(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記標準曲線が、測定対象の電池材料よりも化学的に安定であって、該電池材料が有する元素のうちの1種から成るイオンであって互いに価数が異なるイオンを含有する複数の標準試料の各々から得られる波長スペクトルのピーク波長及び該価数に基づき作成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の化学状態分析装置。
前記標準曲線が、測定対象の電池材料が有する複数種の元素と同種の元素から成り、該複数種の元素のうちの1種から成るイオンであって互いに価数が異なるイオンを含有する複数の標準試料の各々から得られる波長スペクトルのピーク波長及び該価数に基づき作成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の化学状態分析装置。
前記標準曲線が、同種の2次電池において、充電上限電圧まで充電したときの波長スペクトルのピーク波長と、放電終止電圧まで放電したときの波長スペクトルのピーク波長に基づき作成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の化学状態分析装置。
前記標準曲線が、測定対象の電池材料よりも化学的に安定であって、該電池材料が有する元素のうちの1種から成るイオンであって互いに価数が異なるイオンを含有する複数の標準試料の各々から得られる波長スペクトルのピーク波長及び該価数に基づき作成されたものであることを特徴とする請求項5に記載の化学状態分析方法。
前記標準曲線が、測定対象の電池材料が有する複数種の元素と同種の元素から成り、該複数種の元素のうちの1種から成るイオンであって互いに価数が異なるイオンを含有する複数の標準試料の各々から得られる波長スペクトルのピーク波長及び該価数に基づき作成されたものであることを特徴とする請求項5に記載の化学状態分析方法。
前記標準曲線が、同種の2次電池において、充電上限電圧まで充電したときの波長スペクトルのピークの波長と、放電終止電圧まで放電したときの波長スペクトルのピーク波長に基づき作成されたものであることを特徴とする請求項5に記載の化学状態分析方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の測定方法では放射光を使用するため、この測定方法を実施するための測定装置は大型且つ高価になってしまう。
【0007】
また、2次電池の開発等においては、放電中又は充電中の電極の材料に含まれるイオンの価数等の化学状態の変化を知ることが重要であるが、そのためには化学状態を測定して定量化することが求められる。非特許文献1では、2次電池のSOC(State of Charge:充電状態)とピーク位置の関係から価数変化を定量的に評価することが可能であると考えられる、と記載されている。しかし、非特許文献1には、評価方法は具体的には示されていない。なお、ここでは2次電池を対象として説明したが、1次電池の場合にも同様である。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、従来よりも装置を小型且つ安価にすることができ、且つ、イオンの価数等の電池材料の化学状態を定量化することができる、電池材料の化学状態分析装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る電池材料の化学状態分析装置は、
a) 電池材料を含む試料中の所定の面内の照射領域に、該電池材料の特性X線を発生させるための励起線を照射する励起源と、
b) 前記照射領域に面して設けられた平板から成る分光結晶と、
c) 前記照射領域と前記分光結晶の間に設けられた、該照射領域及び該分光結晶の所定の結晶面に平行なスリットと、
d) 前記スリットに平行な方向に長さを有する線状の検出素子が該スリットに垂直な方向に並ぶように設けられたX線リニアセンサと、
e) 前記X線リニアセンサが検出した特性X線の強度に基づいて波長スペクトルを作成する波長スペクトル作成部と、
f) 前記波長スペクトルのピークにおける波長であるピーク波長を求めるピーク波長決定部と、
g) 前記ピーク波長決定部で求められたピーク波長と、前記試料中の電池材料の化学状態を表す値とピーク波長の関係を示す標準曲線(検量線)から、前記化学状態を特定する値を求める化学状態特定部と
を備えることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る電池材料の化学状態分析方法は、
電池材料を含む試料中の所定の面内の照射領域に、該電池材料の特性X線を発生させるための励起線を照射し、
前記励起線の照射により前記照射領域で生成される特性X線を、該照射領域に面して設けられた平板から成る分光結晶に、該照射領域及び該分光結晶の所定の結晶面に平行であって該照射領域と該分光結晶の間に設けられたスリットを通して入射させることにより分光し、
前記分光結晶で分光された特性X線を、前記スリットに平行な方向に長さを有する線状の検出素子が該スリットに垂直な方向に並ぶように設けられたX線リニアセンサで検出し、
前記X線リニアセンサが検出した特性X線の強度に基づいて波長スペクトルを作成し、該波長スペクトルのピークにおける波長であるピーク波長を求め、該ピーク波長と、前記試料中の電池材料の化学状態を表す値とピーク波長の関係を示す標準曲線から、前記化学状態を特定する値を求める
ことを特徴とする。
【0011】
なお、本発明において「波長スペクトル」には、波長と対応する値であるエネルギーや波数で表したエネルギースペクトルや波数スペクトルも含むものとする。同様に、「ピーク波長」には、ピークエネルギーやピーク波数も含むものとする。
【0012】
本発明では、上述の構成を有する励起源、分光結晶、スリット及びX線リニアセンサを備えるX線分光分析装置を用いる。このX線分光分析装置は、本発明者が発明したものであり、特許文献1に記載されている。このX線分光分析装置では、励起線を照射領域に照射することによって、照射領域内の様々な位置から様々な方向に特性X線が放出されるが、そのうちスリットを通過するものだけが分光結晶に到達する。照射領域をスリットに平行な線状部分に分割して考えると、特定の波長(エネルギー)を有する特性X線は、そのうちの或る1つの線状部分から放出されるもののみが、スリットを通過して回折条件を満たす入射角で入射して回折され、X線リニアセンサの検出素子のうちの特定の1つで検出される。従って、検出素子毎に異なる特定の波長の特性X線が検出されるため、各検出素子の強度から特性X線の波長スペクトルを求めることができる。ここで、互いに波長が異なる特性X線は、互いに異なる線状部分から放出されるもののみがX線リニアセンサで検出されることになるが、1つの線状部分からは該線状部分内での平均を取ることになるため、照射領域内で組成が多少不均一であっても問題なく測定することができる。
【0013】
このように上記X線分光分析装置を用いて得られる波長スペクトルのピークにおける波長(ピーク波長)は、電池材料が含有する元素の種類により異なる値となるとともに、同じ元素であってもイオンの価数等の電池材料の化学状態が異なればわずかに異なる値となる。そこで、ピーク波長と電池材料の化学状態を表す値の関係を示す標準曲線に、測定で得られたピーク波長の値を当てはめることにより、測定対象である試料中の電池材料の化学状態を表す値を求めることができる。
【0014】
本発明によれば、励起源には、通常のX線分光分析装置で試料から特性X線を生成するために試料に照射する光源として使用されているX線源や電子線源等をそのまま用いることができる。そのため、本発明に係る電池材料の化学状態分析装置は従来の装置よりも小型且つ安価にすることができ、本発明に係る電池材料の化学状態分析方法はそのような安価な装置により実施することができる。
【0015】
また、本発明によれば、標準曲線を用いることにより、イオンの価数等で表される電池材料の化学状態を定量化することができる。
【0016】
本発明に係る電池材料の化学状態分析装置及び方法において、前記標準曲線は、測定対象の電池材料よりも化学的に安定であって、該電池材料が有する元素のうちの1種から成るイオンであって互いに価数が異なるイオンを含有する複数の標準試料の各々から得られる波長スペクトルのピーク波長及び該価数に基づき作成されたものであることが望ましい。この場合、電池材料の化学状態を表す値は、該電池材料が有するイオンの価数である。電池材料そのものは充放電や化学反応等によって価数が変動し得ることから、電池材料よりも化学的に安定な標準試料を用いることにより、標準曲線の精度を良くすることができる。そのような化学的に安定な標準試料として、例えば、電池材料中の価数を求める対象である元素の酸化物、水酸化物、硫化物、塩化物等を標準試料として用いることができる。
【0017】
あるいは、本発明に係る電池材料の化学状態分析装置及び方法において、前記標準曲線は、測定対象の電池材料が有する複数種の元素と同種の元素から成り、該複数種の元素のうちの1種から成るイオンであって互いに価数が異なるイオンを含有する複数の標準試料の各々から得られる波長スペクトルのピーク波長及び該価数に基づき作成されたものを用いることもできる。この場合も、電池材料の化学状態を表す値は、該電池材料が有するイオンの価数である。このように、測定対象の電池材料と同種の元素から成る標準試料を用いることにより、実際に使用される電池材料に近い組成で標準曲線が作成されるため、標準曲線の精度を良くすることができる。
【0018】
本発明に係る電池材料の化学状態分析装置及び方法において、前記標準曲線は、同種の2次電池において、充電上限電圧まで充電したときの波長スペクトルのピーク波長と、放電終止電圧まで放電したときの波長スペクトルのピーク波長を基準として定めてもよい。この場合、電池材料の価数は求めない。例えば、標準試料である2次電池において充電上限電圧まで充電したときの波長スペクトルのピーク波長を100%、放電終止電圧まで放電したときのピーク波長を0%と規定し、両者の間を直線で結んだものを、試料中の電池材料の化学状態を示す値とピーク波長の関係を示す標準曲線とし、測定対象の試料を測定した際に得られるピーク波長をこの標準曲線に適用することにより、当該試料の化学状態を示す値を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る電池材料の化学状態分析装置及び方法により、従来よりも装置を小型且つ安価にすることができ、且つ、イオンの価数等により電池材料の化学状態を定量化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1〜
図6を用いて、本発明に係る電池材料の化学状態分析装置及び方法の実施形態を説明する。
【0022】
(1) 本実施形態の化学状態分析装置の構成
図1は、本実施形態の化学状態分析装置10の概略側面図である。この化学状態分析装置10は、励起源11と、スリット12と、平板から成る分光結晶13と、X線リニアセンサ14と、試料ホルダ15と、データ処理部16と、標準曲線データ記憶部17とを備える。
【0023】
励起源11は、試料ホルダ15に保持される試料Sである電池が有する電池材料中の所定の面に、励起光(励起線)であるX線を照射するX線源である。X線源の代わりに電子線源を用いてもよい。この電池材料中の所定の面に励起光が照射される領域を、以下では「照射領域A」と呼ぶ。本実施形態では照射領域Aに垂直に励起光を照射するが、照射領域Aに対して傾斜した角度で励起光を照射してもよい。
【0024】
スリット12は、照射領域Aと分光結晶13の間に配置される。本実施形態では、分光結晶13には所定の結晶面が、結晶の表面に平行になっているものを用いる。スリット12は、照射領域A及び特性X線の検出に用いる分光結晶13の結晶面(本実施形態では分光結晶13の表面とする)に対して平行に(
図1では紙面に垂直に)配置される。
【0025】
X線リニアセンサ14は、スリット12に平行(
図1の紙面に垂直)な方向に長さを有する線状の検出素子141が複数、該スリット12に垂直な方向に並ぶように設けられたものである。前述のように、特定の波長(エネルギー)を有する特性X線は、X線リニアセンサ14の検出素子141のうちの特定の1つで検出され、検出素子141毎に異なる特定の波長の特性X線が検出される。従って、個々の検出素子141は、それに入射するX線の強度(光子数)のみを検出すればよく、入射したX線の波長やエネルギーを厳密に検出する機能は不要である。
【0026】
データ処理部16はパーソナルコンピュータ等のハードウエアとソフトウエアにより具現化されており、機能ブロックとして、波長スペクトル作成部161と、ピーク波長決定部162と、化学状態特定部163とを有する。
【0027】
波長スペクトル作成部161は、X線リニアセンサ14の各検出素子141が検出する特性X線の波長と各検出素子141での検出強度から、波長スペクトルを作成する。
【0028】
ピーク波長決定部162は、波長スペクトル作成部161で作成された波長スペクトルからピークを検出し、ピーク波長の値を求めるものである。ピークの検出には通常のデータ処理で用いられている周知の手法を適用することができる。
【0029】
化学状態特定部163は、ピーク波長決定部162で求められたピーク波長と、次に述べる標準曲線データ記憶部17に保存されている標準曲線から、試料S中の電池材料の化学状態を特定する。
【0030】
標準曲線データ記憶部17は、予め作成された、特性X線の波長スペクトルのピーク波長と化学状態の関係を示す標準曲線のデータを保存するものである。標準曲線は、本実施形態の化学状態分析装置10自体を用いて、あるいは他の特性X線測定装置を用いて、標準試料から放射される特性X線の波長スペクトルのピーク波長と、該標準試料が含有する元素の価数等、該標準試料の化学状態を表す指標となる値の関係を求めることにより作成される。
【0031】
例えば、実際の測定の対象となる電池における電池材料よりも化学的に安定であって、該電池材料が有する元素のうちの1種から成るイオンであって互いに価数が異なるイオンを含有する複数の試料を標準試料として用いることができる。具体例として、リチウムイオン電池に用いられる電極の材料の1つであるLiMn
2O
4を測定対象の電池材料とする場合、LiMn
2O
4自体はMnが+3.5価という価数を有するのに対して、MnO
2はMnが+4価、Mn
2O
3はMnが+3価という整数の価数を有し、LiMn
2O
4よりもMnO
2及びMn
2O
3の方が化学的に安定である。そこで、標準試料としてMnO
2及びMn
2O
3を用い、それら2つの標準試料に対してそれぞれ、Mnの特性X線の1つであるKβ1,3線のピーク波長を求める。そして、縦軸と横軸の一方を価数、他方をピーク波長とするグラフにこれら2つの標準試料の測定結果である2点をプロットし、それら2点を結ぶ直線を標準曲線とする。
【0032】
また、実際の測定の対象となる電池における電池材料と同種の複数種の元素から成り、該複数種の元素のうちの1種から成るイオンであって互いに価数が異なるイオンを含有する複数の試料を標準試料として用いてもよい。具体例として、前述のLiMn
2O
4を測定対象の電池材料とする場合には、Mnが+3.5価であるLiMn
2O
4自体と、Mnが+4価であるLi
2MnO
3という2つの標準試料に対してそれぞれ、Mnの特性X線の1つであるKβ1,3線のピーク波長を測定し、縦軸と横軸の一方を価数、他方をピーク波長とするグラフにこれら2つの標準試料の測定結果である2点をプロットし、それら2点を結ぶ直線を標準曲線とする。
【0033】
あるいは、実際の測定の対象となる電池と同種の2次電池について、充電上限電圧まで充電したものと、放電終止電圧まで放電したものをそれぞれ用意し、それら2つの2次電池についてそれぞれ、電池材料から放出される特性X線のピーク波長を測定して標準曲線を作成するためのデータとしてもよい。この場合、縦軸と横軸の一方を0〜100%の数値で表される化学状態の指数とし、他方をピーク波長とするグラフに、充電上限電圧まで充電したときのピーク波長を指数100%とする点、及び放電終止電圧まで放電したときのピーク波長を指数0%とする点をプロットし、それら2点を結ぶ直線を標準曲線とする。この標準曲線を使用する際には、電池材料が含有する元素の価数は考慮しない。
【0034】
以上に述べた例では標準試料を2つ用いているが、標準試料を3つ以上用い、得られた3点以上のデータ点を結ぶ直線若しくは曲線、又はそれら3点以上のデータ点との誤差が最小になるように定められる直線若しくは2次以上の関数で表される曲線を標準曲線としてもよい。
【0035】
(2) 本実施形態の化学状態分析装置の動作、及び本実施形態の化学状態分析方法
以下に、本実施形態の化学状態分析装置10の動作、及び本実施形態の化学状態分析方法を説明する。
【0036】
まず、試料ホルダ15に試料Sをセットする。ここでは一例として、
図2(a)に示すリチウムイオン電池20が有する正極材21を測定対象の電池材料とする場合について説明する。このリチウムイオン電池20では、放電終止電圧においてLiMn
2O
4から成る正極材21と、Liから成る負極材22の間にセパレータ23が設けられており、正極材21から見てセパレータ23の反対側には、Alから成る集電体24が設けられている。これら正極材21、負極材22、セパレータ23及び集電体24はラミネート材26で覆われており、ラミネート材26の内側には上記各構成要素の他に電解液25が充填されている。リチウムイオン電池20がこのままの形態であっても測定することは可能であるが、そうすると、正極材21に照射される励起光及び正極材21から放出される特性X線がセパレータ23と集電体24のうちのいずれか一方を通過することとなり、検出される特性X線の強度が低下する。そこで本実施形態では、リチウムイオン電池20を解体し、負極材22、セパレータ23及び電解液25を除去したうえで、励起源11に対向するように正極材21を試料ホルダ15にセットする(
図2(b))。但し、正極材21から集電体24を剥がすことが難しいため、集電体24を残したまま、正極材21からみて集電体24が励起源11の反対側に配置されるようにする。また、正極材21を保護するために、
図2(b)に示すように、正極材21(及び集電体24)の周囲を新たな(リチウムイオン電池20に設けられていたラミネート材26とは異なる)ラミネート材27で被覆してもよい。ラミネート材27は、ナイロンやポリプロピレン等の樹脂が主な構成材料であり、セパレータ23や集電体24よりも励起光や特性X線を弱める作用が十分に低いため、測定に支障を生じない。
【0037】
次に、励起源11から照射領域Aに、励起光であるX線を照射する。これにより、照射領域Aの全体から、電極材料(
図2の例では正極材21)を構成する元素によって異なるエネルギーを有する特性X線が、照射領域A内の様々な位置から様々な方向に放出される。これらの特性X線は、照射領域Aをスリット12に平行な線状部分(
図1、
図3のA1、A2…を参照。ここで
図3は、スリット12、分光結晶13、X線リニアセンサ14及び試料ホルダ15の配置を斜視図で示したもの)に分割すると、分光結晶13の表面に特定の1つの入射角(90-θ)°(θ°は特性X線が分光結晶13でブラッグ反射される場合の回折角)で入射する方向に放出されたもののみがスリット12を通過する。そして、この位置が異なる線状部分同士では、スリット12を通過して分光結晶13に入射する特性X線の入射角が異なることとなる。例えば、線状部分A1から放出される特性X線は、1つの入射角(90-θ
1)°(回折角θ
1°)のみで分光結晶13に入射し、別の線状部分A2から放出される特性X線は、前記入射角(90-θ
1)°とは異なる1つの入射角(90-θ
2)°(回折角θ
2°)のみで分光結晶13に入射する。
【0038】
照射領域Aの各線状部分から分光結晶13に入射した特性X線は、ブラッグ反射の条件であるλ=(2d/n)sinθ(λは特性X線の波長、dは分光結晶13の結晶面間隔、nは次数)を満たす波長を有するときにのみ、回折角θで回折(反射)される。分光結晶13で回折(反射)された特性X線は、X線リニアセンサ14の検出素子141の1つで検出される。前述のように分光結晶13には照射領域A内の線状部分によって異なる特定の1つの入射角(90-θ)°で分光結晶13に入射することから、線状部分毎に、異なる特定の1つの波長の特性X線のみがX線リニアセンサ14に入射し、且つ、異なる検出素子141で検出される。例えば、線状部分A1から放出される特性X線は、波長λ
1=(2d/n)sinθ
1を有するもののみがX線リニアセンサ14に入射して1つの検出素子1411で検出され、線状部分A2から放出される特性X線は、λ
1とは異なる波長λ
2=(2d/n)sinθ
2を有するもののみがX線リニアセンサ14に入射して検出素子1411とは異なる検出素子1412で検出される(
図1、
図3参照)。
【0039】
そこで、波長スペクトル作成部161は、X線リニアセンサ14から、所定の測定時間内に各検出素子141で検出されるX線の強度(光子数)の信号を取得したうえで、検出強度及び検出される波長に基づいて、照射領域Aから放出される特性X線の波長スペクトルを作成する。ここで測定時間は、X線リニアセンサ14に到達する単位時間あたりの特性X線の強度に応じて適宜定めればよいが、上述のようにリチウムイオン電池20を解体してセパレータ23や集電体24を介さずに正極材21に励起光を照射することにより、測定時間を短縮することができる。
【0040】
次に、ピーク波長決定部162は、波長スペクトル作成部161で作成された波長スペクトルからピークを検出し、ピーク波長を求める。
【0041】
続いて化学状態特定部163は、測定者が予め入力部(図示せず)から入力した測定対象の電池材料が有する元素に基づき、該元素を対象とする標準曲線を選択する。あるいは、測定者が入力部を用いて標準曲線そのものを選択するようにしてもよい。続いて、化学状態特定部163は、選択された標準曲線から、ピーク波長決定部162で求められたピーク波長に対応する、価数等の化学状態を表す指数を求める。以上の操作により、1回の化学状態分析の動作が終了する。
【0042】
(3) 作成した標準曲線、及び試料の分析結果
以下、本実施形態の化学状態分析装置及び方法において実際に作成した標準曲線、及び該標準曲線を用いて試料の分析を行った結果を示す。
【0043】
(3-1) 安定な標準試料を用いて作成した標準曲線、及び分析結果
図4(a)及び(b)のグラフでは、化学的に安定なMn
2O
3(Mnが+3価)及びMnO
2(同+4価)を標準試料として測定した結果に基づいて作成した、Mnの価数とピークエネルギー(ピーク波長に対応)の関係を示す標準曲線を直線で示している。グラフの横軸はMnの価数、縦軸はピークエネルギーを表している。なお、
図4(a)と(b)に示した標準曲線は両者同じものである。図中の2個の白丸印がピークエネルギーの測定値を示し、直線は2個の白丸印の測定点を直線で結ぶことで定めた標準曲線である。測定はMn
2O
3、MnO
2共に5回ずつ行い、それぞれピークエネルギーの平均値を取った。また、標準偏差の値をエラーバーとした。
【0044】
図4(a)には上記標準曲線と併せて、LiMn
2O
4から成る正極材21を用いたリチウムイオン電池20を対象に、エージングとして充電及び放電を1回行った後に、2回目の充電を行う前のもの(「SOC-0」とする。ここで「SOC」は「充電状態」(States of Charge)の略である。)、同充電を容量50%まで行ったもの(SOC-50)、及び同充電を容量100%まで行ったもの(SOC-100)について、本実施形態の化学状態分析装置及び方法により測定したピークエネルギーの値を標準曲線上に黒丸印で示す。また、
図4(b)には上記標準曲線と併せて、同じリチウムイオン電池20でエージングとして充電及び放電を1回行ったうえで2回目の充電を100%まで行ったもの(上記「SOC-100」と同じ)、その後、放電を50%まで行ったもの(「DOD-50」とする。ここで「DOD」は「放電深度」(Depth of Discharge)の略である。)、及び放電を100%(容量0%まで)行ったもの(DOD-100)について、本実施形態の化学状態分析装置及び方法により測定したピークエネルギーの値を標準曲線上に黒丸印で示す。これらのデータも標準試料と同様に各充電・放電段階において5回ずつ測定を行い、ピークエネルギーの平均値を取り、標準偏差の値をエラーバーとした。これらの黒丸印で示したデータ点における横軸の値が、各充電又は放電状態における正極材21中のMnの価数(化学状態)を示している。
【0045】
(3-2) 分析対象の電池材料と同種の複数種の元素を有する標準試料を用いて作成した標準曲線、及び分析結果
図5(a)及び(b)のグラフでは、正極材21の材料と同じLiMn
2O
4、及び正極材21と同種の複数種の元素(Li、Mn及びO)から成るLi
2MnO
3を標準試料を測定した結果に基づいて作成した、Mnの価数とピークエネルギー(ピーク波長に対応)の関係を示す標準曲線を直線で示している。
図4と同様に、グラフの横軸はMnの価数、縦軸はピークエネルギーを表しており、(a)と(b)に示した標準曲線は両者同じものである。図中の2個の白丸印がピークエネルギーの測定値を示し、直線は2個の白丸印の測定点を直線で結ぶことで定めた標準曲線である。測定はLiMn
2O
4、Li
2MnO
3共に5回ずつ行い、それぞれピークエネルギーの平均値を取り、標準偏差の値をエラーバーとした。
【0046】
図5(a)には上記標準曲線と併せて、
図4(a)に示した例と同様に、SOC-0、SOC-50及びSOC-100の充電状態であるリチウムイオン電池20についてそれぞれ、本実施形態の化学状態分析装置及び方法により測定したピークエネルギーの値を標準曲線上に黒丸印で示す。また、
図5(b)には上記標準曲線と併せて、
図4(b)に示した例と同様に、SOC-100の充電状態、並びにDOD-50及びDOD-100の放電状態であるリチウムイオン電池20についてそれぞれ、本実施形態の化学状態分析装置及び方法により測定したピークエネルギーの値を標準曲線上に黒丸印で示す。これらのデータも標準試料と同様に各充電・放電段階において5回ずつ測定を行い、ピークエネルギーの平均値を取り、標準偏差の値をエラーバーとした。
【0047】
なお、ここまでに示した標準試料及び分析対象の試料におけるデータのエラーバーは、測定時間を長くすることや測定回数を増加させることにより、小さくすることができる。
【0048】
(3-3) 充電上限電圧まで充電した2次電池と放電終止電圧まで放電した2次電池の電池材料を標準試料として作成した標準曲線、及び分析結果
図6(a)のグラフでは、充電上限電圧まで1回充電した(SOC-100(初回充電))リチウムイオン電池20の正極材21と、充電上限電圧まで1回充電した後に放電終止電圧まで1回放電した(DOD-100(初回放電))リチウムイオン電池20の正極材21を標準試料として作成した標準曲線を直線で示している。この標準曲線では、SOC-100(初回充電)の化学状態を100%、DOD-100(初回放電)の化学状態を0%とし、これらの化学状態の指数を横軸、ピークエネルギーの値を縦軸としてグラフ上にプロット(
図6(a)中の白丸印)し、両者を直線で結んだ。
図6(a)には併せて、リチウムイオン電池20に対して充電上限電圧までの充電及び放電終止電圧までの放電を1回行った後に、容量50%まで充電を行ったもの(SOC-50)、及び2回目の充電上限電圧までの充電を行った後に容量50%まで放電を行ったもの(DOD-50)について、本実施形態の化学状態分析装置及び方法により測定したピークエネルギーの値を標準曲線上に黒丸印で示す。これら黒丸印のデータ点における横軸の値が、各充電又は放電状態における正極材21の化学状態を表す指数である。なお、2つの標準試料、SOC-50及びDOD-50のいずれにおいても5回ずつ測定を行い、ピークエネルギーの平均値を取り、標準偏差の値をエラーバーとした。
【0049】
図6(b)のグラフでは、充電上限電圧までの充電及び放電終止電圧までの放電を1回行った後に、充電上限電圧まで2回目の充電を行ったリチウムイオン電池20の正極材21と、その後に放電終止電圧まで2回目の放電を行ったリチウムイオン電池20の正極材21を標準試料として、
図6(a)と同様の方法で作成した標準曲線を直線で示している。SOC-50及びDOD-50のデータ(図中の黒丸印)は、本実施形態の化学状態分析装置及び方法により測定したピークエネルギーの値を標準曲線上にプロットしたものである。これら黒丸印のデータ点における横軸の値が、各充電又は放電状態における正極材21の化学状態を表す指数である。なお、2つの標準試料、SOC-50及びDOD-50のいずれにおいても5回ずつ測定を行い、ピークエネルギーの平均値を取り、標準偏差の値をエラーバーとした。
【0050】
以上のように、様々な標準試料を用いてそれぞれ電池材料の化学状態を表す値とピーク波長の関係を示す標準曲線を作成し、それらの標準曲線上に、分析対象の電池材料で測定したピークエネルギーの値をプロットすることにより、元素の価数等のように、分析対象の電池材料における化学状態を定量化して求めることができる。
【0051】
本発明は上記実施形態には限定されず、本発明の主旨の範囲内で種々の変更が可能である。例えば、本実施形態では測定対象の電池(リチウムイオン電池20)を解体し、電池材料(例えば正極材21)だけを再度組み直したうえで測定を行うが、測定精度が多少低くともよい場合や、特性X線を検出する時間を長くすることが許容される場合には、電池の解体を省略してもよい。また、測定対象は正極材に限らず、価数が変化するものであれば負極材に含まれている物質を対象にしてもよい。また、測定対象の電池はリチウムイオン電池には限定されず、種々の1次電池及び2次電池を測定対象とすることができる。