(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6859989
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】電流制御電極付遮断器
(51)【国際特許分類】
H01H 9/38 20060101AFI20210405BHJP
H01H 9/46 20060101ALI20210405BHJP
H01H 33/12 20060101ALI20210405BHJP
H01H 33/20 20060101ALI20210405BHJP
H01H 33/664 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
H01H9/38
H01H9/46
H01H33/12
H01H33/20
H01H33/664 D
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-160809(P2018-160809)
(22)【出願日】2018年8月29日
(65)【公開番号】特開2020-35629(P2020-35629A)
(43)【公開日】2020年3月5日
【審査請求日】2019年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】518309323
【氏名又は名称】ノラセージ パタナデチ
(73)【特許権者】
【識別番号】508311411
【氏名又は名称】貫洞 正明
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】ノラセージ パタナデチ
(72)【発明者】
【氏名】貫洞 正明
【審査官】
太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0181253(US,A1)
【文献】
特開2010−080200(JP,A)
【文献】
特開2005−222705(JP,A)
【文献】
特開平10−116595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 9/30− 9/52
H01H 33/00−33/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電気回路網において、任意の閉回路の枝路電流を遮断するために、当該枝路に直列に接続された電流制御電極付遮断器において、
前記枝路において所定の直流電源に接続された可動接触子電極と、
一端が、前記可動接触子電極と接触状態または非接触状態となるように配設された固定接触子電極と、
前記可動接触子電極と前記固定接触子電極の一端との間における想定アーク放電路と異なる空間に配設され、アーク放電電流を導くための導電性突起を有する導電性のリング形状を備えた電流制御電極と、
前記固定接触子電極の他端に直列に接続された、前記直流電気回路網上における1次側回路部と、当該直流電気回路網に生じたパルス性過電流によって所定の減衰振動電圧を発生する2次側回路部とを、有し、前記2次側回路部の一端には前記電流制御電極が接続されると共に、当該2次側回路部の他端には接地部が接続され、前記1次側回路部に生じたパルス性過電流によって前記2次側回路部に発生した前記減衰振動電圧を前記電流制御電極に印加可能としたパルス発生器と、
前記直流電気回路網において、前記パルス発生器における前記1次側回路部に直列に接続され、当該直流電気回路網に生じるパルス性過電流を検知する電流電圧変換器と、
前記電流電圧変換器が所定のパルス性過電流を検知した際に、前記可動接触子電極と前記固定接触子電極とが接触状態から非接触状態へ移行するよう当該可動接触子電極の移動を制御する可動接触子電極駆動部と、
を備え、
前記可動接触子電極駆動部は、前記電流電圧変換器が前記直流電気回路網に生じるパルス性過電流を検知した際、前記可動接触子電極を前記固定接触子電極から離間するよう移動制御し、
前記電流制御電極は、前記パルス発生器において発生した前記減衰振動電圧が印加された際、当該減衰振動電圧の極性に応じて、当該電流制御電極の近傍において前記可動接触子電極と前記固定接触子電極との離間により発生したアーク放電により生成された所定の荷電粒子を反発または吸収し、さらに、前記導電性突起を介して当該アーク放電の一部を誘導かつ分流制御し、
前記パルス発生器は、前記電流制御電極において誘導かつ分流された前記アーク放電の一部を前記接地部に向けて流出する
ことを特徴とする電流制御電極付遮断器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回路電流を遮断する電流制御付遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的に交流電圧電源のみならず直流電圧電源の用途が拡大し、現在、民生(例えば:鉄道、トロリー、電気分解、鉱山、風力、太陽光発電)にまで直流電圧電源の利用が広がっている。
【0003】
この直流電圧電源は、交流電圧電源と異なり、一定電圧と一極性(正極性または負極性)で供給される。そのため、その回路で過電流(例えば、短絡、地絡)が生じた場合、一定電圧下で、過電流を遮断する必要性のため、近年、各種の直流高速遮断器(例えば、非特許文献1)が開発されている。一方、直流高速遮断器においては、安全な保守管理作業の面から、近年益々、小型化、軽量化および高速遮断性能が要求されるに至っている。
【0004】
ところで、直流高速遮断器は、一般に、電気的並びに機械的からなる動作で構成されている。しかし、遮断器の種類で異なるが、直流高速遮断器は、パワーエレクトロニクスの利用(スイッチング技術、同期回路、共振回路など)、アークランナ、接触部、ストッパー、保持電磁石(磁性体)、保持コイル、開閉バネ、保持コイル、調整鉄心、接極子、引き外しコイル、誘導分路、圧縮空気等の要素があり、その動作機構は複雑である。
【0005】
ここで、直流高速遮断器としては、2つの接触子電極、すなわち、可動接触子電極と固定接触子電極とを備える構成例が知られている。また、直流高速遮断器を含む直流回路においては、過電流を検出する手段として非接触方式の変流器(CT:current transformer)を採用する例が広く知られている。
【0006】
また、過電流検出手段を含む直流高速遮断器において要求される遮断性能は、その被遮断回路で過電流が生じた場合、当該過電流を如何に短時間で検出測定することに加え、主電流を遮断するための接触子電極が非接触状態になり、かつ、アーク放電が消滅するまでの応答時間を如何に短時間にするかに拘わるものである。
【0007】
なお、過電流検出手段として採用される上述した変流器(CT)は、一般に、過電流を検出するにあたって周波数帯域が限られており、パルス性の過電流については相対的に検出性能が劣ることも知られている。
【0008】
また、現在、過電流を検出してから可動接触子部と固定接触部が非接触状態になり、かつ、アーク放電電流が消滅するまでの時間(動作時間)はミリ秒台であることが知られている。
【0009】
一方、近年、直流電気回路網に過電流が生じた際、当該過電流をナノ秒で検出することを可能とする電流電圧変換器が、特許第6030293号明細書(特許文献2)において示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献1】三菱電機:電力No.1801 2018 2月7日
【特許文献1】特許第6030293号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、遮断器の接触子電極として、可動接触子電極および固定接触子電極により構成されている遮断器の場合、これら可動接触子電極と固定接触子電極とに被遮断電流の全電流が流入状態で非接触状態にすると、アーク放電が生じる。このとき生じたアーク放電電流(プラズマ化された電流)は、全て両接触子電極に流入することになる。そして、このアーク放電電流が流入した両接触子電極(可動接触子電極および固定接触子電極)は、アーク放電電流のジュール熱によりその電極材料の表面が焼損劣化することとなる。
【0012】
例えば、上述の如き遮断器を配設した直流回路網において、サージまたは短絡事故が生じた場合、または、使用電気機器の電気的劣化過程の場合等において過電流(含:パルス性)が流れた際、遮断器は当該回路を遮断する。このとき当該遮断器には、遮断時(すなわち、可動接触子電極と固定接触子電極との開閉時)に当該固定接触部と可動接触部との間でアーク(火花放電)が発生し、これにより接触子表面が焼損し消耗することとなる。
【0013】
また、上述の如き過電流が生じた場合に限らず、通常の電流遮断においても遮断器の操作回数の増加に伴いアーク放電の回数が増すことになる。そして、その接触子表面の劣化面積の増大並びに表面からの深さが、助長され、最終的に、電流遮断性能が劣化し、不能になる虞がある。
【0014】
換言すれば、上述の如き構成を成す遮断器は、経年稼働により電極材料表面の焼損劣化が進行し、ついにはアーク放電電流の遮断が不能になり、稼働寿命時間の低下を来たす虞があるといえる。
【0015】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、電極接触部のアーク放電電流による電極表面の焼損劣化を軽減し、遮断器の稼働寿命時間を延ばすことができる電流制御電極付遮断器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様の電流制御電極付遮断器は、
直流電気回路網において、任意の閉回路の枝路電流を遮断するために、当該枝路に直列に接続された電流制御電極付遮断器において、前記枝路において所定の直流電源に接続された可動接触子電極と、
一端が、前記可動接触子電極と接触状態または非接触状態
となるように配設された固定接触子電極と、前記可動接触子電極と前記固定接触子電極
の一端との間に
おける想定アーク放電路と異なる空間に配設され
、アーク放電電流を導くための導電性突起を有する導電性のリング形状を備えた電流制御電極と、前記固定接触子電極
の他端に直列に接続され
た、前記直流電気回路網上における1次側回路部と、当該直流電気回路網に生じたパルス性過電流によって所定の減衰振動電圧を発生する2次側回路部とを、有し、前記2次側回路部の一端には前記電流制御電極が接続されると共に、当該2次側回路部の他端には接地部が接続され、前記1次側回路部に生じたパルス性過電流によって前記2次側回路部に発生した前記減衰振動電圧を前記電流制御電極に印加可能としたパルス発生器と、
前記直流電気回路網において、前記パルス発生器における前記1次側回路部に直列に接続され、当該直流電気回路網に生じるパルス性過電流を検知する電流電圧変換器と、前記電流電圧変換器が所定のパルス性過電流を検知した際に、前記可動接触子電極と前記固定接触子電極とが接触状態から非接触状態へ移行するよう当該可動接触子電極の移動を制御する可動接触子電極駆動部と、を備え、
前記可動接触子電極駆動部は、前記電流電圧変換器が前記直流電気回路網に生じるパルス性過電流を検知した際、前記可動接触子電極を前記固定接触子電極から離間するよう移動制御し、前記電流制御電極は、
前記パルス発生器において発生した前記減衰振動電圧が印加された際、
当該減衰振動電圧の極性に応じて、当該電流制御電極の近傍において前記可動接触子電極と前記固定接触子電極との離間により発生したアーク放電により生成された所定の荷電粒子を反発または吸収し、さらに、前記導電性突起を介して当該アーク放電の一部を誘導かつ分流制御し、前記パルス発生器は、前記電流制御電極において誘導かつ分流された前記アーク放電の一部を前記接地部に向けて流出する。
【0017】
上述したように、本発明の電流制御電極付遮断器は、可動接触子電極および固定接触子電極並びに電流制御電極を備え、直流回路網に過電流が生じた際、可動接触子電極を固定接触子電極から離間させることで枝路電流を遮断する遮断器において、可動接触子電極と固定接触子電極との間に生じるアーク放電電流の一部を分流し、接触子部に流入するアーク電流を抑制、低減または消滅させることで、可動接触子電極および固定接触子電極の焼損劣化を軽減し、稼働寿命時間を延ばすことができる。
【0018】
このアーク放電電流を分流するために、アーク放電電流に電磁気的影響を及ぼす電気的磁気的空間に、第3の導電性電極である電流制御電極を配置する。具体的には、可動接触子電極と固定接触子電極との間に配置する。
【0019】
そして、可動接触子電極および固定接触子電極に過電流が流入し、可動接触子電極と固定接触子電極とを開放する(非接触状態にする)ことよって生じるアーク放電電流を、前記電流制御電極に正極性電圧もしくは負極性電圧または双方の極性を有する電圧を時系列で印加する、または、振動波電圧(例えば、減衰振動電圧)を印加することで制御する。
【0020】
この電流制御電極に印加される電圧の極性(正極性または負極性)で、可動接触子電極と固定接触子電極との間で発生したアーク放電によって生じる電子、イオン、放電劣化生成物などの荷電粒子を反発、吸収させることで電流制御電極にアーク放電電流の一部を誘導かつ分流させ、アーク放電電流を制御し、アーク放電電流の可動接触子電極もしくは固定接触子電極または双方への流入を抑制させる。
【0021】
このアーク放電電流の制御抑制によって、可動接触子電極もしくは固定接触子電極または双方の表面の焼損に依る界面劣化を低減して、遮断器の機器寿命を長くするができる。
【0022】
さらに、本発明の電流制御電極付遮断器は、当該電流制御電極付遮断器が配設された直流回路網に、従来の1000分の1倍短く過電流の検出、すなわち、過電流をナノ秒台で検出測定できる電流電圧変換器(過電流測定装置)を配設することで、過電流の発生から主電流を遮断するまでの従来の応答時間(ミリ秒台)を短縮でき、可動接触子電極もしくは固定接触子電極または双方の表面の焼損に依る界面劣化の低減をより効果的なものとする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電極接触部のアーク放電電流による電極表面の焼損劣化を軽減し、遮断器の稼働寿命時間を延ばすことができる電流制御電極付遮断器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態の電流制御電極付遮断器の構成であって、可動接触子電極1と固定接触子電極2が接触している状態を示した回路図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態の電流制御電極付遮断器の構成であって、可動接触子電極1と固定接触子電極2が離間した非接触状態を示した回路図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態の電流制御電極付遮断器において、可動接触子電極1、固定接触子電極2および電流制御電極3の位置関係を示した要部拡大図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態の電流制御電極付遮断器において、可動接触子電極1、固定接触子電極2および電流制御電極3の位置関係を示した要部断面および平面を示した拡大図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態の電流制御電極付遮断器における電流制御電極3のトリガ電圧波形と、雷インパルス電圧発生器からの印加電圧波形との関係を示した図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態の電流制御電極付遮断器における電流制御電極3およびパルス発生器4の電気的特性を検証した実証試験用の回路構成図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施形態の電流制御電極付遮断器において、可動接触子電極1、固定接触子電極2および電流制御電極3の位置関係を示した要部断面および平面を示した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0026】
<第1の実施形態>
図を用いて第1の実施形態の電流制御電極付遮断器の構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態の電流制御電極付遮断器の構成であって、可動接触子電極1と固定接触子電極2が接触している状態を示した回路図であり、
図2は、第1の実施形態の電流制御電極付遮断器の構成であって、可動接触子電極1と固定接触子電極2が離間した非接触状態を示した回路図である。
【0027】
図1、
図2に示すように、本実施形態の電流制御電極付遮断器100は、直流電源7を有する直流電気回路網における任意の枝路を開放(遮断)可能に配設された可動接触子電極1および固定接触子電極2と、これら可動接触子電極1と固定接触子電極2との間の空間における想定アーク放電路と異なる空間に配置された電流制御電極3と、前記固定接触子電極2に接続され当該直流電気回路網に過電流が生じた際に電流制御電極3に対して所定の減衰振動電圧を印加するパルス発生器4と、当該直流電気回路網における過電流を検出する電流電圧変換器6と、電流電圧変換器6において過電流を検出した際に可動接触子電極1を移動せしめる可動接触子電極駆動部8と、を有する。
【0028】
本実施形態において可動接触子電極1および固定接触子電極2は、以下に示すように配置される。すなわち本実施形態においては、直流回路網の任意の枝電流を遮断するために、その枝電流の両端の2つの節P1、P2(電位の高い接続点P2の電位をV2、電位の低い接続点P1の電位をV1とすると、V2≧V1;説明のため正極性とする)の一方の節P2に固定接触子電極2を配置し、他の一方の節P1に可動接触子電極1を配置する。
【0029】
ここで
図1は、当該直流電気回路網が閉じている状態、すなわち、可動接触子電極1と固定接触子電極2が接触している状態を示し、
図2は、当該直流電気回路網における任意の枝路が開放(遮断)された状態、すなわち、可動接触子電極1と固定接触子電極2が離間して非接触の状態を示している。
【0030】
電流制御電極3は、アーク放電電流を分流するために、アーク放電電流に電磁気的影響を及ぼす電気的磁気的空間であって、可動接触子電極1と固定接触子電極2との間の空間、より具体的には、可動接触子電極1と固定接触子電極2との間の絶縁性消弧媒体(気体(例:空気、不活ガスSF6,SF6代替気体(含:加圧気体)、液体、真空、等)の空間に配置される。
【0031】
図3は、第1の実施形態の電流制御電極付遮断器において、可動接触子電極1、固定接触子電極2および電流制御電極3の位置関係を示した要部拡大図であり、
図4は、第1の実施形態の電流制御電極付遮断器において、可動接触子電極1、固定接触子電極2および電流制御電極3の位置関係を示した要部断面および平面を示した拡大図である。
【0032】
図3、
図4に示すように、本第1の実施形態における電流制御電極3は、可動接触子電極1が可動する直線上の中心軸を取り巻くリング形状を呈し、
図3、
図4においては図示しないが、絶縁部材で保持されている。なお、可動接触子電極1が固定接触子電極2から離間した際の当該可動接触子電極1と固定接触子電極2との電極間距離をL、リング形状の電流制御電極3の高さをL1とすると、L1<L、また、電流制御電極3の内径をr2、可動接触子電極1の半径をr1とすると、r2>r1の関係を有する。
【0033】
また、電流制御電極3は、当該直流回路網において過電流が発生した場合、その過電流で高電圧減衰振動パルスを発生させる上述したパルス発生器4の出力電圧の一端子に接続されている(
図1、
図2参照)。
【0034】
この電流制御電極3は、導電性部材が用いられ、本実施形態においては可動接触子電極1および固定接触子電極2と同等な部材により構成される。さらに、この導電性の電流制御電極3は、上述したように可動接触子電極1と固定接触子電極2とが開路時に発生するアーク放電に対し、電磁気的に、アーク放電を制御できる位置空間に配置されている。
【0035】
なお、本実施形態において採用する電流制御電極3は、高さL1のリング形状を呈するが、電流制御電極3の形状はこれに限らず、例えば、可動接触子電極1が可動する直線上の中心軸を取り巻く円筒形状、同直線上の中心軸を取り巻く網目形状、同直線上の中心軸に対する放射棒形状、同直線上の中心軸に対する放射針形状等の形状を採ってもよい。
【0036】
パルス発生器4は、当該直流電気回路網において前記固定接触子電極2の他端に接続されると共に、その2次側の出力端子は前記電流制御電極3に接続されている。そして、当該直流電気回路網に過電流が生じた際に2次側出力端子から所定のトリガーパルス(減衰振動電圧)を出力し、電流制御電極3に対して印加する。
【0037】
このパルス発生器4から出力される減衰振動電圧は、正極性または負極性の電圧、あるいは正極性および負極性を繰り返す極性のものである。
【0038】
ここで、本実施形態において採用する前記パルス発生器4は、本発明の発明者による特許第4595097号明細書に詳しい。
【0039】
なお、本実施形態においては、この電流制御電極3に印加されるトリガーパルス(減衰振動電圧)は、パルス発生器4が発生する減衰振動電圧であるとしたが、これに限らず、例えば、電流制御電極3は、この遮断器(可動接触子電極1と固定接触子電極2)の開閉操作時に同期して、図示しない他の電源から正極性または負極性の電圧、あるいは正極性および負極性の波形を有する電圧(例えば、減衰振動波電圧)が架電(印加)されるものであってもよい。
【0040】
電流電圧変換器6は、当該直流電気回路網において、パルス発生器4の他端に対して負荷5を介して直列に接続される。本実施形態において電流電圧変換器6は、当該直流電気回路網に過電流が生じた際、当該過電流をナノ秒で検出可能である。また、可動接触子電極駆動部8は、電流電圧変換器6が過電流(含:パルス性)を検出した際、可動接触子電極1と固定接触子電極2とが接触した状態(
図1参照)から非接触状態(
図2参照)へ移行するための制御をするための駆動信号を当該可動接触子電極1に対して出力する。
【0041】
なお、本実施形態において採用する電流電圧変換器6は、本発明の発明者による特許第6030293号明細書において開示されている。
【0042】
また、本実施形態の電流制御電極付遮断器100は、当該電流制御電極付遮断器100が配設された直流回路網に、従来の1000分の1倍短く過電流の検出、すなわち、過電流をナノ秒台で検出測定できる電流電圧変換器6(過電流測定装置)を配設することで、過電流の発生から主電流を遮断するまでの従来の応答時間(ミリ秒台)を短縮でき、可動接触子電極もしくは固定接触子電極または双方の表面の焼損による界面劣化の低減をより効果的なものとする。
【0043】
<本実施形態の作用>
本実施形態において、可動接触子電極1と固定接触子電極2とが接触した状態(
図1参照)において直流回路網において過電流が生じたとする。このとき電流電圧変換器6は当該過電流をナノ秒で検出可能であり、当該過電流をその発生から極短時間(ナノ秒オーダー)で検出すると、この検出に伴い可動接触子電極駆動部8が可動接触子電極1に対して所定の駆動信号を出力する。
【0044】
可動接触子電極1は前記駆動信号を受けると固定接触子電極2から離間しはじめ、すなわち、可動接触子電極1と固定接触子電極2が接触した状態(
図1参照)から非接触の状態(
図2参照)へと移行する。
【0045】
可動接触子電極1と固定接触子電極2とが接触した状態(
図1参照)から非接触の状態(
図2参照)へと移行する際に、可動接触子電極1と固定接触子電極2との間にアーク放電が発生し、このアーク放電によって可動接触子電極1および固定接触子電極2ならびに電流制御電極3の近傍には電子、イオン、放電劣化生成物などの荷電粒子が生成される。
【0046】
一方、直流回路網において生じた過電流によりパルス発生器4の2次側の出力端子からは上述したトリガパルス(減衰振動電圧)が出力され、このトリガパルス(減衰振動電圧)が電流制御電極3に印加される。電流制御電極3は、この減衰振動電圧の印加の極性(正極性または負極性)に応じて、近傍において生成された電子、イオン、放電劣化生成物などの荷電粒子を反発または吸収する。このとき、可動接触子電極1と電流制御電極3との間、および、可動接触子電極1と固定接触子電極2との間には絶縁破壊が生じ、電流制御電極3にはアーク放電電流の一部が誘導かつ分流され、パルス発生器4からグランドに向けて当該分流した電流が流れる。
【0047】
なお、パルス発生器4からトリガパルス(減衰振動電圧)が出力された後、電流制御電極3において絶縁破壊が起こるまでの時間は、本実施形態においては、後述する実証試験結果に示すように、極短時間(例えば、電極間距離が0.6mとすると約0.2μs程度)である。
【0048】
上述したように、本実施形態の電流制御電極3は、電気システム的には、直流電気回路網に過電流が生じてから極短時間の後に、可動接触子電極1と固定接触子電極2との間に生じたアーク放電電流の一部を誘導かつ分流することで、当該アーク放電電流を制御し、アーク放電電流が可動接触子電極1もしくは固定接触子電極2または双方に対する流入を抑制することができる。
【0049】
すなわち、本実施形態においては、アーク放電電流が制御され、アーク放電電流と電流制御電極に流入した電流の差分が可動接触子電極1もしくは固定接触子電極2またはその双方の電極に流入するため、可動接触子電極1および固定接触子電極2の表面のジュール熱の焼損による表面劣化を低減することができる。
【0050】
図5は、第1の実施形態の電流制御電極付遮断器における電流制御電極3のトリガ電圧波形と、雷インパルス電圧発生器からの印加電圧波形との関係を示した図である。また、
図6は、第1の実施形態の電流制御電極付遮断器における電流制御電極3およびパルス発生器4の電気的特性を検証した実証試験用の回路構成図である。
【0051】
この実証試験結果の特性図は、雷インパルス電圧発生器17から可動接触子電極1に電源電圧として雷インパルス電圧(576kV)を印加したときに可動接触子電極1に印加された印加電圧波形(CH1)と、当該印加電圧によってパルス発生器4からトリガーパルス(減衰振動電圧)が発生したことを示すトリガパルス波形(CH2)とを示したものであって、当該トリガパルスの発生から極短時間(当該試験用回路においては0.2μs)で絶縁破壊が生じたことを示すものである。
【0052】
なお、実験条件は、可動接触子電極1と固定接触子電極2との電極間距離:0.6[m],可動接触子電極1と電流制御電極3との電極間距離:0.6[m]。また、電流制御電極3に相当する電極としては棒状の電極13を用いた。
【0053】
この
図5に示す特性図から、雷インパルス電圧を印加してから、規約原点から約2.4μsでパルス発生器4からトリガパルスが電流制御電極3に向けて出力したとき、その近傍で電子、イオン、放電劣化生成物が生成され、また、規約原点から約2.6μs後に絶縁破壊が生じたことがわかる。すなわち、パルス発生器4からトリガパルスが電流制御電極3に向けて出力した後、約0.2μsで絶縁破壊が起こっていることがわかる。すなわち、電流制御電極3がアーク放電電流を制御したことを実証したものである。なお、時間軸を主としている。
【0054】
<実施形態の効果>
上述したように、本実施形態の電流制御電極付遮断器100によると、可動接触子電極1および固定接触子電極2並びに電流制御電極3を備え、直流電気回路網に過電流が生じた際、可動接触子電極1を固定接触子電極3から離間させることで枝路電流を遮断する遮断器において、可動接触子電極1と固定接触子電極2との間に生じるアーク放電電流の一部を電流制御電極3で分流し、可動接触子電極1および固定接触子電極2に流入するアーク電流を抑制、低減または消滅させることで、可動接触子電極1もしくは固定接触子電極2またはその双方の電極の焼損劣化を軽減し、稼働寿命時間を延ばすことができる。
【0055】
なお、本実施形態においては、電流制御電極付遮断器100を直流電気回路網に適用する例を示したが、本願発明の概念は、これに限らず交流電気回路網にも適用することができる。
【0056】
次に、本実施形態の第2の実施形態について説明する。
図7は、本発明の第2の実施形態の電流制御電極付遮断器において、可動接触子電極1、固定接触子電極2および電流制御電極3の位置関係を示した要部断面および平面を示した拡大図である。
【0057】
図7に示すように、第2の実施形態における電流制御電極3は、開路時、主アーク放電路を電流制御電極3に容易に導くために、すなわち、固定接触子電極2と可動接触子電極1との間の電界E12(電位傾度)よりも大きくするために、アーク放電路に面した電流制御電極3の内周表面に導電性突起3aを設け、当該突起3a部分の電界強度E1cを増大させることを特徴とする。
【0058】
なお、電界E12と電界E1cとの関係は
E1c≫E12
である。
【0059】
ここで、上述した突起3aの部分の電位傾度はさらに高い。本実施形態においてはこの突起3aの存在により、電流制御電極3に印加される電圧によってその部分の近傍が電離し、アークを容易に電流制御電極3に誘導することができるようになっている。
【0060】
上述した実施形態においては、上記電流制御電極3はパルス発生器4からのトリガパルス(減衰振動電圧)の印加によりアーク放電電流を制御したが、これに限らず、可動接触子電極1と固定接触子電極2との開放時に同期し、また、過電流検出にも同期した独立した電源からの所定電圧の印加により放電させる(初期電子、イオン、放電劣化生成物を発生させる)構成を採ってもよい。
【0061】
さらに、電流制御電極3は、過電流検出と可動接触子電極1と固定接触子電極2との開放と同期して、外部から紫外線またはレーザなどの電磁波を照射させる構成を採ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明による電流制御電極付遮断器を電流遮断に用いることによって、短絡事故、地絡並ぶに絶縁劣化時に起こる過電流(含;パルス性)を容易に遮断することが可能であるため、電気機器の絶縁劣化の軽減並びに作業上の安全性が極めて向上できる。
【0063】
このため、太陽光発電のように持続的に直流発電している発電プラントに適用すると、何らかの原因でモジュールが短絡しまたは劣化によって過電流が流れた場合、個々のモジュールを発電プラントから瞬時に開放(開路)することができるので、発電プラントの全発電効率の低下を最小限にすることを可能とする効果を奏する。
【0064】
さらに、その発電プラントの維持管理において、発電ストリングスまたは発電区画(ストリングを直列もしくは並列または双方とした構成)ごとに開放(開路)すること、すなわち故障区間を分離開放が可能であるため、全発電プラントを停止することなく、残りの発電ストリングで継続して電力を供給できる利点がある。
【0065】
そのため、故障区間のストリングのみを交換または修理を安全に保全作業をすることができる。日照時、すなわち太陽光発電プラントの稼働中において、安全に維持管理するとこができる。
【0066】
上述したように、電流制御電極付遮断器の電流制御電極に、遮断器の開閉の操作時に同期している電源から正極性もしくは負極性、または双方性の電圧が架電(印加)される過程で、同期している電源の操作を通信手段(無線遠隔操作)により接続、非接続の動作が可能であるため、遠隔操作で太陽光発電プラントを集中して維持管理ができる。
【0067】
なお、上記において、発電プラントについて記しているが、発電プラントに限らず、各大小需要家(一般家庭も含む)にもこれらの方法は適用が可能であるため、電力系統との効率的連携運用並びに維持管理が容易となる。
【0068】
さらに、電気工学分野、通信工学分野、制御工学、ロボット工学、鉄道工学(含、磁気浮上車:リニアモータカ−)、自動車工学等の直流電源が用いられている総ての分野の電流遮断に適用できる。
【0069】
具体的に、電気鉄道の動力車の直流電流遮断等、電車鉄道用変電所における直流幹線の遮断等、自動車の電源の電流遮断等、ロボットの電源の電流遮断、圧延工場などの直流電動機の電源遮断などに適用可能である。
【0070】
上記から分るように、直流電源を使用している総ての電気情報通信工学分野において、電流を遮断(開路)する用途に好適である。なお、パルス的電源(方形波)において、駆動する電気機器(電動機、DUTY Factor(パルス幅をその周期で除したもの)の比率が大きいもの)であれば適用が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1:可動接触子電極
2:固定接触子電極
3:電流制御電極
4:パルス発生器(減衰振動電圧発生器)
5:負荷
6:電流電圧変換器(過電流検出器)
7:直流電源
8:可動接触子電極駆動部
L:可動接触子電極と固定接触子電極との電極間距離
L1:電流制御電極の高さ
r1:可動接触子電極の半径
r2:電流制御電極の内径