(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
銅や銅合金の殺菌(抗菌)メカニズムにはまだ不明な点はあるが、その表面において僅かに溶け出す銅イオンの酸化還元能のためと考えられている。大気中に存在する水分などと銅が反応することにより、銅表面において銅イオンが溶出し、かかる銅イオンが菌の代謝を阻害することにより殺菌(抗菌)性が発揮される。殺菌(抗菌)性を効果的に発揮させるためには、大気と接する成形品表面に、銅を曝すことが有効な方法であり、そのためには、銅や銅合金のみで成形品を作製すればよい。しかし、銅や銅合金のみで様々な形状の成形品を作製することは、成形加工性およびコストを考慮すると非常に困難である。また、金属端部に接触することでの怪我をすることも懸念され、加えて、銅や銅合金で成形された成形品は重量があり製品を扱いにくい点が課題である。一方、様々な形状の成形品を作製するために、樹脂に銅や銅合金を配合する方法は存在するが、成形品の形状の自由度確保のためには、樹脂に対して、非常に少量の銅を配合する方法が取られてきた。しかしこれでは、成形品表面に曝される銅の割合が小さいため、十分な殺菌(抗菌)効果を得ることができなかった。近年では、一般社団法人日本銅センターが進めている、殺菌銅製品の新しい認定制度(CU−STARマーク)による認定保証を目指すため、銅や銅合金を多く含んだ製品への関心が膨らんでいる。
【0014】
本発明は、上述のような背景から、樹脂と銅や銅合金の分散性に注目し、鋭意検討を行った結果、上記要件を有する熱可塑性樹脂組成物が、樹脂を含有するにもかかわらず、銅単体と同程度の殺菌(抗菌)効果を有し、加えて外観耐久性、成形加工性、軽量性に優れる素材を有することを見出したものである。
【0015】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明において「重量」とは「質量」を意味する。
【0016】
本発明で用いられる(A)熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂からなる群から少なくとも1種類である。
【0017】
ポリアミド樹脂の具体的な例として、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド410、ポリアミド612、ポリアミド1010、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、これらの共重合品である、ポリアミド6/ポリアミド66共重合樹脂、ポリアミド6/ポリアミド12共重合樹脂、ポリアミド6/ポリアミド66/ポリアミド6I共重合樹脂、ポリアミド66/ポリアミド6I共重合樹脂、ポリアミド66/ポリアミド6T共重合樹脂、ポリアミド66/ポリアミド10T共重合樹脂、ポリアミド6/ポリアミド66/ポリアミド12共重合樹脂が挙げられる。
【0018】
ポリエステル樹脂の具体的な例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンオキサレート、ポリプロピレンオキサレート、ポリブチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、これらの共重合品である、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート共重合樹脂、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート共重合樹脂、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート共重合樹脂、ポリエチレンサクシネート/アジペート共重合樹脂、ポリプロピレンサクシネート/アジペート共重合樹脂、ポリブチレンサクシネート/アジペート共重合樹脂が挙げられる。
【0019】
ポリオレフィン樹脂の具体的な例として、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ホモポリプロピレン、ポリブチレン、これらの共重合品であるエチレン/プロピレンランダム共重合樹脂(EPC)、エチレン/プロピレンブロック共重合樹脂(EPC)、エチレン/プロピレン/ブテン三元共重合樹脂、エチレン/1−ブテン共重合樹脂(EBC)、エチレン/エチルアクリレート共重合樹脂(EEA)、エチレン/ブチルアクリレート共重合樹脂(EBA)が挙げられる。
【0020】
ポリスチレン樹脂の具体的な例として、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、アクリルニトリル/スチレン共重合樹脂(AS樹脂)、メタアクリル酸メチル/スチレン共重合樹脂(MS樹脂)、ブタジエン/スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル/ブタジエンゴム/スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル/アクリルゴム/スチレン共重合樹脂(ASA樹脂)が挙げられる。
【0021】
これらの(A)熱可塑性樹脂は、1種類単独でもよく2種類以上が含有されていてもよい。これらの中でも、高い殺菌(抗菌)効果が発現し、成形加工性や外観耐久性に優れる観点から、ポリアミド樹脂を含んでいることが好ましい。さらには、ポリアミド樹脂の中でもポリアミド6を含んでいることが好ましい。
【0022】
ここでポリアミド6の粘度数に制約はないが、成形加工性と機械強度のバランスから、ISO307に準拠した粘度数が、90〜250(ml/g)が好ましく、さらに100〜200(ml/g)が好ましい。
【0023】
本発明で用いられる(A)熱可塑性樹脂の製造方法に特に制限はない。公知の製造方法で得られた熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0024】
ポリアミド樹脂の製造方法について、例えば、ラクタム、重合可能なアミノ酸、ジアミンと二塩基酸、あるいはこれらの混合物を重合缶内で、加圧、高温下で縮合させることによりオリゴマーを生成し、その後、減圧により適切な溶融粘度まで重合を進行させることにより所望のポリアミド樹脂を得ることができる。市販品を使用することもできる。
【0025】
ポリエステル樹脂の製造方法について、例えば、ジカルボン酸成分とジオールの各モノマー、あるいはこれらの混合物を重合缶内でエステル化反応させ、そのときの低重合体を減圧により適切な粘度まで重合を進行させて所望のポリエステル樹脂を得ることができる。市販品を使用することもできる。
【0026】
ポリオレフィン樹脂の製造方法について、例えば、重合可能なエチレン、プロピレン、ブチレンの各モノマー、あるいはこれらの混合物、その他の共重合可能なモノマーを重合缶内で付加反応させて、適切な粘度まで重合を進行させて所望のポリオレフィン樹脂を得ることができる。その手段としては特に制限はなく、スラリー法、高圧法、溶液法、気相法のいずれでも良く、重合触媒もチーグラー触媒、メタロセン触媒など、特に制限されるものではない。市販品を使用することもできる。
【0027】
ポリスチレン樹脂の製造方法について、例えば、重合可能なスチレン、メチルスチレン、アクリルニトリル、メタアクリル酸メチル、ブタジエンゴム、アクリルゴムの各モノマー、あるいはこれらの混合物、その他共重合可能なモノマーからラジカル重合させて、適切な粘度まで重合を進行させて所望のポリスチレン樹脂を得ることができる。その手段としては特に制限はなく、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合のいずれでも良い。市販品を使用することもできる。
【0028】
本発明に用いられる(A)熱可塑性樹脂は、平均粒子径D
50が10〜800μmである。
【0029】
(A)熱可塑性樹脂の平均粒子径D
50が10μm未満であると、(B)銅および/または銅合金と混合させるために、押出機やニーダーや射出成形機等の混練機に供給するときに、供給口でブリッジが発生しやすく安定供給ができない。また、(A)熱可塑性樹脂の平均粒子径D
50が800μmを越える場合は、(B)銅および/または銅合金との溶融混練が十分でなく、得られる成形品の殺菌(抗菌)性能も成形外観も十分でない。50〜500μmであると好ましい。
【0030】
(A)熱可塑性樹脂の平均粒子径は、JIS K 5600−9−3(2006年)に準じて測定する。より具体的には、(A)熱可塑性樹脂をレーザー回折型粒度分布測定装置で測定して累積度数粒子径分布曲線を作成し、50%累積度数時の粒子径D
50とする。
【0031】
(A)熱可塑性樹脂の平均粒子径D
50が上記範囲のものであれば、その形状に特に制限はない。ビーズ状、フレーク状、ポーラス状、扁平形状、粉末状などの形状でもよいが、熱可塑性樹脂組成物の加工性の観点から、フレーク状、粉末状がよい。
【0032】
(A)熱可塑性樹脂の平均粒子径D
50を前述した所望の範囲にする方法としては、例えば、熱可塑性樹脂ペレットや、熱可塑性樹脂フィルムを、冷凍粉砕機にかけて粉砕した熱可塑性樹脂を得る方法が挙げられる。あるいは、前述した範囲の粒子径を有するように、溶液重合や懸濁重合などの重合方法を選択して粒子状態の熱可塑性樹脂を得ることもできる。さらに規定されたサイズになるようにメッシュを通して、平均粒子径を調整することもできる。
【0033】
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂としては東レ製CM1001P、ポリエステル樹脂としては東レ製1100Pなどの市販粒子品を用いることができる。またポリオレフィン樹脂としてはプライムポリマー製J−105P、ポリスチレン樹脂としてはポリスチレンジャパン製HF77の市販品を用いることができる。いずれの樹脂も、粉砕することにより、平均粒子径D
50が前記範囲を満たすように調整することができる。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(B)銅および/または銅合金を含む。銅は銅単体を意味する。銅単体といっても、100%純度の銅を指すものではなく、通常の精錬工程や製造工程で不可避的に混入する不純物が含まれていても構わない。銅合金とは、銅を主体とする合金だが、「銅を主体」とは、合金のうち銅を50質量%を越えて含有するものをいう。銅以外の成分としてはとし、種々元素(銀、亜鉛、ニッケル、コバルト、錫、鉛、アルミニウム、クロム、カドミウム、ベリリウム、テルル等)が挙げられる。銅合金は銅が主体であれば特にその種類に制限はない。銅以外の成分は1種類でも2種類以上でも良い。例えば、銅とスズの銅合金、銅と亜鉛の銅合金、銅と鉛の銅合金、銅とニッケルと亜鉛の銅合金、銅と鉄とマンガンの銅合金、銅と鉛とスズの銅合金などが挙げられる。複数の銅合金を用いてもよい。金属光沢外観に優れて、外観耐久性に優れる点から、銅と亜鉛の銅合金が好ましい。
【0035】
本発明で用いられる(B)銅および/または銅合金は、本発明の効果を損なわない範囲で、フェノール系酸化防止剤やリン系酸化防止剤などの酸化防止剤や、アルコール成分での表面処理剤で処理してもよい。
【0036】
本発明で用いられる(B)銅および/または銅合金の平均粒子径D
50は1〜300μmである。これは、銅および銅合金の平均粒子径D
50は1〜300μmであることを意味する。平均粒子径D
50が1μm未満であると、粒子径を調整するコストや時間がかかる。また、(A)熱可塑性樹脂と混合させる目的で、押出機やニーダーや射出成形機等の混練機に供給するときに、供給口でブリッジが発生しやすく安定供給ができない。さらに導電性が要求される用途では、十分に導電性が発揮できない場合もある。また(B)銅および/または銅合金の平均粒子径D
50が300μmを越える場合は、(A)熱可塑性樹脂との溶融混練が十分でなく、得られる成形品の殺菌(抗菌)性能も成形外観も十分でない。
【0037】
(B)銅および/または銅合金の平均粒子径D
50は、JIS K 5600−9−3(2006年)に準じて累積度数粒子径分布曲線を作成し、50%累積度数時の粒子径を測定する。
【0038】
(B)銅および/または銅合金の平均粒子径D
50が上記範囲のものであれば、その形態は特に制限はないが、粉末状かフレーク状であることで熱可塑性樹脂組成物中での(B)銅および/または銅合金の分散性を向上させることができるため、得られる成形品において、高い殺菌(抗菌)性能と自由度の高い成形加工性や光沢感を表出させることができる。(B)銅および/または銅合金の平均粒子径D
50を前述した所望の範囲にする方法としては特に制限はないが、例えば後述する銅や銅合金の製造方法や処理方法を実施する中で、粒子の径を調整して得ることができる。その際、メッシュサイズを適切に選択した振動スクリーンを通して所望の範囲の粒子径に分離することもできる。
【0039】
(B)銅および/または銅合金のBET比表面積は3,000(cm
2/g)以上35,000(cm
2/g)以下であることが好ましい。これは、銅および銅合金のBET比表面積が上記範囲にあることが好ましいことを意味する。この範囲であると、熱可塑性樹脂組成物中における(B)銅および/または銅合金の分散性が向上して、高い殺菌(抗菌)性能、優れた成形加工性、良好な光沢外観が得られるために好ましい。
【0040】
ここでBET比表面積(cm
2/g)とは、十分に乾燥させ真空脱気した誘電セラミックスに窒素ガスを吸着させ、吸着したガス量と誘電セラミックスの質量から求めた誘電セラミックスの単位質量あたりの表面積である。BET比表面積の測定には公知の技術が適用できる。一般的によく知られているのが気体吸着法であり、試料の表面に窒素ガスを吸着させて、その圧力変化と吸着量から多分子吸着理論に基づく吸着等温線を作成した後、BETプロットに変換して単分子層でのガス吸着量を求め、比表面積を算出することができる。BET比表面積を上述した範囲にする方法としては、下記に示す(B)銅および/または銅合金の製造方法や処理方法が挙げられる。
【0041】
本発明で用いられる(B)銅および/または銅合金の製造方法や処理方法で、粉末形態の(B)銅および/または銅合金を得る方法としては例えば、熱処理した後に粉砕する熱処理法やヒドラジン還元法に代表される湿式法やアトマイズ法に代表される乾式法等の手法で略球形の銅を得てから、凝集状態を破壊して、高エネルギーボールミル、高水圧式粉砕装置、高速導体衝突式気流型粉砕機、衝撃式粉砕機、ゲージミル、媒体攪拌型ミル等を用いて、一粒一粒まで解粒処理を行い銅粉を得る方法を用いることができる。また、フレーク形態を得る方法としては、例えば、熱処理した後に粉砕する熱処理法やヒドラジン還元法に代表される湿式法やアトマイズ法に代表される乾式法等の手法で略球形の銅を得てから、凝集状態を破壊して、高エネルギーボールミル、高水圧式粉砕装置、高速導体衝突式気流型粉砕機、衝撃式粉砕機、ゲージミル、媒体攪拌型ミル等を用いて、一粒一粒まで解粒処理を行い、その後圧縮変形、伸縮変形などで機械的に変形させる方法を用いることができる。(B)銅および/または銅合金を溶解温度以上で溶解し、タンディッシュ下部から落下させながら高圧ガスまたは高圧水を衝突させて急冷凝固させることにより微粉末とする、所謂アトマイズ法(ガスアトマイズ法、水アトマイズ法など)により製造するのが好ましい。特に、高圧水を吹き付ける、所謂水アトマイズ法により製造すると、粒子径が小さい粉末形態やフレーク形態を得ることができる。このように、前記方法を用いることにより、平均粒子径D
50やBET比表面積を調整することができる。前記平均粒子径D
50やBET比表面積を有する(B)銅および/または銅合金は、例えば、福田金属箔粉工業社製E3、3L3、4L3、Cu−At−100、Bra−At−100、三井金属鉱業社製MA−C05KPなどが挙げられる。
【0042】
本発明においては(A)熱可塑性樹脂、ならびに(B)銅および銅合金の合計100重量部に対して、(A)熱可塑性樹脂を25〜70重量部、(B)銅および銅合金の合計を30〜75重量部含有する。(A)熱可塑性樹脂に(B)銅および/または銅合金を含有することで、高い殺菌(抗菌)性能、および外観耐久性を有する成形品が得られる。(B)銅および銅合金の合計の含有量が30重量部未満の場合、成形品の殺菌(抗菌)性能が不十分であり、金属光沢感が得られない。40重量部以上が好ましく、50重量部以上がより好ましい。一方、(B)銅および銅合金の合計の含有量が75重量部を越えると、成形加工性が低下して自由な形状設計ができなくなり、軽量感も失われる。また、得られた成形品の外観耐久性も失われる。70重量部以下が好ましく、65重量部以下がより好ましい。そして、(A)熱可塑性樹脂の含有量は、30重量部以上が好ましく、35重量部以上がより好ましい。60重量部以下が好ましく、50重量部以下がより好ましい。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品の電子顕微鏡で観察される相構造は(B)銅および/または銅合金が分散相を、(A)熱可塑性樹脂が連続相を形成する構造である。つまり、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、海(熱可塑性樹脂)島(銅および/または銅合金)構造であるモルホロジーを有する。(B)銅および/または銅合金が分散相を形成しない場合は、成形加工性が低下して自由な形状設計ができなくなり、得られた成形品の外観耐久性も失われる。
【0044】
相構造は、例えば以下の方法で観察できる。本発明の熱可塑性樹脂組成物の試験片(厚さ2mmの角板)を成形する。次に、試験片の中心部から0.1μm以下の薄片を断面積方向に切削し、表層から300μmの深さまでを観察範囲に入れて、示差走査型電子顕微鏡−X線マイクロ分析(以後、SEM−XMA)で観察する。解析装置BSEを使用することで、熱可塑性樹脂が黒、銅が白色で反映させて分布状態の確認ができる。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂組成物では、(A)熱可塑性樹脂、(B)銅および/または銅合金の他に、(C)滑剤を添加することができる。ここでいう滑剤の種類は特に制限はないが、一般的には、炭素数12以上の脂肪族カルボン酸またはヒドロキシカルボン酸と金属イオンとの塩となる高級脂肪酸金属塩が一例として挙げられ、具体的に、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、オレイン酸、エルカ酸、12−ヒドロキシステアリン酸などの脂肪族カルボン酸またはヒドロキシカルボン酸とリチウム、ナトリウム、カルシウムなど金属のイオンとの塩が使用されることが多い。また、カルボン酸エステル系ワックスかカルボン酸アミド系ワックスでもよく、具体的に、脂肪族カルボン酸またはヒドロキシカルボン酸にラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、オレイン酸、エルカ酸、12−ヒドロキシステアリン酸を、多塩基酸にシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等が使用され、ジアミンにエチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、4,4−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、ジエステルを使用したものなどが挙げられる。例えば、栄社化学社製:WH215(エチレンジアミンとセバシン酸、ステアリン酸との重縮合物)またはWH255(エチレンジアミンとセバシン酸、ステアリン酸との重縮合物)、クラリアントジャパン社製:リコワックスOP(モンタン酸エステルおよびモンタン酸カルシウム)を使用することができる。これらを2種以上用いてもよい。成形加工性、靭性の観点から、クラリアントジャパン社製:リコワックスOP(モンタン酸エステルおよびモンタン酸カルシウム)、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウムが好ましい。
【0046】
溶融混練して成形加工する時に、(B)銅および/または銅合金が(A)熱可塑性樹脂に均一分散することで殺菌性能効果を発揮しやすくする点から、(A)熱可塑性樹脂と(B)銅および銅合金の合計100重量部に対して、(C)滑剤を0.01重量部以上1重量部以下含有することが好ましい。特に(A)熱可塑性樹脂、(B)銅および/または銅合金が粉体形態のものを用いるときには、粉体混合状態を均一にでき、かつ溶融混練機器に分級させることなく円滑に供給できる点で、(C)を配合することが好ましい。さらに、0.05重量部以上0.5重量部以下だと好ましい。
【0047】
これらの(C)滑剤の熱的特性には制限はないが、(C)の融点が、(A)熱可塑性樹脂の融点または溶融する温度よりも10℃以上低いことが、溶融混練して成形する時の成形加工性が容易であり、(B)銅および/または銅合金を均一に分散させ、安定的に殺菌(抗菌)性能が発現しやすいため好ましい。(A)熱可塑性樹脂の融点は、示差走査熱量分析法(以後、DSCと記載する。)により、20℃/分で40℃から昇温させ、そこで得られるピーク温度で確認することができる。ピーク温度が複数存在する場合は、その低い温度側のピーク温度を意味する。(C)滑剤の融点も、DSCで測定することができる。2種以上の滑剤を用いた場合、あるいは1種の滑剤中にピーク温度が複数存在する場合は、高い温度側のピーク温度を意味する。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂組成物では、本発明の目的を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系などの紫外線吸収剤、カーボンブラック、炭素繊維、(A)の熱可塑性樹脂と相溶性または反応性のある高分子型帯電防止剤、有機イオン導電剤などの帯電防止剤、ガラス繊維、タルクおよび染料・顔料を含む着色剤などの添加剤を加えることができる。これらの添加剤の形態は、本発明の目的を損なわない範囲であれば、ペレット形状でも粒子形状でも使用することが可能である。
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂組成物成形品の製造方法は、(A)熱可塑性樹脂、および(B)銅および/または銅合金を溶融混練する工程を含む。(A)熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、およびポリスチレン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種類の熱可塑性樹脂であり、平均粒子径D
50は10〜800μmである。(B)銅および/または銅合金の平均粒子径D
50は1〜300μmである。熱可塑性樹脂組成物成形品の加工性の観点から、(A)熱可塑性樹脂および(B)銅および/または銅合金は、フレーク状または粉末状が好ましい。
【0050】
(A)熱可塑性樹脂と(B)銅および/または銅合金の平均粒子径D
50の差は、熱可塑性樹脂組成物成形品の製造時の安定性や、(B)銅および/または銅合金の分散状態を良好にする観点から、200μm以下が好ましい。さらには100μm以下がより好ましい。また、(A)熱可塑性樹脂と(B)銅および/または銅合金の平均粒子径D
50の差が200μm以下であれば、(A)熱可塑性樹脂と(B)銅および/または銅合金の平均粒子径D
50はどちらが大きくても問題はない。
【0051】
(A)熱可塑性樹脂、(B)銅および/または銅合金を溶融混練する方法は特に制限はない。例えば、単軸または2軸の押出機やニーダーや射出成形機等の混練機を用いて、(A)熱可塑性樹脂が溶融混練できる温度以上、(A)熱可塑性樹脂が融点を持つ場合は融点以上に上げた温度で溶融混練する方法等が挙げられる。特に、(A)熱可塑性樹脂および(B)銅および/または銅合金を溶融混練する上で、溶融混練時の粘度増加に伴い、供給口から吐出口までのフィード性が十分でなくなる可能性があるため、供給から吐出までの各加熱ゾーンの温度を上げていき溶融粘度を下げていく対応ができる製造方法が好ましい。さらには、バックブロー防止のスクリューエレメントを入れる、スパイラルリード間に、溶融混練した熱可塑性樹脂に煎断がかからないような構造を入れるなど、安定した量で吐出できるようにスクリューに工夫がされているとより好ましい。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形など通常の方法で容易に成形することができ、得られた成形品は、高い殺菌(抗菌)性能と外観耐久性を発現し、成形加工性に優れ、軽量性に優れるため、公共機関において用いられる部材、住設用品、日用品、水廻り部品、人と接触するような自動車部品、電気電子部品に使用するのが好適である。特に、自動車、電車、バスあるいは公園、駅、図書館等不特定多数の人が接触する様な部材(エレベータタッチパネル、エアコンルーバー、シフトレバーカバー、手すり、座席シート、遊具、パソコン用マウス等)に本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、様々な菌やウイルスによる感染を予防することができる。あるいは、患者や医療従事者が触れる物を本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、それらの菌が死滅あるいは減少する。そして、それに伴って感染経路が絶たれること等により、院内感染を減少させることが期待される。具体的には、院内の各扉に設置されている取手、レバーハンドル、ドアハンドル等、あるいは、ベッドに設置される柵、サイドレール、マッサージ用品、ナースカートを銅合金とすることで、菌の拡大経路を少なくすることが期待できる。また、トング、まな板、フライ返し、包丁、ピーラー、ワインオープナー、三角コーナー、ハンドミキサー、フードプロセッサー、ポット内装部品等のキッチン部品や、歯ブラシスタンド、ヘアーキャッチャー、シャンプードレッサー、便座、シャワーヘッド、ドレインパイプ等のサニタリー部品で代表される水廻り部品や、アイライナー、化粧コンパクト、ヘアーアイロン取手で代表される化粧品では殺菌(抗菌)の需要が高いため、将来に向けた期待度も高い用途である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げてさらに本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。実施例および比較例に用いた測定方法を以下に示す。
【0054】
(1)殺菌(抗菌)性能
実施例および比較例で得られた試験片でフィルム(形状30mm×30mm)を作成し、黄色ぶどう球菌を供試菌として使用し、初期の生菌体と接触反応後60分経過した時点で残った生菌体の比率を算出した。
【0055】
(2)外観耐久性
実施例および比較例で得られた試験片を20mm×20mm×2mmtサイズの角板に切削し、23℃の純水に48h浸漬させたときの外観変化を以下の5段階で評価、判定した。
【0056】
5 光沢観が維持されており、全く外観変化が確認されなかった
4 光沢観は維持されているが、外観変化は部分的に確認された。
3 光沢観が失われている部分もあり、外観変化も部分的に確認された。
2 光沢観は50%以内の光沢部分を残して失われ、外観変化も50%以上確認された。
1 光沢観は全く失われ、外観変化も全く失われていた。
【0057】
(3)成形加工性
実施例および比較例で実施した射出成形時、30ショットを連続成形する中での成形加工性を以下のとおり3段階で評価、判定した。
【0058】
○ 30ショット連続して良品の試験片を得ることができた。
△ 30ショット連続して良品の試験片は得られたが、計量やピーク圧力の変動が確認された。
× 30ショット連続して良品の試験片を得ることができなかった。
【0059】
(4)比重
実施例および比較例で得られた試験片を、水中置換法で測定できる比重計に入る大きさに切削加工した後に重量測定を行った。その後、水温23℃の水中環境下で重量を測定し、その重量差から体積を計算し、重量と体積の比で比重を計算した。比重が小さいほど軽量性に優れる。
【0060】
(5)融点
参考例に記載された(A)熱可塑性樹脂が融点を持つ場合、示差走査熱量分析法(以後、DSCと記載する。)により、20℃/分で40℃から昇温させ、そこで得られるピーク温度で確認した。ピーク温度が複数存在する場合は、その低い温度側のピーク温度を示した。また、参考例に記載された(C)滑剤も、同様にDSCで確認した。ピーク温度が複数存在する場合は、その高い温度側のピーク温度を示した。
【0061】
(6)粘度数
参考例に記載された(A1)ポリアミド6樹脂粉体の粘度数は、ISO307に準拠して98%硫酸を用いて測定した。
【0062】
(7)平均粒子径D
50の測定方法
参考例に記載された(A)熱可塑性樹脂と(B)銅および/または銅合金について、JIS K 5600−9−3(2006年)に準じて累積度数粒子径分布曲線を作成し、50%累積度数時の粒子径を測定した。
【0063】
(8)(B)BET比表面積の測定方法
参考例に記載された(B)銅粉約1gに窒素ガスを吸着させて、その圧力変化と吸着量から多分子吸着理論に基づく吸着等温線を作成した後、BETプロットに変換して単分子層でのガス吸着量を求め、比表面積を算出した。
【0064】
(9)相構造の確認
実施例および比較例で得られた試験片を20mm×20mm×2mmtサイズの角板に切削し、試験片の中心部から0.1μm以下の薄片を断面積方向に切削し、表層から300μmの深さまでを観察範囲に入れて、示差走査型電子顕微鏡−X線マイクロ分析(以後、SEM−XMA)で観察する。解析装置BSEを使用することで、熱可塑性樹脂が黒、銅が白色で反映させて分布状態を確認する。(B)銅および/または銅合金が分散相を、(A)熱可塑性樹脂が連続相であること明確に確認できれば○、(B)銅および/または銅合金と(A)熱可塑性樹脂の相が共連続相になっており明確に相状態が確認できない場合は△、(B)銅および/または銅合金が連続相、(A)熱可塑性樹脂が分散相になっている場合は×と判定した。
【0065】
参考例1(A1)ポリアミド6樹脂粉体
アミランCM1001P(東レ製ナイロン6)を冷凍粉砕により粉末状に粉砕し、225(μm)の平均粒子径D
50に調整した。この粉末について、粘度数は110(ml/g)であり、融点は221℃であった。
【0066】
参考例2(A2)ポリプロピレン樹脂粉体
株式会社プライムポリマー社製J105Pを冷凍粉砕により粒子径を調整した。 平均粒子径D
50230(μm)、融点159(℃)
【0067】
参考例3(A3)PBT樹脂粉体
トレコン1100P(東レ製PBT) 平均粒子径D
50280(μm)、融点224(℃)
【0068】
参考例4(A4)ポリアミド6樹脂
アミランCM1001(東レ製ナイロン6)のペレット 長径2.9(mm)、短径1.7(mm)、長さ3.2(mm) 粘度数は110(ml/g) 融点221(℃)
【0069】
参考例4 (B1)銅 フレーク形状
福田金属箔粉工業社製E3(銅と亜鉛の銅合金、平均粒子径D
5037.5(μm)、BET比表面積4,000(cm
2/g))99.9%と、BASF社製イルガノックス1010 0.1%を設定温度60℃で高速回転させてブレンドさせ、表面処理をした。
【0070】
参考例5 (B2)銅 フレーク形状
福田金属箔粉工業社製3L3 (銅と亜鉛の銅合金、平均粒子径D
505.7(μm)、BET比表面積25,200(cm
2/g))99.9%と、BASF社製イルガノックス1010 0.1%を設定温度60℃で高速回転させてブレンドさせ、表面処理をした。
【0071】
参考例6 (B3)銅 フレーク形状
福田金属箔粉工業社製E3(銅と亜鉛の銅合金、平均粒子径D
5037.5(μm)、BET比表面積4,000(cm
2/g))
【0072】
参考例7 (C1)滑剤
クラリアントジャパン社製:リコワックスOP 融点138(℃)
【0073】
参考例8 (C2)滑剤
川村化成工業社製:ステアリン酸カルシウム 融点152(℃)
【0074】
[実施例1〜実施例4、実施例6〜実施例7、実施例10
、実施例12][実施例5
および実施例11(参考例)][比較例1〜比較例3]
(A)熱可塑性樹脂、(B)銅および/または銅合金、(C)滑剤を表に示す配合量で日精80t成形機を用いて、トップフィード(元込めフィード)し、シリンダ設定温度はホッパー供給部分を260℃とし、ノズル部分まで270℃と変化させた設定を行い、金型温度80℃の条件で成形し角板成形品を得た。得られた角板成形品を用いて、前記の評価方法によって諸特性を調べた。その結果を表に示す。
【0075】
[実施例8〜9][比較例4]
(A)熱可塑性樹脂、(B)銅および/または銅合金、(C)滑剤を表に示す配合量で日精80t成形機を用いて、トップフィード(元込めフィード)し、シリンダ設定温度はホッパー供給部分を160℃とし、ノズル部分まで170℃と変化させた設定を行い、金型温度30℃の条件で成形し角板成形品を得た。得られた角板成形品を用いて、前記の評価方法によって諸特性を調べた。その結果を表に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
以下に各実施例の結果について記載する。比較例1〜4と比較して、優れた殺菌性能、外観耐久性を保持し、成形加工性、軽量性のバランスに優れた熱可塑性組成物を得ることができた。詳細を記載する。
【0079】
[実施例1〜12]
実施例1〜12で得られる成形品は、特定量の熱可塑性樹脂および特定量の銅および/または銅合金を有し、特定の相構造を有するため、殺菌性能、外観耐久性、成形加工性、軽量性のバランスに優れることが分かる。
【0080】
特に実施例4と、実施例5
(参考例)および
実施例6を対比すると、熱可塑性樹脂および銅の量が好ましい範囲である実施例4の方が効果に優れることが分かる。
【0081】
実施例4と実施例7を対比すると、実施例4の方が、熱可塑性樹脂と、銅および/または銅合金の粒子径差が小さいため、殺菌性能に優れる樹脂組成物を得ることができた。
【0082】
実施例1と、実施例8および10を対比すると、好ましい樹脂であるポリアミド樹脂を用いた実施例1の方が殺菌性能に優れることが分かる。
【0083】
実施例8と実施例9を対比すると、熱可塑性樹脂の融点よりも10℃以上低い融点をもつ滑剤を用いた実施例8の方が、殺菌性能および成形加工性に優れることがわかる。
【0084】
実施例11
(参考例)はポリアミド6ペレットを用いたが、特定の粒子径を有するポリアミド6粉体を用いた実施例4の方が、成形品における銅および/または銅合金の分散が良好となるため、殺菌性能に優れること
がわかる。
【0085】
実施例12は表面処理をしていない銅および/または銅合金を用いたが、表面処理をした銅および/または銅合金を用いた実施例4と対比しても同等の効果が得られることがわかる。