(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6859561
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】音響メタマテリアルおよびこれを用いた振動減衰装置
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20210405BHJP
G10K 11/172 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
G10K11/16 140
G10K11/172
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-161177(P2019-161177)
(22)【出願日】2019年9月4日
(65)【公開番号】特開2021-39266(P2021-39266A)
(43)【公開日】2021年3月11日
【審査請求日】2020年10月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519321683
【氏名又は名称】株式会社3D Printing Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水上 孝一
(72)【発明者】
【氏名】川口 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】古賀 洋一郎
【審査官】
冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−133246(JP,A)
【文献】
特開平11−172803(JP,A)
【文献】
中国実用新案第202646500(CN,U)
【文献】
米国特許第4228869(US,A)
【文献】
特開2016−142111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00−13/00
F16F 15/00−15/36
G05D 19/00−19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される振動に対して共振する振動体と、
前記振動体の外周側を連続する長繊維の炭素繊維で周回する繊維部を含み、前記振動体を内側に収容する容器部材と、
前記振動体と前記容器部材との間に設けられ、前記振動体を振動可能に前記容器部材に支持する支持部と、
を備える音響メタマテリアル。
【請求項2】
前記振動体と前記容器部材との間に設けられ、前記容器部材の内側において前記振動体を収容する内筒部材をさらに、備え、
前記支持部は、前記内筒部材と前記容器部材との間に設けられている請求項1記載の音響メタマテリアル。
【請求項3】
前記内筒部材は、前記振動体の外周側を連続する長繊維の炭素繊維で周回する内側繊維部を含む請求項2記載の音響メタマテリアル。
【請求項4】
前記容器部材、前記支持部および前記内筒部材は、短繊維の炭素繊維を含む炭素繊維強化プラスチックで継ぎ目なく一体に形成されている請求項2または3記載の音響メタマテリアル。
【請求項5】
2つ以上連結された請求項1から4のいずれか一項記載の音響メタマテリアルを備え、
隣り合う2つ以上の前記音響メタマテリアルは、任意に選択した一つの前記音響メタマテリアルにおいて前記振動体を周回する前記繊維部を仮想的に延長した延長線上に、隣り合う他の前記音響メタマテリアルの前記繊維部が位置している振動減衰装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響メタマテリアルおよびこれを用いた振動減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自然界に存在し得ない性質を有する材料はメタマテリアルとして研究が進められている。音響メタマテリアルは、このようなメタマテリアルのうち、伝搬する音波や振動を制御するものである。音響メタマテリアルは、その特性を制御することによって、特定の周波数を吸収したり、伝搬する音波や振動を減衰したりすることができる。
例えば特許文献1の場合、繊維強化複合材料(FRP:Fiber Reinforced Plastic)に含まれる繊維は、振動を減衰することに着目し、その配置を規則化することを提案している。また、特許文献2の場合、FRPを構成する樹脂、繊維、空隙の比率を特定することにより、剛性および軽量化を維持しつつ音響特性の向上を図っている。
【0003】
しかしながら、これら特許文献に開示されている発明は、いずれもFRPに含まれる繊維によって音波および振動の制御することを開示しているにすぎない。すなわち、特許文献に開示されている発明は、いずれもFRPに含まれる繊維の配置や形状について考察されていない。そのため、これらの特許文献の場合、車両や船舶といった大型かつ重量の大きな機器における音波や振動の制御には強度が不十分であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−284198号公報
【特許文献2】特開2017−120410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、強度が高く、音波または振動の周波数の制御が容易な音響メタマテリアルおよびこれを用いた振動減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために一実施形態の音響メタマテリアルは、振動体を備えている。振動体は、入力される音波または振動に共振し、音波または振動を減衰する。入力される音波または振動の周波数に応じて共振する振動体を変更することにより、減衰の対象となる音波または振動の周波数は容易に制御される。また、振動体を収容する容器部材は、振動体の外周側を周回する繊維部を含んでいる。この繊維部は、連続する長繊維の炭素繊維によって構成されている。これにより、容器部材は、振動体の外周側において周方向で繊維部によって補強される。すなわち、周方向へ周回する長繊維の炭素繊維は、不規則に混入される繊維と比較して容器部材の強度の向上に寄与する。そのため、容器部材に繊維部を設けることにより、容器部材は繊維部に沿って入力される荷重に対する強度が向上する。したがって、強度を高めることができ、減衰する音波または振動の周波数を容易に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態による音響メタマテリアルの平面視を示す模式図
【
図4】一実施形態による音響メタマテリアルを示す模式的な斜視図
【
図5】一実施形態による音響メタマテリアルを連結した振動減衰装置の平面視を示す模式図
【
図6】一実施形態による振動減衰装置における入力する周波数と伝達量との関係を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0008】
一実施形態による音響メタマテリアルおよびこれを用いた振動減衰装置を図面に基づいて説明する。
図1〜
図4に示すように一実施形態による音響メタマテリアル10は、振動体11、容器部材12、支持部13、および内筒部材14を備えている。振動体11は、これを形成する材料の固有振動数に応じて入力される振動に共振する。振動体11は、例えば金属をはじめとして、セラミックスなどの無機化合物や樹脂などの有機化合物など減衰を求める音波や振動の周波数に応じて任意に選択することができる。また、振動体11は、
図1〜
図4に示す一実施形態のように円柱状に限らず、例えば多角柱形状、球状など任意の形状とすることができる。
【0009】
容器部材12は、振動体11の外周側に設けられている。容器部材12は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)で形成されている。容器部材12は、
図1〜
図3に示すように繊維部15を有しており、この繊維部15を除く部分が短繊維の炭素繊維を含むCFRPで形成されている。短繊維を含むCFRPは、例えばOnyxと称されている。容器部材12は、繊維部15を含んでおり、振動体11の外周側を覆うことにより内側に振動体11を収容する。繊維部15は、振動体11の外周側を連続して周回する長繊維の炭素繊維で構成されている。容器部材12を
図1〜
図3に示すような平面視で矩形状に形成する場合、繊維部15は、振動体11の外周側を容器部材12の外縁の近傍に沿って連続して包囲している。すなわち、容器部材12は、容器部材12の形状を構成する短繊維のCFRPの構造体に、振動体11を包囲しつつ外縁に沿って連続する長繊維のCFRPからなる繊維部15を含んでいる。
【0010】
支持部13は、振動体11と容器部材12との間に設けられている。支持部13は、振動体11を振動可能に容器部材12に支持している。支持部13は、容器部材12から内側の振動体11に向けて径方向へ突出している。支持部13は、径方向において、一方の端部である外周側が容器部材12に接続し、他方の端部である内周側に振動体11を支持している。
【0011】
一実施形態の場合、音響メタマテリアル10は、内筒部材14を備えている。内筒部材14は、振動体11と容器部材12との間に設けられており、容器部材12の内側つまり内周側において振動体11を収容している。これにより、支持部13は、容器部材12と内筒部材14との間に設けられている。すなわち、一実施形態の場合、振動体11は、支持部13によって直接支持されているのではなく、内筒部材14を挟んで支持部13によって支持されている。これにより、支持部13は、径方向において、一方の端部である外周側が容器部材12に接続し、他方の端部である内周側が内筒部材14に接続している。
【0012】
また、内筒部材14は、
図1〜
図3に示すように内側繊維部16を有しており、この内側繊維部16を除く部分が短繊維の炭素繊維を含むCFRPで形成されている。内筒部材14は、内側繊維部16を含んでおり、内周側に振動体11が設けられる。内側繊維部16は、振動体11の外周側を連続して周回する長繊維の炭素繊維で構成されている。内筒部材14を
図1〜
図4に示すような平面視で円筒形状に形成する場合、内側繊維部16は、内筒部材14の周方向へ連続して包囲している。すなわち、内筒部材14は、内筒部材14の形状を構成する短繊維のCFRPの構造体に、振動体11を包囲しつつ振動の周方向へ連続する長繊維のCFRPからなる内側繊維部16を含んでいる。なお、音響メタマテリアル10は、内筒部材14に内側繊維部16を設けなくてもよい。この場合、内筒部材14は、短繊維を含むCFRPで全体が形成される。
【0013】
支持部13は、
図1〜
図4に示す一実施形態のように放射状に限らず、周方向へ連続する円環板形状など、任意の形状とすることができる。支持部13は、放射状とする場合、1本以上であれば任意の本数とすることができる。また、支持部13は、音響メタマテリアル10の軸方向において、内筒部材14の全長にわたって連続する板状に形成してもよく、任意の位置に設けられる棒状に形成してもよい。この場合も、支持部13は、軸方向へ1本以上であれば任意の本数とすることができる。支持部13の形状、本数および位置などは、減衰する音波や振動の周波数に応じて任意に設定される。
【0014】
一実施形態の音響メタマテリアル10では、これら繊維部15を含む容器部材12、支持部13、および内側繊維部16を含む内筒部材14は、短繊維を含むCFRPによって継ぎ目なく一体に形成されている。すなわち、音響メタマテリアル10は、例えば3Dプリンタなどを用いることによって、容器部材12、支持部13および内筒部材14がCFRPによって一体に形成されている。そして、この一体に形成された音響メタマテリアル10は、容器部材12に長繊維のCFRPからなる繊維部15、および内筒部材14に長繊維のCFRPからなる内側繊維部16を有している。
【0015】
図5に示すように振動減衰装置20は、上述の音響メタマテリアル10を2つ以上連結して構成されている。この場合、振動減衰装置20は、隣り合う音響メタマテリアル10の繊維部15が互いに仮想的に延長した延長線上に位置するように配置されている。すなわち、
図5に示すように2つ以上の音響メタマテリアル10が隣り合って配置されているとする。このとき、任意に選択した一つの音響メタマテリアル10において振動体11を周回する繊維部15を仮想的に延長した延長線上に、隣り合う他の音響メタマテリアル10の繊維部15が位置している。その結果、2つ以上の音響メタマテリアル10は、隣り合う繊維部15が仮想的な同一の直線上に位置している。このように、隣り合う繊維部15が同一の直線上に位置するように音響メタマテリアル10を連結することにより、連結された音響メタマテリアル10から構成される振動減衰装置20は、
図5の直線Xに示すようにこの仮想的な直線X方向における強度が増大する。すなわち、仮想的な直線X方向へ長繊維の繊維部15が直列的に配置され、直線Xに沿った圧縮方向の強度が高められる。これにより、連結した音響メタマテリアル10から構成される振動減衰装置20は、この仮想的な直線X方向で重量物など加わる荷重が大きな物を支持することができる。
【0016】
次に、上記の構成による音響メタマテリアル10および振動減衰装置20の製造方法の一例について説明する。
音響メタマテリアル10は、FDM方式の3Dプリンタによって形成される。具体的には、音響メタマテリアル10は、長繊維の炭素繊維からなる繊維部15、繊維部15を除く容器部材12、支持部13、長繊維の炭素繊維からなる内側繊維部16、および内側繊維部16を除く内筒部材14が3Dプリンタによって継ぎ目なく一体的に形成される。このとき、繊維部15を除く容器部材12、支持部13、および内側繊維部16を除く内筒部材14は、短繊維の炭素繊維を含むCFRPで一体的に形成される。
【0017】
一体的に形成された音響メタマテリアル10は、内筒部材14の内周側に振動体11が取り付けられる。振動体11は、内筒部材14の内側に圧入や挿入などによって取り付けられる。使用する3Dプリンタによっては、予め設けた振動体11をインサートして、振動体11の周囲に音響メタマテリアル10の構造部分を形成する構成としてもよい。
【0018】
また、振動減衰装置20は、3Dプリンタによって形成された音響メタマテリアル10を接着などによって連結してもよく、3Dプリンタによって任意の個数を連結した状態で一体的に形成してもよい。
【0019】
次に、一実施形態による音響メタマテリアル10を用いた振動減衰装置20の実施例および実験結果を説明する。
実施例では、
図5に示すように5つの音響メタマテリアル10を一体的に連結した振動減衰装置20を用いた。音響メタマテリアル10および振動減衰装置20は、Markforged社製のMark Two 3Dプリンタを用いて作成した。振動減衰装置20は、3Dプリンタによって5つの音響メタマテリアル10を連結した状態で形成した。音響メタマテリアル10の一辺の長さは37mmに設定し、これを5つ連結した振動減衰装置20の長手方向の全長は185mmとした。
【0020】
得られた振動減衰装置20は、入力した振動に対して出力される振動の減衰量(dB)で振動減衰能力を評価した。すなわち、振動減衰装置20は、長手方向である直線X方向の一方の端部から特定の振動数の振動を入力振動として入力する。そして、この入力振動に対して、他方の端部から出力される振動を出力振動として測定した。周波数を変化させながら、入力振動に対する出力振動の減衰量を測定した。この結果、
図6に示すように、用いた振動減衰装置20は、4000Hz付近において顕著な振動の減衰を示した。このように、振動体11および音響メタマテリアル10の構造を適宜設定することにより、任意の周波数における出力振動を低減することができる。
【0021】
以上説明した一実施形態では、音響メタマテリアル10は、振動体11を備えている。振動体11は、入力される音波または振動に共振し、音波または振動を減衰する。入力される音波または振動の周波数に応じて共振する振動体11を変更することにより、減衰の対象となる音波または振動の周波数は容易に制御される。また、振動体11を収容する容器部材12は、振動体11の外周側を周回する繊維部15を含んでいる。この繊維部15は、連続する長繊維の炭素繊維によって構成されている。これにより、容器部材12は、振動体11の外周側を周方向で繊維部15によって補強する。すなわち、長繊維の炭素繊維は、不規則に混入される短繊維の繊維と比較して容器部材12の強度の向上に寄与する。そのため、容器部材12に繊維部15を設けることにより、容器部材12は繊維部15に沿って入力される荷重に対する強度が向上する。したがって、強度を高めることができ、減衰する音波または振動の周波数を容易に制御することができる。
【0022】
また、一実施形態の振動減衰装置20は、音響メタマテリアル10が2つ以上連結されている。そして、この音響メタマテリアル10の連結方向は、音響メタマテリアル10に含まれる繊維部15の周回方向に応じて設定されている。そのため、音響メタマテリアル10が複数連結された振動減衰装置20は、繊維部15によって一定の方向の強度が高められる。したがって、例えば車両や船舶といった輸送用機器、およびこれに用いられる内燃機関などの重量の大きな構造物を支持しつつ、音波や振動の減衰を図ることができる。
【0023】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0024】
図面中、10は音響メタマテリアル、11は振動体、12は容器部材、13は支持部、14は内筒部材、15は繊維部、16は内側繊維部、20は振動減衰装置を示す。