(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。線状の形状を有し金属からなる導体部と、導体部の外周面を被覆する絶縁層と、を備える。絶縁層は、高強度絶縁層を含む。高強度絶縁層は、合成樹脂からなるマトリックスと、マトリックス中に分散するセルロースナノファイバーと、を含む。高強度絶縁層において、セルロースナノファイバーの含有量は、マトリックスを構成する合成樹脂100質量部に対して、0.1質量部〜10質量部である。
【0011】
本願の絶縁電線において、絶縁層は高強度絶縁層を含み、高強度絶縁層のマトリックス中にはセルロースナノファイバーが分散する。このようにすることで、絶縁層の損傷が抑制され、耐傷性が向上する。また、セルロースナノファイバーの含有量を、マトリックスを構成する合成樹脂100質量部に対して10質量部以下とすることで、絶縁層の加工性の低下を抑制することができる。一方、セルロースナノファイバーの含有量を0.1質量部以上とすることで、耐傷性向上の効果を確実に得ることができる。その結果、本願の絶縁電線によれば、耐傷性と加工性を両立した絶縁層を備える絶縁電線を提供することができる。
【0012】
上記絶縁電線において、セルロースナノファイバーは、0.1nm〜100nmの平均繊維径および0.1μm以上の平均繊維長を有することが好ましい。このようにすることで絶縁層の耐傷性をより確実に向上させることができる。
【0013】
上記絶縁電線において、合成樹脂は、ポリイミドを含むことが好ましい。ポリイミドを含む合成樹脂は、絶縁性および耐熱性に優れる。そのため、ポリイミドは絶縁層を構成する材料として好適である。
【0014】
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本願の絶縁電線の一実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0015】
(絶縁電線の構造)
本実施の形態における絶縁電線1の例を
図1に示す。
図1は、絶縁電線1の長手方向に垂直な断面を示す断面模式図である。
図1を参照して、絶縁電線1は、角丸の長方形の形状の断面形状を有する。絶縁電線1は、角丸の長方形の形状の断面形状を有する線状の導体部10と、この導体部10の外周面を被覆する絶縁層20と、を備える。
【0016】
(導体部)
本実施の形態において、導体部10は長手方向に垂直な断面において角丸の長方形の形状を有する。導体部10としては、本実施の形態のように、長手方向に垂直な断面の形状が長方形の形状を有する平角線の他、断面形状が円形状の丸線、断面形状が正方形状の角線、複数の素線を撚り合わせた撚り線等を用いることができる。
【0017】
導体部10に平角線を用いた場合において、絶縁電線1の長手方向に垂直な断面の短辺側が外周面および内周面を形成するように絶縁電線1がコイル状に巻かれる場合がある。このような場合、絶縁電線1の絶縁層20には、より一層の加工性が求められる。本実施の形態の絶縁電線1によれば、導体部10に平角線を用いた場合でも十分な加工性を付与することが容易である。
【0018】
導体部10は、金属からなる。導体部10を構成する金属としては、導電率が高くかつ機械的強度が大きい金属が好ましい。本実施の形態において、導体部10は銅からなる。導体部10は、本実施の形態の銅の他、銅合金、アルミニウム、ニッケル、銀、鉄、鋼、ステンレス鋼等を用いることができる。導体部10は、上記の金属を線状に形成したものや、上記の金属を線状に形成したものに別の金属を被覆した多層構造のものを用いることができる。多層構造の導体部10としては、例えば、ニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミ線、銅被覆鋼線等があげられる。
【0019】
(絶縁層)
図1を参照して、絶縁電線1を構成する絶縁層20は、高強度絶縁層201を備える。絶縁電線1を構成する絶縁層20は、本実施の形態のように高強度絶縁層201のみから構成される他、複数の絶縁層が積層された構造を有し、その少なくとも1層が高強度絶縁層201であってもよい。高強度絶縁層201は、合成樹脂からなるマトリックス21を含む。マトリックス21を構成する合成樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等があげられる。本実施の形態において、マトリックス21を構成する合成樹脂は、ポリイミドを含む。ポリイミドを含む合成樹脂は、絶縁性および耐熱性に優れるため、高強度絶縁層201を構成する材料として好適である。なお、絶縁層20は、高強度絶縁層201と同様に合成樹脂からなるマトリックス21を含む。
【0020】
マトリックス21を構成する合成樹脂は、本実施の形態のポリイミドの他、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリベンゾイミダゾール、メラミン樹脂、ポリビニルホルマール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂も用いることができる。また、マトリックス21を構成する合成樹脂としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリアリールエーテルケトン、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド等の熱可塑性樹脂も用いることができる。高強度絶縁層201は、2種類以上の樹脂の複合体又は積層体であってもよく、また熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との複合体又は積層体であってもよい。
【0021】
絶縁層20の厚みは、たとえば5μm以上200μm以下である。このような範囲とすることで、導体部10を十分に絶縁することができる。
【0022】
図2は、本実施の形態の絶縁層20を構成する高強度絶縁層201を示す模式図である。
図2を参照して、高強度絶縁層201は、マトリックス21中に分散するセルロースナノファイバー22を含む。セルロースナノファイバー22は、強度が高く、弾性率が高い。その結果、絶縁層20の損傷が抑制され、耐傷性が向上する。
【0023】
(セルロースナノファイバー)
本実施の形態におけるセルロースナノファイバー22は、植物由来のセルロース繊維から得られるセルロースナノファイバー22である。植物由来のセルロース繊維から得られるセルロースナノファイバー22は、生産性が高く、適度な繊維径及び繊維長を有する点から高強度絶縁層201を構成する材料として好適である。
【0024】
セルロースナノファイバー22は、β−1,4−グルカン構造を有する多糖類で形成されている限り、特に制限されない。セルロースナノファイバー22は、本実施の形態の植物由来のセルロース繊維から得られるセルロースナノファイバー22の他、動物由来のセルロース繊維、バクテリア由来のセルロース繊維等から得られるセルロースナノファイバー22であってもよい。植物由来のセルロース繊維としては、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)等を用いることができる。中でも、木材繊維、種子毛繊維などのパルプ由来のセルロース繊維が好ましい。これらのセルロースナノファイバー22は、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
本実施の形態におけるセルロースナノファイバー22は、0.1nm〜100nmの平均繊維径および0.1μm以上の平均繊維長を有する。このようにすることで絶縁層20の耐傷性をより確実に向上させることができる。セルロースナノファイバー22の平均繊維長は、分散性の観点から好ましくは0.1μm〜100μmである。平均繊維径および平均繊維長は、電子顕微鏡画像に基づいて測定した繊維径(n=10程度)、繊維長(n=10程度)から算出した値である。
【0026】
本実施の形態におけるセルロースナノファイバー22の含有量は、マトリックス21を構成する合成樹脂100重量部に対して、0.1質量部〜10質量部である。セルロースナノファイバー22は強度が高いことから、このような含有量とすることで絶縁層20の加工性の低下を抑制しつつ耐傷性を向上させることができる。セルロースナノファイバー22の含有量の好ましい範囲は、マトリックス21を構成する合成樹脂100重量部に対して、1質量部〜6質量部である。
【0027】
セルロースナノファイバー22は、分散性の観点から表面改質されていてもよい。より具体的には、セルロースナノファイバー22に修飾する化合物をさらに添加して、セルロースナノファイバー22と反応させることで得られる変性セルロースナノファイバーであってもよい。
【0028】
ここで、本実施の形態の絶縁電線1において、絶縁層20は高強度絶縁層201を含み、高強度絶縁層201のマトリックス21中にはセルロースナノファイバー22が分散する。このようにすることで、絶縁層20の損傷が抑制され、耐傷性が向上する。また、セルロースナノファイバー22の含有量を、マトリックス21を構成する合成樹脂100質量部に対して10質量部以下とすることで、絶縁層20の加工性の低下を抑制することができる。一方、セルロースナノファイバー22の含有量を0.1質量部以上とすることで、耐傷性向上の効果を確実に得ることができる。その結果、耐傷性と加工性を両立した絶縁層20を備える絶縁電線1を提供することができる。
【0029】
(絶縁電線の製造方法)
次に絶縁電線1の製造方法の概要について説明する。絶縁電線1の製造方法は、導体部10を準備する工程と、導体部10の外周面上に絶縁層20となるべき樹脂組成物を塗布する工程と、加熱により塗布した樹脂組成物を硬化する工程とを備える。
【0030】
導体部10を準備する工程では、銅等の導体からなる線材である導体部10が準備される。樹脂組成物を塗布する工程では、導体部10の外周面側に絶縁層20となるべき樹脂組成物を塗布する。樹脂組成物を構成する合成樹脂としては、たとえば熱硬化性樹脂であるポリイミドを採用することができる。樹脂組成物を導体部10の外周面側に塗布する方法としては、液状の樹脂組成物を貯留した液状組成物槽と、塗布ダイスとを備える塗布装置を用いた方法を挙げることができる。この塗布装置によれば、導体部10が液状組成物槽内を通過することで樹脂組成物が導体外周面側に付着し、その後塗布ダイスを通過して、樹脂組成物が均一な厚さに塗布される。
【0031】
樹脂組成物を硬化する工程では、加熱することにより、樹脂組成物を硬化させて、絶縁層20を形成する。この加熱に用いる装置としては、樹脂組成物が塗布された導体部10の走行方向に沿って延びる筒状の焼き付け炉を用いることができる。加熱方法としては熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等を採用することができる。また、加熱温度は、例えば300℃以上600℃以下である。
【0032】
なお、上記樹脂組成物塗布工程と樹脂組成物硬化工程とは、複数回繰り返して行ってもよい。このようにすることで、絶縁層20の厚さを増加させることができる。以上の手順により、本実施の形態の絶縁電線1を製造することができる。
【実施例】
【0033】
本実施の形態の絶縁電線1と同様にマトリックス21中にセルロースナノファイバー22を分散させた高強度絶縁層201のみからなる絶縁層20を備えたサンプルを作製し、絶縁層20の引張弾性率および破断伸び、絶縁電線1の絶縁破壊電圧を確認する評価を行った。評価の手順は以下の通りである。
【0034】
直径1mmの銅線を準備した。また、ポリイミドを含むワニスを準備し、セルロースナノファイバー22を混合した樹脂組成物を調製した。また、比較のためにセルロースナノファイバー22を含まない樹脂組成物と、セルロースナノファイバー22に代えてシリカを混合した樹脂組成物とを調製した。樹脂組成物を上記の銅線に塗布し、加熱により樹脂組成物を硬化させ高強度絶縁層201のみからなる絶縁層20を形成した。なお、絶縁層20の厚みは、32μmである。表1に記載する割合でセルロースナノファイバー22を含有するサンプルNo.1〜No.8と、表1に記載する割合でシリカを含有するサンプルNo.9とを作製した。作製したサンプルNo.1〜No.9について下記方法によって、絶縁層20の引張弾性率および破断伸び、絶縁電線1の絶縁破壊電圧を評価した。結果を表1に示す。
【0035】
引張弾性率は、JIS C3005:2014に準拠して評価した。より具体的には、導体部10を取り除いて絶縁層20のみの管状試験片を作製した後、23℃の環境下にて、試験片の両端を引張試験機のチャックに取り付けた後、引張速度200mm/分で引っ張り、S−Sカーブの傾きを引張弾性率とした。
【0036】
破断伸びは、JIS C3005:2014に準拠して測定した。より具体的には、導体部10を取り除いて絶縁層20のみの管状試験片を作製した後、23℃の環境下にて、試験片の両端を引張試験機のチャックに取り付けた後、引張速度200mm/分で引っ張り、試験片の破断時の伸びを測定した。
【0037】
絶縁破壊電圧は、JIS C3003:1999に準拠し、2個より法にて作製した試験片により測定した。より具体的には、長さ約50cmの試験片10本を採り、その各々を2つに折り合わせ、15Nの張力を加えながら、約12cmの長さの部分を9回撚り合わせる。張力を取り去った後折り目部分を切って2個より試験片を作成する。この2個より試験片の2本の導体間に50Hz又は60Hzの正弦波に近い波形を有する交流電圧を500V/sで昇圧しながら印加し、絶縁皮膜が破壊されて短絡が生じたときの電圧(kV)を10本の試験片について測定し平均値を求めた。
【0038】
【表1】
表1を参照して、セルロースナノファイバー22を含まないNo.6、およびセルロースナノファイバー22を0.05質量部含むNo.7と比較して、セルロースナノファイバー22を0.1質量部以上含むNo.1〜No.5、No.8では、引張弾性率が明確に上昇している。このため、セルロースナノファイバー22の含有量は、耐傷性の点から0.1質量部以上とすることが好ましいといえる。また、セルロースナノファイバー22を10質量部よりも多く含むNo.8では、セルロースナノファイバー22を含まないNo.6と比較して破断伸びが著しく低下している。このため、セルロースナノファイバー22の含有量は、加工性の点から10質量部以下とすることが好ましいといえる。また、シリカを含むNo.9と比較して、セルロースナノファイバー22を含むNo.1〜No.5では、破断伸びおよび絶縁破壊電圧の低下が抑制されている。
【0039】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。