(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態の成膜装置1について
図1〜
図6を参照して説明する。
【0010】
本実施形態の成膜装置1は、一定の搬送速度で搬送される基材Wの表面に導電膜を真空中において成膜する装置に関するものである。基材Wとしては、例えば合成樹脂製のフィルムなどである。
【0011】
(1)成膜装置1
成膜装置1の構造について
図1〜
図3を参照して説明する。
図1、
図2に示すように、成膜装置1は、真空室10と移動台8を有している。
【0012】
真空室10は、床に載置された水平台2に固定台9を介して水平に配置されている。
図3に示すように、真空室10は、縦断面が多角形をなし、左、下、右の外壁12は、同じ大きさであり、後面は閉塞されている。真空室10の前面は開口し、扉14で覆われている。真空室10には、ロール(キャンロール)18が前後方向に、かつ、回転する軸が水平になるように配されている。真空室10内であって、ロール18の外周の上方には上部室24が配され、ロール18の左方、下方、右方に成膜室26が3個設けられている。上部室24の上面は、基材Wの出入り口16として開口し、不図示の搬入出装置と接続されている。この搬入出装置は真空状態で基材Wを搬送する。左方、下方、右方の成膜室26の外周壁は、外壁12と兼ねている。
【0013】
図1と
図2に示すように、真空室10の前方にある水平台2の上には、前後方向に左右一対のリニアレール4,4が設けられている。移動台8が、左右一対のリニアレール4,4をレール移動部6を介して前後方向に移動自在に設けられている。
【0014】
(2)ロール18
ロール18について
図3〜
図5を参照して説明する。
【0015】
図3に示すように、ロール18は、基材Wを抱えて回転し、基材Wを一定の搬送速度で搬送する。
【0016】
図4に示すように、ロール18の前回転軸20は、扉14に設けられている貫通孔28を貫通している。また、前回転軸20は、扉14の後面であって貫通孔28の位置に設けられた前軸受30によって回転自在に支持されている。
【0017】
図4に示すように、扉14の後面下部には、左右一対のロール支持部材32が後方に向かって取り付けられている。左右一対のロール支持部材32は、前端部に設けられた前支持部34と、後端部に設けられた後支持部36と、前支持部34と後支持部36を接続する水平部38とよりそれぞれ構成されている。
【0018】
図5に示すように、左側の前支持部34は、貫通孔28の下方から扉14の後面下部の左側部に向かって傾斜した状態で取り付けられ、右側の前支持部34は、扉14の後面下部の右側部に向かって傾斜して取り付けられている。これにより、左右一対のロール支持部材32は、「ハ」字状に対向するように取り付けられている。これにより、ロール18は、
図2に示すように、「ハ」の字状に対向した左右一対のロール支持部材32によって片持ちされた状態で支持されている。
【0019】
図5に示すように、左右一対の後支持部36には、後面板40が設けられている。後面板40は、円板58、左右一対の脚板60,60、上板62とより構成されている。円板58の中央には、後軸受42が設けられ、ロール18の後回転軸22を回転自在に支持している。左右一対の脚板60,60は 円板58の下部からそれぞれ「ハ」の字状に突出し、水平部38の後部に固定されている。上板62は、円板58の上部から突出し、上部室24の後面に配されている。この後面板40は、後軸受42を確実に支持するために設けられ、ロール支持部材32によって保持されている。
【0020】
図3と
図5に示すように、ロール18の上方であって、扉14と後面板40の上板62との間には、回転自在に2本の搬入ロール44,46と2本の搬出ロール48,50が回転自在に取り付けられている。
【0021】
(3)上部室24と成膜室26
次に、上部室24と3個の成膜室26について
図3と
図5を参照して説明する。
図3に示すように、真空室10の縦断面は多角形であり、各辺の外壁12の内側に上部室24と3個の成膜室26が設けられている。左上、右上の外壁12からロール18の前後回転軸20,22に向かって隔壁52が前後方向に設けられている。この隔壁52の左右方向の長さは、ロール18の外周部に至るまでである。左下、右下の外壁12からロール18の前後回転軸20,22に向かって隔壁53が前後方向に設けられている。
図3に示すように、ロール18の下方にある成膜室26の両側にある一対の隔壁53は、他の隔壁52よりも短く、この位置にロール支持部材32の水平部38が配置される。すなわち、下方の成膜室26に関しては、隔壁53と水平部38によって、区画されている。
【0022】
図3に示すように、上部室24の上方には、出入り口16が開口している。また、搬入ロール44,46と搬出ロール48,50が前後方向に配されている。搬入ロール46と搬出ロール48は、ロール18に基材Wを押圧するように配されている。
【0023】
図3に示すように、それぞれの成膜室26の中央部には、成膜形成装置54が前後方向にそれぞれ配されている。成膜形成装置54は、内周側から所定のプロセスガスを真空中に噴射し(
図3の矢印)、成膜形成装置54の内周側に設けられた電極からの放電によって、ロール18に搬送されている基材Wの表面に導電膜を形成する。
【0024】
図3に示すように、それぞれの成膜室26の外壁12の外部には、真空ポンプ56が設けられ、それぞれの成膜室26を真空にする。真空ポンプ56は、
図5に示すように、それぞれの成膜室26の外壁12の前後方向及び左右方向の中央にある。
【0025】
図3に示すように、それぞれの成膜室26は、一対の隔壁52,52(一対の隔壁53,53)と外壁12によって囲まれ、内周側は、ロール18の表面に面している。そして、
図3に示すように、それぞれの成膜室26の縦断面形状は、どの部屋であっても同じ形状で、かつ、同じ大きさを有している。
【0026】
図3の矢印が示すように、成膜形成装置54の内周側からプロセスガスを噴射してロール18に当たり跳ね返ると、成膜形成装置54の両側と一対の隔壁52,52(一対の隔壁53,53)に沿って流れ、真空ポンプ56に吸い込まれる。このときに、それぞれの成膜室26の縦断面形状は同じ形状で、かつ、同じ大きさであるため、どの部屋であっても同じようにプロセスガスが流れて、部屋による条件が異なることなく、それぞれの成膜形成装置54で形成される導電膜などが均等となる。
【0027】
(4)扉14の構造
次に、扉14の構造について
図4と
図6を参照して説明する。ロール18は、左右一対のロール支持部材32によって片持ち状態にあり、前回転軸20は、前軸受30に回転自在に支持され、貫通孔28を貫通している。そのため、真空室10を真空にした場合に、扉14が前後方向に歪むと、片持ち状態のロール18の後部が下がることとなる。これを防止するため、本実施形態では、扉14は次の構造を有している。
【0028】
図6に示すように、扉14は、前扉板72と後扉板74とを有し、相対向する面には例えば、それぞれ凹部が形成され、両者を合わせた状態で扉14よりも一回り小さい空間76が形成されている。なお、凹部を形成する構造に限らず、前扉板72と後扉板74に凸部と凹部を形成する構造でもよい。前扉板72と後扉板74とは、シール部材78を介して複数のボルト80で固定されている。前扉板72を貫通している貫通孔28の内周には、真空シール軸受82が設けられ、前回転軸20を回転自在に支持している。この真空シール軸受82の後部は、蛇腹状の接続部材84を介して扉14の前面に取り付けられている。
【0029】
この構造により、真空室10が真空状態になっても、
図6の二点鎖線に示すように、真空引きで変形する部分は扉14の前扉板72のみになる。すなわち、
図6に示すように、真空室10が真空になると、前軸受30、貫通孔28を介して空間76も真空になる。そのため、前扉板72は後方に凹む。しかし、後扉板74の前方と後方は両方とも真空状態であるため、垂直な状態を維持でき、前軸受30によって支持されている前回転軸20が水平状態から傾くことなく、さらにロール支持部材32が後扉板74に固定された状態となっているため、後部が下がることがない。
【0030】
また、前扉板72が後方に歪んでも、蛇腹状の接続部材84によってその歪みを吸収できるため、真空シール軸受82の水平状態を維持できる。
【0031】
また、前扉板72の貫通孔28には真空シール軸受82が設けられているため、真空室10の真空状態を保持できる。
【0032】
(5)ロール18の引き出し構造
ロール18の引き出し構造について
図1〜
図3、
図5を参照して説明する。
【0033】
図1と
図2に示すように、真空室10の前方にある水平台2の上には、前後方向に左右一対のリニアレール4,4が設けられている。左右一対のリニアレール4,4の上には、移動台8が、レール移動部6を介して前後方向に移動自在に設けられている。
【0034】
図1と
図2に示すように、移動台8の上部にはフレーム64が設けられ、扉14の前面が固定されている。これによって、扉14が移動台8と共に前後方向に移動する。フレーム64の内部には、減速機66、ロールモータ68、移動モータ70が設けられている。扉14の貫通孔28を介して貫通したロール18の前回転軸20は、減速機66を介してロールモータ68に接続され、一定の回転速度で回転する。移動モータ70は、移動台8を左右一対のリニアレール4,4に沿って一定の走行速度で前後方向に移動させる。この移動方法としては、例えば左右一対のリニアレール4の間にラックを水平台2に設け、このラックと螺合するギアを移動モータ70で回転させることにより移動させる。
【0035】
図2に示すように、扉14が移動台8と共に前方に移動すると、左右一対のロール支持部材32によって片持ちされた状態のロール18が外側に引き出される。このとき、搬入ロール44,46と搬出ロール48,50も同時に搬出される。そして、
図3、
図5に示すように、後面板40は、円板58、脚板60、上板62より形成されているため、5つの成膜室26の隔壁52に当たることなく引き出すことができる。
【0036】
逆に、
図1に示すように、扉14が移動台8と共に後方に移動すると、左右一対のロール支持部材32によって片持ちされた状態のロール18が真空室10に挿入される。
【0037】
(6)成膜装置1の動作状態
成膜装置1の動作状態について説明する。
【0038】
図1、
図4に示すように、真空室10内部にロール18を収納して、扉14を閉めて密閉状態にする。
【0039】
図3に示すように、真空室10内の上部室24、3個の成膜室26を3台の真空ポンプ56で真空にする。ロールモータ68が、ロール18を一定の回転速度で回転させる。
【0040】
図3に示すように、真空室10の出入り口16から上部室24に搬入された基材Wは、搬入ロール44を経て搬入ロール46に至り、基材Wはロール18によって搬送される。ロール18に搬送される基材Wは、左方にある成膜室26、下方にある成膜室26、右方にある成膜室26を経て、上部室24の搬出ロール48と搬出ロール50を介して出入り口16から搬出される。
【0041】
図3に示すように、それぞれの成膜室26においては、成膜形成装置54の内周側からプロセスガスが噴射され、成膜形成装置54の電極が帯電され、ロール18の外周面を走行している基材Wの表面に導電層が形成される。プロセスガスは、ロール18に当たり跳ね返った成膜形成装置54の両側と隔壁52に沿って流れ、真空ポンプ56によって外部に排出される。この場合に、真空ポンプ56は、それぞれの成膜室26の外壁12の前後方向及び左右方向の中央にあるため、プロセスガスが成膜室26内を均一に流れる。
【0042】
(7)効果
本実施形態によれば、真空室10から扉14を移動台8と共に引き出すと、ロール18、搬入ロール44,46と搬出ロール48,50が引き出されるため、それぞれの成膜室26の内周側が全て開口し、それぞれの成膜室26とロール18を簡単に清掃し、メンテナンスすることができる。
【0043】
また、真空室10が真空状態になっても、
図6の二点鎖線に示すように、真空引きで変形する部分は扉14の前扉板72のみになる。後扉板74にある前軸受30によって支持されている前回転軸20が水平状態から傾くことなく、さらにロール支持部材32が後扉板74に固定された状態となっているため、ロール18の後方が下がることがない。そのため、ロール18で搬送されている基材Wに皺や蛇行が発生することがない。
【0044】
また、左右一対のロール支持部材32は、「ハ」字状に対向するように扉14に取り付けられているため、ロール18を片持ちしても確実に支持できる。
【0045】
また、前扉板72が後方に歪んだ場合でも蛇腹状の接続部材84によってその歪みを吸収できるため、真空シール軸受82の水平状態を維持できる。
【0046】
また、前扉板72の貫通孔28には真空シール軸受82が設けられているため、真空室10の真空状態を保持できる。
【0047】
また、それぞれの成膜室26の縦断面形状は同じ形で、かつ、同じ大きさであるため、
図3に示すように、成膜形成装置54の内周側からプロセスガスを噴射しても、成膜形成装置54の両側と隔壁52,53に沿って流れ、真空ポンプに56に吸い込まれるので、どの部屋であっても同じようにプロセスガスが流れる。そのため、成膜室26によって成膜条件が異なることなく、それぞれの成膜形成装置54で形成される導電膜などが均等となる。
【0048】
また、真空ポンプ56は、それぞれの成膜室26の外壁12の前後方向及び左右方向の中央にあるため、プロセスガスが成膜室26内を均一に流れる。
【0049】
次に、成膜装置1の変更例について説明する。
【0050】
上記実施形態では、それぞれの成膜室26の外壁12の前後方向及び左右方向の中央に真空ポンプ56を一台設けたが、これに限らず、プロセスガスを均等に流す配置であれば、一つの成膜室26に2台以上の真空ポンプ56を均等に設けてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では3個の成膜室26を設けたが、これに代えて
図7に示すように4個の成膜室26を設けてもよい。この場合であってもそれぞれの成膜室26は同じ形状、かつ、同じ大きさであって、真空ポンプ56は成膜室26の外壁12の中央部に設けられている。但し、4個の成膜室26を形成する場合には、ロール18の支持を確実にするために、ロール支持部材32を2枚でなく3枚設け、3枚目のロール支持部材32は垂直方向に配置する。
【0052】
また、図示はしないが、5個の成膜室26を設けてもよい。この場合には、真空室10は、縦断面が多角形をなし、左上、左下、下、右下、右上の外壁12は、同じ大きさであり、後面は閉塞されている。真空室10の前面は開口し、扉14で覆われている。真空室10には、ロール(キャンロール)18が前後方向に、かつ、回転する軸が水平になるように配されている。真空室10内であって、ロール18の外周の上方には上部室24が配され、ロール18の左上方、左下方、下方、右下方、右上方に成膜室26が5個設けられ、それぞれの成膜室26は同じ形状、かつ、同じ大きさであって、真空ポンプ56は成膜室26の外壁12の中央部に設けられている。
【0053】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。