特許第6859961号(P6859961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6859961
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20210405BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   G03G9/097 365
   G03G9/087 331
【請求項の数】4
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-1791(P2018-1791)
(22)【出願日】2018年1月10日
(65)【公開番号】特開2019-120861(P2019-120861A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2019年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】荒川 健
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/157424(WO,A1)
【文献】 特開2008−242439(JP,A)
【文献】 特開2007−206179(JP,A)
【文献】 特開2017−009621(JP,A)
【文献】 特開2013−160809(JP,A)
【文献】 特開2017−167524(JP,A)
【文献】 特開2017−009631(JP,A)
【文献】 特開2011−138120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08−9/097
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー母粒子を含むトナー粒子を有するトナーであって、
前記トナー母粒子は、結着樹脂及び離型剤を含み、
前記結着樹脂は、非結晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂を含み、
前記離型剤は、第1エステルワックス及び第2エステルワックスのみを含み、
前記第1エステルワックスは、下記一般式(1)で表されるエステル化合物であり、
前記第2エステルワックスは、下記一般式(2)で表されるエステル化合物であり、
前記第1エステルワックス及び前記第2エステルワックスの合計に対する前記第2エステルワックスの質量比は、0.2以上0.4以下であり、
前記離型剤の含有量は、前記結着樹脂100質量部に対して1質量部以上10質量部以下である、トナー。
【化1】
(前記一般式(1)中、
1は、炭素原子数15以上23以下の直鎖状の飽和アルキル基を表し、
2は、炭素原子数16以上24以下の直鎖状の飽和アルキル基を表す。)
【化2】
(前記一般式(2)中、
3は、炭素原子数15以上23以下の直鎖状又は分枝鎖状の飽和アルキル基を表し、
4は、炭素原子数16以上24以下の直鎖状又は分枝鎖状の飽和アルキル基を表す。
ただし、R3及びR4の少なくとも一方は、分枝鎖状の飽和アルキル基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)中、
1は、ヘンイコシル基を表し、
2は、ドコシル基を表す、請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記一般式(2)中、
3は、ヘンイコシル基を表し、
4は、9−メチルヘンイコシル基を表す、請求項1又は2に記載のトナー。
【請求項4】
前記一般式(2)中、
3は、8−メチルイコシル基を表し、
4は、ドコシル基を表す、請求項1又は2に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
結着樹脂としてのポリエステル樹脂と、離型剤とを含むトナー粒子を有するトナーが知られている。例えば、特許文献1では、結着樹脂としてポリエステル樹脂を用い、かつポリエステル樹脂との相溶性が良好なエステルワックスを離型剤として用いたトナーが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−212142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エステルワックスを離型剤として用いたトナーは、記録媒体への定着時において加熱された際に、エステルワックスが分解する場合がある。エステルワックスが分解すると、揮発性有機化合物(以下、VOCと記載することがある。)が発生することがある。環境保全の観点から、VOCの発生を抑制できるトナーが要望されている。
【0005】
また、高温下における保存性を向上させつつ印刷スピードの高速化に適応させるため、シャープメルト性を維持しつつ、耐熱保存性及び離型性に優れるトナーが要望されている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、シャープメルト性を維持しつつ、耐熱保存性及び離型性に優れる上、VOCの発生を抑制できるトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るトナーは、トナー母粒子を含むトナー粒子を有する。前記トナー母粒子は、結着樹脂及び離型剤を含む。前記結着樹脂は、非結晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂を含む。前記離型剤は、第1エステルワックス及び第2エステルワックスを含む。前記第1エステルワックスは、下記一般式(1)で表されるエステル化合物である。前記第2エステルワックスは、下記一般式(2)で表されるエステル化合物である。前記第1エステルワックス及び前記第2エステルワックスの合計に対する前記第2エステルワックスの質量比は、0.2以上0.4以下である。
【0008】
【化1】
【0009】
前記一般式(1)中、R1は、炭素原子数15以上23以下の直鎖状の飽和アルキル基を表す。R2は、炭素原子数16以上24以下の直鎖状の飽和アルキル基を表す。
【0010】
【化2】
【0011】
前記一般式(2)中、R3は、炭素原子数15以上23以下の直鎖状又は分枝鎖状の飽和アルキル基を表す。R4は、炭素原子数16以上24以下の直鎖状又は分枝鎖状の飽和アルキル基を表す。ただし、R3及びR4の少なくとも一方は、分枝鎖状の飽和アルキル基を表す。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るトナーによれば、シャープメルト性を維持しつつ、耐熱保存性及び離型性に優れる上、VOCの発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、トナーは、トナー粒子の集合体(例えば粉体)である。外添剤は、外添剤粒子の集合体(例えば粉体)である。粉体(より具体的には、トナー粒子の粉体等)に関する評価結果(形状、物性等を示す値)は、何ら規定していなければ、粉体から平均的な粒子を相当数選び取って、それら平均的な粒子の各々について測定した値の個数平均である。
【0014】
粉体の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、ベックマン・コールター株式会社製の「コールターカウンターマルチサイザー4」を用いてコールター原理(細孔電気抵抗法)に基づき測定されたメディアン径である。粉体の個数平均一次粒子径は、何ら規定していなければ、走査型電子顕微鏡を用いて測定した一次粒子の円相当径(一次粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。粉体の個数平均一次粒子径は、例えば100個の一次粒子の円相当径の個数平均値である。
【0015】
帯電性は、何ら規定していなければ、摩擦帯電における帯電性を意味する。摩擦帯電における正帯電性の強さ(又は負帯電性の強さ)は、周知の帯電列などで確認できる。例えばトナーは、日本画像学会から提供される標準キャリア(アニオン性:N−01、カチオン性:P−01)と混ぜて攪拌することで、測定対象を摩擦帯電させる。摩擦帯電させる前と後とでそれぞれ、例えばKFM(ケルビンプローブフォース顕微鏡)で測定対象の表面電位を測定し、摩擦帯電の前後での電位の変化が大きい測定対象ほど帯電性が強いことを示す。
【0016】
軟化点(Tm)は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用いて測定した値である。高化式フローテスターで測定されたS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)において、「(ベースラインストローク値+最大ストローク値)/2」となる温度が、Tm(軟化点)に相当する。融点(Mp)の測定値は、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて測定される吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)中の最大吸熱ピークの温度である。この吸熱ピークは、結晶化部位の融解に起因して現れる。ガラス転移点(Tg)は、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて「JIS(日本工業規格)K7121−2012」に従って測定した値である。示差走査熱量計で測定された吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)において、ガラス転移に起因する変曲点の温度(詳しくは、ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点の温度)が、Tg(ガラス転移点)に相当する。酸価の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本工業規格)K0070−1992」に従い測定した値である。
【0017】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
【0018】
なお、以下において、「シャープメルト性」は、特に断りがない限り、トナーのシャープメルト性を意味する。
【0019】
<トナー>
本実施形態に係るトナーは、例えば正帯電性トナーとして、静電潜像の現像に好適に用いることができる。本実施形態に係るトナーは、トナー粒子(それぞれ後述する構成を有する粒子)を含有する集合体(例えば粉体)である。トナーは、1成分現像剤として使用してもよい。また、混合装置(例えば、ボールミル)を用いてトナーとキャリアとを混合して2成分現像剤として使用してもよい。
【0020】
本実施形態に係るトナーは、トナー母粒子を含むトナー粒子を有する。トナー母粒子は、結着樹脂及び離型剤を含む。結着樹脂は、非結晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂を含む。離型剤は、第1エステルワックス及び第2エステルワックスを含む。
【0021】
第1エステルワックスは、下記一般式(1)で表されるエステル化合物である。第2エステルワックスは、下記一般式(2)で表されるエステル化合物である。
【0022】
【化3】
【0023】
一般式(1)中、R1は、炭素原子数15以上23以下の直鎖状の飽和アルキル基を表す。R2は、炭素原子数16以上24以下の直鎖状の飽和アルキル基を表す。
【0024】
【化4】
【0025】
一般式(2)中、R3は、炭素原子数15以上23以下の直鎖状又は分枝鎖状の飽和アルキル基を表す。R4は、炭素原子数16以上24以下の直鎖状又は分枝鎖状の飽和アルキル基を表す。ただし、R3及びR4の少なくとも一方は、分枝鎖状の飽和アルキル基を表す。
【0026】
また、第1エステルワックス及び第2エステルワックスの合計に対する第2エステルワックスの質量比(以下、比E2と記載することがある。)は、0.2以上0.4以下である。なお、比E2は、以下の式(3)で算出される値である。
比E2=第2エステルワックスの質量/(第1エステルワックスの質量+第2エステルワックスの質量)・・・(3)
【0027】
本実施形態に係るトナーは、上述の構成を備えることにより、シャープメルト性を維持しつつ、耐熱保存性及び離型性に優れる上、VOCの発生を抑制できる。その理由は、以下のように推測される。
【0028】
本実施形態に係るトナーは、トナー母粒子が結着樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を含むため、シャープメルト性を維持することができると考えられる。また、トナー母粒子が結着樹脂として非結晶性ポリエステル樹脂を含むため、トナー母粒子中において離型剤が均一に分散され易くなる。加えて、トナー母粒子中の離型剤が、直鎖状かつ炭素原子数が特定範囲内の第1エステルワックスを含有する。よって、本実施形態に係るトナーは、離型剤の融点が高くなるためトナーの耐熱保存性に優れると共に、トナー母粒子中において離型剤が均一に分散され、かつ離型剤自体のシャープメルト性が高くなるため離型性を向上させることができると考えられる。
【0029】
また、第1エステルワックスは、直鎖状エステル化合物であるため、熱分解によりVOCが発生し易い傾向がある。一方、分枝鎖状かつ炭素原子数が特定範囲内の第2エステルワックスは、熱分解してもVOCが発生し難い傾向がある。本実施形態に係るトナーは、トナー母粒子中の離型剤が第2エステルワックスを特定範囲内の含有量(詳しくは、比E2が0.2以上0.4以下となる範囲内の含有量)で含有するため、トナーの耐熱保存性及び離型性を向上させつつ、VOCの発生を抑制できると考えられる。
【0030】
耐熱保存性及び離型性をより向上させつつ、VOCの発生をより抑制するためには、比E2が0.25以上0.35以下であることが好ましい。
【0031】
一般式(1)中、R1で表される炭素原子数15以上23以下の直鎖状の飽和アルキル基としては、例えばペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基及びトリコシル基が挙げられる。耐熱保存性及び離型性をより向上させるためには、R1は、イコシル基、ヘンイコシル基及びドコシル基から選ばれる一種のアルキル基を表すことが好ましく、ヘンイコシル基を表すことがより好ましい。
【0032】
一般式(1)中、R2で表される炭素原子数16以上24以下の直鎖状の飽和アルキル基としては、例えばヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基及びテトラコシル基が挙げられる。耐熱保存性及び離型性をより向上させるためには、R2は、ヘンイコシル基、ドコシル基及びトリコシル基から選ばれる一種のアルキル基を表すことが好ましく、ドコシル基を表すことがより好ましい。
【0033】
耐熱保存性及び離型性を更に向上させるためには、一般式(1)中、R1がヘンイコシル基を表し、かつR2がドコシル基を表すことが好ましい。
【0034】
一般式(2)中、R3で表される炭素原子数15以上23以下の直鎖状の飽和アルキル基としては、例えばR1で表されるアルキル基として例示したものと同様のアルキル基が挙げられる。R3で表される炭素原子数15以上23以下の分枝鎖状の飽和アルキル基としては、例えばオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基及びドコシル基から選ばれる一種のアルキル基の水素原子の一部が炭素原子数1以上7以下の飽和アルキル基で置換された分枝鎖状アルキル基が挙げられる。炭素原子数1以上7以下の飽和アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基及びヘプチル基が挙げられる。なお、R3で表される分枝鎖状の飽和アルキル基において、分枝の位置は特に限定されない。VOCの発生をより抑制するためには、R3は、ヘンイコシル基、7−メチルイコシル基、8−メチルイコシル基及び9−メチルイコシル基から選ばれる一種のアルキル基を表すことが好ましく、ヘンイコシル基及び8−メチルイコシル基から選ばれる一種のアルキル基を表すことがより好ましく、8−メチルイコシル基を表すことが更に好ましい。
【0035】
一般式(2)中、R4で表される炭素原子数16以上24以下の直鎖状の飽和アルキル基としては、例えばR2で表されるアルキル基として例示したものと同様のアルキル基が挙げられる。R4で表される炭素原子数16以上24以下の分枝鎖状の飽和アルキル基としては、例えばオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基及びトリコシル基から選ばれる一種のアルキル基の水素原子の一部が炭素原子数1以上8以下の飽和アルキル基で置換された分枝鎖状アルキル基が挙げられる。炭素原子数1以上8以下の飽和アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基及びオクチル基が挙げられる。なお、R4で表される分枝鎖状の飽和アルキル基において、分枝の位置は特に限定されない。VOCの発生をより抑制するためには、R4は、ドコシル基、8−メチルヘンイコシル基、9−メチルヘンイコシル基及び10−メチルヘンイコシル基から選ばれる一種のアルキル基を表すことが好ましく、ドコシル基及び9−メチルヘンイコシル基から選ばれる一種のアルキル基を表すことがより好ましく、9−メチルヘンイコシル基を表すことが更に好ましい。
【0036】
VOCの発生をより抑制するためには、一般式(2)中、R3及びR4の組合せが、以下の(a)及び(b)から選ばれる1つであることが好ましい。
(a)R3がヘンイコシル基を表し、かつR4が9−メチルヘンイコシル基を表す。
(b)R3が8−メチルイコシル基を表し、かつR4がドコシル基を表す。
【0037】
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、シェル層を備えないトナー粒子であってもよいし、シェル層を備えるトナー粒子(以下、カプセルトナー粒子と記載することがある。)であってもよい。カプセルトナー粒子では、トナー母粒子が、結着樹脂及び離型剤を含有するトナーコアと、トナーコアの表面を覆うシェル層とを備える。シェル層は、樹脂を含む。例えば、低温で溶融するトナーコアを、耐熱性に優れるシェル層で覆うことで、トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図ることが可能になる。シェル層を構成する樹脂中に添加剤が分散されていてもよい。シェル層は、トナーコアの表面全体を覆っていてもよいし、トナーコアの表面を部分的に覆っていてもよい。
【0038】
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、外添剤を更に備えてもよい。トナー粒子が外添剤を更に備える場合には、外添剤はトナー母粒子の表面に付着する。なお、必要がなければ外添剤を割愛してもよい。外添剤を割愛する場合には、トナー母粒子がトナー粒子に相当する。
【0039】
本実施形態に係るトナーにおいて、画像形成に適したトナーを得るためには、トナー母粒子の体積中位径(D50)は、4μm以上9μm以下であることが好ましい。
【0040】
トナー母粒子は、必要に応じて、結着樹脂及び離型剤以外に、内添剤(より具体的には、着色剤、電荷制御剤、磁性粉等)を含有してもよい。以下、トナー母粒子の構成要素、及び外添剤について順に説明する。
【0041】
[結着樹脂]
トナー母粒子は、成分の大部分(例えば、60質量%以上)を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の性質がトナー母粒子全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。結着樹脂として複数種の樹脂を組み合わせて使用することで、結着樹脂の性質(より具体的には、Tg、Tm等)を調整することができる。
【0042】
結着樹脂は、非結晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂を含む。非結晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂の混合比は、特に限定されないが、トナーのシャープメルト性を高めつつ、離型剤の分散性を向上させるためには、非結晶性ポリエステル樹脂100質量部に対して結晶性ポリエステル樹脂を1質量部以上20質量部以下の範囲で混合することが好ましい。
【0043】
また、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を調整するために、結着樹脂は、Tgが相違する複数種の非結晶性ポリエステル樹脂を使用してもよい。例えば、Tgが30℃以上40℃以下の低Tg非結晶性ポリエステル樹脂と、Tgが50℃以上60℃以下の中Tg非結晶性ポリエステル樹脂と、Tgが70℃以上80℃以下の高Tg非結晶性ポリエステル樹脂とを組み合わせることで、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を調整できる。
【0044】
トナーのシャープメルト性をより容易に維持するためには、トナー母粒子が、結晶性指数0.90以上1.20以下の結晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂の結晶性指数は、結晶性ポリエステル樹脂を合成するための材料の種類又は使用量(配合比)を変更することで調整できる。なお、樹脂の結晶性指数は、樹脂の融点(Mp:単位℃)に対する樹脂の軟化点(Tm:単位℃)の比率(Tm/Mp)に相当する。非結晶性樹脂については、明確なMpを測定できないことが多い。よって、示差走査熱量計を用いて測定される吸熱曲線において明確に吸熱ピークを判断できない樹脂は、非結晶性樹脂と判断して差し支えない。
【0045】
ポリエステル樹脂は、一種以上の多価アルコールと一種以上の多価カルボン酸とを縮重合させることで得られる。ポリエステル樹脂を合成するためのアルコールとしては、例えば以下に示すような、2価アルコール(より具体的には、ジオール類、ビスフェノール類等)、及び3価以上のアルコールが挙げられる。ポリエステル樹脂を合成するためのカルボン酸としては、例えば以下に示すような、2価カルボン酸、及び3価以上のカルボン酸が挙げられる。なお、多価カルボン酸の代わりに、多価カルボン酸の無水物を使用してもよい。
【0046】
ジオール類の好適な例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ペンテン−1,5−ジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、1,4−ベンゼンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0047】
ビスフェノール類の好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、及びビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0048】
3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、及び1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0049】
2価カルボン酸の好適な例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸(より具体的には、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、イソドデシルコハク酸等)、及びアルケニルコハク酸(より具体的には、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデセニルコハク酸等)が挙げられる。
【0050】
3価以上のカルボン酸の好適な例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、及びエンポール三量体酸が挙げられる。
【0051】
結晶性ポリエステル樹脂を合成するための好適な多価アルコールとしては、炭素原子数2以上8以下のα,ω−アルカンジオール(より具体的には、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等)が挙げられる。結晶性ポリエステル樹脂を合成するための好適な多価カルボン酸としては、炭素原子数(2つのカルボキシル基の炭素原子を含む)4以上10以下のα,ω−アルカンジカルボン酸(より具体的には、コハク酸、セバシン酸等)が挙げられる。
【0052】
非結晶性ポリエステル樹脂を合成するための好適な多価アルコールとしては、ビスフェノール(より具体的には、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物等)が挙げられる。非結晶性ポリエステル樹脂を合成するための好適な多価カルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸(より具体的には、テレフタル酸等)及び/又は不飽和ジカルボン酸(より具体的には、フマル酸等)が挙げられる。
【0053】
トナー母粒子は、結着樹脂としてポリエステル樹脂以外の樹脂を含有しても良い。ポリエステル樹脂以外の樹脂としては、ポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、例えばスチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、オレフィン系樹脂(より具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)、ビニル樹脂(より具体的には、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ビニルエーテル樹脂、N−ビニル樹脂等)、ポリアミド樹脂、及びウレタン樹脂が挙げられる。また、これら各樹脂の共重合体、すなわち上記樹脂中に任意の繰返し単位が導入された共重合体(より具体的には、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂等)も、トナー母粒子の結着樹脂として使用できる。シャープメルト性をより容易に維持しつつ、耐熱保存性をより向上させるためには、ポリエステル樹脂の含有量は、結着樹脂全量に対して80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0054】
[着色剤]
トナー母粒子は、着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。トナーを用いて高画質の画像を形成するためには、着色剤の量が、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0055】
トナー母粒子は、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
【0056】
トナー母粒子は、カラー着色剤を含有していてもよい。カラー着色剤としては、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤が挙げられる。
【0057】
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される一種以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、及び194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、並びにC.I.バットイエローが挙げられる。
【0058】
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される一種以上の化合物を使用できる。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、及び254)が挙げられる。
【0059】
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される一種以上の化合物を使用できる。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、及び66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、並びにC.I.アシッドブルーが挙げられる。
【0060】
[離型剤]
トナー母粒子は、離型剤として、一種又は複数種の第1エステルワックスと、一種又は複数種の第2エステルワックスとを、上述した特定範囲内の割合で含有する。第1エステルワックス及び第2エステルワックスは、例えばアルコール成分とカルボン酸成分とを脱水縮合反応させることにより得られる。
【0061】
アルコール成分としては、例えば直鎖状飽和アルコール及び分枝鎖状飽和アルコールが挙げられる。
【0062】
直鎖状飽和アルコールとしては、例えばヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、イコサノール、ヘンイコサノール、ドコサノール、トリコサノール及びテトラコサノールが挙げられる。
【0063】
分枝鎖状飽和アルコールとしては、例えばメチルペンタデカノール、エチルテトラデカノール、ジメチルテトラデカノール、メチルヘキサデカノール、エチルペンタデカノール、ジメチルペンタデカノール、メチルヘプタデカノール、エチルヘキサデカノール、ジメチルヘキサデカノール、メチルオクタデカノール、エチルヘプタデカノール、ジメチルヘプタデカノール、メチルノナデカノール、エチルオクタデカノール、ジメチルオクタデカノール、メチルイコサノール、エチルノナデカノール、ジメチルノナデカノール、メチルヘンイコサノール、エチルイコサノール、ジメチルイコサノール、メチルドコサノール、エチルヘンイコサノール、ジメチルヘンイコサノール、メチルトリコサノール、エチルドコサノール及びジメチルドコサノールが挙げられる。
【0064】
カルボン酸成分としては、例えば直鎖状飽和カルボン酸及び分枝鎖状飽和カルボン酸が挙げられる。
【0065】
直鎖状飽和カルボン酸としては、例えばヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸及びテトラコサン酸が挙げられる。
【0066】
分枝鎖状飽和カルボン酸としては、例えばメチルペンタデカン酸、エチルテトラデカン酸、ジメチルテトラデカン酸、メチルヘキサデカン酸、エチルペンタデカン酸、ジメチルペンタデカン酸、メチルヘプタデカン酸、エチルヘキサデカン酸、ジメチルヘキサデカン酸、メチルオクタデカン酸、エチルヘプタデカン酸、ジメチルヘプタデカン酸、メチルノナデカン酸、エチルオクタデカン酸、ジメチルオクタデカン酸、メチルイコサン酸、エチルノナデカン酸、ジメチルノナデカン酸、メチルヘンイコサン酸、エチルイコサン酸、ジメチルイコサン酸、メチルドコサン酸、エチルヘンイコサン酸、ジメチルヘンイコサン酸、メチルトリコサン酸、エチルドコサン酸及びジメチルドコサン酸が挙げられる。
【0067】
第1エステルワックスの具体例としては、下記化学式(11)及び(12)で表されるエステル化合物(以下、それぞれエステル化合物(11)及び(12)と記載することがある。)が挙げられる。
【0068】
【化5】
【0069】
耐熱保存性及び離型性をより向上させるためには、第1エステルワックスとしては、エステル化合物(12)が好ましい。
【0070】
第2エステルワックスの具体例としては、下記化学式(21)〜(25)で表されるエステル化合物(以下、それぞれエステル化合物(21)〜(25)と記載することがある。)が挙げられる。
【0071】
【化6】
【0072】
VOCの発生をより抑制するためには、第2エステルワックスとしては、エステル化合物(23)及びエステル化合物(24)が好ましく、エステル化合物(23)がより好ましい。
【0073】
耐熱保存性及び離型性をより向上させつつ、VOCの発生をより抑制するためには、第1エステルワックスと第2エステルワックスとが、以下の表1に示す組合せ例1〜5の何れかであることが好ましい。また、トナーのシャープメルト性をより容易に維持し、耐熱保存性及び離型性をより向上させつつ、VOCの発生をより抑制するためには、トナー母粒子が、結晶性指数0.90以上1.20以下の結晶性ポリエステル樹脂を含有し、かつ第1エステルワックスと第2エステルワックスとが、以下の表1に示す組合せ例1〜5の何れかであることが好ましい。
【0074】
【表1】
【0075】
トナー母粒子は、第1エステルワックス及び第2エステルワックス以外の離型剤成分を含んでもよい。第1エステルワックス及び第2エステルワックス以外の離型剤成分としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックスのブロック共重合体等の脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、ライスワックス等の植物系ワックス;みつろう、ラノリン、鯨ろう等の動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、ペトロラタム等の鉱物系ワックス;第1エステルワックス及び第2エステルワックス以外のエステルワックスが挙げられる。耐熱保存性及び離型性をより向上させつつ、VOCの発生をより抑制するためには、第1エステルワックス及び第2エステルワックスの合計含有量は、離型剤全量に対して80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0076】
トナーの離型性をより向上させるためには、離型剤の量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0077】
結着樹脂と離型剤との相溶性を改善するために、相溶化剤をトナー母粒子に添加してもよい。
【0078】
[電荷制御剤]
トナー母粒子は、電荷制御剤を含有していてもよい。電荷制御剤は、例えば、トナーの帯電安定性又は帯電立ち上がり特性を向上させる目的で使用される。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電させることができるか否かの指標になる。
【0079】
トナー母粒子に負帯電性の電荷制御剤を含有させることで、トナー母粒子のアニオン性を強めることができる。また、トナー母粒子に正帯電性の電荷制御剤を含有させることで、トナー母粒子のカチオン性を強めることができる。
【0080】
正帯電性の電荷制御剤の例としては、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2−オキサジン、1,3−オキサジン、1,4−オキサジン、1,2−チアジン、1,3−チアジン、1,4−チアジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−オキサジアジン、1,3,4−オキサジアジン、1,2,6−オキサジアジン、1,3,4−チアジアジン、1,3,5−チアジアジン、1,2,3,4−テトラジン、1,2,4,5−テトラジン、1,2,3,5−テトラジン、1,2,4,6−オキサトリアジン、1,3,4,5−オキサトリアジン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン等のアジン化合物;アジンファストレッドFC、アジンファストレッド12BK、アジンバイオレットBO、アジンブラウン3G、アジンライトブラウンGR、アジンダークグリ−ンBH/C、アジンディープブラックEW、アジンディープブラック3RL等の直接染料;ニグロシンBK、ニグロシンNB、ニグロシンZ等の酸性染料;ナフテン酸の金属塩類;高級有機カルボン酸の金属塩類;アルコキシル化アミン;アルキルアミド;ベンジルデシルヘキシルメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩等の4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの電荷制御剤の一種のみを使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。帯電安定性に優れる正帯電性トナーを提供するためには、電荷制御剤として4級アンモニウム塩を用いることが好ましい。
【0081】
負帯電性の電荷制御剤の例としては、キレート化合物である有機金属錯体が挙げられる。有機金属錯体としては、例えばアセチルアセトン金属錯体、サリチル酸系金属錯体、及びこれらの塩が好ましい。
【0082】
電荷制御剤の含有量は、帯電安定性を向上させるためには、結着樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0083】
[磁性粉]
トナー母粒子は、磁性粉を含有していてもよい。磁性粉の材料としては、例えば、強磁性金属(より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル等)及びその合金、強磁性金属酸化物(より具体的には、フェライト、マグネタイト、二酸化クロム等)、並びに強磁性化処理(より具体的には、熱処理等)が施された材料が挙げられる。本実施形態では、一種の磁性粉を単独で使用してもよいし、複数種の磁性粉を併用してもよい。
【0084】
[外添剤]
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、トナー母粒子の表面に付着した外添剤を更に備えてもよい。
【0085】
トナー母粒子からの外添剤粒子の脱離を抑制しながら外添剤の機能を十分に発揮させるためには、外添剤の量(複数種の外添剤粒子を使用する場合には、それら外添剤粒子の合計量)が、トナー母粒子100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0086】
外添剤粒子としては、無機粒子が好ましく、シリカ粒子、及び金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等)の粒子が特に好ましい。本実施形態では、一種類の外添剤粒子を単独で使用してもよいし、複数種の外添剤粒子を併用してもよい。
【0087】
トナーの流動性を向上させるためには、外添剤粒子として、個数平均一次粒子径5nm以上500nm以下の無機粒子(粉体)を使用することが好ましい。
【0088】
外添剤粒子は、表面処理されていてもよい。例えば、外添剤粒子としてシリカ粒子を使用する場合、表面処理剤によりシリカ粒子の表面に疎水性及び/又は正帯電性が付与されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、カップリング剤(より具体的には、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤等)、シラザン化合物(より具体的には、鎖状シラザン化合物、環状シラザン化合物等)、及びシリコーンオイル(より具体的には、ジメチルシリコーンオイル等)が挙げられる。表面処理剤としては、シランカップリング剤及びシラザン化合物が特に好ましい。シランカップリング剤の好適な例としては、シラン化合物(より具体的には、メチルトリメトキシシラン、アミノシラン等)が挙げられる。シラザン化合物の好適な例としては、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)が挙げられる。シリカ基体(未処理のシリカ粒子)の表面が表面処理剤で処理されると、シリカ基体の表面に存在する多数のヒドロキシル基(−OH)が部分的に又は全体的に、表面処理剤に由来する官能基に置換される。その結果、表面処理剤に由来する官能基(詳しくは、ヒドロキシル基よりも疎水性及び/又は正帯電性の強い官能基)を表面に有するシリカ粒子が得られる。
【0089】
<トナーの製造方法>
次に、上述した実施形態に係るトナーの好適な製造方法について説明する。以下、上述した実施形態に係るトナーと重複する構成要素については説明を省略する。
【0090】
[トナー母粒子の調製工程]
本製造方法では、まず、凝集法又は粉砕法によりトナー母粒子を調製する。
【0091】
凝集法は、例えば、凝集工程及び合一化工程を含む。凝集工程では、トナー母粒子を構成する成分を含む微粒子を水性媒体中で凝集させて、凝集粒子を形成する。合一化工程では、凝集粒子に含まれる成分を水性媒体中で合一化させてトナー母粒子を形成する。
【0092】
次に粉砕法を説明する。粉砕法によれば、比較的容易にトナー母粒子を調製できる上、製造コストの低減が可能である。粉砕法でトナー母粒子を調製する場合、トナー母粒子の調製工程は、例えば溶融混練工程と、粉砕工程とを備える。トナー母粒子の調製工程は、溶融混練工程の前に混合工程を更に備えてもよい。また、トナー母粒子の調製工程は、粉砕工程後に、微粉砕工程及び分級工程の少なくとも一方を更に備えてもよい。
【0093】
混合工程では、例えば、結着樹脂、離型剤、及び必要に応じて添加する内添剤を混合して、混合物を得る。溶融混練工程では、トナー材料を溶融し混練して、溶融混練物を得る。トナー材料としては、例えば混合工程で得られる混合物が用いられる。粉砕工程では、得られた溶融混練物を、例えば室温(25℃)まで冷却した後、粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程で得られた粉砕物の小径化が必要な場合は、粉砕物を更に粉砕する工程(微粉砕工程)を実施してもよい。また、粉砕物の粒径を揃える場合は、得られた粉砕物を分級する工程(分級工程)を実施してもよい。以上の工程により、粉砕物であるトナー母粒子が得られる。
【0094】
[外添工程]
その後、必要に応じて、混合機(例えば、日本コークス工業株式会社製のFMミキサー)を用いて、得られたトナー母粒子と外添剤とを混合して、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる工程(外添工程)を実施してもよい。なお、トナー母粒子に外添剤を付着させずに、トナー母粒子をトナー粒子として使用してもよい。こうして、トナー粒子を含むトナーが製造される。
【実施例】
【0095】
以下、本発明の実施例について説明する。まず、エステル化合物の合成方法について説明する。
【0096】
<エステル化合物の合成>
[エステル化合物(11)の合成]
温度計、窒素導入管、攪拌機及び冷却管を取り付けた4つ口フラスコに、アルコール成分としてのオクタデカノール400g(1.48モル)と、カルボン酸成分としてのオクタデカン酸433g(1.52モル)とを加え、窒素雰囲気の大気圧下、フラスコ内温を200℃に保持し、反応水を留去しつつ200rpmの回転速度で15時間攪拌し、フラスコ内容物を脱水縮合反応させた。次いで、フラスコ内に、得られた生成物100質量部に対してトルエン20質量部及びエタノール4質量部を添加した後、更に水酸化カリウム水溶液(濃度:10質量%)を添加した。添加した水酸化カリウム水溶液中の水酸化カリウムの量は、得られた生成物の酸価の1.5倍当量に相当する量であった。次いで、窒素雰囲気の大気圧下、フラスコ内を70℃に保持し、200rpmの回転速度でフラスコ内容物を30分間攪拌した。次いで、フラスコ内容物における下層(水層)を除去し、有機層(エステル化合物を含む層)を得た。次いで、分液漏斗を用いて、得られた有機層をイオン交換水で洗浄した。洗浄は、有機層の洗浄に使用したイオン交換水のpHが7になるまで行った。次いで、温度180℃かつ圧力1kPaの条件で、水洗された有機層から溶媒を留去した。次いで、溶媒が留去された有機層をろ過し、上述した化学式(11)で表されるエステル化合物(11)を得た(収量752g)。
【0097】
[エステル化合物(12)、(21)〜(25)及び(30)〜(38)の合成]
以下の点を変更したこと以外は、エステル化合物(11)の合成と同様の方法により、上述した化学式(12)及び(21)〜(25)でそれぞれ表されるエステル化合物(12)及び(21)〜(25)をそれぞれ得た。同様に、以下の点を変更したこと以外は、エステル化合物(11)の合成と同様の方法により、下記化学式(30)〜(38)でそれぞれ表されるエステル化合物(30)〜(38)をそれぞれ得た。
【0098】
(変更点)
反応に使用したアルコール成分及びカルボン酸成分を、それぞれ目的物であるエステル化合物の出発物質に変更した。例えば、エステル化合物(12)については、アルコール成分としてドコサノールを用い、かつカルボン酸成分としてドコサン酸を用いた。なお、エステル化合物(12)、(21)〜(25)及び(30)〜(38)のそれぞれの合成に用いたアルコール成分の物質量は、エステル化合物(11)の合成に用いたオクタデカノールの物質量(1.48モル)と同じであった。また、エステル化合物(12)、(21)〜(25)及び(30)〜(38)のそれぞれの合成に用いたカルボン酸成分の物質量は、エステル化合物(11)の合成に用いたオクタデカン酸の物質量(1.52モル)と同じであった。
【0099】
(エステル化合物(30)〜(38)の構造)
エステル化合物(30)〜(38)の構造を、それぞれ以下に示す。
【0100】
【化7】
【0101】
【化8】
【0102】
<離型剤の調製>
[離型剤RA−1の調製]
70gのエステル化合物(11)と、30gのエステル化合物(21)とを温度100℃で加熱溶融して混合した。その後、混合物を温度25℃まで冷却した後、混合物を粉砕し、離型剤RA−1を得た。
【0103】
[離型剤RA−2〜RA−7及び離型剤RB−1〜RB−9の調製]
以下の点を変更したこと以外は、離型剤RA−1の調製と同様の方法により、離型剤RA−2〜RA−7及び離型剤RB−1〜RB−9をそれぞれ得た。
【0104】
(変更点)
直鎖状エステル化合物として、表2に示すエステル化合物を表2に示す使用量で用いた。分枝鎖状エステル化合物として、表2に示すエステル化合物を表2に示す使用量で用いた。なお、直鎖状エステル化合物の欄の「−」は、直鎖状エステル化合物を使用しなかったことを意味する。同様に、分枝鎖状エステル化合物の欄の「−」は、分枝鎖状エステル化合物を使用しなかったことを意味する。
【0105】
【表2】
【0106】
<トナーTA−1の作製>
[トナー母粒子MA−1の作製]
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−20B」)を用いて、回転速度2400rpmの条件で、750gの低Tg非結晶性ポリエステル樹脂(Tg:38℃、Tm:65℃)と、100gの中Tg非結晶性ポリエステル樹脂(Tg:53℃、Tm:84℃)と、150gの高Tg非結晶性ポリエステル樹脂(Tg:71℃、Tm:120℃)と、50gの結晶性ポリエステル樹脂(Mp:50℃、Tm:56℃、結晶性指数:1.12)と、40gの着色剤としての銅フタロシアニン顔料(クラリアントジャパン株式会社製「C.I.ピグメントブルー15:3」)と、10gの電荷制御剤としての4級アンモニウム塩(オリヱント化学工業株式会社製「BONTRON(登録商標)P−51」)と、50gの離型剤RA−1とを3分間混合した。続けて、得られた混合物を、2軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて、材料供給速度5kg/時、軸回転速度160rpm、シリンダー温度120℃の条件で溶融混練した。その後、得られた溶融混練物を冷却した。続けて、冷却された溶融混練物を、粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製「ロートプレックス(登録商標)」)を用いて粗粉砕した。続けて、得られた粗粉砕物を、ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製「超音波ジェットミルI型」)を用いて微粉砕した。続けて、得られた微粉砕物を、分級機(コアンダ効果を利用した分級機:日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて分級し、体積中位径(D50)6.0μmのトナー母粒子MA−1を得た。
【0107】
[外添工程]
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−10B」)を用いて、回転速度3000rpmかつジャケット温度20℃の条件で、100質量部のトナー母粒子MA−1と、1.5質量部の疎水性シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)RA−200H」)とを、2分間混合した。これにより、トナー母粒子MA−1の表面に外添剤(疎水性シリカ粒子の粉体)を付着させた。続けて、得られた粉体を、300メッシュ(目開き48μm)の篩を用いて篩別した。その結果、正帯電性のトナーTA−1が得られた。
【0108】
<トナーTA−2〜TA−7及びトナーTB−1〜TB−9の作製>
トナー母粒子の作製において、離型剤RA−1の代わりに表3に示す離型剤を用いたこと以外は、トナーTA−1の作製と同様の手順により正帯電性のトナーTA−2〜TA−7及びトナーTB−1〜TB−9をそれぞれ得た。
【0109】
<トナーTB−10の作製>
トナー母粒子の作製において、結晶性ポリエステル樹脂を使用しなかったこと以外は、トナーTA−1の作製と同様の手順により正帯電性のトナーTB−10を得た。
【0110】
<評価方法>
[現像剤の調製]
個数平均一次粒子径35μmのフェライトキャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「TASKalfa5550ci」用キャリア)100質量部と、評価に用いるトナー10質量部とを、粉体混合機(株式会社セイワ技研製「ロッキングミル RM−10」)にて30分間混合して、評価用現像剤(2成分現像剤)を調製した。
【0111】
[VOCの発生量]
モノクロプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「ECOSYS(登録商標)P2135dn」)を二成分現像剤で現像できるように改造し、これを評価機として用いた。この評価機でA4サイズの紙にトナーを定着させる際、定着ローラーの表面の最高温度は全域で190℃であった。また、この評価機でA5サイズの紙にトナーを定着させる際、定着ローラーの表面の最高温度は、通紙部においては185℃であり、非通紙部においては240℃であった。なお、通常、幅が狭い紙(例えばA5サイズの紙)にトナーを定着させる際は、非通紙部が高温となるため、VOCが発生し易くなる。
【0112】
上述のようにして調製した2成分現像剤を評価機の現像装置に投入し、補給用トナー(評価に用いるトナー)を評価機のトナーコンテナに投入した。次いで、評価機をステンレス鋼製チャンバー(容積:5m3)内に設置した後、チャンバー内を15m3/時の流量で1時間換気した。次いで、換気を停止し、ハーフトーン画像(画像濃度25%)をA4サイズの紙に10枚連続で印刷した後、ハーフトーン画像(画像濃度25%)をA5サイズの紙に250枚連続で印刷した。上記印刷の開始時から60分が経過するまでに評価機から排出された排気を、TENAX(登録商標)管により100mL/分の吸引速度で捕集した。次いで、加熱脱着装置を用いて、TENAX管から捕集したVOCを脱離させ、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS法)にて脱離されたVOCの総和(以下、TVOCと記載する。)の量を測定した。分析装置及びカラムの詳細を以下に示す。
【0113】
分析装置としては、ガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製「GCMS−QP2010 Ultra」)及びマルチショット・パイロライザー(フロンティア・ラボ株式会社製「FRONTIER LAB Multi−functional Pyrolyzer(登録商標)EGA/PY−3030D」)を用いた。カラムとしては、GCカラム(フロンティア・ラボ株式会社製「UA−5」)を用いた。ガスクロマトグラフの条件、質量分析の条件、及びTVOCの定量方法を以下に示す。
【0114】
(ガスクロマトグラフの条件)
キャリアガス:ヘリウム(He)ガス
キャリア流量:1mL/分
気化室温度:130℃
熱分解温度:加熱炉「600℃」、インターフェイス部「320℃」
昇温条件:40℃で15分間保持した後、40℃から昇温速度14℃/分で320℃まで昇温し、320℃で15分間保持した。
【0115】
(質量分析の条件)
イオン化法:EI(Electron Impact)法
イオン源温度:200℃
インターフェイス部の温度:320℃
検出モード:スキャン(測定範囲:45m/z〜500m/z)
【0116】
(TVOCの定量方法)
上記条件でGC/MS法による分析を行い、得られたクロマトグラムにおいて、n−ヘキサンの検出ピークとn−ヘキサデカンの検出ピークとの間で検出される成分のうち、エチレングリコールを除いた成分のピークの総面積を、下記方法で予め作成したトルエンの検量線を用いてトルエンの量に換算した。得られた換算値を、評価対象のトナーのTVOCの量(単位:mg/時)とした。TVOCの量が10mg/時未満であればVOCの発生を抑制できている(良い)と評価し、TVOCの量が10mg/時以上であればVOCの発生を抑制できていない(良くない)と評価した。結果を表3に示す。なお、表3において、TVOCの量の欄の「−」は、TVOCの量を測定しなかったことを意味する。
【0117】
(トルエンの検量線の作成方法)
6個のバイアル瓶(10mL)に、1000質量ppmに調製したトルエンのアセトン溶液を、それぞれシリンジで1μL、2μL、4μL、10μL、20μL及び25μL採取した。ついで、上述したGC/MS法の条件と同じ条件で分析を行い、注入量とピーク面積とをプロットし、トルエンの検量線を作成した。
【0118】
[オフセットの評価]
評価機としては、上述したVOCの発生量の測定で用いた評価機と同じものを用いた。前述の手順で調製した評価用現像剤を評価機の現像装置に投入し、補給用トナー(評価に用いるトナー)を評価機のトナーコンテナに投入した。次いで、温度23℃かつ湿度50%RHの環境下、上記評価機を用いて、大きさ25mm×25mmのソリッド画像を印刷用紙(A4サイズ)に1枚印刷した。印刷用紙の搬送方向における用紙先端から形成されたソリッド画像までの長さは、10mmであった。次いで、ソリッド画像が形成された印刷用紙の白紙部を目視で観察し、オフセットが発生したか否かを判定した。詳しくは、定着ローラーにトナーが付着したことに起因する汚れ(定着ローラーの回転周期毎に現れる汚れ)が印刷用紙上にあれば、オフセットが発生したと判定した。オフセットが発生しなかった場合、A(シャープメルト性が維持され、かつ離型性に優れる)と評価した。オフセットが発生した場合、B(シャープメルト性が維持されていないか離型性が良くない)と評価した。結果を表3に示す。なお、トナーのシャープメルト性が維持されていない場合、コールドオフセットに起因する汚れが印刷用紙上に付着する。一方、トナーの離型性が良くない場合、ホットオフセットに起因する汚れが印刷用紙上に付着する。
【0119】
[トナーの凝集度(耐熱保存性)]
評価対象のトナー3gを容量20mLのポリエチレン製容器に入れて、その容器を、55℃に設定された恒温器内に3時間静置した。その後、恒温器から取り出したトナーを20℃で3時間冷却して、評価用トナーを得た。
【0120】
得られた評価用トナーを、質量既知の140メッシュ(目開き105μm)の篩に載せた。そして、評価用トナーを含む篩の質量を測定し、篩上のトナーの質量(篩別前のトナーの質量)を得た。続けて、粉体特性評価装置(ホソカワミクロン株式会社製「パウダテスタ(登録商標)」)に上記篩をセットし、粉体特性評価装置のマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5の条件で30秒間、篩を振動させ、評価用トナーを篩別した。篩別後、篩を通過しなかったトナー(篩上に残留したトナー)の質量を測定した。そして、篩別前のトナーの質量と、篩別後のトナーの質量(篩を通過しなかったトナーの質量)とに基づいて、以下の式に従ってトナーの凝集度(単位:質量%)を求めた。結果を表3に示す。
トナーの凝集度=100×篩別後のトナーの質量/篩別前のトナーの質量
【0121】
トナーの凝集度が10質量%未満であれば耐熱保存性が「良い」と評価し、トナーの凝集度が10質量%以上であれば耐熱保存性が「良くない」と評価した。
【0122】
【表3】
【0123】
トナーTA−1〜TA−7は、トナー母粒子が非結晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂を含んでいた。トナーTA−1〜TA−7は、離型剤が、第1エステルワックス及び第2エステルワックスを含んでいた。トナーTA−1〜TA−7は、第1エステルワックス及び第2エステルワックスの合計に対する第2エステルワックスの質量比(比E2)が、0.2以上0.4以下であった。
【0124】
表3に示すように、トナーTA−1〜TA−7は、TVOCの量が10mg/時未満であった。よって、トナーTA−1〜TA−7は、VOCの発生を抑制できていた。トナーTA−1〜TA−7は、オフセットの評価がAであった。よって、トナーTA−1〜TA−7は、シャープメルト性が維持され、かつ離型性に優れていた。トナーTA−1〜TA−7は、トナーの凝集度が10質量%未満であった。よって、トナーTA−1〜TA−7は、耐熱保存性が良好であった。
【0125】
トナーTB−1は、離型剤が第2エステルワックスを含んでいなかった。トナーTB−2は、離型剤が第1エステルワックスを含んでいなかった。トナーTB−3は、比E2が0.4を超えていた。トナーTB−4は、比E2が0.2未満であった。トナーTB−5〜TB−9は、離型剤が第1エステルワックス及び第2エステルワックスを含んでいなかった。トナーTB−10は、トナー母粒子が結晶性ポリエステル樹脂を含んでいなかった。
【0126】
表3に示すように、トナーTB−1及びTB−4は、TVOCの量が10mg/時以上であった。よって、トナーTB−1及びTB−4は、VOCの発生を抑制できていなかった。トナーTB−2、TB−3、TB−5、TB−6及びTB−9は、トナーの凝集度が10質量%以上であった。よって、トナーTB−2、TB−3、TB−5、TB−6及びTB−9は、耐熱保存性が良くなかった。
【0127】
表3に示すように、トナーTB−2、TB−3、TB−5〜TB−8及びTB−10は、オフセットの評価がBであった。トナーTB−2は、離型剤が第1エステルワックスを含んでいなかったため、離型剤自体のシャープメルト性が低くなり、トナーの離型性が低下したものと考えられる。トナーTB−3は、離型剤中の第1エステルワックスの含有割合が少なかったため、離型剤自体のシャープメルト性が低くなり、その結果、トナーの離型性が低下したものと考えられる。トナーTB−5は、離型剤中のエステル化合物が有するアルキル基のうち、アルコール成分に由来するアルキル基の炭素原子数が少なかったため、離型剤の融点が過度に低くなり、その結果、トナーの離型性が低下したものと考えられる。トナーTB−6は、離型剤中のエステル化合物が有するアルキル基のうち、カルボン酸成分に由来するアルキル基の炭素原子数が少なかったため、離型剤の融点が過度に低くなり、その結果、トナーの離型性が低下したものと考えられる。トナーTB−7は、離型剤中のエステル化合物が有するアルキル基のうち、アルコール成分に由来するアルキル基の炭素原子数が多かったため、トナーの定着時において離型剤の流動性が低下し、その結果、トナーの離型性が低下したものと考えられる。トナーTB−8は、離型剤中のエステル化合物が有するアルキル基のうち、カルボン酸成分に由来するアルキル基の炭素原子数が多かったため、トナーの定着時において離型剤の流動性が低下し、その結果、トナーの離型性が低下したものと考えられる。トナーTB−10は、トナー母粒子が結晶性ポリエステル樹脂を含んでいなかったため、トナーのシャープメルト性が低下したものと考えられる。
【0128】
以上の結果から、本発明に係るトナーによれば、シャープメルト性を維持しつつ、耐熱保存性及び離型性を向上させることができる上、VOCの発生を抑制できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明に係るトナーは、例えば複合機又はプリンターにおいて画像を形成するために利用することができる。