【実施例】
【0076】
以下に、実施例および比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
以下のとおり、実施例1のAl含有シリコン材料及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0078】
a)工程
Ca、Al及びSiを炭素坩堝に秤量した。Ca及びSiの元素組成比は1:2であり、Alの添加量はCa、Al及びSiの全体の質量に対して1%とした。アルゴンガス雰囲気下の高周波誘導加熱装置にて、炭素坩堝を1300℃付近で加熱してCa、Al及びSiを含む溶湯とした。前記溶湯を所定の鋳型に注湯することで冷却して固体とした。当該固体を粉砕して粉末状にした後に、b)工程に供した。
【0079】
b)工程
窒素ガス雰囲気下にて、0℃の17wt%塩酸に、a)工程で得られた粉末状の固体を加え、撹拌した。反応液を濾過し、残渣を蒸留水及びメタノールで洗浄し、さらに、室温で減圧乾燥してAl含有シリコン材料の前駆体を得た。
【0080】
c)工程
Al含有シリコン材料の前駆体を、窒素ガス雰囲気下、900℃で1時間加熱して、実施例1のAl含有シリコン材料を製造した。
【0081】
実施例1のAl含有シリコン材料を用いて、以下のとおり、実施例1の負極及び実施例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0082】
重量平均分子量80万のポリアクリル酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、ポリアクリル酸が10質量%で含有されるポリアクリル酸溶液を製造した。また、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.2g(1.0mmol)を0.4mLのN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液を製造した。撹拌条件下、ポリアクリル酸溶液7mL(アクリル酸モノマー換算で、9.5mmolに該当する。)に、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液の全量を滴下して、得られた混合物を室温で30分間撹拌した。その後、ディーンスターク装置を用いて、混合物を130℃で3時間撹拌して脱水反応を進行させることで、結着剤溶液を製造した。
【0083】
負極活物質として実施例1のAl含有シリコン材料72.5質量部、導電助剤としてアセチレンブラック13.5質量部、結着剤として固形分が14質量部となる量の上記結着剤溶液、及び、適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を80℃、15分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、プレスし、真空ポンプによる減圧雰囲気で180℃、30分加熱することで、負極活物質層が形成された実施例1の負極を製造した。
【0084】
正極活物質としてLiNi
82/100Co
15/100Al
3/100O
2を96質量部、導電助剤としてアセチレンブラック2質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン2質量部、及び適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、プレスし、真空ポンプによる減圧雰囲気で120℃、6時間加熱することで、正極活物質層が集電体の表面に形成された正極を製造した。
【0085】
セパレータとして、ポリエチレン製多孔質膜を準備した。また、フルオロエチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比19:81で混合した混合溶媒に、LiPF
6を濃度2mol/Lで溶解した溶液を、電解液とした。
【0086】
実施例1の負極、セパレータ、正極の順に積層して、積層体とした。この積層体及び電解液をラミネートフィルム製の袋に収容して、袋を密閉し、実施例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0087】
(比較例1)
a)工程において、Alを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1のシリコン材料、比較例1の負極、比較例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0088】
(評価例1)
誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)を用いて、実施例1のAl含有シリコン材料と、比較例1のシリコン材料の元素分析を行った。元素分析の結果、実施例1のAl含有シリコン材料におけるAl質量%は0.25%、Fe質量%は0%であり、比較例1のシリコン材料におけるAl質量%は0%、Fe質量%は0%であった。
【0089】
(評価例2)
25℃の恒温層中で、実施例1のリチウムイオン二次電池をSOC(State of Charge)15%に調整した。そして、1Cレートの一定電流で、当該リチウムイオン二次電池を10秒間放電させた。放電前後の電圧の変化量を、電流値で除して、抵抗を算出した。比較例1のリチウムイオン二次電池についても同様の試験を行った。
実施例1のリチウムイオン二次電池の抵抗は3.3Ωであり、比較例1のリチウムイオン二次電池の抵抗は3.6Ωであった。Al含有シリコン材料を用いることで、リチウムイオン二次電池の抵抗が低下することが裏付けられた。
【0090】
(実施例2)
以下のとおり、実施例2のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0091】
a)工程
Ca、Al及びSiを炭素坩堝に秤量した。Ca及びSiの元素組成比は1:2であり、Alの添加量はCa、Al及びSiの全体の質量に対して1%とした。アルゴンガス雰囲気下の高周波誘導加熱装置にて、炭素坩堝を1300℃付近で加熱してCa、Al及びSiを含む溶湯とした。前記溶湯を所定の鋳型に注湯して冷却して固体とした。当該固体を粉砕して粉末状にした後に、b)工程に供した。
【0092】
b)工程
窒素ガス雰囲気下にて、0℃の17wt%塩酸に、a)工程で得られた粉末状の固体を加え、撹拌した。反応液を濾過し、残渣を蒸留水及びメタノールで洗浄し、さらに、室温で減圧乾燥してAl含有シリコン材料の前駆体を得た。
【0093】
c)工程
Al含有シリコン材料の前駆体を、窒素ガス雰囲気下、900℃で1時間加熱して、実施例2のAl含有シリコン材料を製造した。
【0094】
実施例2のAl含有シリコン材料を用いて、以下のとおり、実施例2の負極及び実施例2のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0095】
重量平均分子量80万のポリアクリル酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、ポリアクリル酸が10質量%で含有されるポリアクリル酸溶液を製造した。また、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.2g(1.0mmol)を0.4mLのN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液を製造した。撹拌条件下、ポリアクリル酸溶液7mL(アクリル酸モノマー換算で、9.5mmolに該当する。)に、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液の全量を滴下して、得られた混合物を室温で30分間撹拌した。その後、ディーンスターク装置を用いて、混合物を130℃で3時間撹拌して脱水反応を進行させることで、結着剤溶液を製造した。
【0096】
負極活物質として実施例2のAl含有シリコン材料72.5質量部、導電助剤としてアセチレンブラック13.5質量部、結着剤として固形分が14質量部となる量の上記結着剤溶液、及び、適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を80℃、15分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、プレスし、真空ポンプによる減圧雰囲気で180℃、30分加熱することで、負極活物質層が形成された実施例2の負極を製造した。
【0097】
実施例2の負極を径11mmに裁断し、評価極とした。厚さ500μmの金属リチウム箔を径13mmに裁断し対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。また、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した混合溶媒にLiPF
6を濃度1mol/Lで溶解した電解液を準備した。対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例2のリチウムイオン二次電池とした。
【0098】
(実施例3)
製造スケールを大きくした点、及び、c)工程の後に以下の炭素被覆工程を加えて、炭素被覆されたAl含有シリコン材料を実施例3のAl含有シリコン材料とし、これを負極活物質として用いた点以外は、実施例2と同様の方法で、実施例3のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0099】
・炭素被覆工程
c)工程を経たAl含有シリコン材料をロータリーキルン型の反応器に入れ、プロパン−アルゴン混合ガスの通気下にて880℃、滞留時間60分間の条件で熱CVDを行い、炭素被覆されたAl含有シリコン材料を得た。
【0100】
(実施例4)
不純物としてAl及びFeを含有する粉末状のCaSi
2を準備した。ICP−AESを用いて当該CaSi
2の元素分析を行ったところ、Ca:38質量%、Si:57質量%、Fe:4質量%、Al:1質量%であった。
当該CaSi
2を用いてb)工程以下を実施した以外は、実施例3と同様の方法で、実施例4のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0101】
(比較例2)
a)工程において、Alを添加しなかったこと以外は、実施例2と同様の方法で、比較例2のシリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0102】
(比較例3)
a)工程において、Alを添加せず、Feを添加したこと以外は、実施例2と同様の方法で、比較例3のシリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
なお、a)工程のFeは、Ca、Fe及びSiの全体の質量に対して4%となる量で添加した。
【0103】
(評価例3)
蛍光X線分析装置(XRF)を用いて、実施例2〜実施例4のAl含有シリコン材料と、比較例2及び比較例3のシリコン材料の元素分析を行った。また、酸素・窒素・水素分析装置を用いて、実施例2〜実施例4のAl含有シリコン材料と、比較例2及び比較例3のシリコン材料に対して、酸素を対象とした元素分析を行った。さらに、炭素・硫黄分析装置を用いて、炭素被覆された実施例3及び実施例4のAl含有シリコン材料に対して、炭素を対象とした元素分析を行った。
【0104】
これらの元素分析の結果を、質量%として、表1に示す。実施例2、実施例3、比較例2に若干量のFeが存在するのは、原料の金属にFeが不純物として含まれていたためである。また、すべてのシリコン材料に含まれているO、Ca及びClは、製造で使用した溶媒(水)、原料、酸のアニオンなどに由来する。
【0105】
【表1】
【0106】
(評価例4)
実施例2〜実施例4、比較例2及び比較例3のリチウムイオン二次電池に対して、電流0.2mAで0.01Vまで放電を行い、その後、電流0.2mAで0.8Vまで充電を行うとの初回充放電を行った。
さらに、初回充放電後の実施例2、比較例2及び比較例3のリチウムイオン二次電池につき、電流0.5mAで0.01Vまで放電を行い、その後、電流0.5mAで1.0Vまで充電を行うとの充放電サイクルを複数回行った。
【0107】
初期効率及び容量維持率を以下の各式で算出した。
初期効率(%)=100×(初回充電容量)/(初回放電容量)
容量維持率(%)=100×(各サイクル時の充電容量)/(1サイクル目の充電容量)
初回放電容量、初回充電容量及び初期効率の結果を、元素分析の結果の一部とともに表2に示す。また、容量維持率の結果(N=2)を
図2に示す。
【0108】
【表2】
【0109】
表2の結果から、Feの存在に因り、初回放電容量、初回充電容量及び初期効率が低くなるといえる。また、
図2の結果から、容量維持率の点からは、AlやFeの存在が好ましいといえる。これらの結果から総合的に考察すると、本発明のAl含有シリコン材料において、Feの存在量は少ない方が好ましく、Alの存在量は多い方が好ましいと考えられる。
【0110】
(実施例5)
以下のとおり、実施例5のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0111】
a)工程
Ca、Al及びSiを炭素坩堝に秤量した。Ca及びSiの元素組成比は1:2であり、Alの添加量はCa、Al及びSiの全体の質量に対して0.1%とした。アルゴンガス雰囲気下の高周波誘導加熱装置にて、炭素坩堝を1300℃付近で加熱してCa、Al及びSiを含む溶湯とした。前記溶湯を所定の鋳型に注湯して冷却して固体とした。当該固体を粉砕して粉末状にした後に、b)工程に供した。
【0112】
b)工程
窒素ガス雰囲気下にて、0℃の17wt%塩酸に、a)工程で得られた粉末状の固体を加え、撹拌した。反応液を濾過し、残渣を蒸留水及びメタノールで洗浄し、さらに、室温で減圧乾燥してAl含有シリコン材料の前駆体を得た。
【0113】
c)工程
Al含有シリコン材料の前駆体を、窒素ガス雰囲気下、900℃で1時間加熱し、実施例5のAl含有シリコン材料を製造した。
【0114】
実施例5のAl含有シリコン材料を用いて、以下のとおり、実施例5の負極及び実施例5のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0115】
重量平均分子量80万のポリアクリル酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、ポリアクリル酸が10質量%で含有されるポリアクリル酸溶液を製造した。また、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.2g(1.0mmol)を0.4mLのN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液を製造した。撹拌条件下、ポリアクリル酸溶液7mL(アクリル酸モノマー換算で、9.5mmolに該当する。)に、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液の全量を滴下して、得られた混合物を室温で30分間撹拌した。その後、ディーンスターク装置を用いて、混合物を130℃で3時間撹拌して脱水反応を進行させることで、結着剤溶液を製造した。
【0116】
負極活物質として実施例5のAl含有シリコン材料72.5質量部、導電助剤としてアセチレンブラック13.5質量部、結着剤として固形分が14質量部となる量の上記結着剤溶液、及び、適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を80℃、15分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、プレスし、真空ポンプによる減圧雰囲気で180℃、30分加熱することで、負極活物質層が形成された実施例5の負極を製造した。
【0117】
実施例5の負極を径11mmに裁断し、評価極とした。厚さ500μmの金属リチウム箔を径13mmに裁断し対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。また、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した混合溶媒にLiPF
6を濃度1mol/Lで溶解した電解液を準備した。対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例5のリチウムイオン二次電池とした。
【0118】
(実施例6)
a)工程において、Alの添加量をCa、Al及びSiの全体の質量に対して0.3%とした以外は、実施例5と同様の方法で、実施例6のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0119】
(実施例7)
a)工程において、Alの添加量をCa、Al及びSiの全体の質量に対して0.5%とした以外は、実施例5と同様の方法で、実施例7のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0120】
(実施例8)
a)工程において、Alの添加量をCa、Al及びSiの全体の質量に対して1%とした以外は、実施例5と同様の方法で、実施例8のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0121】
(実施例9)
a)工程に以下のアニール工程を加えた以外は、実施例8と同様の方法で、実施例9のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0122】
・アニール工程
冷却されたCa、Al及びSiを含有する固体を、窒素雰囲気下、900℃で24時間加熱し、その後、冷却した。冷却後のCa、Al及びSiを含有する固体を、粉砕して粉末状にした後に、b)工程に供した。
【0123】
(実施例10)
不純物としてAl及びFeを含有する粉末状のCaSi
2を準備した。当該CaSi
2においてはAlよりもFeの含有量の方が多かった。
当該CaSi
2を用いてb)工程以下を実施した以外は、実施例5と同様の方法で、実施例10のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0124】
(比較例4)
a)工程において、Alを添加しなかったこと以外は、実施例5と同様の方法で、比較例4のシリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0125】
(評価例5)
評価例3と同様の方法で、実施例5〜実施例10のAl含有シリコン材料及び比較例4のシリコン材料の元素分析を行った。これらの元素分析の結果を、質量%として、表3に示す。各実施例のAl含有シリコン材料にFeが存在するのは、原料の金属にFeが不純物として含まれていたためである。また、各実施例のAl含有シリコン材料に含まれているCl、Ca、C及びOは、製造で使用した酸のアニオン、原料、炭素坩堝、溶媒(水)などに由来する。
【0126】
【表3】
【0127】
表3から、a)工程でのAlの添加量が増加するに従い、Al含有シリコン材料におけるAl含有量も増加するのが確認できる。ただし、a)工程でのAlの添加量の増加割合に対して、Al含有シリコン材料におけるAl含有量の増加割合は、低いことがわかる。これらの結果から、a)工程で添加したAlの一部は、b)工程での酸処理において、酸溶液に溶解して除去されたと考えられる。
また、実施例8と実施例9の結果から、a)工程にアニール工程を加えることで、Al含有シリコン材料におけるAl含有量が増加するのがわかる。アニール工程により、比較的多くのAlが、CaSi
2のSiとの置換によりCaSi
2−xAl
xなる置換型固溶体を形成して、b)工程での酸処理において除去されるのを免れたと推察される。
【0128】
(評価例6)
CuKα線を用いた粉末X線回折装置にて、実施例5〜実施例10のAl含有シリコン材料及び比較例4のシリコン材料のX線回折を測定した。その結果、すべてのX線回折チャートから、27°〜29°の範囲内にシリコン結晶子に由来するピークが観察された。各ピークのピークトップの値及び半値全幅を、元素分析の結果の一部とともに表4に示す。
【0129】
【表4】
【0130】
(評価例7)
実施例5〜実施例10及び比較例4のリチウムイオン二次電池に対して、電流0.2mAで0.01Vまで放電を行い、その後、電流0.2mAで0.8Vまで充電を行うとの初回充放電を行った。
初期効率を以下の式で算出した。
初期効率(%)=100×(初回充電容量)/(初回放電容量)
【0131】
また、実施例5〜実施例10及び比較例4のリチウムイオン二次電池に対して、電流0.2mAで0.01Vまで放電を行い、その後、電流0.2mAで1.0Vまで充電を行うとの初回充放電を行った。さらに、初回充放電後の実施例5〜実施例10及び比較例4のリチウムイオン二次電池につき、電流0.5mAで0.01Vまで放電を行い、その後、電流0.5mAで1.0Vまで充電を行うとの充放電サイクルを50回行った。容量維持率を以下の式で算出した。
容量維持率(%)=100×(50サイクル時の充電容量)/(1サイクル目の充電容量)
以上の結果を、Al質量%及び評価例6の結果とともに表5及び表6に示す。
【0132】
【表5】
【0133】
【表6】
【0134】
以上の結果から、比較例4のリチウムイオン二次電池と比較して、実施例のリチウムイオン二次電池が著しく優れた容量維持率を示したことがわかる。さらに、半値全幅と容量維持率とは、概ね相関関係にあるといえる。比較例4のリチウムイオン二次電池の容量維持率が著しく低かったのは、半値全幅が小さなシリコン材料、すなわち過大なサイズのシリコン結晶を有するシリコン材料を負極活物質として具備していたために、充放電時の膨張及び収縮に因り、負極活物質が破損して、負極が損傷したためであると考えられる。他方、半値全幅が適切な範囲である本発明のAl含有シリコン材料を具備する実施例のリチウムイオン二次電池は、負極の損傷の程度が著しく低かったと考えられる。
実施例7〜実施例9のリチウムイオン二次電池が、初回充放電容量、初期効率及び容量維持率のすべてで優れている点は、特筆に値する。
【0135】
また、比較例4のシリコン材料に過大なサイズのシリコン結晶が存在したのは、a)工程で、CaSi
2が生成する主反応とともに、Siのみが結合して、過大なサイズのシリコン結晶が生成する副反応が生じたためと考えられる。他方、実施例のAl含有シリコン材料の製造工程においては、系内にSiと結合可能なAlが存在したことに因り、シリコン結晶の副生及びその成長を一定程度抑制できたと考えられる。
【0136】
(実施例11)
以下のとおり、実施例11のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0137】
a)工程
Ca、Al及びSiを炭素坩堝に秤量した。Ca及びSiの元素組成比は1:2であり、Alの添加量はCa、Al及びSiの全体の質量に対して1%とした。アルゴンガス雰囲気下の高周波誘導加熱装置にて、炭素坩堝を1300℃付近で加熱してCa、Al及びSiを含む溶湯とした。前記溶湯を所定の鋳型に注湯して冷却して固体とした。当該固体を粉砕して粉末状にした後に、b)工程に供した。
【0138】
b)工程
窒素ガス雰囲気下にて、0℃の17wt%塩酸に、a)工程で得られた粉末状の固体を加え、撹拌した。反応液を濾過し、残渣を蒸留水及びメタノールで洗浄し、さらに、室温で減圧乾燥してAl含有シリコン材料の前駆体を得た。
【0139】
c)工程
Al含有シリコン材料の前駆体を、窒素ガス雰囲気下、500℃で1時間加熱し、実施例11のAl含有シリコン材料を製造した。
【0140】
実施例11のAl含有シリコン材料を用いて、以下のとおり、実施例11の負極及び実施例11のリチウムイオン二次電池を製造した。
【0141】
重量平均分子量80万のポリアクリル酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、ポリアクリル酸が10質量%で含有されるポリアクリル酸溶液を製造した。また、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.2g(1.0mmol)を0.4mLのN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液を製造した。撹拌条件下、ポリアクリル酸溶液7mL(アクリル酸モノマー換算で、9.5mmolに該当する。)に、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液の全量を滴下して、得られた混合物を室温で30分間撹拌した。その後、ディーンスターク装置を用いて、混合物を130℃で3時間撹拌して脱水反応を進行させることで、結着剤溶液を製造した。
【0142】
負極活物質として実施例11のAl含有シリコン材料72.5質量部、導電助剤としてアセチレンブラック13.5質量部、結着剤として固形分が14質量部となる量の上記結着剤溶液、及び、適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を80℃、15分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、プレスし、真空ポンプによる減圧雰囲気で180℃、30分加熱することで、負極活物質層が形成された実施例11の負極を製造した。
【0143】
実施例11の負極を径11mmに裁断し、評価極とした。厚さ500μmの金属リチウム箔を径13mmに裁断し対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。また、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した混合溶媒にLiPF
6を濃度1mol/Lで溶解した電解液を準備した。対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例11のリチウムイオン二次電池とした。
【0144】
(実施例12)
c)工程における加熱温度を600℃とした以外は、実施例11と同様の方法で、実施例12のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0145】
(実施例13)
c)工程における加熱温度を700℃とした以外は、実施例11と同様の方法で、実施例13のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0146】
(実施例14)
c)工程における加熱温度を800℃とした以外は、実施例11と同様の方法で、実施例14のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0147】
(実施例15)
c)工程における加熱温度を900℃とした以外は、実施例11と同様の方法で、実施例15のAl含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0148】
(評価例8)
評価例3と同様の方法で、実施例11〜実施例15のAl含有シリコン材料の元素分析を行った。これらの元素分析の結果を、質量%として、表7に示す。各実施例のAl含有シリコン材料にFeが存在するのは、原料の金属にFeが不純物として含まれていたためである。また、各実施例のAl含有シリコン材料に含まれているCl、Ca、C及びOは、製造で使用した酸のアニオン、原料、炭素坩堝、溶媒(水)などに由来する。
【0149】
【表7】
【0150】
(評価例9)
CuKα線を用いた粉末X線回折装置にて、実施例11〜実施例15のAl含有シリコン材料のX線回折を測定した。その結果、すべてのX線回折チャートから、27°〜29°の範囲内にシリコン結晶子に由来するピークが観察された。各ピークのピークトップの値及び半値全幅を表8に示す。
【0151】
【表8】
【0152】
表8から、c)工程の加熱温度が増加するに従い、半値全幅が小さくなるといえる。また、c)工程の加熱温度が800℃から900℃の間に、半値全幅が大きく変動する温度域が存在するといえる。
【0153】
(評価例10)
実施例11〜実施例15のリチウムイオン二次電池に対して、電流0.2mAで0.01Vまで放電を行い、その後、電流0.2mAで1.0Vまで充電を行うとの初回充放電を行った。
また、実施例11〜実施例15のリチウムイオン二次電池に対して、電流0.2mAで0.01Vまで放電を行い、その後、電流0.2mAで0.8Vまで充電を行うとの初回充放電を行った。
各条件での初期効率を以下の式で算出した。
初期効率(%)=100×(初回充電容量)/(初回放電容量)
【0154】
さらに、電流0.2mAで0.01Vまで放電を行い、その後、電流0.2mAで1.0Vまで充電を行うとの初回充放電を行ったリチウムイオン二次電池につき、電流0.5mAで0.01Vまで放電を行い、その後、電流0.5mAで1.0Vまで充電を行うとの充放電サイクルを50回行った。容量維持率を以下の式で算出した。
容量維持率(%)=100×(50サイクル時の充電容量)/(1サイクル目の充電容量)
以上の結果を、評価例9の結果とともに表9に示す。
【0155】
【表9】
【0156】
表8から、半値全幅が小さいほど、初期効率が高い傾向にあることがわかる。逆に、半値全幅が大きいほど、容量維持率が高い傾向にあることもわかる。