特許第6860083号(P6860083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860083
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】ピアサープラグ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210405BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20210405BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20210405BHJP
   B21B 25/00 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   C22C38/00 301H
   C22C38/00 302E
   C22C38/54
   C21D9/00 M
   B21B25/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-549868(P2019-549868)
(86)(22)【出願日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】JP2018029879
(87)【国際公開番号】WO2019087510
(87)【国際公開日】20190509
【審査請求日】2020年1月30日
(31)【優先権主張番号】特願2017-212753(P2017-212753)
(32)【優先日】2017年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100174285
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮山 聰
(72)【発明者】
【氏名】日高 康善
(72)【発明者】
【氏名】白沢 尚也
(72)【発明者】
【氏名】宮井 達哉
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/051632(WO,A1)
【文献】 特開平11−179407(JP,A)
【文献】 特開平09−195002(JP,A)
【文献】 特開平10−137818(JP,A)
【文献】 特開平10−291008(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/013963(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/101837(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/050975(WO,A1)
【文献】 特開昭62−244505(JP,A)
【文献】 特開2005−336567(JP,A)
【文献】 特開平08−309108(JP,A)
【文献】 特開2012−172344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
C21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C :0.15〜0.30%、
Si:0.4〜1.2%、
Mn:0.2〜1.5%、
Ni:0.1〜2.0%、
Mo:0〜4.0%、W:0〜4.0%、ただし、Mo及びWのうち1種又は2種を合計で1.0〜6.0%、
Cr:1.0%よりも高く4.0%以下、
B :0〜0.2%、
Nb:0〜1.0%、
V :0〜1.0%、
Ti:0〜1.0%、
残部:Fe及び不純物であり、
先端部と、
前記先端部と同じ素材で形成され、前記先端部と連続する胴部とを備え、
前記胴部は、バーを取り付けるための穴が形成された筒部を含み、
前記先端部は前記筒部よりも硬く、
前記先端部のビッカース硬度が、370Hv〜420Hvであり、
前記筒部のビッカース硬度が、220Hv〜260Hvであり、
前記筒部の、JIS Z 2242(2005)に基づくフルサイズ試験片を用いて40℃で測定したシャルピー衝撃試験による吸収エネルギーが、30〜115J/cmである、ピアサープラグ。
【請求項2】
請求項1に記載のピアサープラグであって、
前記ピアサープラグの表面に形成された保護膜をさらに備え、
前記保護膜は、溶射皮膜及び肉盛層の少なくとも一方を含む、ピアサープラグ。
【請求項3】
化学組成が、質量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.4〜1.2%、Mn:0.2〜1.5%、Ni:0.1〜2.0%、Mo:0〜4.0%、W:0〜4.0%、ただし、Mo及びWのうち1種又は2種を合計で1.0〜6.0%、Cr:1.0%よりも高く4.0%以下、B:0〜0.2%、Nb:0〜1.0%、V:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、残部:Fe及び不純物であり、先端部と、前記先端部と同じ素材で形成され、前記先端部と連続する胴部とを備えるピアサープラグを準備する工程と、
前記先端部の温度がAc点以上になりかつ前記胴部においてバーを取り付けるための穴が形成された筒部の温度が前記Ac点未満になるように前記ピアサープラグを加熱する工程とを備え、
前記先端部のビッカース硬度が、350Hv〜420Hvであり、
前記筒部のビッカース硬度が、220Hv〜260Hvであり、
前記筒部の、JIS Z 2242(2005)に基づくフルサイズ試験片を用いて40℃で測定したシャルピー衝撃試験による吸収エネルギーが、30〜115J/cmである、ピアサープラグの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のピアサープラグの製造方法であって、
前記加熱する工程に先だって、前記ピアサープラグの表面に保護膜を形成する工程をさらに備え、
前記保護膜は、溶射皮膜及び肉盛層の少なくとも一方を含む、ピアサープラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピアサープラグ及びその製造方法に関し、特に継目無鋼管を製造するための穿孔圧延に用いるピアサープラグ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
穿孔圧延に用いられるピアサープラグは、高温(例えば1200℃)のビレットを穿孔する非常に過酷な環境に曝される。ピアサープラグは、表面に酸化膜や溶射皮膜を形成して用いられる。特許第2683861号公報には、表面に酸化型スケールを有する熱間製管用工具が開示されている。特許第5464300号公報及び特許第5440741号公報には、肉盛層及び溶射皮膜を備えたピアサープラグが開示されている。特許第2776256号公報には、W:30〜55%を含むNi基合金の表面処理被膜が形成された工具が開示されている。
【0003】
これらの皮膜はいずれも、穿孔に用いることで磨耗や剥離により消耗する。皮膜が消耗したピアサープラグは、使用を中断して、皮膜を再び形成することでリサイクルできる。この際、ピアサープラグの母材(ピアサープラグの皮膜以外の部分。以下、単に「母材」という場合ある。)が高面圧を受けて変形していることがある。母材の変形量が小さい場合にはリサイクルできるが、変形量が大きい場合にはリサイクルできない。一方、変形量を低減させるために母材を硬くすると、胴部で割れが発生する場合がある。
【0004】
特許第2778140号公報及び特許第2819906号公報には、Ni基合金製熱間工具が開示されている。これらの熱間工具は、母材がNi基合金製であるため高温強度に優れるが、高コストである。
【0005】
国際公開第2014/050975号には、熱処理によって硬度がHRC6以上40以下に調整された継目無鋼管製造用ピアサープラグ用素材が開示されている。
【0006】
国際公開第2017/051632号には、先端部に高周波加熱等を施し、先端部を筒部よりも硬くしたピアサープラグが開示されている。
【発明の開示】
【0007】
近年、石油掘削環境が厳しくなるのに伴い、ステンレス鋼や高合金鋼等の難加工材からなる継目無鋼管の需要が高まっている。このような継目無鋼管の製造に用いるピアサープラグのリサイクル性を高めるには、変形抵抗をより高める必要がある。
【0008】
また、ピアサープラグをリサイクルするに当たっては、古い皮膜をブラスト等で除去する必要がある。この際、ピアサープラグの先端部に欠損が生じて、リサイクルができなくなることがある。
【0009】
本発明の目的は、リサイクル性の高いピアサープラグ及びその製造方法を提供することである。
【0010】
本発明の一実施形態によるピアサープラグは、化学組成が、質量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.4〜1.2%、Mn:0.2〜1.5%、Ni:0.1〜2.0%、Mo:0〜4.0%、W:0〜4.0%、ただし、Mo及びWのうち1種又は2種を合計で1.0〜6.0%、Cr:1.0%よりも高く4.0%以下、B:0〜0.2%、Nb:0〜1.0%、V:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、残部:Fe及び不純物であり、先端部と、前記先端部と同じ素材で形成され、前記先端部と連続する胴部とを備え、前記胴部は、バーを取り付けるための穴が形成された筒部を含み、前記先端部は前記筒部よりも硬い。
【0011】
本発明の一実施形態によるピアサープラグの製造方法は、化学組成が、質量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.4〜1.2%、Mn:0.2〜1.5%、Ni:0.1〜2.0%、Mo:0〜4.0%、W:0〜4.0%、ただし、Mo及びWのうち1種又は2種を合計で1.0〜6.0%、Cr:1.0%よりも高く4.0%以下、B:0〜0.2%、Nb:0〜1.0%、V:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、残部:Fe及び不純物であり、先端部と、前記先端部と同じ素材で形成され、前記先端部と連続する胴部とを備えるピアサープラグを準備する工程と、前記先端部の温度がAc点以上になりかつ前記胴部においてバーを取り付けるための穴が形成された筒部の温度が前記Ac点未満になるように前記ピアサープラグを加熱する工程とを備える。
【0012】
本発明によれば、リサイクル性の高いピアサープラグが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態によるピアサープラグの縦断面図である。
図2図2は、図1と異なる形状の他のピアサープラグの縦断面図である。
図3図3は、ピアサープラグを備えた穿孔圧延機の模式図である。
図4図4は、本発明の一実施形態による製造方法を示すフロー図である。
図5図5は、加熱装置の模式図である。
図6図6は、図5に示す加熱装置とは別の加熱装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ピアサープラグのリサイクル性を高めるには、母材の硬度を高くして、母材の変形量を低減する必要がある。一方、母材の硬度を高くしすぎると、穿孔時に胴部で割れが発生する場合がある。割れを抑制するには、ピアサープラグの靱性を高くすることが好ましい。しかし、高硬度と高靱性とを両立することは困難である。
【0015】
母材の変形挙動と割損挙動とを調査した結果、次の(1)(2)が分かった。
(1)母材の変形は、穿孔中の温度が高くなり面圧が最も高い先端部で顕著である。
(2)割損は、胴部のうち、芯金(バー)を挿入するための穴加工が施されている部分(以下「筒部」という。)が起点となっている。
【0016】
そこで本発明者らは、ピアサープラグの先端部を筒部よりも硬くすることで、変形量の低減と割損の抑制とを両立できることを見出した。本発明者らはまた、先端部がAc点以上の温度になり、かつ筒部の温度がAc点未満となるようにピアサープラグを加熱することによって、先端部を筒部よりも硬くできることを見出した。
【0017】
先端部の硬度をさらに高めるには、焼入れ性を向上させる元素を多く含有させればよい。焼入れ性を向上させる元素を多く含有させても、筒部の温度はAc点以上になることはないため、筒部の靱性を維持することができる。
【0018】
一方、古い皮膜を除去する際にピアサープラグの先端部に欠損が生じ、リサイクルができなくなるという問題がある。調査の結果、この欠損は、穿孔時の温度履歴によってピアサープラグの先端部が硬化することが原因と判明した。すなわち、ピアサープラグの先端は、穿孔時にAc点以上に加熱され、穿孔後、プラグ冷却水によって急冷される。このとき、ピアサープラグの先端部が過度に硬化して脆化する。
【0019】
穿孔時の温度履歴による硬化を抑制するための手段としては、穿孔後の冷却速度を遅くする(例えば水冷をしないようにする)ことも考えられる。しかし、冷却速度を遅くすると、冷却不足によってピアサープラグの寿命が短くなる。そのため、ピアサープラグの化学組成を調整して、焼入れ性を適切に制御する必要がある。
【0020】
上述のとおり、ピアサープラグは表面に酸化スケールを形成して使用されることが多く、熱処理は主に酸化スケールの形成を目的として行われる。そのため、従来は焼入れ性に着目した化学組成の調整は行われていなかった。また、Crは耐酸化成分でもあり、酸化スケールの形成を妨げることや、Crを含有するビレットと焼付きを起こしやすいこと等から、特にステンレス鋼を穿孔対象とするピアサープラグでは、Cr含有量の高い鋼が用いられることは少なかった。本発明者らは、ピアサープラグの化学組成を調整し、焼入れ性を適切に制御することで、変形量の低減及び割損の抑制、さらには皮膜除去の際の欠損の抑制を同時に達成することに成功した。
【0021】
本発明は、上記の知見に基づいて完成された。以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0022】
[ピアサープラグ]
本実施形態によるピアサープラグ(以下、単に「プラグ」という。)は、以下に説明する化学組成を有する。以下、元素に関する%は、質量%を意味する。
【0023】
C:0.15〜0.30%
炭素(C)は、高温強度の向上に有効な成分である。C含有量が0.15%未満では、その効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.30%を超えると、硬度が高くなりすぎてプラグの割損や欠損が生じやすくなる。したがって、C含有量は0.15〜0.30%である。C含有量の上限は、好ましくは0.25%である。
【0024】
Si:0.4〜1.2%
シリコン(Si)は、脱酸及び高強度化に有効な成分である。Si含有量が0.4%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Si含有量が1.2%を超えると、靱性が低下する。したがって、Si含有量は0.4〜1.2%である。Si含有量の下限は、好ましくは0.5%である。Si含有量の上限は、好ましくは1.1%である。
【0025】
Mn:0.2〜1.5%
マンガン(Mn)は、オーステナイトを安定化させる成分であり、δフェライトの生成を抑制して靱性の低下を抑制する。Mn含有量が0.2%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が1.5%を超えると、硬度が高くなりすぎ、穿孔時に割れが生じやすくなる。したがって、Mn含有量は0.2〜1.5%である。Mn含有量の下限は、好ましくは0.3%である。Mn含有量の上限は、好ましくは1.2%であり、さらに好ましくは1.0%である。
【0026】
Ni:0.1〜2.0%
ニッケル(Ni)は、プラグ表層部に形成される焼入れ組織の靱性を改善する作用がある。Ni含有量が0.1%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Ni含有量を2.0%よりも高くしても効果が飽和し、コストの増加要因となる。したがって、Ni含有量は0.1〜2.0%である。Ni含有量の下限は、好ましくは0.2%である。Ni含有量の上限は、好ましくは1.5%であり、さらに好ましくは1.0%である。
【0027】
Mo:0〜4.0%、W:0〜4.0%、ただし、Mo及びWのうち1種又は2種を合計で1.0〜6.0%
モリブデン(Mo)及びタングステン(W)は、高温強度の改善に有効な成分である。Mo含有量とW含有量との合計が1.0%未満では、この効果が十分に得られない。一方、Mo含有量とW含有量との合計が6.0%を超えると、高温でもフェライトが残留し、強度及び靱性が低下する。したがって、Mo含有量とW含有量との合計は1.0〜6.0%である。Mo含有量とW含有量との合計の下限は、好ましくは1.5%であり、さらに好ましくは2.0%である。Mo含有量とW含有量との合計の上限は、好ましくは4.0%であり、さらに好ましくは3.0%である。
【0028】
Cr:1.0%よりも高く4.0%以下
クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性を向上させる。Cr含有量が1.0%以下では、この効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が4.0%を超えると、焼入れ性が高くなりすぎ、穿孔時の温度履歴によってプラグ先端部が過度に硬化する原因となる。したがって、Cr含有量は1.0%よりも高く4.0%以下である。Cr含有量の下限は、好ましくは1.2%であり、さらに好ましくは2.0%である。Cr含有量の上限は、好ましくは3.5%であり、さらに好ましくは3.0%である。
【0029】
本実施形態によるプラグの化学組成の残部は、Fe及び不純物である。ここでいう不純物は、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップから混入される元素、あるいは製造過程の環境等から混入される元素をいう。
【0030】
本実施形態によるプラグの化学組成は、Feの一部に代えて、以下に説明する元素を含有してもよい。以下に説明する元素は、すべて選択元素である。すなわち、本実施形態によるプラグの化学組成は、以下の元素の一部又は全部を含有していなくてもよい。
【0031】
B:0〜0.2%
ボロン(B)は、粒界の強度を向上させる効果がある。Bが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、B含有量が0.2%を超えると、脆化相が析出して靱性が低下する。したがって、B含有量は0〜0.2%である。B含有量の下限は、好ましくは0.002%である。B含有量の上限は、好ましくは0.1%であり、さらに好ましくは0.05%である。
【0032】
Nb:0〜1.0%
V :0〜1.0%
Ti:0〜1.0%
ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、チタン(Ti)は、結晶粒を微細化する効果がある。これらの元素が少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、これらの元素の含有量がそれぞれ1.0%を超えると、靱性が低下する。したがって、Nb、V、及びTiの含有量はそれぞれ、0〜1.0%である。Nb、V、及びTiのそれぞれの含有量の下限は、好ましくは0.2%である。
【0033】
図1は、本発明の一実施形態によるプラグ1の縦断面図である。プラグ1は、砲弾形状を有する。プラグ1は、先端部2と、胴部3とを備えている。プラグ1の横断面は、先端部2及び胴部3ともに円形状である。先端部2及び胴部3は表面が連続している。先端部2及び胴部3は同じ素材で形成されており、1つのパーツである。以下、プラグ1において、先端部2側を前方とし、胴部3側を後方とする。
【0034】
胴部3は、バーと接続するために設けられた、後端面(裏面)に開口した結合用穴4を有する。結合用穴4の前端(穴の底)は、例えば、プラグ1の全長(先端部2の前端から胴部3の後端までの寸法)のうち、中央又はそれよりも後方の部位に位置する。プラグ1の後方部分(胴部3の後方部分)は、結合用穴4によって筒状になっている。プラグ1の長手方向(軸方向)において、内部に結合用穴4が形成されている部分を筒部5と呼ぶ。プラグ1の長手方向における結合用穴4の前端から後端(開口端)までの長さ、つまり結合用穴4の深さをD[mm]として、筒部5の前端は、結合用穴4の前端から前方に0.1×D[mm]の位置とする。すなわち、筒部5は、プラグ1の長手方向において、結合用穴4の前端から0.1×D[mm]前方の位置とプラグ1の後端との間の部分を指す。なお、プラグ1は、胴部3よりも後方に位置する逃げ部をさらに備えてもよい。
【0035】
プラグ1は、図2に示すように、先端部2が凸型に突出して形成されている形状であってもよい。図2に示すプラグ1は、胴部3よりも後方に位置する逃げ部10をさらに備える。
【0036】
プラグ1は、図3に示すように、穿孔圧延機13において、結合用穴4にバー(芯金)15の先端を取り付け、穿孔圧延に用いられる。プラグ1は一対の傾斜ロール14、14の間であってかつパスラインPL上に配置される。穿孔圧延時、プラグ1には、先端部2から中実のビレット16に接触する。プラグ1は、高温に晒されるとともに、高い圧力を受ける。
【0037】
別の観点から、プラグ1は、図1又は図2に示すように、圧延部11とリーリング部12とに区分される。圧延部11は先端部2の全体及び胴部3のうち先端部2に連続する前方の部位であり、リーリング部12は胴部3の圧延部11よりも後方の部位である。圧延部11は穿孔圧延において、肉厚圧下の大部分を受け持つ部位である。リーリング部12は、穿孔圧延において、中空素管(シェルともいう)の肉厚を仕上げる部位である。
【0038】
先端部2は、筒部5よりも硬い。先端部2のビッカース硬さは、好ましくは300Hv以上であり、さらに好ましくは350Hv以上である。筒部5のビッカース硬さは、好ましくは220〜260Hvである。ビッカース硬さは、プラグ1を長手方向に切断した断面から、JIS Z 2244(2009)に基づき、1kgfの試験力で測定した値とする。
【0039】
筒部5は、好ましくは、JIS Z 2242(2005)に基づくフルサイズ試験片を用いた40℃におけるシャルピー衝撃試験において、吸収エネルギーが25J/cm以上である。筒部5の吸収エネルギーは、好ましくは30J/cm以上であり、さらに好ましくは50J/cm以上である。
【0040】
先端部2を筒部5よりも硬くすることで、穿孔圧延による先端部2の変形を抑制することができる。筒部5を先端部2と同様に硬くすると、筒部5の靭性が低下して穿孔圧延により筒部5に割れが生じる。本実施形態のプラグ1は、先端部2及び胴部3を同じ素材で形成したプラグにおいて、先端部2のみを硬くすることで、硬さを向上させた先端部2と所望の靱性を有する筒部5とを備えることができる。その結果、プラグ1は、筒部5の割れの発生を抑制しながら、先端部2の変形を抑制することができ、リサイクル性を高めることができる。
【0041】
プラグ1は、保護膜8をさらに備える。保護膜8は、溶射皮膜及び肉盛層の少なくとも一方を含む。プラグ1は、保護膜8として、溶射皮膜及び肉盛層の両方を備えていてもよい。この場合において、プラグ1の表面の一部に溶射皮膜が形成され、他の一部に肉盛層が形成されていてもよい。あるいは、プラグ1の表面に、肉盛層と溶射皮膜とが重ねて形成されていてもよい。
【0042】
溶射皮膜は、特に限定されないが、例えば鉄及び鉄酸化物を主成分とする溶射皮膜とすることができる。肉盛層は、特に限定されないが、例えば遷移金属を主成分とする合金とすることができる。この合金は、例えば、コバルトを主成分とし、クロム及びタングステンを含む合金(ステライト合金)である。
【0043】
保護膜8は、好ましくは、プラグ表面の圧延部11を覆って形成される。保護膜8は、より好ましくは、プラグの後端面を除く全表面に形成される。保護膜8は、その厚さを部位毎に異ならせることが好ましく、胴部3の表面に形成される保護膜8よりも先端部2の表面に形成される保護膜8を厚くすることが好ましい。
【0044】
図1及び図2では、プラグ1が保護膜8を備えている場合を説明した。しかし、保護膜8は、必要に応じて形成される。本実施形態によるプラグは、保護膜8を備えていなくてもよい。
【0045】
[製造方法]
図4は、本発明の一実施形態によるプラグの製造方法のフロー図である。この製造方法は、プラグを準備する工程S1と、プラグ上に保護膜を形成する工程S2と、プラグを加熱する工程S3と、プラグを冷却する工程S4とを備えている。
【0046】
[工程S1]
プラグを準備する。プラグは例えば、次のようにして製造することができる。上述した化学組成を有する鋼を溶解し、プラグに近い形状に鋳造して粗形品とする。焼鈍し処理として、粗形品を650〜850℃に2〜6時間保持した後炉冷却する。その後、粗形品を切削加工してプラグの最終形状にする。
【0047】
[工程S2]
必要に応じて、プラグ上に保護膜8を形成する。保護膜8が溶射皮膜の場合、例えば、アーク溶射、プラズマ溶射、フレーム溶射、高速フレーム溶射等によって形成することができる。保護膜8が肉盛層の場合、例えば、プラズマ粉体肉盛溶接法、MIG溶接法、TIG溶接法等によって形成することができる。
【0048】
工程S2は、任意の工程である。すなわち、工程S2は実施されなくてもよい。また、図3では工程S2を工程S3の前に実施する場合を説明しているが、工程S2を実施するタイミングはこれに限定されない。工程S2は、工程S3の前に実施することが好ましいが、工程S3又は工程S4の後に実施してもよい。
【0049】
[工程S3]
プラグの先端部2を加熱する。このとき、先端部2の温度がオーステナイト変態温度(Ac点)以上になり、筒部5の温度がAc点未満になるように加熱する。ここで、温度をAc点未満とすべき筒部5は、前述のとおり、結合用穴4の前端から0.1×D[mm]前方の位置とプラグの後端との間の部分である。換言すると、プラグの後端と結合用穴4の前端から0.1×D[mm]前方の位置との間の領域は、Ac点未満になるように加熱される。
【0050】
この加熱処理は例えば、図5に示すように、先端部2の外周に高周波コイル6を取り付け、加熱装置内にプラグを配置し、コイル6を用いて先端部2を950〜1200℃で高周波加熱することで実現できる。加熱温度は、より好ましくは950〜1100℃である。加熱時間は焼きが入る時間であればよく、高周波加熱の場合、Ac点以上の温度に数秒以上加熱すれば十分である。ただし、工業的な安定性を考慮すると20秒以上が好ましく、1分以上がより好ましい。加熱時間は20分以内が好ましく、10分以内がより好ましい。特に、加熱処理を不活性ガス雰囲気以外(例えば大気中)で実施する場合、加熱時間は10分以内が好ましく、5分以内がより好ましい。長時間加熱すると、保護膜8の性状が変化するおそれがあるからである。例えば、大気中であれば、保護膜8の酸化が進むおそれがある。上記した加熱処理により、先端部2の温度をAc点以上にし、筒部5の温度をAc点未満にすることができる。なお、プラグを加熱する装置は、高周波コイル6に限定されない。
【0051】
図6に、高周波コイル6を使用せずにプラグを加熱する装置の例を示す。図6に示す加熱装置7は、ヒータ71、72を備える。ヒータ71は、加熱装置7の上部に配置されている。ヒータ72は、加熱装置7の下部に配置されている。
【0052】
工程S3の実施に際し、加熱装置7内にプラグが装入される。加熱装置7内には、複数のプラグが装入されることが好ましい。このとき、プラグとヒータ72との間には遮蔽物8が設置される。すなわち、ヒータ72の上方に遮蔽物8が配置され、遮蔽物8上にプラグが載置される。遮蔽物8は、ヒータ72からプラグへの伝熱を抑制する部材である。遮蔽物8の形状は、例えば、格子状や板状である。遮蔽物8は、酸化物で被覆されていてもよい。
【0053】
加熱装置7内のプラグは、ヒータ71、72によって加熱される。ヒータ71、72の加熱温度(設定温度)は、同一とすることができる。加熱装置7内は、Ar等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。プラグの先端部2の温度がAc点以上の所定温度に達した時点で、加熱装置7からプラグが取り出される。遮蔽物8によってプラグの下部への伝熱はプラグの上部への伝熱よりも小さくなっているため、筒部5の温度は先端部2の温度よりも低い。加熱装置7からプラグを取り出す時点で、筒部5の温度はAc点まで達しておらず、Ac点未満となっている。
【0054】
加熱装置7によるプラグの加熱は、遮蔽物8を用いずに行うこともできる。この場合は、プラグの上方に位置するヒータ71の加熱温度よりも、プラグの下方に位置するヒータ72の加熱温度を小さくする。これによって、プラグの上部への伝熱を大きく、プラグの下部への伝熱を小さくすることができる。これによって、遮蔽物8を用いた場合と同様に、先端部2の温度がAc点以上になる一方で筒部5の温度がAc点未満となるように、プラグを加熱することができる。
【0055】
加熱装置7内のプラグについて、例えば、先端部2及び筒部5の各々に熱電対を取り付けて先端部2及び筒部5の温度を測定することができる。これによって、筒部5の温度がAc点未満である一方、先端部2の温度がAc点以上の所定温度に達したことを検知し、好ましいタイミングでプラグを加熱装置7から取り出すことができる。なお、工程S3の実施の都度、先端部2及び筒部5の温度を測定する必要はない。温度の測定を一度行えば適切な加熱時間を得ることができるため、同種のプラグに関しては、当該加熱時間で工程S3を実施すればよい。
【0056】
[工程S4]
工程S3で加熱されたプラグを冷却する。例えば、コイル6の通電を止め、加熱装置の扉を開放して、プラグを400℃以下、通常は室温まで冷却する。これによって、プラグ1が製造される。冷却速度は焼きが入る速度であればよく、放冷程度かそれ以上であればよい。
【0057】
以上のように、この製造方法で製造されたプラグ1は、先端部2をAc点以上に加熱することで、先端部2の硬さを向上させることができる。さらに、プラグ1は、筒部5の温度をAc点未満に抑えることで、加熱による筒部5の靱性の低下を抑制することができる。その結果、プラグ1は、硬さを向上させた先端部2と所望の靱性を有する筒部5とを備えることができる。
【0058】
プラグ1の製造方法は、上述のものに限られない。例えば、筒部5のみに焼戻しを行うことにより、先端部2が筒部5よりも硬いプラグ1を製造してもよい。例えば、全体(先端部2及び胴部3)が300Hv以上のビッカース硬さを有するプラグを準備して筒部5のみを焼戻すことにより、先端部2のビッカース硬さが300Hv以上であって、筒部5のビッカース硬さが220〜260Hvのプラグ1を製造することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。この実施例は本発明を限定するものではない。
【0060】
表1に示す化学組成A〜Nを有する鋼を溶解し、プラグに近い形状に鋳造した。表1の「−」は、該当する元素の含有量が不純物レベルであったことを示す。これらの鋼のAc点は、概略920℃である。
【0061】
【表1】
【0062】
鋳造したプラグの粗形品に対し、800℃で4時間、大気中にて保持した後炉冷する焼鈍し処理を実施した。その後、外表面を切削加工して、所定の実験用プラグの形状とした。各プラグはそれぞれ、Fe溶射皮膜を付与したものと付与しないものとを作製した。
【0063】
溶射皮膜を付与したものと付与しないものとのそれぞれに対し、Ar雰囲気中で、先端部が900〜1100℃になり、かつ筒部の温度が800℃未満となるように加熱した。加熱は、図4で説明した高周波コイルを備える加熱装置によって実施し、加熱時間は10分とした。加熱後は、加熱装置の扉を解放して室温付近まで放冷した。
【0064】
溶射皮膜を付与しなかったプラグの筒部からシャルピー試験片を機械加工によって作製し、シャルピー衝撃試験を実施して吸収エネルギーを測定した。シャルピー衝撃試験は、JIS Z 2242(2005)に基づくフルサイズ試験片を用いて40℃で測定した。
【0065】
同じく溶射皮膜を付与しなかったプラグの先端部から硬度測定用の試験片を機械加工によって作製し、常温でビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さの測定は、JIS Z 2244(2009)に基づいて実施した。試験力は1kgfとした。
【0066】
溶射皮膜を付与したプラグを用いて、SUS304を相手材として3パスの穿孔圧延試験を実施し、穿孔圧延後のプラグの割れの有無を観察するとともに、母材の変形量(L方向の収縮長さ)を測定した。また、穿孔圧延後に溶射皮膜の除去をショットブラストで行い、溶射皮膜除去後のプラグの欠損の有無を観察した。
【0067】
試験結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
試験No.1のプラグは、国際公開第2017/051632号に記載されているプラグである。母材変形量の評価は、試験No.1の母材変形量を基準とした。
【0070】
試験No.2のプラグは、Cr含有量を1.0%にしたものである(成分B)。このプラグは、試験No.1のプラグと比べると母材変形量が低減しているものの、その効果は小さかった。
【0071】
試験No.3のプラグは、Cr含有量を2.0%にしたものである(成分C)。試験No.1のプラグと同等の靱性(シャルピー吸収エネルギー)を確保しつつ、常温硬度は20%以上向上し、それに伴って母材変形量も20%程度低減していた。また、割損や欠損も生じなかった。
【0072】
試験No.4のプラグは、先端部の常温硬度が低かった。これは、熱処理時の先端部の温度が低かったためと考えられる。
【0073】
試験No.5−8のプラグは、Cr含有量を3.0%にしたものである(成分D)。これらのプラグは、試験No.1のプラグと同等の靱性を確保しつつ、常温硬度は30%程度向上し、それに伴って母材変形量も大幅に低減していた。また、割損や欠損も生じなかった。これらのプラグはさらに、試験No.1のプラグと比べてMo及びWの含有量が半分であり、コストの削減も見込むことができる。
【0074】
試験No.9−12のプラグは、成分Dを基準にC含有量を増やしていったものである(成分E−H)。常温硬度は、C含有量の増加とともに高くなる傾向が見られ、それに伴って母材変形量も低下していた。一方、靱性はC含有量の増加とともに低下する傾向があり、試験No.12のプラグでは割損が発生した。
【0075】
試験No.13のプラグは、C含有量を0.30%、Cr含有量を4.0%にしたものである(成分I)試験No.13のプラグは、試験No.11のプラグ(成分G)と同程度の常温硬度を有していた。試験No.11のプラグと比較して靱性は低下していたが、割損は発生しなかった。
【0076】
試験No.14のプラグは、C含有量を0.30%、Cr含有量を5.0%にしたものである(成分J)。試験No.14のプラグでは、割損及び欠損が発生した。
【0077】
試験No.15のプラグは、試験No.14のプラグの熱処理温度を950℃にしたものである。試験No.15のプラグでは、割損は発生しなかったものの、欠損が発生した。
【0078】
試験No.16−18のプラグは、試験No.3のプラグ(成分C)にそれぞれ、V、Nb、及びTiを含有させたものである(成分K、L、M)。これらのプラグは、V、Nb、及びTiによる細粒化効果により、試験No.3のプラグと比較して、常温硬度及び靱性が向上していた。
【0079】
試験No.19のプラグは、試験No.6のプラグ(成分D)にBを含有させたものである(成分N)。このプラグは、Bによる粒界強度の向上の効果により、試験No.6のプラグと比較して、常温硬度及び靱性が向上していた。
【0080】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6