(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について説明する。なお、粉体(より具体的には、トナーコア、トナー母粒子、外添剤、又はトナー等)に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、その粉体に含まれる相当数の粒子について測定した値の個数平均である。
【0010】
粉体の個数平均粒子径は、何ら規定していなければ、顕微鏡を用いて測定された1次粒子の円相当径(ヘイウッド径:粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。また、粉体の体積中位径(D
50)の測定値は、何ら規定していなければ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA−750」)を用いて測定した値である。
【0011】
ガラス転移点(Tg)は、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて「JIS(日本工業規格)K7121−2012」に従って測定した値である。示差走査熱量計で測定された吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)において、ガラス転移に起因する変曲点の温度(詳しくは、ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点の温度)が、Tg(ガラス転移点)に相当する。また、軟化点(Tm)は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用いて測定した値である。高化式フローテスターで測定されたS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)において、「(ベースラインストローク値+最大ストローク値)/2」となる温度が、Tm(軟化点)に相当する。
【0012】
帯電性は、何ら規定していなければ、摩擦帯電における帯電性を意味する。摩擦帯電における正帯電性の強さ(又は負帯電性の強さ)は、周知の帯電列などで確認できる。
【0013】
材料の「主成分」は、何ら規定していなければ、質量基準で、その材料に最も多く含まれる成分を意味する。
【0014】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
【0015】
本願明細書中では、未処理のシリカ粒子(以下、「シリカ基体」と記載する)も、シリカ基体に表面処理を施して得たシリカ粒子(すなわち、表面処理されたシリカ粒子)も、「シリカ粒子」と記載する。また、表面処理剤で疎水化されたシリカ粒子を「疎水性シリカ粒子」と、表面処理剤で正帯電化されたシリカ粒子を「正帯電性シリカ粒子」と、それぞれ記載する場合がある。未処理の酸化チタン粒子(以下、「酸化チタン基体」と記載する)も、酸化チタン基体を導電層で覆った酸化チタン粒子(詳しくは、被覆層により導電性が付与された酸化チタン粒子)も、「酸化チタン粒子」と記載する。
【0016】
本実施形態に係るトナーは、例えば正帯電性トナーとして、静電潜像の現像に好適に用いることができる。本実施形態のトナーは、複数のトナー粒子(それぞれ後述する構成を有する粒子)を含む粉体である。トナーは、1成分現像剤として使用してもよい。また、混合装置(より具体的には、ボールミル等)を用いてトナーとキャリアとを混合して2成分現像剤を調製してもよい。高画質の画像を形成するためには、キャリアとしてフェライトキャリア(詳しくは、フェライト粒子の粉体)を使用することが好ましい。また、長期にわたって高画質の画像を形成するためには、キャリアコアと、キャリアコアを被覆する樹脂層とを備える磁性キャリア粒子を使用することが好ましい。キャリア粒子に磁性を付与するためには、磁性材料(例えば、フェライトのような強磁性物質)でキャリアコアを形成してもよいし、磁性粒子を分散させた樹脂でキャリアコアを形成してもよい。また、キャリアコアを被覆する樹脂層中に磁性粒子を分散させてもよい。高画質の画像を形成するためには、2成分現像剤におけるトナーの量は、キャリア100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下であることが好ましい。なお、2成分現像剤に含まれる正帯電性トナーは、キャリアとの摩擦により正に帯電する。
【0017】
トナー粒子は、コア(以下、「トナーコア」と記載する)と、トナーコアの表面に形成されたシェル層(カプセル層)とを備える。トナーコアは、結着樹脂を含有する。必要に応じて、トナーコアの結着樹脂中に内添剤(例えば、離型剤、着色剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)を分散させてもよい。シェル層は、実質的に樹脂から構成される。例えば、低温で溶融するトナーコアを、耐熱性に優れるシェル層で覆うことで、トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図ることが可能になる。シェル層を構成する樹脂中に添加剤が分散していてもよい。シェル層は、トナーコアの表面全域を覆っていてもよいし、トナーコアの表面を部分的に覆っていてもよい。シェル層の表面(又は、シェル層で覆われていないトナーコアの表面領域)に外添剤が付着していてもよい。なお、必要がなければ外添剤を割愛してもよい。シェル層を備えるトナー粒子を主に含む(例えば、80個数%以上の割合で含む)トナー中に、シェル層を備えないトナー粒子が混じっていてもよい。以下、外添剤が付着する前のトナー粒子を、「トナー母粒子」と記載する。また、シェル層を形成するための材料を、「シェル材料」と記載する。
【0018】
本実施形態に係るトナーは、例えば電子写真装置(画像形成装置)において画像の形成に用いることができる。以下、電子写真装置による画像形成方法の一例について説明する。
【0019】
まず、電子写真装置の像形成部(例えば、帯電装置及び露光装置)が、画像データに基づいて感光体(例えば、感光体ドラムの表層部)に静電潜像を形成する。続けて、電子写真装置の現像装置(詳しくは、トナーを含む現像剤が充填された現像装置)が、トナーを感光体に供給して、感光体に形成された静電潜像を現像する。トナーは、感光体に供給される前に、現像装置内のキャリア、現像スリーブ、又はブレードとの摩擦により帯電する。例えば、正帯電性トナーは正に帯電する。現像工程では、感光体の近傍に配置された現像スリーブ(例えば、現像装置内の現像ローラーの表層部)上のトナー(詳しくは、帯電したトナー)が感光体に供給され、供給されたトナーが感光体の静電潜像に付着することで、感光体上にトナー像が形成される。現像工程で消費されたトナーの量に対応する量のトナーが、補給用トナーを収容するトナーコンテナから現像装置へ補給される。
【0020】
続く転写工程では、電子写真装置の転写装置が、感光体上のトナー像を中間転写体(例えば、転写ベルト)に転写した後、さらに中間転写体上のトナー像を記録媒体(例えば、紙)に転写する。その後、電子写真装置の定着装置(定着方式:加熱ローラー及び加圧ローラーによるニップ定着)がトナーを加熱及び加圧して、記録媒体にトナーを定着させる。その結果、記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色のトナー像を重ね合わせることで、フルカラー画像を形成することができる。転写工程の後、感光体上に残ったトナーは、クリーニング部材(例えば、クリーニングブレード)により除去される。なお、転写方式は、感光体上のトナー像を、中間転写体を介さず、記録媒体に直接転写する直接転写方式であってもよい。
【0021】
本実施形態に係るトナーは、次に示す構成(以下、「基本構成」と記載する)を有する。
【0022】
(トナーの基本構成)
トナーが、トナー母粒子と、トナー母粒子の表面に付着した外添剤とを備えるトナー粒子を、複数含む。トナー母粒子は、複合コアと、複合コアの表面を覆うシェル層とを備える。複合コアは、トナーコアと、それぞれトナーコアの表面に付着した複数のナノセルロース粒子との複合体である。複数のナノセルロース粒子はそれぞれ、セルロースナノファイバー粒子及びセルロースナノクリスタル粒子からなる群より選択される1種以上のナノセルロース粒子である。複数のナノセルロース粒子において、ナノセルロース粒子の幅は数平均で20nm以上50nm以下であり、ナノセルロース粒子の長さは数平均で500nm以下である。以下、セルロースナノファイバー粒子を「CNF粒子」と、セルロースナノファイバー粉体(すなわち、CNF粒子の粉体)を「CNF粉体」と、それぞれ記載する場合がある。また、セルロースナノクリスタル粒子を「CNC粒子」と、セルロースナノクリスタル粉体(すなわち、CNC粒子の粉体)を「CNC粉体」と、それぞれ記載する場合がある。
【0023】
上記基本構成において、粒子の「幅」及び「長さ」はそれぞれ、粒子の2次元投影像(詳しくは、SEM写真)に基づいて測定された値である。粒子の「長さ」は、粒子の長軸の長さ(長軸径)であり、より具体的には、その粒子を挟む2本の平行線の間隔が最大となる粒子の幅に相当する。粒子の「幅」は、粒子の短軸の長さ(短軸径)であり、より具体的には、長軸の中点を通り、かつ、長軸に対して直交する直線上で、測定される粒子の幅に相当する。なお、「アスペクト比」は、長さ(長軸径)を幅(短軸径)で除した値(=長軸径/短軸径)に相当する。
【0024】
セルロースは、水素結合して結晶化すると、ナノセルロース(詳しくは、太さ1nm以上100nm以下の微細なセルロース繊維)になり、非常に高い強度を示すようになる。ナノセルロースは、分子構造中に多くの水酸基を有する。セルロースナノファイバーは、セルロース原料(例えば、木材)から、機械的処理(より具体的には、ビーズミルによる粉砕処理等)又は化学的処理(より具体的には、TEMPO触媒酸化、カルボキシメチル化、又はカチオン化等)などで抽出されたナノセルロースである。セルロースナノクリスタルは、セルロース原料(例えば、木材)を高濃度の鉱酸(例えば、塩酸、硫酸、又は臭化水素酸のような強酸)を用いて、非結晶部分を加水分解させて除去し、結晶部分のみを単離したナノセルロースである。
【0025】
本願発明者は、ナノセルロースの寸法を調整することで、ナノセルロース(詳しくは、CNF粉体及びCNC粉体)をトナーコアの表面に均一に付着させることができることを見出した。詳しくは、本願発明者は、前述の基本構成で規定される粒子幅と粒子長さとを有するナノセルロース粉体(CNF粉体及び/又はCNC粉体)をトナーコアの表面に均一に付着させることに成功した。こうしたナノセルロース粉体は、トナーの帯電性及び定着性を向上させるように作用する。詳しくは、長さが十分短くて適切な幅を有するナノセルロース粒子(詳しくは、数平均幅20nm以上50nm以下かつ数平均長さ500nm以下のナノセルロース粒子)が、トナーコアの表面に存在することで、シェル層の下地に適度な凹凸が形成され、トナー母粒子の表面にも、対応した凹凸が形成される。こうした凹凸がトナー母粒子の表面に形成されることで、トナーの流動性は向上する。また、トナー母粒子の表面の凹凸は、摩擦によるトナー粒子の帯電を促進し、トナーの帯電性を向上させる傾向がある。また、ナノセルロース粒子がシェル層を歪ませることで、定着工程でシェル層が破壊され易くなる。その結果、トナーの低温定着性が向上すると考えられる。また、定着工程でトナー母粒子が加熱されてトナー母粒子が溶けた場合に、トナー母粒子の表面に存在するCNF粒子及び/又はCNC粒子がトナー母粒子同士の溶けつながりを促進するように作用する。こうしたCNF粒子及び/又はCNC粒子の作用により、紙にトナーが定着し易くなる。なお、シェル層を良好な被覆状態にするためには、トナーコアの表面に存在するナノセルロース粉体に関して、ナノセルロース粒子の長さが数平均で50nm以上であり、かつ、ナノセルロース粒子のアスペクト比が数平均で2.0以上であることが特に好ましい。
【0026】
シェル層を適度に歪ませるためには、ナノセルロース粉体の量が、トナーコア100質量部に対して1.0質量部以上2.0質量部以下であることが好ましい。トナーコアの表面に存在する過剰なナノセルロース粉体は、トナーの定着を阻害する傾向がある。また、優れた定着性を有するトナーを得るためには、トナーコアの内部にはナノセルロース(すなわち、内添剤としてのナノセルロース)が存在しないことが好ましい。トナーコアの表面におけるナノセルロース粒子の被覆率は、面積割合で40%以上80%以下であることが好ましい。
【0027】
複合コアの表面にシェル層を均一に形成するためには、前述の基本構成において、シェル層が、少なくとも下記式(1)で表される化合物を含む2種以上のビニル化合物の共重合体を含有することが好ましい。
【0029】
式(1)中、R
1は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基(直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよい)を表す。R
1が置換基を有するアルキル基を表す場合の置換基の例としては、フェニル基が挙げられる。R
1としては、水素原子、メチル基、エチル基、又はイソプロピル基が好ましく、水素原子又はメチル基が特に好ましい。例えば、2−ビニル−2−オキサゾリンでは、式(1)中のR
1が水素原子を表す。
【0030】
ビニル化合物の重合体において、ビニル化合物に由来する繰返し単位は、炭素2重結合「C=C」により付加重合していると考えられる。ビニル化合物は、ビニル基(CH
2=CH−)、又はビニル基中の水素が置換された基を有する化合物である。ビニル化合物の例としては、エチレン、プロピレン、ブタジエン、塩化ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、又はスチレンが挙げられる。
【0031】
前述の式(1)で表される化合物は、付加重合により下記式(1−1)で表される単位になって共重合体を構成する。以下、前述の式(1)で表される化合物を「化合物(1)」と記載し、下記式(1−1)で表される単位を「単位(1−1)」と記載する。
【0033】
式(1−1)中、R
1は、式(1)中のR
1と同一の基を表す。単位(1−1)は、未開環のオキサゾリン基を有する。未開環のオキサゾリン基は、環状構造を有し、強い正帯電性を示す。未開環のオキサゾリン基は、カルボキシル基、芳香族性スルファニル基、及び芳香族性水酸基と反応し易い。
【0034】
また、未開環のオキサゾリン基は、ナノセルロース粒子の表面に存在する水酸基(−OH)とも反応し得る。例えば、シェル層中の単位(1−1)がナノセルロース粒子(式(1−2)中では、R
0と表す)の水酸基と反応すると、下記式(1−2)に示すようにオキサゾリン基が開環し、ナノセルロース粒子とシェル層との間に化学的な結合(詳しくは、共有結合)が形成される。こうした結合が形成されることで、ナノセルロース粒子とシェル層との結合が強固になり、薄いシェル層を複合コアの表面に均一に形成し易くなる。以下、下記式(1−2)で表される単位を「単位(1−2)」と記載する。
【0036】
シェル層は、単位(1−1)と単位(1−2)とを含むことが好ましい。単位(1−2)は、ナノセルロース粒子の表面に存在する官能基との反応により開環しているオキサゾリン基を含む。式(1−2)中、R
1は、式(1−1)中のR
1と同一の基を表し、R
0は、ナノセルロース粒子を表す。
【0037】
未開環のオキサゾリン基は、架橋性と正帯電性とを併せ持つ。このため、単位(1−1)と単位(1−2)とを含む樹脂でシェル層を形成することにより、優れた正帯電性と十分な耐ストレス性とを有するトナー粒子が得られる。
【0038】
前述の基本構成において、シェル層が、少なくとも化合物(1)を含む2種以上のビニル化合物の共重合体を含有する場合には、トナーコアが、ポリエステル樹脂を含有することが特に好ましい。シェル層中の単位(1−1)がポリエステル樹脂のカルボキシル基と反応することで、オキサゾリン基が開環し、トナーコアとシェル層との間に化学的な結合(詳しくは、共有結合)を形成することができる。こうした結合が形成されることで、トナーコアとシェル層との結合が強固になり、薄いシェル層を複合コアの表面に均一に形成し易くなる。また、セルロースナノファイバーとセルロースナノクリスタルとはそれぞれ、ポリエステル樹脂との親和性が強い。このため、定着工程におけるトナー母粒子同士の溶けつながりが、CNF粒子及び/又はCNC粒子によって促進され易くなる。
【0039】
十分なトナーの流動性及び帯電性を確保するためには、前述の基本構成において、トナー粒子が、個数平均1次粒子径5nm以上30nm以下のシリカ粒子を含む外添剤を備え、シェル層の厚さが1nm以上15nm以下であり、トナー母粒子の表面では、ナノセルロース粒子と、ナノセルロース粒子上のシェル層とが、ナノセルロース粒子が存在する位置に凸部を形成していることが好ましい。粒子径の小さいシリカ粒子(詳しくは、個数平均1次粒子径5nm以上30nm以下のシリカ粒子)は、トナーに流動性を付与し易い。しかし、粒子径の小さいシリカ粒子は、外力によりトナー母粒子中へ埋没し易い。トナーコアの表面に存在するナノセルロース粒子を薄いシェル層(詳しくは、厚さ1nm以上15nm以下のシェル層)で覆うことにより、ナノセルロース粒子の存在する位置でシェル層が凸状に変形する。こうしたシェル層の変形により、トナー母粒子の表面に凸部が形成される。詳しくは、ナノセルロース粒子と、ナノセルロース粒子上のシェル層とが、トナー母粒子の表面におけるナノセルロース粒子が存在する位置に凸部を形成する。例えば、トナー母粒子(粉体)と外添剤(粉体)とを一緒に攪拌することで、トナー母粒子の表面に外添剤粒子を付着させることができる。こうした方法でトナー母粒子の表面に外添剤粒子を付着させる場合、粒子径の小さい外添剤粒子は、トナー母粒子の表面の平らな領域(詳しくは、凸部が形成されていない領域)に付着する傾向がある。凸部の存在によって、平らな領域に存在する外添剤粒子(特に、粒子径の小さい外添剤粒子)にストレスが加わりにくくなり、トナー母粒子中への外添剤粒子の埋没が抑制される。
【0040】
シェル層の厚さは、市販の画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いてトナー粒子の断面のTEM(透過型電子顕微鏡)撮影像を解析することによって計測できる。なお、1つのトナー粒子においてシェル層の厚さが均一でない場合には、均等に離間した4箇所(詳しくは、トナー粒子の断面の略中心で直交する2本の直線を引き、それら2本の直線がシェル層と交差する4箇所)の各々でシェル層の厚さを測定し、得られた4つの測定値の算術平均を、そのトナー粒子の評価値(シェル層の厚さ)とする。シェル層の厚さは、トナーコアとシェル層との界面にナノセルロース粒子が存在しない領域においては、トナーコアの表面からシェル層の表面までの寸法に相当し、トナーコアとシェル層との界面にナノセルロース粒子が存在する領域においては、ナノセルロース粒子の表面からシェル層の表面までの寸法に相当する。なお、TEM撮影像において複合コアとシェル層との境界が不明瞭である場合には、TEMと電子エネルギー損失分光法(EELS)とを組み合わせて、TEM撮影像中で、シェル層に含まれる特徴的な元素のマッピングを行うことで、複合コアとシェル層との境界を明確にすることができる。
【0041】
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、複合コアの表面におけるシェル層の被覆率が面積割合で80%以上100%以下であることが好ましい。シェル層の被覆率(単位:%)は、式「シェル層の被覆率=100×(コア被覆領域の面積)/(複合コアの表面領域の面積)」で表される。式中、「複合コアの表面領域の面積」は、コア被覆領域の面積とコア露出領域の面積との合計に相当する。「コア被覆領域」は、複合コアの表面領域のうちシェル層が覆う領域に、「コア露出領域」は、複合コアの表面領域のうちシェル層で覆われていない領域に、それぞれ相当する。シェル層の被覆率が100%であることは、複合コアの表面全域がシェル層で覆われていることを意味する。シェル層の被覆率は、例えば、電界放射型走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM−7600F」)で撮影したトナー粒子(例えば、予め染色されたトナー粒子)の画像を解析することで測定できる。複合コアの表面におけるコア被覆領域とそれ以外の領域(コア露出領域)とは、例えば輝度値の違いにより区別できる。
【0042】
以下、
図1を参照して、前述の基本構成を有するトナーに含まれるトナー粒子の一例について説明する。
図1は、トナー粒子の表面を示している。
【0043】
図1に示されるトナー粒子は、トナー母粒子と、それぞれトナー母粒子の表面に付着した複数のシリカ粒子14(外添剤)とを備える。複数のシリカ粒子14の個数平均1次粒子径は、例えば5nm以上30nm以下である。トナー母粒子は、複合コアと、複合コアの表面を覆うシェル層12とを備える。複合コアは、トナーコア11と、それぞれトナーコア11の表面に付着した複数のナノセルロース粒子13との複合体である。複数のナノセルロース粒子13はそれぞれ、トナーコア11とシェル層12との界面に存在する。複数のナノセルロース粒子13はそれぞれ、例えばセルロースナノファイバー粒子である。複数のナノセルロース粒子13において、ナノセルロース粒子13の幅は数平均で20nm以上50nm以下であり、ナノセルロース粒子13の長さは数平均で500nm以下である。複数のナノセルロース粒子13はそれぞれ、その長軸がトナーコア11の表面に対して略平行になった状態で、トナーコア11の表面に固定されている。
【0044】
シェル層12は、例えば厚さ1nm以上15nm以下の樹脂膜である。トナーコア11の表面に存在するナノセルロース粒子13をシェル層12が覆うことにより、シェル層12はナノセルロース粒子13が存在する位置で凸状に変形している。トナー母粒子の表面領域のうち、シェル層12の下にナノセルロース粒子13が存在する領域R2は、シェル層12の下にナノセルロース粒子13が存在しない領域R1よりも高くなっている。トナー母粒子の表面は、平らな領域R1と、凸状に隆起した領域R2とを有する。領域R1は、凸部が形成されていない領域に相当する。領域R1に対する領域R2の凸部の高さは、例えば35nm以上60nm以下である。領域R1に付着しているシリカ粒子14の量は、領域R2に付着しているシリカ粒子14の量よりも多いことが好ましい。
【0045】
生産性の観点からは、前述の基本構成において、ナノセルロース粉体がセルロースナノファイバー粒子のみを含むことが好ましい。また、画像形成に適したトナーを得るためには、セルロースナノファイバー粒子の主成分が、漂白針葉樹パルプのTEMPO酸化物であることが好ましい。
【0046】
CNF粉体を作製するための第1の方法としては、TEMPO触媒酸化法のような化学的な方法が挙げられる。TEMPO(2,2,6,6−TEtraMethylPiperidine−1−Oxylradical)触媒でセルロース繊維を酸化させて、粒子間に静電的な反発力を生じさせることで、弱い外力で微細な針状ナノセルロース粒子を得ることが可能になる。
【0047】
CNF粉体を作製するための第2の方法としては、物理的な方法による解繊が挙げられる。物理的な方法としては、例えば、高圧ホモジナイザー法、マイクロフリュイダイザー法、グラインダー磨砕法、強せん断力混練法、又はボールミル粉砕法が好ましい。例えば、摩擦するメディア(例えば、ビーズ)の隙間を通過させることで、繊維を解繊することができる。また、高速回転している石臼で挟むことによっても、繊維を解繊することができる。
【0048】
CNF粉体を作製するための第3の方法としては、電界紡糸法のような電気的な方法が挙げられる。例えば、繊維を溶かした溶液をシリンジに入れて、シリンジの針先に対向するように金属板(コレクター電極)を置く。そして、シリンジの針先と金属板との間に高電圧を印加すると、シリンジの針先から金属板に向かって溶液が飛翔し、金属板に針状ナノセルロース粒子が付着する。溶液中の溶媒は、飛翔中に揮発して、針状ナノセルロース粒子だけが金属板上に残る。
【0049】
CNF粉体を作製するための第4の方法としては、微生物を利用した生物的な方法が挙げられる。例えば、酢酸菌はセルロース繊維を分泌し、セルロースゲル(ペリクル)をつくる。酢酸菌を利用すれば、セルロースのリボン状繊維を生成できる。また、酵素分解を利用することで、セルロース繊維を微細化することが可能になる。
【0050】
前述の基本構成で規定される粒子幅と粒子長さとを有するCNF粉体を得るための方法としては、TEMPO触媒酸化法とボールミル粉砕法とを組み合わせた方法が特に好ましい。詳しくは、TEMPO触媒酸化法によって得たCNF粉体を、ボールミル粉砕法により細かく粉砕することで、前述の基本構成で規定される粒子幅と粒子長さとを有するCNF粉体が得られる。TEMPOの使用量に基づいて容易にCNF粉体の粒子幅を制御できる。詳しくは、TEMPOの使用量を増やすほど、針状ナノセルロース粒子の幅が小さくなる傾向がある。また、ボールミル粉砕におけるメディアの量及び処理時間に基づいて容易にCNF粉体の粒子長さを制御できる。詳しくは、メディアの量を多くするほど、また、処理時間(粉砕時間)を長くするほど、針状ナノセルロース粒子の長さが短くなる傾向がある。
【0051】
トナーコアは、例えば粉砕法又は凝集法により作製できる。これらの方法は、トナーコアの結着樹脂中に内添剤を良好に分散させ易い。
【0052】
粉砕法の一例では、まず、結着樹脂、着色剤、電荷制御剤、及び離型剤を混合する。続けて、得られた混合物を、溶融混練装置(例えば、1軸又は2軸の押出機)を用いて溶融混練する。続けて、得られた溶融混練物を粉砕し、得られた粉砕物を分級する。これにより、所望の粒子径を有するトナーコアが得られる。
【0053】
凝集法の一例では、まず、結着樹脂、離型剤、及び着色剤の各々の微粒子を含む水性媒体中で、これらの微粒子を所望の粒子径になるまで凝集させる。これにより、結着樹脂、離型剤、及び着色剤を含む凝集粒子が形成される。続けて、得られた凝集粒子を加熱して、凝集粒子に含まれる成分を合一化させる。これにより、所望の粒子径を有するトナーコアが得られる。
【0054】
上記のようにして得たトナーコアの粉体とナノセルロース粉体とを一緒に攪拌することで、トナーコアの表面に複数のナノセルロース粒子を付着させることができる。トナーコアの粉体とナノセルロース粉体とを一緒に攪拌するための混合装置としては、日本コークス工業株式会社製のFMミキサー、日本コークス工業株式会社製のマルチパーパスミキサ、又はホソカワミクロン株式会社製のナウターミキサー(登録商標)を使用できる。トナーコアの表面に複数のナノセルロース粒子を付着させることで、複合コアが得られる。画像形成に適したトナーを得るためには、ナノセルロース粒子が、トナーコアの表面に均一に分散していることが好ましい。しかし、ナノセルロース粒子の長さが長過ぎると、ナノセルロース粒子が均一に分散しにくくなる。
【0055】
シェル層の形成方法は任意である。例えば、in−situ重合法、液中硬化被膜法、又はコアセルベーション法により、トナーコアの表面にシェル層を形成できる。
【0056】
シェル層形成時におけるトナーコア成分(特に、結着樹脂及び離型剤)の溶解又は溶出を抑制するためには、水性媒体中でシェル層を形成することが好ましい。水性媒体は、水を主成分とする媒体(より具体的には、純水、又は水と極性媒体との混合液等)である。また、複合コアの表面に均一にシェル材料を付着させるためには、シェル材料を含む水性媒体中に複合コアを高度に分散させることが好ましい。複合コアは、ナノセルロース粒子の存在により強い親水性を有し、水性媒体中に高度に分散し易い。
【0057】
画像形成に適したトナーを得るためには、トナーの体積中位径(D
50)が4μm以上9μm以下であることが好ましい。
【0058】
以下、トナー粒子の構成の好適な例について説明する。トナーコアは、結着樹脂を含有する。トナーコアは、必要に応じて、結着樹脂以外に、内添剤(例えば、離型剤、着色剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)を含有していてもよい。
【0059】
[トナーコア]
(結着樹脂)
一般に、結着樹脂は、トナーの主成分となる。磁性粉を含む磁性トナーの好適な一例では、トナーコアの約60質量%を結着樹脂が占める。磁性粉を含まない非磁性トナーの好適な一例では、トナーコアの約85質量%を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の性質がトナーコア全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。結着樹脂として複数種の樹脂を組み合わせて使用することで、結着樹脂の性質(より具体的には、水酸基価、酸価、Tg、又はTm等)を調整することができる。結着樹脂がエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有する場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなり、結着樹脂がアミノ基を有する場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。
【0060】
結着樹脂としては、ポリエステル樹脂が好ましく、ガラス転移点(Tg)40℃以上60℃以下、かつ、軟化点(Tm)70℃以上110℃以下のポリエステル樹脂が特に好ましい。
【0061】
ポリエステル樹脂は、1種以上の多価アルコールと1種以上の多価カルボン酸とを縮重合させることで得られる。ポリエステル樹脂を合成するためのアルコールとしては、例えば以下に示すような、2価アルコール(より具体的には、脂肪族ジオール類又はビスフェノール類等)又は3価以上のアルコールを好適に使用できる。ポリエステル樹脂を合成するためのカルボン酸としては、例えば以下に示すような、2価カルボン酸又は3価以上のカルボン酸を好適に使用できる。
【0062】
脂肪族ジオール類の好適な例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、α,ω−アルカンジオール(より具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、又は1,12−ドデカンジオール等)、2−ブテン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0063】
ビスフェノール類の好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0064】
3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0065】
2価カルボン酸の好適な例としては、芳香族ジカルボン酸(より具体的には、フタル酸、テレフタル酸、又はイソフタル酸等)、α,ω−アルカンジカルボン酸(より具体的には、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、又は1,10−デカンジカルボン酸等)、アルキルコハク酸(より具体的には、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、又はイソドデシルコハク酸等)、アルケニルコハク酸(より具体的には、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸等)、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、又はシクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
【0066】
3価以上のカルボン酸の好適な例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が挙げられる。
【0067】
ポリエステル樹脂(結着樹脂)としては、植物由来の1,2−プロパンジオールをアルコール成分として含むポリエステル樹脂が好ましく、植物由来の1,2−プロパンジオールと1種以上の芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸)とを含む単量体(樹脂原料)の重合物が特に好ましい。十分な環境性を確保しつつトナーの低温定着性を向上させるためには、ポリエステル樹脂(結着樹脂)のアルコール成分の60質量%以上が植物由来の1,2−プロパンジオールであることが好ましく、ポリエステル樹脂(結着樹脂)のアルコール成分の100質量%が植物由来の1,2−プロパンジオールであることが特に好ましい。
【0068】
植物由来の1,2−プロパンジオールは、例えば、化学合成、発酵法、又はこれらの方法を組み合わせた方法を用いて製造できる。植物由来の1,2−プロパンジオールを製造する方法の一例では、グルコースのような糖類を含む植物性バイオマスを加水分解してグリセリンを得る。続けて、グリセリンと水素とを反応させることにより、植物由来の1,2−プロパンジオールを得る。植物性バイオマスとしては、例えば、大豆油、ヤシ油、パーム油、ひまし油、及びカカオ油からなる群より選択される1種以上の植物性油脂を使用できる。植物性バイオマスを加水分解する方法としては、酸又は塩基を用いる化学的方法を採用してもよいし、酵素又は微生物を用いる生物的方法を採用してもよいし、他の方法を採用してもよい。
【0069】
ポリエステル樹脂の合成方法としては、触媒存在下、温度200℃以上250℃以下の条件で、副生する揮発成分を除去しながら、1種以上の多価アルコールと1種以上の多価カルボン酸とを縮重合させる方法が挙げられる。重合反応を促進するために、減圧雰囲気で樹脂原料(モノマー又はプレポリマー)の重合反応を行ってもよい。触媒の例としては、金属(より具体的には、スズ、チタン、アンチモン、マンガン、ニッケル、亜鉛、鉛、鉄、マグネシウム、カルシウム、ゲルマニウム等)、又は金属化合物(より具体的には、前述の金属の酸化物等)が挙げられる。
【0070】
また、トナーコアは、結着樹脂として、ポリエステル樹脂以外の樹脂を含有してもよい。ポリエステル樹脂以外の結着樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル酸系樹脂(より具体的には、アクリル酸エステル重合体又はメタクリル酸エステル重合体等)、オレフィン系樹脂(より具体的には、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂等)、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ビニルエーテル樹脂、N−ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、又はウレタン樹脂のような熱可塑性樹脂が好ましい。また、これら各樹脂の共重合体、すなわち上記樹脂中に任意の繰返し単位が導入された共重合体(より具体的には、スチレン−アクリル酸系樹脂又はスチレン−ブタジエン系樹脂等)も、結着樹脂として好適に使用できる。
【0071】
(着色剤)
トナーコアは、着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。画像形成に適したトナーを得るためには、着色剤の量が、結着樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0072】
トナーコアは、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。黒色着色剤として、後述する磁性粉を用いてもよい。
【0073】
トナーコアは、イエロー着色剤(より具体的には、ナフトールイエロー、モノアゾイエロー、ジアゾイエロー、ジスアゾイエロー、又はアントラキノン化合物等)、マゼンタ着色剤(より具体的には、キナクリドン化合物、ナフトール化合物、カーミン6B、又はモノアゾレッド等)、又はシアン着色剤(より具体的には、フタロシアニンブルー、又はアントラキノン化合物等)のようなカラー着色剤を含有していてもよい。
【0074】
(離型剤)
トナーコアは、離型剤を含有していてもよい。離型剤は、例えば、トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させるためには、離型剤の量が、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0075】
トナーコア中の離型剤としてはワックスが好ましい。ワックスの例としては、エステルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フッ素樹脂ワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、又はモンタンワックスが挙げられる。トナーの定着性及び耐オフセット性を向上させるためには、エステルワックスが好ましい。エステルワックスとしては、天然エステルワックス(例えば、カルナウバワックス、又はライスワックス)、又は合成エステルワックスが挙げられる。前述の基本構成を有するトナーにおいて、トナーコアが結着樹脂としてポリエステル樹脂を含有する場合には、トナーコアが、離型剤として、エステルワックス(例えば、カルナウバワックス)、又はポリエチレンワックスを含有することが特に好ましい。1種類の離型剤を単独で使用してもよいし、複数種の離型剤を併用してもよい。
【0076】
(電荷制御剤)
トナーコアは、電荷制御剤を含有していてもよい。電荷制御剤は、例えば、トナーの帯電安定性又は帯電立ち上がり特性を向上させる目的で使用される。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電可能か否かの指標になる。
【0077】
トナーコアに負帯電性の電荷制御剤(より具体的には、有機金属錯体又はキレート化合物等)を含有させることで、トナーコアのアニオン性を強めることができる。また、トナーコアに正帯電性の電荷制御剤(より具体的には、ピリジン、ニグロシン、又は4級アンモニウム塩等)を含有させることで、トナーコアのカチオン性を強めることができる。ただし、トナーにおいて十分な帯電性が確保される場合には、トナーコアに電荷制御剤を含有させる必要はない。
【0078】
(磁性粉)
トナーコアは、磁性粉を含有していてもよい。磁性粉の材料としては、例えば、強磁性金属(より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、又はこれら金属の1種以上を含む合金等)、強磁性金属酸化物(より具体的には、フェライト、マグネタイト、又は二酸化クロム等)、又は強磁性化処理が施された材料(より具体的には、熱処理により強磁性が付与された炭素材料等)を好適に使用できる。1種類の磁性粉を単独で使用してもよいし、複数種の磁性粉を併用してもよい。
【0079】
トナーコアに十分な磁性を均一に付与するためには、磁性粉の粒子径は、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。また、磁性粉からの金属イオン(例えば、鉄イオン)の溶出を抑制するためには、表面処理剤(より具体的には、シランカップリング剤又はチタネートカップリング剤等)で磁性粉(詳しくは、磁性粉に含まれる各磁性粒子の表面)を処理することが好ましい。
【0080】
[ナノセルロース粒子]
前述の基本構成を有するトナーでは、トナー粒子が、複合コアと、複合コアの表面を覆うシェル層とを備える。複合コアは、トナーコアと複数のナノセルロース粒子との複合体である。複数のナノセルロース粒子はそれぞれ、トナーコアの表面に付着している。ナノセルロース粒子としては、セルロースナノファイバー粒子及び/又はセルロースナノクリスタル粒子が特に好ましい。セルロースナノファイバー粒子及びセルロースナノクリスタル粒子はそれぞれ、表面処理(例えば、疎水化処理)されていてもよい。
【0081】
[シェル層]
シェル層は、前述の式(1)で表される1種以上のビニル化合物と、1種以上の他のビニル化合物(すなわち、化合物(1)以外のビニル化合物)との共重合体を含有することが好ましい。
【0082】
シェル層は、1種以上の化合物(1)と、1種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体(樹脂原料)の共重合体を含有することが特に好ましい。シェル層を形成するための材料としては、例えばオキサゾリン基含有高分子水溶液(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)WSシリーズ」)を使用できる。「エポクロスWS−300」及び「エポクロスWS−700」はそれぞれ、2−ビニル−2−オキサゾリンと1種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体(樹脂原料)の重合物を含む。
【0083】
他のビニル化合物としては、スチレン系モノマー及びアクリル酸系モノマーからなる群より選択される1種以上のビニル化合物が好ましい。スチレン系モノマーの好適な例としては、スチレン、アルキルスチレン(より具体的には、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、又は4−tert−ブチルスチレン等)、ヒドロキシスチレン(より具体的には、p−ヒドロキシスチレン、又はm−ヒドロキシスチレン等)、又はハロゲン化スチレン(より具体的には、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、又はp−クロロスチレン等)が挙げられる。また、アクリル酸系モノマーの好適な例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、(メタ)アクリロニトリル、又は(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0084】
例えば、他のビニル化合物が、アルキル基に置換基を有してもよいアクリル酸アルキルエステルである場合、そのアクリル酸アルキルエステルは、付加重合により、例えば下記式(2)で表される繰返し単位になって共重合体を構成する。
【0086】
式(2)中、R
2は、置換基を有してもよいアルキル基(直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよい)を表す。アルキル基としては、炭素数1以上8以下のアルキル基が好ましい。R
2が置換基を有するアルキル基を表す場合、アルキル基の置換基としては、水酸基が好ましい。R
2としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、又はヒドロキシブチル基が好ましい。
【0087】
例えば、他のビニル化合物が、置換基を有してもよいメタクリル酸アルキルエステルである場合、置換基を有してもよいメタクリル酸アルキルエステルは、付加重合により、例えば下記式(3)で表される繰返し単位になって共重合体を構成する。
【0089】
式(3)中、R
3は、置換基を有してもよいアルキル基(直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよい)を表す。アルキル基としては、炭素数1以上8以下のアルキル基が好ましい。R
3が置換基を有するアルキル基を表す場合、アルキル基の置換基としては、水酸基が好ましい。R
3としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、又はヒドロキシブチル基が好ましい。
【0090】
例えば、他のビニル化合物がスチレン系モノマーである場合、スチレン系モノマーは、付加重合により、例えば下記式(4)で表される繰返し単位になって共重合体を構成する。
【0092】
式(4)中、R
41〜R
47は、各々独立して、水素原子、又は任意の置換基を表す。R
41〜R
45としては、各々独立して、ハロゲン原子、水酸基、置換基を有してもよいアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基が好ましく、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、又は水酸基が特に好ましい。R
46及びR
47としては、各々独立して、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0093】
[外添剤]
トナー母粒子の表面に外添剤(詳しくは、複数の外添剤粒子を含む粉体)を付着させてもよい。外添剤は、内添剤とは異なり、トナー母粒子の内部には存在せず、トナー母粒子の表面(トナー粒子の表層部)のみに選択的に存在する。例えば、トナー母粒子(粉体)と外添剤(粉体)とを一緒に攪拌することで、トナー母粒子の表面に外添剤粒子を付着させることができる。トナー母粒子と外添剤粒子とは、互いに化学反応せず、化学的ではなく物理的に結合する。トナー母粒子と外添剤粒子との結合の強さは、攪拌条件(より具体的には、攪拌時間、及び攪拌の回転速度等)、外添剤粒子の粒子径、外添剤粒子の形状、及び外添剤粒子の表面状態などによって調整できる。
【0094】
外添剤粒子としては、無機粒子が好ましく、シリカ粒子、又は金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム等)の粒子が特に好ましい。ただし、外添剤粒子として、脂肪酸金属塩(より具体的には、ステアリン酸亜鉛等)のような有機酸化合物の粒子、又は樹脂粒子を使用してもよい。また、外添剤粒子として、複数種の材料の複合体である複合粒子を使用してもよい。1種類の外添剤粒子を単独で使用してもよいし、複数種の外添剤粒子を併用してもよい。
【0095】
トナーの流動性を向上させるためには、シリカ粒子を使用することが好ましい。トナーの研磨性を向上させるためには、酸化チタン粒子を使用することが好ましい。例えば、トナーの帯電性を向上させるためには、トナー母粒子の表面に存在する外添剤が、シリカ粒子及び酸化チタン粒子を含むことが好ましい。外添剤として電気抵抗の高いシリカ粒子と電気抵抗の低い酸化チタン粒子とを併用することで、シリカ粒子によって十分な電荷を発生させながら、発生した電荷を酸化チタン粒子によってトナー粒子の表面全域に均一に分散させることが可能になる。
【0096】
外添剤粒子は、表面処理されていてもよい。例えば、外添剤粒子としてシリカ粒子を使用する場合、表面処理剤によりシリカ粒子の表面に疎水性及び/又は正帯電性が付与されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、カップリング剤(より具体的には、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、又はアルミネートカップリング剤等)、シラザン化合物(例えば、鎖状シラザン化合物又は環状シラザン化合物)、又はシリコーンオイル(より具体的には、ジメチルシリコーンオイル等)を好適に使用できる。表面処理剤としては、シランカップリング剤又はシラザン化合物が特に好ましい。シランカップリング剤の好適な例としては、シラン化合物(より具体的には、メチルトリメトキシシラン又はアミノシラン等)が挙げられる。シラザン化合物の好適な例としては、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)が挙げられる。
【0097】
シリカ基体(未処理のシリカ粒子)の表面が表面処理剤で処理されると、シリカ基体の表面に存在する多数の水酸基(−OH)が部分的に又は全体的に、表面処理剤に由来する官能基に置換される。その結果、表面処理剤に由来する官能基(詳しくは、水酸基よりも疎水性及び/又は正帯電性の強い官能基)を表面に有するシリカ粒子が得られる。例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いてシリカ基体の表面を処理した場合、シランカップリング剤の水酸基(例えば、水分によりシランカップリング剤のアルコキシ基が加水分解されて生成する水酸基)がシリカ基体の表面に存在する水酸基と脱水縮合反応(「A(シリカ基体)−OH」+「B(カップリング剤)−OH」→「A−O−B」+H
2O)する。こうした反応により、アミノ基を有するシランカップリング剤とシリカとが化学結合することで、シリカ粒子の表面にアミノ基が付与されて、正帯電性シリカ粒子が得られる。より詳しくは、シリカ基体の表面に存在する水酸基が、端部にアミノ基を有する官能基(より具体的には、−O−Si−(CH
2)
3−NH
2等)に置換される。アミノ基が付与されたシリカ粒子は、シリカ基体よりも強い正帯電性を有する傾向がある。また、アルキル基を有するシランカップリング剤を用いた場合には、疎水性シリカ粒子が得られる。より詳しくは、上記脱水縮合反応により、シリカ基体の表面に存在する水酸基を、端部にアルキル基を有する官能基(より具体的には、−O−Si−CH
3等)に置換することができる。このように、親水性基(水酸基)の代わりに疎水性基(アルキル基)が付与されたシリカ粒子は、シリカ基体よりも強い疎水性を有する傾向がある。
【0098】
外添剤粒子として、導電層を備える外添剤粒子を使用してもよい。導電層は、例えばドーピングにより導電性が付与された金属酸化物(以下、ドーピング金属酸化物と記載する)の層(より具体的には、SbドープSnO
2層等)である。また、導電層は、ドーピング金属酸化物以外の導電性材料(より具体的には、金属、炭素材料、又は導電性高分子等)を含む層であってもよい。
【実施例】
【0099】
本発明の実施例について説明する。表1に、実施例又は比較例に係るトナーTA−1〜TA−5及びTB−1〜TB−8(それぞれ静電潜像現像用トナー)を示す。
【0100】
【表1】
【0101】
以下、トナーTA−1〜TA−5及びTB−1〜TB−8の製造方法、評価方法、及び評価結果について、順に説明する。なお、誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。
【0102】
[材料の準備]
(CNF粉体C−1の作製方法)
容器(第1の容器)内にイオン交換水1.5Lを入れた。その後、乾燥質量で200質量部相当の亜硫酸漂白針葉樹パルプと、TEMPO(2,2,6,6−TEtraMethylPiperidine−1−Oxylradical)1.5質量部と、臭化ナトリウム25質量部とを、容器内に加えて水中に分散させた。続けて、容器内のパルプ1gあたりの次亜塩素酸ナトリウムの量が1.5mmolとなるように、濃度13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を容器内に添加して、容器内容物を反応させた。反応中、容器内容物のpHを確認しながら、pHの変化量に応じてモル濃度0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を容器内に滴下して、容器内容物のpHを10.5に保った。容器内容物のpHが変化しなくなった時点で反応が完了したと判断し、反応生成物を含む容器内容物を、ガラスフィルターを用いて固液分離(ろ過)して、固形物(反応生成物)を得た。その後、得られた固形物を、十分な量のイオン交換水に再分散させて水洗した。分散とろ過とを合計5回繰り返した。その結果、水含浸繊維体(固形分濃度:25質量%)が得られた。
【0103】
続けて、得られた水含浸繊維体と、イオン交換水とを、上記第1の容器とは別の容器(第2の容器)内に入れて、固形分濃度2質量%のスラリーを調製した。続けて、回転刃式ミキサーを用いて、容器内容物(スラリー)に分散処理を行った。分散処理により、容器内容物(スラリー)の粘度が上昇した。分散処理中は、容器内容物(スラリー)の粘度を概ね一定に保つように容器内にイオン交換水を加えて、容器内容物(スラリー)の固形分濃度が0.15質量%になった時点で分散処理を終了した。その結果、セルロース繊維体を含む分散液(固形分濃度:0.15質量%)が得られた。分散処理時間は、約5分間であった。
【0104】
続けて、得られた分散液を、遠心分離により浮遊物と沈降物とに分けて、浮遊物を除去した。続けて、沈降物を、水洗した後、乾燥させて、乾燥したセルロース繊維体を得た。続けて、乾燥したセルロース繊維体を解砕することで、粒子幅(数平均繊維径)30nm、粒子長さ(数平均繊維長)1500nmのCNF粉体C−1(セルロースナノファイバー粒子の粉体)を得た。
【0105】
(CNF粉体C−2の作製方法)
上記のようにして得たCNF粉体C−1を20g、直径0.1mmのジルコニアビーズを500g、容量1Lのポリエチレン製容器に入れて、その容器をボールミルにセットした。そして、そのボールミルを用いて、回転速度100rpmの条件で、容器内容物に対して2時間の粉砕処理を行った。その結果、粉砕メディア(ジルコニアビーズ)によりCNF粉体C−1が粉砕されて、より微細なCNF粉体C−2(セルロースナノファイバー粒子の粉体)が得られた。メディア粉砕を行ったことで、CNF粉体C−2の粒子長さは、CNF粉体C−1の粒子長さよりも短くなった。
【0106】
(CNF粉体C−3の作製方法)
CNF粉体C−3の作製方法は、粉砕処理の時間を2時間から4時間に変更した以外は、CNF粉体C−2の作製方法と同じであった。粉砕処理の時間を長くしたことで、CNF粉体C−3の粒子長さはCNF粉体C−2の粒子長さよりも短くなった。
【0107】
(CNF粉体C−4の作製方法)
前述の手順で得たCNF粉体C−1を20g、直径0.1mmのジルコニアビーズを1500g、容量1Lのポリエチレン製容器に入れて、その容器をボールミルにセットした。そして、そのボールミルを用いて、回転速度100rpmの条件で、容器内容物に対して10時間の粉砕処理を行った。その結果、粉砕メディア(ジルコニアビーズ)によりCNF粉体C−1が粉砕されて、より微細なCNF粉体C−4(セルロースナノファイバー粒子の粉体)が得られた。CNF粉体C−3の作製方法と比べて、粉砕メディアの量を増やして、より長い時間をかけてメディア粉砕を行ったことで、CNF粉体C−4の粒子長さは、CNF粉体C−3の粒子長さよりも短くなった。
【0108】
(CNF粉体C−5の作製方法)
CNF粉体C−5の作製方法は、TEMPOの使用量を1.50質量部から1.75質量部に変更した以外は、CNF粉体C−1の作製方法と同じであった。TEMPOの使用量を増やしたことで、CNF粉体C−5の粒子幅は、CNF粉体C−1の粒子幅よりも小さくなった。
【0109】
(CNF粉体C−6の作製方法)
上記のようにして得たCNF粉体C−5を20g、直径0.1mmのジルコニアビーズを500g、容量1Lのポリエチレン製容器に入れて、その容器をボールミルにセットした。そして、そのボールミルを用いて、回転速度100rpmの条件で、容器内容物に対して4時間の粉砕処理を行った。その結果、粉砕メディア(ジルコニアビーズ)によりCNF粉体C−5が粉砕されて、より微細なCNF粉体C−6(セルロースナノファイバー粒子の粉体)が得られた。メディア粉砕を行ったことで、CNF粉体C−6の粒子長さは、CNF粉体C−5の粒子長さよりも短くなった。
【0110】
(CNF粉体C−7の作製方法)
CNF粉体C−7の作製方法は、TEMPOの使用量を1.5質量部から2.0質量部に変更した以外は、CNF粉体C−1の作製方法と同じであった。TEMPOの使用量を増やしたことで、CNF粉体C−7の粒子幅は、CNF粉体C−5の粒子幅よりも小さくなった。
【0111】
(CNF粉体C−8の作製方法)
上記のようにして得たCNF粉体C−7を20g、直径0.1mmのジルコニアビーズを500g、容量1Lのポリエチレン製容器に入れて、その容器をボールミルにセットした。そして、そのボールミルを用いて、回転速度100rpmの条件で、容器内容物に対して4時間の粉砕処理を行った。その結果、粉砕メディア(ジルコニアビーズ)によりCNF粉体C−7が粉砕されて、より微細なCNF粉体C−8(セルロースナノファイバー粒子の粉体)が得られた。メディア粉砕を行ったことで、CNF粉体C−8の粒子長さは、CNF粉体C−7の粒子長さよりも短くなった。
【0112】
(CNF粉体C−9の作製方法)
CNF粉体C−9の作製方法は、TEMPOの使用量を1.5質量部から1.1質量部に変更した以外は、CNF粉体C−1の作製方法と同じであった。TEMPOの使用量を減らしたことで、CNF粉体C−9の粒子幅は、CNF粉体C−1の粒子幅よりも大きくなった。
【0113】
(CNF粉体C−10の作製方法)
上記のようにして得たCNF粉体C−9を20g、直径0.1mmのジルコニアビーズを500g、容量1Lのポリエチレン製容器に入れて、その容器をボールミルにセットした。そして、そのボールミルを用いて、回転速度100rpmの条件で、容器内容物に対して4時間の粉砕処理を行った。その結果、粉砕メディア(ジルコニアビーズ)によりCNF粉体C−9が粉砕されて、より微細なCNF粉体C−10(セルロースナノファイバー粒子の粉体)が得られた。メディア粉砕を行ったことで、CNF粉体C−10の粒子長さは、CNF粉体C−9の粒子長さよりも短くなった。
【0114】
(CNF粉体C−11の作製方法)
CNF粉体C−11の作製方法は、TEMPOの使用量を1.5質量部から0.7質量部に変更した以外は、CNF粉体C−1の作製方法と同じであった。TEMPOの使用量を減らしたことで、CNF粉体C−11の粒子幅は、CNF粉体C−9の粒子幅よりも大きくなった。
【0115】
(CNF粉体C−12の作製方法)
上記のようにして得たCNF粉体C−11を20g、直径0.1mmのジルコニアビーズを500g、容量1Lのポリエチレン製容器に入れて、その容器をボールミルにセットした。そして、そのボールミルを用いて、回転速度100rpmの条件で、容器内容物に対して4時間の粉砕処理を行った。その結果、粉砕メディア(ジルコニアビーズ)によりCNF粉体C−11が粉砕されて、より微細なCNF粉体C−12(セルロースナノファイバー粒子の粉体)が得られた。メディア粉砕を行ったことで、CNF粉体C−12の粒子長さは、CNF粉体C−11の粒子長さよりも短くなった。
【0116】
(CNF粉体C−13の作製方法)
CNF粉体C−13の作製方法は、粉砕処理の時間を4時間から10時間に変更した以外は、CNF粉体C−12の作製方法と同じであった。粉砕処理の時間を長くしたことで、CNF粉体C−13の粒子長さはCNF粉体C−12の粒子長さよりも短くなった。
【0117】
[トナーTA−1〜TA−5及びTB−1〜TB−8の製造方法]
(トナーコアの作製)
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、精留塔、及び攪拌装置を備えた容量5Lの反応容器を油浴にセットし、その容器内に、植物由来の1,2−プロパンジオール1200gと、テレフタル酸1700gと、エステル化触媒(2−エチルヘキサン酸錫(II))3gとを入れた。続けて、油浴を用いて容器内の温度を230℃に昇温させて、窒素雰囲気かつ温度230℃の条件で、容器内容物を15時間反応(詳しくは、縮合反応)させた。続けて、容器内を減圧し、減圧雰囲気(圧力8.0kPa)かつ温度230℃の条件で、反応生成物(ポリエステル樹脂)のTmが所定の温度(90℃)になるまで、容器内容物を反応させた。その結果、Tm90℃のポリエステル樹脂が得られた。
【0118】
結着樹脂(上記のようにして得たポリエステル樹脂)80質量部と、離型剤(融点73℃のエステルワックス:日油株式会社製「ニッサンエレクトール(登録商標)WEP−3」)9質量部と、カーボンブラック(三菱化学株式会社製「MA100」)9質量部とを、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−20B」)を用いて回転速度2000rpmの条件で4分間混合した。
【0119】
続けて、得られた混合物を、二軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて、軸回転速度150rpm、設定温度範囲(シリンダー温度)100℃、処理速度100g/分の条件で溶融混練した。続けて、得られた溶融混練物を冷却した。続けて、冷却された溶融混練物を、粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製「ロートプレックス(登録商標)」)を用いて、設定粒子径2mmの条件で粗粉砕した。さらに、得られた粗粉砕物を、粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製「ターボミル RS型」)を用いて微粉砕した。続けて、得られた微粉砕物を、分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて分級した。その結果、体積中位径(D
50)6.7μm、Tm90℃、Tg49℃のトナーコアが得られた。
【0120】
(コア外添)
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−10C」)を用いて、上記のようにして得たトナーコア100質量部と、表1に示す種類のCNF粉体(各トナーに定められたCNF粉体C−1〜C−13のいずれか)1.5質量部とを、5分間混合した。例えば、トナーTA−1の製造では、CNF粉体C−3を使用した。
【0121】
このタイミングでの外添処理(詳しくは、トナーコアとCNF粉体との混合)が、「コア外添」に相当する。コア外添により、トナーコアの表面にCNF粒子が付着した。その結果、複合コア(詳しくは、表面にCNF粒子が付着したトナーコア)が得られた。
【0122】
(シェル層形成工程)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットし、フラスコ内にイオン交換水300gを入れた。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃に保った。続けて、オキサゾリン基含有高分子水溶液(株式会社日本触媒製「エポクロスWS−300」、固形分濃度:10質量%)30gをフラスコ内に加えた後、フラスコ内容物を十分攪拌した。
【0123】
続けて、フラスコ内に、前述の手順で作製した複合コア300gを添加し、回転速度200rpmでフラスコ内容物を1時間攪拌した。その後、フラスコ内にイオン交換水300gを添加した。
【0124】
続けて、濃度1質量%アンモニア水溶液6mLをフラスコ内に添加した。続けて、回転速度150rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、フラスコ内の温度を0.5℃/分の速度で60℃まで昇温させた。続けて、回転速度100rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、その温度(60℃)に1時間保った。これにより、複合コアの表面に、厚さ約5nmのシェル層が形成された。
【0125】
続けて、フラスコ内に濃度1質量%アンモニア水溶液を加えて、フラスコ内容物のpHを7に調整した。続けて、フラスコ内容物をその温度が常温(約25℃)になるまで冷却して、トナー母粒子を含む分散液を得た。
【0126】
(洗浄工程)
上記のようにして得られたトナー母粒子の分散液を、ブフナー漏斗を用いてろ過(固液分離)して、ウェットケーキ状のトナー母粒子を得た。その後、得られたウェットケーキ状のトナー母粒子をイオン交換水に再分散させた。さらに、分散とろ過とを5回繰り返して、トナー母粒子を洗浄した。
【0127】
(乾燥工程)
続けて、得られたトナー母粒子を、濃度50質量%のエタノール水溶液に分散させた。これにより、トナー母粒子のスラリーが得られた。続けて、連続式表面改質装置(フロイント産業株式会社製「コートマイザー(登録商標)」)を用いて、熱風温度45℃かつブロアー風量2m
3/分の条件で、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させた。その結果、トナー母粒子の粉体が得られた。
【0128】
(シェル外添)
続けて、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−10C」)を用いて、上記のようにして得たトナー母粒子100質量部と、正帯電性シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)REA90」、内容:表面処理により正帯電性が付与された乾式シリカ粒子、個数平均1次粒子径:20nm)1.5質量部と、導電性酸化チタン粒子(チタン工業株式会社製「EC−100」、基体:TiO
2粒子、被覆層:SbドープSnO
2、体積中位径:約0.35μm)1.5質量部とを、5分間混合した。このタイミングでの外添処理(詳しくは、トナー母粒子と外添剤との混合)が、「シェル外添」に相当する。シェル外添により、トナー母粒子の表面に外添剤(詳しくは、シリカ粒子及び酸化チタン粒子)が付着した。その後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別を行った。その結果、多数のトナー粒子を含むトナー(トナーTA−1〜TA−5及びTB−1〜TB−8)が得られた。
【0129】
上記のようにして得られたトナーTA−1〜TA−5及びTB−1〜TB−8に関して、CNF粉体の粒子幅及び粒子長さを測定した結果は、表1に示すとおりであった。表1中の「粒子幅」及び「粒子長さ」はそれぞれ、数平均値(単位:nm)を示している。電界放出形走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(日本電子株式会社製「JSM−7600F」)を用いてトナー粒子の表面を撮影して得たSEM撮影像を、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いて解析することによって、トナー母粒子の表面に存在するCNF粉体の粒子幅及び粒子長さをそれぞれ測定した。例えば、トナーTA−1では、トナー母粒子の表面に存在するCNF粉体において、CNF粒子の幅は数平均で29nmであり、CNF粒子の長さは数平均で300nmであった。
【0130】
[評価方法]
各試料(トナーTA−1〜TA−5及びTB−1〜TB−8)の評価方法は、以下のとおりである。
【0131】
(シェル被覆状態)
トナー(評価対象:トナーTA−1〜TA−5及びTB−1〜TB−8のいずれか)に含まれるトナー粒子について、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(日本電子株式会社製「JSM−7600F」)を用いてシェル層の被覆状態を確認した。
【0132】
下記基準により、シェル層の被覆状態を評価した。
○(良い):トナーコアの表面に存在するナノセルロース粒子をシェル層が覆うことにより、シェル層はナノセルロース粒子が存在する位置で凸状に変形していた。
×(悪い):トナーコアの表面に存在するナノセルロース粒子をシェル層が十分に覆えておらず、シェル層からナノセルロース粒子が部分的に露出していた。
【0133】
(評価用現像剤の調製)
現像剤用キャリア(「TASKalfa5551ci」用キャリア)100質量部と、トナー(評価対象:トナーTA−1〜TA−5及びTB−1〜TB−8のいずれか)5質量部とを、ボールミルを用いて30分間混合して、評価用現像剤(2成分現像剤)を調製した。
【0134】
(耐刷試験)
評価機としては、複合機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「TASKalfa5551ci」)を用いた。上述のようにして調製した評価用現像剤を評価機の現像装置に投入し、補給用トナー(評価対象:トナーTA−1〜TA−5及びTB−1〜TB−8のいずれか)を評価機のトナーコンテナに投入した。
【0135】
温度23℃かつ湿度50%RHの環境下において、上記評価機を用いて、印字率5%で10万枚の紙(A4サイズの普通紙)に連続印刷を行う耐刷試験を行った。
【0136】
(ID維持性)
上記耐刷試験の前及び後(初期及び耐刷試験後)の各タイミングで、上記評価機を用いて、ソリッド部と空白部とを含むサンプル画像を記録媒体(評価用紙)に形成した。記録媒体に形成された画像のソリッド部の画像濃度(ID)を、反射濃度計(X−Rite社製「RD914」)を用いて測定した。測定された画像濃度(ID)に基づき、次の式に従って画像濃度の変化率(ID変化率)を求めた。
ID変化率=100×|初期のID−耐刷試験後のID|/初期のID
【0137】
測定されたID変化率の評価基準は次のとおりであった。なお、ID変化率の最低値は0%である。
○(良い):ID変化率が20%未満であった。
×(良くない):ID変化率が20%以上であった。
【0138】
(耐かぶり性)
前述の耐刷試験後、上記評価機を用いて、ソリッド部と空白部とを含むサンプル画像を記録媒体(評価用紙)に印刷した。そして、反射濃度計(X−Rite社製「SpectroEye(登録商標)」)を用いて、印刷された記録媒体におけるサンプル画像の空白部と、印刷していないベースペーパー(未印刷紙)との各々について、反射濃度を測定した。そして、次の式に基づいて、かぶり濃度(FD)を算出した。
FD=(空白部の反射濃度)−(未印刷紙の反射濃度)
【0139】
かぶり濃度(FD)が0.010以下であれば○(良い)と評価し、かぶり濃度(FD)が0.010を超えていれば×(良くない)と評価した。
【0140】
[評価結果]
トナーTA−1〜TA−5及びTB−1〜TB−8の各々について、シェル被覆状態、ID維持性、及び耐かぶり性を評価した結果を、表2に示す。なお、シェル被覆状態の評価結果が悪かったトナーに関しては、ID維持性及び耐かぶり性の各々の評価を行わなかった。シェル被覆状態が悪いトナーでは、耐熱保存性が悪くなるだけでなく、画像形成のために必要な帯電量を確保することが難しくなる。また、シェル被覆状態が悪いトナーでは、シェル層もセルロースナノファイバー粒子もトナー母粒子から脱離し易かった。
【0141】
【表2】
【0142】
トナーTA−1〜TA−5(実施例1〜5に係るトナー)はそれぞれ、前述の基本構成を有していた。詳しくは、トナーTA−1〜TA−5はそれぞれ、トナー母粒子と、トナー母粒子の表面に付着した外添剤とを備えるトナー粒子を、複数含んでいた。トナー母粒子は、複合コアと、複合コアの表面を覆うシェル層とを備えていた。複合コアは、トナーコアと、それぞれトナーコアの表面に付着した複数のナノセルロース粒子(詳しくは、セルロースナノファイバー粒子)との複合体であった。複数のナノセルロース粒子(詳しくは、複数のセルロースナノファイバー粒子)において、ナノセルロース粒子の幅は数平均で20nm以上50nm以下であり、ナノセルロース粒子の長さは数平均で500nm以下であった(表1参照)。
【0143】
表2に示されるように、トナーTA−1〜TA−5の各々に関しては、シェル被覆状態、ID維持性、及び耐かぶり性の各々の評価結果が良かった。
【0144】
トナーTB−1及びTB−3〜TB−6(比較例1及び3〜6に係るトナー)の各々では、複合コアの表面をシェル層で適切に被覆できなかった。この理由は、ナノセルロース粒子の長さが長過ぎたからであると考えられる。
【0145】
トナーTB−2、TB−7、及びTB−8(比較例2、7、及び8に係るトナー)の各々のID維持性の評価においては、耐刷試験後のIDが初期のIDと比べて大幅に小さくなった。トナーTB−8の評価では、耐刷試験によりシリカ粒子(外添剤)がトナー母粒子中へ埋没した。
【0146】
なお、針状ナノセルロース粒子として、セルロースナノファイバー粒子に代えて、セルロースナノクリスタル粒子を使用した場合にも、同様の評価結果となった。すなわち、トナーコアの表面に存在するCNC粉体において、セルロースナノクリスタル粒子の幅が数平均で20nm以上50nm以下であり、かつ、セルロースナノクリスタル粒子の長さが数平均で500nm以下であるトナーは、こうした要件(粒子幅及び粒子長さに係る要件)を満たさないトナーよりも、シェル被覆状態、ID維持性、及び耐かぶり性の各々の評価結果が良かった。