特許第6859437号(P6859437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6859437L‐リジンを生産するコリネバクテリウム属微生物及びそれを用いたL‐リジンの生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6859437
(24)【登録日】2021年3月29日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】L‐リジンを生産するコリネバクテリウム属微生物及びそれを用いたL‐リジンの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20210405BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12P13/08 A
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-525939(P2019-525939)
(86)(22)【出願日】2017年9月19日
(65)【公表番号】特表2019-535271(P2019-535271A)
(43)【公表日】2019年12月12日
(86)【国際出願番号】KR2017010243
(87)【国際公開番号】WO2018093033
(87)【国際公開日】20180524
【審査請求日】2019年5月15日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0152037
(32)【優先日】2016年11月15日
(33)【優先権主張国】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM11876P
(73)【特許権者】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】ビョン、ヒョ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ぺ、ヒョン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】リュ、ソン−ギ
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ヒャン
(72)【発明者】
【氏名】ムン、ジュン オク
(72)【発明者】
【氏名】イ、キョン−チャン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ユンジョン
【審査官】 林 康子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−533771(JP,A)
【文献】 特開2002−191370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/21
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の内在的活性に比べて、前記タンパク質の増加された活性を有する、コリネバクテリウム属(the genus Corynebacterium)のL‐リジン生産微生物。
【請求項2】
前記微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項1に記載のコリネバクテリウム属のL‐リジン生産微生物。
【請求項3】
配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の内在的活性に比べて、前記タンパク質の増加された活性を有する、コリネバクテリウム属のL‐リジン生産微生物を培地で培養する段階;及び
前記培養された微生物またはその培地からL‐リジンを回収する段階を含む、L‐リジンの生産方法。
【請求項4】
前記微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項3に記載のL‐リジンの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、L‐リジンを生産するコリネバクテリウム属(the genus Corynebacterium)微生物、及びそれを用いたL‐リジンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L‐リジンは、動物飼料、ヒトの医薬品及び化粧品産業に用いられていて、主にコリネバクテリウム属の菌株やエシェリキア属の菌株を利用した発酵により生産されている。L‐リジンを生産するために、高効率の生産菌株及び発酵工程技術の開発のための様々な研究が行われている。具体的に、L‐リジンの生合性に関与する酵素をコードする遺伝子の発現を増加させるか、または生合性に不要な遺伝子を除去するような、目的物質への特異的な接近方法が主に利用されている(特許文献1)。
【0003】
本発明者らは、リジンの生産能を増加させうる有効形質を探索するために、コリネバクテリウム属微生物の内在的遺伝子をランダムに導入することによって、リジンの高濃度生産と関連された遺伝子を発掘し、コリネバクテリウム属微生物で前記遺伝子の発現量を増加させる場合、L‐リジンの生産能が増加することを確認し、本願を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】韓国特許登録第10‐0838038号
【特許文献2】韓国特許登録第0620092号
【特許文献3】国際公開特許WO2006/065095
【特許文献4】国際公開特許WO2009/096689
【特許文献5】韓国特許登録第10‐0397322号
【特許文献6】米国公開特許第2003‐0124688号
【特許文献7】韓国特許登録第10‐0924065号
【特許文献8】米国公開特許第2010‐0143984号
【特許文献9】韓国特許登録第10‐0073610号
【特許文献10】韓国特許登録第10‐0057684号
【特許文献11】韓国特許登録第10‐0159812号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Binder et al., Genome Biology 2012, 13:R40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の一つの目的は、内在的活性に比べて増加された活性を有する配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質を含むL‐リジンを生産するコリネバクテリウム属(the genus Corynebacterium )微生物を提供することにある。
【0007】
本願の他の目的は、前記微生物を用いたL‐リジンの生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための本願の1つの様態は、内在的活性に比べて増加された活性を有する配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質を含む、L‐リジンを生産するコリネバクテリウム属(the genus Corynebacterium)微生物である。
【0009】
これを具体的に説明すると次のとおりである。一方、本願で開示された各々の説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用できる。つまり、本願で開示された多様な要素のすべての組み合わせが本願のカテゴリに属する。また、下記で記術された具体的な記述によって、本願のカテゴリが制限されるとは見ることができない。
【0010】
本願において、前記配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質は「HM1524タンパク質」と混用して用いられてもよい。また、これは「HM1524遺伝子によりコードされるタンパク質」と混用して用いられてもよい。また、配列番号1のアミノ酸配列で必須的に構成されるタンパク質、もしくは配列番号1のアミノ酸配列から構成されるタンパク質という表現と混用して用いられてもよい。
【0011】
また、前記タンパク質は配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、97%または99%の相同性を有するポリペプチドを含んでもよい。例えば、このような相同性を有し、前記配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と相応する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換または付加されたアミノ酸配列を有しても、本願の範囲内に含まれるのは自明である。
【0012】
また、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と相応する活性を有する場合であれば、配列番号1のアミノ酸配列の前後の意味のない配列追加または自然的に発生しうる突然変異、もしくはそのサイレント突然変異(silent mutation)を除くことなく、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質も本願の範囲に属する。
【0013】
本願で用語、「相同性」は、2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド部分間の同一性のパーセントを言う。与えられたアミノ酸配列または塩基配列と一致する程度を意味し、百分率として示されてもよい。本明細書で、与えられたアミノ酸配列または塩基配列と同一であるか、または同様の活性を有するその相同性配列が「%相同性」と表示される。例えば、スコア(score)、同一性(identity)及び類似度(similarity)などのパラメータ(parameter)を計算する標準ソフトウェア、具体的にBLAST 2.0を用いたり、定義された厳格な条件下でサザン混成化実験により配列を比較することによって確認することができ、定義される適切な混成化条件は該当技術の範囲内であり、当業者によく知られている方法(例えば、J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989; F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York)で決定されてもよい。
【0014】
前記配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子は、これに制限されるものではないが、配列番号2の塩基配列を含むポリヌクレオチドであってもよく、配列番号2の塩基配列と少なくとも80%、90%、95%、97%または99%の相同性を有するポリヌクレオチドであってもよい。コドン縮退性(codon degeneracy)により前記配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質またはそれと相同性を有するタンパク質に翻訳されうるポリヌクレオチドも含まれてもよいのは自明である。または、公知の遺伝子配列から調製されうるプローブ、例えば、前記塩基配列の全体または一部に対する相補配列と厳格な条件下でハイドリッド化して、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の活性を有するタンパク質を暗号化する配列であれば、制限なく含まれてもよい。前記「厳格な条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的な混成化を可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(例えば、J. Sambrook et al.,同上)に具体的に記載されている。例えば、相同性が高い遺伝子同士で、80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性を有する遺伝子同士でハイブリッド化し、それより相同性が低い遺伝子同士ではハイブリッド化しない条件、または通常のサザンハイブリッド化の洗浄条件である、60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には、60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、具体的には、2回〜3回洗浄する条件を列挙することができる。
【0015】
混成化は、たとえ混成化の厳格度に応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能としても、2つの核酸が相補的な配列を有することを要求する。用語、「相補的」は、互いに混成化が可能なヌクレオチド塩基間の関係を記述するのに使用される。例えば、DNAに対して、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって、本願は、また実質的に類似な核酸配列だけではなく、全体の配列に相補的な単離された核酸の断片を含んでもよい。
【0016】
具体的に、相同性を有するポリヌクレオチドは55℃のTm値により混成化段階を含む混成化条件を利用し、上述した条件を利用して探知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃または65℃であってもよいが、これに制限されるものではなく、その目的に応じて当業者により適切に調節されうる。
【0017】
ポリヌクレオチドを混成化する適切な厳格度は、ポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野でよく知られている。
【0018】
前記ハイブリッド化に用いられるプローブは、塩基配列の相補配列の一部であってもよい。このようなプローブは、公知の配列に基づいて作られたオリゴヌクレオチドをプライマーとし、このような塩基配列を含む遺伝子断片を鋳型とするPCRにより作製されてもよい。前記遺伝子断片は、例えば、少なくとも約50ヌクレオチド、60ヌクレオチド、70ヌクレオチド、80ヌクレオチド、90ヌクレオチド、または少なくとも100ヌクレオチドであってもよい。また、当業者は、温度及び洗浄溶液の塩濃度をプローブの長さのような要素に応じて、必要な場合は調節できる。
【0019】
本願で用語、「内在的活性」は、自然的または人為的な要因による遺伝的な変異で微生物の形質が変化する場合、形質変化の前に親菌株がもともと有していた特定タンパク質の活性を言う。
【0020】
本願で用語、「タンパク質の活性が内在的活性に比べて増加」することは、微生物が有するタンパク質の内在的活性または変形前の活性に比べて活性が向上されたことを意味する。前記活性の増加は、外来のHM1524を導入することと、内在的にHM1524の活性を強化することをすべて含んでもよい。
【0021】
具体的に、本願における活性増加は、
1)前記タンパク質を暗号化するポリヌクレオチドのコピー数の増加、
2)前記ポリヌクレオチドの発現が増加するように発現調節配列の変形、
3)前記タンパク質の活性が強化されるように染色体上のポリヌクレオチド配列の変形、
4)前記タンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチドまたは前記ポリヌクレオチドのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドの導入、または、
5)これらの組み合わせによって強化されるように変形する方法などにより行われてもよいが、これに制限されない。
【0022】
前記1)ポリヌクレオチドのコピー数の増加は、特にこれに制限されないが、ベクターに作動可能に連結された形態で行われるか、宿主細胞内の染色体内に挿入されることによって行われてもよい。具体的に、宿主とは関係なく複製されて機能するベクターに本願のタンパク質を暗号化するポリヌクレオチドが作動可能に連結されて宿主細胞内に導入されることによって行われるか、宿主細胞内の染色体内に前記ポリヌクレオチドを挿入させうるベクターに前記ポリヌクレオチドが作動可能に連結されて宿主細胞内に導入されることによって、前記宿主細胞の染色体内の前記ポリヌクレオチドのコピー数を増加する方法で行われてもよい。
【0023】
次に、2)ポリヌクレオチドの発現が増加するように発現調節配列の変形は、特にこれに制限されないが、前記発現調節配列の活性をさらに強化するように核酸配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせで配列上の変異を誘導して行ったり、より強い活性を有する核酸配列に交替することによって行われてもよい。前記発現調節配列は、特にこれに制限されないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び解読の終結を調節する配列などを含んでもよい。
【0024】
前記ポリヌクレオチド発現単位の上部には、本来のプロモーターの代わりに強力な異種プロモーターが連結されてもよいが、前記強力なプロモーターの例としては、CJ7プロモーター(特許文献2及び特許文献3)、lysCP1プロモーター(特許文献4)、EF‐Tuプロモーター、groELプロモーター、aceAまたはaceBプロモーターなどがあるが、これに限定されない。また、3)染色体上のポリヌクレオチド配列の変形は、特にこれに制限されないが、前記ポリヌクレオチド配列の活性をさらに強化するように、核酸配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせで発現調節配列上の変異を誘導して行うか、より強い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に交替することによって行われてもよい。
【0025】
また、4)外来ポリヌクレオチド配列の導入は、前記タンパク質と同一/類似な活性を有するタンパク質を暗号化する外来ポリヌクレオチド、またはこのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチド宿主細胞内に導入して行われてもよい。前記外来ポリヌクレオチドは、前記タンパク質と同一/類似な活性を示す限り、その由来や配列に制限なく使用されてもよい。また、導入された前記外来ポリヌクレオチドが宿主細胞内で最適化された転写、翻訳ができるように、このコドンを最適化して宿主細胞内に導入してもよい。前記導入は、公知された形質転換方法を当業者が適切に選択して行われてもよく、宿主細胞内で前記導入されたポリヌクレオチドが発現されることによって、タンパク質が生成されその活性が増加されてもよい。
【0026】
最後に5)前記1)〜4)の組み合わせによって強化されるように変形する方法は、前記タンパク質を暗号化するポリヌクレオチドのコピー数の増加、その発現が増加するように発現調節配列の変形、染色体上の前記ポリヌクレオチド配列の変形及び前記タンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチドまたはそのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドの変形のうち、1つ以上の方法を一緒に適用して行ってもよい。
【0027】
本願で用いられた用語、「ベクター」は、適合な宿主内で目的タンパク質を発現させうるように適合な調節配列に作動可能に連結された、前記目的タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含有するDNA製造物を意味する。前記調節配列は、転写を開始できるプロモーター、そのような転写を調節するための任意のオペレーター配列、適合なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び解読の終結を調節する配列を含んでもよい。ベクターは、適当な宿主細胞内に形質転換された後、宿主ゲノムとは関係なく複製されたり、機能することができ、ゲノムそのものに統合されてもよい。一例として、細胞内の染色体挿入用ベクターを介して、染色体内に目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを変異されたポリヌクレオチドに交替させてもよい。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界に知られている任意の方法、例えば、相同組み換えにより行われてもよいが、これに限定されない。
【0028】
本願で用いられるベクターは、特に限定されなく、当業界に知られている任意のベクターを用いてもよい。通常、用いられるベクターの例としては、天然状態であるか、組み換えされた状態のプラスミド、コスミド、ウィルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとして、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、及びCharon21Aなどを用いてもよく、プラスミドベクターとしては、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系とpET系などを用いてもよい。具体的には、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いてもよい。
【0029】
本願で用語、「形質転換」は、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入して宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質が発現できるようにすることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現さえできれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なくこれらすべてを含んでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは標的タンパク質をコードするDNA及びRNAを含む。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現できるものであれば、いかなる形態で導入されても関係ない。例えば、前記ポリヌクレオチドはそれ自体で発現されるのに必要なあらゆる要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。前記発現カセットは、通常、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーター(promoter)、転写終結信号、リボソーム結合部位及び翻訳終結信号を含んでもよい。前記発現カセットは自己複製が可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドはそれ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されない。
【0030】
また、前記で用語、「作動可能に連結」されたとは、本願の目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するようにするプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されていることを意味する。
【0031】
本願のベクターを形質転換させる方法は、核酸を細胞内に導入するいかなる方法も含まれ、宿主細胞に応じて当分野で公知されたように、適合した標準技術を選択して行ってもよい。例えば、電気穿孔法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO)沈殿、塩化カルシウム(CaCl)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE‐デキストラン法、カチオンリポソーム法、及び酢酸リチウム‐DMSO法などがあるが、これに制限されない。
【0032】
前記宿主細胞としては、DNAの導入効率が高く、導入されたDNAの発現効率が高い宿主を用いるのがよいが、例えば、コリネバクテリウム属微生物であってもよい。
【0033】
本願で用語、「L‐リジン」とは、塩基性α‐アミノ酸の1つであって、体内で合成されない必須アミノ酸であり、化学式はNH(CH)CH(CH)COOHであるL‐アミノ酸の一種を意味する。また、前記L‐リジンは塩の形態で存在する場合もすべて本願の範囲に含まれてもよい。
【0034】
本願で用語、「L‐リジンを生産する微生物」は、本願の目的上、L‐リジンを生産しうる微生物菌株であって、具体的には、本願にかかる操作によってL‐リジンを高濃度で生産しうる菌株を意味する。したがって、前記微生物は、L‐リジンを生産しうる限り、その親菌株の種類に特に制限されない。つまり、本願で親菌株はL‐リジンの生産能がない菌株及びL‐リジンの生産能がある菌株をすべて含んでもよい。前記L‐リジンの生産能は自然的に発生したものまたは人為的に操作されたものをすべて含んでもよい。人為的に操作されたL‐リジンの生産能を有する微生物は、例えば、NTG(nitrosoguanidine)などの突然変異を誘発する物質により変異されてL‐リジンの生産能を有するものであってもよく、または特定目的タンパク質の発現程度または活性を調節してL‐リジンの生産能を有するものであってもよいが、これに制限されるものではない。具体的に、前記特定目的タンパク質は、L‐リジン生合成経路に直接/間接的に作用する全てのタンパク質が含まれてもよく、これらの発現程度または活性を増加させるか減少させることによって、L‐リジンの生産能を有するように変異されたものであってもよく、また、これらのアミノ酸配列または塩基配列上の変異を誘導してL‐リジンの生産能を有するようにしたものであってもよい。上述したNTGなどを用いたランダム突然変異の誘導及び特定目的タンパク質の発現調節を含む微生物の人為的な操作は、公知された技術として当業者によって適切に行われてもよい。
【0035】
前記微生物は、具体的にはコリネバクテリウム属微生物であってもよい。その例として、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum )、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)またはブレビバクテリウム・ファーメンタム(Brevibacterium fermentum)などが用いられてもよいが、これに制限されない。その1つの例として、前記コリネバクテリウム属微生物はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)を用いてもよい。しかし、これらの例に限定されることではなく、その他にも公知されたL‐リジンの生産能を有するコリネバクテリウム属微生物が用いられてもよい。
【0036】
公知されたL‐リジンの生産能を有するコリネバクテリウム属の例としては、特許文献5(または特許文献6)、特許文献7(または 特許文献8)、特許文献9または/及び非特許文献1に記述された微生物があり、前記文献の内容全体は本願に参考資料として、全文が含まれる。
【0037】
もう1つの様態は、内在的活性に比べて増加された活性を有する配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質を含む、L‐リジンを生産するコリネバクテリウム属(the genus Corynebacterium)微生物を培地で培養する段階;及び前記培養された微生物またはその培地からL‐リジンを回収する段階を含む、L‐リジンの生産方法である。
【0038】
L‐リジンを生産するコリネバクテリウム属微生物については前記で説明したとおりである。
【0039】
本願で用語、「培養」は、前記微生物を適当に調節された環境条件で生育させることを意味する。本願の培養過程は、当業界で知られている適当な培地と培養条件に応じて行ってもよい。このような培養過程は、選択される菌株に応じて当業者が容易に調整して用いてもよい。前記方法において、前記微生物を培養する段階は、特にこれに制限されないが、公知された回分式培養方法、連続式培養方法、流加式培養方法などによって行ってもよい。ここで、培養条件は、特にこれに限定されないが、塩基性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア)または酸性化合物(例えば、リン酸または硫酸)を用いて、適正pH(例えば、pH5〜9、具体的には、pH6〜8、最も具体的には、pH6.8)を調節してもよい。また、培養中には脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡の生成を抑制することができ、また、培養物の好気状態を維持するために、培養物内に酸素または酸素含有気体を注入したり、嫌気及び微好気状態を維持するために気体の注入なしに、あるいは窒素、水素または二酸化炭素ガスを注入してもよい。培養温度は20〜45℃、具体的には25〜40℃を維持してもよく、培養期間は、望む有用物質の生産量が収得されるまで続けてもよく、具体的には約10〜160時間培養してもよい。しかし、これに制限されるものではない。前記培養によって生産されたL‐リジンは培地中に分泌されるか細胞内に残留してもよい。
【0040】
さらに、用いられる培養用培地は、炭素供給源として糖及び炭水化物(例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、糖蜜、澱粉及びセルロース)、油脂及び脂肪(例えば、大豆油、ひまわり油、ピーナッツ油及びココナッツ油)、脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸及びリノール酸)、アルコール(例えば、グリセロール及びエタノール)及び有機酸(例えば、酢酸)などを個別に使用したり、または混合して使用してもよいが、これに限定されない。窒素供給源としては、窒素含有有機化合物(例えば、ペプトン、酵母抽出液、肉汁、麦芽抽出液、トウモロコシ浸漬液、大豆泊粉及びウレア)、または無機化合物(例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウム)などを個別に使用したり、または混合して用いてもよいが、これに制限されない。リン供給源としてリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、これに相応するナトリウム含有塩などを個別に用いたり、または混合して用いてもよいが、これに制限されない。また、培地にはその他の金属塩(例えば、硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄)、アミノ酸及びビタミンのような必須成長促進物質を含んでもよい。
【0041】
本願の前記培養段階で生産されたL‐リジンを回収する方法は、培養方法に応じて 当該分野に公知された適合の方法を用いて培養液から目的とするアミノ酸を収集してもよい。例えば、遠心分離、ろ過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化及びHPLCなどが用いられてもよく、当該分野に公知された適合の方法を用いて、培地または微生物から目的とするL‐リジンを回収してもよい。また、前記回収段階は、精製工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0042】
本願のL‐リジンの生産能を有する微生物を用いてL‐リジンを高効率で生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本願を実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本願を例示的に説明するためのもので、本願の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
実施例1:コリネバクテリウム属微生物の野生型ライブラリーの製作
コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032から遺伝体DNAを抽出した後、制限酵素Sau3AIを処理し、アガロスゲール上で電気泳動を介してDNA切片を大きさによって分離し、3〜4kbのDNA切片を選択的に獲得した。これらを制限酵素BamHIの末端を有するpECCG117(特許文献10)ベクターと連結した後、大腸菌DH5αに導入し、カナマイシン(25mg/L)が含まれたLB固体培地に塗抹して形質転換されたコロニーを獲得した。ランダムの100個のコロニーから配列番号3及び4のプライマーを用いてPCRを行い、これを通じて目的とした3〜4kbほどのDNA切片が挿入されたベクターを含むコロニーの比率が90%以上であることを確認した。獲得したすべてのコロニーをカナマイシン(25mg/L)が含まれたLB液体培地に接種して混合培養し、通常に知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを抽出し、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032遺伝体のDNAライブラリーを完成した。
配列番号3:5’‐ACGACGGGATCAGTACCGA‐3’
配列番号4:5’‐AGCTATCTGTCGCAGCGCC‐3’
【実施例2】
【0045】
実施例2:野生型ライブラリーを導入したリジン生産微生物の製作及び評価
実施例1で製作した遺伝体DNAライブラリーを電気パルス法を用いて、リジンの生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P(前記微生物はKFCC10881として公開されたが、ブダペスト条約下である国際寄託機関に再寄託されてKCCM11016Pとして寄託番号を付与された、特許文献11)に導入した後、カナマイシン(25mg/L)が含まれた複合平板培地に塗抹し、30℃で24時間培養してコロニー約2,000個を獲得した。
【0046】
<複合平板培地>
ブドウ糖 20g、(NHSO50g、ペプトン 10g、酵母抽出物 5g、尿素 1.5g、KHPO5g、KHPO 10g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン 100μg、チアミン塩酸塩 1000μg、パントテン酸カルシウム 2000μg、ニコチン酸アミド 2000μg、寒天 20g、カナマイシン 25mg(蒸留水1リットル基準)
【0047】
96ウェル細胞培養プレートの各ウェルに複合液体培地200μlを分注して獲得したコロニーを各々接種した後、30℃、1200rpmの条件で24時間、振とう培養した。培養液を遠心分離して菌体と上澄み液に分離し、上澄み液50μlをリジンオキシダーゼ(lysine oxydase)を含有する反応液に混合した。
【0048】
<複合液体培地>
ブドウ糖 20g、ペプトン 10g、酵母抽出物 5g、尿素 1.5g、KHPO 4g、KHPO 8g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン 100μg、チアミン塩酸塩 1000μg、パントテン酸カルシウム 2000μg、ニコチン酸アミド 2000μg、カナマイシン 25mg(蒸留水1リットル基準)
【0049】
<反応液>
リジンオキシダーゼ(Sigma‐Aldrich)0.02unit、ペルオキシダーゼ(peroxidase、Sigma‐Aldrich)、0.2unit、ABTS2mg(リン酸カリウム緩衝溶液1ml基準)
【0050】
その後、30分間、OD405での吸光度を分析して対照区(KCCM11016P/pECCG117)より高い吸光度を示す15種の実験区を選別した。各形質転換体のリジン生産能を確認するために、カナマイシン(25mg/L)が含まれた種培地25mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種して、30℃、200rpmの条件で20時間、振とう培養した。カナマイシン(25mg/L)が含まれた生産培地24mlを含有する250mlコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種して、37℃、200rpmで96時間、振とう培養した。培養を終了した後、HPLCを用いてL‐リジンの濃度を分析した(表1)。
【0051】
<種培地>
ブドウ糖 20g、(NHSO5g、ペプトン 10g、酵母抽出物 5g、尿素 1.5g、KHPO4g、KHPO8g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン 100μg、チアミン塩酸塩 1000μg、パントテン酸カルシウム 2000μg、ニコチン酸アミド 2000μg(蒸留水1リットル基準)
【0052】
<生産培地(pH7.0)>
ブドウ糖 100g、(NHSO 40g、大豆タンパク質 2.5g、トウモロコシ浸漬固形分(Corn Steep Solids) 5g、尿素 3g、KHPO 1g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン 100μg、チアミン塩酸塩 1000μg、パントテン酸カルシウム 2000μg、ニコチンアミド 3000μg、 CaCO 30g(蒸留水1リットル基準)
【0053】
【表1】
【0054】
前記結果から、対照区に比べてリジンの生産能が増加した効果を示すKCCM11016P/H15とKCCM11016P/M24を選択して、通常に知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを抽出した。KCCM11016P/H15から由来したプラスミドは、pEC‐H15、KCCM11016P/M24から由来したプラスミドは、pEC‐M24と命名した。その後、配列番号3及び4のプライマーを用いて塩基配列分析を行った。その結果、プラスミドpEC‐H15は配列番号15のヌクレオチド配列が含まれ、プラスミド pEC‐M24は配列番号16のヌクレオチド配列が含まれていた。これによって、前記2種のプラスミドには配列番号1のアミノ酸配列をコードする配列番号2のヌクレオチド配列が共に含まれていることを確認した。ここで、配列番号1のアミノ酸配列のコード遺伝子をHM1524と命名し、以下HM1524として表記した。
【実施例3】
【0055】
実施例3:HM1524遺伝子の過発現ベクターの製作
前記実施例2から確認されたHM1524の効果を確認するために、該当遺伝子を過発現するためのベクターを製作した。
【0056】
報告された塩基配列に基づいてHM1524の開始コドンの上段の約200bp部位から終結コドンの下段の約50bpを含むDNA断片を獲得するために、5’末端にXhoIの制限酵素部位が挿入されるように考案したプライマー(配列番号5)及び3’末端にXhoIの制限酵素部位が挿入されるように考案したプライマー(配列番号6)を合成し、コリネバクテリウム・グルタミカムの遺伝体DNAを鋳型としてPCRを行った。PCR条件は、94℃で5分間変性した後、94℃、30秒変性、56℃、30秒アニーリング、72℃、90秒重合を30回繰り返した後、72℃で7分間、重合反応を行った。
配列番号5:5’‐TCACTCGAGTGATGGCCAGGTTGTTGTC‐3’
配列番号6:5’‐TCACTCGAGTTAGTCATAGGTACTAGTTT‐3’
【0057】
前記のPCR増幅産物を制限酵素XhoIで処理した後、pECCG117ベクターを制限酵素XhoIで処理して得たDNA切片と連結し、大腸菌DH5αに形質転換してカナマイシン(25mg/L)が含まれたLB固体培地に塗抹した。PCR(配列番号3及び4)を介して目的とした遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選別した後、通常に知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを獲得し、このプラスミドをpECCG‐HM1524と命名した。
【実施例4】
【0058】
実施例4:HM1524遺伝子の過発現ベクターが導入された菌株のリジン生産能の分析
前記実施例3で製造したベクターpECCG‐HM1524を電気パルス法を用いてリジン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016Pに導入した後、カナマイシン(25mg/L)が含まれた複合平板培地に塗抹して、30℃で24時間培養し、コロニーを獲得した。獲得した菌株は、KCCM11016P/pECCG‐HM1524と命名し、実施例2に示したフラスコ培養法と同様な方法で3バッチを培養し、培養液中のL‐リジンの濃度を分析した(表2)。
【0059】
【表2】
【0060】
その結果、前記HM1524遺伝子が過発現された菌株、KCCM11016P/pECCG‐HM1524は、親菌株であるKCCM11016Pに比べてリジンの生産能が6%増加されたことを確認した。
【実施例5】
【0061】
実施例5:HM1524遺伝子の染色体追加挿入のためのベクターの製作
前記実施例4から確認されたHM1524遺伝子の効果を確認するために、該当遺伝子をコリネバクテリウムの染色体上にさらに挿入するためのベクターを製作した。
【0062】
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス由来のPcj7プロモーター(特許文献2)を増幅するためにPcj7プロモーターの5’末端にEcoRIの制限酵素部位が挿入されるように考案したプライマー(配列番号7)及び3’末端にNdeIの制限酵素部位が挿入されるように考案したプライマー(配列番号8)とPcj7プロモーターの5’末端にSpeIの制限酵素部位が挿入されるように考案したプライマー(配列番号9)及び3’末端にSalIの制限酵素部位が挿入されるように考案したプライマー(配列番号10)を合成した。コリネバクテリウム・アンモニアゲネスの遺伝体DNAを鋳型にして合成したプライマー(配列番号7及び8、配列番号9及び10)でPCRを行った結果、5’末端にEcoRIの制限酵素部位と3’末端にNdeIの制限酵素部位を含むPcj7プロモーターDNA断片と、5’末端にSpeIの制限酵素部位と3’末端にSalIの制限酵素部位を含むPcj7プロモーターDNA断片をそれぞれ獲得した。PCR条件は、94℃で5分間変性した後、94℃、30秒変性、56℃、30秒アニーリング、72℃、30秒重合を30回繰り返した後、72℃で7分間、重合反応を行った。
【0063】
報告された塩基配列に基づいて、HM1524遺伝子のORFを増幅するために、開始コドンの位置にNdeIの制限酵素部位が挿入されるように考案したプライマー(配列番号11)と終結コドンの下段にSpeIの制限酵素部位が挿入されるように考案したプライマー(配列番号12)を合成した。コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の遺伝体DNAを鋳型にして配列番号11及び12のプライマーでPCRを行った結果、開始コドンの位置にNdeIの制限酵素部位と終結コドンの下段にSpeIの制限酵素部位を含むHM1524遺伝子のDNAの断片を獲得した。PCR条件は、94℃で5分間変性した後、94℃、30秒変性、56℃、30秒アニーリング、72℃、90秒重合を30回繰り返した後、72℃で7分間、重合反応を行った。
配列番号7:5’‐TCAGAATTCTTCCTTCAGGCTAATCTTTT‐3’
配列番号8:5’‐TCACATATGTGTTTCCTTTCGTTGGGTAC‐3’
配列番号9:5’‐TCAACTAGTCTTCCTTCAGGCTAATCTTT‐3’
配列番号10:5’‐TCAGTCGACTGTTTCCTTTCGTTGGGTAC‐3’
配列番号11:5’‐TCACATATGCGCGTAGCTATGATTTC‐3’
配列番号12:5’‐TCAACTAGTTTAGCCGTGATGCGTTTCAC‐3’
【0064】
前記3つのPCR増幅産物をそれぞれ両末端に含む制限酵素で処理した後、pDZベクター(特許文献7)を制限酵素EcoRIとSalIで処理して得たDNA切片と連結してpDZ‐Pcj7‐HM1524ベクターを製作した。
【実施例6】
【0065】
実施例6:HM1524遺伝子の染色体追加挿入された菌株のリジン生産能の分析
前記実施例5で製作したベクターpDZ‐Pcj7‐HM1524を電気パルス法を用いてコリネバクテリウム・グルタミカムATCC11016Pに導入し、相同組み換えにより形質転換されたコロニーの中で染色体上のHM1524遺伝子の終結コドンの下段にHM1524遺伝子が挿入されたコロニーを選別した。PCR方法でコロニーを選別するため、配列番号13及び14のプライマーを用いた。選別された菌株はKCCM11016P::Pcj7‐HM1524と命名し、実施例2に示したフラスコ培養法と同様の方法で培養して、培養液中のL‐リジンの濃度を分析した(表3)。
配列番号13:5’‐GTCGAACACGCCAGAACATT‐3’
配列番号14:5’‐TACTCTCACGATCTCACCCT‐3’
【0066】
【表3】
【0067】
その結果、前記HM1524遺伝子がさらに挿入された菌株であるKCCM11016P::Pcj7‐HM1524は、親菌株であるKCCM11016Pに比べてリジン生産能が約6%増加されたことを確認した。前記 KCCM11016P::Pcj7‐HM1524菌株をCA01‐2297と命名し、2016年8月2日付でブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korea Culture Center of Microorganisms、KCCM)に寄託し、受託番号KCCM11876Pを与えられた。
【実施例7】
【0068】
実施例7:HM1524遺伝子がさらに挿入されたKCCM10770P由来の微生物を用いたリジンの生産
前記実施例5で製造したベクターpDZ‐Pcj7‐HM1524をリジン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10770P(特許文献7)に形質転換させた。前記コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10770PはL‐リジンの生合成経路の関連遺伝子7種が染色体に挿入されたことを特徴とする。PCR方法でコロニーを選択的に分離し、HM1524遺伝子が導入された菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10770P::Pcj7‐HM1524と命名した。その後、実施例2で示したフラスコ培養法と同様の方法で培養し、培養液中のL‐リジンの濃度を分析した(表4)。
【0069】
【表4】
【0070】
その結果、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10770P::Pcj7‐HM1524菌株は、親菌株に比べてリジンの生産能が約5%増加されたことを確認した。
【実施例8】
【0071】
実施例8:HM1524遺伝子がさらに挿入されたCJ3P由来の微生物を用いたリジンの生産
前記実施例5で製造したベクターpDZ‐Pcj7‐HM1524をリジンの生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムCJ3P(非特許文献1)に形質転換させた。コリネバクテリウム・グルタミカムCJ3Pは、L‐リジンの生産能の向上に関連する遺伝子3種が染色体に挿入されたことを特徴とする。PCR方法でコロニーを選択的に分離し、HM1524遺伝子が導入された菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCJ3P::Pcj7‐HM1524と命名した。実施例2で示したフラスコ培養法と同様の方法で培養し、培養液中のL‐リジンの濃度を分析した(表5)。
【0072】
【表5】
【0073】
その結果、コリネバクテリウム・グルタミカムCJ3P::Pcj7‐HM1524菌株は、親菌株に比べてリジンの生産能が約38%増加されたことを確認した。
【実施例9】
【0074】
実施例9:HM1524遺伝子がさらに挿入されたKCCM11347P由来の微生物を用いたリジンの生産
前記実施例5で製造したベクターpDZ‐Pcj7‐HM1524をリジンの生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11347P(前記微生物はKFCC10750として公開されたが、ブダペスト条約下の国際寄託機関に再寄託されKCCM11347Pを与えられた、特許文献9)に形質転換させた。コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11347P は、L‐リジンの生産能の向上に関連する遺伝子3種が染色体に挿入されたことを特徴とする。PCR方法でコロニーを選択的に分離し、HM1524遺伝子が導入された菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11347P::Pcj7‐HM1524と命名した。実施例2で示したフラスコ培養法と同様の方法で培養し、培養液中のL‐リジンの濃度を分析した(表6)。
【0075】
【表6】
【0076】
その結果、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11347P::Pcj7‐HM1524菌株は、親菌株に比べてリジンの生産能が約10%増加されたことを確認した。
【0077】
前記結果を総合すると、HM1524遺伝子の活性が内在的活性に比べて増加された菌株は、リジンの生産能が増加することが分かり、これは微生物で前記遺伝子がコードするタンパク質の活性を増加させてリジンを大量生産しうることを示唆する。
【0078】
以上の説明から、本願が属する技術分野の当業者は本願がその技術的思想や必須の特徴を変更せず、他の具体的な形態で実施できることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例は、すべての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解するべきである。本願の範囲は、前記の詳細な説明より、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導出されるすべての変更または変形された形態が本願の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
【0079】
[受託番号]
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM11876P
受託日:20160802
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]