特許第6860002号(P6860002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860002
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物、インキ及び塗料
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/06 20060101AFI20210405BHJP
   C08F 16/32 20060101ALI20210405BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20210405BHJP
   C09D 129/06 20060101ALI20210405BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20210405BHJP
   C09D 7/43 20180101ALI20210405BHJP
   C09D 11/101 20140101ALI20210405BHJP
   C09D 11/03 20140101ALI20210405BHJP
【FI】
   C08L29/06
   C08F16/32
   C08K5/00
   C09D129/06
   C09D4/00
   C09D7/43
   C09D11/101
   C09D11/03
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-507982(P2018-507982)
(86)(22)【出願日】2017年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2017012370
(87)【国際公開番号】WO2017170388
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2020年1月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-71859(P2016-71859)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】横山 勝敏
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−056187(JP,A)
【文献】 特開2013−091715(JP,A)
【文献】 特開平01−131223(JP,A)
【文献】 特開2013−124218(JP,A)
【文献】 特開2012−107237(JP,A)
【文献】 特開2001−233949(JP,A)
【文献】 特開2010−260896(JP,A)
【文献】 特開2006−016509(JP,A)
【文献】 特開2001−181284(JP,A)
【文献】 特開平10−025441(JP,A)
【文献】 特開平05−320617(JP,A)
【文献】 石井博之 ほか,紫外線硬化型オフセットインキ用樹脂の研究,Journal of Photopolymer Science and Technology,1989年,Vol.2,No.2,211-216
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L29、C08F2/44、C08F18/14、C08F263
C09D4,7,11,147
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)と、ゲル化剤(B)とを含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【化1】
[RおよびRは、それぞれ、HまたはCHを表し、
Xは下記のいずれかの環状骨格であってaは2表す。]
【化2】
【請求項2】
更に、エチレン性不飽和化合物(C)を含有する請求項1記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
更に、光重合開始剤を含有する請求項1又は2に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とするインキ。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の光硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とする塗料。
【請求項6】
オーバープリントワニスである請求項に記載の塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリル系重合体(A)とゲル化剤(B)を含有する光硬化性樹脂組成物、並びにその樹脂組成物を含んでなるインキ、塗料に関する。さらに詳しくは印刷適性に優れた光硬化性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光(例えば、紫外線)により硬化させる種々の樹脂組成物は、インキ、塗料、接着剤、フォトレジスト等に使用されている。例えば、紫外線硬化タイプの印刷インキは、硬化速度が速く短時間で硬化できること、溶剤を使わないので環境に適合していること、省資源・省エネルギーであること等の点が高く評価され実用化が広がっている。
【0003】
そのような樹脂組成物の中で、ジアリルフタレート(ジアリルオルソフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルテレフタレート)から誘導されたジアリルフタレート樹脂を含有する樹脂組成物は、紙用のUVオフセットインキとして採用されている。
【0004】
特許文献1には、A.アルミニウムアルコレート又はアルミニウムキレート化合物と、B.ジアリルフタレートプレポリマーと、C.Bと相溶する活性エネルギー線硬化性液状化合物とを、含有する混合物を加熱して得られる活性エネルギー線硬化型印刷インキ用ゲルワニスが、印刷機の操作性に優れることが記載されているが、印刷適性については改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−091715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、印刷適性の良い組成物を構成することができる光硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、特定の構造を有するアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)と、ゲル化剤(B)を含有する光硬化性樹脂組成物が、印刷適性(流動性、印刷応答性)の良い組成物を構成することができることを見出し、本発明に想到した。
すなわち、本発明の光硬化性樹脂組成物は、
下記一般式(I)で表されるアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)と、ゲル化剤(B)とを含有することを特徴とする。
【化1】
[RおよびRは、それぞれ、HまたはCHを表し、
Xは置換基を有しない飽和または一部不飽和の4〜8員環の環状骨格であってa価の基を表し、aは2または3を表す。]
【0008】
上記一般式(I)で表されるアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)とゲル化剤(B)を含有すると、印刷適性に優れた光硬化性樹脂組成物となる。
【0009】
本発明の光硬化性樹脂組成物では、前記一般式(I)中のXが下記のいずれかの環状骨格を有することが好ましい。
【化2】
【0010】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、更に、エチレン性不飽和化合物(C)を含有することが好ましい。
エチレン性不飽和化合物(C)を含有することにより、光硬化性樹脂組成物の乾燥性、得られる硬化物の皮膜強度が向上する、また、印刷に用いるのに適切な粘度に調整することができ、塗布作業性に優れた組成物が得られる。
【0011】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、更に、光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤を含有することによって、光照射による重合がスムーズに進むため、より高分子量の重合体を短時間に得ることができる。
【0012】
本発明のインキは、本発明の光硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とする。
このインキは、印刷適性に優れる。
【0013】
本発明の塗料は、本発明の光硬化性樹脂組成物を含むことを特徴とする。
また、本発明の塗料はオーバープリントワニスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、インキ、塗料、接着剤およびフォトレジストの成分として使用した場合に、印刷適性(流動性、印刷応答性)に優れた光硬化性樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、特定の構造を有するアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)と、ゲル化剤(B)を含有するため、低周波数領域(0.01〜0.1Hz付近)での貯蔵弾性率を低減でき、良好な流動性を有し、及び/又は、高周波数領域(10〜100Hz付近)での貯蔵弾性率を増大でき、高速印刷における応答速度が向上され、良好な印刷応答性が得られる。
このように、本発明では、アリル系重合体(A)と、ゲル化剤(B)とを併用することにより、良好な流動性及び/又は印刷応答性を得ることができ、印刷適性に優れ、インキ、塗料として好適に使用できる。
また、一般的に、流動性と印刷応答性は二律背反性能であるが、アリル系重合体(A)と、ゲル化剤(B)とを併用し、更にゲル化剤(B)としてアルミニウム錯体化合物を使用することにより、流動性と印刷応答性を両立でき、印刷適性により優れ、インキ、塗料としてより好適に使用できる。
なお、アリル系重合体(A)と、ゲル化剤(B)とを併用することにより、低周波数領域(0.01〜0.1Hz付近)での貯蔵弾性率を低減できることは驚くべき知見である。
【0016】
アリル系重合体(A)と共に、ゲル化剤(B)を含有することにより、擬似的に架橋鎖が形成され、高周波数領域での貯蔵弾性率が増大し、応答速度が速くなり、良好な印刷応答性が得られるものと推測される。一方、低周波数領域での貯蔵弾性率を低減できる理由は定かではないが、アリル系重合体(A)の環状骨格Xの構造に起因するものと推測される。
【0017】
また、印刷(特にオフセット印刷)の際に水(例えば、湿し水)を使用する場合、インキに水が混入することとなるが、本発明の光硬化性樹脂組成物は、水が存在しない場合、水が存在する場合のいずれの状態においても、低周波数領域での貯蔵弾性率を低減でき、良好な流動性を有し、及び/又は、高周波数領域での貯蔵弾性率を増大でき、高速印刷における応答速度が向上され、良好な印刷応答性が得られる。
【0018】
更に、オフセットインキとして用いる際にジアリルフタレート樹脂を配合するとプラスチック基材との密着性が充分でないことが知られている。近年、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)といった様々な種類のプラスチック製品が市販されており、ジアリルフタレート樹脂の欠点であるプラスチック基材との密着性の向上が求められている。
【0019】
一方、本発明の光硬化性樹脂組成物は、プラスチック基材に対する密着性に優れ、特にPP(ポリプロピレン)樹脂に対する密着性に優れる。また、アリル系重合体(A)とゲル化剤(B)を含有すると、他の樹脂成分と組み合わせた場合に相溶性の良い組成物を構成することができる。そのため、本発明の光硬化性樹脂組成物は、従来のジアリルフタレート樹脂を用いた組成物では密着性を高くすることが困難であったPP樹脂用のインキ、塗料の成分として適している。
【0020】
よって、本発明のインキは、プラスチック基材に印刷するためのインキとして適しており、特にPP樹脂製のシート、フィルム等の基材に印刷するためのインキとして適している。
【0021】
また、本発明の塗料は、プラスチック基材に描画するための塗料として適しており、特にPP樹脂製のシート、フィルム等の基材に描画するための塗料として適している。
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
アリル系重合体(A)
本発明の光硬化性樹脂組成物は、下記一般式(I)で表されるアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)を含有する。
【化3】
[RおよびRは、それぞれ、HまたはCHを表し、
Xは置換基を有しない飽和または一部不飽和の4〜8員環の環状骨格であってa価の基を表し、aは2または3を表す。]
【0024】
上記一般式(I)におけるXの好ましい例として、以下の環状骨格を例示できる。
【化4】
【0025】
上記一般式(I)におけるXのより好ましい例として、以下の環状骨格を例示できる。
【化5】
【0026】
上記一般式(I)におけるXのさらに好ましい例として、以下の環状骨格を例示できる。
【化6】
【0027】
Xは種々のものであり得て、上記以外の環状骨格であってもよい。環状骨格が一部不飽和である場合において、環状骨格が有する二重結合の数は、1に限定されず、2以上であってもよい。ただし、Xは、芳香族の6員環骨格ではない。
【0028】
Xは、分子内で架橋されていても良く、分子内で架橋されたXの例としては、アダマンタン、ノルボルネン、ノルボルナン等が挙げられる。
【0029】
Xはa価の基であり、aは2又は3であるので、Xは2価又は3価の基である。Xの環状骨格には、一般式(I)中に示されるアリルエステル基[−CO−O−CH−CR=CHR]がa個(2個又は3個)結合している。
【0030】
Xの環上におけるアリルエステル基[−CO−O−CH−CR=CHR]の置換位置は何れの組み合わせであっても良く、アリル系化合物は異なる置換位置の組み合わせを有する物質の混合物でも良い。特に、2つのアリルエステル基が6員環のXに結合するときに、2つのアリルエステル基は、オルト配向、メタ配向またはパラ配向のいずれでもよいが、オルト配向またはパラ配向であることが好ましい。
【0031】
上記一般式(I)で表されるアリル系化合物の具体例としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジアリル、2−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジアリル等を例示することができる。なかでも、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジアリル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルが好ましく、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルがより好ましい。上記アリル系化合物からなる群より選択される少なくとも1種以上を重合することで得られるアリル系重合体(A)を光硬化性樹脂組成物に用いることができる。さらには、上記一般式(I)で表されるアリル系化合物と他の重合可能な化合物を共重合したものを光硬化性樹脂組成物に用いることも可能である。共重合可能な化合物として、例えば、3−メチル−ヘキサヒドロ−1,2−ジアリルフタレート、4−メチル−ヘキサヒドロ−1,2−ジアリルフタレート、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ−1,2−ジアリルフタレート、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ−1,2−ジアリルフタレート等を例示することができる。
【0032】
上記一般式(I)で表されるアリル系化合物の具体例として挙げた化合物を得る方法の例としては、シクロヘキサンジカルボン酸又はシクロヘキサンジカルボン酸無水物とアリルアルコール又はアリルクロライドをエステル化反応させる方法、及び、シクロヘキセンジカルボン酸又はシクロヘキセンジカルボン酸無水物とアリルアルコール又はアリルクロライドをエステル化反応させる方法が挙げられる。
また、上記一般式(I)で表されるアリル系化合物の具体例として挙げた化合物の市販品を用いてもよい。
【0033】
上記一般式(I)で表されるアリル系化合物の重合方法は、特に限定されず、通常の重合反応を用いることができる。上記重合反応には、必要に応じて、適宜重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤を用いることで、より高分子量の重合体を短時間に得ることができる。
【0034】
アリル系化合物の重合反応に用いる重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル等のアゾ開始剤、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物開始剤、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン系、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン系、ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド等のリン系、チオキサントン等のイオウ系、ベンジル、9,10−フェナンスレンキノン等のベンジル系の光重合開始剤が挙げられる。
【0035】
重合開始剤の量は、一般式(I)で表されるアリル系化合物の単量体100重量部に対して、5.0重量部以下であることが好ましく、3.0重量部以下であることがより好ましい。また、0.001〜3.0重量部であることがさらに好ましい。
【0036】
重合時の反応温度は60〜240℃、例えば80〜220℃であることが好ましい。反応時間は、0.1〜100時間、例えば1〜30時間であることが好ましい。
【0037】
上記一般式(I)で表されるアリル系化合物を上述の方法等により重合することにより、上記一般式(I)で表されるアリル系化合物に基づく単量体単位を有するアリル系重合体(A)を調製できる。
【0038】
上記一般式(I)で表されるアリル系化合物に基づく単量体単位の含有量は、アリル系重合体(A)100重量%中、20重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることが更に好ましく、98重量%以上であることが特に好ましく、100重量%であってもよい。
【0039】
アリル系重合体(A)の重量平均分子量は300,000以下であることが好ましく、200,000以下であることがより好ましい。また、2,000〜150,000であることがさらに好ましく、5,000〜140,000であることが特に好ましい。
【0040】
本発明の光硬化性樹脂組成物中におけるアリル系重合体(A)の含有量は、光硬化性樹脂組成物全量に対して、1〜60重量%であることが好ましく、2〜55重量%であることがより好ましく、5〜50重量%であることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、後述するゲル化剤(B)やエチレン性不飽和化合物(C)を添加しても、充分に溶解した状態を保持し、相溶性に優れた組成物とすることが可能となり、本発明の効果がより好適に得られる。
【0041】
ゲル化剤(B)
本発明において、アリル系重合体(A)を含む光硬化性樹脂組成物に使用されるゲル化剤(B)としては、アリル系重合体(A)と共に使用することにより、擬似的に架橋鎖を形成できるものであれば特に限定されない。ゲル化剤(B)としては、例えば、アルミニウム錯体化合物を挙げる事ができ、環状アルミニウム化合物類、例えば環状アルミニウムオキサイドオクテート(川研ファインケミカル社製アルゴマー800)、環状アルミニウムオキサイドステアレート(川研ファインケミカル社製アルゴマー1000S)等、アルミニウムアルコキシド類としてアルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド(川研ファインケミカル社製AIPD) 、アルミニウム−sec−ブトキシド(川研ファインケミカル社製ASPD) 、アルミニウムジイソプロポキシドモノsec−ブトキシド(川研ファインケミカル社製AMD) 、アルミニウムアルキルアセテート類、例えばアルミニウム−ジ−n−ブトキシド−エチルアセトアセテート(ホープ製薬社製Chelope−Al−EB2)、アルミニウム−ジ−iso−ブトキシド−メチルアセトアセテート(ホープ製薬社製Chelope−Al−MB12)、アルミニウム−ジ−iso−ブトキシド−エチルアセトアセテート(ホープ製薬社製Chelope−Al−EB102)、アルミニウム−ジ−iso−ブトキシド−エチルアセトアセテート(ホープ製薬社製Chelope−Al−EB2)、アルミニウム−ジ−iso−プロポキシド−エチルアセトアセテート(ホープ製薬社製Chelope−Al−EP12、川研ファインケミカル社製ALCH)、アルミニウム−トリス(アセチルアセトナート)(川研ファインケミカル社製ALCH−TR) 、アルミニウム−トリス(アセチルアセトナート)(川研ファインケミカル社製アルミキレート−A) 、アルミニウム−ビス(エチルアセチルアセトナート)−モノアセチルアセトナート(川研ファインケミカル社製アルミキレートD) 、アルミキレートM(川研ファインケミカル社製)、アルミキレートNB−15(ホープ製薬社製)、ケロープS(ホープ製薬社製)ケロープACS−2(ホープ製薬社製、液状オリープAOO(ホープ製薬社製) 、液状オリープAOS( ホープ製薬社製) が例示される。アルミニウム石鹸としてアルミニウムステアレート(日油(株)製)、アルミニウムオレート、アルミニウムナフトネート、アルミニウムウレート、アルミニウムアセチルアセトネート等を例示することができる。
【0042】
その他のゲル化剤(B)として、環状ジペプチド類、有機液体をゲル化せしめる性質を有するエチレンビス(12−ヒドロキシオクタデカン酸)アマイド等のビスアミド類、Al−Mg−ヒドロキシカプリレ−ト、Al−Mg−ヒドロキシミリステート、Al−Mg−ヒドロキシパルミテート、Al−Mg−ヒドロキシベヘネート等の粉末状のアルミニウム−マグネシウム化合物が例示される。さらにAIP、ASB、AIE−M、ASE−M、OAO、OAO−EF、OAO−HT、Cyco−Gel、Ketalin、Ketalin−II、Ketalin−III、TRI−HLP−49、P−95、KHD、ATC−30、OASMS、OAS/607、ALAC、AO−L47(以上Chattem Chemicals,Inc)等を例示することができる。さらに、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n−ブチルチタネート、テトラブトキシチタン、チタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル等の有機チタネート等を例示することができる。また、ジルコニウム−テトラブトキシド、ジルコニウム−テトラプロポキシド、アセチルアセトンジルコニウムブトキシド、アセト酢酸エチルジルコニウムブトキシド等のジルコニウムアルコキシド類、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシジアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシトリアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセトアセテート、塩化ジルコニル化合物、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩等のジルコニウム錯体化合物等の有機ジルコニウム等を例示することができる。
【0043】
ゲル化剤(B)のなかでも、アルミニウム錯体化合物、有機ジルコニウムが好ましく、アルミニウムアルキルアセテート類、有機ジルコニウムが好ましく、アルミニウム−ジ−iso−プロポキシド−エチルアセトアセテート、アルミニウム−トリス(アチルアセトネート)、ジルコニウム−テトラブトキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、アセチルアセトンジルコニウムブトキシドがより好ましい。
【0044】
光硬化性樹脂組成物に含有されるゲル化剤(B)の含有量は、光硬化性樹脂組成物のアリル系重合体(A)100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、0.5〜5重量部であることがより好ましく、1〜3重量部であることが特に好ましい。上記範囲内であれば、本発明の効果がより好適に得られる。また、プラスチック基材との充分な密着性が得られ、かつ、アリル系重合体(A)とゲル化剤(B)が充分に溶解した状態を保持し、相溶性に優れた組成物となる。さらに、エチレン性不飽和化合物(C)を添加しても、充分に溶解した状態を保持することが可能である。
【0045】
エチレン性不飽和化合物(C)
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光照射により硬化可能であるエチレン性不飽和化合物(C)を含有することが好ましい。エチレン性不飽和化合物(C)は、炭素−炭素二重結合を1〜20個有することが好ましく、1〜10個有することがより好ましく、2〜6個有することがさらに好ましい。エチレン性不飽和化合物(C)としては、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アリル化合物およびビニル化合物等が挙げられる。また、エチレン性不飽和化合物は2種以上の化合物の混合物を用いることも可能である。
【0046】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類の(メタ)アクリル酸エステル化合物、およびそれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加した(メタ)アクリル酸エステル化合物;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール類にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したものの(メタ)アクリル酸エステル化合物;エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、アルキッド(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル化合物;エポキシ化大豆油アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル化合物を例示することができ、好ましくはペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類の(メタ)アクリル酸エステル化合物、およびそれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加した(メタ)アクリル酸エステル化合物であり、より好ましくはペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン等のアルコール類の(メタ)アクリル酸エステル化合物、およびそれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加した(メタ)アクリル酸エステル化合物である。
【0047】
(メタ)アリル化合物としては、ジ(メタ)アリルフタレート、トリ(メタ)アリルイソシアヌレート等を例示することができる。
ビニル化合物としては、スチレン、ジビニルベンゼン、N-ビニルピロリドン、酢酸ビニル等を例示することができる。
【0048】
中でも、アリル系重合体(A)との相溶性、光硬化した際の硬化性の点で、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましく、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートがより好ましい。
【0049】
本発明の光硬化性樹脂組成物に含有されるエチレン性不飽和化合物(C)の含有量は、光硬化性樹脂組成物中におけるアリル系重合体(A)100重量部に対して、50〜1000重量部であることが好ましく、50〜400重量部であることがより好ましく、50〜300重量部であることがさらに好ましい。
【0050】
また、光硬化性樹脂組成物に含有されるエチレン性不飽和化合物(C)の含有量は、光硬化性樹脂組成物の粘度が100〜500Pa・s(25℃)の範囲内になるように添加することが好ましい。
【0051】
その他の添加物
本発明の光硬化性樹脂組成物は、重合開始剤を含んでいてもよく、特に光重合開始剤を含有することが好ましい。光硬化性樹脂組成物に含有される光重合開始剤としては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のアセトフェノン系、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン系、ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド等のリン系、チオキサントン等のイオウ系、ベンジル、9,10−フェナンスレンキノン等のジベンジル系が挙げられる。
【0052】
光硬化性樹脂組成物に含有される光重合開始剤の量は、光硬化性樹脂組成物全体に対して、0.1〜15重量%の範囲であることが好ましく、0.5〜12重量%の範囲がより好ましく、1〜10重量%の範囲がさらに好ましい。
【0053】
光硬化性樹脂組成物には、光開始助剤(例えば、トリエタノールアミン等のアミン系光開始助剤)を併用してもよい。
光開始助剤の量は、光硬化性樹脂組成物全体に対して、0.1〜5重量%の範囲であることが好ましく、0.5〜3重量%の範囲がより好ましい。
【0054】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、種々の添加剤、例示すれば、安定剤(例えば、ハイドロキノン、メトキノン等の重合禁止剤)、顔料(例えば、シアニンブルー、ジスアゾエロー、カーミン6b、レーキッドC、カーボンブラック、チタンホワイト)等の着色剤、充填剤、粘度調整剤(例えば、ワックス)等の各種添加剤を目的に応じて含有することができる。光硬化性樹脂組成物に含有される安定剤の量は、光硬化性樹脂組成物全体に対して、0.01〜2重量%の範囲であることが好ましく、0.1〜1重量%の範囲がより好ましい。
着色剤の量は、光硬化性樹脂組成物全体に対して、1〜50重量%の範囲であることが好ましく、1〜45重量%の範囲がより好ましい。
【0055】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、ゲル化剤(B)未配合の光硬化性樹脂組成物に比べて、ゲル化剤(B)を配合することにより、0.01Hz(低周波数領域)での貯蔵弾性率が、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは40%以下となることが好ましい。これにより、より良好な流動性が得られる。
また、本発明の光硬化性樹脂組成物は、ゲル化剤(B)未配合の光硬化性樹脂組成物に比べて、ゲル化剤(B)を配合することにより、10Hz(高周波数領域)での貯蔵弾性率が、好ましくは120%以上、より好ましくは150%以上となることが好ましい。これにより、より良好な印刷応答性が得られる。
ここで、貯蔵弾性率は、実施例に記載の方法により測定される値である。
【0056】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、アリル系重合体(A)にゲル化剤(B)を加え、必要に応じてエチレン性不飽和化合物(C)、さらには、光重合開始剤、光開始助剤、添加剤(例えば、安定剤、顔料)を混合することによって製造できる。本発明の光硬化性樹脂組成物は、光を照射することによって硬化する。硬化に用いる光は、一般に紫外線である。
【0057】
光硬化性樹脂組成物の硬化反応に用いる硬化装置、また、硬化条件は特に限定されず、通常の光硬化反応に用いられる方法であればよい。
【0058】
本発明の光硬化性樹脂組成物の用途は特に限定されない。インキ(例えば、光硬化性平版用印刷インキ、シルクスクリーンインキ、グラビアインキ等の印刷インキ)、塗料(例えば、紙用、プラスチック用、金属用、木工用等の塗料、例示すれば、オーバープリントワニス)、接着剤、フォトレジスト等の技術分野において使用できる。
本発明の光硬化性樹脂組成物を含むインキは本発明のインキであり、本発明の光硬化性樹脂組成物を含む塗料は本発明の塗料である。また、本発明の塗料はオーバープリントワニスであることが好ましい。
【0059】
例えば、インキの一般的作製方法は次のとおりである。エチレン性不飽和化合物(C)にアリル系重合体(A)、ゲル化剤(B)及び安定剤等を60℃〜120℃の温度で攪拌しながら溶解させワニスを作製する。このワニスに、顔料、光重合開始剤、その他添加剤を、バタフライミキサーで撹拌混合後、3本ロール等で練肉することでインキが得られる。
また、オーバープリントワニスの作成は、顔料を使用しない以外は、インキと同様の手順により行える。
【0060】
(実施例)
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
アリル系重合体の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)の測定
重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)はGPCを用いて測定した。標準ポリスチレン換算の重量平均分子量の値である。
カラム:ShodexKF−806L、KF−804、KF−803、KF−802、KF−801を直列に接続
流速:1.0mL/min
温度:40℃
検出:RID−6A
試料:試料20mgをテトラヒドロフラン10mLに溶解させ測定用のサンプルとした。
【0062】
製造例1 1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル重合体の合成
1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルは、シクロヘキサンジカルボン酸無水物とアリルアルコールをエステル化反応させることによって製造した。
3Lのセパラブルフラスコに1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル2400gを加え、60gのベンゾイルパーオキサイドを加えて80℃で加熱撹拌した。2.5時間反応させた後、30℃まで冷却した。冷却後、フラスコにメタノールを加え、重合体を沈殿させた。得られた重合体を40℃で16時間減圧乾燥した(収量:408g、収率:17%、Mw=32,000、Mw/Mn=2.8)。得られた重合体を重合体1とした。
【0063】
(実施例1、2)
(1)ワニスの調製
樹脂(上記重合体1)35重量部、DTMPTA(SR−355NS:Sartomer社製のジトリメチロールプロパンテトラアクリレート)65重量部、重合禁止剤(IRGANOX1076:BASFジャパン(株)製のオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.3重量部の比率で仕込み、100℃で熱溶解させて微淡黄色透明のワニスを調製した。
【0064】
(2)ゲルワニスの調製
(1)で調製したワニス100重量部に対して、ゲル化剤(ALCH:川研ファインケミカル社製のアルミニウム−ジ−iso−プロポキシド−エチルアセトアセテート(アルミニウム錯体化合物))0.6重量部(実施例1)、ゲル化剤(オルガチックス ZC−150:松本ファインケミカル社製のジルコニウムテトラアセチルアセトネート(有機ジルコニウム))1.0重量部(実施例2)、を添加し、110℃で1時間撹拌して透明のゲルワニスを調製した。
【0065】
(3)インキの調製
光硬化性インキの調製方法
上記(2)で調製したゲルワニス62.6重量部、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)10.4重量部、ポリエチレンワックス2重量部、光重合開始剤(Irgacure907:BASFジャパン(株)製、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン)5重量部、顔料(フタロシアニンブルー)20重量部を3本ロールで練肉してインキを調製した。
【0066】
(比較例1)
ゲルワニス(上記(2)で調製したゲルワニス)の代わりに、(1)で調製したワニスを用いた点以外は、実施例1、2と同様の方法により、インキを調製した。
【0067】
(動的粘弾性測定)
調製した実施例1、2及び比較例1のインキを用い、動的粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率を測定した。なお、水が混入した場合を想定した「乳化後の」試験については、インキ100重量部に対して水を100重量部添加した後、ディスパーにて3分間撹拌混合し、乳化後のインキを調製し、乳化後のインキを用いて粘弾性試験を行った。
(動的粘弾性測定の条件)
HAAKE MARS III粘弾性測定装置(Thermo Scientific社製)にて、直径35mm、コーン角度2度のコーンプレートを使用して、25℃で周波数掃引測定を行った。
測定した貯蔵弾性率は、比較例1の結果を100として指数表示し、評価結果を表1に示した。指数が大きいほど、貯蔵弾性率が大きいことを示す。
【0068】
(粘度測定)
調製したゲルワニス、ワニスにつき、BROOKFIELD VISCOMETER DV−II+Proを用いて25℃での粘度(Pa・s)を測定した。評価結果を表1に示した。
【0069】
【表1】
【0070】
表1より、特定の構造を有するアリル系化合物を重合して得られるアリル系重合体(A)と、ゲル化剤(B)を含有する実施例1は、水が存在しない場合(乳化前)、水が存在する場合(乳化後)のいずれの状態においても、低周波数領域での貯蔵弾性率を低減でき、良好な流動性を有すると共に、高周波数領域での貯蔵弾性率を増大でき、高速印刷における応答速度が向上され、良好な印刷応答性が得られることが分かった。また、実施例2は、水が存在しない場合(乳化前)、水が存在する場合(乳化後)のいずれの状態においても、低周波数領域での貯蔵弾性率を低減でき、良好な流動性を有する。すなわち、アリル系重合体(A)と、ゲル化剤(B)とを併用することにより、良好な流動性及び/または印刷応答性を得ることができ、印刷適性に優れ、インキとして好適に使用できることが分かった。
【0071】
また、ゲル化剤の添加により、ワニスの粘度が上昇し、高周波数領域での貯蔵弾性率を増大できており、アリル系重合体(A)と共に、ゲル化剤(B)を含有することにより、擬似的に架橋鎖が形成されていることが分かる。更に、実施例1のゲルワニスの外観が無色透明、実施例2のゲルワニスの外観が淡黄色透明であり、インキ(例えば、オフセットインキ)、塗料、接着剤、フォトレジスト等に好適に使用可能であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、インキ(例えば、オフセットインキ)、塗料、接着剤、フォトレジスト等に(特に、プラスチック基材用として)使用可能である。