特許第6859732号(P6859732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6859732
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】駆動力伝達装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 23/08 20060101AFI20210405BHJP
   B60W 30/09 20120101ALI20210405BHJP
   B60K 17/348 20060101ALN20210405BHJP
【FI】
   B60K23/08 C
   B60W30/09
   !B60K17/348 B
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-20705(P2017-20705)
(22)【出願日】2017年2月7日
(65)【公開番号】特開2017-206228(P2017-206228A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2020年1月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-99043(P2016-99043)
(32)【優先日】2016年5月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】谷口 健太
【審査官】 山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−112007(JP,A)
【文献】 特開2015−054552(JP,A)
【文献】 特開2015−054637(JP,A)
【文献】 特開2008−018832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 23/08
B60W 30/09
B60K 17/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の駆動力が常に伝達される主駆動輪と、車両走行状態に応じて前記駆動源の駆動力が伝達される補助駆動輪と、前記補助駆動輪に伝達される駆動力を調節可能な駆動力伝達装置と、車両前方の障害物を検知して前記障害物との衝突の可能性がある場合に制動力を発生させる衝突防止装置とを備えた四輪駆動車に搭載され、前記駆動力伝達装置を制御する駆動力伝達装置の制御装置であって、
前記衝突防止装置が前記障害物を検知した後に発する信号を受け付ける受付手段と、
前記主駆動輪のみに前記駆動源の駆動力が伝達される二輪駆動状態での走行中に前記受付手段が前記信号を受け付けたとき、前記補助駆動輪に伝達すべき駆動力を決定し、前記決定した駆動力が前記補助駆動輪に伝達されるように前記駆動力伝達装置を制御する衝突回避制御手段と、を備え、
前記衝突回避制御手段は、前記受付手段が前記信号を受け付けたときの車速及び操舵角に基づいて基準駆動力を算出すると共に、操舵速度及び制動力の少なくとも何れかに応じて付加駆動力を算出し、前記基準駆動力と前記付加駆動力とを加算した駆動力が前記補助駆動輪に伝達されるように前記駆動力伝達装置を制御する、
駆動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記衝突回避制御手段は、前記受付手段が前記信号を受け付けたときの車速及び操舵角に基づいて基準駆動力を算出すると共に、操舵速度に応じた第1の付加駆動力及び制動力に応じた第2の付加駆動力を算出し、前記基準駆動力と前記第1及び第2の付加駆動力とを加算した駆動力が前記補助駆動輪に伝達されるように前記駆動力伝達装置を制御する、
請求項1に記載の駆動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
前記衝突回避制御手段は、走行路面の摩擦係数の推定値を取得し、前記摩擦係数が所定値未満である場合、前記摩擦係数が前記所定値以上である場合に比較して、より大きな駆動力が前記補助駆動輪に伝達されるように前記駆動力伝達装置を制御する、
請求項1又は2の何れかに記載の駆動力伝達装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力伝達装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載カメラやレーダーを用いて車両の前方の障害物を検知し、障害物との衝突の可能性がある場合に制動力を発生させる衝突防止装置を搭載した車両が普及しつつある(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の車両は、障害物との衝突が発生すると予測される時間に応じて、警告音やインジケータへの表示により運転者に警報を出力する第一段階、運転者のブレーキ操作を検出した時に通常よりも制動力を高めるブレーキアシストを行う第二段階、及び運転者のブレーキ操作を検出しなくても自動で制動力を発生させる自動ブレーキを行う第三段階、の三段階に状態を移行させて衝突被害軽減処理を実行する。
【0004】
特許文献2に記載の車両は、補助駆動輪としての後輪に伝達する駆動力を調節可能なトルク伝達容量可変型の駆動力伝達装置(トランスファクラッチ)を備えた四輪駆動車であり、障害物との衝突可能性を判定して障害物との衝突を防止するための制動力を発生させる衝突防止制御手段と、車両の走行状態に応じて前後輪軸間の締結トルクを制御する前後駆動力配分制御手段とを備えている。衝突防止制御手段は、制動力を発生させる際、自車両が直進状態の場合には、予め設定した時間が経過するまでは締結トルクとして第1の締結トルクを設定させ、その後は締結トルクを略0に近い第2の締結トルクに低下させる。また、自車両が旋回状態の場合には、制動力を発生させる際に、当初から第2の締結トルクを設定させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−232787号公報
【特許文献2】特開2012−188095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような衝突防止装置が搭載された車両は、前方の障害物が検知されてから停止するまでは走行を続けるので、この間に運転者がステアリングホイールを操舵して障害物を回避する回避行動をとることがある。この場合、車両の挙動が不安定であると、運転者が意図した回避行動のとおりに車両が走行せず、障害物の回避が適切に行えないおそれがある。また、旋回中に自動ブレーキが実行されると、前後輪の荷重バランスが変化し、後輪が遠心力によって旋回方向に対して外側にはみだしてしまうおそれがある。
【0007】
ここで、補助駆動輪に伝達される駆動力を調節可能な駆動力伝達装置を備えた四輪駆動車の場合には、走行時において補助駆動輪に駆動源の駆動力を配分することで車両の挙動を安定化させることができるが、障害物が検知されたときに、特許文献2に記載されているように補助駆動輪に伝達される駆動力を略0にしてしまうと、この四輪駆動車の特性を十分に生かすことができない。また、締結トルクが第1の締結トルクから第2の締結トルクに切り替わった際に前後輪の駆動力配分比が大きく変化することにより、車両の挙動をより一層不安定化させてしまうおそれもある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、補助駆動輪に伝達される駆動力を調節可能な駆動力伝達装置を備えた四輪駆動車に搭載され、車両前方の障害物が検知されたときの車両の挙動を安定化させることが可能な駆動力伝達装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を達成するため、駆動源の駆動力が常に伝達される主駆動輪と、車両走行状態に応じて前記駆動源の駆動力が伝達される補助駆動輪と、前記補助駆動輪に伝達される駆動力を調節可能な駆動力伝達装置と、車両前方の障害物を検知して前記障害物との衝突の可能性がある場合に制動力を発生させる衝突防止装置とを備えた四輪駆動車に搭載され、前記駆動力伝達装置を制御する駆動力伝達装置の制御装置であって、前記衝突防止装置が前記障害物を検知した後に発する信号を受け付ける受付手段と、前記主駆動輪のみに前記駆動源の駆動力が伝達される二輪駆動状態での走行中に前記受付手段が前記信号を受け付けたとき、前記補助駆動輪に伝達すべき駆動力を決定し、前記決定した駆動力が前記補助駆動輪に伝達されるように前記駆動力伝達装置を制御する衝突回避制御手段と、を備え、前記衝突回避制御手段は、前記受付手段が前記信号を受け付けたときの車速及び操舵角に基づいて基準駆動力を算出すると共に、操舵速度及び制動力の少なくとも何れかに応じて付加駆動力を算出し、前記基準駆動力と前記付加駆動力とを加算した駆動力が前記補助駆動輪に伝達されるように前記駆動力伝達装置を制御する、駆動力伝達装置の制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、補助駆動輪に伝達される駆動力を調節可能な駆動力伝達装置を備えた四輪駆動車において、前方の障害物が検知されたときの挙動を安定化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置が搭載された四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。
図2】駆動力伝達装置の構成例を示す断面図である。
図3】制御装置の機能構成例を示すブロック図である。
図4】制御装置の制御部が衝突回避制御手段として実行する処理の具体例を示すフローチャートである。
図5】(a)は高μ路用マップの一例を示し、(b)は低μ路用マップの一例を示す。
図6】本発明の第2の実施の形態に係る制御装置の制御部が衝突回避制御手段として実行する処理の具体例を示すフローチャートである。
図7】(a)は操舵速度と第1の付加駆動力との関係を示すマップの一例を、(b)は制動力と第2の付加駆動力との関係を示すマップの一例をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図1乃至図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0013】
(四輪駆動車の全体構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る制御装置が搭載された四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。
【0014】
図1に示すように、四輪駆動車1は、走行用のトルクを発生する駆動源としてのエンジン11と、エンジン11の出力を変速するトランスミッション12と、トランスミッション12で変速されたエンジン11の駆動力が常に伝達される左右一対の主駆動輪としての左右前輪181,182と、車両走行状態に応じてエンジン11の駆動力が伝達される左右一対の補助駆動輪としての左右後輪191,192とを備えている。この四輪駆動車1は、左右前輪181,182及び左右後輪191,192にエンジン11の駆動力を伝達する四輪駆動状態と、左右前輪181,182のみに駆動力を伝達する二輪駆動状態とを切り替え可能である。また、左右前輪181,182は、運転者によるステアリングホイール180の操舵によって転舵される転舵輪である。
【0015】
左右前輪181,182及び左右後輪191,192のそれぞれには、制動力を発生させるブレーキ181B,182B,191B,192Bが対応して設けられている。本実施の形態では、これらのブレーキ181B,182B,191B,192Bがそれぞれホイールシリンダを備え、ホイールシリンダに供給されるブレーキオイルの油圧(ブレーキ圧)によって作動する場合について説明するが、これに限らず、例えば電動アクチュエータによって作動する電磁ブレーキであってもよい。ブレーキ181B,182B,191B,192Bのホイールシリンダには、運転者がブレーキペダル100を踏み込むブレーキ操作に連動して作動するマスターシリンダの油圧がブレーキ駆動部10を介して供給される。
【0016】
ブレーキ駆動部10は、加圧源及び減圧弁や増圧弁等を備えた油圧制御ユニットであり、運転者によるブレーキペダル100の踏み込み操作以外にも、後述する衝突防止装置7や図略のABS(アンチロックブレーキシステム)制御装置からの制御信号に応じて、ブレーキ181B,182B,191B,192Bのホイールシリンダにブレーキ圧を供給することが可能である。
【0017】
また、四輪駆動車1は、フロントディファレンシャル13と、プロペラシャフト14と、リヤディファレンシャル15と、左右の前輪側のドライブシャフト161,162と、左右の後輪側のドライブシャフト171,172と、プロペラシャフト14とリヤディファレンシャル15との間に配置された駆動力伝達装置2と、駆動力伝達装置2を制御する制御装置6と、車両前方を撮像する左右一対のカメラ71と、カメラ71により車両前方の障害物を検知して、障害物との衝突の可能性がある場合に制動力を発生させる衝突防止装置7とを備えている。
【0018】
制御装置6は、左右前輪181,182及び左右後輪191,192の回転速度を検出する回転速センサ101〜104、アクセルペダル110の踏み込み量を検出するためのアクセルペダルセンサ105、及びステアリングホイール180の操舵角を検出する操舵角センサ106の検出値を取得可能であり、これらの検出値に基づいて駆動力伝達装置2に電流を供給する。駆動力伝達装置2は、制御装置6から供給される電流に応じて、左右後輪191,192に伝達される駆動力を調節可能である。
【0019】
制御装置6は、駆動力伝達装置2を制御することにより、左右前輪181,182及び左右後輪191,192への駆動力の配分比を調節可能である。具体的には、駆動力伝達装置2による駆動力の伝達を遮断することにより、エンジン11の駆動力が全て左右前輪181,182に配分される。このとき、左右前輪181,182及び左右後輪191,192への駆動力の配分比は100:0となる。また、駆動力伝達装置2により伝達される駆動力を大きくすることにより、左右前輪181,182及び左右後輪191,192への駆動力の配分比が等分(50:50)に近くなる。
【0020】
左右前輪181,182には、エンジン11の駆動力が、トランスミッション12、フロントディファレンシャル13、及び左右の前輪側のドライブシャフト161,162を介して伝達される。フロントディファレンシャル13は、左右の前輪側のドライブシャフト161,162にそれぞれ相対回転不能に連結された一対のサイドギヤ131,131と、一対のサイドギヤ131,131にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ132,132と、一対のピニオンギヤ132,132を支持するピニオンピン133と、これらを収容するフロントデフケース134とを有している。
【0021】
フロントデフケース134には、リングギヤ135が固定され、このリングギヤ135がプロペラシャフト14の車両前方側の端部に設けられたピニオンギヤ141に噛み合っている。プロペラシャフト14の車両後方側の端部は、駆動力伝達装置2のハウジング20に連結されている。駆動力伝達装置2は、ハウジング20と相対回転可能に配置されたインナシャフト23を有しており、制御装置6から供給される励磁電流に応じた駆動力を、インナシャフト23と相対回転不能に連結されたピニオンギヤシャフト150を介してリヤディファレンシャル15に伝達する。駆動力伝達装置2の詳細については後述する。
【0022】
リヤディファレンシャル15は、左右の後輪側のドライブシャフト171,172にそれぞれ相対回転不能に連結された一対のサイドギヤ151,151と、一対のサイドギヤ151,151にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ152,152と、一対のピニオンギヤ152,152を支持するピニオンピン153と、これらを収容するリヤデフケース154と、リヤデフケース154に固定されてピニオンギヤシャフト150と噛み合うリングギヤ155とを有している。
【0023】
左右一対のカメラ71は、例えば車室内における前方の天井付近に、車幅方向に所定の間隔をあけて配置されている。衝突防止装置7は、左右一対のカメラ71によって撮像された画像情報に基づいて、車両前方の障害物を検知すると共に、検知された障害物と自車との間の距離を認識可能である。
【0024】
衝突防止装置7は、車両前方の障害物を検知したとき、その障害物との衝突までの猶予時間を車速に基づいて算出し、その後、衝突の危険性がなくなるまで猶予時間を随時更新する。衝突防止装置7は、猶予時間が第1の所定値よりも短くなったとき、例えばアラーム音やインジケータへの表示により運転者に警報を発する。また、衝突防止装置7は、運転者に警報を発した後に運転者のブレーキ操作を検出したとき、ブレーキペダル100の踏み込み量に応じた通常の制動力よりも大きな制動力がブレーキ181B,182B,191B,192Bによって発生するようにブレーキ駆動部10に制御信号を出力し、ブレーキアシスト制御を行う。
【0025】
またさらに、衝突防止装置7は、猶予時間が第1の所定値よりも短い第2の所定値よりも短くなったとき、運転者のブレーキ操作を検出しなくても、ブレーキ駆動部10を制御して制動力を発生させる。この場合の自動ブレーキによる制動力は、一般的な運転者がブレーキペダル100を力強く踏み込んだときの制動力に相当する。
【0026】
衝突防止装置7は、猶予時間に応じて作動信号を出力する。本実施の形態において、衝突防止装置7は、猶予時間が第1の所定値よりも短くなったときに第1の作動信号を出力し、猶予時間が第2の所定値よりも短くなったときに第2の作動信号を出力する。これら第1及び第2の作動信号は、衝突防止装置7が障害物を検知した後に発する信号の一例である。また、衝突防止装置7は、例えば障害物が回避されて衝突の危険性がなくなったとき、解除信号を出力する。制御装置6は、例えばCAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを通じてこれらの信号を受信可能である。
【0027】
(駆動力伝達装置の構成)
図2は、駆動力伝達装置2の構成例を示す断面図である。図2において、回転軸線Oよりも上側は駆動力伝達装置2の作動状態(トルク伝達状態)を、下側は駆動力伝達装置2の非作動状態(トルク非伝達状態)を、それぞれ示す。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
【0028】
駆動力伝達装置2は、フロントハウジング21及びリヤハウジング22からなる外側回転部材としてのハウジング20と、ハウジング20と同軸上で相対回転可能に支持された内側回転部材としての筒状のインナシャフト23と、ハウジング20とインナシャフト23との間で駆動力を伝達するメインクラッチ3と、メインクラッチ3を押圧する押圧力を発生させるカム機構4と、フロントハウジング21の回転力を受けてカム機構4を作動させる電磁クラッチ機構5とを有して構成されている。ハウジング20の内部空間には、図略の潤滑油が封入されている。
【0029】
フロントハウジング21は、円筒状の筒部21aと底部21bとを一体に有する有底円筒状である。筒部21aの開口端部における内面には、雌ねじ部21cが形成されている。また、フロントハウジング21は、アルミニウム等の非磁性金属材料からなり、底部21bには、プロペラシャフト14(図1参照)が例えば十字継手を介して相対回転不能に連結される。フロントハウジング21には、軸方向に延びる複数の外周スプライン突起211が筒部21aの内周面に形成されている。
【0030】
リヤハウジング22は、図2に示すように、鉄等の磁性材料からなる第1環状部材221、第1環状部材221の内周側に溶接等により一体に結合されたオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料からなる第2環状部材222、及び第2環状部材222の内周側に溶接等により一体に結合された鉄等の磁性材料からなる第3環状部材223からなる。第1環状部材221と第3環状部材223との間には、電磁コイル53を収容する環状の収容空間22aが形成されている。また、第1環状部材221の外周面には、フロントハウジング21の雌ねじ部21cに螺合する雄ねじ部221aが形成されている。
【0031】
インナシャフト23は、玉軸受81及び針状ころ軸受82によってハウジング20の内周側に支持されている。インナシャフト23は、軸方向に延びる複数の内周スプライン突起231を外周面に有している。また、インナシャフト23の一端部における内面には、ドライブピニオンシャフト150(図1参照)の一端部が相対回転不能に嵌合されるスプライン嵌合部232が形成されている。
【0032】
メインクラッチ3は、軸方向に沿って交互に配置された複数のメインアウタクラッチプレート31及び複数のメインインナクラッチプレート32を有する摩擦クラッチである。メインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32との摩擦摺動は、ハウジング20とインナシャフト23との間に封入された図略の潤滑油によって潤滑され、摩耗や焼き付きが抑制されている。
【0033】
メインアウタクラッチプレート31は、フロントハウジング21の外周スプライン突起211に係合する複数の係合突起311を外周端部に有している。メインアウタクラッチプレート31は、係合突起311が外周スプライン突起211に係合することにより、ハウジング20との相対回転が規制され、かつフロントハウジング21に対して軸方向に移動可能である。
【0034】
メインインナクラッチプレート32は、インナシャフト23の内周スプライン突起231に係合する複数の係合突起321を外周端部に有している。また、メインインナクラッチプレート32には、潤滑油を流通させる複数の油孔322がメインアウタクラッチプレート31よりも内側に形成されている。メインインナクラッチプレート32は、係合突起321が内周スプライン突起231に係合することにより、インナシャフト23との相対回転が規制され、かつインナシャフト23に対して軸方向に移動可能である。
【0035】
カム機構4は、電磁クラッチ機構5を介してハウジング20の回転力を受けるパイロットカム41と、メインクラッチ3を軸方向に押圧する押圧部材としてのメインカム42と、パイロットカム41とメインカム42との間に配置された複数の球状のカムボール43とを有して構成されている。
【0036】
メインカム42は、メインクラッチ3の一端におけるメインインナクラッチプレート32に接触してメインクラッチ3を押圧する環板状の押圧部421と、押圧部421よりもメインカム42の内周側に設けられたカム部422とを一体に有している。メインカム42は、押圧部421の内周端部に形成されたスプライン係合部421aがインナシャフト23の内周スプライン突起231に係合し、インナシャフト23との相対回転が規制されている。また、メインカム42は、インナシャフト23に形成された段差面23aとの間に配置された皿バネ44により、メインクラッチ3から軸方向に離間するように付勢されている。
【0037】
パイロットカム41は、メインカム42に対して相対回転する回転力を電磁クラッチ機構5から受けるスプライン係合部411を外周端部に有している。パイロットカム41とリヤハウジング22の第3環状部材223との間には、スラスト針状ころ軸受45が配置されている。
【0038】
パイロットカム41とメインカム42のカム部422との対向面には、周方向に沿って軸方向の深さが変化する複数のカム溝41a,422aが形成されている。カムボール43は、パイロットカム41のカム溝41aとメインカム42のカム溝422aとの間に配置されている。そして、カム機構4は、パイロットカム41がメインカム42に対して相対回転することにより、メインクラッチ3を押し付ける軸方向の押圧力を発生させる。メインクラッチ3は、カム機構4から押圧力を受けてメインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32とが摩擦接触し、この摩擦力によって駆動力を伝達する。
【0039】
電磁クラッチ機構5は、アーマチャ50と、複数のパイロットアウタクラッチプレート51と、複数のパイロットインナクラッチプレート52と、電磁コイル53とを有して構成されている。
【0040】
電磁コイル53は、磁性材料からなる環状のヨーク530に保持され、リヤハウジング22の収容空間22aに収容されている。ヨーク530は、玉軸受83によってリヤハウジング22の第3環状部材223に支持され、その外周面が第1環状部材221の内周面に対向している。また、ヨーク530の内周面は、第3環状部材223の外周面に対向している。電磁コイル53には、電線531を介して制御装置6(図1参照)から励磁電流が供給される。
【0041】
複数のパイロットアウタクラッチプレート51及び複数のパイロットインナクラッチプレート52は、アーマチャ50とリヤハウジング22との間に、軸方向に沿って交互に配置されている。パイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52の径方向の中央部には、電磁コイル53の通電により発生する磁束の短絡を防ぐための複数の円弧状のスリットが形成されている。
【0042】
パイロットアウタクラッチプレート51は、フロントハウジング21の外周スプライン突起211に係合する複数の係合突起511を外周端部に有している。パイロットインナクラッチプレート52は、パイロットカム41のスプライン係合部411に係合する複数の係合突起521を内周端部に有している。
【0043】
アーマチャ50は、鉄等の磁性材料からなる環状の部材であり、外周部にはフロントハウジング21の外周スプライン突起211に係合する複数の係合突起501が形成されている。これにより、アーマチャ50は、フロントハウジング21に対して軸方向に移動可能かつフロントハウジング21に対する相対回転が規制されている。
【0044】
(駆動力伝達装置の動作)
上記のように構成された駆動力伝達装置2は、制御装置6から電磁コイル53に励磁電流が供給されると、ヨーク530、リヤハウジング22の第1環状部材221及び第3環状部材223、複数のパイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52、及びアーマチャ50を磁束が通過する磁路Gが形成される。そして、電磁コイル53の磁力によってアーマチャ50がリヤハウジング22側に吸引されて軸方向移動し、パイロットアウタクラッチプレート51とパイロットインナクラッチプレート52とを押圧する。
【0045】
これによりパイロットアウタクラッチプレート51とパイロットインナクラッチプレート52とが摩擦摺動し、ハウジング20の回転力がカム機構4のパイロットカム41に伝達され、パイロットカム41がメインカム42に対して相対回転する。この相対回転によってカムボール43がカム溝41a,422aを転動し、パイロットカム41とメインカム42とが離間する方向の軸方向のカム推力が発生する。そして、この推力によってメインカム42がメインクラッチ3を押圧し、ハウジング20とインナシャフト23とがトルク伝達可能に連結される。すなわち、駆動力伝達装置2が作動状態となる。
【0046】
一方、電磁コイル53への励磁電流が遮断されると、皿バネ44の付勢力によりメインカム42がパイロットカム41側に押し戻され、カムボール43がカム溝41a,422aの最も深い位置に移動する。これによりメインクラッチ3のメインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32の間に隙間が形成され、この隙間に潤滑油が流れ込み、ハウジング20とインナシャフト23との連結状態が解除される。すなわち、駆動力伝達装置2が非作動状態となる。
【0047】
ハウジング20とインナシャフト23とが相対回転する駆動力伝達装置2の非作動状態において、制御装置6から電磁コイル53に励磁電流が供給されると、電磁コイル53のインダクタンスによる磁束発生の遅れ時間、磁束が発生してからアーマチャ50が移動してパイロットアウタクラッチプレート51とパイロットインナクラッチプレート52との間の摩擦力が発生するまでの遅れ時間、カムボール43がカム溝41a,422aを転動してカム機構4のカム推力が発生するまでの遅れ時間、及びメインカム42から受けるカム推力によりメインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32とが摩擦接触するまでの遅れ時間が累積されて、駆動力伝達装置2が作動状態となる。
【0048】
図3は、制御装置6の機能構成例を示すブロック図である。制御装置6は、CPU(演算処理装置)によって実現される制御部61と、ROM等の記憶素子からなる記憶部62と、駆動力伝達装置2の電磁コイル53に励磁電流を出力するための電流出力回路63とを有している。
【0049】
制御部61は、記憶部62に記憶されたプログラム620を実行することで、受付手段610、通常制御手段611、及び衝突回避制御手段612として機能する。記憶部62は、プログラム620の他、ΔN感応トルクマップ621、加速操作量感応トルクマップ622、及び衝突回避時指令トルクマップ623を記憶している。電流出力回路63は、例えばパワートランジスタ等のスイッチング素子を有し、制御部61により演算された指令トルクに応じた励磁電流をPWM制御により駆動力伝達装置2の電磁コイル53に供給する。
【0050】
受付手段610は、例えばCAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを通じて、回転速センサ101〜104の検出値、アクセルペダルセンサ105の検出値、操舵角センサ106の検出値、及び衝突防止装置7が出力する信号を受け付ける。
【0051】
通常制御手段611は、四輪駆動車1の通常の走行中に駆動力伝達装置2を制御する制御手段である。通常制御手段611は、回転速センサ101〜104の検出値によって左右前輪181,182の平均回転速度と左右後輪191,192の平均回転速度とを演算し、これら両平均回転速度の差である差回転(ΔN)に基づいてΔN感応トルクマップ621を参照し、第1の指令トルクを演算する。また、通常制御手段611は、アクセルペダルセンサ105の検出値に基づいて加速操作量感応トルクマップ622を参照し、第2の指令トルクを演算する。そして、第1の指令トルクと第2の指令トルクとの合計値を指令トルクとし、電流出力回路63にこの指令トルクに応じた励磁電流を出力させる。ΔN感応トルクマップ621には、前後輪の差回転の絶対値が大きくなるほど第1の指令トルクが大きくなる特性が定義されている。加速操作量感応トルクマップ622には、運転者による加速操作量(アクセルペダルの踏み込み量)が大きくなるほど第2の指令トルクが大きくなる特性が定義されている。
【0052】
衝突回避制御手段612は、左右前輪181,182のみにエンジン11の駆動力が伝達される二輪駆動状態での走行中に受付手段610が衝突防止装置7の作動信号を受け付けたとき、左右後輪191,192に伝達すべき駆動力(指令トルク)を決定し、決定した駆動力が左右後輪191,192に伝達されるように駆動力伝達装置2を制御する。本実施の形態では、衝突防止装置7が出力する第1の作動信号及び第2の作動信号のうち、第2の作動信号を受付手段610が受け付けたときに左右後輪191,192に駆動力が伝達されるように駆動力伝達装置2を制御する場合について説明するが、受付手段610が第1の作動信号を受け付けたときに左右後輪191,192に駆動力が伝達されるように駆動力伝達装置2を制御してもよい。
【0053】
次に、図4を参照して、制御部61が衝突回避制御手段612として実行する処理の具体例について説明する。図4は、衝突回避制御手段612として実行する処理の具体例を示すフローチャートである。
【0054】
衝突回避制御手段612は、受付手段610によって衝突防止装置7からの作動信号(第2の作動信号)が受け付けられたかを判定し(ステップS10)、衝突防止装置7からの作動信号がない場合(ステップS10:No)には、衝突防止装置7からの作動信号が受け付けられるのを待機する。
【0055】
また、衝突回避制御手段612は、受付手段610によって衝突防止装置7からの作動信号が受け付けられたとき(ステップS10:Yes)、二輪駆動状態であるか否か、すなわち通常制御手段611によって左右後輪191,192に駆動力が配分されている状態か否かを判定する(ステップS11)。この判定の結果、二輪駆動状態でない場合(ステップS11:No)には図4に示すフローチャートの処理を終了し、二輪駆動状態である場合(ステップS11:Yes)には以降の処理を実行する。
【0056】
衝突回避制御手段612は、四輪駆動車1の駆動状態が二輪駆動状態である場合(ステップS11:Yes)、受付手段610がCAN等によって受け付けた車速及び操舵角の情報を取得する(ステップS12)。また、衝突回避制御手段612は、四輪駆動車1が走行している路面の摩擦係数(推定値)を取得する(ステップS13)。この摩擦係数の情報は、例えば受付手段610によって他の車載装置から受信するものでもよく、制御装置6によって推定されるものでもよい。他の車載装置から摩擦係数の情報を取得する場合、当該装置は、例えば路面を撮像した画像情報や気温等に基づいて摩擦係数の推定値を求めることができる。また、摩擦係数の推定値は、制御装置6において、例えば一定の車速で直進する定常走行状態における左右前輪181,182の平均回転速度と左右後輪191,192の平均回転速度と差によっても推定することができる。
【0057】
次に、衝突回避制御手段612は、ステップS13で取得した摩擦係数が所定値以上であるか否かを判定する(ステップS14)。この所定値は、例えば舗装された乾燥路の摩擦係数よりも低く、かつ降雨等によるウエット路の摩擦係数よりも高い値に設定されている。ステップS13で取得した摩擦係数がこの所定値以上である場合、走行路面が高μ路であると判定され、ステップS13で取得した摩擦係数がこの所定値未満である場合、走行路面が低μ路であると判定される。
【0058】
衝突回避制御手段612は、衝突回避時指令トルクマップ623を参照し、車速及び操舵角に基づいて後輪191,192に伝達すべき駆動力を決定する。また、衝突回避制御手段612は、ステップS13で取得した摩擦係数が所定値以上である場合、摩擦係数が所定値未満である場合に比較して、より大きな駆動力が後輪191,192に伝達されるように駆動力伝達装置2を制御する。
【0059】
本実施の形態では、衝突回避時指令トルクマップ623が、高μ路用マップ及び低μ路用マップからなる。衝突回避制御手段612は、ステップS14の判定の結果、取得した摩擦係数が所定値以上である場合(ステップS14:Yes)には、高μ路用マップを用いて後輪191,192に伝達すべき駆動力を決定する(ステップS15)。また、衝突回避制御手段612は、取得した摩擦係数が所定値未満である場合(ステップS14:No)には、低μ路用マップを用いて後輪191,192に伝達すべき駆動力を決定する(ステップS16)。
【0060】
図5(a)は、ステップS15の処理において衝突回避制御手段612が参照する高μ路用マップの一例を示す図であり、図5(b)は、ステップS16の処理において衝突回避制御手段612が参照する低μ路用マップの一例を示す図である。これらの高μ路用マップ及び低μ路用マップには、車速が高いほど、また操舵角(絶対値)が大きいほど、大きな駆動力が後輪191,192に伝達される特性が定義されている。また、高μ路用マップと低μ路用マップとを比較すると、低μ路用マップを用いた場合により大きな駆動力が後輪191,192に伝達されるように、それぞれのマップの特性が定義されている。なお、図5(a)及び(b)において、三次元の各軸の縮尺は共通である。
【0061】
衝突回避制御手段612は、これらのマップを用いて決定した駆動力に応じた励磁電流が駆動力伝達装置2の電磁コイル53に供給されるように、電流出力回路63に制御信号を出力する(ステップS17)。この後、後述するステップS20で電流出力回路63への制御信号の出力が解除されるまでは、ステップS15又はステップS16で決定された駆動力が後輪191,192に伝達される。
【0062】
衝突回避制御手段612は、ステップS17で電流出力回路63に制御信号を出力した後、車速がゼロであるか(ステップS18)あるいは衝突防止装置7から解除信号を受信したか(ステップS19)を判定し、いずれかの条件が満たされた場合には(ステップS18:Yes又はステップS19:Yes)、電流出力回路63への制御信号の出力を解除する(ステップS20)。これにより、駆動力伝達装置2の電磁コイル53に励磁電流が供給されなくなり、メインクラッチ3が解放されて、後輪191,192に駆動力が伝達されなくなる。その後、衝突回避制御手段612は、図4に示すフローチャートの処理をステップS10から再度実行する。
【0063】
一方、車速がゼロでなく、かつ衝突防止装置7から解除信号を受信していない場合には(ステップS18:NoかつステップS19:No)、衝突回避制御手段612は、ステップS12以降の処理を再度実行する。
【0064】
(第1の実施の形態の効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、二輪駆動状態での走行中に衝突防止装置7によって障害物との衝突を回避するための自動ブレーキが実行されるとき、四輪駆動車1が四輪駆動状態となるので、車両挙動が安定化する。これにより、障害物を回避しやすくなると共に、四輪駆動車1が旋回中であっても後輪191,192が旋回の外側にはみだしてしまうことが抑制される。
【0065】
また、本実施の形態によれば、前輪181,182又は後輪191,192に実際にスリップが発生してから駆動力伝達装置2の電磁コイル53に励磁電流が供給されるのではなく、衝突防止装置7の作動信号に応じて電磁コイル53に励磁電流を供給するので、より早期に後輪191,192に駆動力を伝達することができる。つまり、前輪181,182又は後輪191,192にスリップが発生してから電磁コイル53に励磁電流を供給する場合には、上記のように各部における遅れ時間が累積されて駆動力伝達装置2が作動状態となるが、本実施の形態では、衝突防止装置7の作動信号に応じて電磁コイル53に励磁電流を供給することにより、スリップが発生する前に駆動力伝達装置2を作動させることが可能となる。
【0066】
また、本実施の形態によれば、車速及び操舵角に基づいて後輪191,192に伝達すべき駆動力が決定されるので、自動ブレーキが実行されるときの走行状態に応じた適切な駆動力が後輪191,192に伝達される。
【0067】
またさらに、本実施の形態によれば、走行路面の摩擦係数の推定値に応じてマップが切り換えられ、低μ路の走行時には、高μ路の走行時に比較して大きな駆動力が後輪191,192に伝達される。これにより、特に車両の挙動が不安定になりやすい低μ路の走行時において、車両の挙動の安定化が図られる。
【0068】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る制御装置6について、図6及び図7を参照して説明する。第2の実施の形態に係る制御装置6は、第1の実施の形態と同様に四輪駆動車1に搭載され、図3に示したように構成されているが、制御部61が衝突回避制御手段612として実行する処理の内容が第1の実施の形態とは異なる。具体的には、本実施の形態に係る衝突回避制御手段612は、受付手段610が第2の作動信号を受け付けたときの車速及び操舵角に基づいて基準駆動力を算出すると共に、操舵速度に応じた第1の付加駆動力及び制動力に応じた第2の付加駆動力を算出し、基準駆動力と第1及び第2の付加駆動力とを加算した駆動力が左右後輪191,192に伝達されるように駆動力伝達装置2を制御する。
【0069】
図6は、本実施の形態に係る制御装置6の制御部61が衝突回避制御手段612として実行する処理の具体例を示すフローチャートである。このフローチャートにおいて、ステップS10〜S14までの処理は図4を参照して説明した第1の実施の形態のものと同様である。
【0070】
衝突回避制御手段612は、ステップS14の判定の結果、ステップS13で取得した摩擦係数が所定値以上である場合(ステップS14:Yes)、高μ路用マップを参照して基準駆動力を算出する(ステップS15)。また、衝突回避制御手段612は、ステップS13で取得した摩擦係数が所定値未満である場合(ステップS14:No)、低μ路用マップを参照して基準駆動力を決定する(ステップS16)。この高μ路用マップ及び低μ路用マップは、第1の実施の形態において図5(a)及び(b)を参照して説明したものを用いることができる。
【0071】
次に、衝突回避制御手段612は、ステアリングホイール180の回転速度である操舵速度を演算する(ステップS17)。操舵速度は、操舵角センサ106によって検出された操舵角の時間当たりの変化量に基づいて求めることができる。また、衝突回避制御手段612は、ステップS17で求めた操舵速度に応じて第1の付加駆動力を算出する(ステップS18)。本実施の形態では、操舵速度と第1の付加駆動力との関係を示す操舵速度対応駆動力マップを参照して第1の付加駆動力を算出する。
【0072】
図7(a)は、操舵速度対応駆動力マップの一例を示す。図7(a)に示すように、操舵速度対応駆動力マップには、操舵速度が第1の所定値V未満では第1の付加駆動力がゼロであり、操舵速度が第1の所定値Vから第2の所定値Vまでの間では操舵速度に比例して第1の付加駆動力が増加し、操舵速度が第2の所定値Vを超えると第1の付加駆動力が一定値となる操舵速度と第1の付加駆動力との関係が定義されている。
【0073】
次に、衝突回避制御手段612は、ブレーキ181B,182B,191B,192Bによって左右前輪181,182及び左右後輪191,192に付与される制動力の情報を取得する(ステップS19)。この制動力の情報は、制動力の大きさを示すものであり、例えばブレーキ駆動部10におけるマスターシリンダの油圧を検出する圧力センサの検出値を用いることができる。また、四輪駆動車1の車両前後方向の加速度を検出する加速度センサの検出値を制動力の情報として用いてもよい。
【0074】
次に、衝突回避制御手段612は、ステップS19で取得した制動力の情報に基づいて、制動力に応じた第2の付加駆動力を算出する(ステップS20)。本実施の形態では、制動力と第2の付加駆動力との関係を示す制動力対応駆動力マップを参照して第2の付加駆動力を算出する。
【0075】
図7(b)は、制動力対応駆動力マップの一例を示す。図7(b)に示すように、制動力対応駆動力マップには、制動力が第1の所定値F未満では第2の付加駆動力がゼロであり、制動力が第1の所定値Fから第2の所定値Fまでの間では制動力に比例して第2の付加駆動力が増加し、制動力が第2の所定値Fを超えると第2の付加駆動力が一定値となる制動力と第2の付加駆動力との関係が定義されている。
【0076】
次に、衝突回避制御手段612は、ステップS15又はS16で算出した基準駆動力に、ステップS18で算出した第1の付加駆動力、及びステップS20で算出した第2の付加駆動力を加算して、目標駆動力(指令トルク)を算出する(ステップS21)。そして、衝突回避制御手段612は、目標駆動力に応じた励磁電流が駆動力伝達装置2の電磁コイル53に供給されるように、電流出力回路63に制御信号を出力する(ステップS22)。
【0077】
また、衝突回避制御手段612は、車速がゼロであるか(ステップS23)あるいは衝突防止装置7から解除信号を受信したか(ステップS24)を判定し、いずれかの条件が満たされた場合には(ステップS23:Yes又はステップS24:Yes)、電流出力回路63への制御信号の出力を解除する(ステップS25)。これにより、駆動力伝達装置2の電磁コイル53に励磁電流が供給されなくなり、メインクラッチ3が解放されて、後輪191,192に駆動力が伝達されなくなる。その後、衝突回避制御手段612は、図6に示すフローチャートの処理をステップS10から再度実行する。
【0078】
一方、車速がゼロでなく、かつ衝突防止装置7から解除信号を受信していない場合には(ステップS18:NoかつステップS19:No)、衝突回避制御手段612は、所定の制御周期(例えば5ms)ごとにステップS17以降の処理を再度実行する。
【0079】
なお、本実施の形態では、操舵速度に応じた第1の付加駆動力及び制動力に応じた第2の付加駆動力を算出し、基準駆動力と第1及び第2の付加駆動力とを加算した駆動力が左右後輪191,192に伝達されるように駆動力伝達装置2を制御する場合について説明したが、第1の付加駆動力の算出又は第2の付加駆動力の算出を省略してもよい。第1の付加駆動力の算出を省略する場合、図6に示すフローチャートのステップS17及びS18が省略され、ステップS20で算出された付加駆動力(第2の付加駆動力)が基準駆動力と足し合わされて目標駆動力が決定される。一方、第2の付加駆動力の算出を省略する場合、図6に示すフローチャートのステップS19及びS20が省略され、ステップS18で算出された付加駆動力(第1の付加駆動力)が基準駆動力と足し合わされて目標駆動力が決定される。
【0080】
以上説明した第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果が得られる。また、操舵速度に応じた第1の付加駆動力が目標駆動力に加算されるので、例えば運転者が衝突回避のためにステアリングホイール180を操舵した場合に後輪191,192により多くの駆動力が配分され、車両挙動を安定化させることが可能となる。またさらに、制動力に応じた第2の付加駆動力が目標駆動力に加算されるので、減速度に応じて後輪191,192により多くの駆動力が配分され、車両挙動を安定化させることが可能となる。
【0081】
(付記)
以上、本発明を第1及び第2の実施の形態に基づいて説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0082】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、駆動力伝達装置2がプロペラシャフト14とリヤディファレンシャル15との間に配置された場合について説明したが、駆動力伝達装置2の配置はこれに限らず、例えばリヤディファレンシャル15のサイドギヤ151と、後輪側のドライブシャフト171,172の何れかとの間に駆動力伝達装置2を配置してもよい。
【0083】
また、上記実施の形態では、衝突防止装置7が出力する第1の作動信号及び第2の作動信号のうち、第2の作動信号を受付手段610が受け付けたときに左右後輪191,192に駆動力が伝達されるように駆動力伝達装置2を制御する場合について説明したが、これに限らず、受付手段610が第1の作動信号を受け付けたときに左右後輪191,192に駆動力が伝達されるように駆動力伝達装置2を制御してもよい。この場合、より早い段階で四輪駆動車1の駆動状態を四輪駆動状態に移行させることができ、運転者がステアリングホイール180の操舵によって障害物を回避しようとする場合にも、車両挙動を安定化させることが可能となる。
【0084】
また、上記実施の形態では、衝突回避時指令トルクマップ623が高μ路用マップ及び低μ路用マップからなり、路面の摩擦係数に応じて高μ路用マップを参照するか低μ路用マップを参照するかを切り替える場合について説明したが、これに限らず、衝突回避時指令トルクマップ623が単一のマップからなり、路面の摩擦係数にかかわらずこの単一のマップを参照するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…四輪駆動車 11…エンジン(駆動源)
181,182…左右前輪(主駆動輪) 191,192…左右後輪(補助駆動輪)
2…駆動力伝達装置 4…カム機構
5…電磁クラッチ機構 6…制御装置
610…受付手段 612…衝突回避制御手段
7…衝突防止装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7