特許第6860103号(P6860103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860103
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】新規抗ヒトTie2抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20210405BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20210405BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20210405BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20210405BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20210405BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210405BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20210405BHJP
【FI】
   C12N15/13
   C12N15/63 Z
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   !C07K16/28
【請求項の数】6
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2020-32764(P2020-32764)
(22)【出願日】2020年2月28日
(62)【分割の表示】特願2016-534433(P2016-534433)の分割
【原出願日】2015年7月14日
(65)【公開番号】特開2020-103302(P2020-103302A)
(43)【公開日】2020年7月9日
【審査請求日】2020年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-145135(P2014-145135)
(32)【優先日】2014年7月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137464
【弁理士】
【氏名又は名称】濱井 康丞
(74)【代理人】
【識別番号】100117846
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 ▲頼▼子
(74)【代理人】
【識別番号】100158089
【弁理士】
【氏名又は名称】寺内 輝和
(74)【代理人】
【識別番号】100158252
【弁理士】
【氏名又は名称】飯室 加奈
(74)【代理人】
【識別番号】100172546
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 路人
(74)【代理人】
【識別番号】100177482
【弁理士】
【氏名又は名称】川濱 周弥
(74)【代理人】
【識別番号】100191639
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 啓明
(72)【発明者】
【氏名】蒲原 正純
(72)【発明者】
【氏名】八木 繁典
(72)【発明者】
【氏名】石井 芳則
(72)【発明者】
【氏名】奈良 裕美
【審査官】 山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−525104(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/028442(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/020069(WO,A1)
【文献】 植田充美監修,抗体医薬の最前線,2007年 7月20日,第1刷,p.3-13
【文献】 Journal of Pharmaceutical Sciences,2008年 7月,Vol.97, No.7,p.2426-2447
【文献】 Biomaterials,2015年 2月17日,Vol.51,p.119-128
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
C07K 16/00−46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)および(b)を含むポリヌクレオチド:
(a)4つの重鎖可変領域及び4つの軽鎖可変領域を含む抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントであって、
該重鎖可変領域は配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなり、
該軽鎖可変領域は配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなり、
1つの該重鎖可変領域と1つの該軽鎖可変領域が1つの抗原結合部位を構成し、該抗体又はその抗原結合フラグメントが4つの抗原結合部位を含む、
抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド;及び
(b)抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
以下の(a)および(b)を含むポリヌクレオチド:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド;及び
(b)抗ヒトTie2抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項4】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項5】
以下の(a)〜()からなる群より選択される、発現ベクターで形質転換された宿主細胞:
(a)4つの重鎖可変領域及び4つの軽鎖可変領域を含む抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントであって、
該重鎖可変領域は配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなり、
該軽鎖可変領域は配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなり、
1つの該重鎖可変領域と1つの該軽鎖可変領域が1つの抗原結合部位を構成し、該抗体又はその抗原結合フラグメントが4つの抗原結合部位を含む、
抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
(b)4つの重鎖可変領域及び4つの軽鎖可変領域を含む抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントであって、
該重鎖可変領域は配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなり、
該軽鎖可変領域は配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなり、
1つの該重鎖可変領域と1つの該軽鎖可変領域が1つの抗原結合部位を構成し、該抗体又はその抗原結合フラグメントが4つの抗原結合部位を含む、
抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞
【請求項6】
以下の(a)〜()からなる群より選択される、発現ベクターで形質転換された宿主細胞:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗ヒトTie2抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
Tie2(Tyrosine kinase with Ig and EGF homology domain 2)は受容体型チロシンキナーゼである。Tie2は主に血管内皮細胞に発現していることが知られている。そのリガンドとしては、多量体型分泌糖蛋白質であるアンジオポエチン−1(Angiopoietin−1;Ang−1)及びアンジオポエチン−2(Ang−2)が知られている。
【0003】
Ang−1はTie2に対してアゴニストとして機能する。Tie2はAng−1と結合すると、多量体を形成することによって自己リン酸化し、細胞内にシグナルを伝達して、血管内皮細胞の抗アポトーシス作用、血管の透過性阻害作用等の血管安定化、成熟化及びリモデリングを促進することが示されている(Cell、1996、Vol.87、p.1171−1180。Genes Dev.、1994、Vol.8、p.1897−1909。Science、1999、Vol.286、p.2511−2514。Nat.Struct.Biol.、2003、Vol.10、p.38−44)。また、Ang−1はTie2活性化を介して一酸化窒素産生を介した血管拡張及び血流亢進作用を発揮することも知られている(Pharmacol.Res.、2014、Vol.80、p.43−51)。さらに、Ang−1はTie2活性化を介して血管内皮カドヘリンのインターナリゼーションを抑制することで血管の安定化に寄与していると考えられている(Dev.Cell、2008、Vol.14、p.25−36)。一方、Ang−2は血管内皮細胞上でTie2を活性化できるとされているが、その活性化はAng−1に比して部分的であるとされている(Mol.Cell Biol.、2009、Vol.29、p.2011−2022)。Ang−2はAng−1とTie2の同じ部位へ同程度の親和性で結合するため、結果的にAng−1によるTie2の活性化を部分的な活性に置き換えてしまうことからAng−2は内因性のTie2アンタゴニストとして機能することが示唆されている(Science、1997、Vol.277、p.55−60)。
【0004】
血中Ang−2濃度の上昇が、糖尿病、糖尿病網膜症、敗血症及び急性腎不全などの、血管の脆弱性が病因の一つとして考えられている疾患で報告されている(Atherosclerosis、2005、Vol.180、p.113−118。Br.J.Ophthalmol.、2004、Vol.88、p.1543−1546。Critical Care、2009、Vol.13、p.207。Intensive Care Med.、2010、Vol.36、p.462−470)。
【0005】
糖尿病網膜症及び糖尿病黄斑浮腫との関連としては、患者の血漿中又は硝子体液中でAng−2濃度が上昇している報告がある(Br.J.Ophthalmol.、2004、Vol.88、p.1543−1546。Br.J.Ophthalmol.、2005、Vol.89、p.480−483)。また、糖尿病網膜症患者の網膜血管においては、Ang−1の主たる産生細胞である周皮細胞(Cell、1996、Vol.87、p.1161−1169)の脱落が特徴的な病変のひとつとして知られている(Retina、2013、Fifth edition、p.925−939)。病態の一つとして黄斑部が肥厚する糖尿病黄斑浮腫が知られているが、硝子体除去の手術によって眼内Ang−1濃度が上昇した患者では黄斑部の肥厚が減少しているとの報告もある(Br.J.Ophthalmol.、2005、Vol.89、p.480−483)。さらに、網膜血管の周皮細胞を脱落させた網膜浮腫マウスモデルにおいて、網膜の浮腫や出血が観察され、Ang−1の硝子体内投与で病態発症が阻害されたこと(J.Clin.Invest.、2002、Vol.110、p.1619−1628)、及びマウス糖尿病網膜症モデルを用いた試験において、Ang−1をコードする遺伝子を含むアデノウイルスを投与すると網膜における血管内皮細胞障害が抑制されたこと(Am.J.Pathol.、2002、Vol.160、p.1683−1693)から、Ang−1の病態改善作用が示唆されている。一方で、Ang−2を網膜に特異的に過剰発現させた遺伝子改変マウスでは網膜の細胞障害が亢進することが報告されている(Acta.Diabetol.2010、Vol.47、p.59−64)。
【0006】
重症下肢虚血との関連としては、末梢動脈疾患において血漿中Ang−2が増加していることや、重症下肢虚血患者の虚血肢筋又は皮膚組織においてAng−2発現量が高いことが報告されている(J.Am.Coll Cardial.、2008、Vol.52、p.387−393。Int Angiol.、2011、Vol.30、p.25−34)。また、ラット後肢虚血モデルを用いた試験において、Ang−1をコードする遺伝子を含むウイルスベクターの投与により、虚血肢の血流回復が促進され、抗アポトーシス効果が誘導されることが示されている(Angiogenesis、2009、Vol.12、p.243−249)。2型糖尿病モデル動物であるdb/dbマウスの冠動脈結紮モデルでは、Ang−1をコードする遺伝子を含むウイルス投与により、梗塞境界域において平滑筋細胞に覆われた成熟血管が増加することが報告されていることから(Diabetes、2008、Vol.57、p.3335−3343)、Tie2シグナルの活性化により、不安定な新生血管の成熟を促す効果が期待できる。
【0007】
ヒトTie2に対してアゴニスト作用を示す抗体としては、マウスモノクローナル抗体15B8(特許文献1)が報告されている。15B8はヒトTie2に結合し、ヒト血管内皮細胞HUVECの抗アポトーシス作用を誘導することが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2000/018804号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ヒトTie2に結合し、ヒトTie2を活性化させることで糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症又は重症下肢虚血を予防又は治療する抗ヒトTie2抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、抗ヒトTie2抗体の作製において相当の創意検討を重ねた結果、配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、4価の抗ヒトTie2抗体を作製し(実施例1〜8)、当該抗ヒトTie2抗体がヒトTie2に結合すること(実施例12)、ヒトTie2発現BaF3細胞の抗アポトーシス作用を誘導すること(実施例9及び11)、並びに、ラット血管透過性亢進モデルにおいて血管透過性亢進を阻害すること(実施例10及び13)を見出した。これらの結果、前記抗ヒトTie2抗体を提供し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、医学上又は産業上有用な物質又は方法として以下の発明を含んでもよい。
[1]4つの重鎖可変領域及び4つの軽鎖可変領域を含む抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントであって、
該重鎖可変領域は、配列番号2のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号2のアミノ酸番号99から111までのアミノ酸配列からなるCDR3とを含み、
該軽鎖可変領域は、配列番号4のアミノ酸番号24から39までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号55から61までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号94から102までのアミノ酸配列からなるCDR3とを含み、
1つの該重鎖可変領域と1つの該軽鎖可変領域が1つの抗原結合部位を構成し、該抗体又はその抗原結合フラグメントが4つの抗原結合部位を含む、
抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント。
[2]以下の(1)又は(2)から選択される、[1]に記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント:
(1)4つの重鎖可変領域及び4つの軽鎖可変領域を含む抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントであって、
該重鎖可変領域は配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなり、
該軽鎖可変領域は配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなり、
1つの該重鎖可変領域と1つの該軽鎖可変領域が1つの抗原結合部位を構成し、該抗体又はその抗原結合フラグメントが4つの抗原結合部位を含む、
抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント;並びに
(2)(1)の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの翻訳後修飾により生じた抗体又はその抗原結合フラグメントである、抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント。
[3][1]に記載の抗ヒトTie2抗体であって、該抗体は2つの重鎖及び4つの軽鎖を含み、
各重鎖は、配列番号2のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号2のアミノ酸番号99から111までのアミノ酸配列からなるCDR3とを含む重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造を2つ、並びにCH2領域及びCH3領域を含み、一方の該構造のカルボキシ末端(C末端)がリンカーを介してもう一方の該構造のアミノ末端(N末端)と連結されており、
各軽鎖は、配列番号4のアミノ酸番号24から39までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号55から61までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号94から102までのアミノ酸配列からなるCDR3とを含む軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を含む、
抗ヒトTie2抗体。
[4]以下の(1)又は(2)から選択される、[3]に記載の抗ヒトTie2抗体:
(1)2つの重鎖及び4つの軽鎖を含み、
各重鎖は、配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造を2つ、並びにCH2領域及びCH3領域を含み、一方の該構造のC末端がリンカーを介してもう一方の該構造のN末端と連結されており、
各軽鎖は、配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を含む、
抗ヒトTie2抗体;並びに
(2)(1)の抗ヒトTie2抗体の翻訳後修飾により生じた抗体である、抗ヒトTie2抗体。
[5][4]に記載の抗ヒトTie2抗体であって、該抗ヒトTie2抗体は、2つの重鎖及び4つの軽鎖を含み、
各重鎖は、配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造を2つ、並びにCH2領域及びCH3領域を含み、一方の該構造のC末端がリンカーを介してもう一方の該構造のN末端と連結されており、
各軽鎖は、配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を含む、
抗ヒトTie2抗体。
[6][5]に記載の抗ヒトTie2抗体の翻訳後修飾により生じた抗体である、抗ヒトTie2抗体。
[7]翻訳後修飾が、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化及び/又は重鎖C末端のリジン欠失である、[6]に記載の抗ヒトTie2抗体。
[8]ヒトIgγ1定常領域又はヒトIgγ4定常領域である重鎖定常領域を含む、[3]〜[7]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体。
[9]ヒトIgγ1定常領域がL234A、L235A、及びP331Sのアミノ酸変異を有するヒトIgγ1定常領域、又は、L234A、L235A、P331S、及びI253Aのアミノ酸変異を有するヒトIgγ1定常領域である、[8]に記載の抗ヒトTie2抗体。
[10]ヒトIgγ4定常領域がS228P及びL235Eのアミノ酸変異を有するヒトIgγ4定常領域である、[8]に記載の抗ヒトTie2抗体。
[11]ヒトIgκ定常領域である軽鎖定常領域を含む、[3]〜[7]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体。
[12]ヒトIgγ1定常領域又はヒトIgγ4定常領域である重鎖定常領域を含み、ヒトIgκ定常領域である軽鎖定常領域を含む、[3]〜[7]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体。
[13]ヒトIgγ1定常領域がL234A、L235A、及びP331Sのアミノ酸変異を有するヒトIgγ1定常領域、又は、L234A、L235A、P331S、及びI253Aのアミノ酸変異を有するヒトIgγ1定常領域である、[12]に記載の抗ヒトTie2抗体。
[14]ヒトIgγ4定常領域がS228P及びL235Eのアミノ酸変異を有するヒトIgγ4定常領域である、[12]に記載の抗ヒトTie2抗体。
[15]リンカーが5〜70アミノ酸からなるペプチドリンカーである、[3]〜[7]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体。
[16]リンカーがヒンジ領域又はその一部分のアミノ酸配列を含む、[15]に記載の抗ヒトTie2抗体。
[17]リンカーが配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる、[16]に記載の抗ヒトTie2抗体。
[18]配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、[4]に記載の抗ヒトTie2抗体。
[19]配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、[4]に記載の抗ヒトTie2抗体。
[20]配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、[4]に記載の抗ヒトTie2抗体。
[21][18]〜[20]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体の翻訳後修飾により生じた抗体である、抗ヒトTie2抗体。
[22]翻訳後修飾が、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化及び/又は重鎖C末端のリジン欠失である、[21]に記載の抗ヒトTie2抗体。
[23]配列番号2のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、[21]に記載の抗ヒトTie2抗体。
[24][18]又は[23]に記載の抗ヒトTie2抗体と同じヒトTie2エピトープに結合する、4価の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント。
[25]ヒトTie2エピトープが、Accession No.NP_000450.2のアミノ酸番号192、195及び197のアミノ酸を含むヒトTie2エピトープである、[24]に記載の4価の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント。
[26][2]に記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド。
[27][2]に記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド。
[28][18]〜[20]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド。
[29][18]〜[20]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド。
[30][26]及び/又は[27]に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[31][28]及び/又は[29]に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[32]以下の(a)〜(d)からなる群より選択される、[30]に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
(a)[2]に記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)[2]に記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)[2]に記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
(d)[2]に記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
[33]以下の(a)〜(d)からなる群より選択される、[31]に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
(a)[18]〜[20]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)[18]〜[20]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)[18]〜[20]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
(d)[18]〜[20]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
[34]以下の(a)〜(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、4価の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを発現させる工程を包含する、抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを生産する方法:
(a)[2]に記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)[2]に記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)[2]に記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、該抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
[35]以下の(a)〜(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトTie2抗体を発現させる工程を包含する、抗ヒトTie2抗体を生産する方法:
(a)[18]〜[20]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)[18]〜[20]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)[18]〜[20]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、該抗ヒトTie2抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
[36][34]に記載の方法で生産された抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント。
[37][35]に記載の方法で生産された抗ヒトTie2抗体。
[38][1]〜[23]、[36]及び[37]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント及び薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
[39][5]に記載の抗ヒトTie2抗体、[6]に記載の抗ヒトTie2抗体、及び、薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
[40][18]に記載の抗ヒトTie2抗体、[23]に記載の抗ヒトTie2抗体、及び、薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
[41]糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症又は重症下肢虚血の予防又は治療用医薬組成物である、[38]〜[40]のいずれかに記載の医薬組成物。
[42][1]〜[23]、[36]及び[37]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの治療有効量を投与する工程を包含する、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症又は重症下肢虚血を予防又は治療する方法。
[43]糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症又は重症下肢虚血の予防又は治療に使用するための、[1]〜[23]、[36]及び[37]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント。
[44]糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症又は重症下肢虚血の予防又は治療用医薬組成物の製造における、[1]〜[23]、[36]及び[37]のいずれかに記載の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの使用。
【0012】
前記抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントには、他のペプチド及び蛋白質との融合抗体や、修飾剤を結合させた修飾抗体も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の抗ヒトTie2抗体は、ヒトTie2に結合して、ヒトTie2を活性化させることで糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症又は重症下肢虚血の予防又は治療剤として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の4価の抗ヒトTie2抗体のフォーマットの一例を示す。
【0015】
図2】完全ヒト型2−16A2及びTIE−1−Igγ1−WTの、ラット血管透過性モデルにおける血管透過性阻害作用を示す。縦軸はエバンスブルー色素漏出量を示す。(****:p<0.0001 vs Vehicle群)。
【0016】
図3】TIE−1−Igγ1−LALAのラット血管透過性モデルにおける血管透過性阻害作用を示す。縦軸はエバンスブルー色素漏出量を示す。(****:p<0.0001 vs Vehicle群)。
【0017】
図4】TIE−1−Igγ1−LALAのマウス網膜血管周皮細胞脱落モデルにおける網膜浮腫阻害作用を示す。縦軸は網膜神経線維層及び網膜神経節細胞層の面積の和を示す。(##:p<0.005 vs Cont.群、*:p<0.05 vs Veh.群)。
【0018】
図5】TIE−1−Igγ1−LALAの後肢虚血マウスモデルにおける血流改善作用を示す。縦軸は血流量を示す。(*:p<0.05 vs対照群、**:p<0.01 vs対照群)。
【0019】
図6】TIE−1−Igγ1−LALAのエピトープ解析の一環として、表面プラズモン共鳴現象の結果の代表例を示す。縦軸は結合応答性(Resonance Unit:RU)を、横軸は時間(秒)を示す。
【0020】
図7】TIE−1−Igγ1−LALAのエピトープ解析の一環として、ELISAの結果を示す。縦軸は発光強度を、横軸はTIE−1−Igγ1−LALAの濃度(ng/mL)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明について詳述する。
【0022】
抗体にはIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEの5つのクラスが存在し、その抗体分子の基本構造は、各クラス共通で、分子量5万〜7万の重鎖と2万〜3万の軽鎖から構成される。重鎖は、通常約440個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、クラスごとに特徴的な構造をもち、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEに対応してIgγ、Igμ、Igα、Igδ、Igεとよばれる。さらにIgGには、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4のサブクラスが存在し、それぞれに対応する重鎖はIgγ1、Igγ2、Igγ3、Igγ4とよばれている。軽鎖は、通常約220個のアミノ酸を含むポリペプチド鎖からなり、L型とK型の2種が知られており、それぞれIgλ、Igκとよばれる。抗体分子の基本構造のペプチド構成は、それぞれ相同な2本の重鎖及び2本の軽鎖が、ジスルフィド結合(S−S結合)及び非共有結合によって結合され、分子量15万〜19万である。2種の軽鎖は、どの重鎖とも対をなすことができる。
【0023】
鎖内S−S結合は、重鎖に四つ(μ、ε鎖には五つ)、軽鎖には二つあって、アミノ酸100〜110残基ごとに一つのループを成し、この立体構造は各ループ間で類似していて、構造単位又はドメインとよばれる。重鎖、軽鎖ともにアミノ末端(N末端)に位置するドメインは、同種動物の同一クラス(サブクラス)からの標品であっても、そのアミノ酸配列が一定せず、可変領域とよばれており、各ドメインは、それぞれ、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域とよばれている。可変領域よりカルボキシ末端(C末端)側のアミノ酸配列は、各クラス又はサブクラスごとにほぼ一定で定常領域とよばれている。
【0024】
抗体の抗原結合部位は重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)によって構成され、結合の特異性はこの部位のアミノ酸配列によっている。一方、補体や各種細胞との結合といった生物学的活性は各クラスIgの定常領域の構造の差を反映している。軽鎖と重鎖の可変領域の可変性は、どちらの鎖にも存在する3つの小さな超可変領域にほぼ限られることがわかっており、これらの領域を相補性決定領域(CDR;それぞれN末端側からCDR1、CDR2、CDR3)とよんでいる。可変領域の残りの部分はフレームワーク領域(FR)とよばれ、比較的一定である。
【0025】
定常領域に関して、重鎖定常領域は3つの領域から構成されており、可変領域側から順に、CH1領域、CH2領域及びCH3領域とよばれている。軽鎖定常領域は1つの領域から構成されている。CH1領域及びCH2領域の間にはヒンジ領域と呼ばれるペプチド配列が存在する。ヒンジ領域は、重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造の可動性に関与している。
【0026】
抗体のVH及びVLを含む各種抗原結合フラグメントも抗原結合活性を有し、このような代表的な抗原結合フラグメントとして、一本鎖可変領域フラグメント(scFv)、Fab、Fab’、F(ab’)が挙げられる。Fabは、軽鎖と、VH、CH1領域とヒンジ領域の一部とを含む重鎖フラグメントから構成される、一価の抗体フラグメントである。Fab’は、軽鎖と、VH、CH1領域とヒンジ領域の一部とを含む重鎖フラグメントから構成される、一価の抗体フラグメントであり、このヒンジ領域の部分には重鎖間S−S結合を構成していたシステイン残基が含まれる。F(ab’)フラグメントは、2つのFab’フラグメントがヒンジ領域中の重鎖間S−S結合で結合した二価の抗体フラグメントである。scFvは、リンカーで連結されたVHとVLから構成される、一価の抗体フラグメントである。
【0027】
2つ以上の抗原結合部位を有する抗体を多価抗体という。そのうち、抗原結合部位を4つ有する抗体を4価抗体という。4価抗体には種々のフォーマット(構造)が報告されている(Nat.Rev.Immunol.2010、Vol.10、p.301−316。J.Immunol.、2003、Vol.170、p.4854−4861。Mol.Immunol.、2000、Vol.37、p.1067−1077。Biochem.J.、2007、Vol.406、p.237−246。J.Immunol.Methods、2003、Vol.279、p.219−232)。例えば、2価抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のN末端にリンカーを介してさらに重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のC末端がそれぞれ連結された4価抗体、2つの重鎖及び4つの軽鎖を含み、各重鎖が重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造を2つ含む4価抗体、4量体ストレプトアビジンの各ストレプトアビジンにscFvのC末端が1つずつ結合した4価抗体、4量体p53の各p53にscFvのC末端が1つずつ結合した4価抗体、及び、2量体scFvのC末端にリンカーを介してCH3領域のN末端が連結された4価抗体等が報告されている。
【0028】
<本発明の抗ヒトTie2抗体>
本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントには、以下の特徴を有する抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントが含まれる。
4つの重鎖可変領域及び4つの軽鎖可変領域を含む抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントであって、
該重鎖可変領域は配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなり、
該軽鎖可変領域は配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなり、
1つの該重鎖可変領域と1つの該軽鎖可変領域が1つの抗原結合部位を構成し、該抗体又はその抗原結合フラグメントが4つの抗原結合部位を含む、
抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント。
【0029】
本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントは4価抗体である限り、抗体のフォーマットは特に限定されず、本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントにおいて、例えば、Nat.Rev.Immunol.2010、Vol.10、p.301−316、J.Immunol.、2003、Vol.170、p.4854−4861、Mol.Immunol.、2000、Vol.37、p.1067−1077、Biochem.J.、2007、Vol.406、p.237−246、J.Immunol.Methods、2003、Vol.279、p.219−232等に記載されるような、種々の4価抗体のフォーマットを用いることができる。
【0030】
好ましくは、本発明の抗ヒトTie2抗体は、2つの重鎖及び4つの軽鎖を含み、
各重鎖は、配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造を2つ、並びにCH2領域及びCH3領域を含み、一方の該構造のC末端がリンカーを介してもう一方の該構造のN末端と連結されており、
各軽鎖は、配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を含む、
抗ヒトTie2抗体である。
以下、当該フォーマットの4価抗体をタンデム抗体とも称し、その一例を図1に示す。
【0031】
本発明の抗ヒトTie2抗体がタンデム抗体である場合、定常領域としては、どのようなサブクラスの定常領域(例えば、重鎖定常領域としてIgγ1、Igγ2、Igγ3又はIgγ4の定常領域、軽鎖定常領域としてIgλ又はIgκの定常領域)も選択可能であり得る。好ましくは、重鎖定常領域(CH1領域、CH2領域及びCH3領域を含む)は、ヒトIgγ1定常領域又はヒトIgγ4定常領域である。好ましくは、軽鎖定常領域は、ヒトIgκ定常領域である。
【0032】
本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖定常領域としてヒトIgγ1定常領域を用いる場合、ヒトIgγ1定常領域のCH1領域、CH2領域及びCH3領域としては、例えば、配列番号8のアミノ酸番号350から447までのアミノ酸配列からなるCH1領域、配列番号8のアミノ酸番号463から572までのアミノ酸配列からなるCH2領域、及び配列番号8のアミノ酸番号573から679までのアミノ酸配列からなるCH3領域が挙げられる。
【0033】
本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖定常領域としてヒトIgγ1定常領域を用いる場合、抗体の抗体依存細胞傷害活性や補体依存傷害活性を低下させるためにL234A(KabatらのEUインデックスに従うアミノ酸234位のロイシンのアラニンでの置換)、L235A(KabatらのEUインデックスに従うアミノ酸235位のロイシンのアラニンでの置換)及びP331S(KabatらのEUインデックスに従うアミノ酸331位のプロリンのセリンでの置換)等のアミノ酸変異を導入したヒトIgγ1定常領域を用いることもできる(Mol.Immunol.、1992、Vol.29、No.5、p.633−639)。さらに、体内動態の観点から、血液中より速やかに消失させるためにI253A(KabatらのEUインデックスに従うアミノ酸253位のイソロイシンのアラニンでの置換)等のアミノ酸変異を導入したヒトIgγ1定常領域を用いることもできる(J.Immunol.、1997、Vol.158、p.2211−2217)。本明細書中で使用される抗体の定常領域におけるアミノ酸変異導入に関する残基番号については、EUインデックス(Kabatら、1991、Sequences of Proteins of Immunological Interest、 5th Ed.、 United States Public Health Service、 National Institute of Health、 Bethesda)に従う。
【0034】
本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖定常領域としてヒトIgγ1定常領域を用いる場合、好ましくは、該ヒトIgγ1定常領域は、L234A、L235A、及びP331Sのアミノ酸変異を有するヒトIgγ1定常領域、又はL234A、L235A、P331S及びI253Aのアミノ酸変異を有するヒトIgγ1定常領域である。L234A、L235A、及びP331Sのアミノ酸変異を有するヒトIgγ1定常領域のCH1領域、CH2領域及びCH3領域としては、例えば、配列番号2のアミノ酸番号350から447までのアミノ酸配列からなるCH1領域、配列番号2のアミノ酸番号463から572までのアミノ酸配列からなるCH2領域、及び配列番号2のアミノ酸番号573から679までのアミノ酸配列からなるCH3領域が挙げられる。L234A、L235A、P331S及びI253Aのアミノ酸変異を有するヒトIgγ1定常領域のCH1領域、CH2領域及びCH3領域としては、例えば、配列番号6のアミノ酸番号350から447までのアミノ酸配列からなるCH1領域、配列番号6のアミノ酸番号463から572までのアミノ酸配列からなるCH2領域、及び配列番号6のアミノ酸番号573から679までのアミノ酸配列からなるCH3領域が挙げられる。
【0035】
本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖定常領域としてヒトIgγ4定常領域を用いる場合、Fabアーム交換を抑制するためにS228P(KabatらのEUインデックスに従うアミノ酸228位のセリンのプロリンでの置換)及びL235E(KabatらのEUインデックスに従うアミノ酸235位のロイシンのグルタミン酸での置換)等のアミノ酸変異を導入したヒトIgγ4定常領域を用いることもできる(Drug Metab. Dispos.、2010、Vol.38、No.1、p.84−91)。
【0036】
本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖定常領域としてヒトIgγ4定常領域を用いる場合、好ましくは、該ヒトIgγ4定常領域は、S228P及びL235Eのアミノ酸変異を有するヒトIgγ4定常領域である。S228P及びL235Eのアミノ酸変異を有するヒトIgγ4定常領域のCH1領域、CH2領域及びCH3領域としては、例えば、配列番号10のアミノ酸番号350から447までのアミノ酸配列からなるCH1領域、配列番号10のアミノ酸番号460から569までのアミノ酸配列からなるCH2領域、及び配列番号10のアミノ酸番号570から676までのアミノ酸配列からなるCH3領域が挙げられる。
【0037】
ヒトIgκ定常領域としては、例えば、配列番号4のアミノ酸番号114から219までのアミノ酸配列からなるヒトIgκ定常領域が挙げられる。
【0038】
好ましくは、本発明の抗ヒトTie2抗体がタンデム抗体である場合、重鎖定常領域がヒトIgγ1定常領域又はヒトIgγ4定常領域であり、軽鎖定常領域がヒトIgκ定常領域である。重鎖定常領域がヒトIgγ1定常領域の場合、好ましくは、該ヒトIgγ1定常領域が、L234A、L235A、及びP331Sのアミノ酸変異を有するヒトIgγ1定常領域、又はL234A、L235A、P331S及びI253Aのアミノ酸変異を有するヒトIgγ1定常領域である。重鎖定常領域がヒトIgγ4定常領域の場合、好ましくは、該ヒトIgγ4定常領域が、S228P及びL235Eのアミノ酸変異を有するヒトIgγ4定常領域である。
【0039】
本発明の抗ヒトTie2抗体がタンデム抗体である場合、重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造同士を連結するリンカーとしては、抗体がその機能を有する限り、任意のペプチド(ペプチドリンカー)を使用し得る。ペプチドリンカーの長さ及びアミノ酸配列は当業者に適宜選択され得る。好ましくは、ペプチドリンカーの長さは5〜70アミノ酸である。好ましくは、ペプチドリンカーは、ヒンジ領域又はその一部分のアミノ酸配列を含む。ヒンジ領域とは、抗体のCH1領域とCH2領域の間に存在する領域を意味し、使用するヒンジ領域としては、例えば、IgG1又はIgG3のヒンジ領域が挙げられる。ヒンジ領域の一部分とは、ヒンジ領域中の少なくとも5アミノ酸連続する領域を意味し、好ましくはヒンジ領域のN末端から少なくとも5アミノ酸連続する領域を意味する。ヒンジ領域の一部分としては、例えば、IgG1のヒンジ領域の場合、N末端から5アミノ酸連続する領域(配列番号13のアミノ酸番号1から5までのアミノ酸配列からなる)、及び、IgG3のヒンジ領域の場合、N末端から12アミノ酸連続する領域(配列番号14のアミノ酸番号1から12までのアミノ酸配列からなる)が挙げられる。1つの実施形態において、リンカーは、ヒンジ領域のN末端から少なくとも5アミノ酸連続する領域のアミノ酸配列を含み、該リンカーのC末端にアミノ酸配列GlySerを含む。このようなリンカーとしては、配列番号13〜20のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカーが挙げられ、好ましくは、リンカーは、配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる。
【0040】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトTie2抗体は、以下のi)〜iv)のいずれかの特徴を有する抗ヒトTie2抗体である。
i)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
ii)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
iii)配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
iv)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
【0041】
抗体を細胞で発現させる場合、抗体が翻訳後に修飾を受けることが知られている。翻訳後修飾の例としては、重鎖C末端のリジンのカルボキシペプチダーゼによる切断、重鎖及び軽鎖N末端のグルタミン又はグルタミン酸のピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾、グリコシル化、酸化、脱アミド化、糖化等が挙げられ、種々の抗体において、このような翻訳後修飾が生じることが知られている(Journal of Pharmaceutical Sciences、2008、Vol.97、p.2426−2447)。
【0042】
本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントには、翻訳後修飾を受けた抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントも含まれる。翻訳後修飾を受けた本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの例としては、重鎖可変領域N末端のピログルタミル化及び/又は重鎖C末端のリジン欠失を受けた抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントが挙げられる。このようなN末端のピログルタミル化又はC末端リジン欠失による翻訳後修飾が抗体の活性に影響を及ぼすものではないことは当該分野で知られている(Analytical Biochemistry、2006、Vol.348、p.24−39)。
【0043】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトTie2抗体は、以下の(1)〜(4)のいずれかの特徴を有する抗ヒトTie2抗体である。
(1)配列番号2のアミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾され及び/又は配列番号2のアミノ酸番号679のリジンを欠くアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、並びに配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(2)配列番号6のアミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾され及び/又は配列番号6のアミノ酸番号679のリジンを欠くアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、並びに配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(3)配列番号8のアミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾され及び/又は配列番号8のアミノ酸番号679のリジンを欠くアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、並びに配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(4)配列番号10のアミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾され及び/又は配列番号10のアミノ酸番号676のリジンを欠くアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、並びに配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
【0044】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトTie2抗体は、下記の特徴を有する抗ヒトTie2抗体である。
配列番号2のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
【0045】
本発明には、以下の特徴を有する抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントも含まれる。
4つの重鎖可変領域及び4つの軽鎖可変領域を含む抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントであって、
該重鎖可変領域は、配列番号2のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号2のアミノ酸番号99から111までのアミノ酸配列からなるCDR3とを含み、
該軽鎖可変領域は、配列番号4のアミノ酸番号24から39までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号55から61までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号94から102までのアミノ酸配列からなるCDR3とを含み、
1つの該重鎖可変領域と1つの該軽鎖可変領域が1つの抗原結合部位を構成し、該抗体又はその抗原結合フラグメントが4つの抗原結合部位を含む、
抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント。
【0046】
また、本発明には、以下の特徴を有する抗ヒトTie2抗体も含まれる。
2つの重鎖及び4つの軽鎖を含み、
各重鎖は、配列番号2のアミノ酸番号31から35までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号2のアミノ酸番号50から66までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号2のアミノ酸番号99から111までのアミノ酸配列からなるCDR3とを含む重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造を2つ、並びにCH2領域及びCH3領域を含み、一方の該構造のカルボキシ末端がリンカーを介してもう一方の該構造のアミノ末端と連結されており、
各軽鎖は、配列番号4のアミノ酸番号24から39までのアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号4のアミノ酸番号55から61までのアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4のアミノ酸番号94から102までのアミノ酸配列からなるCDR3とを含む軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を含む、
抗ヒトTie2抗体。
【0047】
本発明の抗ヒトTie2抗体は、ヒトTie2に結合する抗体である。抗体がヒトTie2(Accession No.NP_000450.2)に結合するか否かは、公知の結合活性測定方法を用いて確認することができる。結合活性を測定する方法としては、例えば、Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)等の方法が挙げられる。ELISAを用いる場合、例示的な方法において、ヒトTie2及びヒトFcを融合させた蛋白質をELISAプレートに固相化し、これに対して被験抗体を添加して反応させる。ビオチン標識した抗IgG抗体等の2次抗体を反応させ、洗浄した後、アルカリフォスファターゼ等の酵素が結合したストレプトアビジンを反応させる。洗浄した後、その活性を検出する試薬(例えば、アルカリフォスファターゼの場合、Chemiluminescent Ultra Sensitive AP Microwell and/or Membrane Substrate(450nm)(BioFX社、APU4−0100−01)等)を用いた活性測定を行うことによって、被験抗体がヒトTie2に結合するか否かを確認することができる。活性の具体的な評価方法としては、例えば、後記実施例12に記載されるような方法を用いることができる。
【0048】
本発明の抗ヒトTie2抗体には、ヒトTie2に結合する抗体であれば、ヒトTie2への結合に加え、他の動物由来のTie2(例えば、サルTie2)にも結合する抗体も含まれる。
【0049】
好ましくは、本発明の抗ヒトTie2抗体は、ヒトTie2に結合し、かつ、ヒトTie2発現細胞に対して抗アポトーシス活性を有する。抗体がヒトTie2発現細胞に対する抗アポトーシス活性を有することを評価するための具体的な方法としては、例えば、後記実施例4に記載されるような方法を用いることができる。
【0050】
本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントには、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む抗ヒトTie2抗体又は配列番号2のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなる重鎖を2つ及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む抗ヒトTie2抗体と同じヒトTie2エピトープに結合する、4価の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントも含まれる。ここでエピトープとは抗体が認識する抗原部位をいう。
【0051】
本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントには、ヒトTie2(Accession No.NP_000450.2)のアミノ酸番号192、195及び197のアミノ酸のうち、少なくとも1つのアミノ酸を含むヒトTie2エピトープに結合する、4価の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントも含まれる。
【0052】
また、本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントには、ヒトTie2(Accession No.NP_000450.2)のアミノ酸番号192、195及び197を含むヒトTie2エピトープに結合する、4価の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントも含まれる。
【0053】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む抗ヒトTie2抗体又は配列番号2のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなる重鎖を2つ及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む抗ヒトTie2抗体と同じヒトTie2エピトープに結合する、4価の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントは、公知のエピトープ決定方法を用いて取得することができる。エピトープを決定する方法としては、例えば、水素重水素交換質量分析法、X線結晶構造解析、並びに、ヒトTie2のアミノ酸置換変異体又はヒトTie2部分ペプチド等を用いたELISA及び表面プラズモン共鳴現象等の方法が挙げられる。
【0054】
被験抗体が配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む抗ヒトTie2抗体又は配列番号2のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなる重鎖を2つ及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む抗ヒトTie2抗体と同じヒトTie2エピトープに結合するか否かは、上記の公知エピトープ決定方法を用いて確認することができる。水素重水素交換質量分析法を用いる場合、被験抗体非存在下で重水素置換したヒトTie2と被験抗体存在下で重水素置換したヒトTie2をそれぞれペプチドに分解し、各ペプチドの分子量を測定することで重水素置換の割合を算出する。被験抗体の有無によるヒトTie2の重水素置換の割合の差から被験抗体のヒトTie2エピトープを決定することができる。ELISAを用いる場合、ヒトTie2の点変異体を作製する。変異体ヒトTie2を固相化し、これに対して被験抗体を添加して反応させる。反応後、ビオチン標識抗ヒトカッパー軽鎖抗体等の二次抗体を反応させ、洗浄する。その後、アルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン(Thermo Fisher Scientific社、21324)を反応させて、洗浄する。そして、Chemiluminescent Ultra Sensitive AP Microwell and/or Membrane Substrate(450nm)等を用いた活性測定を行うことによって、被験抗体が当該変異体ヒトTie2に結合するか否かを確認することができる。種々の変異体ヒトTie2に対する結合活性を評価することにより、被験抗体のエピトープを決定することができる。被験抗体のエピトープが、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む抗ヒトTie2抗体又は配列番号2のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなる重鎖を2つ及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む抗ヒトTie2抗体のエピトープ中の1アミノ酸を少なくとも1つ含む場合、被験抗体が、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む抗ヒトTie2抗体又は配列番号2のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を含む抗ヒトTie2抗体と同じヒトTie2エピトープに結合すると判断できる。
【0055】
本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントは、本明細書に開示される、本発明の抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列情報に基づいて、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントは、特に限定されるものではないが、例えば、後述の<本発明の抗ヒトTie2抗体を生産する方法及び該方法により生産された抗ヒトTie2抗体>に記載の方法に従い製造することができる。
【0056】
本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントは、必要によりさらに精製された後、常法に従って製剤化され、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、敗血症、急性肝障害、急性腎障害、急性肺障害、全身性炎症反応症候群、末梢動脈閉塞症又は重症下肢虚血等の血管関連疾患の予防又は治療に用いることができる。
【0057】
<本発明のポリヌクレオチド>
本発明のポリヌクレオチドには、本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び、本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。
【0058】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0059】
配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列に示される重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1の塩基番号1から366までの塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0060】
好ましい実施形態において、本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド、又は配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0061】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号5に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号7に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号9に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0062】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0063】
配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列に示される軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号3の塩基番号1から339までの塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0064】
好ましい実施形態において、本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドは、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドである。
【0065】
配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号3に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0066】
本発明のポリヌクレオチドは、その塩基配列に基づき、当該分野で公知の方法を使用して、当業者によって容易に作製され得る。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、当該分野で公知の遺伝子合成方法を利用して合成することが可能である。このような遺伝子合成方法としては、WO90/07861に記載の抗体遺伝子の合成方法等の当業者に公知の種々の方法が使用され得る。また、本発明のポリヌクレオチドを一旦取得すれば、このポリヌクレオチドの所定の部位に変異を導入することによって、本発明の他のポリヌクレオチドを取得することも可能である。このような変異導入方法としては、部位特異的変異誘発法(Current Protocols in Molecular Biology edit.、1987、John Wiley & Sons Section 8.1−8.5)等の当業者に公知の種々の方法が使用され得る。
【0067】
<本発明の発現ベクター>
本発明の発現ベクターには、本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び/又は本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターが含まれる。当該分野において種々のフォーマットの4価抗体及びその生産方法が公知であり、本発明の発現ベクターは、これらの生産方法に従って、発現させる4価抗体のフォーマットに応じて当業者に容易に構築され得る。
【0068】
好ましい本発明の発現ベクターとしては、本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、本発明の抗ヒトTie2抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクター、又は本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターが挙げられる。
【0069】
本発明のポリヌクレオチドを発現させるために用いる発現ベクターとしては、真核細胞(例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母)及び/又は原核細胞(例えば、大腸菌)の各種の宿主細胞中で本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド及び/又は本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを発現し、これらによりコードされるポリペプチドを産生できるものである限り、特に制限されるものではない。このような発現ベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、センダイウイルス)等が挙げられ、好ましくは、pEE6.4やpEE12.4(Lonza社)を使用することができる。また、AG−γ1やAG−κ(例えば、WO94/20632を参照)等の予めヒトIg定常領域遺伝子を有する発現ベクターを用いて抗体遺伝子を発現することもできる。
【0070】
本発明の発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターを含み得る。動物細胞で本発明のポリヌクレオチドを発現させるためのプロモーターとしては、例えば、CMV、RSV、SV40などのウイルス由来プロモーター、アクチンプロモーター、EF(elongation factor)1αプロモーター、ヒートショックプロモーターなどが挙げられる。細菌(例えば、エシェリキア属菌)で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、λPLプロモーター、tacプロモーターなどが挙げられる。また、酵母で発現させるためのプロモーターとしては、例えば、GAL1プロモーター、GAL10プロモーター、PH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが挙げられる。
【0071】
宿主細胞として、動物細胞、昆虫細胞、又は酵母を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン及び終止コドンを含み得る。この場合、本発明の発現ベクターは、エンハンサー配列、本発明の抗体又はその重鎖可変領域若しくは軽鎖可変領域をコードする遺伝子の5’側及び3’側の非翻訳領域、分泌シグナル配列、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、あるいは複製可能単位などを含んでいてもよい。宿主細胞として大腸菌を用いる場合、本発明の発現ベクターは、開始コドン、終止コドン、ターミネーター領域、及び複製可能単位を含み得る。この場合、本発明の発現ベクターは、目的に応じて通常用いられる選択マーカー(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子)を含んでいてもよい。
【0072】
<本発明の形質転換された宿主細胞>
本発明の形質転換された宿主細胞には、以下の(a)〜(d)からなる群より選択される、本発明の発現ベクターで形質転換された宿主細胞が含まれる。
(a)本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
(d)本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0073】
1つの実施形態において、本発明の形質転換された宿主細胞は、以下の(a)〜(d)からなる群より選択される、本発明の発現ベクターで形質転換された宿主細胞である。
(a)本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(c)本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;及び
(d)本発明の抗ヒトTie2抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0074】
好ましい本発明の形質転換された宿主細胞としては、本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、並びに、本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞が挙げられる。
【0075】
形質転換する宿主細胞としては、使用する発現ベクターに適合し、該発現ベクターで形質転換されて、抗体を発現することができるものである限り、特に限定されるものではない。形質転換する宿主細胞としては、例えば、本発明の技術分野において通常使用される天然細胞又は人工的に樹立された細胞など種々の細胞(例えば、動物細胞(例えば、CHO−K1SV細胞)、昆虫細胞(例えば、Sf9)、細菌(エシェリキア属菌など)、酵母(サッカロマイセス属、ピキア属など)など)が挙げられ、好ましくは、CHO細胞(CHO−K1SV細胞、CHO−DG44細胞など)、293細胞、NS0細胞等の培養細胞を使用することができる。
【0076】
宿主細胞を形質転換する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等を用いることができる。
【0077】
<本発明の抗ヒトTie2抗体を生産する方法及び該方法により生産された抗ヒトTie2抗体>
本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを生産する方法には、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、4価の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを発現させる工程を包含する、抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを生産する方法が含まれる。
(a)本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの重鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、該抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖可変領域をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0078】
1つの実施形態において、本発明の抗ヒトTie2抗体を生産する方法には、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される宿主細胞を培養し、抗ヒトTie2抗体を発現させる工程を包含する、抗ヒトTie2抗体を生産する方法が含まれる。
(a)本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドとを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;
(b)本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターと該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞;並びに
(c)本発明の抗ヒトTie2抗体の重鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞、及び、該抗体の軽鎖をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【0079】
本発明の抗ヒトTie2抗体を生産する方法は、本発明の形質転換された宿主細胞を培養し、抗ヒトTie2抗体を発現させる工程を包含している限り、特に限定されるものではない。該方法で使用される好ましい宿主細胞としては、前述の好ましい本発明の形質転換された宿主細胞が挙げられる。
【0080】
形質転換された宿主細胞の培養は公知の方法により行うことができる。培養条件、例えば、温度、培地のpH及び培養時間は、適宜選択される。宿主細胞が動物細胞の場合、培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地(Science、1959、Vol.130、No.3373、p.432−7)、DMEM培地(Virology、1959、Vol.8、p.396)、RPMI1640培地(J.Am.Med.Assoc.、1967、Vol.199、p.519)、199培地(Exp.Biol.Med.、1950、Vol.73、p.1−8)等を用いることができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましく、培養は、必要により通気や撹拌しながら、通常約30〜40℃で約15〜72時間行われる。宿主細胞が昆虫細胞の場合、培地としては、例えば、胎児牛血清を含むGrace’s培地(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1985、Vol.82、p.8404)等を用いることができる。培地のpHは約5〜8であるのが好ましく、培養は、必要により通気や撹拌しながら、通常約20〜40℃で約15〜100時間行われる。宿主細胞が大腸菌又は酵母である場合、培地としては、例えば、栄養源を含有する液体培地が適当である。栄養培地は、形質転換された宿主細胞の生育に必要な炭素源、無機窒素源又は有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖などが、無機窒素源又は有機窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが挙げられる。所望により他の栄養素(例えば、無機塩(例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えば、テトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)など)を含んでいてもよい。培地のpHは約5〜8であるのが好ましい。宿主細胞が大腸菌の場合、好ましい培地としては、例えば、LB培地、M9培地(Mol.Clo.、Cold Spring Harbor Laboratory、Vol.3、A2.2)等を用いることができる。培養は、必要により通気や撹拌しながら、通常約14〜39℃で約3〜24時間行われる。宿主細胞が酵母の場合、培地としては、例えば、Burkholder最小培地(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1980、Vol.77、p.4505)等を用いることができる。培養は、必要により通気や撹拌しながら、通常約20〜35℃で約14〜144時間行われる。上述のような培養により、本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを発現させることができる。
【0081】
本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを生産する方法は、本発明の形質転換された宿主細胞を培養し、抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを発現させる工程に加えて、さらには、該形質転換された宿主細胞から抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを回収、好ましくは単離又は精製する工程を含むことができる。単離又は精製方法としては、例えば、塩析、溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過などの分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられる。好ましくは、培養上清中に蓄積された抗体は、各種クロマトグラフィー、例えば、プロテインAカラム又はプロテインGカラムを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製することができる。
【0082】
本発明の抗ヒトTie2抗体には、本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを生産する方法で生産された抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントも含まれる。
【0083】
<本発明の医薬組成物>
本発明の医薬組成物には、本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント及び薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が含まれる。本発明の医薬組成物は、当該分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用される方法によって調製することができる。これら医薬組成物の剤型の例としては、例えば、注射剤、点滴用剤等の非経口剤が挙げられ、静脈内投与、皮下投与、眼内投与等により投与することができる。製剤化にあたっては、薬学的に許容される範囲で、これら剤型に応じた賦形剤、担体、添加剤等を使用することができる。
【0084】
本発明の医薬組成物は、複数種の本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを含み得る。例えば、翻訳後修飾を受けていない抗体又はその抗原結合フラグメント、及び、該抗体又はその抗原結合フラグメントの翻訳後修飾により生じた抗体又はその抗原結合フラグメントを含有する医薬組成物も本発明に含まれる。
【0085】
1つの実施形態において、抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを含有する本発明の医薬組成物には、下記に記載の医薬組成物も含まれる。
4つの重鎖可変領域及び4つの軽鎖可変領域を含む抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントであって、該重鎖可変領域は配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなり、該軽鎖可変領域は配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなり、1つの該重鎖可変領域と1つの該軽鎖可変領域が1つの抗原結合部位を構成し、該抗体又はその抗原結合フラグメントが4つの抗原結合部位を含む抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント、並びに、該抗体又はその抗原結合フラグメントの翻訳後修飾により生じた抗体又はその抗原結合フラグメントである、抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを含有する医薬組成物。
【0086】
1つの実施形態において、抗ヒトTie2抗体を含有する本発明の医薬組成物には、下記に記載の医薬組成物も含まれる。
2つの重鎖及び4つの軽鎖を含み、各重鎖は、配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造を2つ、並びにCH2領域及びCH3領域を含み、一方の該構造のC末端がリンカーを介してもう一方の該構造のN末端と連結されており、各軽鎖は、配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を含む、抗ヒトTie2抗体、並びに、該抗体の翻訳後修飾により生じた抗体である、抗ヒトTie2抗体を含有する医薬組成物。
【0087】
本発明の医薬組成物には、重鎖C末端リジンの欠失抗体、N末端翻訳後修飾を受けた抗体又はその抗原結合フラグメント、重鎖C末端リジンを欠失しN末端翻訳後修飾を受けた抗体、及び/又は重鎖C末端リジンを有しN末端翻訳後修飾を受けていない抗体を含有する医薬組成物も含まれる。
【0088】
1つの実施形態において、抗ヒトTie2抗体を含有する本発明の医薬組成物には、下記(1)〜(4)のうち2種以上の抗ヒトTie2抗体を含有する医薬組成物も含まれる。
(1)配列番号2のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(2)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなり、アミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(3)配列番号2のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなり、アミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(4)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
【0089】
1つの実施形態において、抗ヒトTie2抗体を含有する本発明の医薬組成物には、下記(1)〜(4)のうち2種以上の抗ヒトTie2抗体を含有する医薬組成物も含まれる。
(1)配列番号6のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(2)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなり、アミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(3)配列番号6のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなり、アミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(4)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
【0090】
1つの実施形態において、抗ヒトTie2抗体を含有する本発明の医薬組成物には、下記(1)〜(4)のうち2種以上の抗ヒトTie2抗体を含有する医薬組成物も含まれる。
(1)配列番号8のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(2)配列番号8に示されるアミノ酸配列からなり、アミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(3)配列番号8のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなり、アミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(4)配列番号8に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
【0091】
1つの実施形態において、抗ヒトTie2抗体を含有する本発明の医薬組成物には、下記(1)〜(4)のうち2種以上の抗ヒトTie2抗体を含有する医薬組成物も含まれる。
(1)配列番号10のアミノ酸番号1から675までのアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(2)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなり、アミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(3)配列番号10のアミノ酸番号1から675までのアミノ酸配列からなり、アミノ酸番号1のグルタミン酸がピログルタミン酸に修飾された重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
(4)配列番号10に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む、抗ヒトTie2抗体。
【0092】
1つの実施形態において、抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントを含有する本発明の医薬組成物には、下記に記載の医薬組成物も含まれる。
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる重鎖を2つ及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む抗ヒトTie2抗体、配列番号2のアミノ酸番号1から678までのアミノ酸配列からなる重鎖を2つ及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖を4つ含む抗ヒトTie2抗体、並びに、薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【0093】
製剤化における本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントの添加量は、患者の症状の程度や年齢、使用する製剤の剤型、又は抗体の結合力価等により異なるが、例えば、0.001mg/kg〜100mg/kg程度を用いることができる。
【0094】
本発明の医薬組成物は、血管関連疾患、例えば、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、敗血症、急性肝障害、急性腎障害、急性肺障害、全身性炎症反応症候群、末梢動脈閉塞症又は重症下肢虚血等の予防又は治療剤として用いることができる。
【0095】
本発明には、本発明の抗ヒトTie2抗体を含む、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症又は重症下肢虚血の予防又は治療用医薬組成物が含まれる。また、本発明には、本発明の抗ヒトTie2抗体の治療有効量を投与する工程を包含する、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症又は重症下肢虚血を予防又は治療する方法が含まれる。また、本発明には、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症又は重症下肢虚血の予防又は治療に使用するための、本発明の抗ヒトTie2抗体が含まれる。さらに、本発明には、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症又は重症下肢虚血の予防又は治療用医薬組成物製造における、本発明の抗ヒトTie2抗体の使用が含まれる。
【0096】
<融合抗体及び修飾抗体>
当業者であれば、当該分野で公知の方法を用いて、抗体又はその抗原結合フラグメントを、他のペプチド又は蛋白質を融合した融合抗体として作製することや、修飾剤を結合させた修飾抗体として作製することも可能である。本発明の抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントには、このような融合体や修飾体の形態の抗体又は抗原結合フラグメントも含まれる。例えば、4つの重鎖可変領域及び4つの軽鎖可変領域を含む抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントであって、該重鎖可変領域は配列番号2のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなり、該軽鎖可変領域は配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなり、1つの該重鎖可変領域と1つの該軽鎖可変領域が1つの抗原結合部位を構成し、該抗体又はその抗原結合フラグメントが4つの抗原結合部位を含む、抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントには、他のペプチド又は蛋白質と融合した抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメント、或いは修飾剤を結合させた抗ヒトTie2抗体又はその抗原結合フラグメントも含まれる。本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは融合抗体としてヒトTie2との結合活性を有している限り、融合に用いられる他のペプチド又は蛋白質は特に限定されず、例えば、ヒト血清アルブミン、各種タグペプチド、人工ヘリックスモチーフペプチド、マルトース結合蛋白質、グルタチオンSトランスフェラーゼ、各種毒素、その他多量体化を促進しうるペプチド又は蛋白質等が挙げられる。本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントは修飾抗体としてヒトTie2との結合活性を有している限り、修飾に用いられる修飾剤は特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、糖鎖、リン脂質、リポソーム、低分子化合物等が挙げられる。
【0097】
本発明について全般的に記載したが、さらに理解を得るために参照する特定の実施例をここに提供するが、これらは例示目的とするものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0098】
市販のキット又は試薬等を用いた部分については、特に断りのない限り添付のプロトコールに従って実験を行った。また、便宜上、濃度mol/LをMとして表す。例えば、1M水酸化ナトリウム水溶液は1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液であることを意味する。
【0099】
(実施例1:抗ヒトTie2抗体産生ハイブリドーマの作製)
ヒトモノクローナル抗体開発技術「ベロシミューン」(VelocImmune antibody technology:Regeneron社(米国特許6596541号))マウスを用いて抗体を作製した。ベロシミューンマウスに、免疫反応を惹起するアジュバントと共に、組換えヒトTie2−Fcキメラ蛋白質(R&D社、313−TI−100)を免疫した。常法に従い、免疫したマウスのリンパ節を摘出しリンパ球を回収し、これをマウス由来ミエローマ細胞SP2/0(ATCC:CRL−1581)と細胞融合することでハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマのモノクローン化を行い、各クローンについて、無血清培地であるCDハイブリドーマメディウム(Invitrogen社)で培養した。得られた培養上清からプロテインGカラム(GEヘルスケア社)を用いて抗体を精製した。ベロシミューン技術により得られた抗体は、ヒト抗体の可変領域とマウス抗体の定常領域を有する抗体(キメラ抗体とも称する)である。
【0100】
(実施例2:細胞ELISAアッセイ)
抗体の抗原結合活性を測定するために、ヒトTie2発現CHO細胞、サルTie2発現CHO細胞、ラットTie2発現CHO細胞及びマウスTie2発現CHO細胞を用いた細胞ELISAアッセイにより、ヒト、サル、ラット及びマウスTie2に対する抗体の結合を評価した。
【0101】
(実施例3:Ang−1改変体を用いた拮抗活性評価)
抗体のAng−2拮抗活性を評価するために、Ang−1改変体(Proc.Natl.Acad.Sci.、2004、Vol.101、p.5547−5552。COMP−Ang1とも称する。)とTie2との結合阻害を評価した。COMP−Ang1はTie2への結合に関与しない部位を改変したAng−1改変体であり、Tie2への結合能を保持していること(Proc.Natl.Acad.Sci.、2004、Vol.101、p.5547−5552)及びAng−1とAng−2はTie2の同じ部位へ同程度の親和性で結合すること(Science、1997、Vol.277、p.55−60)から、COMP−Ang1への拮抗作用を評価することで、Ang−2への拮抗作用を評価することができる。
【0102】
COMP−Ang1の発現ベクターをHEK293細胞に導入した。当該HEK293細胞の培養上清からCOMP−Ang1を精製し、ビオチン標識した。組換えヒトTie2−Fcキメラ蛋白質で固相化したプレートに、上記のビオチン標識したCOMP−Ang1と実施例1で得た精製抗体とを混和して添加した。結合したビオチン標識COMP−Ang1の検出にはストレプトアビジン標識HRPを用いた。TMB発色試薬(Dako社、S1599)を添加して静置した後、2M硫酸を加えて反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。これにより、抗体のCOMP−Ang1への拮抗作用を評価した。
【0103】
(実施例4:ヒトTie2発現BaF3細胞を用いた抗アポトーシス活性評価)
ヒトTie2を安定的に発現するマウスプロB細胞株BaF3細胞(以下、ヒトTie2発現BaF3細胞と称する)は、Immunity、1998、Vol.9、p.677−686に記載の方法に従い、配列番号21で示されるヒトTie2遺伝子を含むプラスミドを当該細胞にエレクトロポレーションにて導入することで作製した。以後、同細胞を用いて、抗体の抗アポトーシス活性を評価した。
【0104】
ヒトTie2発現BaF3細胞を0.05%ウシ胎児血清含有RPMI1640培地(ライフテクノロジーズ社)で2x10cells/mLに懸濁し、浮遊細胞用96ウェルプレート(住友ベークライト社、MS−8096R)に1ウェルあたり80μL播種した。その後、実施例1で得た精製抗体又はAng−1を20μL添加した。37℃に設定したCOインキュベータにて72時間培養した後、白色96ウェルプレート(Nunc社、236108)に細胞懸濁液50μLを移した。細胞内ATP定量キットCellTiter Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社)に従い、添付の緩衝液で希釈した基質溶液50μLを細胞懸濁液に添加することで、細胞の生存能を測定した。生存能を測定することで抗アポトーシス活性を評価した。
【0105】
実施例2〜4の結果、ヒト、サル、ラット及びマウスTie2に対する結合活性、COMP−Ang1拮抗活性、並びに抗アポトーシス活性を有する抗体を複数見出した。後述の2−16と命名した抗ヒトTie2抗体を含む精製抗体溶液は、実施例4において、Ang−1と同程度の抗アポトーシス活性を示していたが、マウス抗ヒトTie2抗体15B8(特許文献1)を含む精製抗体溶液はAng−1の60%程度の最大活性しか示さなかった。
【0106】
(実施例5:サイズ排除クロマトグラフィー及び電気泳動を用いた精製抗体溶液の解析)
前述の実施例2〜4で同定した精製抗体溶液をサイズ排除クロマトグラフィーで解析した。その結果、各精製抗体溶液から3つのフラクションが検出された。各フラクション溶液を電気泳動で解析した結果、各フラクションには抗体の単量体、2量体、及び3量体以上の多量体がそれぞれ含まれていることが明らかとなった。
【0107】
次に各フラクション溶液について実施例4に示す方法で抗アポトーシス活性を評価した。その結果、2量体を含むフラクション及び3量体以上の多量体を含むフラクションにおいて、強力な抗アポトーシス活性が認められた。一方、単量体を含むフラクションには抗アポトーシス活性はほとんど認められなかった。15B8も上記と同様にサイズ排除クロマトグラフィーで解析した結果、2量体以上の多量体を示すフラクションが検出されたが、単量体のフラクションはほとんど検出されなかった。
【0108】
以上より、実施例2〜4で同定したいずれの抗体についても、2量体以上の多量体化した抗体を含むフラクションに強力な抗アポトーシス活性が含まれていることが明らかとなった。2量体を形成した抗体は4価抗体となることから、4価以上の価数をもつ抗体がヒトTie2活性化を介した強力な抗アポトーシス活性を有することが示唆された。
【0109】
(実施例6:架橋抗体による抗アポトーシス活性評価)
実施例5の検討から、抗ヒトTie2抗体の価数が4価以上であることがTie2を介した抗アポトーシス活性を誘導するのに重要であると考えられた。そこで、抗マウスIgG抗体で架橋することで多量化した抗ヒトTie2抗体の抗アポトーシス活性を評価した。細胞として、ヒトTie2発現BaF3細胞及び内在的にヒトTie2を発現しているヒト血管内皮細胞HUVECを用いた。
【0110】
ヒトTie2発現BaF3細胞はRPMI1640培地で、HUVECはEBM−2無血清培地(ロンザ社)でそれぞれ培養し、実施例2〜4で同定した抗ヒトTie2抗体を含む精製抗体溶液を添加した。さらに抗マウスIgG抗体を添加して、抗体を架橋させた。CellTiter Glo Luminescent Cell Viability Assayを用いて細胞の生存能を測定した。生存能を測定することで抗アポトーシス活性を評価した。
【0111】
その結果、2−16と命名した抗ヒトTie2抗体(キメラ抗体)の架橋抗体が、ヒトTie2に対して強力な抗アポトーシス活性を有することを見出した。
【0112】
(実施例7:2価の抗ヒトTie2抗体の配列決定)
抗ヒトTie2抗体2−16を産生するハイブリドーマから抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子をクローニングし、配列決定した。
【0113】
抗体の配列決定後、抗体の物性及び安定性向上のため、2−16の軽鎖及び重鎖のフレームワーク領域(FR)を他のヒト抗体のFRと置き換えて、改変型の抗ヒトTie2抗体2−16A2の可変領域を作製した。
【0114】
2−16A2の重鎖可変領域遺伝子の5’側にシグナル配列(Protein Engineering、1987、Vol.1、No.6、p.499−505)をコードする遺伝子を、そして3’側にヒトIgγ1定常領域遺伝子(配列番号11の塩基番号367から1356までの塩基配列からなる)をそれぞれ繋げ、この重鎖遺伝子をGSベクターpEE6.4に挿入した。また軽鎖可変領域遺伝子の5’側にはシグナル配列(Protein Engineering、1987、Vol.1、No.6、p.499−505)をコードする遺伝子を、そして3’側にヒトκ鎖の定常領域遺伝子(配列番号3の塩基番号340から657までの塩基配列からなる)をそれぞれ繋げ、この軽鎖遺伝子をGSベクターpEE12.4に挿入した。作製した抗体の重鎖遺伝子配列及び軽鎖遺伝子配列をシーケンサーで解析した。
【0115】
作製した2−16A2の完全ヒト型抗体(完全ヒト型2−16A2)の重鎖の塩基配列を配列番号11に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号12に、該抗体の軽鎖の塩基配列を配列番号3に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号4にそれぞれ示す。配列番号12に示される重鎖の可変領域は、配列番号12のアミノ酸番号1から122までのアミノ酸配列からなり、配列番号4に示される軽鎖の可変領域は、配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなる。
【0116】
完全ヒト型2−16A2の重鎖と軽鎖の遺伝子がそれぞれ挿入された前述のGSベクターを用いて、一過性発現及び恒常的発現の2種類の方法で抗体発現を行った。一過性発現については、FreeStyle 293 Expression medium(Invitrogen社)で約100万cells/mLに培養されたFreeStyle 293細胞(Invitrogen社)に対し、前述の重鎖及び軽鎖の両発現ベクターを遺伝子導入試薬293フェクチン(Invitrogen社)を用いてトランスフェクトし、5日間培養した。又は、Expi293 Expression medium(Invitrogen社)で約300万cells/mLに培養されたExpi293細胞(Invitrogen社)に対し、前述の重鎖及び軽鎖の両発現ベクターを遺伝子導入キットExpiFectamine293 Transfection Kit(Invitrogen社)を用いてトランスフェクトし、7日間培養した。又は、CD−CHO medium(Invitrogen社)で約1000万cells/mLに培養されたCHO−K1SV細胞(Lonza社)に対して、前述の重鎖及び軽鎖の両発現ベクターをエレクトロポレーション法を用いてトランスフェクトし、7日間培養した。各培養上清をプロテインAカラム又はプロテインGカラム(GEヘルスケア社)を用いて精製し、完全ヒト型抗体の精製抗体を得た。恒常的発現については、抗体の重鎖と軽鎖の遺伝子がそれぞれ挿入された前述のGSベクターをNotIとPvuIで制限酵素切断し、ライゲーション用キットLigation−Convenience Kit(NIPPONGENE社)又はライゲーション試薬Ligation high Ver.2(TOYOBO社)を用いてライゲーションを行い、重鎖と軽鎖の両遺伝子が挿入されたGSベクターを構築した。この発現ベクターのCHO−K1SV細胞へのトランスフェクションにより抗体を発現させた。培養上清をプロテインAカラム、プロテインGカラム又はMabSelect SuRe(GEヘルスケア社、17−5438−02)で精製し、完全ヒト型抗体の精製抗体を得た。
【0117】
(実施例8:4価の抗ヒトTie2抗体の作製)
4価の抗ヒトTie2抗体を作製した。本実施例で作製した4価抗体は、2つの重鎖及び4つの軽鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造を2つ、並びにCH2領域及びCH3領域を含み、一方の該重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造のC末端がリンカーを介してもう一方の該構造のN末端と連結されている。各軽鎖は、軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を含む。本4価抗体のフォーマットを図1に示す。
【0118】
完全ヒト型2−16A2の重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造(配列番号12のアミノ酸番号1から220からまでのアミノ酸配列からなる)のC末端に配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるリンカーを介して完全ヒト型2−16A2重鎖のN末端と連結した4価の抗ヒトTie2抗体重鎖をコードする遺伝子を作製した。当該重鎖遺伝子の5’側にシグナル配列(Protein Engineering、1987、Vol.1、No.6、p.499−505)をコードする遺伝子をつなげ、GSベクターpEE6.4に挿入した。当該重鎖ベクターと実施例7で作製した完全ヒト型2−16A2の軽鎖遺伝子が挿入されたGSベクターpEE12.4を組み合わせて、実施例7に記載の抗体の発現及び精製法と同様の方法を用いて、4価の抗ヒトTie2抗体を作製した。当該抗ヒトTie2抗体をTIE−1−Igγ1−WTと称する。
【0119】
TIE−1−Igγ1−WTの重鎖における定常領域を、S228P及びL235Eのアミノ酸変異を導入したヒトIgγ4定常領域(配列番号10のアミノ酸番号123から220までのアミノ酸配列、及び、配列番号10のアミノ酸番号350から676までのアミノ酸配列からなる。)に置き換えた4価の抗ヒトTie2抗体重鎖をコードする遺伝子を作製した。当該重鎖遺伝子の5’側にシグナル配列(Protein Engineering、1987、Vol.1、No.6、p.499−505)をコードする遺伝子をつなげ、GSベクターpEE6.4に挿入した。当該重鎖ベクターと実施例7で作製した完全ヒト型2−16A2の軽鎖遺伝子が挿入されたGSベクターpEE12.4を組み合わせて、実施例7に記載の抗体の発現及び精製法と同様の方法を用いて、4価の抗ヒトTie2抗体を作製した。当該抗ヒトTie2抗体をTIE−1−Igγ4−PEと称する。
【0120】
TIE−1−Igγ1−WTの重鎖の塩基配列を配列番号7に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号8にそれぞれ示す。TIE−1−Igγ4―PEの重鎖の塩基配列を配列番号9に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号10にそれぞれ示す。両抗体の軽鎖は完全ヒト型2−16A2の軽鎖と同じであり、該抗体の軽鎖の塩基配列を配列番号3に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号4にそれぞれ示す。
【0121】
同様の方法を用いて、TIE−1−Igγ1−WTの重鎖の定常領域にL234A、L235A、及びP331Sのアミノ酸変異を導入した4価の抗ヒトTie2抗体(TIE−1−Igγ1−LALAと称する)、並びにTIE−1−Igγ1−WTの重鎖の定常領域にL234A、L235A、P331S、及びI253Aのアミノ酸変異を導入した4価の抗ヒトTie2抗体(TIE−1−Igγ1−I253Aと称する)を作製した。
【0122】
TIE−1−Igγ1−LALAの重鎖の塩基配列を配列番号1に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号2にそれぞれ示す。TIE−1−Igγ1−I253Aの重鎖の塩基配列を配列番号5に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号6にそれぞれ示す。両抗体の軽鎖は完全ヒト型2−16A2の軽鎖と同じであり、該抗体の軽鎖の塩基配列を配列番号3に、それによりコードされるアミノ酸配列を配列番号4にそれぞれ示す。
【0123】
配列番号2、配列番号6、配列番号8及び配列番号10で示される前記4種の4価抗ヒトTie2抗体重鎖の可変領域は共通であり、配列番号2のアミノ酸番号1から120までのアミノ酸配列からなり、該重鎖可変領域のCDR1、CDR2、CDR3は、それぞれ配列番号2のアミノ酸番号31から35、50から66、99から111までのアミノ酸配列からなる。
【0124】
配列番号4で示される前記4種の4価抗ヒトTie2抗体の軽鎖の可変領域は、配列番号4のアミノ酸番号1から113までのアミノ酸配列からなり、該軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、CDR3は、それぞれ配列番号4のアミノ酸番号24から39、55から61、94から102までのアミノ酸配列からなる。
【0125】
精製したTIE−1−Igγ1−LALAのアミノ酸修飾を分析した結果、精製抗体の大部分において、重鎖C末端のリジン欠失が生じていた。
【0126】
さらに、同様の方法を用いて、TIE−1−Igγ1−WT及びTIE−1−Igγ4−PEに関して、リンカー(配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる)を別のリンカー(TIE−1−Igγ1−WTに関しては配列番号17〜20に示されるアミノ酸配列からなる4種のリンカー、TIE−1−Igγ4−PEに関しては配列番号14〜20に示されるアミノ酸配列からなる7種のリンカー)にそれぞれ置き換えた4価の抗ヒトTie2抗体(合計11種)を作製した。7アミノ酸(配列番号13に示されるアミノ酸配列からなるリンカー)から64アミノ酸(配列番号20に示されるアミノ酸配列からなるリンカー)までの長さを有するリンカーを検討した。
【0127】
実施例4の方法に従ってTIE−1−Igγ1−WT、TIE−1−Igγ4−PE、及びリンカーを置き換えた11種の抗体を評価した結果、いずれの抗ヒトTie2抗体も同程度の抗アポトーシス活性を示すことが明らかとなった。
【0128】
(実施例9:2価の抗ヒトTie2抗体及び4価の抗ヒトTie2抗体の抗アポトーシス作用評価)
実施例5の結果から、4価以上の価数をもつ抗体がヒトTie2活性化を介した強力な抗アポトーシス活性を有することが示唆された。そこで、ヒトTie2発現BaF3細胞に対する抗アポトーシス作用を指標として、2価の抗ヒトTie2抗体及び4価の抗ヒトTie2抗体の薬効を比較した。
【0129】
実施例4の方法に従い、2価抗体である完全ヒト型2−16A2及び4価抗体であるTIE−1−Igγ1−WTを用いて、ヒトTie2発現BaF3細胞に対する抗アポトーシス作用を評価した。被験抗体である完全ヒト型2−16A2及びTIE−1−Igγ1−WTは、MabSelect SuReで精製後、サイズ排除クロマトグラフィーにて単量体画分に分画し、それぞれ99.98%及び99.74%の単量体純度として取得した。各抗体をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で5ng/mLから5000ng/mLまで約3倍公比で7段階希釈し、1ウェルあたり20μL添加した。コントロールとして、被験抗体の代わりにPBS、又は、PBSで希釈したAng−1(R&D社、923−AN−025/CF。最終濃度1ng/mLから1000ng/mLまでの約3倍公比で7段階希釈)を添加したウェルをそれぞれ準備した。被験抗体の各濃度における抗アポトーシス活性を算出するにあたり、被験抗体の代わりにPBSを添加したウェルの測定値を0%とし、被験抗体の代わりにAng−1を300ng/mL及び1000ng/mLをそれぞれ添加したウェルの測定値の平均値を100%と設定した。算出された抗アポトーシス活性を解析し、Sigmoid−Emaxモデル非線形回帰分析により被験抗体のEC50値を算出した。
表1:2価の抗ヒトTie2抗体及び4価の抗ヒトTie2抗体の抗アポトーシス活性
【表1】
【0130】
その結果、4価抗体であるTIE−1−Igγ1−WTが強力な抗アポトーシス作用を有していることが明らかとなった。以上より、4価抗体の方が2価抗体よりも優れた抗アポトーシス活性を有することが明らかとなった。
【0131】
(実施例10:2価の抗ヒトTie2抗体及び4価の抗ヒトTie2抗体のラット血管透過性阻害作用評価)
マスタードオイル誘発血管透過性モデルは、血漿漏出評価系として広く使用されているMiles assay(J.Physiol.、1952、Vol.118、p.228−257)に変更を加えたもので、本モデルにおいてAng−1が血管透過性亢進を阻害することが報告されている(Nature Medicine、2000、Vol.6、p.460−463)。そこで、2価の抗ヒトTie2抗体及び4価の抗ヒトTie2抗体の血管透過性阻害作用を比較するために、本モデルを用いて、完全ヒト型2−16A2及びTIE−1−Igγ1−WTを評価した。
【0132】
SDラット(雄、4−5週令、日本チャールス・リバー社)にPBSで希釈した完全ヒト型2−16A2又はTIE−1−Igγ1−WTを皮下投与した。処置群を以下のように設定した。
[処置群(各群6匹)]
Vehicle群:
抗体の代わりにPBSを投与した群
完全ヒト型2−16A2投与群:
完全ヒト型2−16A2を投与した群(0.3mg/kg)
TIE−1−Igγ1−WT投与群:
TIE−1−Igγ1−WTを投与した群(0.3mg/kg)
【0133】
抗体投与48時間後に、生理食塩水に溶解したエバンスブルー色素(45mg/kg、シグマアルドリッチ社、E2129)を静脈内投与し、直後にミネラルオイル(シグマアルドリッチ社、M8410)で5%に希釈したイソチオシアン酸アリル(マスタードオイルとも称する。ナカライテスク社、01415−92)を片耳に、対側耳にはミネラルオイルを各20μL塗布した。30分後に両耳を採材し、重量を測定後、1mLのホルムアミドに浸漬し、70℃で一晩インキュベートすることにより、耳組織中のエバンスブルー色素を抽出した。抽出液の吸光度(測定波長620nm、対照波長740nm)からエバンスブルー色素濃度を求め、抽出液中のエバンブルー色素量を算出した。その後、エバンスブルー色素量を耳重量で除することにより耳重量当たりの色素漏出量を算出した。同一個体のマスタードオイル塗布耳のエバンスブルー色素漏出量からミネラルオイル塗布耳のエバンスブルー色素漏出量を差し引いた値を最終的な各個体のエバンスブルー色素漏出量として算出した。当該エバンスブルー色素漏出量を血管透過性の指標として使用した。結果を図2に示す。
【0134】
各群の平均値及び標準誤差を求めた。Vehicle群と各抗体投与群との間の有意差検定にはStudentのt検定を用いた。p<0.05の場合を有意差ありとした。
【0135】
図2で示すように、Vehicle群と比較して、2価抗体である完全ヒト型2−16A2は色素漏出を阻害しなかったが、4価抗体であるTIE−1−Igγ1−WTは色素漏出を有意に阻害した。4価抗体であるTIE−1−Igγ1−WTが血管透過性亢進を阻害することが明らかとなった。以上より、4価抗体の方が2価抗体よりも優れた血管透過性亢進阻害作用を有することが明らかとなった。
【0136】
実施例9及び10の結果から、4価の抗Tie2抗体がTie2を介した作用を強力に誘導することが明らかとなった。
【0137】
(実施例11:4価の抗ヒトTie2抗体の抗アポトーシス作用評価(2))
TIE−1−Igγ1−LALA及びTIE−1−Igγ1−I253Aについて、実施例9の方法に従い、ヒトTie2発現BaF3細胞に対する抗体の抗アポトーシス活性を評価した。実施例9と同じ抗体濃度範囲で各4価抗ヒトTie2抗体の評価を行った。但し、Ang−1の100、300及び1000ng/mLをそれぞれ添加したウェルの測定値の平均値を100%として、各抗体のEC50値及び抗アポトーシス活性の最大活性を評価した。
表2:各4価抗ヒトTie2抗体の抗アポトーシス活性
【表2】
【0138】
その結果、TIE−1−Igγ1−LALA及びTIE−1−Igγ1−I253AともにAng−1と同程度の抗アポトーシス活性を示すことが明らかとなった。
【0139】
(参考例1:15B8の抗アポトーシス作用評価)
15B8について、実施例9の方法に従い、ヒトTie2発現BaF3細胞に対する抗アポトーシス活性を評価した。実施例9と同じ抗体濃度範囲で15B8(特許文献1)の評価を行った。Ang−2(R&D社、623−AN−025)はAng−1と同様に評価を行った。但し、Ang−1の1000ng/mLを添加したウェルの測定値の平均値を100%として、EC50値及び抗アポトーシス活性の最大活性を評価した。
表3:15B8の抗アポトーシス活性
【表3】
【0140】
その結果、15B8の抗アポトーシス活性はAng−1の64%程度であり、Ang−2と同程度の活性であることが明らかとなった。
【0141】
実施例11の結果と合わせると、TIE−1−Igγ1−LALAはAng−1と同程度の抗アポトーシス活性を示すのに対して、15B8はAng−2と同程度の部分的な抗アポトーシス活性しか示さないことが明らかとなった。
【0142】
(実施例12:TIE−1−Igγ1−LALAのTie2に対する結合活性評価)
TIE−1−Igγ1−LALAについて、各種Tie2蛋白質に対する結合活性を評価した。組換えヒトTie2−Fcキメラ蛋白質(R&D社、313−TI−100)、組換えサルTie2−Fcキメラ蛋白質(Sino Biological社、90292−C02H)、組換えラットTie2−Fcキメラ蛋白質(R&D社、3874−T2−100)又は組換えマウスTie2−Fcキメラ蛋白質(R&D社、762−T2−100)をPBSにて1μg/mLに調製し、白色マキシソープ384ウェルプレート(Nunc社、460372)に1ウェルあたり20μL添加し、一晩4℃でインキュベートすることで、固相化した。翌日固相液を除き、20%のBlockingOne(ナカライテスク社、03953−95)を含むトリス緩衝生理食塩水(TBS)−0.05%Tween(Wako社、310−7375)(以下、TBS−T溶液と称する)を1ウェルあたり50μL添加し、室温で1時間静置した。被験抗体として、TIE−1−Igγ1−LALAを、5%のBlockingOneを含むTBS−T溶液を用いて0.03ng/mLから100ng/mLまで約3倍公比で8段階希釈し、1ウェルあたり20μL添加した。コントロールとして、被験抗体の代わりにTBS−T溶液を添加したウェルを準備した。室温で1.5時間インキュベートした後、TBS−T溶液で洗浄した。2次抗体として、ビオチン標識した抗ヒトカッパー軽鎖抗体(免疫生物研究所、17249)を5%のBlockingOneを含むTBS−T溶液で0.1μg/mLに希釈し、1ウェルあたり20μL添加した。室温で1時間インキュベートした後、TBS−T溶液で洗浄し、5%のBlockingOneを含むTBS−T溶液で0.1μg/mLに希釈したアルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジン(Thermo Fisher Scientific社、21324)を検出試薬として、1ウェルあたり20μL添加した。室温で1時間インキュベートした後、TBS−T溶液で洗浄し、1mM MgCl含有20mM TBS(pH9.8)で5倍希釈したChemiluminescent Ultra Sensitive AP Microwell and/or Membrane Substrate(450nm)(BioFX社、APU4−0100−01)を基質として20μL添加した。室温で30分間インキュベートした後、EnVisionTM マルチラベルカウンター(PerkinElmer社)にて発光強度を測定した。算出された結合活性を解析し、Sigmoid−Emaxモデル非線形回帰分析により被験抗体のEC50値を算出した。
表4:TIE−1−Igγ1−LALAの結合活性
【表4】
【0143】
その結果、TIE−1−Igγ1−LALAはヒト、サル、ラット及びマウスTie2に対して同程度の高い結合活性を有することが明らかとなった。
【0144】
(参考例2:15B8のTie2に対する結合活性評価)
実施例12の方法に従い、15B8の各種Tie2蛋白質に対する結合活性を評価した。但し、2次抗体としてHRP標識抗マウスカッパー軽鎖抗体(SouthernBiotech社、1050−05)を使用し、基質としてTMB発色試薬(を使用し、測定器としてARVOマルチラベルリーダー(PerkinElmer社)を用いて450nmの吸光度を測定した。また、被験抗体として15B8を使用し、抗体濃度は1000ng/mLから0.3ng/mLまで約3倍公比(8段階希釈)で実施した。算出された結合活性を解析し、Sigmoid−Emaxモデル非線形回帰分析により被験抗体のEC50値を算出した(表5)。
表5:15B8の結合活性
【表5】
【0145】
その結果、15B8はヒト及びサルTie2に対する結合活性が認められたが、ラット及びマウスTie2に対する結合活性は極めて弱いことが明らかとなった。
【0146】
実施例12の結果から、TIE−1−Igγ1−LALAはヒト、サル、ラット及びマウスTie2に対して、種差なく高い結合活性が認められた。一方で、15B8は結合活性について種差が認められた。以上のことから、TIE−1−Igγ1−LALAのヒトTie2エピトープは15B8のエピトープとは異なることが示唆された。
【0147】
(実施例13:TIE−1−Igγ1−LALAのラット血管透過性阻害作用評価)
実施例10の方法に従って、TIE−1−Igγ1−LALAのラット血管透過性阻害作用を評価した。但し、被験抗体としてTIE−1−Igγ1−LALAを使用し、抗体投与用量を0.1及び0.3mg/kgで実施した。結果を図3に示す。
【0148】
各群の平均値及び標準誤差を求めた。Vehicle群と各抗体投与群の間の有意差検定にはDunnettの多重比較検定を用いた。p<0.05の場合を有意差ありとした。
【0149】
図3で示すように、Vehicle群と比較して、TIE−1−Igγ1−LALAは色素漏出を有意に阻害した。以上より、TIE−1−Igγ1−LALAは血管透過性亢進を阻害することが明らかとなった。
【0150】
(実施例14:周皮細胞脱落マウス網膜浮腫に対する阻害作用)
糖尿病性網膜症患者の網膜血管において、周皮細胞の脱落は特徴的な病変の1つである(Retina、2013、Fifth edition、p.925-939)。糖尿病網膜症研究においては、ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットモデルが広く使用されているが、周皮細胞の脱落が観察されるまでには数か月の期間を要することや、周皮細胞の脱落がその成因の1つとされている毛細血管瘤は観察されないこと、周皮細胞と内皮細胞の割合がヒトとは異なること(Retina、2013、Fifth edition、p.925−939)、及び、明らかな網膜浮腫が観察されないことなどから、このモデルの有用性には一定の限界がある(Diabetes Metab.J.、2013、Vol.37、p.217−224)。一方、抗PDGF受容体β(PDGFRβ)抗体投与により周皮細胞を脱落した網膜血管を有するマウスでは、高血糖ではないが網膜血管の拡張や網膜の浮腫、出血など、糖尿病網膜症及び糖尿病黄斑浮腫に類似の病変が観察されたことから、周皮細胞の脱落と糖尿病網膜症及び糖尿病黄斑浮腫における血管脆弱化との関連が報告されている(J.Clin.Invest.、2002、Vol.110、p.1619−1628)。したがって、糖尿病網膜症患者に特徴的な病変である周皮細胞の脱落を呈する病態モデルを用いて網膜浮腫に対する阻害作用を評価することは、糖尿病網膜症及び糖尿病黄斑浮腫に対する有効性を評価するために有用である。
【0151】
周皮細胞脱落誘発網膜浮腫は、J.Clin.Invest.、2002、Vol.110、p.1619−1628で報告された方法を一部改変して誘導した。すなわち、生後2日齢C57BL/6Jマウス(日本チャールス・リバー社)にPBSで希釈した抗PDGFRβモノクローナル抗体1B3(国際公開第2008/130704号)を25mg/kg皮下投与し、網膜血管周皮細胞の脱落を惹起した。
[処置群]
Control群(Cont.群とも称する):17匹
抗PDGFRβ抗体を投与せず、PBSを投与した群
Vehicle群(Veh.群とも称する):24匹
抗PDGFRβ抗体を投与し、TIE−1−Igγ1−LALAの代わりにPBSを投与した群
TIE−1−Igγ1−LALA群(0.1、0.3及び1mg/kg):それぞれ23、21及び21匹
抗PDGFRβ抗体を投与し、TIE−1−Igγ1−LALAを各用量投与した群
【0152】
抗PDGFRβ抗体投与90分前に、PBSで希釈したTIE−1−Igγ1−LALAを0.1、0.3及び1mg/kg皮下投与した。抗体投与1週間後に網膜浮腫を評価した。具体的には、眼球を摘出し、1%グルタールアルデヒド及び2.5%ホルマリン含有溶液で固定後、パラフィン包埋薄切切片を作製した。ヘマトキシリン・エオジン染色した標本をバーチャルスライドスキャナ(NanoZoomer XR、Hamamatsu Photonics社)で画像データに変換した。本病態モデルでは網膜神経線維層(NFL)における網膜浮腫が報告されていること(J.Clin.Invest.、2002、Vol.110、p.1619−1628)から、NFL及びそれに隣接する網膜神経節細胞層の面積をNPD view 2(Hamamatsu Photonics社)で測定することで、網膜浮腫として定量化した。結果を図4に示す。
【0153】
各群の平均値及び標準誤差を求めた。Veh.群とTIE−1−Igγ1−LALA群との間の有意差検定にはDunnettの多重比較検定を用いた。Cont.群とVeh.群との間の有意差検定にはStudentのt検定を用いた。いずれの場合にも、p<0.05の場合を有意差ありとした。
【0154】
図4で示すように、Veh.群と比較して、TIE−1−Igγ1−LALA群(1mg/kg)は周皮細胞の脱落した網膜血管を有する網膜浮腫を有意に阻害することが明らかとなった。TIE−1−Igγ1−LALAは、周皮細胞の脱落した網膜血管により生じる網膜浮腫を阻害することから、糖尿病黄斑浮腫及び糖尿病網膜症に対して有効であることが示唆された。
【0155】
(実施例15:後肢虚血マウス虚血肢血流改善作用)
後肢虚血モデルは、片側後肢の血管を結紮及び摘出することにより後肢組織の虚血を引き起こすモデルであり、虚血症状の改善を評価する代表的なモデルである(J.Vasc.Surg.、2012、Vol.56、p.1669−1679)。
【0156】
10週齢C57BL/6Jマウス(日本クレア社)に左後肢の大腿動静脈の鼠頸部及び伏在動静脈を結紮した。さらに、その間の分枝血管を結紮した後、結紮部間の血管を摘出した。手術はペントバルビタールナトリウム(60mg/kg、東京化成工業)麻酔下で施した。血管摘出1週間後に、ペントバルビタール麻酔下でレーザードップラー血流画像化装置MoorLDI2(Moor Instruments社)を用いて、後肢の血流を測定した。施術肢の血流低下を確認した後、処置群を以下のように設定した。
[処置群(各群10匹)]
対照群:
抗体の代わりにPBSを投与した群
TIE−1−Igγ1−LALA群(1mg/kg):
TIE−1−Igγ1−LALAを投与した群
【0157】
PBSで希釈したTIE−1−Igγ1−LALAを1mg/kg皮下投与し、抗体投与1週間後の正常肢及び虚血肢の皮膚血流量を測定した。具体的には、ペントバルビタールナトリウム(60mg/kg)を腹腔内投与し、保温台に載せ、麻酔投与15分後に足の皮膚血流を測定した。足底部を関心領域(Region of interest:ROI)として血流量を計測した結果を図5に示す。
【0158】
各群の平均値及び標準誤差を求めた。対照群とTIE−1−Igγ1−LALA群との間の有意差検定にはStudentのt検定を用いた。p<0.05の場合を有意差ありとした。
【0159】
図5で示すように、対照群と比較して、TIE−1−Igγ1−LALA群は正常肢及び虚血肢の血流量を有意に改善することが明らかとなった。したがって、TIE−1−Igγ1−LALAの重症下肢虚血等の末梢動脈疾患に対する有効性が示唆された。
【0160】
(実施例16:TIE−1−Igγ1−LALAのエピトープ評価:水素重水素交換質量分析)
TIE−1−Igγ1−LALAの認識エピトープを同定するために、実施例7で作製した完全ヒト型2−16A2のFab(以下、完全ヒト型2−16A2−Fabと称する)を作製した。完全ヒト型2−16A2−FabはTIE−1−Igγ1−LALAと同じ可変領域を持つため、これらの抗体は同じエピトープを認識する。抗原として、Accession No.NP_000450.2のアミノ酸番号1から452からなるヒトTie2蛋白質(以下、ヒトTie2(1−452)と称する)を作製した。当該アミノ酸配列はAng−2のTie2結合部位を同定するときに用いられた部位である(Nat.Struct.Mol.Biol.、Vol.13、p.524−532)。
【0161】
具体的には、完全ヒト型2−16A2−Fabの作製は、完全ヒト型2−16A2の重鎖可変領域及びCH1領域からなる構造(配列番号12のアミノ酸番号1から221のアミノ酸配列からなる)をコードする重鎖遺伝子が挿入されたGSベクターpEE6.4と、完全ヒト型2−16A2の軽鎖遺伝子が挿入されたGSベクターpEE12.4とを組み合わせて、実施例7に記載の抗体の発現方法及び精製方法と同様の方法を用いて、完全ヒト型2−16A2−Fabを作製した。
【0162】
ヒトTie2(1−452)を得るために、まず、ヒトTie2(1−452)にトロンビン認識配列(配列番号22に示されるアミノ酸配列からなる)をリンカーとしてヒトFc(配列番号23に示されるアミノ酸配列からなる)と融合させた蛋白質(以下、ヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質と称する)を作製した。具体的には、ヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質をコードする遺伝子をGSベクターpEE12.4に挿入し、実施例7に記載の発現方法及び精製方法と同様の方法を用いて、ヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質を作製した。次に、作製したヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質を、22℃でトロンビン(GEヘルスケア社、27−0846−01)と16時間インキュベーションし、Benzamidine Sepharose 4 Fast Flow(high sub)(GEヘルスケア社)及びMabSelect SuReによりトロンビン及びヒトFcを除去してFc部分を切断することで、ヒトTie2(1−452)を作製した。
【0163】
エピトープ部位を同定する目的で、NanoAQUITY UPLC HDXシステム(Waters社)を用いて、水素重水素交換質量分析(以下、H/D交換質量分析と称する。Anal.Bional.Chem.、2010、Vol.397、p.967−979)を実施した。
【0164】
具体的には、120mM 塩化ナトリウム含有20mM クエン酸緩衝液(pH6)を用いて完全ヒト型2−16A2−Fab及びヒトTie2(1−452)混合液(終濃度はそれぞれ50μM及び25μM)を調製し、37℃で一晩静置した。対照として、ヒトTie2(1−452)のみを120mM 塩化ナトリウム含有20mM クエン酸緩衝液(pH6)で調製した溶液を用意した。その後、重水(関東化学)で調製したPBS緩衝溶液に添加し、20秒間、1分間、10分間、60分間及び120分間それぞれ静置することで、重水素化を実施した。続いて0℃で100mM ジチオトレイトール(ナカライ)及び4M グアニジン塩酸塩(和光純薬)含有水溶液(pH2.5)を加えた後に、ペプシンカラム(Proszyme(登録商標) Immobilized Pepsin Cartridge、Applied Biosystems社)を用いて消化を実施し、トラップカラム(ACQUITY UPLC BEH C18 1.7 μm VanGuard Pre−Column、Waters社)にて消化されたペプチドを捕捉した。続いてC18カラム(AQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、Waters社)を用いた逆相クロマトグラフィーで分離し、質量分析器(SynaptG2−Si、Waters社)で分子量を測定した。検出された全てのペプチドの重心値を算出し、重水素置換を行ったヒトTie2(1−452)のみの重心値と比較し、重水素置換が起こっている変化量をそれぞれの重水素化時間で算出した。
【0165】
H/D交換質量分析の結果、Accession No.NP_000450.2のアミノ酸番号27〜37、29〜37、29〜38、43〜60、82〜100、98〜107、111〜124、116〜125、116〜129、119〜129、189〜198及び190〜198のペプチドが抗体共存下において重水素化が抑制されていることが示された。これらのペプチドの重複した領域を整理し、また重水素化が抑制されていないペプチドの情報も加え、さらにN末端側の2つのアミノ酸は測定中に容易に逆交換が起こってしまう(Proteins、1993、Vol.17、75−86)ことを考慮し、重水素置換が抑制された領域、すなわちエピトープ候補部位として、Accession No.NP_000450.2のアミノ酸番号29〜38、84〜102、113〜120、126〜129及び191〜198の5つを見出した。なお、H/D交換質量分析の結果は、TIE−1−Igγ1−LALAがこれら5つのアミノ酸セグメントからなる領域と相互作用すること、又は、抗体結合による立体構造変化若しくはアロステリック効果が生じることによりこれらの残基を水素/重水素交換から保護することを示している。
【0166】
(実施例17:TIE−1−Igγ1−LALAのエピトープ評価:表面プラズモン共鳴現象解析及びELISA)
実施例16のH/D交換質量分析からTIE−1−Igγ1−LALAのヒトTie2に対するエピトープ候補が同定された。さらに詳細にエピトープ部分を推定するため、ヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質のアミノ酸変異体を作製し、表面プラズモン共鳴現象解析(surface plasmon resonance:SPR解析)及びELISAを用いた結合活性を評価した。
【0167】
H/D交換質量分析の結果、並びに、Ang−1及びAng−2がTie2に結合する領域の報告(Nat.Struct.Mol.Biol.、2006、Vol.13、p.524−532。Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2013、Vol.110、7205−7210)に基づいて、ヒトTie2(1−452)のアミノ酸変異体として、ヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質のうち、ヒトTie2(1−452)の1個から4個のアミノ酸をアラニン(一部グルタミン酸)に置換したアミノ酸変異体を23種類作製した(表6)。各種変異体は、実施例16で作製したヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質を作製した方法と同様の方法で作製した。
表6:変異体ヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質
【表6】
【0168】
作製したヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質及び23種の変異体と完全ヒト型2−16A2−Fabの結合活性を評価するために、SPR解析を実施した。
【0169】
SPR解析は、Biacore T200(GEヘルスケア社)を用いた。CM5センサーチップにAnti−human IgG(Fc) antibody(Human Antibody Capture Kit、GEヘルスケア社)を固定した。HBS−EP+バッファー(GEヘルスケア社)で5μg/mLに希釈したヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質及びその変異体をそれぞれ固相し、キャプチャー量を計測した。その後、HBS−EP+バッファーで50nMに希釈した完全ヒト型2−16A2−Fabを添加し、ヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質及び23種の変異体との結合量を測定した。そして、結合量をキャプチャー量で除することで、単位固相化抗原あたりの抗体の結合量(以下、結合比率と称する)を算出した。3試行の算術平均及びヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質の結合比率を100%とした時の各変異体の結合比率の相対値を表7に示す。また、代表的な測定データを図6に示す。Biacoreにおいて結合量を相対比較する方法は、例えば、Analytical Biochemistry、2003、Vol.312、p.113−124に記載されている。
【0170】
その結果、完全ヒト型2−16A2−FabはヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質と比較してヒトTie2(1−452)g1−Fc、ヒトTie2(1−452)g2−Fc、ヒトTie2(1−452)g3−Fc、ヒトTie2(1−452)g4−Fc、ヒトTie2(1−452)g5−Fc、ヒトTie2(1−452)m3−Fc、ヒトTie2(1−452)A1−Fc、ヒトTie2(1−452)A2−Fc、ヒトTie2(1−452)A3−Fc及びヒトTie2(1−452)A4−Fcにおいて結合が低下したことが明らかとなった。
表7:SPR解析結果
【表7】
【0171】
TIE−1−Igγ1−LALAとヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質及び23種の変異体との結合活性を評価するために、実施例12と同様の方法でELISAを行った。
【0172】
ヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質及び23種の変異体をPBSで1μg/mLとなるように希釈し、白色マキシソープ384ウェルプレートに、1ウェルあたり20μLを添加し、一晩4℃でインキュベートすることで固相化した。翌日固相液を除き、TBS−T溶液で洗浄し、BlockerTM Casein in TBS(Thermo Fisher Scientific社、37532)を50μL添加し、60分間インキュベートすることでブロッキングを行った。TBS−T溶液で洗浄し、0.05%Tween20(ナカライテスク社、28353−85)含有BlockerTM Casein in TBSを用いて0.03ng/mLから100ng/mLまでの8段階に希釈したTIE−1−Igγ1−LALAを1ウェルあたり20μL添加した。室温にて90分間インキュベートした後、TBS−T溶液で3回洗浄し、0.05%Tween20含有BlockerTM Casein in TBSを用いて0.1μg/mLに希釈したビオチン標識抗ヒトカッパー軽鎖抗体を20μL添加した。室温にて60分間インキュベートした後、TBS−T溶液で3回洗浄し、0.05%Tween20含有BlockerTM Casein in TBSを用いて0.1μg/mLに希釈したアルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジンを20μL添加した。室温にて60分間インキュベートした後、TBS−T溶液で3回洗浄し、1mM MgCl含有20mM TBS(pH9.8)で5倍希釈したChemiluminescent Ultra Sensitive AP Microwell and/or Membrane Substrate(450nm)を基質として50μL添加した。遮光室温にて40分間インキュベートした後、EnVisionTM マルチラベルカウンターにて発光強度を測定した。ヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質及び23種の変異体に対するTIE−1−Igγ1−LALAのEC50値を算出した。また、TIE−1−Igγ1−LALAがヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質に結合した際の収束値を100%としたときに、最大適用濃度である100ng/mL TIE−1−Igγ1−LALAがヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質及び23種の各変異体に結合した際の発光強度の相対値を算出した(表8及び表9)。なお、EC50値及び収束値はSigmoid−Emaxモデル非線形回帰分析により算出した。グラフを図7に示す。
【0173】
その結果、ヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質と比較して、変異体であるTie2(1−452)g1−Fc、Tie2(1−452)g2−Fc及びTie2(1−452)g4−Fcにおいて発光強度の相対値の大幅な低下が認められた。また、ヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質と比較して、Tie2(1−452)g5−Fcにおいて、発光強度の相対値の低下及びEC50値の増大が認められた。以上より、TIE−1−Igγ1−LALAは、ヒトTie2(1−452)−Fcキメラ蛋白質と比較して、Tie2(1−452)g1−Fc、Tie2(1−452)g2−Fc、Tie2(1−452)g4−Fc及びTie2(1−452)g5−Fcに対する結合活性が低下したことが明らかとなった。なお、Tie2(1−452)A1−Fcに対しては、発光強度の相対値の低下が認められたものの、EC50値に差が認められなかったことから、結合活性に変化がないと判断した。
表8:ELISA結果
【表8】

表9:ELISA結果
【表9】
【0174】
ELISA法とSPR解析法という独立した2種類の評価を実施した結果、両方の実験で共に結合活性が低下した変異体として、Tie2(1−452)g1−Fc、Tie2(1−452)g2−Fc、Tie2(1−452)g4−Fc及びTie2(1−452)g5−Fcが同定された。したがって、これらの変異体で変異を導入したアミノ酸、すなわちアミノ酸番号192、194、195、197及び198がTIE−1−Igγ1−LALAの結合に非常に重要なエピトープ候補であると考えられた。このうち、I194A、N197A及びL198Aのアミノ酸変異を有するTie2(1−452)g1−FcはELISA法で結合低下が認められたが、I194Aのアミノ酸変異を有するTie2(1−452)g3−FcはELISA法において結合低下が見られなかった。また、L198Aのアミノ酸変異を有するTie2(1−452)g6−FcはELISA法とSPR解析法の両方において結合低下が見られなかった。これらの結果から、Tie2(1−452)g1−Fcの結合低下に寄与するのはアミノ酸番号197であると考えられた。以上より、TIE−1−Igγ1−LALAは、Accession No.NP_000450.2のアミノ酸番号192、195及び197のアミノ酸をエピトープとして結合していることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明の抗ヒトTie2抗体は、各種血管関連疾患の予防又は治療に有用である。また、本発明のポリヌクレオチド、発現ベクター、形質転換された宿主細胞及び抗体を生産する方法は、前記抗ヒトTie2抗体を生産するのに有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0176】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には配列表の配列番号1に示される塩基配列は、TIE−1−Igγ1−LALAの重鎖の塩基配列であり、配列番号2で示されるアミノ酸配列は、配列番号1によりコードされる重鎖のアミノ酸配列である。配列表の配列番号3で示される塩基配列は、TIE−1−Igγ1−LALA、TIE−1−Igγ1−I253A、TIE−1−Igγ1−WT、TIE−1−Igγ4−PE、及び完全ヒト型2−16A2の軽鎖の塩基配列であり、配列番号4で示されるアミノ酸配列は、配列番号3によりコードされる軽鎖のアミノ酸配列である。配列表の配列番号5で示される塩基配列は、TIE−1−Igγ1−I253Aの重鎖の塩基配列であり、配列番号6で示されるアミノ酸配列は、配列番号5によりコードされる重鎖のアミノ酸配列である。配列表の配列番号7で示される塩基配列は、TIE−1−Igγ1−WTの重鎖の塩基配列であり、配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7によりコードされる重鎖のアミノ酸配列である。配列表の配列番号9で示される塩基配列は、TIE−1−Igγ4−PEの重鎖の塩基配列であり、配列番号10で示されるアミノ酸配列は、配列番号9によりコードされる重鎖のアミノ酸配列である。配列表の配列番号11で示される塩基配列は、完全ヒト型2−16A2の重鎖の塩基配列であり、配列番号12で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号11によりコードされる重鎖のアミノ酸配列である。配列番号13〜20で示されるアミノ酸配列は、リンカーのアミノ酸配列である。配列番号22で示されるアミノ酸配列は、トロンビン認識部位である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]