(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃料電池のカソード極に酸化剤を供給するアクチュエータと、前記カソード極から酸化剤を含むガスを排出する排気弁と、前記燃料電池のアノード極に燃料を供給する供給弁と、前記カソード極に対して電圧又は電流を印加するための印加回路と、を含む燃料電池システムの制御方法であって、
前記燃料電池への燃料及び酸化剤の供給量を制御して前記燃料電池の発電を行う発電ステップと、
前記燃料電池の発電を停止する場合には、前記アクチュエータを停止して前記カソード極の酸化剤を消費するように前記供給弁を制御する停止制御ステップと、を含み、
前記停止制御ステップは、前記供給弁及び前記排気弁を閉じるときには、前記印加回路により前記アノード極から前記カソード極への燃料の排出を抑えるための所定の電圧を印加するか否かを選択する回路制御ステップを備え、
前記回路制御ステップにおいて、前記燃料電池の発電を一旦停止させるアイドルストップ期間中に前記印加回路が前記カソード極に所定の電圧を印加することを選択するものとし、前記選択時から前記アイドルストップ期間が終了するまでの前記印加回路の消費電力量と、前記選択時から前記アイドルストップ期間が終了するまでの前記アノード極から前記カソード極への前記燃料の透過に伴う損失電力量と、を算出することで、前記消費電力量が前記損失電力量を超えるまでの印加時間を算出し、前記アイドルストップ期間が前記印加時間以下となったときに前記選択を実行することを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における燃料電池システム100の構成の一例を示す図である。
【0011】
燃料電池システム100は、燃料電池に対して外部から発電に必要となる燃料ガス及び酸化剤ガスを供給して燃料電池を電気負荷に応じて発電させる電源システムを構成する。
【0012】
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、酸化剤ガス給排装置2と、燃料ガス給排装置3と、スタック冷却装置4と、負荷装置5と、電圧印加回路6と、コントローラ200とを含む。
【0013】
燃料電池スタック1は、負荷装置5に接続されて負荷装置5に電力を供給する積層電池である。燃料電池スタック1は、例えば数百V(ボルト)の直流の電圧を生じる。
【0014】
燃料電池は、ひとつの電池セルであり、アノード極(燃料極)と、カソード極(酸化剤極)と、アノード極とカソード極で挟まれる電解質膜と、により構成される。燃料電池では、アノード極に水素を含有する燃料ガス(アノードガス)と、カソード極に酸素を含有する酸化剤ガス(カソードガス)とが、電解質膜において電気化学反応(発電反応)を起こす。アノード極及びカソード極では、以下の電気化学反応が進行する。
【0015】
アノード極 : 2H
2 → 4H
+ + 4e- ・・・(1)
カソード極 : 4H
+ +4e- + O
2 → 2H
2O ・・・(2)
【0016】
上記(1)及び(2)に示した電気化学反応により起電力が発生するとともに水が生成される。燃料電池スタック1に形成された燃料電池の各々は直列に接続されており、各燃料電池に生じるセル電圧の総和が燃料電池スタック1の出力電圧となる。
【0017】
燃料電池スタック1は、燃料ガス給排装置3から燃料ガスが供給されるとともに酸化剤ガス給排装置2から酸化剤ガスが供給される。
【0018】
酸化剤ガス給排装置2は、燃料電池スタック1のカソード極に酸化剤ガスを供給すると共に、燃料電池スタック1のカソード極から排出される酸化剤オフガスを大気に排出する装置である。すなわち、酸化剤ガス給排装置2は、燃料電池スタック1のカソード極に酸化剤ガスを供給する酸化剤供給手段を構成する。
【0019】
酸化剤ガス給排装置2は、酸化剤ガス供給通路21と、吸入流量センサ22と、コンプレッサ23と、カソード圧力センサ24と、酸化剤ガス排出通路25と、カソード調圧弁26と、バイパス通路27と、バイパス弁28とを含む。
【0020】
酸化剤ガス供給通路21は、燃料電池スタック1に酸化剤ガスを供給するための通路である。酸化剤ガス供給通路21の一端は開口しており、他端は、燃料電池スタック1の酸化剤ガス入口孔に接続される。
【0021】
吸入流量センサ22は、コンプレッサ23よりも上流の酸化剤ガス供給通路21に設けられ、コンプレッサ23により吸入される酸化剤ガスの流量を検出する。吸入流量センサ22は、検出した流量を示す信号をコントローラ200に出力する。
【0022】
コンプレッサ23は、燃料電池スタックのカソード極に酸化剤を供給するアクチュエータを構成する。コンプレッサ23は、酸化剤ガス供給通路21に設けられる。本実施形態のコンプレッサ23は、酸化剤ガス供給通路21の開口から酸素を含有する空気を取り込み、その空気を酸化剤ガスとして燃料電池スタック1に供給する。
【0023】
カソード圧力センサ24は、コンプレッサ23よりも下流の酸化剤ガス供給通路21に設けられる。カソード圧力センサ24は、燃料電池スタック1のカソード極に供給される酸化剤ガスの圧力の大きさを検出する。カソード圧力センサ24は、検出した圧力を示す信号をカソード極の圧力値としてコントローラ200に出力する。
【0024】
酸化剤ガス排出通路25は、燃料電池スタック1のカソード極から排出される酸化剤オフガスを外気へ排出するための通路である。酸化剤ガス排出通路25の一端は、燃料電池スタック1の酸化剤ガス出口孔に接続され、他端は開口している。
【0025】
カソード調圧弁26は、燃料電池スタック1のカソード極から酸化剤オフガスを排出する排気弁を構成する。カソード調圧弁26は、酸化剤ガス排出通路25に設けられる。カソード調圧弁26としては、例えば弁の開度を段階的に変更可能な電磁弁が用いられる。カソード調圧弁26は、コントローラ200によって開閉制御される。この開閉制御によって燃料電池スタック1のカソード極に供給される酸化剤ガスの圧力が所望の圧力に調節される。
【0026】
バイパス通路27は、コンプレッサ23により吐出される酸化剤ガスの一部を外気へ排出するために、燃料電池スタック1を迂回するように配設された通路である。バイパス通路27は、コンプレッサ23よりも下流の酸化剤ガス供給通路21から分岐してカソード調圧弁26よりも上流の酸化剤ガス排出通路25に接続される。
【0027】
バイパス弁28は、バイパス通路27に設けられる。バイパス弁28は、コンプレッサ23により吐出される酸化剤ガスの一部を、燃料電池スタック1に供給することなく外気へ排出する。バイパス弁28としては、例えば弁の開度を段階的に変更可能な電磁弁が用いられる。バイパス弁28は、コントローラ200によって開閉制御される。この開閉制御によって燃料電池スタック1に酸化剤ガスが過剰に供給されるのを回避することが可能になる。
【0028】
燃料ガス給排装置3は、燃料電池スタック1のアノード極に燃料ガスを供給すると共に、燃料電池スタック1から排出される燃料オフガスを燃料電池スタック1のアノード極に循環させる装置である。すなわち、燃料ガス給排装置3は、燃料電池スタック1に燃料ガスを供給する燃料供給手段を構成する。
【0029】
燃料ガス給排装置3は、高圧タンク31と、燃料ガス供給通路32と、アノード調圧弁33と、合流部34と、アノード圧力センサ35と、燃料ガス循環通路36と、アノード循環ポンプ37と、パージ通路38と、パージ弁39とを含む。
【0030】
高圧タンク31は、燃料電池スタック1に供給される燃料ガスを高圧状態に保って貯蔵する。
【0031】
燃料ガス供給通路32は、高圧タンク31に貯蔵された燃料ガスを燃料電池スタック1のアノード極に供給するための通路である。燃料ガス供給通路32の一端は高圧タンク31に接続され、他端は燃料電池スタック1の燃料ガス入口孔に接続される。
【0032】
アノード調圧弁33は、燃料電池スタック1のアノード極に燃料を供給する供給弁を構成する。アノード調圧弁33は、高圧タンク31と合流部34との間の燃料ガス供給通路32に設けられる。本実施形態では、アノード調圧弁33として弁の開度を段階的に変更可能な電磁弁が用いられる。アノード調圧弁33は、コントローラ200によって開閉制御される。この開閉制御によって、燃料電池スタック1のアノード極に供給される燃料ガスの圧力が調節される。
【0033】
合流部34は、アノード調圧弁33よりも下流の燃料ガス供給通路32に設けられる。合流部34は、アノード調圧弁33からの燃料ガスと燃料ガス循環通路36からの燃料オフガスとの混合ガスを燃料電池スタック1に供給する。合流部34には、例えばエゼクタが設けられる。エゼクタは、アノード調圧弁33から供給される燃料ガスの流速を加速して負圧を生じさせることにより、燃料電池スタック1から排出された燃料オフガスを吸引する。
【0034】
アノード圧力センサ35は、合流部34よりも下流の燃料ガス供給通路32に設けられる。アノード圧力センサ35は、燃料電池スタック1におけるアノード極に供給される燃料ガスの圧力の大きさを検出する。アノード圧力センサ35は、検出した圧力を示す信号をアノード極の圧力値としてコントローラ200に出力する。
【0035】
燃料ガス循環通路36は、燃料電池スタック1から排出された燃料オフガスを燃料ガス供給通路32に循環させるための通路である。燃料ガス循環通路36の一端は燃料電池スタック1の燃料ガス出口孔に接続され、他端は合流部34の吸引口に接続される。
【0036】
アノード循環ポンプ37は、燃料ガス循環通路36に設けられる。アノード循環ポンプ37は、合流部34を介して燃料電池スタック1のアノード極に燃料オフガスを循環させる。
【0037】
パージ通路38は、燃料電池スタック1から排出される燃料オフガス中の水蒸気や窒素などの不純物を排出するための通路である。パージ通路38の一端は、燃料電池スタック1の燃料ガス出口孔とアノード循環ポンプ37との間の燃料ガス循環通路36に接続され、他端はカソード調圧弁26よりも下流の酸化剤ガス排出通路25に接続される。
【0038】
パージ弁39は、パージ通路38に設けられている。パージ弁39は、燃料オフガス中の不純物を酸化剤ガス排出通路25に排出する。水素を含む燃料オフガスが酸化剤ガス排出通路25に排出されることにより、水素が空気によって希釈されるので、燃料電池システム100から排出される排ガス中の水素濃度を規定値以下に維持することが可能になる。
【0039】
なお、気液分離装置をパージ弁39の上流に設けるようにしてもよい。これにより、燃料オフガスから水蒸気をより確実に取り除くことができる。
【0040】
スタック冷却装置4は、冷媒を用いて燃料電池スタック1の温度を燃料電池の発電に適した所定の温度に調整する装置である。
【0041】
スタック冷却装置4は、冷却水循環通路41と、冷却水ポンプ42と、ラジエータ43と、バイパス通路44と、三方弁45と、スタック入口水温センサ46と、スタック出口水温センサ47とを含む。
【0042】
冷却水循環通路41は、燃料電池スタック1に冷却水を循環させるための通路である。冷却水循環通路41の一端は燃料電池スタック1の冷却水入口孔に接続され、他端は燃料電池スタック1の冷却水出口孔に接続される。
【0043】
冷却水ポンプ42は、冷却水循環通路41に設けられる。冷却水ポンプ42は、ラジエータ43を介して燃料電池スタック1に冷却水を供給する。冷却水ポンプ42の回転速度は、コントローラ200によって制御される。
【0044】
ラジエータ43は、冷却水ポンプ42よりも下流の冷却水循環通路41に設けられる。ラジエータ43は、燃料電池スタック1を通過することで温められた冷却水を冷却する。
【0045】
バイパス通路44は、ラジエータ43を迂回して冷却水を燃料電池スタック1に直接循環させるための通路である。バイパス通路44の一端は冷却水ポンプ42とラジエータ43との間の冷却水循環通路41に接続され、他端は三方弁45に接続される。
【0046】
三方弁45は、ラジエータ43と燃料電池スタック1の冷却水入口孔との間の冷却水循環通路41であってバイパス通路44が合流する部分に設けられる。
【0047】
三方弁45としては、例えばサーモスタットにより構成される。サーモスタットにおいては、燃料電池スタック1の温度が低くなり過ぎると、冷却水の温度が所定の開弁温度以下になるので、ラジエータ43から燃料電池スタック1への通路が閉じた状態となる。これにより、バイパス通路44を経由してきた相対的に温かい冷却水のみが燃料電池スタック1に供給されるので、ラジエータ43を経由してくる冷却水よりも高温の冷却水が燃料電池スタック1に供給されることになる。
【0048】
一方、燃料電池スタック1の温度が高くなり過ぎると、冷却水の温度が上述の開弁温度よりも高くなるので、ラジエータ43から燃料電池スタック1への冷却水通路が徐々に開き始める。これにより、バイパス通路44を経由してきた冷却水と、ラジエータ43を経由してきた冷却水とが混合されるので、バイパス通路44を経由してくる冷却水よりも低温の冷却水が燃料電池スタック1に供給されることになる。
【0049】
スタック入口水温センサ46は、燃料電池スタック1の冷却水入口孔の近傍に位置する冷却水循環通路41に設けられる。スタック入口水温センサ46は、燃料電池スタック1に流入する冷却水の温度(以下「スタック入口水温」という。)を検出する。スタック入口水温センサ46は、検出した温度を示す信号をコントローラ200に出力する。
【0050】
スタック出口水温センサ47は、燃料電池スタック1の冷却水出口孔の近傍に位置する冷却水循環通路41に設けられる。スタック出口水温センサ47は、燃料電池スタック1から排出された冷却水の温度(以下「スタック出口水温」という。)を検出する。スタック出口水温センサ47は、検出した温度を示す検出信号をコントローラ200に出力する。
【0051】
負荷装置5は、燃料電池スタック1の発電電力により駆動する装置である。負荷装置5としては、例えば、車両を駆動する電動モータや、燃料電池スタック1の発電を補助する補機、電動モータを制御する制御ユニットなどにより構成される。燃料電池スタック1の補機としては、例えば、コンプレッサ23や、バイパス通路44に設けられるヒータ(不図示)などが挙げられる。
【0052】
あるいは、負荷装置5は、DC/DCコンバータを備え、DC/DCコンバータの一方に電動モータ用インバータが接続され、他方にバッテリが接続される構成であってもよい。この場合、負荷装置5の制御ユニットは、バッテリの残容量を考慮して燃料電池スタック1に要求する要求電力を設定し、その要求電力をコントローラ200に出力する。例えば、負荷装置5の制御ユニットは、アクセルペダルの踏込み量を検出し、検出した踏込み量が大きくなるほど、負荷装置5の要求電力を大きくする。
【0053】
負荷装置5と燃料電池スタック1との間には、電流センサ51及び電圧センサ52が設けられている。
【0054】
電流センサ51は、燃料電池スタック1の正極端子1pに接続され、燃料電池スタック1から取り出される電流の大きさを検出する。電流センサ51は、燃料電池スタック1を構成する各電池セルの電流を検出するものであってもよい。電流センサ51は、検出した電流の大きさを示す信号をコントローラ200に出力する。
【0055】
電圧センサ52については、一端が燃料電池スタック1の正極端子1pに接続され他端が負極端子1nに接続される。電圧センサ52は、燃料電池スタック1の正極端子1pと負極端子1nとの間の電圧を検出する。電圧センサ52は、燃料電池スタック1を構成する各電池セルの電圧を検出するものであってもよい。電圧センサ52は、検出した電圧の大きさを示す信号をコントローラ200に出力する。
【0056】
電圧印加回路6は、燃料電池のアノード極からカソード極への燃料の排出を抑制するたに、燃料電池スタック1に逆バイアスの電圧を印加する回路である。本実施形態では、電圧印加回路6は、燃料電池のアノード極に印加される電位よりも高い電位がカソード極に印加されるように燃料電池スタック1の負極端子1nに電圧又は電流を印加する。
【0057】
電圧印加回路6と燃料電池スタック1との間には、電流センサ61及び電圧センサ62が設けられている。
【0058】
電流センサ61は、電圧印加回路6から燃料電池スタック1に供給される電流を検出する検出手段を構成する。電流センサ61は、電圧印加回路6から燃料電池スタック1の負極端子1nに供給される電流の大きさを検出してコントローラ200に出力する。電圧センサ52は、電圧印加回路6によって燃料電池スタック1に印加される電圧の大きさを検出してコントローラ200に出力する。
【0059】
コントローラ200は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピューターで構成される。
【0060】
コントローラ200は、吸入流量センサ22、カソード圧力センサ24、アノード圧力センサ35、スタック入口水温センサ46、スタック出口水温センサ47、電流センサ61、及び電圧センサ62の出力信号を取得する。さらにコントローラ200は、負荷装置5から燃料電池スタック1に対して要求される要求電力を取得する。コントローラ200は、これらのパラメータを用いて、酸化剤ガス給排装置2、燃料ガス給排装置3、スタック冷却装置4、及び電圧印加回路6の動作を制御する。
【0061】
例えば、コントローラ200は、負荷装置5の要求電力に基づいて燃料電池スタック1に供給される酸化剤ガスの目標流量及び目標圧力を演算し、演算した目標流量及び目標圧力を用いてコンプレッサ23のトルク、及びカソード調圧弁26の開度を制御する。さらにコントローラ200は、上記の負荷装置5の要求電力に基づいて燃料電池スタック1に供給される燃料ガスの目標圧力を演算し、演算した目標圧力を用いて、アノード調圧弁33の開度、アノード循環ポンプ37のトルク、及びパージ弁39の開度を制御する。
【0062】
また、コントローラ200は、燃料電池システム100の排ガス中の水素濃度が規定値以下となるようコンプレッサ23のトルクを制御し、コンプレッサ23の吐出流量が発電に必要となる酸化剤ガスの目標流量を上回る場合には、バイパス弁28を開ける。また、コントローラ200は、コンプレッサ23のサージを回避するためにコンプレッサ23のトルクを、燃料電池スタック1の発電に必要となるトルクよりも大きくする場合につても、バイパス弁28の開度を調整する。
【0063】
さらに、コントローラ200は、スタック入口水温センサ46の検出値とスタック出口水温センサ47の検出値との平均値を燃料電池スタック1の温度として算出し、算出した燃料電池スタック1の温度に基づいて冷却水ポンプ42のトルクを制御する。例えば、コントローラ200は、燃料電池スタック1の温度が高くなるほど、冷却水ポンプ42のトルクを高くする。これにより、燃料電池スタック1の温度上昇が抑制される。
【0064】
コントローラ200は、燃料電池システム100の燃費を向上させるために、車両のEVキーがON状態であっても、負荷装置5の作動状態に応じて燃料電池スタック1の発電を停止する。例えば、信号待ちで車両が停止した状態や、車両の走行中に電動モータへの電力供給がバッテリの出力で賄える状態などの一定の状態において、コントローラ200は燃料電池スタック1の発電を停止する。
【0065】
このように、燃料電池システム100が作動中においてコントローラ200が負荷装置5の作動状態に応じて燃料電池スタック1の発電を一旦停止することをアイドルストップ停止処理(IS停止処理)という。そして燃料電池スタック1の発電が停止した状態のことをアイドルストップ状態(IS状態)という。
【0066】
燃料電池スタック1のアイドルストップ状態では、コントローラ200は、少なくとも酸化剤ガス給排装置2及び燃料ガス給排装置3の作動を停止する。その結果、燃料電池スタック1においてはアノード極から電解質膜を介してカソード極へと発電用の燃料が透過してしまい、燃料電池システム100の燃費が低下する。
【0067】
この対策として電圧印加回路6を用いて燃料電池スタック1に逆バイアスの電圧を印加することにより、カソード極へ透過してくる燃料ガスをアノード極へ戻すことが可能になる。これにより、カソード極への燃料の排出は抑制されるものの、電圧印加回路6から燃料電池スタック1に電圧を印加し続けることに伴って電圧印加回路6で消費される電力量が増加する。その結果、IS中における電圧印加回路6の消費電力量が増加してしまい、反って燃料電池システム100の燃費が低下することになる。
【0068】
そこで本実施形態のコントローラ200は、燃料電池スタック1の停止中に燃料電池システム100の燃費の低下を回避するため、燃料電池スタック1の停止状態に応じて、電圧印加回路6から燃料電池スタック1に対して電圧を印加するか否かを選択する。
【0069】
次に本実施形態におけるコントローラ200の構成について詳細に説明する。
【0070】
図2は、本実施形態におけるコントローラ200の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0071】
コントローラ200は、発電制御部210と、制御切替部211と、停止制御部220と、を備える。
【0072】
発電制御部210は、負荷装置5の作動状態に応じて、燃料電池スタック1に供給される酸化剤ガス及び燃料ガスの状態を操作して燃料電池スタック1の発電量を制御する。
【0073】
例えば、発電制御部210は、負荷装置5から要求電力を取得し、取得した要求電力に基づいて、酸化剤ガスの目標流量及び目標圧力を算出するとともに燃料ガスの目標圧力を算出する。発電制御部210は、その酸化剤ガスの目標流量及び目標圧力に基づいて酸化剤ガス給排装置2の作動を制御するとともに燃料ガスの目標圧力に基づいて燃料ガス給排装置3の作動を制御する。
【0074】
また、発電制御部210は、負荷装置5の作動状態を示す装置状態情報をIS判定部221に出力する。装置状態情報には、例えば、燃料電池スタック1に対する要求電力や、アクセルペダルの踏込み量、ブレーキペダルの踏込み量などが示されている。
【0075】
停止制御部220は、燃料電池スタック1の発電を停止する場合に、酸化剤ガス給排装置2の動作を停止して燃料電池スタック1におけるカソード極に滞留する酸化剤を消費するように負荷装置5及びアノード調圧弁33を制御する。
【0076】
例えば、停止制御部220は、燃料電池スタック1がIS状態に遷移する場合には、コンプレッサ23の駆動を停止して、負荷装置5を用いて燃料電池スタック1から電流を取り出すとともにアノード調圧弁33の開度を制御してカソード極に滞留する酸化剤ガスを発電反応により消費する。
【0077】
停止制御部220は、IS判定部221と、酸化剤消費処理部222と、回路制御部300とを備える。
【0078】
IS判定部221は、燃料電池スタック1がIS状態に遷移可能か否かを判定する。例えば、IS判定部221は、発電制御部210から装置状態情報としてブレーキペダルの踏込み量や負荷装置5の要求電力を取得し、ブレーキペダルの踏込み量がゼロよりも大きく、かつ、負荷装置5の要求電力がゼロになった場合には、燃料電池スタック1がIS状態に遷移可能であると判定する。
【0079】
あるいは、IS判定部221は、負荷装置5におけるバッテリの残容量とアクセルペダルの踏込み量とに基づいて、バッテリの電力を用いて負荷装置5の要求電力を賄えると判断した場合には、燃料電池スタック1がIS状態に遷移可能であると判定する。
【0080】
IS判定部221は、燃料電池スタック1がIS状態に遷移可能であると判定した場合には、燃料電池スタック1の停止を指示する停止信号を酸化剤消費処理部222に出力する。
【0081】
酸化剤消費処理部222は、燃料電池スタック1のカソード極に滞留する酸化剤を消費する処理を実行する。
【0082】
本実施形態では、酸化剤消費処理部222は、IS判定部221から停止信号を受信した場合には、コンプレッサ23の動作を停止する。そして酸化剤消費処理部222は、例えば負荷装置5に備えられたバッテリに対して、燃料電池スタック1から電流を供給する。これにより、燃料電池スタック1における酸化剤ガスと燃料ガスが発電反応を起こすので、燃料電池スタック1のカソード極に滞留する酸化剤ガスを消費することができる。
【0083】
このとき、酸化剤消費処理部222は、燃料電池スタック1の発電反応に伴ってアノード極の燃料ガスが不足する場合には、アノード調圧弁33を開いて燃料電池スタック1に燃料ガスを供給する。一方、燃料電池スタック1のアノード極に燃料ガスが多量に残留している場合には、酸化剤消費処理部222はアノード調圧弁33を閉じてもよい。
【0084】
酸化剤消費処理部222は、燃料電池スタック1の停止状態に応じて、燃料電池スタック1におけるカソード極の酸化剤ガスが消費されたか否かを判断する。例えば、酸化剤消費処理部222は、コンプレッサ23を停止してから所定の時間を経過した場合には、カソード極の酸化剤ガスが消費されたと判断する。あるいは、酸化剤消費処理部222は、カソード極における酸素濃度を推定し、酸素濃度の推定値が、カソード極で劣化反応が生じる酸素濃度閾値を下回った場合に、カソード極の酸化剤ガスが消費されたと判断してもよい。
【0085】
酸化剤消費処理部222は、燃料電池スタック1におけるカソード極の酸化剤ガスが消費されたと判断した場合には、カソード調圧弁26及びアノード調圧弁33を閉じるとともにパージ弁39を閉じる。すなわち、酸化剤消費処理部222は、燃料電池スタック1のアノード極及びカソード極の両者を密閉状態にする。これにより、燃料電池スタック1はIS状態に遷移する。酸化剤消費処理部222は、燃料電池スタック1の発電が停止すると、カソード極の酸化剤ガスを消費する処理が完了した旨を示す完了信号を回路制御部300に出力する。
【0086】
回路制御部300は、酸化剤消費処理部222から完了信号を受信した場合に、電圧印加回路6を用いて燃料電池スタック1への逆バイアス電圧を選択的に供給又は停止する。すなわち、回路制御部300は、酸化剤消費処理部222によりアノード調圧弁33及びパージ弁39が閉じられたときに、電圧印加回路6を用いて燃料電池スタック1におけるアノード極からカソード極への燃料ガスの排出を抑制する処理を実行するか停止するかを選択する。
【0087】
回路制御部300は、IS時間取得部310と、透過燃料電力換算部320と、回路消費電力保持部321と、燃料排出抑制処理部330とを備える。
【0088】
IS時間取得部310は、燃料電池スタック1におけるカソード極の酸化剤を消費してから燃料電池スタック1の発電が再開(復帰)するまでのIS時間Tsを予測する。例えば、メモリ111には、実験データ等を通じてあらかじめ定められたIS時間Tsが記憶されており、IS時間取得部310は、酸化剤消費処理部222から完了信号を受信した場合には、メモリ111に記憶されたIS時間Tsを取得する。
【0089】
本実施形態では、燃料電池システム100を搭載した車両の速度と、車両の速度を考慮したIS時間Tsとの関係を示す時間テーブルがIS時間取得部310にあらかじめ記録される。IS時間取得部310は、酸化剤消費処理部222から完了信号を受信した場合には、時間テーブルを参照して、車両の速度の検出値に関係付けられたIS時間Tsを算出する。
【0090】
あるいは、IS時間取得部310は、燃料電池スタック1の発電を停止してから発電を開始するまでの経過期間を計測し、計測した経過期間をメモリ311に記憶する。IS時間取得部310は、経過期間を計測するたびにメモリ311に記録し、メモリ111に記録された複数の経過期間の平均値をIS期間Tsとして設定するようにしてもよい。これにより、車両の使用状態が反映されたIS時間Tsが設定されるので、IS時間Tsの予測精度を向上させることができる。
【0091】
このように、IS時間取得部310は、燃料電池スタック1の発電が停止した場合に、発電の停止から復帰するまでのIS時間Tsを予測する。そしてIS時間取得部310は、算出したIS時間Tsを燃料排出抑制処理部330に出力する。
【0092】
透過燃料電力換算部320は、IS中に燃料電池スタック1のアノード極からカソード極への燃料ガスの透過量を燃料電池スタック1の発電電力量に換算して燃料電池システム100の損失電力量として算出する。例えば、透過燃料電力換算部320は、あらかじめ定められた燃料ガスの透過量を用いて燃料電池システム100の損失電力量を演算する。そして透過燃料電力換算部320は、換算した損失電力量が電圧印加回路6の消費電力量を上回るタイミングを予測する。
【0093】
本実施形態の透過燃料電力換算部320は、酸化剤消費処理部222から完了信号を受信した場合には、燃料電池スタック1におけるアノード極に残留する水素の残留量m
H2_eを算出する。
【0094】
例えば、透過燃料電力換算部320は、次式(1)及び(2)のように、コンプレッサ23の停止時における水素の残留量m
H2_s及び酸素の残留量m
O2_sを算出する。
【0096】
式(1)においては、燃料電池スタック1におけるアノード極の容積Va、アノード極の圧力Pa及びアノード極の水素濃度C
H2と、燃料電池スタック1の温度Tと、所定のガス定数Rとが用いられる。これらのパラメータは、カソード極への燃料の透過量に関するパラメータに相当する。
【0097】
アノード極の容積Vaはあらかじめ求められた値であり、アノード極の圧力Paはアノード圧力センサ35の検出値であり、燃料電池スタック1の温度Tはスタック入口水温センサ46及びスタック出口水温センサ47の検出値を用いて算出される値である。アノード極の水素濃度C
H2は所定の演算処理により求められる値である。なお、水素濃度C
H2については、燃料電池スタック1の内部に濃度センサを設け、その濃度センサの検出値を用いてもよい。
【0098】
式(2)においては、式(1)中のアノード極の容積Va、圧力Pa、及び水素濃度C
H2に代えて、燃料電池スタック1におけるカソード極の容積Vc、カソード極の圧力Pc及びカソード極の酸素濃度C
O2が用いられる。
【0099】
カソード極の容積Vcはあらかじめ求められた値であり、カソード極の圧力Pcはカソード圧力センサ24の検出値である。カソード極の酸素濃度C
O2は所定の演算処理により求められる値である。なお、酸素濃度C
O2については燃料電池スタック1の内部に濃度センサを設け、その濃度センサの検出値を用いてもよい。
【0100】
透過燃料電力換算部320は、水素の残留量m
H2_s及び酸素の残留量m
O2_sを算出すると、次式(3)のように、カソード極の酸素を消費した後のアノード極に残留する燃料ガスの残留量m
H2_eを算出する。
【0102】
透過燃料電力換算部320は、算出した燃料ガスの残留量m
H2_eに基づいて、次式(4)に示すように、燃料電池スタック1におけるアノード極からカソード極への燃料の透過に伴う燃料電池システム100の損失電力量W
leakを算出する。この燃料電池システム100の損失電力量W
pumpとは、アノード極からカソード極へ水素が透過しなければ燃料電池スタック1において発電することができた電力量のことである。
【0104】
式(4)においては、残留水素を損失電力に換算する換算値A[kJ]と、アノード極からカソード極へ水素が透過する際に生じる抵抗の大きさを示す水素透過抵抗R
H2[s/m
3]と、アノード極の容積Va[m
3]とが用いられる。これらのパラメータは、カソード極への燃料の透過量に相当する。
【0105】
換算値Aは、透過した水素によって生じる発電電力の他に燃料電池スタック1の発電効率も加味されている。
【0106】
水素透過抵抗R
H2は、アノード極からカソード極への水素の透過度、すなわち水素の透過のし易さを表わす指標のひとつであり、水素透過抵抗R
H2が大きくなるほど、水素の透過度は小さくなる。
【0107】
水素透過抵抗R
H2は、カソード極に透過する水素をアノード極に留める(戻す)のに必要となる供給電流に反比例する。詳細には、電圧印加回路6から電圧を印加しているときのアノード極の水素モル濃度c[mol/m
3]と電圧印加回路6の供給電流I/2F[
mol/s]との関係から、水素透過度は、供給電流I/2F÷水素モル濃度c[m
3/
s]となる。水素透過度は、水素透過抵抗R
H2の逆数であるので、水素透過抵抗R
H2は水素モル濃度c÷供給電流I/2Fとなる。
【0108】
したがって、透過燃料電力換算部320は、電流センサ61から検出値を取得し、取得した検出値により所定の換算値を除して水素透過抵抗R
H2を求めてもよい。これにより、IS中の燃料電池システム100の損失電力量W
pumpを精度良く求めることができる。
【0109】
式(4)に示すように、燃料電池スタック1を密閉してから時間tが経過するにつれて、燃料電池システム100の損失電力量W
leakは水素の残留量m
H2_eに換算値Aを乗じた電力量(m
H2_e×A)に収束する。
【0110】
このように、透過燃料電力換算部320は、燃料電池スタック1におけるアノード極からカソード極への水素の透過に伴う燃料電池システム100の損失電力量を演算する。
【0111】
回路消費電力保持部321は、燃料電池スタック1のカソード極からアノード極へ水素を戻すために逆バイアスの電圧を燃料電池スタック1に印加するときの電圧印加回路6の消費電力P
pumpを保持する。電圧印加回路6の消費電力P
pumpは、次式(5)に従って求められる。
【0114】
透過燃料電力換算部320は、次式(7)を用いて、回路消費電力保持部321に保持された消費電力P
pumpに時間tを乗算して、電圧印加回路6の消費電力量W
pumpを算出する。
【0116】
透過燃料電力換算部320は、IS中の電圧印加回路6の消費電力量W
pumpが燃料電池システム100の損失電力量W
leakを超えるまでの印加時間を算出し、算出した印加時間を電力超過閾値Tcとして燃料排出抑制処理部330を出力する。なお、電力超過閾値Tcの算出手法については
図4を参照して後述する。
【0117】
燃料排出抑制処理部330は、電圧印加回路6を用いて燃料電池スタック1におけるアノード極からカソード極への燃料の排出を抑制するか否かを選択する。
【0118】
本実施形態では、燃料排出抑制処理部330は、IS時間取得部310からIS時間の予測値Tsを取得し、透過燃料電力換算部320から電力超過閾値Tcを取得する。そして燃料排出抑制処理部330は、IS時間の予測値Tsが電力超過閾値Tc以下である場合には、電圧印加回路6から燃料電池スタック1へ逆バイアスの電圧を印加する。
【0119】
一方、燃料排出抑制処理部330は、IS時間の予測値Tsが電力超過閾値Tcよりも大きい場合には、電圧印加回路6による逆バイアス電圧の印加を抑制する。すなわち、燃料排出抑制処理部330は、IS状態における電圧印加回路6の消費電力量W
pumpが燃料の透過に伴う損失電力量W
leakを上回る蓋然性が高い場合には、燃料電池システム100の燃費を考慮して電圧印加回路6による電圧印加を停止する。
【0120】
このように、停止制御部220は、燃料電池スタック1の発電を一旦停止する場合には、電圧印加回路6の消費電力量W
pumpと燃料透過に伴う損失電力量W
leakとの大小関係に応じて、電圧印加回路6から燃料電池スタック1へ電圧を選択的に印加する。
【0121】
図3は、電圧印加回路6を用いて燃料電池スタック1に逆バイアスの電圧を印加した場合における燃料電池スタック1の内部状態を説明する概念図である。
【0122】
図3に示すように、酸化剤消費処理部222によりカソード極11の酸素が消費されるので、燃料電池スタック1のカソード極11には主に窒素N
2が存在する。なお、窒素N
2の他には、水蒸気や微量の酸素ガスなどがカソード極11に存在する場合もある。
【0123】
発電を停止した直後の燃料電池スタック1においては、アノード極13の圧力がカソード極11の圧力よりも高いことから、アノード極13から電解質膜12を介してカソード極11に水素が透過してくる。
【0124】
一方、電圧印加回路6により、アノード極13に供給する電位を基準にしてアノード極13の供給電位よりも高い電位がカソード極11に供給される。これにより、カソード極11の透過水素H
2は水素イオンH
+と電子e
-に分離されて水素イオンH
+がアノード極13へと移動する。そして、アノード極13において電圧印加回路6から供給される電子e
-と水素イオンH
+とが結合して水素H
2が発生する。
【0125】
このように、燃料電池スタック1に逆バイアスの電圧を印加することにより、電解質膜12を介してアノード極13からカソード極11へと透過してきた水素をアノード極13へ戻すことができる。よって、アノード極13からカソード極11への水素の排出量を抑制することができる。
【0126】
一方、アノード極13からカソード極11へ透過する水素の量よりも多くの水素をアノード極13へ戻すことはできないことから、電圧印加回路6から燃料電池スタック1に逆バイアスの電圧を印加し続けると、反って燃料電池システム100の燃費が低下する場合がある。
【0127】
図4は、透過燃料電力換算部320による電力超過閾値Tcの算出手法の一例を説明する図である。
【0128】
図4には、電圧印加回路6を停止した状態におけるカソード極11への水素透過に伴う損失電力量W
leakが実線により示され、電圧印加回路6の消費電力量W
pumpが点線により示されており、横軸は互いに共通の時間軸である。
【0129】
図4に示すように、カソード極11の酸素を消費してから時間が経過するに従って水素の透過に伴う損失電力量W
leakは所定の値に収束する。これは、アノード極13の水素濃度とカソード極11の水素濃度との水素濃度差が小さくなるからである。
【0130】
本実施形態においては、透過燃料電力換算部320が、カソード極11への水素透過に伴う損失電力量W
leakと電圧印加回路6の消費電力量W
pumpとの交点を損益分岐とし、その交点に対応する経過時間を電力超過閾値Tcとして設定する。そして、IS時間取得部310によって予測されたIS時間Tsが電力超過閾値Tcよりも小さい場合に限り、燃料排出抑制処理部330が、電圧印加回路6から燃料電池スタック1に逆バイアスの電圧を印加する。
【0131】
これにより、電圧印加回路6の消費電力量
pumpよりも大きな損失電力量W
leakに相当する水素の量をアノード極13へ戻すことが可能になるので、燃料電池システム100の燃費を向上させることができる。一方、IS時間Tsが電力超過閾値Tcよりも大きい場合には電圧印加回路6による電圧印加が抑制されるので、電圧印加回路6で電力が無駄に消費されることを抑制することができる。
【0132】
図5は、IS時間ごとに燃料電池スタック1がIS状態に遷移した頻度を示す統計データの一例を示す図である。
【0133】
図5に示すように、IS時間が電力超過閾値Tcよりも短い特定の時間において頻度が高くなるものの、IS時間が電力超過閾値Tcに対して長くなるほど頻度が緩やかに低下する。したがって、燃料電池スタック1の発電を停止する場合に、電圧印加回路6から燃料電池スタック1へ逆バイアスの電圧を選択的に印加することにより、燃料電池システム100のトータルの燃費を向上させることができる。
【0134】
図6は、電圧印加回路6により燃料電池スタック1へ逆バイアスの電圧を印加する手法を説明する図である。
【0135】
図6には、燃料電池スタック1を構成する8個の電池セル1乃至8についての水素透過流速J
leakが示されている。
図6に示すように、各電池セル1乃至8は固体差等があるため、アノード極からカソード極への水素の透過流速は電池セルごとに異なる。
【0136】
一般に、電圧印加回路6から電池セルに供給される電流を大きくするほど、アノード極への水素の返還量を増やすことが可能になる。しかしながら、カソード極への水素の透過量よりも多くの水素を戻すことはできないため、電池セルに供給される電流を必要以上に大きくしてしまうと、水素イオンH
+と電子e
-に分離する水素H
2が存在しないことから、電解質膜を構成するカーボンの腐食や水の分解などの望ましくない反応が起ってしまう。
【0137】
図6に示すように、電池セル7の水素透過流速が最も小さいため、電圧印加回路6から各電池セル1乃至8に供給される電流値は、電池セル7の水素透過流速に相当する電流値以下にしなければならない。
【0138】
電池セル7の水素透過流速に相当する電流値よりも大きな電流が電圧印加回路6から各電池セル1乃至8に供給されると、電池セル7の電圧値が急峻に大きくなる。したがって、回路制御部300は、電池セル1乃至8の電圧値の全てが急峻に大きくならないように電圧印加回路6の電流値を高くする。
【0139】
図7は、本実施形態におけるコントローラ200による制御方法に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0140】
ステップS1においてコントローラ200は、負荷装置5の要求電力に基づいて、燃料電池スタック1への燃料ガスの供給圧力と酸化剤ガスの供給流量及び供給圧力とを操作することにより燃料電池スタック1の発電を制御する。
【0141】
ステップS2においてコントローラ200は、燃料電池スタック1の発電を停止するIS状態に遷移可能であるか否かを判定する。例えば、IS判定部221は、負荷装置5の要求電力と、負荷装置5に電力を供給可能なバッテリの残容量とを用いて、燃料電池スタック1がIS状態に遷移可能であるか否かを判定する。
【0142】
ステップS3においてコントローラ200は、燃料電池スタック1の発電を停止するIS停止処理を実行する。IS停止処理については
図7を参照して後述する。
【0143】
ステップS4においてコントローラ200は、燃料電池スタック1をIS状態から復帰させる必要があるか否かを判断する。例えば、コントローラ200は、アクセルペダルの踏込み量がゼロよりも大きくなった場合や、負荷装置5の要求電力がバッテリの供給可能電力を上回った場合などにIS状態から復帰させる必要があると判断する。
【0144】
そしてコントローラ200は、IS状態から復帰させる必要がないと判断した場合には、IS状態から復帰させる必要があるとの判断がなされるまでステップS3の処理を継続する。
【0145】
ステップS5においてコントローラ200は、IS状態から復帰させる必要があると判断した場合には、燃料電池システム100を停止するか否かを判断する。例えば、コントローラ200は、車両のEVキーがOFFに設定された場合には、燃料電池システム100の運転を停止すると判断する。
【0146】
コントローラ200は、燃料電池スタック1を停止しないと判断した場合には、電圧印加回路6による逆バイアス電圧の印加を停止してステップS1の処理に戻り、燃料電池スタック1の発電を再開する復帰処理を実行する。そして燃料電池システム100を停止するとの判断がなされるまで、コントローラ200は、ステップS1乃至S4の処理を繰り返し実行する。
【0147】
コントローラ200は、燃料電池システム100を停止すると判断した場合には、燃料電池スタック1の停止処理を実行して、燃料電池システム100の制御方法の一連の処理手順を終了する。
【0148】
なお、ステップS3とステップS4との間に、ステップ5の処理と同じように燃料電池システム100を停止するか否かを判断する判断処理を加えてもよい。これにより、IS停止処理から燃料電池システム100を停止する処理に直接移行することが可能になる。
【0149】
図8は、ステップS3で実行されるIS停止処理に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0150】
ステップS31においてコントローラ200は、燃料電池スタック1への酸化剤ガスの供給を停止する。本実施形態ではコントローラ200は、コンプレッサ23の駆動を停止するとともにパージ弁39を閉じる。
【0151】
ステップS32においてコントローラ200は、カソード極11に残留する酸化剤ガスを消費する残留酸化剤消費処理を実行する。残留酸化剤消費処理については
図9を参照して後述する。
【0152】
ステップS33においてコントローラ200は、残留酸化剤消費処理を実行した後、アノード調圧弁33及びカソード調圧弁26を閉じる。これにより、燃料電池スタック1の発電が停止して燃料電池スタック1がIS状態になる。
【0153】
ステップS34においてコントローラ200は、上述の式(3)のように、燃料電池スタック1を密閉した状態におけるアノード極13の水素の残留量m
H2_eを算出する。
【0154】
ステップS35においてコントローラ200は、上述の式(4)のように、カソード極11への水素の透過に伴う損失電力量W
leakを算出する。
【0155】
ステップS36においてコントローラ200は、上述の式(5)のように水素透過流速J
leakに基づき電圧印加回路6の消費電力P
pumpを算出して、式(7)のように消費電力量W
pumpを求める。水素透過流速J
leakは、電流センサ61の検出値に基づいて算出される。電流センサ61の検出値は、前回のIS停止処理中に検出したものでもよく、あるいは、コントローラ200は、一時的に電圧印加回路6から燃料電池スタック1に逆バイアス電圧を印加し、その間に電流センサ61で電流値を検出してもよい。
【0156】
ステップS37においてコントローラ200は、
図5に示したように、電圧印加回路6の消費電力量W
pumpが損失電力量W
leakを超えるタイミングを示す電力超過閾値Tcを算出する。
【0157】
ステップS38においてコントローラ200は、ステップS33の処理後、すなわち燃料電池スタック1の発電の停止後、燃料電池スタック1の発電を再開するまでのIS期間Tsを予測する。本実施形態のコントローラ200は、車速ごとに予め定められたIS時間を示すIS時間テーブルを参照して、車速を検出した値に関係付けられたIS時間Tsを取得する。
【0158】
ステップS39においてコントローラ200は、予測したIS時間Tsが電力超過閾値Tcよりも短いか否かを判断する。
【0159】
ステップS40においてコントローラ200は、IS時間の予測値Tsが電力超過閾値Tcよりも小さい場合には、電圧印加回路6を用いて燃料電池スタック1へ逆バイアス電圧を印加する逆バイアス電圧印加処理を実行する。逆バイアス電圧印加処理については
図10を参照して後述する。
【0160】
ステップS40の処理が終了した場合、又は、ステップS40でIS時間の予測値Tsが電力超過閾値Tc以上である場合には、ステップS3のIS停止処理が終了し、
図7に示した制御方法の処理手順に戻ってステップS4の処理に進む。
【0161】
図10は、ステップS32で実行される残留酸化剤消費処理に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0162】
ステップS321においてコントローラ200は、負荷装置5を用いて燃料電池スタック1から電流を取り出す。これにより、燃料電池スタック1の発電反応によってカソード極11に残留する酸化剤ガスが消費される。
【0163】
例えば、負荷装置5と燃料電池スタック1との間にスイッチが接続されている構成では、コントローラ200は、スイッチを遮断状態から接続状態に切り替える。あるいは、負荷装置5が燃料電池スタック1とバッテリとの間にDC/DCコンバータを接続した構成を有する場合には、コントローラ200は、DC/DCコンバータを操作して燃料電池スタック1からバッテリへ電流を供給する。コントローラ200は、必要に応じてアノード調圧弁33の開度を制御して燃料電池スタック1の発電に必要となる燃料ガスの量をアノード極に供給するものであってもよい。
【0164】
ステップS322においてコントローラ200は、電圧センサ52を用いて燃料電池スタック1に形成された各電池セルの電圧値を取得し、取得した各電池セルの電圧値の平均値V
meanを算出する。なお、コントローラ200は、各電池セルのうち特定の電池セルの電圧値をそれぞれ取得して平均値V
meanを算出するようにしてもよい。
【0165】
ステップS323においてコントローラ200は、各電池セルの電圧値の平均値V
meanが閾値V
th1よりも小さいか否かを判断する。例えば、閾値V
th1は、カソード極11の酸素を十分に消費できているか否かを判定するためにあらかじめ定められた値である。そしてコントローラ200は、各電池セルの電圧値の平均値V
meanが劣化閾値V
th1よりも大きい又は等しい場合には、ステップS321の処理に戻り、各電池セルの電圧の平均値V
meanが劣化閾値V
th1よりも小さくなるまで、ステップS321及びS322の処理を繰り返し行う。
【0166】
ステップS324においてコントローラ200は、各電池セルの電圧の平均値V
meanが閾値V
th1よりも小さくなった場合には、燃料電池スタック1からの電流の取出しを停止する。例えば、コントローラ200は、負荷装置5と燃料電池スタック1との間の接続を遮断する。
【0167】
ステップS324の処理が終了すると、ステップS32の残留酸化剤消費処理が終了するので、
図8に示したIS停止処理の処理手順に戻ってステップS33の処理に進む。
【0168】
図10は、ステップS40で実行される逆バイアス電圧印加処理に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0169】
ステップS401においてコントローラ200は、
図3に示したように、電圧印加回路6から燃料電池スタック1に逆バイアスの電圧を印加する。
【0170】
ステップS402においてコントローラ200は、燃料電池スタック1の各電池セルの電圧値のうち最大値V
maxを取得する。
【0171】
ステップS403においてコントローラ200は、取得した最大値V
maxが所定の電圧範囲内にあるか否かを判断する。
【0172】
電圧値が最大値V
maxとなる電池セルに対して電流が過剰に供給されると、電解質膜を構成するカーボンの腐食が生じる。その結果、カーボンを腐食させるには大きなエネルギーが必要となることから、当該電池セルの電圧値V
maxは急峻に上昇する。したがって、所定の電圧範囲の上限値は、カーボンの腐食が発生しないような電圧値に設定される。
【0173】
一方、所定の電圧範囲の下限値は、
図3に示したように、電圧値が最大値V
maxとなる電池セルにおいて電解質膜12のカソード極側の水素H
2を水素イオンH
+と電子e
-に分離してアノード極側で水素H
2に戻すのに最低限必要となる電圧値に設定される。例えば、所定の電圧範囲の下限値は、0.2〜0.3V(ボルト)の範囲内の電圧値に設定される。
【0174】
ステップS404においてコントローラ200は、各電池セルの電圧値の最大値V
maxが所定の電圧範囲内にある場合には、各電池セルの電圧値の最大値V
maxが所定の電圧範囲内に収まるよう電圧印加回路6から燃料電池スタック1のカソード極11に供給される電流の大きさを調整する。
【0175】
ステップS405においてコントローラ200は、各電池セルの電圧値の最大値V
maxが所定の電圧範囲内にある場合には、ステップS4の判断と同様、燃料電池スタック1がIS状態から復帰するか否かを判断する。そしてコントローラ200は、燃料電池スタック1がIS状態から復帰するとの判断がなされるまでステップS402乃至S404の処理を繰り返し行う。すなわち、コントローラ200は、燃料電池スタック1がIS状態から復帰するまで電圧印加回路6から燃料電池スタック1への逆バイアス電圧の印加を継続する。
【0176】
ステップS406においてコントローラ200は、燃料電池スタック1がIS状態から復帰するとの判断がなされた場合には、電圧印加回路6から燃料電池スタック1への逆バイアス電圧の印加を停止する。これにより、ステップS40の逆バイアス電圧印加処理が終了するため、
図8に示したIS停止処理に戻る。
【0177】
本発明の第1実施形態によれば、燃料電池システム100は、燃料電池1のカソード極11に酸化剤を供給するアクチュエータを構成するコンプレッサ23と、カソード極11から酸化剤を排出する排気弁を構成するカソード調圧弁26とを含む。さらに燃料電池システム100は、燃料電池1のアノード極13に燃料を供給する供給弁を構成するアノード調圧弁33と、カソード極11に対して電圧又は電流を印加するための電圧印加回路6とを含む。
【0178】
そして燃料電池システム100は、燃料電池1への燃料及び酸化剤の供給量を制御して燃料電池1の発電を行う発電制御部210と、燃料電池1の発電を停止する場合には、コンプレッサ23を停止してカソード極11の酸化剤を消費するようにアノード調圧弁33を制御する停止制御部220とを含む。停止制御部220は、アノード調圧弁33及びカソード調圧弁26を閉じるときには、電圧印加回路6によりアノード極13からカソード極11への燃料の排出を抑えるための所定の電圧を印加するか否かを選択する回路制御部300を備える。
【0179】
このように、本実施形態によれば、回路制御部300は、燃料電池1の発電を停止する場合には、選択的に電圧印加回路6を用いて、カソード極への燃料の排出を抑制するための所定の電圧を燃料電池1に印加する。これにより、アノード極13からカソード極11への燃料透過に伴って失われる燃料電池1の発電電力量よりも電圧印加回路6の消費電力量が上回る場合には電圧印加回路6から燃料電池1への電圧印加を停止することが可能になる。したがって、燃料電池1の停止中に失われるエネルギー損失の増加を抑制することができる。
【0180】
また、本実施形態によれば、回路制御部300は、アノード極13からカソード極11への燃料の透過量に関するパラメータに基づいて電圧印加回路6による電圧の印加を停止する。燃料の透過量に関するパラメータとして、燃料の透過に伴って失われる燃料電池の発電電力量を示す損失電力量W
leakを用いることにより、電圧印加回路6の消費電力量W
pumpを超えないように、電圧印加回路6による電圧の印加を停止することが可能になる。
【0181】
また、本実施形態によれば、燃料の透過量に関するパラメータは、
図4に示したように、燃料の透過量に基づく損失電力量W
leakと電圧印加回路6の消費電力量W
pumpとに基づいて設定される閾値Tcである。
【0182】
例えば、閾値Tcは、IS中の燃料電池システム100の損失電力量W
leakと電圧印加回路6の消費電力量W
pumpとの交点に設定してもよい。このように閾値Tcを設定することにより、電圧印加回路6の消費電力量W
pumpが燃料電池システム100の損失電力量W
leakを上回るタイミングを特定することが可能になる。
【0183】
したがって、燃料の透過量に基づく損失電力量W
leakと電圧印加回路6の消費電力量W
pumpとを用いることにより、電圧印加回路6の消費電力量W
pumpが損失電力量W
leakを上回るIS時間を予測することができる。
【0184】
また、本実施形態によれば、回路制御部300は、式(3)及び式(4)に示したように、燃料電池スタック1のアノード極13に残留する燃料の残留量m
H2_eに基づいて損失電力量W
leakを演算する。これにより、燃料電池1の内部状態に合わせて燃料透過に伴う損失電力量W
leakが補正されるので、電圧印加回路6による電圧供給の要否を的確に選択することができる。
【0185】
また、本実施形態によれば、回路制御部300は、式(1)に示したように、燃料電池1の発電を停止する直前におけるアノード極13の圧力Pa、アノード極13の燃料濃度C
H2及びアノード極13の容積Vaのうちの少なくとも1つのパラメータに基づいて燃料の残留量m
H2_eを算出する。これにより、燃料電池1の内部状態に応じた損失電力量W
leakを算出することができる。
【0186】
また、本実施形態によれば、回路制御部300は、上述の式(4)のように、燃料の残留量m
H2_eと、アノード極13からカソード極11への燃料の透過度を示す透過抵抗R
H2と、アノード極13の容積Vaとを用いて損失電力量W
leakを演算する。これにより、燃料電池1の停止状態に応じた損失電力量W
leakが求められるので、電圧印加回路6による電圧印加の要否を正確に判定することが可能になる。したがって、燃料電池の停止中におけるエネルギー損失の増加をより一層的確に抑制することが可能になる。
【0187】
また、本実施形態によれば、燃料電池システム100は、電圧印加回路6から燃料電池1に供給される電流の大きさを検出する検出手段を構成する電流センサ61をさらに含む。そして回路制御部300は、電流センサ61によって検出される電流の大きさに応じて燃料の透過度を示す透過抵抗R
H2を設定する。これにより、燃料の透過に伴う損失電力量W
leakを精度良く求めることができる。
【0188】
また、本実施形態によれば、燃料の透過に関するパラメータとして、
図4に示したように、燃料の透過量によって定められる閾値Tcが用いられる。回路制御部300は、燃料電池1のアイドルストップ期間(IS期間)Tsが閾値Tcを超える場合に、電圧印加回路6による電圧の印加を抑制又は禁止する。
【0189】
このため、回路制御部300は、電圧印加回路6の消費電力量W
pumpが燃料透過に伴う損失電力量W
leakを超えると予測した場合に、電圧印加回路6による電圧の印加を事前に禁止することができる。また、回路制御部300は、電圧印加回路6の消費電力量W
pumpが燃料透過に伴う損失電力量W
leakを超えた時点において、電圧印加回路6による電圧の印加を停止することもできる。したがって、燃料電池1の停止中に生じるエネルギー損失の増加を抑制することができる。
【0190】
また、本実施形態によれば、IS期間Tsは、実験やシミュレーション等を通じて予め定められた期間に設定される。これにより、燃料電池1の発電を停止した時点、すなわち燃料電池1がIS状態に遷移した時点で電圧印加回路6による電圧印加の要否を判定することが可能になる。
【0191】
また、本実施形態によれば、回路制御部300は、燃料電池1の発電を停止してから当該発電を開始するまでの期間を示す情報を保持するメモリ311を含む。回路制御部300のIS時間取得部310は、燃料電池1の発電を停止してから当該発電を開始するまでの期間を計測して計測した期間をメモリ311に記録する。そしてIS時間取得部310は、燃料電池がIS状態に遷移するときに、メモリ311に記録された複数の期間の平均値を、IS期間Tsとして設定する。
【0192】
これにより、燃料電池システム100を搭載した車両の使用状況に合わせてIS期間Tsが設定されるので、IS期間Tsを予測する精度を高めることができる。したがって、電圧印加回路6による電圧印加の要否の判定精度を向上させることができる。
【0193】
また、本実施形態によれば、燃料電池1は、車両を駆動するモータを含む負荷装置5に対して電力を供給する。そして回路制御部300は、車両の速度が大きくなるときには、車両の速度が小さいときに比べてIS期間Tsを小さな値に設定する。これにより、車両の走行中にはIS期間Tsが短く設定され、車両の停止中にはIS期間Tsが長く設定されるので、IS期間Tsの予測精度を高めることができる。
【0194】
また、本実施形態によれば、燃料電池1は、複数の電池セルを有する。そして回路制御部300は、燃料電池1のうちアノード極13からカソード極11への燃料の透過流速J
leakが小さい電池セルの電圧値に基づいて電圧印加回路6の電圧値を設定する。
【0195】
電池セルにおける燃料の透過流速J
leakが小さくなるほど、その電池セルに供給可能な電流値は小さくなる。電池セルに過剰な電流が供給されると電池セルの電圧値が大きくなることから、このような特性を利用して電圧印加回路6の電圧値を適切に設定することができる。
【0196】
(第2実施形態)
図11は、本発明の第2実施形態における電圧印加回路6の構成を示す回路図である。
【0197】
本実施形態の電圧印加回路6は、燃料電池スタック1を構成する3つのセル群1a乃至1cに対して、それぞれ、逆バイアスの電圧を印加する電源回路6a乃至6cを備えている。
【0198】
電源回路6aは、所定数の電池セルで構成されるセル群1aに接続され、電源回路6bは、所定数の電池セルで構成されるセル群1bに接続され、電源回路6cは、所定数の電池セルで構成されるセル群1cに接続される。
【0199】
コントローラ200の回路制御部300は、電源回路6a乃至6cの各々について、
図10で示した逆バイアス電圧印加処理を実行する。例えば、回路制御部300は、電圧センサ62aを用いて電池セルの電圧値の最大値V
maxを取得し、取得した最大値V
maxが所定の電圧範囲内にあるか監視する。そして回路制御部300は、最大値V
maxが所定の電圧範囲内にない場合には、電源回路6aの出力電流を変化させることにより、最大値V
maxが所定の電圧範囲内に収まるように電源回路6aの電圧値を制御する。
【0200】
このように、燃料電池スタック1のセル群1a乃至1cごとに別々に電源回路6a乃至6cを設けることにより、セル群1a乃至1cにおける各電池セルの固体差が小さくなる蓋然性が高まる。したがって、各電池セルに供給される電流の大きさを、各電池セルの水素透過速度に相当する電流値に近づけることが可能になるので、燃料電池スタック1におけるアノード極からカソード極への燃料の排出を抑制することができる。
【0201】
本実施形態によれば、電圧印加回路6は、燃料電池スタック1のうちの所定数の電池セルを構成する各セル群1a乃至1cごとに接続される複数の電源回路6a乃至6cを有する。回路制御部300は、各電源回路6a乃至6cごとに、当該電源回路に接続されるセル群のうち燃料の透過流速が最も小さい電池セルの電圧値に基づいて、当該電源回路からセル群に供給される電圧値を設定する。これにより、燃料電池スタック1の全体に電圧を印加する場合に比べて、各電池セルの燃料透過流速に相当する電流値に近づけることが可能になる。
【0202】
(第3実施形態)
図12は、本発明の第3実施形態における電圧印加回路6及び燃料電池スタック1の構成を示す回路図である。
【0203】
燃料電池スタック1は。多数の電池セルにより構成されている。ここでは、便宜的に2つの電池セル101及び102のみが示されている。
【0204】
電池セル101には、定電圧ダイオード101a及びスイッチ回路101bが接続され、電池セル102には、定電圧ダイオード102a及びスイッチ回路102bが接続されている。
【0205】
定電圧ダイオード101a及び12aは、両端の電圧を一定の電圧値に維持する素子である。定電圧ダイオード101a及び12aの各々について、両端の電圧が一定の電圧値よりも大きくなる場合には、電流を通過させることにより両端の電圧が一定に維持される。
【0206】
スイッチ回路101b及び12nは、それぞれ定電圧ダイオード101a及び11bを電池セル101及び12に接続する回路である。例えば、スイッチ回路101bは、電圧印加回路6により電池セル101に逆バイアスの電圧を印加する場合に定電圧ダイオード101aを電池セル101に並列接続し、電池セル101への電圧の印加を停止する場合に電池セル101から定電圧ダイオード101aを切り離す。スイッチ回路102bもスイッチ回路101bと同様である。
【0207】
図12では、燃料電池スタック1のうち電池セル101の水素透過流速が最も早いことを想定している。コントローラ200の回路制御部300は、電圧印加回路6から電池セル101の水素透過流速に相当する電流値I1を供給するとともに、スイッチ回路101b及び12bを接続状態に切り替える。
【0208】
これにより、電池セル101には電流I1が流れる。一方、電池セル102の水素透過流速は電池セル101の水素透過流速よりも遅いため、電池セル102には過剰に電流が供給されることになり、電池セル102の電圧値は大きくなる。これに伴って定電圧ダイオード102aには所定の電圧値よりも大きな電圧が印加されることから、電池セル102の電圧値が所定の電圧値に下がるまで定電圧ダイオード102a自身に電流I2が流れる。これにより、電池セル102には、電池セル102の水素透過流速に相当する電流(I1−I2)が流れることになる。
【0209】
このように、本実施形態では、燃料電池スタック1を構成する電池セルごとに、定電圧ダイオード、及び、電池セルと定電圧ダイオードとの間を接続するスイッチ回路を接続することより、電池セルの水素透過流速に応じた電流を供給することができる。したがって、燃料電池スタック1を構成する電池セルの各々について、アノード極からカソード極への燃料の排出を抑制してアノード極に燃料を保持することができる。
【0210】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0211】
例えば、回路制御部300は、燃料電池スタック1の停止時における燃料ガスの残留量m
H2_eが少ないほど、電圧印加回路6から印加される逆バイアスの電圧値を小さくしたり、燃料電池スタック1の停止後の経過時間(IS時間)が上述の電力超過閾値Tcに近づくほど、逆バイアスの電圧値を小さくしたりするようにしてもよい。
【0212】
すなわち、回路制御部300は、アノード極13からカソード極11への燃料の透過量に関するパラメータ(例えば燃料ガスの残留量m
H2_eやIS時間など)に基づいて電圧印加回路6から継続して印加される電圧の大きさを抑制するようにしてもよい。これにより、電圧印加回路6の消費電力を低減することができ、燃料電池スタック1の停止中におけるエネルギー損失の増加を抑制することができる。
【0213】
なお、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。