(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジン及び発電電動機の2種の動力源を有し、且つ前記エンジンのフリクション損失、ポンピング損失、及び補機損失によるエンジンブレーキ、及び前記発電電動機の回生駆動による回生ブレーキにより車両の制動力を発生可能なパワーユニットを備えるハイブリッド車両に適用されて、車両減速時に前記パワーユニットが発生する制動力を制御するハイブリッド車両の制動力制御装置において、
前記回生ブレーキにより発生する制動力を回生制動力とし、前記エンジンブレーキにより発生する制動力のうち、前記フリクション損失により発生する分の制動力をフリクション制動力、前記ポンピング損失により発生する分の制動力をポンピング制動力、前記補機損失により発生する分の制動力を補機制動力としたとき、
前記ハイブリッド車両の惰性走行時に前記パワーユニットが発生する制動力の要求値である要求制動力を、同ハイブリッド車両の走行状況に応じて演算する要求制動力演算部と、
前記回生制動力、前記フリクション制動力、前記ポンピング制動力及び前記補機制動力の合計が前記要求制動力と等しい値となるように、前記回生制動力の目標値である目標回生制動力、前記フリクション損失の目標値である目標フリクション損失、前記ポンピング損失の目標値である目標ポンピング損失、及び前記補機損失の目標値である目標補機損失のそれぞれを、車速に基づき設定する目標値設定部と、
前記目標回生制動力分の前記回生制動力を発生し、且つ前記目標フリクション損失分の前記フリクション損失、前記目標ポンピング損失分の前記ポンピング損失、及び前記目標補機損失分の前記補機損失が発生するように前記発電電動機及び前記エンジンを制御する制動力制御部と、
を備えており、且つ前記目標値設定部は、前記車速が高いときには、同車速が低いときよりも、前記要求制動力に対する前記フリクション制動力の比率が小さくなるように前記目標値の設定を行う
ことを特徴とするハイブリッド車両の制動力制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、ハイブリッド車両の制動制御装置の一実施形態を、
図1〜
図6を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、ハイブリッド車両は、車輪25に伝達される駆動力を発生するパワーユニット10を備える。パワーユニット10には、駆動力を発生する動力源として、エンジン11と、第1発電電動機12及び第2発電電動機13の2つの発電電動機と、の2種の動力源が設けられている。
【0012】
エンジン11には、吸気を絞るスロットルバルブ27が設けられている。また、エンジン11には、容量可変型のオイルポンプ28が補機として設けられている。
パワーユニット10には、サンギヤ14、プラネタリキャリア15、リングギヤ16の3つの回転要素を有した遊星ギヤ機構17が設けられている。遊星ギヤ機構17のプラネタリキャリア15には、トランスアクスルダンパ18を介してエンジン11が接続されており、同遊星ギヤ機構17のサンギヤ14には、第1発電電動機12が接続されている。また、遊星ギヤ機構17のリングギヤ16には、カウンタドライブギヤ19が一体に設けられている。カウンタドライブギヤ19には、カウンタドリブンギヤ20が噛み合わされている。そして、第2発電電動機13は、このカウンタドリブンギヤ20に噛み合わされたリダクションギヤ21に接続されている。一方、カウンタドリブンギヤ20には、ファイナルドライブギヤ22が一体回転可能に接続されており、そのファイナルドライブギヤ22には、ファイナルドリブンギヤ23が噛み合わされている。そして、ファイナルドリブンギヤ23には、差動機構24を介して、両車輪25の車輪軸26が接続されている。
【0013】
第1発電電動機12、及び第2発電電動機13は、インバータ30を介してバッテリ31に電気的に接続されている。そして、第1発電電動機12とバッテリ31との間で授受される電力の量、並びに第2発電電動機13とバッテリ31との間で授受される電力の量が、インバータ30により調整されている。
【0014】
以上のように構成されたパワーユニット10は、電子制御ユニット32により制御されている。電子制御ユニット32には、車速を検出する車速センサ33、アクセルペダルの踏込量(アクセル開度)を検出するアクセルペダルセンサ34、シフトレバーの操作位置(シフト位置)を検出するシフト位置センサ35など、ハイブリッド車両の走行状況や運転者の操作状況を検出する各種センサの検出信号が入力されている。また、電子制御ユニット32は、バッテリ31の充放電状況から同バッテリ31の充電率(SOC)を求めている。なお、本実施形態が適用されるハイブリッド車両には、リングギヤ16及びカウンタドライブギヤ19の回転をロックするP(パーキング)ポジション、発電電動機12,13の送電を解除してエンジン11、車輪25間の動力伝達を切断するN(ニュートラル)ポジション、通常走行用のD(ドライブ)ポジション、惰性走行時の減速をDポジションよりも大きくするB(ブレーキ)ポジションがシフト位置として設定されている。
【0015】
(充電制御)
電子制御ユニット32は、バッテリ31の充電制御を行っている。充電制御では、バッテリ31の充電率に上限値、下限値を設定し、同充電率が上限値以下、且つ下限値以上の範囲に保持されるように、バッテリ31と第1発電電動機12及び第2発電電動機13との間での電力の授受を制御している。
【0016】
図3に、本実施形態でのバッテリ31の充電率の上限値、下限値の設定態様を示す。なお、同図に示される過充電領域は、バッテリ31が過充電となる可能性がある充電率の値の範囲を、過放電領域は、バッテリ31が過放電となる可能性がある充電率の値の範囲を、それぞれ表している。これら過充電領域、過放電領域は、バッテリ31の充電性能の個体差や経時変化、充電率の演算誤差を考慮して設定されている。そして、充電制御において電子制御ユニット32は、現在のバッテリ31の充電率に対して、同充電率が上限値以下、且つ下限値以上の範囲(充電率の制御範囲)に保持されるように、第1発電電動機12及び第2発電電動機13の給電量及び発電量のそれぞれの上限値である最大給電量、及び最大発電量を設定している。
【0017】
充電率の下限値は、定数として設定されており、その値は、過放電領域の上限値に既定値αを加えた値とされている。一方、充電率の上限値は、パワーユニット10から車輪25へと動力が伝達される駆動走行時と、車輪25からパワーユニット10に動力が伝達される惰性走行時とで、異なる態様で設定される。すなわち、惰性走行時の充電率の上限値は、定数として設定されており、その値は、過充電領域の下限値から既定値βを引いた値とされている。一方、駆動走行時の充電率の上限値は、車速を0から上昇していったときに、車速が既定値γに達するまでは惰性走行時と同じ値となり、車速が既定値γを超えると、車速の増加に応じて値が徐々に減少するように、車速に対して値が変化する値となるように設定される。
【0018】
(減速時制動力制御)
電子制御ユニット32は、惰性走行による車両減速時にパワーユニット10が発生する制動力の制御(減速時制動力制御)を行う。なお、惰性走行中のエンジン11ではフューエルカットが実施されている。ちなみに、上記のように構成されたパワーユニット10は、フリクション損失やポンピング損失、補機損失等によるエンジン11の回転抵抗を用いたエンジンブレーキと、第1発電電動機12や第2発電電動機13の回生駆動による回生ブレーキと、により制動力を発生可能である。
【0019】
図2に、減速時制動力制御にかかる電子制御ユニット32の制御構造を示す。同図に示すように、電子制御ユニット32は、減速時制動力制御にかかる制御構造として、要求制動力演算部36、目標値設定部37、及び制動力制御部38を備える。
【0020】
要求制動力演算部36は、車両減速時にパワーユニット10が発生する制動力の要求値である要求制動力を、ハイブリッド車両の走行状況に応じて演算する。具体的には、要求制動力演算部36はまず、ハイブリッド車両の減速度の目標値である目標減速度を、アクセル開度、シフト位置、車速、走行抵抗に基づき設定する。目標減速度は、アクセル開度が小さいほど、或いは車速が高いほど、大きい値に設定される。また、目標減速度は、シフト位置がD(ドライブ)ポジションに位置している場合よりも、同シフト位置がB(ブレーキ)ポジションに位置している場合の方が、大きい値に設定される。また、目標減速度は、路面勾配等による走行抵抗が大きいほど、小さい値に設定される。そして、要求制動力演算部36は、目標減速度に基づき、目標減速度分の減速を行うために必要な制動力を、要求制動力の値として演算する。
【0021】
なお、走行抵抗の大きさは、例えばGPSやカーナビゲーションシステムから取得した路面の勾配情報から求めることができる。それ以外にも、次の態様で、走行抵抗を求めることも可能である。減速中のハイブリッド車両の減速度は、パワーユニット10が発生する制動力が同じでも、走行抵抗が大きいほど大きくなる。そのため、パワーユニット10が発生している制動力と、車速の検出結果から求められたハイブリッド車両の減速度との関係から走行抵抗の大きさを求めることが可能である。また、減速開始前の駆動走行時におけるパワーユニット10の駆動力と車速変化率との関係から走行抵抗の大きさを求めておくことも可能である。
【0022】
目標値設定部37は、要求制動力及び車速に基づいて、目標回生制動力、目標フリクション損失、目標ポンピング損失、及び目標補機損失の各目標値を設定する。目標回生制動力は、第1発電電動機12及び第2発電電動機13の回生駆動により発生する制動力の目標値を表している。また、目標フリクション損失、目標ポンピング損失、及び目標補機損失はそれぞれ、エンジン11のフリクション損失、ポンピング損失、及び補機損失の目標値を表している。
【0023】
目標値設定部37による各目標値の設定は、下記態様で行われる。なお、以下の説明では、第1発電電動機12及び第2発電電動機13の回生駆動により発生する制動力を回生制動力と記載する。
【0024】
上記各目標値の設定に際して目標値設定部37はまず、車速、及びバッテリ31の充電状況に基づき、要求制動力に対する回生制動力の分配率を決定する。分配率は、0以上、且つ1以下の範囲において、基本的には車速が高いほど、大きい値となるように設定される。ただし、分配率に従って回生制動力を発生したときに第1発電電動機12及び第2発電電動機13の発電量が上述の最大発電量を超える値となる場合には、同発電量が最大発電量となる値が分配率の値として設定される。
【0025】
続いて、目標値設定部37は、要求制動力に分配率を乗算した積を目標回生制動力の値として設定する。そして、目標値設定部37は、要求制動力から目標回生制動力を引いた差をエンジンブレーキにより発生させる制動力の値(以下、要求エンジンブレーキ力と記載する)として算出する。
【0026】
続いて、目標値設定部37は、スロットル開度により変更可能な範囲において、車速に対して同車速が高いほど大きい値となるように目標ポンプ損失の値を設定する。また、目標値設定部37は、オイルポンプ28の吐出容量の調整により変更可能な範囲において、車速に対して同車速が高いほど大きい値となるように目標補機損失の値を設定する。さらに、目標値設定部37は、目標ポンピング損失分のポンピング損失により生じるポンピング制動力、及び目標補機損失分の補機損失により生じる補機制動力を求めるとともに、それらポンピング制動力及び補機制動力の合計を要求エンジンブレーキ力から引いた差を、目標フリクション制動力の値として算出する。そして、目標値設定部37は、目標フリクション制動力分のフリクション制動力の発生に必要なフリクション損失の値を、目標フリクション損失の値として算出する。
【0027】
一方、制動力制御部38は、目標値設定部37が設定した各目標値に応じてオイルポンプ28、スロットルバルブ27、及びインバータ30を制御する。この制御は、具体的には、下記態様で行われる。
【0028】
まず、制動力制御部38は、目標補機損失分の補機損失を発生するために必要な、エンジン11の補機の駆動負荷を目標補機負荷の値として求める。そして、制動力制御部38は、目標補機負荷分の駆動負荷が発生するようにオイルポンプ28の吐出容量を制御する。
【0029】
また、制動力制御部38は、目標ポンピング損失分のポンピング損失の発生に必要なスロットル開度を目標スロットル開度の値として求める。そして、制動力制御部38は、スロットル開度を目標スロットル開度とするようにスロットルバルブ27を制御する。
【0030】
さらに、制動力制御部38は、目標フリクション損失分のフリクション損失が発生するエンジン回転数を目標エンジン回転数(目標NE)の値として求める。また、制動力制御部38は、エンジン回転数を目標エンジン回転数とし、且つ目標回生制動力分の回生制動力を発生可能な回生トルクを要求回生トルクの値として算出する。なお、第1発電電動機12及び第2発電電動機13の2つの発電電動機を備える本実施形態の場合、第1発電電動機12及び第2発電電動機13のそれぞれの回生制動力の合計が目標回生制動力と同じ値となるように、第1発電電動機12及び第2発電電動機13のそれぞれの要求回生トルクを算出することになる。そして、制動力制御部38は、第1発電電動機12及び第2発電電動機13がそれぞれ、各々の要求回生トルク分の回生トルクを発生するように、インバータ30を制御する。
【0031】
このように、制動力制御部38は、目標回生制動力分の回生制動力を発生し、且つ目標フリクション損失分のフリクション損失、目標ポンピング損失分のポンピング損失、目標補機損失分の補機損失がそれぞれ発生するように第1発電電動機12、第2発電電動機13、及びエンジン11を制御している。
【0032】
(作用効果)
続いて、以上のように構成された本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態のハイブリッド車両の制動力制御装置において目標値設定部37は、回生制動力、フリクション制動力、ポンピング制動力及び補機制動力の合計が要求制動力と同じ値となるように、目標回生制動力、目標フリクション損失、目標ポンピング損失、及び目標補機損失の各目標値を設定している。また、目標値設定部37は、車速が高いときには、同車速が低いときよりも、エンジンブレーキ力に対するフリクション制動力の比率が小さくなるように、目標フリクション損失の値を設定している。さらに、目標値設定部37は、充電制御により発電量が制限されていない場合には、車速が高いときには、同車速が低いときよりも、要求制動力に対するエンジンブレーキ力の比率が小さくなるように要求エンジンブレーキ力の値を設定している。すなわち、この場合の目標フリクション損失の値は、車速が高いときには、同車速が低いときよりも、要求制動力に対するフリクション制動力の比率が小さくなるように設定される。
【0033】
これに対して、制動力制御部38は、目標値設定部37が設定した各目標値に応じた制動力、損失が発生するように、エンジン11及び発電電動機12,13を制御する。そしてこれにより、回生制動力、フリクション制動力、ポンピング制動力、及び補機制動力を足し合わせた、パワーユニット10が発生する制動力の合計が要求制動力分となるように、パワーユニット10の制動力制御が行われる。
【0034】
図4に示すように、こうした本実施形態では、充電制御による発電量の制限がない場合には、車速が高いときには、同車速が低いときよりも、要求制動力(=パワーユニット10が発生する制動力の合計)に対するフリクション制動力の比率が小さくなる。なお、充電制御による発電量が制限された状態でも、車速が高いときには、同車速が低いときよりも、エンジンブレーキ力(=フリクション制動力+ポンピング制動力+補機制動力)に対するフリクション制動力の比率は小さくなる。
【0035】
図5に、本実施形態の制動力制御装置が適用されたハイブリッド車両における車両減速時の車速とエンジン回転数との関係を示す。なお、同図には、要求制動力に対するフリクション制動力の比率を車速に拘らず一定の値とした場合の同関係が点線により併せ示されている。この場合には、車速が高いほど、エンジン回転数は大きく上昇することになる。
【0036】
一方、上記のようにパワーユニット10においてエンジン11は、トランスアクスルダンパ18を介して遊星ギヤ機構17に接続されている。エンジン回転数が上昇するときには、トランスアクスルダンパ18に弾性エネルギが蓄積される。エンジン回転数の上昇が収まると、トランスアクスルダンパ18に蓄積された弾性エネルギが開放されて、トルク変動が発生する。
【0037】
図6に示すように、このときのトルク変動は、エンジン回転数が高くなるほど大きくなる。そのため、フリクション制動力の比率を車速に拘らず一定の値とした場合には、高車速での減速時に、大きなトルク変動が発生して、パワーユニット10に設けられたギヤの歯打ちによる振動や騒音が発生する虞がある。
【0038】
エンジン11のフリクション損失、及び同フリクション損失により発生するフリクション制動力の大きさは、エンジン回転数によりほぼ一義的に定まり、エンジン回転数が高いほど大きくなる。よって、回生制動力、ポンピング制動力、及び補機制動力の比率を高めて、その分、フリクション制動力の比率を低くすれば、より低いエンジン回転数で、パワーユニット10が同等の制動力を発生できるようになる。
【0039】
本実施形態では、高車速時には、フリクション制動力の比率が低くなるように車両減速時のパワーユニット10の制動力制御を行っている。そのため、高車速での減速中のエンジン回転数の上昇を、ひいては同エンジン回転数の上昇に伴うトルク変動により発生する振動や騒音を抑制できる。
【0040】
なお、第1発電電動機12及び第2発電電動機13の発電量が、充電制御により制限されている場合、発生可能な回生制動力も自ずと制限されることになる。また、ポンピング損失や補機損失の増大にも限界がある。そのため、充電制御により発電量が制限された状態では、高車速での減速中に、振動や騒音の抑制に必要なレベルまでフリクション制動力の比率を低減できなくなる虞がある。
【0041】
これに対して本実施形態では、充電制御において、駆動走行時には、高車速域におけるバッテリ31の充電率の上限値を、惰性走行時よりも低い値としている。そのため、本実施形態では、バッテリ31の充填率に、上限値に対する一定以上のマージンが確保された状態で、高車速での減速が開始されることになる。そのため、高車速での減速中に、充電制御により発電量が制限された状態となり難くなる。なお、減速から加速に転じた際には、上限値が引き下げられるため、バッテリ31の充電率が一時的に制御範囲の上限値を上回った状態となることがある。そうした場合にも、加速のための発電電動機12,13の駆動運転による電力消費により、充電率が制御範囲を逸脱した状態は速やかに解消される。
【0042】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施形態では、高車速での減速時におけるフリクション制動力の比率低減のためのポンピング損失の増大を、スロットル開度を小さくすることで実現していた。吸排気バルブのバルブ特性を可変とする可変動弁機構付きのエンジンを備えたハイブリッド車両に適用する場合には、可変動弁機構によるバルブ特性の変更を通じてポンピング損失の増大を図ることもできる。
図7は、吸気バルブのバルブタイミングを可変とするタイプの可変動弁機構を備えるエンジンにおける吸気バルブの閉弁時期とポンピング損失との関係を示す。同図に示すように、吸気バルブの閉弁時期にはポンピング損失が最小となる時期があり、その時期よりも閉弁時期が進角、遅角するほど、ポンピング損失は増加する。そのため、吸気バルブのバルブタイミングの変更によっても、高車速での減速時における上記ポンピング損失の増大を実現することができる。また、排気バルブのバルブタイミングの変更や吸/排気バルブのバルブリフト量の変更により、高車速での減速時における上記ポンピング損失の増大を実現することも可能である。さらに、排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)を行うエンジンでは、EGRバルブの開度を絞ることでも上記ポンピング損失の増大を行うことができる。また、電磁バルブなど、吸排気バルブの開閉動作の停止(弁停止)が可能な動弁機構を備えるエンジンでは、間欠的に弁停止を行うとともに、その弁停止の間隔を変更することでポンピング損失の大きさを調整することができる。よって、高車速での減速時における上記ポンピング損失の増大を、そうした間欠的な弁停止により実現することも可能である。
【0043】
・上記実施形態では、高車速での減速時におけるフリクション制動力の比率低減のための補機損失の増大を、オイルポンプ28の吐出容量を増すことで実現していた。エンジンとの動力伝達を断接可能な電磁クラッチを備える空調用コンプレッサが補機として設けられたエンジンでは、電磁クラッチの断接により補機損失を増減することができる。そこで、高車速での減速時における上記補機損失の増大を、空調用コンプレッサの電磁クラッチの接続により実現してもよい。
【0044】
・上記実施形態では、高車速での減速時におけるフリクション制動力の比率低減に際してポンピング損失及び補機損失の双方を増大することで実現していたが、ポンピング損失及び補機損失のいずれか一方のみを増大することで実現してもよい。
【0045】
・上記実施形態が適用されたハイブリッド車両では、トランスアクスルダンパ18に蓄積された弾性エネルギの開放によるトルク変動が、高車速での減速中の振動や騒音の主たる要因となっていた。トランスアクスルダンパ18が設けられていない場合にも、エンジン回転数の上昇は、程度に違いこそあれ、パワーユニット10でのトルク変動を招くことに変わりはない。よって、トランスアクスルダンパ18が設けられていないハイブリッド車両に本実施形態の制動力制御装置を適用しても、高車速での減速中の振動や騒音の抑制に効果がある。
【0046】
・エンジン11のピストン等のフリクションは、熱膨張や潤滑油粘度の温度変化、摺動面の摩耗等によっても変化する。また、エンジンブレーキ力は、慣性の影響によっても変化する。そのため、上記実施形態の減速時制動力制御により発生するエンジンブレーキ力が要求から多少ずれてしまうことがある。これに対しては、減速前の駆動走行中のエンジン11の要求駆動力と実際の駆動力の変化とに基づいてエンジン11のフリクションや慣性を予測し、その予測結果に応じて要求エンジンブレーキ力を補正することで、上記エンジンブレーキ力のずれを抑えることが可能である。
【0047】
・上記実施形態では、駆動走行中の高車速域のバッテリ31の充電率の上限値を低下させていた。そして、これにより、上限値に対する充電率のマージンを予め確保しておくことで、高車速での減速中に充電制御による発電量の制限により十分な回生制動力を確保できない状態となり難くしていた。GPSやカーナビゲーションシステムから得た進路情報から、長い下り坂などのパワーユニット10が発生する制動力による減速走行が行われる可能性が高い経路を将来走行することが予測される場合に、バッテリ31の充電率の上限値を低下させるようにしてもよい。こうした場合にも、高車速での減速に際して予め、上限値に対する充電率のマージンを予め確保しておくことが可能である。