【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、総務省、「狭空間における周波数稠密利用のための周波数有効利用技術の研究開発」に関する委託業務、産業技術力強化法第17条の規定の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記主受信面の受信アンテナに対応する電波の受信品質と、前記複数の副受信面のそれぞれに対応する電波の受信品質とを、前記受信機に接続された測定機器により測定して表示部に表示するステップ、をさらに有する、
請求項1に記載の電波測定方法。
前記所定の条件は、前記主受信面の受信アンテナに対応する電波の受信品質が、前記複数の副受信面のそれぞれに対応する電波の受信品質に比べて大きく、かつ、前記複数の副受信面のそれぞれに対応する電波の受信品質の差異が所定値以内である、
請求項1または2に記載の電波測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(実施の形態1の内容に至る経緯)
電波環境の測定対象のエリアをモデルエリアとして、そのモデルエリアの地点におけるそれぞれの電波環境を計算によってシミュレートするレイトレーシング法が非特許文献2に開示されている。モデルエリアが広大であればあるほど、そのエリアにおける電波環境を実際に測定するには多くの時間がかかる。このため、シミュレーションによってモデルエリア内の地点における電波環境を評価することが有意義と考えられている。
【0009】
このレイトレーシング法を用いる際、モデルエリア(例えば工場)内に配置される数々の散乱体(例えば、コンクリート構造物等の壁、木材、金属のデスク等)の材料定数(例えば、電波の反射率もしくは透過率)が適正に設定されると、シミュレーション精度が向上する。ところが、モデルエリアに配置されている散乱体の材料定数は、例えば非特許文献3に開示されている散乱体の種類毎の既定値を用いれば常に良いわけではない。例えばモデルエリアが工場である場合、工場に配置されている散乱体の種類は多様であるため、実際の環境に即した適正な材料定数が使用されなければ、シミュレーションの精度向上は望めないという課題があった。上述した非特許文献1には建築物の現場における電磁シールド性能を測定することが記載されているが、工場等に実際に配置される散乱体の材料定数を適正に求めるための方法については言及されていないため、上述した同様な課題は存在すると考えられる。
【0010】
そこで、以下の実施の形態1では、測定対象のモデルエリアに配置される散乱体越しで送信機からの電波を受信する受信機の適正な位置を決定し、シミュレーションに用いる散乱体の実環境に即した材料定数の導出ならびにシミュレーションの精度向上に資する電波測定方法の例を説明する。
【0011】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示に係る電波測定方法を具体的に開示した実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるものであり、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0012】
以下の実施の形態1では、電波環境の可視化を目的とする対象エリア(以下、「エリア」と略記する)には、無線送信機(送信機の一例)が配置される地点(言い換えると、送信点)が設けられることを想定して説明する。なお、このエリアは、例えば複数の散乱体が配置される工場を例示して説明する。
【0013】
以下の説明において、電波環境とは、送信点(上述参照)に配置される無線送信機から電波が送信(放射)された場合に、電波環境解析装置(図示略)によって実行される解析処理(言い換えると、シミュレーション)の中で計算されるエリア内の地点における受信品質である。受信品質は、例えば受信電力(言い換えると、受信電界強度)および到来方向である。従って、電波環境の解析処理とは、無線送信機が配置される送信点から送信される電波がエリア内のそれぞれの地点において受信される場合の電波環境のシミュレーションを実行して受信品質(上述参照)を計算することである。
【0014】
図1は、実施の形態1に係る電波測定装置10のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図2は、実施の形態1に係る電波測定装置10の外観を示す斜視図である。実施の形態1において、X軸,Y軸,Z軸のそれぞれの方向は、例えば
図2に示す矢印の方向に従う。また例えば、+X方向および−X方向は電波測定装置10の筐体の上下方向、−Y方向および+Y方向は電波測定装置10の筐体の左右方向)、−Z方向および+Z方向は電波測定装置10の筐体の前後方向にそれぞれ相当する。
【0015】
図2に示すように、電波測定装置10は、四角柱形状(例えば直方体あるいは立方体)の筐体を有し、筐体を構成する計6つの面(具体的には、前面1PL,左面2PL,後面,右面,上面5PLおよび下面)には対応してアンテナ部1,…,6が設けられている。電波測定装置10の筐体は、いずれかの面(例えば下面)から直接または一定距離離間して台座(図示略)により固定され、台座には車輪が設けられる。これにより、電波測定装置10はエリア内を測定する際に簡易に移動可能となる。
【0016】
図1に示すように、電波測定装置10は、アンテナ部1〜6と、MPU部7とを含む構成である。アンテナ部1〜6の構成はいずれも同一であるため、ここでは説明を簡略化するために、アンテナ部1を例示して説明する。また、以下のアンテナ部1の説明において、他のアンテナ部の対応する構成に読み替えても構わない。
【0017】
アンテナ部1は、水平偏波アンテナ1hと、垂直偏波アンテナ1vと、スイッチ部1sと、アンテナ制御部1mとを含む。
【0018】
水平偏波アンテナ1hは、エリア内に配置される無線送信機10TX(
図4または
図5A参照)から送信される電波の水平偏波を受信し、具体的には、所定の周波数帯(例えば920MHz帯)の水平偏波を受信する。水平偏波アンテナ1hは、スイッチ部1s(
図2では図示略)と導通されている。
【0019】
垂直偏波アンテナ1vは、エリア内に配置される無線送信機10TX(
図4または
図5A参照)から送信される電波の垂直偏波を受信し、具体的には、所定の周波数帯(例えば920MHz帯)の垂直偏波を受信する。垂直偏波アンテナ1vは、スイッチ部1s(
図2では図示略)と導通されている。
【0020】
スイッチ部1sは、MPU7aのスイッチ切換制御部7a2から電波測定装置10の筐体を構成する面毎に時分割で出力されるスイッチ切換信号に応じて、水平偏波アンテナ1hまたは垂直偏波アンテナ1vをアンテナ制御部1mに接続する。言い換えると、スイッチ部1sは、上述したスイッチ切換信号に応じて、水平偏波アンテナ1hまたは垂直偏波アンテナ1vの出力をアンテナ制御部1mに出力する。
【0021】
アンテナ制御部1mは、例えばWi−Sun(登録商標)の無線信号を扱う標準規格に準拠した無線信号用の回路(モジュール)を用いて構成される。アンテナ制御部1mは、スイッチ部1sに接続された水平偏波アンテナ1hまたは垂直偏波アンテナ1vの出力をパラレル形式のデータ(例えば、無線送信機から送信された電波の受信電界強度)として取り出し、そのパラレル形式のデータをMPU7aのデータ変換部7a1に出力する。
【0022】
MPU部7は、MPU(Micro Processing Unit)7aと、USB(Universal Serial Bus)ポート7bとを含む。
【0023】
MPU7aは、電波測定装置10の制御部として機能し、電波測定装置10の各部の動作を全体的に統括するための制御処理、電波測定装置10の各部との間のデータの入出力処理、データの演算処理、およびデータの記憶処理を行う。MPU7aは、データ変換部7a1と、スイッチ切換制御部7a2とを含む。
【0024】
データ変換部7a1は、例えばUART(Universal Asynchronous Receiver/Transmitter)回路を用いて構成され、それぞれのアンテナ制御部(例えばアンテナ制御部1m〜6m)により出力されたパラレル形式のデータをシリアル形式のデータに変換する。このデータ(例えば、無線送信機から送信された電波の受信電界強度)は、USBポート7bを介して、電波測定装置10に接続される測定機器(例えば、スペクトラムアナライザ、またはネットワークアナライザ)に入力される。また、実施の形態1において、測定機器は、PC(Personal Computer)を含んでもよい。
【0025】
スイッチ切換制御部7a2は、電波測定装置10のそれぞれの面のうちいずれかの面の水平偏波アンテナまたは垂直偏波アンテナの出力をMPU部7に入力するためのスイッチ切換信号を時分割に生成する。スイッチ切換制御部7a2は、GPIO(General−purpose Input/Output)端子を有し、このGPIO端子を介して、上述した時分割に生成したスイッチ切換信号を、それぞれの面のスイッチ部(例えばスイッチ部1s〜6s)に出力する。これにより、スイッチ切換信号により、所定時間毎にアンテナ部1の水平偏波アンテナ1hの出力、アンテナ部1の垂直偏波アンテナ1vの出力、…、アンテナ部6の水平偏波アンテナ6hの出力、アンテナ部6の垂直偏波アンテナ6vの出力の順に周期的に、いずれかのアンテナの出力値だけが排他的にMPU7aに入力可能となる。
【0026】
USBポート7bは、電波測定装置10と、図示しないPCや測定機器(例えば、スペクトラムアナライザ、またはネットワークアナライザ)とを接続する。
【0027】
なお、上述した説明は、電波測定装置10が電波を受信する場合を例示した説明であるが、電波測定装置10は電波を送信するための構成を有していると考えてよい。つまり、電波測定装置10は、アンテナ部1〜6のうち時分割でいずれかのアンテナ部を使用するように切り換え、さらに、そのアンテナ部に設けられた水平偏波アンテナまたは垂直偏波アンテナから電波を時分割に送信してもよい。従って、後述する無線送信機10TXは、電波測定装置10と同一の構成を有することができる。
【0028】
PC(図示略)は、エリア内において無線送信機10TX(
図4または
図5A参照)から送信された電波を受信するための電波測定装置10との間でUSBケーブル(図示略)を介して接続される。PCは、電波測定装置10により受信された電波の検出出力(例えば受信電界強度)に基づいて、エリア内の地点における電波の受信電力を測定して計算する。PCは、電波測定装置10のそれぞれの面に配置された水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナにおける検出出力に基づいて各周波数の水平偏波、垂直偏波の電波強度を測定できる。また、PCは、電波測定装置10のそれぞれの面に配置された水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナにおける検出出力に基づいて反射波の到来方向を特定し、壁面等の障害物(散乱体)が電波を吸収しているかどうかを判別できる。
【0029】
電波測定装置10は、それぞれの面を構成する面材としての積層基板と、電波測定装置10の筐体内部に内方されるフレーム体とを主要な構成として有する。積層基板とフレーム体とは、多面体(例えば六面体)である、電波測定装置10の筐体を構成する。電波測定装置10の筐体は例えば六面体であり、
図2では立方体である場合を例示している。積層基板は、立方体のそれぞれの面に、例えば固定ねじ35により貼り付けられている。
【0030】
なお、電波測定装置10の筐体を構成する面材は、積層基板に限定されない。また、多面体は、六面体に限定されず、例えば四面体、12面体等であってもよい。
【0031】
電波測定装置10は、1つの上面5PLに配置された積層基板と、4つの側面(例えば、前面1PL、左面2PL、右面、後面)のそれぞれに配置された積層基板と、1つの下面に配置された積層基板とにそれぞれアンテナ(水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナ)が設けられている。これにより、電波測定装置10は、到来する電波を計6つの方向から受信することが可能になる。なお、電波測定装置10を所定の被載置面に固定して電波を測定する際には、電波測定装置10の下面には、アンテナを備えた積層基板が省略されてもよい。
【0032】
それぞれの積層基板において配置されたアンテナは、例えば、ダイポールアンテナである。ダイポールアンテナは、例えば積層基板上に形成され、表面の金属箔をエッチング等することによってダイポールアンテナのパターンが形成される。複数の層のそれぞれは、例えば銅箔やガラスエポキシ等で構成される。
【0033】
電波測定装置10の立方体の筐体のそれぞれの積層基板には、例えば920MHz帯の水平偏波アンテナ1h〜6hと、920MHz帯の垂直偏波アンテナ1v〜6vとが表面(上層)に設けられている。
【0034】
積層基板を構成するためにAMC(Artificial Magnetic Conductor)が用いられている。AMCは、PMC(Perfect Magnetic Conductor)特性を有する人工磁気導体であり、所定の金属パターンにより形成される。AMCを利用することで、電波測定装置10のアンテナを積層基板に対して平行に配置することができ、全体のサイズを小さくすることができる。また、AMCは、接地導体によって、他の方向からの電波を受けないようにすることができ、アンテナの高利得化ができる。
【0035】
電波測定装置10は、積層基板の四辺の縁部に、各辺に沿って複数の接地用ビア導体61が直線上に並んで設けられる。なお、接地用ビア導体61は、等間隔に並んで配置されてもよい。また、それぞれの接地用ビア導体61は、積層基板に配置されたアンテナ導体に対応した周波数帯(言い換えると、波長)に応じて、電波測定装置10の外部からの電波を遮蔽可能な程度に十分なピッチ(間隔)を以て設けられてよい。接地用ビア導体61は、積層基板の上面から下面に貫通して設けられる。
【0036】
電波測定装置10は、積層基板が例えば四角形状に形成される。積層基板は、それぞれの辺部に、その辺部の中央に設けられた一つの段部71を境に、その辺部に沿う方向で凹部と凸部とが形成される。即ち、電波測定装置10の筐体は、
図2に示すように、隣接する積層基板同士の凹部と凸部とを嵌め合わせて、組み合わされている。
【0037】
図3は、実施の形態1に係る電波測定装置10に接続される電波環境解析装置によるシミュレーションのエリアARE1の一例を示す図である。
図4は、
図3に示すエリアARE1における電波環境の複数のシミュレーション結果と実測結果とを対比的に示す図である。
図3では、エリアARE1を上から見た平面図が示されている。
【0038】
図3に示すように、エリアARE1は、例えば30m*90m(*:乗算の演算子)の面積を有する広大な工場であり、エリアARE1の一端側の所定の高さ(例えば床面から180cm)の位置に無線送信機10TXが配置される。また、エリアARE1の略中央には散乱体の一例としての壁W1が配置されている。
【0039】
なお、
図3では図示が省略されているが、例えば工場には壁W1に限らず、数多くの種類の散乱体(つまり、電波を透過または反射する物体)が配置されている。広大な工場であるエリアARE1をシミュレーションの対象とする場合、エリアARE1内に配置されているそれぞれの散乱体の材料定数として、例えば非特許文献3に開示されている散乱体毎の材料定数の既定値をそのまま使うと、実際のエリアARE1の環境等に適した材料定数となっていないことがある。この場合には、シミュレーションの精度が劣化することになる。
【0040】
そこで、実施の形態1に係る電波測定方法では、散乱体(例えば壁W1)の材料定数を適正に求めるため、送信機の一例としての無線送信機10TXと受信機の一例としての電波測定装置10を、壁W1を挟んで(つまり、壁越しに)対向して配置する(
図5A参照)。さらに、壁W1を挟んだ反対側に位置する無線送信機10TXから送信された電波を、受信側の電波測定装置10の位置を変えながら、壁越しで電波測定装置10において受信する(
図5A参照)。この受信の際に、電波測定装置10の配置位置が無線送信機10TXと適正に対向する位置に配置されると、電波測定装置10の壁W1との対向面において受信電界強度の高い電波が受信可能となる。これにより、測定機器(上述参照)は、電波測定装置10の出力に基づいて、電波測定装置10が受信した電波の壁W1による損失(ロス)を適正に測定できる。また、公知技術(例えばホールアンテナ法)を用いることで、壁W1の透過による電波の損失を用いて、壁W1の実際の環境に即した適正な材料定数が求められ、その材料定数をシミュレーション(例えば非特許文献2に開示されるレイトレーシング法)におけるパラメータとして設定利用できるため、シミュレーションの精度向上が可能となる。
【0041】
図4には、
図3に示すエリアARE1と、そのエリアARE1を対象として反射回数別に電波環境解析装置(図示略)により計算された電波環境のシミュレーション結果REF3,REF4,REF5と、電波測定装置10を用いてエリアARE1を移動しながら実際に測定した電波環境の測定結果MSR1とが示されている。電波環境のシミュレーションおよび実測のいずれにおいても、無線送信機10TXが載置されたエリアARE1の一端側(送信点)の周囲の地点における電波の受信電界強度(電界レベル)は大きく、送信点から離れる程、電波の受信電界強度(電界レベル)は低下した。
【0042】
電波環境のシミュレーションおよび実測においては、無線送信機10TXは、例えばエリアARE1の一端側の高さ(つまり、床面から1.8m)の位置に載置され、周波数926.6MHzの電波を+20dBmの強度で送信した。また、電波環境の実測においては、受信側の電波測定装置10は、床面から1.35mの高さに位置するように載置された。
【0043】
反射回数は、例えば非特許文献2に開示されているレイトレーシング法を用いた電波環境のシミュレーションにおいてパラメータとして使用される。つまり、反射回数は、電波が無線送信機10TXの位置からエリアARE1内の目的の地点まで到達するまでに、エリアARE1内に配置された散乱体を反射する回数を示す。
図4に示すように、反射回数が3回、4回、5回と増えれば増える程、シミュレーション結果は実際に測定した電波環境の測定結果MSR1に徐々に近づくので、シミュレーションの精度が向上するが、シミュレーション結果を得るための計算に相当の時間がかかってしまい、ユーザの利便性を劣化させてしまう。
【0044】
そこで、反射回数が少なくても(言い換えると、反射回数を増やさなくても)、実際に測定した電波環境の測定結果MSR1に近いシミュレーション結果が得られるように、上述した電波測定方法が実行される。つまり、エリアARE1内に載置されるそれぞれの散乱体の適正な(つまり、実際の工場等のエリアARE1の環境に即した)材料定数を求めるために、それぞれの散乱体における損失を測定する時の受信側の電波測定装置10の位置決めが肝要となる。
【0045】
次に、実施の形態1に係る電波測定方法の動作概要について、
図5A、
図5B、
図6A、
図6B、
図7A、
図7B、
図8A、
図8Bおよび
図9を参照して説明する。
図5Aは、実施の形態1に係る電波測定装置10を受信機として用いた電波測定方法の動作概要例を示す説明図である。
図5Bは、主受信面MPL1および複数の副受信面SPL1,SPL2,SPL3,SPL4の説明図である。
【0046】
図5Aに示すように、送信機の一例としての無線送信機10TXと受信機の一例としての電波測定装置10とが、工場等のエリアARE1に配置された散乱体の一例としての壁W1を挟んで配置される。無線送信機10TXから、例えば920MHz帯の周波数の電波WV1が送信される。電波WV1は、散乱体である壁W1を透過し、電波測定装置10の主受信面MPL1および複数の副受信面SPL1,SPL2,SPL3,SPL4のそれぞれにおいて受信される(
図5Aおよび
図5B参照)。
【0047】
ここで、主受信面MPL1は、
図5Bに示すように、電波測定装置10が有する6つの面のうち、他の面に比べて壁W1に対向または略対向している面である。従って、壁W1を透過した電波WV1の受信電界強度は、主受信面MPL1で最大となり、他の面(つまり、副受信面)では主受信面MPL1での受信電界強度よりも小さくなる。
【0048】
図6Aは、適正な位置に受信機が保持された時の主受信面MPL1および複数の副受信面SPL1〜SPL4において受信された電波の受信電界強度の一例を示すグラフが表示部DP1に示された図である。
図6Bは、適正な位置に受信機が保持されない時の主受信面MPL1および複数の副受信面SPL1〜SPL4において受信された電波の受信電界強度の一例を示すグラフが表示部DP1に示された図である。表示部DP1は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)を用いて構成され、測定機器(図示略)に接続または搭載されたディスプレイである。測定機器による測定結果は表示部DP1に表示される。
【0049】
図5Aに示すように、送信機(つまり、無線送信機10TX)と受信機(つまり、電波測定装置10)とが壁W1を挟んで対向して配置された場合には、壁W1を透過した電波WV1は、主受信面MPL1において主体的に受信され、他の面(つまり、副受信面SPL1〜SPL4)には主受信面MPL1からさらに回り込んで受信される。
【0050】
従って、
図6Aに示すように、電波測定装置10と接続されたPC(図示略)により測定された電波測定装置10の各受信面における受信電界強度は、次のような所定の条件を満たす。所定の条件は、主受信面MPL1における受信電界強度STR1が、他の面(つまり、副受信面SPL1〜SPL4)における受信電界強度STR2,STR3,STR4,STR5に比べて大きく、かつ、受信電界強度STR2,STR3,STR4,STR5のそれぞれの差異が所定値α1以内である(
図6A参照)。
図6Aおよび
図6Bでは、副受信面(1),副受信面(2),副受信面(3),副受信面(4)は、それぞれ副受信面SPL1、SPL2,SPL3,SPL4に対応する。なお、平均値STR0は、それぞれの副受信面における受信電界強度STR2,STR3,STR4,STR5の平均値を示している。
【0051】
一方、送信機(つまり、無線送信機10TX)と受信機(つまり、電波測定装置10)とが壁W1を挟んで対向して配置されていない場合には、壁W1を透過した電波WV1は、主受信面MPL1において主体的に受信されるとは限らず、他の面(つまり、副受信面SPL1〜SPL4)での受信電界強度STR2,STR3,STR4,STR5も均一とはならない。
【0052】
従って、
図6Bに示すように、受信電界強度STR1は、受信電界強度STR2,STR3,STR4,STR5のそれぞれより大きいが、受信電界強度STR2,STR3,STR4,STR5のそれぞれの差異が所定値α1以内とならない。つまり、上述した所定の条件を満たさないので、送信機(つまり、無線送信機10TX)と受信機(つまり、電波測定装置10)とが壁W1を挟んで対向して配置されていないと言える。
【0053】
図7Aは、適正な位置に受信機が保持された時の送信機および受信機の位置関係の一例を示すYZ平面図である。
図7Bは、適正な位置に受信機が保持されない時の送信機および受信機の位置関係の一例を示すYZ平面図である。
図8Aは、適正な位置に受信機が保持された時の送信機および受信機の位置関係の一例を示すXZ側面図である。
図8Bは、適正な位置に受信機が保持されない時の送信機および受信機の位置関係の一例を示すXZ平面図である。XYZ軸は
図3に示すXYZ軸と同一である。
【0054】
図7Aでは、YZ平面視において、無線送信機10TXと電波測定装置10とが壁W1を挟んでY方向に対向して配置されている状態(言い換えると、Y方向への横ずれが無い状態)が示されている。一方で、
図7Bでは、同様のYZ平面視において、無線送信機10TXと電波測定装置10とが壁W1を挟んでY方向に対向して配置されていない状態が示されている。つまり、YZ平面視において、
図7Bに示すように、エリアARE1の3次元座標空間を考慮した場合に、無線送信機10TXのY座標と電波測定装置10のY座標とが一致しない場合には、無線送信機10TXと電波測定装置10とが壁W1を挟んでY方向に対向して配置されていないと言える。
【0055】
同様に、XZ平面視において、無線送信機10TXと電波測定装置10とが壁W1を挟んでX方向に対向して配置されている状態(言い換えると、X方向への高さずれが無い状態)が示されている。一方で、
図8Bでは、同様のXZ平面視において、無線送信機10TXと電波測定装置10とが壁W1を挟んでX方向に対向して配置されていない状態が示されている。つまり、XZ平面視において、
図8Bに示すように、エリアARE1の3次元座標空間を考慮した場合に、無線送信機10TXのX座標と電波測定装置10のX座標とが一致しない場合には、無線送信機10TXと電波測定装置10とが壁W1を挟んでX方向に対向して配置されていないと言える。
【0056】
次に、実施の形態1に係る電波測定装置10を受信機として用いた電波測定方法の時系列的な動作手順を、
図9を参照して説明する。
図9は、実施の形態1に係る電波測定装置10を受信機として用いた電波測定方法の動作手順の一例を説明するフローチャートである。
図9に示す説明の前提として、送信機の一例としての無線送信機10TXと受信機の一例としての電波測定装置10とは、エリアARE1内に載置された散乱体である壁W1を挟んで配置されている。
【0057】
図9において、無線送信機10TXは、例えば920MHz帯の周波数の電波を送信(放射)する(St1)。電波測定装置10は、現在の配置位置において、ステップSt1において無線送信機10TXから送信された電波を、散乱体(例えば壁W1)越しで受信する(St2)。電波測定装置10はUSBポート7bを介してPCに接続されている。PCは、ステップSt2において電波測定装置10の主受信面と複数の副受信面とでそれぞれ受信された電波の受信電界強度を測定する(St3)。
【0058】
ステップSt3においてPCによって測定された、主受信面における受信電界強度と複数の副受信面のそれぞれにおける受信電界強度とが所定の条件(上述参照)を満たすかどうかが判別される(St4)。所定の条件は、上述したように、主受信面における受信電界強度が、他の面(つまり、副受信面)における受信電界強度に比べて大きく、かつ、副受信面における受信電界強度のそれぞれの差異が所定値(例えば
図6Aに示すα1)以内である。
【0059】
所定の条件が満たされない場合には(St4、NO)、例えばユーザが台座(図示略)を動かす等の移動手段によって電波測定装置10の配置位置が変えられる(St5)。その後、電波測定装置10は、ステップSt5による変更後の配置位置において、無線送信機10TXから送信された電波を、散乱体(例えば壁W1)越しで受信する(St2)。測定機器は、ステップSt2において電波測定装置10の主受信面と複数の副受信面とでそれぞれ受信された電波の受信電界強度を測定する(St3)。
【0060】
一方、所定の条件が満たされた場合には(St4、YES)、所定の条件が満たされた時の散乱体(例えば壁W1)越しの電波測定装置10の位置が決定される(St6)。従って、ステップSt6における決定時の電波測定装置10の位置に固定された状態で、電波の壁W1の透過による損失がPCによって測定されることで、壁W1の材料定数を適正に求めることが可能となる(St7)。
【0061】
以上により、実施の形態1に係る電波測定方法は、送信機の一例としての無線送信機10TXと受信機の一例としての電波測定装置10とを用いる。電波測定装置10は、水平偏波アンテナ(受信アンテナの一例)および垂直偏波アンテナ(受信アンテナの一例)が設けられた1つの主受信面と、それぞれ異なる水平偏波アンテナ(受信アンテナの一例)および垂直偏波アンテナ(受信アンテナの一例)が設けられた複数の副受信面とを有する多面体の筐体を有する。電波測定方法は、無線送信機10TXから電波を送信するステップと、電波を散乱体(例えば壁W1)越しに電波測定装置10で受信するステップとを有する。電波測定方法は、電波測定装置10の位置を変えて、主受信面の受信アンテナおよび複数の副受信面のそれぞれの受信アンテナにより受信されたそれぞれの電波の受信品質の測定を複数回行うステップを有する。電波測定方法は、主受信面の受信アンテナに対応する電波の受信品質と、複数の副受信面のそれぞれに対応する電波の受信品質とが所定の条件を満たす時の受信機の位置を、散乱体(例えば壁W1)の材料定数の導出に用いる測定位置と決定するステップを有する。
【0062】
これにより、実施の形態1に係る電波測定方法によれば、測定対象のモデルエリアに配置される散乱体越しで送信機からの電波を受信する受信機の適正な位置を決定できるので、シミュレーションに用いる散乱体の実環境に即した材料定数の導出ならびにシミュレーションの精度向上に資することができる。
【0063】
また、電波測定方法は、主受信面の受信アンテナに対応する電波の受信品質と、複数の副受信面のそれぞれに対応する電波の受信品質とを、電波測定装置10に接続されたPCにより測定して表示部DP1に表示するステップをさらに有する。これにより、電波測定方法によれば、ユーザは、主受信面の受信アンテナに対応する電波の受信品質と、複数の副受信面のそれぞれに対応する電波の受信品質と表示部DP1において目視で視覚的に確認しながら、壁W1を挟んで無線送信機10TXと電波測定装置10とが対向して位置しているかどうかを簡単に確認できる。
【0064】
また、所定の条件は、主受信面の受信アンテナに対応する電波の受信品質が、複数の副受信面のそれぞれに対応する電波の受信品質に比べて大きく、かつ、複数の副受信面のそれぞれに対応する電波の受信品質の差異が所定値以内である。無線送信機10TXと電波測定装置10とが壁W1を挟んで対向して配置された場合には、壁W1を透過した電波は主受信面において主体的に受信され、他の面(つまり、複数の副受信面)には主受信面からさらに回り込んで受信される。これにより、上述した所定の条件が満たされた場合には、壁W1を挟んで無線送信機10TXと電波測定装置10とが対向して位置していると判別可能となる。
【0065】
また、電波測定装置10の筐体の多面体は、主受信面の面積と複数の副受信面のそれぞれの面積とが同一となる立方体である。これにより、主受信面と複数の副受信面とで同一面積となるので、各面における水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナを同一の位置関係で配置できるので、測定機器における電波の受信電界強度の測定精度を向上できる。
【0066】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各種の実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0067】
なお、本出願は、2018年3月23日出願の日本特許出願(特願2018−056872)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。