(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者は、上記バイオセンサ(化学センサ)を用いた生体分子(被検出物質)の検出において、保護膜上に集積される磁気ビーズの個数が同じであっても、保護膜上での磁気ビーズの配置によって磁気抵抗効果素子の抵抗値が変動し、高い検出精度が得られない、というような問題を発見した。より詳細には、1個の磁気ビーズが磁気抵抗効果素子上に配置された場合の磁気抵抗効果素子の抵抗値(または抵抗値の変化)が、軟磁性体薄膜上に配置された場合の磁気抵抗効果素子の抵抗値(または抵抗値の変化)と異なり、その結果、磁気ビーズが磁気抵抗効果素子上と軟磁性体薄膜上の両方に配置されていると、保護膜上に集積される磁気ビーズの個数が同じであっても、磁気ビーズの配置によって磁気抵抗効果素子の抵抗値が変動し、高い検出精度が得られないという問題を発見した。本発明は、高い検出精度を得ることが可能な化学センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の化学センサは、軟磁性体膜と、磁気抵抗効果素子と、前記軟磁性体膜上に配置された第1の膜と、前記磁気抵抗効果素子上に配置された第2の膜と、を有し、前記軟磁性体膜は、前記軟磁性体膜の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が前記磁気抵抗効果素子と重ならないように配置され、前記磁気抵抗効果素子は、前記軟磁性体膜の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が前記軟磁性体膜と重ならないように配置され、前記第2の膜のある特定の液体に対する溶解度が、前記第1の膜よりも大きいことを特徴とする。
【0007】
上記特徴の化学センサによれば、第2の膜の溶解度が第1の膜の溶解度よりも大きくなる液体を第1の膜と第2の膜に接触させることで、第2の膜を優先的に溶解させることができる。磁気ビーズを第1の膜の軟磁性体膜に対向する領域上に配置させる際に、第2の膜上すなわち磁気抵抗効果素子上に磁気ビーズが配置されたとしても、第2の膜を優先的に溶解させることで、第1の膜の軟磁性体膜に対向する領域上に配置された磁気ビーズは維持しつつ、第2の膜上すなわち磁気抵抗効果素子上に配置された磁気ビーズを除去することができる。これにより、磁気ビーズが軟磁性体膜上に配置され、磁気抵抗効果素子上には実質的には配置されない状態で被検出物質の検出を行うことができるので、本発明の化学センサは、高い検出精度を得ることが可能となる。
【0008】
さらに、本発明の化学センサは、前記第1の膜は、前記軟磁性体膜と前記磁気抵抗効果素子の上に配置され、前記第2の膜は前記第1の膜の上に配置されていることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の化学センサは、前記特定の液体がアルカリ性の液体であることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の化学センサは、前記特定の液体が酸性の液体であることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明の化学センサは、前記第1の膜の材料が、炭素、ダイヤモンドライクカーボンおよび樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明の化学センサは、前記第1の膜の材料が、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマス、金、銀、ロジウム、ルテニウム、パラジウムおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の化学センサは、前記第1の膜の材料が、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物であることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の化学センサは、前記第1の膜の材料が、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステン、金、銀、ロジウム、ルテニウム、パラジウムおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の化学センサは、前記第1の膜の材料が、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステンおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物であることを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明の化学センサは、前記第2の膜の材料が、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、ニオブ、モリブデン、タングステンおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明の化学センサは、前記第2の膜の材料が、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、ニオブ、モリブデン、タングステンおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物であることを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明の化学センサは、前記第2の膜の材料が、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明の化学センサは、前記第2の膜の材料が、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物であることを特徴とする。
【0020】
また、上記目的を達成するための本発明の化学センサは、軟磁性体膜と、磁気抵抗効果素子と、前記軟磁性体膜上に配置された第1の膜と、前記磁気抵抗効果素子上に配置された第2の膜と、を有し、前記軟磁性体膜は、前記軟磁性体膜の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が前記磁気抵抗効果素子と重ならないように配置され、前記磁気抵抗効果素子は、前記軟磁性体膜の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が前記軟磁性体膜と重ならないように配置され、前記第1の膜の材料が、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマス、金、銀、ロジウム、ルテニウム、パラジウムおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物または、炭素、ダイヤモンドライクカーボンおよび樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種であり、前記第2の膜の材料が、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、ニオブ、モリブデン、タングステンおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種または、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、ニオブ、モリブデン、タングステンおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物であることを特徴とする。
【0021】
上記特徴の化学センサによれば、アルカリ性の液体に対して、第1の膜の材料は溶解しにくく、第2の膜の材料は溶解しやすいので、アルカリ性の液体を第1の膜と第2の膜に接触させることで、第2の膜を優先的に溶解させることができる。磁気ビーズを第1の膜の軟磁性体膜に対向する領域上に配置させる際に、第2の膜上すなわち磁気抵抗効果素子上に磁気ビーズが配置されたとしても、第2の膜を優先的に溶解させることで、第1の膜の軟磁性体膜に対向する領域上に配置された磁気ビーズは維持しつつ、第2の膜上すなわち磁気抵抗効果素子上に配置された磁気ビーズを除去することができる。これにより、磁気ビーズが軟磁性体膜上に配置され、磁気抵抗効果素子上には実質的には配置されない状態で被検出物質の検出を行うことができるので、本発明の化学センサは、高い検出精度を得ることが可能となる。
【0022】
また、上記目的を達成するための本発明の化学センサは、軟磁性体膜と、磁気抵抗効果素子と、前記軟磁性体膜上に配置された第1の膜と、前記磁気抵抗効果素子上に配置された第2の膜と、を有し、前記軟磁性体膜は、前記軟磁性体膜の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が前記磁気抵抗効果素子と重ならないように配置され、前記磁気抵抗効果素子は、前記軟磁性体膜の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が前記軟磁性体膜と重ならないように配置され、前記第1の膜の材料が、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステン、金、銀、ロジウム、ルテニウム、パラジウムおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステンおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物または、炭素、ダイヤモンドライクカーボンおよび樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種であり、前記第2の膜の材料が、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種または、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物であることを特徴とする。
【0023】
上記特徴の化学センサによれば、酸性の液体に対して、第1の膜の材料は溶解しにくく、第2の膜の材料は溶解しやすいので、酸性の液体を第1の膜と第2の膜に接触させることで、第2の膜を優先的に溶解させることができる。磁気ビーズを第1の膜の軟磁性体膜に対向する領域上に配置させる際に、第2の膜上すなわち磁気抵抗効果素子上に磁気ビーズが配置されたとしても、第2の膜を優先的に溶解させることで、第1の膜の軟磁性体膜に対向する領域上に配置した磁気ビーズは維持しつつ、第2の膜上すなわち磁気抵抗効果素子上に配置された磁気ビーズを除去することができる。これにより、磁気ビーズが軟磁性体膜上に配置され、磁気抵抗効果素子上には実質的には配置されない状態で被検出物質の検出を行うことができるので、本発明の化学センサは、高い検出精度を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高い検出精度を得ることが可能な化学センサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を実施するための好適な形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0027】
<化学センサの基本構成>
図1は、第1実施形態の化学センサ100主要部の斜視図であり、
図2は、
図1のII−II線に沿う断面図である。化学センサ100は、試料中の被検出物質40を検出する。化学センサ100は、基板1上に、軟磁性体膜2と、磁気抵抗効果素子3と、軟磁性体膜2上に配置された第1の膜10と、磁気抵抗効果素子3上に配置された第2の膜20を有している。軟磁性体膜2は、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が磁気抵抗効果素子3と重ならないように配置されている。磁気抵抗効果素子3は、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が軟磁性体膜2と重ならないように配置されている。更に化学センサ100は、基板1の表面と、軟磁性体膜2および磁気抵抗効果素子3の周囲とを覆う保護膜4を有している。更に、第1の膜10は、その表面における軟磁性体膜2に対向する第1領域A1に被検出物質40と結合する親和性物質(捕捉プローブ30)を含む有機材料を有しており、第1の膜は、第1領域A1上に被検出物質40が集積される膜となっている。また、第2の膜20のある特定の液体(後述する溶解液)に対する溶解度は、第1の膜10よりも大きくなっている。
図1、2に示す化学センサ100では、2つの磁気抵抗効果素子3が、軟磁性体膜2に対して、軟磁性体膜2の膜面に平行な方向側の両側に配置されている。また、
図1、2に示すように、第1の膜10は、軟磁性体膜2と磁気抵抗効果素子3の上に配置され、第2の膜20は第1の膜10の上に配置されている。なお、
図2および後述する
図3〜
図13においては、捕捉プローブ30、被検出物質40、磁気ビーズ5、標識プローブ50およびプローブ60等は大きく誇張して模式的に描いてある。
【0028】
<基板>
基板1としては、シリコンやAlTiC(アルティック)などの半導体や導電体、又はアルミナやガラス等の絶縁体から構成されるものが挙げられ、その形態は特に問われるものではない。
【0029】
<軟磁性体膜>
軟磁性体膜2は、その膜面と交差する方向に印加される磁界6(後述)の方向や、磁界6の印加により後述する磁気ビーズ5から発生する漏れ磁界(浮遊磁界)の方向をその膜面方向(磁気抵抗効果素子3の感磁方向)に変え、これらの磁界を磁気抵抗効果素子3へ伝達する機能を有する。軟磁性体膜2の膜面と交差する方向に印加された磁界6や、磁界6の印加により磁気ビーズ5から発生する漏れ磁界(浮遊磁界)は、軟磁性体膜2により、軟磁性体膜2の膜面方向に方向が変えられ、軟磁性体膜2の端面から磁気抵抗効果素子3に印加される。軟磁性体膜2の材料は例えばパーマロイなどが挙げられる。
【0030】
<磁気抵抗効果素子>
磁気抵抗効果素子3は、その積層面が軟磁性体膜2の膜面に略平行になるように設けられている。磁気抵抗効果素子3は、その積層面内の一定方向に固着された磁化方向を有する磁化固定層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化する磁化自由層と、磁化固定層と磁化自由層との間に位置する中間層を備えたスピンバルブ型素子であることが好ましい。中間層の材料は非磁性体の導体又は絶縁体である。磁気抵抗効果素子3は、中間層が導体の場合はGMR(巨大磁気抵抗効果)素子と呼ばれ、中間層が絶縁体の場合はTMR(トンネル型磁気抵抗効果)素子と呼ばれる。磁気抵抗効果素子3の抵抗値は、磁化固定層の磁化方向と磁化自由層の磁化方向との相対角度に応じて変化する。
【0031】
磁化固定層の磁化固定方向は、軟磁性体膜2の端面から磁気抵抗効果素子3に印加される磁界(以下、検出磁界とも言う)に対して、略平行又は略反平行であることが好ましい。つまり、軟磁性体膜2および磁気抵抗効果素子3は、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、磁気抵抗効果素子3の磁化固定層の磁化方向に沿って同一直線上に配置されていることが好ましい。更に、2つの磁気抵抗効果素子3の磁化固定層の磁化固定方向は略同一方向であることが好ましい。なお、本実施形態において、略平行又は略反平行とは、凡そ平行又は反平行であればよく、10゜以下の範囲で平行又は反平行からずれていてもよい。
【0032】
磁気抵抗効果素子3は、その少なくとも一部が、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、軟磁性体膜2と重ならないように配置されていれば良い。
図2に示すように、磁気抵抗効果素子3の全体が、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、軟磁性体膜2と重ならないように配置されていても良いし、磁気抵抗効果素子3の一部が、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、軟磁性体膜2と重なるように配置されていても良い。
【0033】
<保護膜>
保護膜4は絶縁膜であることが好ましく、保護膜4の材料としては、例えば酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化シリコンまたは窒化シリコン等の無機物や、ポリイミド等の有機物が挙げられる。
【0034】
<第1の膜>
第1の膜10は、少なくとも、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て磁気抵抗効果素子3と重ならない軟磁性体膜2の上に配置されている。第1の膜10の材料は、後述する溶解液に対する溶解度が小さいものである。溶解液がアルカリ性の液体である場合、第1の膜10の材料は、例えば、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマス、金、銀、ロジウム、ルテニウム、パラジウムおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種である。また、溶解液がアルカリ性の液体である場合、第1の膜10の材料は、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物または、炭素、ダイヤモンドライクカーボンおよび樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種であってもよい。
【0035】
溶解液が酸性の液体である場合、第1の膜10の材料は、例えば、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステン、金、銀、ロジウム、ルテニウム、パラジウムおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種である。また、溶解液が酸性の液体である場合、第1の膜10の材料は、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステンおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物または、炭素、ダイヤモンドライクカーボンおよび樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種であってもよい。
【0036】
<第2の膜>
第2の膜20の材料は、後述する溶解液に対する溶解度が大きいものである。溶解液がアルカリ性の液体である場合、第2の膜20の材料は、例えば、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、ニオブ、モリブデン、タングステンおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種である。また、溶解液がアルカリ性の液体である場合、第2の膜20の材料は、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、ニオブ、モリブデン、タングステンおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物であってもよい。
【0037】
溶解液が酸性の液体である場合、第2の膜20の材料は、例えば、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種である。また、溶解液が酸性の液体である場合、第2の膜20の材料は、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物であってもよい。
【0038】
第2の膜20の溶解液に対する溶解度は、同一条件下での第1の膜10の溶解液に対する溶解度よりも大きく、同一条件下での第1の膜10の溶解液に対する溶解度の10倍以上であることが好ましい。
【0039】
<被検出物質>
被検出物質40は、例えば、抗原、抗体などのタンパク質、DNAやRNAなどの核酸、細胞、ウイルス、細菌、真菌などである。被検出物質40には、いくつかの抗原、抗体などのタンパク質、DNAやRNAなどの核酸、細胞、ウイルス、細菌、真菌などが、複合体を形成しているものも含まれる。
【0040】
また、検出対象となる物質に別の物質を複合体化させたもの、または、検出対象となる物質を別の物質に変換したものを被検出物質40とすることもできる。例えば、検出対象となるRNAに対して、ビオチンを末端に有するDNAをハイブリダイゼーションにより複合体化させたものを被検出物質40とすることができる。このような被検出物質40は、複合体化によってビオチンが付加されたことにより、ストレプトアビジンと特異的に結合することが可能である。被検出物質40は、後述する捕捉プローブ30および磁気ビーズ5(標識プローブ50)と結合するものであり、捕捉プローブ30と結合する部位と磁気ビーズ5(標識プローブ50)と結合する部位とが異なるものであることが好ましい。
【0041】
被検出物質40が含まれる試料としては、被検出物質40を含有するものであれば、特に限定されないが、例えば、化学センサ100を疾患の診断に用いる場合には、疾患の発症が確認されている者、若しくは疾患の発症が疑われている者、又は疾患に対する治療を受けている患者等の被験者の血液、リンパ液、髄液、精液、唾液または尿等が挙げられる。血液、リンパ液、髄液、精液、唾液または尿等に対して、何らかの前処理を施すことで、検出の妨げとなる夾雑物を除去したものを試料としてもよい。例えば、DNAやRNA等の核酸を被検出物質40とする場合には、血液、リンパ液、髄液、精液、唾液、尿等から核酸を抽出し、抽出した核酸を含む液体を試料とすることが望ましい。
【0042】
<捕捉プローブ>
捕捉プローブ30は、被検出物質40と結合する親和性物質である。捕捉プローブ30は、被検出物質40と特異的に(高い選択性で)結合するものであることが好ましく、被検出物質40の種類によって、適当なものを用いる。例として、捕捉プローブ30としては、被検出物質40が核酸の場合には、この核酸に相補的な核酸が挙げられ、被検出物質40が抗原の場合には、この抗原と結合する抗体が挙げられ、被検出物質40が1次抗体の場合には、この1次抗体と結合する抗原または2次抗体が挙げられ、被検出物質40が細胞、ウイルス、細菌、真菌等の場合には、これらの表面に存在している抗原と結合する抗体が挙げられる。
【0043】
捕捉プローブ30は、第1の膜10の表面における軟磁性体膜2(軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て磁気抵抗効果素子3と重ならない軟磁性体膜2)に対向する第1領域A1に、リンカーと呼ばれる有機材料を介して固定されている。リンカーは、第1の膜10との結合性を考慮して、適当なものを用いる。リンカーとしては、例えば、第1の膜10が酸化物である場合は、シランカップリング剤またはホスホン酸誘導体などを用いることができる。第1の膜10が金や銀などの金属である場合には、チオール誘導体またはジルスフィド誘導体などを用いることができる。リンカーは、分子内に、捕捉プローブ30と結合を形成することができる官能基を有する。例えば、捕捉プローブ30がカルボキシ基を有する場合には、リンカーとして分子内にアミノ基を有するものを用いる。また、捕捉プローブ30がアミノ基を有する場合には、リンカーとして分子内にカルボキシ基を有するものを用いる。
【0044】
捕捉プローブ30は、リンカーを介さずに、第1の膜10の表面の第1領域A1に直接に固定されていてもよい。例えば、捕捉プローブ30が末端にチオール基を有する核酸であり、第1の膜10が金である場合は、捕捉プローブ30はリンカーを介さずに直接に第1の膜10に結合させることができる。例えば、捕捉プローブ30が抗体であり、第1の膜が樹脂である場合には、物理吸着によって、捕捉プローブ30を第1の膜10に直接に固定することができる。
【0045】
<化学センサの作製方法>
化学センサ100の作製方法例について簡単に説明する。軟磁性体膜2、磁気抵抗効果素子3、保護膜4、第1の膜10および第2の膜20を、真空成膜技術およびフォトリソグラフィ技術を用いて基板1上に作製する。
【0046】
次に、ディッピング法やスポッティング法などによって、リンカーを溶解させた溶液を第1の膜10および第2の膜20に接触させ一定時間放置する。これにより、リンカーが第1の膜10および第2の膜20の表面に結合する。リンカー含む溶液の溶媒は、例えば、エタノール、ブタノール、トルエンなどであり、リンカー、第1の膜10および第2の膜20の種類によって適当なものを使用する。
【0047】
次に、ディッピング法やスポッティング法などによって、捕捉プローブ30を溶解させた水溶液を、リンカーを表面に有する第1の膜10および第2の膜20に接触させ一定時間放置する。このようにすることで、捕捉プローブ30がリンカーを介して第1の膜10および第2の膜20上に固定される。このようにして、化学センサ100を作製することができる。
【0048】
<被検出物質の検出方法>
次に、化学センサ100を用いた被検出物質40の検出方法について説明する。化学センサ100を用いた被検出物質40の検出方法は、被検出物質40を含有する試料を第1の膜10と第2の膜20に接触させて、被検出物質40を第1の膜10の上に集積させる被検出物質集積工程と、磁気ビーズ5を含む液体を第1の膜10と第2の膜20に接触させて、磁気ビーズを第1の膜10の上に集積させる磁気ビーズ集積工程と、溶解液を第1の膜10と第2の膜20に接触させて、第2の膜20を溶解させる溶解工程と、軟磁性体膜2と交差する方向に磁界6を印加して、検出磁界を磁気抵抗効果素子3に印加させ、磁気抵抗効果素子3の抵抗値または抵抗値の変化を検出する検出工程と、を有する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0049】
(被検出物質集積工程)
被検出物質集積工程は、被検出物質40を含有する試料を第1の膜10と第2の膜20に接触させて、被検出物質40を第1の膜10上に集積させる工程である。簡便である等の観点から、化学センサ100はマイクロ流体デバイス中で用いられることが好ましい。被検出物質集積工程において、まずマイクロ流体デバイスのマイクロ流路中に被検出物質40を含有する試料を流すことにより、被検出物質40を含有する試料を第1の膜10と第2の膜20に接触させる。
【0050】
マイクロ流路中を流れる試料中の被検出物質40は、
図3に示す断面図のように、第1の膜10および第2の膜20上の捕捉プローブ30と結合する。被検出物質40は、ハイブリダイゼーション、抗原抗体反応等により、第1の膜10および第2の膜20上で、捕捉プローブ30と複合体を形成する。第1の膜10上に捕捉プローブ30と被検出物質40との複合体が形成された後、第1の膜10と第2の膜20を、バッファー等を用いて洗浄することが好ましい。洗浄により、第1の捕捉プローブ30と複合体を形成していない夾雑物を除去することができ、被検出物質40の検出精度を向上させることができる。
【0051】
(磁気ビーズ集積工程)
磁気ビーズ集積工程は、磁気ビーズ5を含む液体を第1の膜10と第2の膜20に接触させて、磁気ビーズ5を第1の膜10上に集積させる工程である。磁気ビーズ集積工程において、マイクロ流路中に磁気ビーズ5を含む液体を流すことにより、磁気ビーズ5を含む液体を第1の膜10と第2の膜20に接触させる。
【0052】
磁気ビーズ5は、例えば、有機材料で形成されるビーズの中に磁性粒子を含むものである。より具体的な例としては、コアに複数の酸化鉄の粒子を含むポリスチレンビーズが挙げられる。コアに含まれる酸化鉄の粒子は、例えば、各々が粒径100nm以下であり、超常磁性を示すものである。また、磁性ビーズ5は、
図4に示すように、その表面に、被検出物質40と結合する親和性物質(標識プローブ50)を有する。標識プローブ50は、被検出物質40と特異的に(高い選択性で)結合するものであることが好ましく、被検出物質40の種類によって、適当なものを用いる。標識プローブ50の例としては、被検出物質40が核酸である場合は、この核酸に相補的な核酸が挙げられ、被検出物質40が抗原の場合には、この抗原と結合する抗体が挙げられ、被検出物質40が1次抗体の場合には、この1次抗体と結合する抗原または2次抗体が挙げられ、被検出物質40が細胞、ウイルス、細菌、真菌等の場合には、これらの表面に存在している抗原と結合する抗体、被検出物質40がビオチンを有する物質である場合には、ストレプトアビジンが挙げられる。
【0053】
磁気ビーズ集積工程後の化学センサ100の斜視図と断面図を
図5と
図6にそれぞれ示した。磁気ビーズ集積工程において、磁気ビーズ5は、磁気ビーズ5の表面の標識プローブ50と第1の膜10および第2の膜20上に存在する被検出物質40とが結合して複合体を形成することで、第1の膜10および第2の膜20上に配置される。第1の膜10上に磁気ビーズ5を配置させる方法は、従来の又は今後開発されるべきあらゆる技術が適用可能であり、磁気ビーズ5を測定することで間接的に被検出物質の存在を検出できるように構成されるものであれば、如何なる手法であっても構わない。
【0054】
(溶解工程)
溶解工程は、溶解液を第1の膜10と第2の膜20に接触させて、第2の膜20を溶解させる工程である。溶解工程において、マイクロ流路中に溶解液を流すことにより、溶解液を第1の膜10と第2の膜20に接触させる。
【0055】
溶解液としては、例えばアルカリ性の液体や酸性の液体を用いることができる。アルカリ性の液体の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリスヒドロキシメチルアミノメタンまたはアンモニアなどの塩基を含む水溶液が挙げられる。アルカリ性の溶解液としては、強塩基の水溶液が好ましい。酸性の液体の例としては、塩酸、硝酸、硫酸、またはリン酸などの酸を含む水溶液が挙げられる。酸性の溶解液としては、強酸の水溶液が好ましい。溶解液の組成、pH、および溶解液による溶解時間等は、第1の膜10と捕捉プローブ30との結合、捕捉プローブ30と被検出物質40との結合、および、被検出物質40と標識プローブ50(磁気ビーズ5)との結合が維持されるように調整される。
【0056】
溶解工程後の化学センサ100の斜視図と断面図を
図7と
図8にそれぞれ示した。溶解工程において、マイクロ流路中に溶解液を流し、溶解液を第1の膜10と第2の膜20に接触させることで、第2の膜20が優先的に溶解し、第2の膜20上に集積し磁気抵抗効果素子3上に配置されていた磁気ビーズ5は、磁気抵抗効果素子3上から除去される。また、第1の膜10の溶解液に対する溶解度は小さいので、第1の膜10上に配置されていた磁気ビーズ5は、第1の膜10上すなわち軟磁性体膜2上(第1領域A1上)に配置された状態で維持される。
【0057】
(検出工程)
検出工程は、軟磁性体膜2と交差する方向に磁界6を化学センサ100に印加して、検出磁界を磁気抵抗効果素子3に印加させ、磁気抵抗効果素子3の抵抗値(または抵抗値の変化)を検出する工程である。検出工程について、軟磁性体膜2および磁気抵抗効果素子3が、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、磁気抵抗効果素子3の磁化固定層の磁化方向に沿って同一直線上に配置され、2つの磁気抵抗効果素子3の磁化固定層の磁化固定方向は同一方向である例で説明する。軟磁性体膜2の膜面と交差する方向に印加された磁界6は、軟磁性体膜2により、軟磁性体膜2の膜面方向に方向が変えられ、検出磁界として、軟磁性体膜2の端面から磁気抵抗効果素子3に印加される。溶解工程の後には、被検出物質40と結合した磁気ビーズ5が、軟磁性体膜2上(第1領域A1上)に配置されているが、第1領域A1上に配置されている磁気ビーズ5の数が多いほど検出磁界の強度が大きくなる。この例では、2つの磁気抵抗効果素子3の磁化固定層の磁化固定方向は同一方向であり、各々の磁気抵抗効果素子3に印加される検出磁界の向きは逆向きとなるため、検出磁界の強度変化に対する各々の磁気抵抗効果素子3の抵抗値の変化の向きは互いに逆向きとなる。この場合、2つの磁気抵抗効果素子3を直列接続し、2つの磁気抵抗効果素子3を接続する中点で差動電圧を出力させるようにすることで、2つの磁気抵抗効果素子3の抵抗値の変化を検出することができる。つまり、2つの磁気抵抗効果素子3を接続する中点からの電圧出力が検出磁界の強度に応じて変化するため、この電圧出力を検出することで被検出物質40を検出する。第1領域A1上に配置された磁気ビーズ5の個数は、第1領域A1上に存在する被検出物質40の分子数、更には、試料中の被検出物質40の分子数と相関があるため、試料中の被検出物質40の分子数を測定することが可能となる。
【0058】
ここで、
図14に示す先願に記載のバイオセンサ100xの表面上(保護膜4x上)に、1個の磁気ビーズが配置される場合を考える。1個の磁気ビーズが1つの磁気抵抗効果素子3x上に配置された場合の磁気抵抗効果素子3xの抵抗値(または抵抗値の変化)と、軟磁性体薄膜2x上に配置された場合の磁気抵抗効果素子3xの抵抗値(または抵抗値の変化)は異なる。この理由は概ね以下のように考えられる。軟磁性体薄膜と交差する方向に磁界が印加されると、磁気ビーズから漏れ磁界(浮遊磁界)が発生する。磁気抵抗効果素子3x上に配置された磁気ビーズからの漏れ磁界は、磁気抵抗効果素子3xに印加されるが、その方向は磁気抵抗効果素子3xから軟磁性体薄膜2xへの方向になる。この漏れ磁界の方向は、軟磁性体薄膜2xから磁気抵抗効果素子3xに印加される検出磁界の方向とは逆方向である。したがって、軟磁性体薄膜2x上に配置された磁気ビーズのからの漏れ磁界による磁気抵抗効果素子3xの抵抗値(または抵抗値の変化)と、磁気抵抗効果素子3x上に配置された磁気ビーズのからの漏れ磁界による磁気抵抗効果素子3xの抵抗値(または抵抗値の変化)が異なる(抵抗値の変化の仕方が逆方向になる)と考えられる。したがって、磁気ビーズが磁気抵抗効果素子3x上と軟磁性体薄膜2x上の両方に配置されると、配置される磁気ビーズの個数が同じであっても、磁気ビーズの配置によって磁気抵抗効果素子3xの抵抗値が変動するため、高い検出精度が得られない。しかし本第1実施形態の化学センサ100では、磁気ビーズ5が軟磁性体膜2上に配置され、磁気抵抗効果素子3上には実質的には配置されない状態で被検出物質40の検出を行うことができるので、化学センサ100は、高い検出精度を得ることが可能となる。
【0059】
このように、化学センサ100は、軟磁性体膜2と、磁気抵抗効果素子3と、軟磁性体膜2上に配置された第1の膜10と、磁気抵抗効果素子3上に配置された第2の膜20と、を有し、軟磁性体膜2は、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が磁気抵抗効果素子3と重ならないように配置され、磁気抵抗効果素子3は、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が軟磁性体膜2と重ならないように配置され、第2の膜20のある特定の液体(溶解液)に対する溶解度が、第1の膜10よりも大きくなっている。
【0060】
したがって、化学センサ100によれば、第2の膜20の溶解度が第1の膜10の溶解度よりも大きくなる液体(溶解液)を第1の膜と第2の膜に接触させることで、第2の膜を優先的に溶解させることができる。磁気ビーズ5を第1の膜10の第1領域A1上に配置させる際に、第2の膜20上すなわち磁気抵抗効果素子3上に磁気ビーズ5が配置されたとしても、第2の膜20を優先的に溶解させることで、第1領域A1上に配置された磁気ビーズ5は維持しつつ、第2の膜20上すなわち磁気抵抗効果素子3上に配置された磁気ビーズ5を除去することができる。これにより、磁気ビーズ5が軟磁性体膜2上に配置され、磁気抵抗効果素子3上には実質的には配置されない状態で被検出物質40の検出を行うことができるので、化学センサ100は、高い検出精度を得ることが可能となる。
【0061】
また、化学センサ100は、軟磁性体膜2と、磁気抵抗効果素子3と、軟磁性体膜2上に配置された第1の膜10と、磁気抵抗効果素子3上に配置された第2の膜20と、を有し、軟磁性体膜2は、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が磁気抵抗効果素子3と重ならないように配置され、磁気抵抗効果素子3は、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が軟磁性体膜2と重ならないように配置され、第1の膜10の材料が、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマス、金、銀、ロジウム、ルテニウム、パラジウムおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物または、炭素、ダイヤモンドライクカーボンおよび樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種であり、第2の膜20の材料が、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、ニオブ、モリブデン、タングステンおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種または、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、ニオブ、モリブデン、タングステンおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物となっている。
【0062】
したがって、化学センサ100によれば、アルカリ性の液体に対して、第1の膜10の材料は溶解しにくく、第2の膜20の材料は溶解しやすいので、アルカリ性の液体を第1の膜10と第2の膜20に接触させることで、第2の膜を優先的に溶解させることができる。磁気ビーズ5を第1の膜10の第1領域A1上に配置させる際に、第2の膜20上すなわち磁気抵抗効果素子3上に磁気ビーズ5が配置されたとしても、第2の膜20を優先的に溶解させることで、第1領域A1上に配置された磁気ビーズ5は維持しつつ、第2の膜20上すなわち磁気抵抗効果素子3上に配置された磁気ビーズ5を除去することができる。これにより、磁気ビーズ5が軟磁性体膜2上に配置され、磁気抵抗効果素子3上には実質的には配置されない状態で被検出物質40の検出を行うことができるので、化学センサ100は、高い検出精度を得ることが可能となる。
【0063】
また、化学センサ100は、軟磁性体膜2と、磁気抵抗効果素子3と、軟磁性体膜2上に配置された第1の膜10と、磁気抵抗効果素子3上に配置された第2の膜20と、を有し、軟磁性体膜2は、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が磁気抵抗効果素子3と重ならないように配置され、磁気抵抗効果素子3は、軟磁性体膜2の膜面に垂直な方向から見て、その少なくとも一部が軟磁性体膜2と重ならないように配置され、第1の膜10の材料が、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステン、金、銀、ロジウム、ルテニウム、パラジウムおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種、シリコン、チタン、ジルコニウム、インジウム、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステンおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物または、炭素、ダイヤモンドライクカーボンおよび樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種であり、第2の膜20の材料が、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種または、アルミニウム、亜鉛、ガリウム、スズ、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、銅、カドミウム、ビスマスおよびこれらの組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも一種の酸化物であることを特徴とする。
【0064】
したがって、化学センサ100によれば、酸性の液体に対して、第1の膜10の材料は溶解しにくく、第2の膜20の材料は溶解しやすいので、酸性の液体を第1の膜10と第2の膜20に接触させることで、第2の膜を優先的に溶解させることができる。磁気ビーズ5を第1の膜10の第1領域A1上に配置させる際に、第2の膜20上すなわち磁気抵抗効果素子3上に磁気ビーズ5が配置されたとしても、第2の膜20を優先的に溶解させることで、第1領域A1上に配置された磁気ビーズ5は維持しつつ、第2の膜20上すなわち磁気抵抗効果素子3上に配置された磁気ビーズ5を除去することができる。これにより、磁気ビーズ5が軟磁性体膜2上に配置され、磁気抵抗効果素子3上には実質的には配置されない状態で被検出物質40の検出を行うことができるので、化学センサ100は、高い検出精度を得ることが可能となる。
【0065】
また、第2の膜20は、磁気抵抗効果素子3に対向する全領域に配置されることが好ましく、
図2に示すように、磁気抵抗効果素子3に対向する領域よりも広い領域に配置されることがより好ましい。
図2に示すように、化学センサ100では、第2の膜20は、軟磁性体膜2における磁気抵抗効果素子3側の端部の上にも配置されている。このようにすることで、磁気ビーズ5が磁気抵抗効果素子3に近い位置には配置されない状態で被検出物質40の検出を行うことができるので、化学センサ100は、より高い検出精度を得ることが可能となる。
【0066】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の化学センサは、上記で説明した実施形態以外にも変更することが可能である。例えば、上記第1実施形態では、捕捉プローブ30が、第1の膜10と第2の膜20の両方の上に固定されている例で説明したが、
図9に示す第2実施形態の化学センサ200のように、第2の膜20の上には捕捉プローブ30が固定されていない形態でも良い。このような形態は、例えば、第1の膜10の材料として金や銀などの金属を用い、第2の膜20の材料として酸化アルミニウムや酸化亜鉛などの酸化物を用い、リンカーとしてチオール酸誘導体を用いることで実現することができる。このような材料を用いることで、リンカーが第1の膜10の表面には結合するが、第2の膜20の表面には結合しないようにすることができる。この場合、捕捉プローブ30は、リンカーが結合している第1の膜10に固定され、リンカーの存在しない第2の膜20には固定されない。化学センサ200において、仮に磁気ビーズ集積工程により第2の膜20上(磁気抵抗効果素子3上)に磁気ビーズ5が配置されたとしても、化学センサ100と同様にして、溶解工程において、第1の膜10に対して第2の膜20が優先的に溶解する。そのため、磁気ビーズ5が軟磁性体膜2上に配置され、磁気抵抗効果素子3上には実質的には配置されない状態で被検出物質40の検出を行うことができる。
【0067】
また、上記第1実施形態では、2つの磁気抵抗効果素子3が、軟磁性体膜2に対して、軟磁性体膜2の膜面に平行な方向側の両側に配置されている例で説明しているが、磁気抵抗効果素子3は1つでも良い。この場合でも、磁気抵抗効果素子3の抵抗値(または抵抗値の変化)を検出することで、被検出物質40の検出を行うことができる。
【0068】
また、上記第1実施形態では、第1の膜10と保護膜4とが別個の例で説明しているが、第1の膜10が保護膜4を兼ねるようにしても良い。この場合、第1の膜10の材料は絶縁体であることが好ましい。
【0069】
また、上記第1実施形態では、第1の膜10が、軟磁性体膜2と磁気抵抗効果素子3の上に配置され、第2の膜20が第1の膜10の上に配置されている例で説明しているが、
図10に示される第3実施形態の化学センサ300のように、第2の膜20が、軟磁性体膜2と磁気抵抗効果素子3の上に配置され、第1の膜10が第2の膜20の上に配置されるようにしてもよい。この場合、溶解工程の完了時に、
図11に示されるような状態になるように、溶解液の組成、pHおよび溶解液による溶解時間等を調整する。
【0070】
化学センサ300では、
図10に示すように、第1の膜10は、軟磁性体膜2における磁気抵抗効果素子3側の端部の上には配置されないことが好ましい。このようにすることで、磁気ビーズ5が磁気抵抗効果素子3に近い軟磁性体膜2の部分の上には配置されない状態で被検出物質40の検出を行うことができるので、化学センサ300は、より高い検出精度を得ることが可能となる。
【0071】
また、上記第1実施形態では、標識プローブ50を有する磁気ビーズ5を被検出物質40と直接的に結合させる例で説明しているが、被検出物質40と磁気ビーズ5(標識プローブ50)との両方と結合することができるプローブ60を介して、磁気ビーズ5を被検出物質40と結合させるようにしてもよい。この場合、捕捉プローブ30と結合した被検出物質40に対してプローブ60を結合させるプローブ結合工程を、被検出物質集積工程と磁気ビーズ集積工程の間に行う。
図12に、プローブ結合工程を被検出物質集積工程と磁気ビーズ集積工程の間に追加した場合の、磁気ビーズ集積工程後の化学センサ100の断面図を示した。プローブ60の例としては、被検出物質40と標識プローブ50がともに核酸である場合は、両方の核酸に相補的な核酸が挙げられ、被検出物質40が抗原であり標識プローブ50が二次抗体である場合は、この抗原および二次抗体と結合する一次抗体が挙げられ、被検出物質40が核酸であり標識プローブ50がストレプトアビジンである場合は、この核酸に相補的であり、かつ、ビオチンを末端に有する核酸が挙げられる。プローブ60は、被検出物質40と結合する部位と標識プローブ50と結合する部位とが異なるものであることが好ましい。
【0072】
また、上記第1実施形態では、被検出物質40を捕捉プローブ30と結合させた後に、磁気ビーズ5(標識プローブ50)を被検出物質40と結合させる例で説明している。しかし、磁気ビーズ5を測定することで間接的に被検出物質40の存在を検出できる工程となっていれば、捕捉プローブ30と被検出物質40との結合、被検出物質40と磁気ビーズ5との結合、被検出物質40とプローブ60との結合およびプローブ60と磁気ビーズ5との結合が形成される順序は変更してもよい。例えば、試料と磁気ビーズ5の分散液を混合させることで、被検出物質40と磁気ビーズ5(標識プローブ50)を結合させ、被検出物質40と標識プローブ50の複合体を形成させる。その後、被検出物質40が結合した磁気ビーズ5を磁石を用いて分離し、バッファー等によって洗浄し、再分散させることで、標識プローブ50を介して表面に被検出物質40が結合した磁気ビーズ5(
図13に示す)の分散液を得る。さらに、被検出物質40が結合した磁気ビーズ5の分散液を化学センサ100の第1の膜10と第2の膜20に接触させることで、磁気ビーズ5に結合した被検出物質40と捕捉プローブ30とを結合をさせる。このようにしても、磁気ビーズ5を測定することで間接的に被検出物質40の存在を検出できる。また、磁気ビーズ5を測定することで間接的に被検出物質の存在を検出できる工程となっていれば、捕捉プローブ30と被検出物質40との結合、被検出物質40と磁気ビーズ5との結合、被検出物質40とプローブ60との結合およびプローブ60と磁気ビーズ5との結合について、1つの工程において同時に複数の結合が形成されるような形態となっていてもよい。