1を、ターゲット41の周囲に供給する。このとき、膜処理部50の供給部53も、プロセスガスG2をガス空間Rに供給する。
【0085】
成膜部40では、電源部6が各ターゲット41A、41B、41Cに電力を印加する。これにより、スパッタガスG1がプラズマ化する。スパッタ源4において、プラズマにより発生したイオン等の活性種は、ターゲット41に衝突して成膜材料の粒子を飛ばす。このため、成膜部40を通過するワークWの表面には、その通過毎に成膜材料の粒子が堆積されて、膜が生成される。この例では、シリコンの層が形成される。
【0086】
電源部6により各ターゲット41A、41B、41Cに印加する電力は、回転体31の内周側から外周側に行くに従って順次大きくなるように記憶部74に設定されている。電源制御部72は、この記憶部74に設定された電力に従って、電源部6が各ターゲット41に印加する電力を制御するように指示を出力する。この
制御のため、スパッタリングによる単位時間当たりの成膜量は、内周側から外周側に行くほど多くなるが、内周側から外周側に行くほど回転体31の通過速度が速くなるため、ワークWの全体の膜厚は均一となる。
【0087】
なお、ワークWは、稼働していない成膜部40、例えば成膜ポジションM4、M5、稼働していない膜処理部50、例えば、膜処理ポジションM3を通過しても、処理は行われず、加熱されない。このように、加熱されない領域において、ワークWは熱を放出する。
【0088】
一方、成膜されたワークWは、処理ユニット5における筒状体51の調節穴58aに対向する位置を通過する。処理ユニット5では、
図4及び
図9に示すように、供給部53から供給口512を介して、筒状体51にプロセスガスG2である酸素及び窒素が供給され、RF電源55aからアンテナ55に高周波電圧が印加される。高周波電圧の印加によって、窓部材52を介して、ガス空間Rに電界がかかり、プラズマが生成される。生成されたプラズマによって発生した酸素イオン及び窒素イオンが、成膜されたワークWの表面に衝突することにより、膜材料に浸透する。遮蔽板582は、開口Hoの外縁部分を概ね覆うことによって、覆った部分においてプラズマを遮蔽することができる。
また、
【0089】
アンテナ55に印加される放電電力を上昇させても、支持部510は冷却部56によって冷却されるので、温度上昇が抑えられる。また、分散部57も、冷却部56によって冷却されるので、温度上昇が抑えられる。そして、支持部510と冷却部56との間には熱伝導性の高いシート561が接触して介在し、分散部57と冷却部56との間には熱伝導性の高いシート562が接触して介在しているので、支持部510、分散部57の熱は冷却部56に効率よく伝達される。
【0090】
さらに、プラズマによる酸素イオン及び窒素イオンが衝突することにより、隔壁58も加熱されるが、分散部57とは間隔d(
図7参照)を空けて分離しているので、その熱は分散部57に伝達しない。仮に、隔壁58が熱変形したとしても、それによる歪が分散部57に伝達されることも防止される。また、隔壁58自体も、冷却部583によって冷却される。以上のことから、隔壁58、分散部57、支持部510の加熱による熱変形が抑えられるので、窓部材52の変形や損傷が防止される。
【0091】
供給口512から導入されるプロセスガスG2の単位時間当たりの流量は、記憶部74に設定されている。ガス制御部73は、この記憶部74に設定された流量に従って、調節部54が各配管53aを流通するプロセスガスG2の流量を制御するように指示を出力する。
【0092】
また、
図5に示すように、供給口512から供給されるプロセスガスG2は、分散板57aに衝突することによって分散板57aの垂直面に沿って水平に広がるとともに、分散板57aの上縁からガス空間Rに流入する。このように、プロセスガスG2が分散するので、供給口512の近傍のプロセスガスG2の流量のみが、極端に増大することがない。
【0093】
以上のような膜を形成する処理の間、回転体31は回転を継続しワークWを搭載したトレイ34を循環搬送し続ける。このように、ワークWを循環させて成膜と膜処理を繰り返すことにより、ワークWの表面に化合物膜として酸窒化シリコンの膜が形成される。
【0094】
酸窒化シリコンの膜が所望の膜厚となる所定の処理時間が経過したら、成膜部40及び膜処理部50を停止する。つまり、電源部6によるターゲット41への電力の印加、供給口512からのプロセスガスG2の供給、RF電源55aによる電圧の印加等を停止する。
【0095】
このように、膜を形成する処理が完了した後、ワークWを搭載したトレイ34は、回転体31の回転により、順次、ロードロック部60に位置決めされ、搬送手段により、外部へ搬出される。
【0096】
[作用効果]
(1)本実施形態は、内部を真空とすることが可能な真空容器20と、真空容器20内に設けられ、ワークWを搭載して回転する回転体31を有し、回転体31を回転させることによりワークWを円周の搬送経路で循環搬送させる搬送部30と、一端の開口Hoが、真空容器20の内部の搬送経路Tに向かう方向に延在した筒部Hと、筒部Hに設けられ、真空容器20内のプロセスガスG2が導入されるガス空間Rと外部との間を仕切る窓部材52と、ガス空間Rの外部であって窓部材52の近傍に配置され、電力が印加されることにより、ガス空間RのプロセスガスG2に、搬送経路Tを通過するワークWをプラズマ処理するための誘導結合プラズマを発生させるアンテナ55と、を有する。
【0097】
そして、筒部Hは、開口Hoが設けられ、回転体31に向かう対向部hを有し、対向部hと回転体31との間に、対向部h及び回転体31に対して非接触且つ
対向部hに対して不動で介在する隔壁58を有し、隔壁58には、開口Hoに対向する位置に設けられ、プラズマ処理の範囲を調節する調節穴58aが形成されている。
【0098】
このため、筒部Hに構成されるガス空間Rと外部との間を仕切る窓部材52に、熱変形の影響を与えることを防止しつつ、ガス空間RとワークWとの間の間隔を正確に調整できる。つまり、対向部h及び回転体31に対して非接触且つ
対向部hに対して不動で隔壁58が介在するため、隔壁58とワークWとの間隔を一定にすることができる。また、
筒部Hと隔壁58とを別体とすることにより、隔壁58の熱が筒部Hに伝達することが抑制され、筒部Hの熱変形による窓部材52の変形を防止できる。
【0099】
例えば、本実施形態では、回転体31の内周側と外周側での処理レートを合わせるために、外周側から内周側へ行くに従って、調節穴58aの幅が小さくなっている。これにより、遮蔽板582がプラズマを遮蔽する部分の面積は、内周へ行くほど広くなる。このように遮蔽する幅が広くなると、プラズマの熱を吸収する面積が増えることになるので、内周側の方が温度が高くなる。すると、隔壁58の外周側から内周側に行くほど熱変形が大きくなる。隔壁58が筒部H内に固定されていると、この不均一な熱変形が筒部Hに伝わり、窓部材52を支持する部分にも歪みが生じるので、窓部材52に歪みが伝わり、窓部材52が破損する可能性がある。本実施形態では、隔壁58が筒部Hから分離されているので、このような事態を防止できる。
【0100】
(2)対向部hを冷却する冷却部56を有する。このため、対向部hの熱が窓部材52に影響を与えることが防止される。
(3)隔壁58を冷却する冷却部583を有する。このため、隔壁58の熱変形を防止できる。
【0101】
(4)真空容器20は分離構造であり、筒部Hは真空容器20の分離される一方、つまり、天井20aに設けられ、回転体31及び隔壁58は、真空容器20の分離される他方、つまり、内底面20bに設けられている。仮に、筒部Hと隔壁58が一体の構造(筒部H’)であるとすると、真空容器20の天井20aを開いた時には筒部H’が回転体31から離れ、閉じた時には密閉される。このために、筒部H’と回転体31との間隔は調整、確認が困難である。本実施形態では、隔壁58と回転体31との間隔を固定とすることができるので、ワークWと隔壁58との間隔の調整、確認が容易となる。
【0102】
[変形例]
(1)
図12及び
図13に示すように、隔壁58と対向部hとの間が、シール部材Cによって封止されていてもよい。例えば、隔壁58の分散部57との対向面に、調節穴58aを囲む全周に形成された窪み(あり溝)Uに、無端状のシール部材CであるOリングが嵌め込まれている。そして、シール部材Cが分散部57の底面に接触している。これにより、隔壁58と分散部57との間が密閉されるので、ガス空間Rの圧力を維持することができる。また、プロセスガスG2が成膜部40へ拡散することも防止できる。なお、シール部材Cとしては、シールドフィンガを用いることもできる。これにより、隔壁58と分散部57との間を封止しつつ、導電性を確保することができ、隔壁58を確実にアースに地絡させることができる。
【0103】
(2)
図14及び
図15に示すように、隔壁58と対向部hとの間に、非接触の凹凸を組み合わせたラビリンス構造Bを有していてもよい。例えば、隔壁58の分散部57との対向面に、環状の溝である凹部Bxを形成、分散部57に凹部Bxに非接触で入り込む凸条Byを形成する。これにより、隔壁58と分散部57との間の流路が屈折するので、プロセスガスG2が流出し難くなり、ガス空間Rの圧力を維持することができる。この凹凸の組み合わせの数、大きさ等はこの例には限定されない。なお、
図16に示すように、上記(1)のシール部材Cを設けるとともに、ラビリンス構造Bを設けてもよい。これにより、より確実にガス空間Rの圧力を維持することができる。この場合、シール部材Cがプラズマに晒されてダメージを受けることを防止するため、ラビリンス構造Bの外周側に、シール部材Cを設けるとよい。このシール部材Cは、Oリングであっても、シールドフィンガであってもよい。
【0104】
(3)隔壁58の外形は、筒状体51の外形よりも大きくてもよい。例えば、
図17(A)に示すように、基体581を扇形としたり、
図17(B)に示すように、基体581を多角形としてもよい。これにより、筒部Hと同様の円筒形状とする場合に比べて、回転体31と隔壁58との隙間のコンダクタンスを下げることができる。
【0105】
(4)隔壁58の回転体31に対向する面に、ワークWの処理対象面に非接触で沿う形状を形成してもよい。例えば、
図18に示すように、隔壁58の下面が、凸状に湾曲したワークWの形状に合わせて湾曲していてもよい。これにより、ワークWが、隔壁58の直下にあるとき、隔壁58と回転体31との間の隙間を狭めることができ、プロセスガスG2の漏れによる圧力の低下を防ぐことができる。また、ワークWを複数個、互いの間隔を狭めて配置することで、1つのワークWが通過後、すぐに次のワークWがやって来て、隔壁58と回転体31との間の隙間を連続して狭めるので、プロセスガスG2がより一層漏れ難くなる。
【0106】
[他の実施形態]
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、以下のような態様も含む。
(1)シールドフィンガを使用している場合を除き、隔壁にRF電力を印加してもよい。
【0107】
(2)成膜材料については、スパッタリングにより成膜可能な種々の材料を適用可能である。例えば、タンタル、チタン、アルミニウム等を適用できる。化合物とするための材料についても、種々の材料を適用可能である。
【0108】
(3)成膜部におけるターゲットの数は、3つには限定されない。ターゲットを1つとしても、2つとしても、4つ以上としてもよい。ターゲットの数を多くして、印加電力を調節することによって、より細かい膜厚の制御が可能となる。また、成膜部を1つとしても、2つとしても、4つ以上としてもよい。成膜部の数を多くして、成膜レートを向上させることができる。これに応じて、膜処理部の数も多くして、膜処理レートを向上させることができる。
【0109】
(4)成膜部による成膜は必ずしも行わなくてもよく、成膜部を有していなくてもよい。つまり、本発明は、膜処理を行うプラズマ処理装置には限定されず、プラズマによって発生させた活性種を利用して、処理対象に処理を行うプラズマ処理装置に適用できる。例えば、処理ユニットにおいて、ガス空間内にプラズマを発生させて、エッチング、アッシング等の表面改質、クリーニング等を行うプラズマ処理装置として構成してもよい。この場合、例えば、アルゴン等の不活性ガスをプロセスガスとすることが考えられる。
【0110】
(5)筒状体、窓部材、アンテナの形状も、上記の実施形態で例示したものには限定されない。水平断面が方形、円形、楕円形であってもよい。
【0111】
(6)搬送部により同時搬送されるトレイ、ワークの数、これを保持する保持部の数は、少なくとも1つであればよく、上記の実施形態で例示した数には限定されない。つまり、1つのワークWが循環搬送される態様でもよく、2つ以上のワークWが循環搬送される態様でもよい。ワークを径方向に2列以上並べて循環搬送する態様でもよい。
【0112】
(7)上記の実施形態では、回転体を回転テーブルとしているが、回転体はテーブル形状には限定されない。回転中心から放射状に延びたアームにトレイやワークを保持して回転する回転体であってもよい。成膜部および膜処理部が真空容器の底面側にあり、成膜部および膜処理部と回転体との上下関係が逆となっていてもよい。この場合、保持部が配設される回転体の表面は、回転体が水平方向である場合に下方を向く面、つまり下面となる。
【0113】
(8)以上、本発明の実施形態及び各部の変形例を説明したが、この実施形態や各部の変形例は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上述したこれら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明に含まれる。