特許第6860075号(P6860075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860075
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】巻取温度制御システム
(51)【国際特許分類】
   B21C 47/02 20060101AFI20210405BHJP
   B21B 37/76 20060101ALI20210405BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   B21C47/02 B
   B21B37/76 A
   B21B45/02 320T
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-532332(P2019-532332)
(86)(22)【出願日】2017年7月28日
(86)【国際出願番号】JP2017027505
(87)【国際公開番号】WO2019021470
(87)【国際公開日】20190131
【審査請求日】2019年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 博文
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳明
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−297015(JP,A)
【文献】 特開2012−196692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 47/02
B21B 37/74,37/76,45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧延材を圧延する仕上圧延機と、圧延された前記被圧延材を冷却する冷却装置が設置された搬送テーブルと、冷却された前記被圧延材を巻き取るコイラーとを有する熱間圧延ラインに用いられる巻取温度制御システムであって、
前記仕上圧延機を制御するための仕上設定情報と前記コイラーを制御するためのコイラー設定情報とを計算する圧延計算機から、情報ネットワークを介して、前記被圧延材に関する材料情報と前記仕上設定情報と前記コイラー設定情報とを取得するプログラマブルロジックコントローラと、
前記冷却装置を制御するためのCTC設定情報を計算する巻取温度制御計算機と、
コモンメモリを有するノードを複数有し、該複数のノード間での周期的な同報伝送によるコモンメモリ上のデータの同期によって、1のノードに接続する前記プログラマブルロジックコントローラと他の1のノードに接続する前記巻取温度制御計算機との間で情報を送受信する制御ネットワークと、を備え、
前記巻取温度制御計算機は、
巻取温度制御の対象である目的被圧延材が前記仕上圧延機よりも上流にある場合に、前記プログラマブルロジックコントローラから前記制御ネットワークへ出力された前記目的被圧延材に関する前記材料情報と前記仕上設定情報と前記コイラー設定情報とを順に入力し、設定計算要求信号を出力するトラッキング部と、
前記設定計算要求信号を入力した場合に、前記目的被圧延材に関する前記材料情報と前記仕上設定情報と前記コイラー設定情報とに基づいて、前記目的被圧延材を冷却するための前記CTC設定情報を算出する設定計算を実施するCTC設定計算部と、
を備えることを特徴とする巻取温度制御システム。
【請求項2】
前記巻取温度制御計算機と前記圧延計算機とは前記情報ネットワークで直接接続しないこと、
を特徴とする請求項1記載の巻取温度制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、巻取温度制御システムに係り、特に、熱間圧延ラインの巻取温度制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延ラインは、粗圧延機、仕上圧延機、搬送テーブル、コイラー等の設備を備える。粗圧延機および仕上圧延機で圧延された金属材料等の被圧延材は、搬送テーブルに設置された冷却装置で冷却され、コイラーにより巻き取られる。
【0003】
熱間圧延における品質制御の1つに被圧延材の温度制御がある。被圧延材の温度制御の主なものとしては、仕上圧延機出側における被圧延材の温度を制御する仕上出側温度制御と、コイラー前における被圧延材の温度を制御する巻取温度制御とがある。
【0004】
巻取温度制御(Coiling Temperature Control、以下CTCと記す)では、搬送テーブルに設置された冷却装置の注水量を調節し、巻取前における被圧延材の温度を目標温度に制御することが目的である。材料の強度、靭性等の材質は、仕上圧延機からコイラーまでの冷却によって決定される。そのため、巻取温度制御は材質の点から重要である。
【0005】
巻取温度制御のためのCTC設定情報は、巻取温度制御計算機(CTC計算機)における設定計算(set up calculation)により算出される。設定計算とは、圧延機設定諸元のうち、理論的に計算できる部分を数式モデル化して数値計算することをいう。
【0006】
従来のCTC計算機においては、CTC設定計算に必要な情報(例えば、材料情報、トラッキング情報、仕上設定情報、コイラー設定情報、実績情報など)は、仕上圧延機やコイラーに関する設定計算を実施する圧延計算機から、あらかじめ決められたタイミングまでに取得している必要がある。特許文献1には、圧延計算機とCTC計算機とが直接接続された構成が開示されており、CTC計算機は、圧延計算機からCTC設定計算に必要な情報をあらかじめ得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本特開2003−39109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8は、従来の巻取温度制御システムの構成を示す図である。CTC計算機は圧延計算機5と情報ネットワーク3で直接接続され、CTC設定計算に必要な情報を圧延計算機5から直接受信していた。
【0009】
従来のCTC計算機は、熱間圧延プラントが建設される際に、圧延計算機と同一時期に同一メーカーにより導入され、そのメーカーが試験・調整を行うことが大半である。そのため、数年〜十数年後に問題となる設備の老朽化、陳腐化を解決するために設備を更新する際には、両方の計算機が同時に更新されることが多く、更新費用の高額化、更新期間の長期化という問題があった。

【0010】
また、CTC計算機と圧延計算機との間の情報の送受信が密接で、両方の計算機を熟知したプラント建設時のメーカーに頼らざるを得ず、メーカー選定の自由度が低く、コスト削減の妨げになるという問題があった。
【0011】
また、CTC計算機のみを更新しようとしても、既存の圧延計算機と更新するCTC計算機との間のデータインターフェースのデータ内容、データ形式、送受信タイミングの整合性をとるために、既存の圧延計算機に大幅な改造が必要になる問題があった。また、既設の圧延計算機の処理能力の制約や改造作業を実施する人材の制約により、改造が困難な場合もある。
【0012】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、既存の圧延計算機を改造することなく、CTC計算機のみを更新することができ、製造コストや試験コストを削減可能な巻取温度制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、巻取温度制御システムは以下のように構成される。巻取温度制御システムは熱間圧延ラインに用いられる。熱間圧延ラインは、被圧延材を圧延する仕上圧延機と、圧延された被圧延材を冷却する冷却装置が設置された搬送テーブルと、冷却された被圧延材を巻き取るコイラーとを有する。
【0014】
巻取温度制御システムは、プログラマブルロジックコントローラと、巻取温度制御計算機(CTC計算機)と、制御ネットワークとを備える。
【0015】
プログラマブルロジックコントローラは、仕上圧延機を制御するための仕上設定情報とコイラーを制御するためのコイラー設定情報とを計算する圧延計算機から、情報ネットワークを介して、被圧延材に関する材料情報と仕上設定情報とコイラー設定情報とを取得する。情報ネットワークは、制御ネットワークとは異なるネットワークであり、非周期的にデータを伝送する。
【0016】
制御ネットワークは、コモンメモリを有するノードを複数有し、該複数のノード間での周期的な同報伝送によるコモンメモリ上のデータの同期によって、1のノードに接続するプログラマブルロジックコントローラと他の1のノードに接続する巻取温度制御計算機(CTC計算機)との間で情報を送受信する。
【0017】
巻取温度制御計算機(CTC計算機)は、トラッキング部とCTC設定計算部とを備え、冷却装置を制御するためのCTC設定情報を計算する。トラッキング部は、巻取温度制御の対象である目的被圧延材が仕上圧延機よりも上流にある場合に、プログラマブルロジックコントローラから制御ネットワークへ出力された目的被圧延材に関する材料情報と仕上設定情報とコイラー設定情報とを順に入力し、設定計算要求を出力する。CTC設定計算部は、設定計算要求を入力して、目的被圧延材に関する材料情報と仕上設定情報とコイラー設定情報とに基づいて、目的被圧延材を冷却するためのCTC設定情報を算出する設定計算を実施する。
【0018】
このように、CTC計算機は、CTC設定計算に必要な情報を、定周期で制御情報が流れている制御ネットワークを介してプログラマブルロジックコントローラから入手できる。このような構成によれば、CTC計算機と圧延計算機との直接的な関わりが無いため、メーカー選定の自由度が向上し、CTC計算機を単独で更新可能である。CTC計算機のみを更新できるようになれば、少ない設備投資で短期間で最新の計算機を利用でき、コイルの品質を向上させることができる。また、圧延計算機とCTC計算機の更新時期を別々にずらして設定できる。そのため、作業費用、作業工数の集中を避けて更新作業を計画的に実施できる。
【発明の効果】
【0019】
本実施形態に係る巻取温度制御システムによれば、CTC設定計算に必要な情報をプログラマブルロジックコントローラから入手でき、CTC計算機と圧延計算機との密な接続を不要にできる。そのため、既存の圧延計算機を改造することなく、CTC計算機のみを更新することができ、製造コスト、試験コストを削減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】熱間圧延ラインの構成を示す概略図である。
図2】実施の形態1に係る巻取温度制御システムの概略図である。
図3】制御ネットワークにおけるスキャン伝送について説明するための図である。
図4】巻取温度制御システムの動作を説明するための図である。
図5】実施の形態1に係る巻取温度制御システムの変形例を示す図である。
図6】実施の形態1に係る巻取温度制御システムの変形例を示す図である。
図7】CTC計算機が有する処理回路のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図8】従来の巻取温度制御システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0022】
実施の形態1.
(熱間圧延ライン)
図1は、実施の形態1に係る熱間圧延ラインの構成を示す概略図である。図1において、金属材料等の被圧延材1は、熱間圧延ライン2で加工される間に薄く延ばされ、材のサイズおよび温度は所望の目標値へ制御される。熱間圧延ライン2は、主な設備として、加熱炉21、粗圧延機22、仕上圧延機23、搬送テーブル24、コイラー25を備える。
【0023】
加熱炉21は、被圧延材1を加熱する。加熱炉21を出たとき、被圧延材1は、スラブと呼ばれる直方体状に成形された金属の塊である。加熱炉21の下流には粗圧延機22が設けられている。粗圧延機22は1基から3基で構成されることが多い。粗圧延機22は、被圧延材1を順方向(上流から下流へ)および逆方向(下流から上流へ)に複数回圧延する。
【0024】
仕上圧延機23は、粗圧延機22の下流に設けられている。仕上圧延機23は、複数の圧延スタンドを備え、被圧延材1を上流から下流へ一方向に圧延する。図1には7台のスタンドが描かれているが、スタンドの台数はこれに限定されるものではない。圧延スタンドは、圧延ロール、支持ロールなどを有し、上下の圧延ロールで被圧延材1を圧延する。仕上圧延により、被圧延材1の板厚、板幅などのサイズに関する最終品質が決定される。
【0025】
搬送テーブル24は、仕上圧延機23の下流に設けられており、ランアウトテーブル(ROT)と呼ばれる。搬送テーブル24は、多数のロールを並べて回転させ、被圧延材1を搬送できる構造を有する。搬送テーブル24には、圧延された被圧延材1を冷却する冷却装置241が設置されている。冷却装置241は、後述するCTC設定情報に基づいて仕上圧延機23で圧延された被圧延材1へ注水する。被圧延材1は、冷却装置241により目標温度まで冷却される。
【0026】
コイラー25は、搬送テーブル24の下流に設けられている。搬送テーブル24にて冷却された被圧延材1は、ピンチロールで下方にガイドされつつ、コイラー25に巻き取られる。
【0027】
また、熱間圧延ライン2は、仕上圧延機23の出側において被圧延材1の仕上圧延温度(Finisher Delivery Temperature)を測定するためのFDTセンサ26を備える。また、搬送テーブル24の中間位置において被圧延材1の中間冷却温度(Middle Cooling Temperature)を測定するMTセンサ27を備える。また、搬送テーブル24の出側に設けられ、巻取前の被圧延材1のコイル巻取温度(Coiling Temperature)を測定するCTセンサ28を備える。また、コイラー25の回転速度を測定する速度センサ29、コイル径を測定するセンサ30を備える。その他、仕上圧延機23の各圧延スタンドのロール回転速度を測定する速度センサ(図示省略)、ROT水温を測定する温度センサ(図示省略)などの各種センサを備える。
【0028】
(巻取温度制御システム)
図2を参照して熱間圧延ライン2に用いられる巻取温度制御システムについて説明する。図2は、本発明の実施の形態1に係る巻取温度制御システムの概略図である。
【0029】
巻取温度制御システムは、情報ネットワーク3、制御ネットワーク4、圧延計算機5、下位コントローラ6、設備機器7、冷却水スプレーバルブ8、計算機IF装置9、巻取温度制御計算機(以下、CTC計算機と記す)10を備える。
【0030】
まず、情報ネットワーク3と制御ネットワーク4について説明する。情報ネットワーク3は、パケットを伝送する一般的なネットワークプロトコル(TCP/IPまたはUDP/IP)で通信する。情報ネットワーク3の伝送は、非周期的なデータ伝送であり、任意のデータを任意のタイミングで伝達する。
【0031】
制御ネットワーク4は、高信頼性とリアルタイム性を実現するプラント制御用ネットワークである。具体的には、制御ネットワーク4は、コモンメモリ方式によるスキャン伝送(周期的な同報伝送)で制御データの同時性を確保可能なネットワークである。制御ネットワーク4は、情報ネットワーク3に比して高速かつ定周期でデータを伝送可能なネットワークである。
【0032】
制御ネットワーク4は、複数のノード(ノードA41〜ノードD44)を備える。ノードA41は下位コントローラ6に、ノードB42は計算機IF装置9(広義にはCTC計算機10)に、ノードC43は設備機器7に、ノードD44は冷却水スプレーバルブ8に接続している。なお、ノード数はこれに限定されるものではない。
【0033】
図3は、制御ネットワーク4におけるスキャン伝送について説明するための図である。図3に示すように、複数のノードA41〜ノードD44は、それぞれ同一構成のコモンメモリ410〜440を有する。各コモンメモリには、下位コントローラ6の出力データが書き込まれる記憶領域、CTC計算機10により計算されたCTC設定情報が書き込まれる記憶領域、設備機器7の出力データ(ドライブ装置や上述した各種センサの出力データ)が書き込まれる記憶領域などが重複しないように割り当てられている。
【0034】
各ノードは、自ノードが管理するコモンメモリ上のデータを、他のすべてのノードに周期的に同報伝送する同報伝送機能を有する。例えば、ノードA41は、コモンメモリ410上に下位コントローラ6の出力データが書き込まれる記憶領域にあるデータを、他のすべてのノードに周期的に同報伝送して、各コモンメモリ上のデータを同期する。制御ネットワーク4は、数msec周期でスキャン伝送を実施可能である。
【0035】
このように、制御ネットワーク4は、一般的な伝文の送受信を行う方式と異なり、コモンメモリ上の各データの記憶位置(アドレス)が予め定義されており、各接続機器から各データを参照できる。また、制御ネットワーク4には、下位コントローラ6の内部データを外部(例えば、データ収集装置)から監視できるように、下位コントローラ6から内部データが送信されており、制御ネットワーク4に接続された機器から監視・保存・検索が可能となっている。この内部データには、後述する材料情報、トラッキング情報、仕上設定情報、コイラー設定情報、実績情報が含まれる。
【0036】
図2に戻り説明を続ける。圧延計算機5は、仕上設定情報、コイラー設定情報を算出する設定計算を実施する。仕上設定情報は、仕上圧延機23を制御するための動作設定値を設計計算により算出した情報である。コイラー設定情報は、コイラー25を制御するための動作設定値を設定計算により算出した情報である。仕上設定情報、コイラー設定情報、材料情報、トラッキング情報は、情報ネットワーク3を介して下位コントローラ6へ伝送される。
【0037】
下位コントローラ6は、プログラマブルロジックコントローラである。下位コントローラ6は、非周期的にデータを伝送する情報ネットワーク3を介して、圧延計算機5に接続しているとともに、定周期で制御情報が流れている制御ネットワーク4を介して、設備機器7、冷却水スプレーバルブ8、計算機IF装置9に接続している。一般に下位コントローラ6は、その制御範囲毎、機能毎に複数のコントローラで構成されている。複数のコントローラ間のデータの通信、共有は制御ネットワーク4を介して行われている。
【0038】
下位コントローラ6は、圧延計算機5から、情報ネットワーク3を介して、被圧延材1に関する材料情報、トラッキング情報、仕上設定情報、コイラー設定情報を取得する。また、下位コントローラ6は、被圧延材1に関する材料情報、トラッキング情報、仕上設定情報、コイラー設定情報、実績情報を制御ネットワーク4へ出力する。
【0039】
設備機器7は、例えば、図1の仕上圧延機23の各圧延スタンドのドライブ装置、コイラー25のドライブ装置、上述した各種センサなどである。
【0040】
冷却水スプレーバルブ8は、搬送テーブル24に設置された冷却装置241が有する機器である。冷却装置241は、多数の冷却水スプレーバルブ8を有し、CTC設定情報に基づいて冷却水スプレーバルブ8が開閉操作される。CTC設定情報はCTC計算機10により算出される。CTC設定情報には、ROTバルブパターンとして、各バルブのON(注水)/OFF(無注水)状態が設定されている。なお、冷却水スプレーバルブ8は開閉弁であっても流量制御弁であってもよい。
【0041】
計算機IF装置9は、制御ネットワーク4とCTC計算機10とを接続するためのインターフェース装置であって、広義にはCTC計算機10に含まれる。計算機IF装置9は、CTC設定情報を算出するために必要な情報(被圧延材1に関する材料情報、仕上設定情報、コイラー設定情報、トラッキング情報、および上述した各種センサから入手した実績情報)を、制御ネットワーク4から入力しCTC計算機10へ出力する。また、計算機IF装置9は、CTC計算機10が計算したCTC設定情報を入力し、制御ネットワーク4へ出力する。
【0042】
CTC計算機10は、計算機IF装置9および制御ネットワーク4を介して下位コントローラ6と接続している。CTC計算機10は、冷却装置241を制御するためのCTC設定情報を計算する。
【0043】
次に、図4を参照して巻取温度制御システムの動作について説明する。本実施形態に係るCTC計算機10は、CTC設定計算に必要な各種情報(被圧延材1に関する材料情報、仕上設定情報、コイラー設定情報、トラッキング情報、および上述した各種センサから入手した実績情報)を、下位コントローラ6から制御ネットワーク4を介して入力する。
【0044】
下位コントローラ6は、圧延計算機5から情報ネットワーク3を介して各種情報を受信したタイミングで、制御ネットワーク4へCTC設定計算に必要な情報を出力する。
【0045】
トラッキング情報および実績情報は、下位コントローラ6から制御ネットワーク4へ常に出力される。CTC計算機10のトラッキング部11は、制御ネットワーク4からトラッキング情報および実績情報を制御周期毎に読み込む。
【0046】
材料情報、仕上設定情報、コイラー設定情報は順に更新されるため、トラッキング部11は、材料情報、仕上設定情報、コイラー設定情報を順番に読み込む。
【0047】
まず、下位コントローラ6から制御ネットワーク4へ材料情報が出力される(1)。材料情報は、鋼種や目標圧延サイズ(厚さ、幅、長さ)や目標巻取温度などの多数の制御目標値を含む。材料情報は、多数の項目に関するデータからなり、1制御周期で各ノードのすべてのデータが同期するわけではなく、各データは別々のタイミングで届く。すべてのデータが上書きされるまでは古いデータが混在しているため、CTC計算機10は、材料情報のすべてのデータが揃ってから読み込む必要がある。そのため、コモンメモリには材料情報のすべてのデータが揃ったときにONになる読み込み指令が書き込まれる記憶領域が割り当てられている(2)。トラッキング部11は、制御周期毎に読み込み指令のON/OFFを確認する(3)。また、トラッキング部11は、トラッキング情報に基づいて、巻取温度制御の対象である制御予定の被圧延材1(以下、目的被圧延材と記す)の現在位置をトラッキングする。トラッキング部11は、読み込み指令がON、かつ、目的被圧延材が仕上圧延機23の入側よりも上流にあるタイミングで、目的被圧延材に関する材料情報を読み込む(4)。
【0048】
仕上設定情報も、基本的に材料情報と同様の手順でCTC計算機10に読み込まれる。まず、下位コントローラ6から制御ネットワーク4へ仕上設定情報が出力される(5)。仕上設定情報は、仕上圧延機23の各スタンドの出側板厚やスタンド速度などの多数の制御目標値を含む。仕上設定情報は、多数の項目に関するデータからなり、1制御周期で各ノードのすべてのデータが同期するわけではなく、各データは別々のタイミングで届く。すべてのデータが上書きされるまでは古いデータが混在しているため、CTC計算機10は、仕上設定情報のすべてのデータが揃ってから読み込む必要がある。そのため、コモンメモリには仕上設定情報のすべてのデータが揃ったときにONになる読み込み指令が書き込まれる記憶領域が割り当てられている(6)。トラッキング部11は、制御周期毎に読み込み指令のON/OFFを確認する(7)。トラッキング部11は、読み込み指令がON、かつ、目的被圧延材が仕上圧延機23の入側よりも上流にあり、かつ、材料情報が読み込み済みのタイミングで、目的被圧延材に関する仕上設定情報を読み込む(8)。
【0049】
コイラー設定情報についても基本的に材料情報や仕上設定情報と同様の手順でCTC計算機10に読み込まれる。まず、下位コントローラ6から制御ネットワーク4へコイラー設定情報が出力される(9)。コイラー設定情報は、コイラー25のラグ率やリード率などの多数の制御目標値を含む。コイラー設定情報は、多数の項目に関するデータからなり、1制御周期で各ノードのすべてのデータが同期するわけではなく、各データは別々のタイミングで届く。すべてのデータが上書きされるまでは古いデータが混在しているため、CTC計算機10は、コイラー設定情報のすべてのデータが揃ってから読み込む必要がある。そのため、コモンメモリにはコイラー設定情報のすべてのデータが揃ったときにONになる読み込み指令が書き込まれる記憶領域が割り当てられている(10)。トラッキング部11は、制御周期毎に読み込み指令のON/OFFを確認する(11)。トラッキング部11は、読み込み指令がON、かつ、目的被圧延材が仕上圧延機23の入側よりも上流にあり、かつ、材料情報および仕上設定情報が読み込み済みのタイミングで、目的被圧延材に関するコイラー設定情報を読み込む(12)。
【0050】
このように、トラッキング部11は、目的被圧延材が仕上圧延機23よりも上流にある場合に、下位コントローラ6から制御ネットワーク4へ出力された目的被圧延材に関する材料情報と仕上設定情報とコイラー設定情報とを順に入力する。その後、トラッキング部11は、設定計算要求を出力する。
【0051】
CTC設定計算部12は、設定計算要求を入力して、目的被圧延材に関する材料情報と仕上設定情報とコイラー設定情報とに基づいて、目的被圧延材を冷却するためのCTC設定情報を算出する設定計算を実施する。算出されたCTC設定情報は、各冷却水スプレーバルブ8のON(注水)/OFF(無注水)状態を設定したROTバルブパターンを含む。CTC設定情報は、制御ネットワーク4を介して、下位コントローラ6および/または冷却水スプレーバルブ8に伝送される。
【0052】
実績情報は、下位コントローラ6や上述した各種センサからの温度情報、速度情報、ステータス情報を制御ネットワーク4から計算機IF装置9が取り出しCTC計算機10へ送信する。温度情報がアナログ値であった場合、計算機IF装置9にてデジタル値に変換される。また、上述した温度センサにはチャタリングが発生する可能性があるため、計算機IF装置9にてチャタリングチェックを行う。CTC計算機10のダイナミック制御は、各温度センサ直下のパルスゲート信号により実施している。パルスゲート信号が存在しない場合は、計算機IF装置9が一定周期で被圧延材1の材料速度から移動距離を算出して各温度センサ直下での材料トラッキングを実施し、パルスゲート信号を発生させる。
【0053】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係る巻取温度制御システムによれば、CTC計算機10は、CTC設定計算に必要な情報を、定周期で制御情報が流れている制御ネットワーク4を介して下位コントローラ6から入手できる。このような構成によれば、CTC計算機10と圧延計算機5との直接的な関わりが無いため、メーカー選定の自由度が向上し、CTC計算機を単独で更新可能である。CTC計算機のみを更新できるようになれば、少ない設備投資で短期間で最新の計算機を利用でき、コイルの品質を向上させることができる。また、圧延計算機とCTC計算機の更新時期を別々にずらして設定できる。そのため、作業費用、作業工数の集中を避けて更新作業を計画的に実施できる。
【0054】
また、下位コントローラ6は、従来から巻取温度制御の演算に必要な各種情報を圧延計算機5から受信しており、かつ、最近の制御ネットワーク4のデータ伝送高速化、大容量化により、CTC計算機10が下位コントローラ6から各種情報を入手しても、プラントの制御に何ら影響を与えない。
【0055】
さらに巻取温度制御の演算に必要な各種情報は、複数設置されている下位コントローラ6間のデータ共有やデータの監視のため、制御ネットワーク4上に予め設計されたコモンメモリのアドレス上にアサインされ常に最新データとして更新されるよう設計されている。したがって、下位コントローラ6からCTC計算機10へ各種情報を送信する場合でも新たに機能を追加変更する必要はなく、新たな作業は極めて少ない。
【0056】
このように、CTC計算機10のみを更新する場合でも、既存の圧延計算機5や下位コントローラ6の改造範囲を最小限にとどめることができるので、信頼性を高めその試験調整期間を最短にすることが可能となる。
【0057】
(変形例)
ところで、上述した実施の形態1のシステムにおいては、CTC計算機10は計算機IF装置9を介して制御ネットワーク4と接続しているが、高性能な処理能力を持ったCTC計算機10では、制御ネットワーク4とのインターフェース機能を取り込むことが可能である。そのため、図5に示すように、CTC計算機10に計算機IF装置9の機能を包めることとしてもよい。
【0058】
また、上述した実施の形態1のシステムでは、CTC計算機10は必要な情報を下位コントローラ6から入手する場合について述べた。ところで、既存の圧延計算機5が上位計算機(図示省略)から入手している圧延指示情報(PDI:Primary Data Information)などの一部のデータについては、CTC計算機10の通信宛先変更などの改造は容易であるため、圧延計算機5から計算機間通信経路20を介して受信することとしてもよい(図6)。PDIデータは、上位計算機によって設定されるデータであり、制御対象となる粗圧延機や仕上圧延機などについての各種のプリセットデータや、被圧延材1の圧延目標仕様を表すデータなどによって構成される。
【0059】
(ハードウェア構成例)
CTC計算機10のハードウェア構成について図7を参照しつつ説明する。図7は、図4のCTC計算機10が有する処理回路のハードウェア構成例を示すブロック図である。図4に示すCTC計算機10の各部は、CTC計算機10が有する機能の一部を示し、各機能は処理回路により実現される。例えば、処理回路は、CPU101、ROM102、RAM103、入出力インターフェース104、システムバス105、入力装置106、表示装置107、ストレージ108を備えたコンピュータである。
【0060】
CPU101は、ROM102やRAM103に格納されたプログラムやデータなどを用いて各種の演算処理を実行する処理装置である。ROM102は、コンピュータに各機能を実現させるための基本プログラムや環境ファイルなどを記憶する読み取り専用の記憶装置である。RAM103は、CPU101が実行するプログラムおよび各プログラムの実行に必要なデータを記憶する主記憶装置であり、高速な読み出しと書き込みが可能である。入出力インターフェース104は、各種のハードウェアとシステムバス105との接続を仲介する装置である。システムバス105は、CPU101、ROM102、RAM103および入出力インターフェース104で共有される情報伝達路である。
【0061】
また、入出力インターフェース104には、入力装置106、表示装置107、ストレージ108などのハードウェアが接続されている。入力装置106は、オペレータによる入力を処理する装置であり、例えばキーボードやマウスである。上述した各部の処理は、入力装置106からの入力を起点として実行される。表示装置107は、例えばディスプレイである。ストレージ108は、プログラムやデータを蓄積する大容量の補助記憶装置であり、例えばハードディスク装置や不揮発性の半導体メモリなどである。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 被圧延材
2 熱間圧延ライン
3 情報ネットワーク
4 制御ネットワーク
5 圧延計算機
6 下位コントローラ(プログラマブルロジックコントローラ)
7 設備機器
8 冷却水スプレーバルブ
9 計算機IF装置
10 CTC計算機(巻取温度制御計算機)
11 トラッキング部
12 CTC設定計算部
20 計算機間通信経路
21 加熱炉
22 粗圧延機
23 仕上圧延機
24 搬送テーブル
25 コイラー
26 FDTセンサ
27 MTセンサ
28 CTセンサ
29 速度センサ
30 センサ
41〜44 ノードA〜ノードD
101 CPU(Central Processing Unit)
102 ROM(Read Only Memory)
103 RAM(Random Access Memory)
104 入出力インターフェース
105 システムバス
106 入力装置
107 表示装置
108 ストレージ
241 冷却装置
410〜440 コモンメモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8