(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860141
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】デブリードマンシミュレータ
(51)【国際特許分類】
G09B 9/00 20060101AFI20210405BHJP
G09B 23/28 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
G09B23/28
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-242107(P2016-242107)
(22)【出願日】2016年12月14日
(65)【公開番号】特開2018-97180(P2018-97180A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美津枝
(72)【発明者】
【氏名】三科 志穂
(72)【発明者】
【氏名】川上 勝
(72)【発明者】
【氏名】村上 礼子
【審査官】
赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−502563(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0057236(US,A1)
【文献】
国際公開第2015/148817(WO,A1)
【文献】
特開2016−188879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00− 9/56
G09B 17/00−19/26
G09B 23/00−29/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム前駆体を成形し、次いで固化させて、弾性ゴムからなり且つ中央部に窪みのある薄板状の基台を得、
次いで基台の窪みに着色されたゴム前駆体を流し込み、固化させて、弾性ゴムからなり且つ潰瘍または糜爛を模した形状および色を成した薄板状の蓋体を形成すること、
ゴム前駆体を流し込む前に、基台の窪みに水溶性薄膜を置くこと、および
蓋体を形成した後、血液若しくは膿汁を模した液体を水溶性薄膜が埋め込まれた基台と蓋体との隙間に注入することを含む、
弾性ゴムからなり且つ中央部に窪みのある薄板状の基台、および
前記基台の窪みを埋めるように基台に接して着けられた弾性ゴムからなり且つ潰瘍または糜爛を模した形状および色を成した薄板状の蓋体
を有するデブリードマンシミュレータの製造方法。
【請求項2】
ゴム前駆体を成形し、次いで固化させて、弾性ゴムからなり且つ中央部に窪みのある薄板状の基台を得、
次いで基台の窪みに着色されたゴム前駆体を流し込み、固化させて、弾性ゴムからなり且つ潰瘍または糜爛を模した形状および色を成した薄板状の蓋体を形成すること、
蓋体を形成した後、蓋体の一部表面の上に水溶性薄膜を置き、該水溶性薄膜を覆い隠すようにゴム前駆体を塗り、固化させて表皮膜を形成し、次いで血液若しくは膿汁を模した液体を前記水溶性薄膜が埋め込まれた蓋体と表皮膜との隙間に注入することを含む、
弾性ゴムからなり且つ中央部に窪みのある薄板状の基台、および
前記基台の窪みを埋めるように基台に接して着けられた弾性ゴムからなり且つ潰瘍または糜爛を模した形状および色を成した薄板状の蓋体
を有するデブリードマンシミュレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褥瘡などに対して、適切な治療措置を選択する能力を養う訓練、外科的デブリードマンの実技練習、出血や排膿の処置の実技練習などを行うことができるデブリードマンシミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
患者が長期にわたり同じ体勢で寝たきり等になった場合、体と支持面(多くはベッド)との接触局所で血行不良となって、皮膚潰瘍が生じ、さらに組織が壊死に至ることがある。壊死組織や感染がみられた場合には、死滅した組織、成長因子など創傷治癒促進因子の刺激に応答しなくなった壊死した細胞、異物、または細菌感染巣を除去して創を清浄化する治療行為が行われる。
【0003】
壊死組織は、閉塞性ドレッシングの自己融解作用を利用する方法、外科的切除(外科的デブリードマン)による方法、タンパク質分解酵素による方法、マゴットによる生物学的方法などを行って除去し、創を清浄化する。また、創に感染がある場合には、消毒を行うことがある。損傷部位がポケット状になっている場合には、皮膚切開(ポケット開放)や外科手術を行うことがある。感染があり膿貯留が見られる場合は切開排膿を行なうことがある。壊死した筋等の軟部組織や腐骨となった部分は可及的に切除することがある。すでに全身状態が悪い場合はデブリードマンや創閉鎖術の適応とならないこともある。
【0004】
「褥瘡又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去」が、看護師が手順書によって行える「特定行為」の一つとされている。そのため、医師だけでなく看護師も、皮膚の潰瘍または糜爛の状態を把握し、適切な処置を選択し、その処置を確実に行うことが求められる。従来、研修中の看護師または医師は、熟練医師が患者に施す処置を実地に見学して、皮膚の潰瘍または糜爛の状態の判断、それに対する処置の選択、そして処置の方法を習得していた。療養型医療施設や在宅であれば見学の機会は多いが、病院や医院ではそのような機会が少なく、処置技術の習得および上達の障害になっている。
【0005】
そのため、褥瘡などの状態を模した模型が市販されている。模型を観察し、さらにその模型を用いて、洗浄、包交処置などの練習を行うことができる。しかし、該模型は外科的切除(外科的デブリードマン)の練習を行うことができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「褥瘡予防・管理ガイドライン(第3版)」褥瘡会誌(Jpn J PU),14(2):165〜226,2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、皮膚の潰瘍または糜爛に対して、適切な治療措置を選択する能力を養う訓練、外科的デブリードマン、洗浄処置、止血処置、排膿処置などの実技練習を行うことができるデブリードマンシミュレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0009】
〔1〕 弾性ゴムからなり且つ中央部に窪みのある薄板状の基台、および
前記基台の窪みを埋めるように基台に接して着けられた弾性ゴムからなり且つ潰瘍または糜爛を模した形状および色を成した薄板状の蓋体
を有するデブリードマンシミュレータ。
〔2〕 蓋体と窪みの底面との間に血液若しくは膿汁を模した液体が封入されている、〔1〕に記載のデブリードマンシミュレータ。
〔3〕 蓋体の内部に隙間があり、その隙間に血液若しくは膿汁を模した液体が封入されている、〔1〕または〔2〕に記載のデブリードマンシミュレータ。
【0010】
〔4〕 ゴム前駆体を成形し、次いで固化させて、弾性ゴムからなり且つ中央部に窪みのある薄板状の基台を得、
次いで基台の窪みに着色されたゴム前駆体を流し込み、固化させて、弾性ゴムからなり且つ潰瘍または糜爛を模した形状および色を成した薄板状の蓋体を形成することを含む、〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載のデブリードマンシミュレータの製造方法。
〔5〕 ゴム前駆体を流し込む前に、基台の窪みに水溶性薄膜を置くこと、および
蓋体を形成した後、血液若しくは膿汁を模した液体を水溶性薄膜が埋め込まれた基台と蓋体との隙間に注入することをさらに含む、〔4〕に記載の製造方法。
〔6〕 蓋体を形成した後、蓋体の一部表面の上に水溶性薄膜を置き、該水溶性薄膜を覆い隠すようにゴム前駆体を塗り、固化させて表皮膜を形成し、次いで血液若しくは膿汁を模した液体を前記水溶性薄膜が埋め込まれた蓋体と表皮膜との隙間に注入することをさらに含む、〔4〕または〔5〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のデブリードマンシミュレータは、色、形、手触りなどが実際の皮膚の潰瘍または糜爛に極めて近似しているので、潰瘍または糜爛の状態を把握し、適切な治療処置を選択する能力を養う訓練を行うことができる。さらに、本発明のデブリードマンシミュレータは、外科的デブリードマン、止血処置、排膿処置、洗浄などの実技練習を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のデブリードマンシミュレータの一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明のデブリードマンシミュレータの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のデブリードマンシミュレータは、基台1および蓋体2を有する。
基台1は、弾性ゴムからなり且つ中央部に窪みのある薄板状を成している。基台を構成する弾性ゴムは、人間の皮膚と同程度の弾性および質感を有するものが好ましい。基台に用いられる弾性ゴムとしては、例えば、シリコンゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。
窪みの深さは、模擬する褥瘡などの深達度に応じて設定することができる。IAET分類に準じた「褥瘡の予防・治療ガイドライン」に記載された分類では、創の深さによってI度からIV度に分けられている。深達度Iは、皮膚表面が発赤しているが、損傷はなく、指で押しても白く退色しない程度の紅斑がある状態である。深達度IIは、水疱、糜爛が発生し、表皮から真皮に至る浅い部分の皮膚が壊死または欠損している状態である。深達度IIIは、皮下組織に至る組織の壊死または全創欠損が生じ、ポケット形成がみられることもある状態である。深達度IVでは、筋層、骨に至る組織の壊死または全創欠損が生じ、ポケットや空洞がみられる状態である。
【0014】
基台の厚さは、褥瘡の状態および皮膚の弾性や質感の再現を損ねない限り特に制限されない。基台は、ヒトの正常な皮膚色(いわゆる肌色)に着色することによって実在感を向上させることができる。
【0015】
基台の作製法は特に制限されず、例えば、金型等にゴム前駆体を流し込んで成形し、次いで固化させることによって作製することができる。ゴム前駆体は固化することによって弾性ゴムになるものであれば、特に制限されない。基台の作製に用いられるゴム前駆体としては、例えば、加熱溶融されたゴム、液状ゴムと硬化剤との混合物などが挙げられる。
【0016】
蓋体2は、前記基台1の窪みを埋めるように基台に接して着けられた弾性ゴムからなり且つ潰瘍または糜爛を模した形状および色を成した薄板状を成している。蓋体を構成する弾性ゴムは、人間の皮膚または壊死組織若しくは不良組織と同程度の弾性および質感を有するものが好ましい。蓋体に用いられる弾性ゴムとしては、例えば、シリコンゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。
褥瘡は創面の色調に基いて、黒く乾燥した壊死組織が見られる黒色期、黄色い壊死組織が見られる黄色期、肉芽組織の形成が見られる赤色期、表皮の形成が見られる白色期に大別されている。外科的デブリードマンが行われる機会が多い黒色期または黄色期を再現するために、本発明において蓋体を黒色または黄色に着色することができる。また、滲出液の処置が行われる機会が多い黄色期または赤色期を再現するために、本発明において蓋体を黄色または赤色に着色することができる。
【0017】
蓋体の作製法は特に制限されず、例えば、基台の窪みに着色されたゴム前駆体を流し込み、次いで固化させることによって作製することができる。基台の窪みに着色されたゴム前駆体を流し込んだ後、半固化状態のゴム前駆体の表面を荒らすことによって壊死組織の表面に近似した凹凸面にすることができる。また、スタンパ等で壊死組織の表面凹凸状態に似せて賦形することもできる。ゴム前駆体は固化することによって弾性ゴムになるものであれば、特に制限されない。蓋体の作製に用いられるゴム前駆体としては、例えば、加熱溶融されたゴム、液状ゴムと硬化剤との混合物などが挙げられる。
蓋体と基台の高さは同じであってもよいし、異なってもよい。窪みの縁の高さよりも蓋体の高さを高くして、蓋体が基台から盛り上がたように蓋体を形成してもよいし、窪みの縁の高さよりも蓋体の高さを低くして、蓋体が基台に陥没したように蓋体を形成してもよい。
【0018】
壊死組織の下にある正常組織には血管が通っているので切開の際に出血することがある。また膿疱から膿汁が出ることもある。そのような滲出液を模擬するために、蓋体と窪みの底面との間に血液若しくは膿汁を模した液体4を封入することができる。蓋体と窪みの底面との間への液体の封入方法は、特に制限されず、例えば、基台の窪みに水溶性薄膜を置き、そこに着色されたゴム前駆体を流し込み、固化させて、薄板状の蓋体を形成し、次いで血液若しくは膿汁を模した液体4を水溶性薄膜が埋め込まれた基台と蓋体との隙間に注入すること含む方法; 血液若しくは膿汁を模した液体を冷やして氷を作り、基台の窪みにその氷を置き、そこに着色されたゴム前駆体を流し込み、固化させて、薄板状の蓋体を形成し、次いで解氷することを含む方法; 基台の窪みに着色されたゴム前駆体を流し込み、固化させて薄板状の蓋体を形成する途中の半固化状態の蓋体に血液若しくは膿汁を模した液体を注入することを含む方法;などが挙げられる。本発明に用いられる水溶性薄膜としてはオブラートが好ましい。血液若しくは膿汁を模した液体(水溶液)を注入するとオブラートは溶けて無くなる。
【0019】
また、膿疱などを模擬するために、蓋体の内部に隙間を設けて、その隙間に血液若しくは膿汁を模した液体を封入することが好ましい。蓋体の内部への液体の封入は、例えば、蓋体を形成した後、蓋体の一部表面の上に水溶性薄膜を置き、該水溶性薄膜を覆い隠すようにゴム前駆体を塗り、固化させて表皮膜3を形成し、次いで血液若しくは膿汁を模した液体4を前記水溶性薄膜が埋め込まれた蓋体と表皮膜との隙間に注入することを含む方法で行うことができる。
【0020】
本発明のデブリードマンシミュレータは、看護師または医師が、壊死組織の切除の練習、出血や排膿の処置の練習などをするのに好適である。より具体的には、本発明のデブリードマンシミュレータをヒトの臀部模型に貼り付け、臀部模型を側臥位にすることにより、実際の外科的デブリードマンの一連の手技を模擬練習することができる。創の深達度が浅い褥瘡の処置練習は、臀部模型の表面に本発明のデブリードマンシミュレータを貼り付けることによって行うことができる。創の深達度が深い褥瘡の処置練習は、貫通孔を有する臀部模型の裏面に貫通孔から本発明のデブリードマンシミュレータが見えるように貼り付けることによって行うことができる。
【符号の説明】
【0021】
1: 基台、 2:蓋体、 3:表皮膜、 4:模擬血液または模擬膿汁