(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記注入部は、前記注入部の外表面に配置された操作部と、前記操作部と連結した閉塞部材と、を有し、前記チューブ体は、前記拡張部の内腔に配置された前記チューブ体の端部に開口部を備え、
前記閉塞部材は、前記操作部を押圧していない状態では、前記開口部を封止しており、前記操作部を押圧した状態では、前記開口部と前記注入部との間を連通する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の止血器具。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態およびその変形例を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1〜
図7を参照して、本実施形態に係る止血器具10を説明する。
図1〜
図5は、止血器具10の各部の説明に供する図である。
図6および
図7は、止血器具10の使用例の説明に供する図である。
【0012】
実施形態に係る止血器具10は、
図6および
図7に示すように、治療・検査等を行うカテーテル等を血管内に挿入する目的で、手首W(「肢体」に相当)の橈骨動脈Rに形成された穿刺部位P(「止血すべき部位」に相当)に留置していたイントロデューサーシースを抜去した後、その穿刺部位Pを止血するために使用するものである。
【0013】
止血器具10は、
図1、
図2に示すように、手首Wに巻き付けるための帯体20と、帯体20を手首Wに巻き付けた状態で固定する面ファスナー30(「固定手段(固定部材)」に相当)と、空気(「気体」に相当)を注入することにより拡張し、穿刺部位Pを圧迫する拡張部40と、拡張部40と帯体20との間に設けられた補助圧迫部45と、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせするためのマーカー40cと、拡張部40および補助圧迫部45へ空気を注入可能な注入部60と、拡張部40の拡張空間40a(内腔)と注入部60の収容空間60a(内腔)を繋ぐチューブ体70と、を有している。
【0014】
なお、本明細書中では、帯体20を手首Wに巻き付けた状態のとき、手首Wの体表面に向かい合う側の面(装着面)を「内面」と称し、その反対側の面を「外面」と称する。
【0015】
帯体20は、可撓性を備える帯状の部材によって構成しているベルト21と、ベルト21よりも硬度の高い支持板22と、を備えている。
【0016】
ベルト21は、
図6および
図7に示すように、手首Wの外周を略一周するように巻き付けられる。
図2に示すように、ベルト21の中央部には、支持板22を保持する支持板保持部21aが形成されている。支持板保持部21aは、外面側(または内面側)に別個の帯状の部材が融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)または接着(接着剤や溶媒による接着)等の方法によって接合されることにより、二重になっており、これらの隙間に挿入された支持板22を保持する。
【0017】
ベルト21の
図1中の左端付近の部分の外面側には、面ファスナー30の雄側(または雌側)31が配置されており、ベルト21の
図1中の右端付近の部分の内面側には、面ファスナー30の雌側(または雄側)32が配置されている。面ファスナー30は、例えば、日本でVELCRO(登録商標)又はマジックテープ(登録商標)のような一般的な製品として知られるhook and loop fastenerである。
図7に示すようにベルト21を手首Wに巻き付け、雄側31および雌側32が接合することにより、帯体20が手首Wに装着される。なお、帯体20を手首Wに巻き付けた状態で固定する手段は、面ファスナー30に限らず、例えば、スナップ、ボタン、クリップ、またはベルト21の端部を通す枠部材などの固定部材を用いてもよい。
【0018】
ベルト21の構成材料は、可撓性を備える材料であれば特に限定されない。そのような材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等)が挙げられる。
【0019】
また、ベルト21において少なくとも拡張部40と重なっている部分は、実質的に透明であることが好ましいが、透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、穿刺部位Pを外面側から視認することができ、後述するマーカー40cを穿刺部位Pに容易に位置合わせすることができる。
【0020】
支持板22は、
図2に示すように、ベルト21の二重に形成された支持板保持部21aの間に挿入されることによりベルト21に保持されている。支持板22は、その少なくとも一部が内面側(装着面側)に向かって湾曲した板形状をなしている。支持板22は、ベルト21よりも硬質な材料で構成されており、ほぼ一定の形状を保つようになっている。しかしながら、ベルト21に支持板22を配置する方法は、図示された構成に限定されず、融着や接着のような適切な方法で帯体20の内表面又は外表面に支持板22を接合することを含んでもよい。同様に、他の許容できる構成は、ベルト21が支持板22の両端部に接続される構成である。そのため、支持板22の全体がベルト21に重なることは必須ではない。
【0021】
支持板22は、ベルト21の長手方向に長い形状をなしている。この支持板22の長手方向における中央部22aは、ほとんど湾曲せずに平板状になっており、この中央部22aの両側には、それぞれ、内周側に向かって、かつ、ベルト21の長手方向(手首Wの周方向)に沿って湾曲した第1湾曲部22b(
図2の左側)および第2湾曲部22c(
図2の右側)が形成されている。
【0022】
支持板22の構成材料は、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル(特に硬質ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンのようなポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、アイオノマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、芳香族または脂肪族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂等が挙げられる。
【0023】
支持板22は、ベルト21と同様に、拡張部40と重なる部分が実質的に透明であることが好ましいが、透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、穿刺部位Pを外面側から確実に視認することができ、後述するマーカー40cを穿刺部位Pに容易に位置合わせすることができる。なお、支持板22は、中央部22aのような湾曲していない部分を有さないもの、すなわち、その全長にわたり湾曲しているものであってもよい。
【0024】
拡張部40は、空気を注入することにより拡張し、穿刺部位Pに圧迫力を付与する機能を備えている。本実施形態では、拡張部40は、
図1および
図2に示すように、略矩形状の2枚のシートを重ね合わせ、周縁を接着または融着した袋状の部材によって構成している。これにより、2枚のシートの間に拡張空間40aが形成されている。なお、拡張部40の構成は、空気を注入することにより拡張可能であれば特に限定されない。例えば、拡張部40は、1枚のシートを折り曲げ、縁部を接着または融着した袋状の部材によって構成してもよいし、縁部を備えない風船状の部材によって構成してもよい。また、拡張部40の外形形状は、特に限定されない。例えば、拡張部40は、拡張していない状態において、平面視した際に、円形、楕円形、多角形等の外形形状を備えていてもよい。
【0025】
拡張部40は、
図2に示すように、支持板22の第1湾曲部22bおよび中央部22aの間の近辺と重なるように配置されている。このため、
図7に示すように、拡張部40を拡張させた際、ベルト21および支持板22により、拡張部40の手首Wの体表面から離れる方向への拡張が抑制され、拡張部40の圧迫力が手首W側に集中する。このため、穿刺部位Pを好適に圧迫することができる。
【0026】
拡張部40は、チューブ体70に対して連結される連結部40bを有している。拡張部40は、チューブ体70の一部が拡張空間40a内に挿入された状態で、連結部40bを介してチューブ体70と連結されている。チューブ体70は、帯体20に形成した貫通孔20aを貫通した状態で帯体20に連結されている。拡張部40とチューブ体70の連結方法およびチューブ体70と帯体20との連結方法は、特に限定されないが、例えば、融着や接着剤による接着等の方法を採用することができる。なお、拡張部40は、例えば、帯体20のベルト21に対して直接連結してもよい。また、チューブ体70は、帯体20のベルト21、帯体20の支持板22、および注入部60のうちの任意の部材に対して固定することが可能である。
【0027】
拡張部40の構成材料は、可撓性を備える材料であれば特に限定されず、例えば、前述した帯体20の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0028】
拡張部40は、実質的に透明であることが好ましいが、透明に限定されず、半透明または有色透明であってもよい。これにより、穿刺部位Pを外面側から視認することができ、後述するマーカー40cを穿刺部位Pに容易に位置合わせすることができる。
【0029】
補助圧迫部45は、
図7に矢印で示すように、拡張部40を押圧して、拡張部40が穿刺部位Pに付与する圧迫力の方向を調整する機能を備えている。
【0030】
補助圧迫部45は、拡張部40と同様に、袋状の部材によって構成している。なお、補助圧迫部45は、例えば、スポンジ状の物質、弾性材料、綿のような繊維の集合体、またはこれらの組合せなどによって構成してもよい。
【0031】
補助圧迫部45は、その内部空間が拡張部40の拡張空間40aと連通するように、拡張部40に取り付けられている。このため、拡張部40に空気を注入すると補助圧迫部45も拡張される。
【0032】
マーカー40cは、
図2に示すように、拡張部40において帯体20に面する側の略中央に設けられている。拡張部40にこのようなマーカー40cを設けることによって、拡張部40を穿刺部位Pに対して容易に位置合わせすることができるため、拡張部40の位置ズレが抑制される。なお、マーカー40cは拡張部40において手首Wに面する側に設けてもよい。この際、マーカー40cは、穿刺部位Pと直接接触しないように、拡張部40内の内表面に設けられることが好ましい。なお、マーカー40cを設ける位置は、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせ可能である限り特に限定されない。例えば、マーカー40cは、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせ可能である限り、ベルト21や支持板22に設けられていてもよい。
【0033】
マーカー40cの形状は、特に限定されず、例えば、円、三角形、四角形等が挙げられ、本実施形態では、四角形をなしている。
【0034】
マーカー40cの大きさは、特に限定されないが、例えば、マーカー40cの形状が四角形をなしている場合、その一辺の長さが1〜4mmの範囲であることが好ましい。一辺の長さが5mm以上であると、穿刺部位Pの大きさに対してマーカー40cの大きさが大きくなるため、拡張部40の中心部を穿刺部位Pに位置合わせし難くなる。
【0035】
マーカー40cの材質は、特に限定されず、例えば、インキ等の油性着色料、色素を混練した樹脂等が挙げられる。
【0036】
マーカー40cの色は、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせすることができる色であれば特に限定されないが、緑色系が好ましい。緑色系にすることにより、マーカー40cを血液や皮膚上で容易に視認することができるため、拡張部40を穿刺部位Pに位置合わせすることがより容易となる。
【0037】
また、マーカー40cは半透明または有色透明であることが好ましい。これにより、穿刺部位Pをマーカー40cの外面側から視認することができる。
【0038】
拡張部40にマーカー40cを設ける方法は特に限定されないが、例えば、マーカー40cを拡張部40に印刷する方法、マーカー40cを拡張部40に融着する方法、マーカー40cの片面に接着剤を塗布して拡張部40に貼り付ける方法等が挙げられる。
【0039】
次に、注入部60およびチューブ体70について説明する。
図3には、注入部60およびチューブ体70の概観斜視図を示している。
【0040】
注入部60は、拡張部40に空気を注入する機能を備えている。チューブ体70は、当該チューブ体70に取り付けたカバー部72を有している。チューブ体70およびカバー部72は、拡張部40の拡張空間40aから空気が不用意に排出されるのを防止する逆流防止機構50を構成している。
【0041】
注入部60は、
図2および
図3に示すように、空気を収容可能な収容空間(内腔)60aを備える立体形状の部材によって構成されている。
【0042】
注入部60は、帯体20の外面側に配置されている底面部61と、底面部61から帯体20が設けられていない側に向かって立ち上がる縦壁部62と、縦壁部62に連なるとともに底面部61と対向する上面部63と、を備えている。縦壁部62には、収容空間60a内外を連通する孔部60bが形成されている。
【0043】
収容空間60aは、底面部61、縦壁部62および上面部63に囲まれた空間に相当する。本実施形態では、注入部60は、円柱状の外形形状を備えるように形成されているが、注入部60の外形形状は特に限定されない。注入部60の外形形状は、例えば、四角柱等の多角柱であってもよいし、底面部、縦壁部および上面部の区別がない球等であってもよい。また、注入部60は、例えば、縦壁部62の外周が底面部61側から上面部63側(底面部61から離間する方向)に向かって小さくなるテーパー形状(
図4(A)に示す断面において、底面部61から上面部63側に向けて徐々に外周が小さくなる形状)に形成することも可能である。
【0044】
注入部60の収容空間60aの容積は、拡張部40の拡張空間40aの容積の1/4〜1/3程度であることが好ましい。これにより、注入部60を適度な大きさに形成し、注入部60が止血器具10の周辺で行われる手技等を妨げるのを防止するとともに、後述する拡張部40に空気を注入する注入動作を行う回数を低減することができる。
【0045】
注入部60は、帯体20の外面側に配置されている。このため、注入部60が帯体20から手首W側へ突出するように設けられている場合と比較すると、注入部60が装着者の手首Wと接触しにくく、装着者が感じる不快感を低減することができる。また硬度の高い支持板22上において拡張部40に空気を注入する注入動作を行うことができるため、注入動作が容易となる。なお、注入部60を配置する位置は、帯体20上に配置されていることが好ましいが、特に限定されることはない。
【0046】
注入部60に形成された孔部60bは、注入部60の延在方向(
図3の上下方向)と交差する方向に縦壁部62を貫通している。孔部60bは、収容空間60a内へ空気を取り込むことを可能にする。例えば、拡張部40を拡張させる際は、
図4(B)に示すように、注入部60を摘まむように手指を配置し、手指で孔部60bを塞ぎつつ、注入部60を押し潰す。この操作により、収容空間60a内の空気は、注入部60に連結されたチューブ体70の内腔70aへ送り込まれる。後述するように、チューブ体70の内腔70aに送り込まれた空気により、チューブ体70の内腔70aと拡張部40の拡張空間40aとを連通させることが可能になる。
【0047】
上記のように、注入部60の孔部60bは縦壁部62に形成している。このため、注入部60を押し潰す際の押圧力は、帯体20の内面側に位置する穿刺部位Pに比較的伝わりにくくなる(
図7を参照)。したがって、拡張部40に空気を注入する注入動作によって穿刺部位Pを必要以上に圧迫してしまう事態を好適に防止することができる。また、上記のように、注入部60を押し潰す押圧力は、穿刺部位Pに比較的伝わりにくくなるため、拡張部40を拡張する際、装着者は拡張部40が穿刺部位Pに付与する圧迫力のみを比較的正確に把握することができる。これにより、装着者が感じる圧迫力に基づいて、拡張部40に穿刺部位Pの止血に最適な量の空気を注入することができる。さらに、孔部60bが縦壁部62に形成されているため、孔部60bが上面部63に形成されている場合に比べて、孔部60bが周辺の物品等と接触して塞がれる可能性が低くなる。このため、注入部60は、意図せずに押し潰されて、拡張部40に不用意に空気が注入するのを防止できる。
【0048】
なお、注入部60に形成する孔部60bの個数、位置、形状等は、特に限定されず、注入部60から拡張部40へ空気を注入することが可能な限りにおいて適宜変更することが可能である。
【0049】
注入部60は、例えば、シリコーンゴム、ラテックスゴム等のエラストマー素材やポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性プラスチック素材、またこれら両方の性質を併せ持つ各種熱可塑性エラストマー素材によって構成することができる。
【0050】
チューブ体70は、
図3および
図4(A)に示すように、注入部60の底面部61側に取り付けている。チューブ体70は、空気が流通可能な内腔70aと、内腔70aと連通し、注入部60の収容空間60aに臨むように配置された基端開口部70bと、拡張部40の拡張空間40a内に配置された先端開口部70cと、拡張部40内で開口する孔部71と、を有している。
【0051】
チューブ体70は、さらに、孔部71を覆うようにチューブ体70に配置されたカバー部72を有している。カバー部72は、チューブ体70の内腔70aと拡張部40の拡張空間40aとの連通および連通状態の遮断を切り替え可能な連通部72aを有している。
【0052】
チューブ体70は、略円柱形状の外形形状を備えている。チューブ体70の内腔70aは、チューブ体70の延在方向(軸方向)に沿って形成されている。チューブ体70の孔部71は、チューブ体70の先端側(
図3中の下側)に形成されており、チューブ体70の内腔70aと直交するようにチューブ体70の外表面に向けて開口している。
【0053】
カバー部72は、略円筒形状に形成されており、チューブ体70の先端側を覆うように配置されている。カバー部72の内径は、カバー部72が孔部71を覆うようにチューブ体70に配置された状態で、チューブ体70の外表面に密着する大きさで形成している。このため、注入部60から拡張部40へ空気を注入していない状態では(
図4(A)を参照)、チューブ体70の外表面とカバー部72の内表面が密着する。
【0054】
チューブ体70の構成材料は、カバー部72よりも硬度の高い材料であることが好ましい。そのような材料としては、例えば、公知の金属材料、プラスチック材料等が挙げられる。
【0055】
カバー部72の構成材料は、弾性部材であることが好ましく、そのような材料としては、例えば、ブチルゴム、多硫化ゴム、エピクロロヒドリンゴム、高ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等のエラストマー素材及び各種熱可塑性エラストマー素材等が挙げられる。
【0056】
図4(A)に示すように、カバー部72の先端部および基端部は、チューブ体70の外表面との間を封止した状態でチューブ体70に固定している。カバー部72とチューブ体70は、接着剤78により固定しているが、例えば、融着で固定することも可能である。カバー部72の先端部および基端部とチューブ体70の外表面との間を封止することにより、カバー部72の先端側および基端側から空気が放出されるのを防止することができる。これにより、チューブ体70の内腔70aを経由した空気は、連通部72aへ効率良く送り込まれるため、連通部72aを介して拡張空間40a内へ空気を移動させることが可能になる。なお、カバー部72の先端側および基端側から空気が放出されなければ、カバー部72の先端部および基端部は、チューブ体70の外表面に固定されていなくてもよい。
【0057】
本実施形態では、カバー部72の連通部72aは、カバー部72を厚み方向に貫通するスリット(切れ目)で形成している。スリットは、チューブ体70の軸心に対して垂直な断面(
図4(A)に示す断面)において、チューブ体70の孔部71と重ならないように、チューブ体70の孔部71よりも基端側(
図4(A)中の上方側)に形成している。また、スリットは、カバー部72の延在方向(軸方向)と直交する方向に延びた形状で、カバー部72に1つ形成している。
【0058】
連通部72aは、上記のように、例えばスリットで構成することが可能であるが、後述するように拡張部40の拡張空間40aとチューブ体70の内腔70aの連通および連通状態の遮断を切り替え可能であればよく、スリットの形態に限定されることはない。例えば、連通部72aは、スリットと同様の機能を備える小孔で形成することも可能である。また、例えば、連通部72aは、複数のスリットで構成したり、カバー部72の延在方向に対して傾斜した方向に延びた形状のスリットで構成したり、互いに交差して重なる複数のスリット等で形成してもよく、具体的な形状、構造、配置等は特に限定されない。また、連通部72aを小孔で形成する場合も同様に、具体的な形状、大きさ、構造、配置等は特に限定されず、上記に例示した構成等を採用することが可能である。
【0059】
本実施形態では、チューブ体70が備える孔部71は、平面視した際の形状を円形に形成している。ただし、孔部71の形状は、空気が流通可能であれば特に制限はなく、例えば、平面視した際の形状が矩形、楕円形、台形やその他の多角形の形状等であってもよい。
【0060】
図3および
図4(B)に示すように、注入部60は、注入部60の外表面に配置された操作部81と、操作部81と連結した閉塞部材85と、を有している。
【0061】
操作部81は、注入部60の上面部63側に配置されている。操作部81は、注入部60の上面部63に形成された貫通孔63aおよびチューブ体70の内腔70aを挿通する挿通部材82により閉塞部材85と連結されている。操作部81を注入部60に近付けるように押圧すると、操作部81に連結された閉塞部材85は、操作部81と連動してチューブ体70の先端側へ移動する。
【0062】
挿通部材82を形成する材料は、例えば、硬質の樹脂材料や金属材料を用いることが可能である。
【0063】
操作部81は、注入部60の上面部63に配置された付勢部材84を有している。
【0064】
閉塞部材85は、操作部81が押圧されていない状態では、チューブ体70の先端開口部70cを封止する(
図4(A)を参照)。また、付勢部材84は、閉塞部材85が先端開口部70cを封止した状態を維持し得るように、閉塞部材85を先端開口部70cに押し付ける付勢力(
図4(A)中の矢印F1)を付与する。具体的には、付勢部材84が注入部60の上面部63から離れる方向に作用させる引っ張り力により、操作部81を上方に押し上げて、閉塞部材85をチューブ体70の先端開口部70cに突き当てる。操作部81が押圧されて、付勢部材84の付勢力に抗して閉塞部材8がチューブ体70の先端側へ移動すると、先端開口部70cが拡張部40の拡張空間40aと連通した状態になる。
【0065】
付勢部材84は、チューブ体70の延在方向に圧縮可能なバネ(コイルバネ)で構成している。ただし、付勢部材84は、閉塞部材85に対して引っ張る方向の付勢力を付与することが可能であれば特に限定されず、例えば、板バネ、ねじりバネ、圧縮および伸長に伴う弾発力を付勢することが可能な弾性部材等で構成することも可能である。
【0066】
閉塞部材85は、先端開口部70c側に位置する基端側の外径が先端側外径よりも小さくなる円錐台形状の断面形状で形成している。閉塞部材85は、このような断面形状で形成されることにより、基端部が先端開口部70cに密着して嵌り込むため、先端開口部70cの気密性が向上したものとなる。なお、閉塞部材85の断面形状は、チューブ体70の先端開口部70cを封止(閉塞)可能であれば特に限定されず、例えば、球形、円柱形等であってもよい。
【0067】
閉塞部材85を形成する材料は、例えば、カバー部72と同様の材料で形成することが可能である。
【0068】
図4(A)に示すように、注入部60の上面部63には、付勢部材84を覆う保護部材83を設けている。保護部材83は、付勢部材84の周囲に注入部60の収容空間60aと連通する空間83aを区画する。付勢部材84は、チューブ体70の延伸方向に沿って伸縮変形可能な状態で空間83a内に収容されている。挿通部材82は、空間83a内において付勢部材84の内腔に挿通されている。
【0069】
保護部材83は、例えば、操作部81の押圧操作および付勢部材84の伸縮変形に追従して変形可能な膜状の部材で形成することが可能である。保護部材83を形成する材料としては、例えば、カバー部72と同様の材料を挙げることができる。なお、保護部材83は、付勢部材84の周囲を覆う空間83aを形成可能であれば形状等は特に限定されない。例えば、図示するように注入部60側に向けて空間83aが徐々に広がる形状でなくてもよく、付勢部材84を覆うように配置される円柱形状で形成することも可能である。
【0070】
付勢部材84の先端部は注入部60の上面部63に固定されており、付勢部材84の基端部は固定されていない状態で操作部81の内表面に当接している。挿通部材82の先端部は閉塞部材85と固定されており、挿通部材82の基端部は操作部81と固定されている。保護部材83の先端部は注入部60の上面部63に固定されており、保護部材83の基端部は操作部81に固定されている。上記各部材同士の固定は、各部材を構成する材料の材質に応じて、例えば、融着や接着等の方法で行うことができる。なお、保護部材83の先端部は注入部60の縦壁部62に固定されていてもよい。
【0071】
次に、注入部60による拡張部40の拡張操作、および操作部81による拡張部40の減圧操作の手順例を説明する。
【0072】
図4(A)には、拡張部40を拡張する前の状態を示している。この状態では、連通部72aが閉じた状態となっており、カバー部72の内表面はチューブ体70の外表面に密着する。
【0073】
図4(B)に示すように、注入部60を押圧して、チューブ体70へ空気を送り込むと、チューブ体70の孔部71を経由してチューブ体70の内腔70aから空気が流出する。空気は、カバー部72の一部がチューブ体70から離れるようにカバー部72を拡張変形させて、カバー部72とチューブ体70との間に隙間部gを形成する。この隙間部gを流れる空気により、連通部72aをなすスリットが開口し、チューブ体70の内腔70aと拡張部40の拡張空間40aとが連通する。空気は、拡張部40の拡張空間40a内へ注入されることにより、拡張部40を拡張させる。
【0074】
図5(A)に示すように、拡張部40が拡張した後、注入部60の押圧を解除すると、注入部60は弾性変形して元の形状に戻る。この際、チューブ体70の内腔70aが拡張空間40aよりも陰圧になることにより、連通部72aが閉じて、拡張部40の拡張空間40aと注入部60の収容空間60aとの連通が遮断される。さらに、拡張部40の内圧により、カバー部72の内表面とチューブ体70の外表面とが隙間なく密着するため、拡張部40側から注入部60側へ空気の逆流が生じるのを防止できる。
【0075】
図5(B)には、操作部81により、拡張部40の減圧操作を行っている状態を示す。拡張部40を減圧させる際には、操作部81を押圧する。操作部81を押し下げると、閉塞部材85がチューブ体70の先端開口部70cから離れて、先端開口部70cを封止した状態が解除される。拡張部40内に注入されていた空気は、先端開口部70cを介して注入部60へ移動する。そして、空気は、注入部60の孔部60bを経由して外部へ排出される。拡張部40の減圧を停止させる際は、操作部81の押圧を解除し、付勢部材84の付勢力により閉塞部材85をチューブ体70の先端開口部70cへ移動させる。
【0076】
前述したように、孔部71および連通部72aの構造等は任意に設定することが可能であるが、拡張部40への空気の注入および拡張部40からの空気の排出を精度良く制御するために、例えば、孔部71および連通部72aは以下のように形成することが好ましい。
【0077】
孔部71は、チューブ体70の周方向において、連通部72aと同じ位置(周方向に重なる位置)に配置することが好ましい。孔部71と連通部72aを周方向に重なる位置に配置することにより、孔部71から連通部72aへ空気を効率良く移動させることが可能になる。
【0078】
また、連通部72aは、チューブ体70に一つだけ形成することが好ましい。前述したように、注入部60から空気を注入すると、カバー部72が拡張変形して、チューブ体70の外表面とカバー部72の内表面との間に、孔部71と連通部72aに繋がる隙間部gが形成される。この隙間部gを通じて空気を連通部72a側へ効率良く送り込むことができるため、一つの連通部72aで拡張部40を十分に加圧することができる。連通部72aの数を一つにすることにより、連通部72aの個数(面積)の増加により空気の逆流が発生し易くなるのを防止できる。
【0079】
また、孔部71は、チューブ体70の延在方向、つまり、チューブ体70の軸心に対して垂直な断面(
図4(A)に示す断面)において連通部72aと重ならないように、かつ、逆流が生じない程度に両者を近接させて配置することが好ましい。前述したように、隙間部gを通じて空気を連通部72a側へ移動させることができるため、チューブ体70の延在方向に連通部72aを重ねて配置する必要がない。そして、上記のように配置することにより、孔部71と連通部72aとが不用意に連通して意図せずに空気が逆流するのを防止することができ、かつ、孔部71から連通部72aへ効率良く空気を移動させることが可能になる。
【0080】
次に、本実施形態に係る止血器具10の使用例について説明する。
【0081】
止血器具10を手首Wに装着する前は、
図2に示すように、拡張部40は、拡張していない状態となっている。
図6および
図7に示すように、右手の手首Wの橈骨動脈Rに穿刺を行う場合、穿刺部位Pは、親指側へ片寄った位置にある。通常、穿刺部位Pにはイントロデューサーシースが留置されている。このイントロデューサーシースが留置されたままの状態の手首Wに帯体20を巻き付け、拡張部40に設けられたマーカー40cが穿刺部位P上に重なるように拡張部40および帯体20を位置合わせして、面ファスナー30の雄側31および雌側32を接触させて接合し、帯体20を手首Wに装着する。
【0082】
止血器具10を手首Wに装着した後、
図4(B)に示すように、注入部60の孔部60bを指で塞ぎつつ、注入部60を押し潰し、注入部60内の空気を拡張部40内に注入し、拡張部40および補助圧迫部45を拡張させる。拡張部40と一体の注入部60により拡張部40の拡張が行えるため、医師や看護師は、拡張部40を拡張するための別体の専用の器具(シリンジ等)を持ち運ぶ必要がない。
【0083】
拡張部40を拡張させた後、穿刺部位Pからイントロデューサーシースを抜去する。
【0084】
イントロデューサーシースを抜去後、止血の進行具合や経過時間に応じて、操作部81を操作することにより、拡張部40および補助圧迫部45への空気量を調整し、拡張部40が穿刺部位Pに付与する圧迫力を調整してもよい。例えば、拡張した拡張部40が、長時間にわたって穿刺部位Pおよびその周辺の血管や神経を圧迫し続けると、しびれや痛みを引き起こしたり、血管を閉塞したりすることがある。また、血管閉塞等を防ぐため、拡張部40の拡張後、拡張部40内の空気を経時的に排出させて、拡張部40の内圧を徐々に減圧する減圧操作を行うことで、穿刺部位Pに作用する圧迫力を経時的に低減させてもよい。止血器具10における減圧操作は、操作部81により行うことが可能であるため、医師や看護師が、減圧操作を行うための専用の器具(シリンジ等)を持ち運ぶ手間をなくすことができる。
【0085】
所定の時間が経過して、穿刺部位Pの止血が完了したら、止血器具10を取り外す。止血器具10は、面ファスナー30の雄側31および雌側32を剥がすことによって手首Wから取り外される。なお、操作部81を操作して拡張部40内の空気を抜いてから、止血器具10を取り外してもよい。
【0086】
以上のように、本実施形態に係る止血器具10は、手首Wの穿刺部位Pに巻きつけるための帯体20と、帯体20を手首に巻きつけた状態で固定する固定手段30と、帯体20に連結され、かつ、空気を注入することにより拡張する拡張部40と、弾性変形が可能であり、かつ、拡張部40に空気を注入可能な注入部60と、拡張部40の拡張空間40aと注入部60の収容空間60aとを繋ぐチューブ体70と、を備えている。また、チューブ体70は、拡張部40内で開口する孔部71と、孔部71を覆うようにチューブ体70に配置されるカバー部72と、を有している。また、カバー部72は、注入部60から拡張部40へ空気を注入した際、孔部71から排出された空気によって拡張空間40aと収容空間60aとを連通させる連通部72aを有している。
【0087】
上記止血器具10では、注入部60を弾性変形させると、チューブ体70を介して空気が移動し、連通部72aにより拡張部40の拡張空間40aと注入部60の収容空間60aとが連通する。拡張部40は、連通部72aを介して空気が注入されることにより、拡張する。また、注入部60が弾性変形して元の形状に戻る際、チューブ体70の内腔70aが拡張空間40aよりも陰圧になることにより、連通部72aは、拡張部40の拡張空間40aと注入部60の収容空間60aとの連通を遮断する。このように、止血器具10は、カバー部72に形成された連通部72aにより、拡張部40と注入部60との間の空気の移動を容易かつ適切に制御することが可能である。よって、本実施形態によれば、止血器具10とは別体の専用の器具を使用することなく、簡単な操作で拡張部40の拡張を行うことが可能な止血器具を提供することができる。
【0088】
また、連通部72aは、チューブ体70の軸心に対して垂直な断面において、孔部71と異なる位置に配置されている。このため、孔部71の位置と連通部72aの位置が不用意に重なって意図せずに空気が拡張部40に注入されたり、空気が拡張部40から排出されたりするのを防止することができる。さらに、注入部60から空気を注入した際に、チューブ体70の外表面とカバー部72の内表面との間に、連通部72aに至る隙間部gをチューブ体70の軸方向に沿って形成することができ、連通部72aへの空気の誘導を効率良く行うことができる。
【0089】
また、チューブ体70の外表面とカバー部72の内表面とは、注入部60から拡張部40へ空気を注入していない状態で密着している。このため、注入部60を操作していない状態における拡張部40の気密性を高めることができ、拡張部40から不用意に空気が排出されるのを防止することができる。
【0090】
また、注入部60は、注入部60の外表面に配置された操作部81と、操作部81と連結した閉塞部材85と、を有している。チューブ体70は、拡張空間40a内に配置されたチューブ体70の端部に先端開口部70cを備えている。閉塞部材85は、操作部81を押圧していない状態では、先端開口部70cを封止しており、操作部81を押圧した状態では、先端開口部70cと注入部60との間を連通する。このため、操作部81を押圧する簡単な操作により、拡張部40から空気を排出することが可能になる。また、止血器具10は、空気を排出する機構が一体化されているため、空気を排出するための専用の器具を必要としない。したがって、止血器具10とは別体の専用の器具を使用することなく、簡単な操作で拡張部40の減圧を行うことができる。
【0091】
また、操作部81は、閉塞部材85をチューブ体70の先端開口部70cに押し付ける方向に付勢力を付与する付勢部材84を有している。閉塞部材85は、操作部81を付勢部材84の付勢力に抗して移動させた状態で先端開口部70cと注入部60との間を連通する。付勢部材84は、操作部81が押圧されていない状態では、閉塞部材85を先端開口部70cに押し付けることで、先端開口部70cが不用意に拡張部40と連通するのを防止し、先端開口部70cの気密性を高める。さらに、付勢部材84は、操作部81の押圧操作を終えた後、付勢力により閉塞部材85の位置を先端開口部70cまで自動的に移動させるため、操作部81を押圧した後に、拡張部40から空気が意図せずに排出されるのを防止できる。
【0092】
また、連通部72aは、孔部71から排出された空気によって開口するスリットで構成している。このため、注入部60を弾性変形させて押し潰す操作を行うことで連通部72aを容易に開口させることができ、拡張部40の拡張空間40aに効率良く空気を注入することができる。
【0093】
<操作部の変形例>
止血器具10に備えられる操作部の構成は、押圧操作されることにより、閉塞部材85を移動させてチューブ体70の先端開口部70cを開放可能に構成される限りにおいて、具体的な形状や構造等が限定されることはない。操作部は、例えば、以下に説明する各変形例のように構成することも可能である。
【0094】
図8に示す変形例のように、操作部は、注入部60の上面部63の外表面に配置された第1操作部81aと、注入部60の収容空間60aに配置された第2操作部81bとにより構成することが可能である。当該変形例では、第2操作部81bは、付勢部材84の基端部に固定している。注入部60の外部から第1操作部81aを押圧すると、挿通部材82に連結された第2操作部81bは、付勢部材84の付勢力に抗して収容空間60a内で先端側へ移動し、閉塞部材85をチューブ体70の先端開口部70cから移動させる。先端開口部70cは、閉塞部材85が移動することにより、拡張部40の拡張空間40aと連通する。
【0095】
また、
図9に示す他の変形例のように、操作部は、注入部60の上面部63の外表面に配置された第1操作部81aと、注入部60とチューブ体70とを連結する管状部材79内に配置された第2操作部81bとにより構成することが可能である。当該変形例では、第2操作部81bを付勢部材84の基端部に固定している。付勢部材84は、管状部材79内に配置している。注入部60の外部から第1操作部81aを押圧すると、挿通部材82に連結された第2操作部81bが付勢部材84の付勢力に抗して管状部材79内で先端側へ移動し、閉塞部材85を先端開口部70cから移動させる。先端開口部70cは、閉塞部材85が移動することにより、拡張部40の拡張空間40aと連通する。なお、当該変形例においては、拡張部40は、連結部40bを介して管状部材79に連結している。
【0096】
(止血器具の変形例)
図10(A)、(B)は、前述した実施形態の変形例1に係る止血器具100の説明に供する図である。
図10(A)、(B)を参照して、変形例1に係る止血器具100について説明する。なお、前述した実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0097】
本変形例に係る止血器具100は、拡張部140が、拡張部140内の空気を外部に排出する排出部としての機能も備える点において、前述した実施形態と相違する。また、止血器具100は、拡張部140からの空気の排出を操作するための機構(操作部81、付勢部材84、閉塞部材85等)を備えていない。
【0098】
拡張部140は、
図10(A)に示すように、第1シート141および第2シート142を重ね合わせて袋状にすることによって構成している。
【0099】
第1シート141は、熱可塑性材料によって構成された周縁部分141aと、熱硬化性エラストマーによって構成された中央部分141bと、を備えている。なお、本変形例では、熱硬化性エラストマーは、拡張部140の帯体20側の面の中央部に設けているが、拡張部140の手首W側の面の中央部に設けてもよい。
【0100】
本実施形態では、第1シート141は、所定形状の型の所定の位置に熱可塑性材料および熱硬化性エラストマーをそれぞれ流し込み、一体成形することによって形成している。ただし、第1シート141は、熱可塑性材料によって構成された枠状の部材(「周縁部分141a」に相当)の中央に、熱硬化性エラストマーによって構成された矩形状の部材(「中央部分141b」に相当)を配置して、接着剤によって接着することによって形成してもよい。
【0101】
第2シート142は、熱可塑性材料によって構成している。
【0102】
第1シート141の周縁部分141aと第2シート142の周縁部分とが重なる部分は、融着されている。
【0103】
第1シート141の周縁部分141aのうちの一辺と第2シート142の周縁部分のうちの一辺とは、チューブ体70を挟み込んだ状態で融着されている。拡張部140は、この融着により、チューブ体70が配置された帯体20と連結されている。
【0104】
拡張部140に用いられる熱可塑性材料は、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン等の熱可塑性樹脂又はオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエチレン系熱可塑性エラストマー等の各種熱可塑性エラストマー等を用いることができる。
【0105】
拡張部140に用いられる熱硬化性エラストマーは、拡張部140に用いられる熱可塑性材料よりも気体透過性の高いものが用いられ、そのような材料としては、例えば、シリコーン、天然ゴム等を用いることができる。このため、拡張部140は、拡張部140を拡張後、拡張部140の熱硬化性エラストマーからなる領域を介して、穿刺部位Pに圧迫力を付与しつつ、拡張部140内の気体が拡張部140の外へ経時的に抜ける(
図10(A)において点線の矢印で示している)。
【0106】
図10(B)に示すように、カバー部72は、チューブ体70の先端開口部70cを覆う底面部72bを有している。また、カバー部72の基端部は、チューブ体70の外表面との間を封止した状態でチューブ体70に固定している。カバー部72とチューブ体70は、接着剤78により固定しているが、例えば、融着で固定することも可能である。
【0107】
注入部160は、拡張部140の拡張空間140aへ空気を注入する際に手指等で塞がれる孔部160bを有している。注入部160は、拡張部140からの空気の排出を操作するための機構(操作部81、付勢部材84、閉塞部材85)が設けられていない点を除いて、前述した実施形態に係る注入部60(
図4(A)を参照)と実質的に同一の構成を有している。
【0108】
以上、変形例1に係る止血器具100によれば、拡張部140の熱硬化性エラストマーからなる領域を介して、拡張部140内の空気が拡張部140外へ経時的に抜ける。このため、医師や看護師が減圧操作を行わなくても、穿刺部位Pに圧迫力を付与しつつ、穿刺部位Pに作用する圧迫力を経時的に低減することが可能となる。このため、医師や看護師の処置負担や人件費を削減することができる。
【0109】
図11は、前述した実施形態の変形例2に係る止血器具200の説明に供する図である。
図11を参照して、変形例2に係る止血器具200について説明する。なお、前述した実施形態および変形例1と同様の構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0110】
変形例2に係る止血器具200は、拡張部140の構造が変形例1に係る止血器具100と同様に構成している。さらに、止血器具200は、拡張部140からの空気の排出を操作するための機構(操作部81、付勢部材84、閉塞部材85)を有している。止血器具200の注入部60の構造は、前述した実施形態に係る注入部60(
図4(A)を参照)と同様に構成している。
【0111】
変形例2に係る止血器具200は、変形例1に係る止血器具100と同様に、拡張部140の熱硬化性エラストマーからなる領域を介して、拡張部140内の空気が拡張部140外へ経時的に抜ける。このため、医師や看護師が減圧操作を行わなくても、穿刺部位Pに圧迫力を付与しつつ、穿刺部位Pに作用する圧迫力を経時的に低減することが可能となる。
【0112】
さらに、止血器具200は、拡張部140からの空気の排出を操作するための機構(操作部81、付勢部材84、閉塞部材85)を有しているため、操作部81を操作することにより、任意のタイミングで拡張部140から空気を排出することができる。例えば、拡張部140の熱硬化性エラストマーからなる領域を介して空気を排出する自動減圧機構のみでは、拡張部140に過度に空気を注入してしまった場合、拡張部140から所望量の空気を即座に排出することができず、橈骨動脈Rや神経を過度に圧迫してしまう可能性がある。止血器具200は、操作部81を操作することにより、拡張部140の圧迫力を適切に調整することが可能になるため、上記のような課題が発生するのを防止することができる。
【0113】
以上、実施形態および変形例を通じて本発明に係る止血器具を説明したが、本発明は説明した各構成のみに限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0114】
例えば、止血器具を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【0115】
また、本発明は、手首に装着して使用する止血器具に限らず、脚等に装着して使用する止血器具にも適用することができる。
【0116】
また、前述した実施形態では、止血器具は補助圧迫部を備えている場合を説明したが、補助圧迫部を、備えていなくてもよい。
【0117】
また、前述した実施形態では、操作部および閉塞部材により拡張部内の空気の排出を制御可能に構成した例を説明したが、例えば、止血器具は操作部および閉塞部材を備えず、止血器具とは別体の専用の器具により空気等の気体を排出するように構成してもよい。また、操作部の具体的な構造として付勢部材を備えるものを例示したが、操作部は、押圧操作により閉塞部材を移動させて拡張部とチューブ体の内腔とを連通する構造を備える限りにおいて、その構成が限定されることはない。
【0118】
本出願は、2016年7月6日に出願された日本国特許出願第2016−134598号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。