(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860162
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】血管穿刺練習モデル
(51)【国際特許分類】
G09B 23/34 20060101AFI20210405BHJP
【FI】
G09B23/34
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-84371(P2017-84371)
(22)【出願日】2017年4月21日
(65)【公開番号】特開2018-180468(P2018-180468A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591071104
【氏名又は名称】株式会社高研
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】増野 智彦
(72)【発明者】
【氏名】原 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】五戸 祐輔
【審査官】
宇佐田 健二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−037088(JP,A)
【文献】
特開2016−188879(JP,A)
【文献】
特表2016−510138(JP,A)
【文献】
特開2012−203153(JP,A)
【文献】
特開2015−176073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00,23/28−23/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部模擬組織、模擬血管、および、該模擬血管を任意の走行で配置できるスパイクを設置したシートを含む下部模擬組織を含む血管穿刺練習モデル。
【請求項2】
前記上部模擬組織の厚さ及び/又は前記下部模擬組織の厚さが一定でないことにより、前記模擬血管の上部模擬組織の上面からの深度を自由に設定することが可能である請求項1に記載の血管穿刺練習モデル。
【請求項3】
前記上部模擬組織の厚さと前記下部模擬組織の厚さの和が一定であり、かつ前記模擬血管の上部模擬組織の上面からの深度を自由に設定することが可能である請求項1に記載の血管穿刺練習モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管穿刺の練習を行うためのモデルに関する。
【背景技術】
【0002】
血管穿刺を行うには、皮下にある静脈を目視や触診で確認した上で、留置針を刺す必要がある。
患者の個人差により静脈が確認しにくい場合もあるので、練習が必要である。しかし、人道上の理由により患者で練習することはできないため、練習用モデルが市販されている。
【0003】
既知の多くの練習用モデルでは、模擬血管は、模擬組織に設けられた溝に設置されるか、または模擬組織内に埋設されるため、あらかじめ用意された1〜数種類の血管の走行、深度及び太さでしか練習ができなかった(例:特許文献1)。
特許文献2では、任意の血管走行、太さを樹脂シートで比較的容易に作成する方法が開示されている。しかし、これらを実施するには、溶着のための設備が必要であり、血管穿刺の練習する者が実際に作成することは困難である。
特許文献3では、模擬筋肉層と模擬皮膚層の間に任意に模擬血管を配置できるモデルが開示されている。しかし、このモデルは、模擬筋肉層の上に置かれた模擬血管の上に模擬皮膚をかぶせただけであるので、模擬皮膚は模擬血管の部分だけ大きく盛り上がり血管の位置が容易にわかってしまい、さらに模擬血管の両側に模擬組織と模擬皮膚に挟まれた何もない空間が生じてしまい、この空間が触診時に人体と大きく異なる感触を与えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平2-53067
【特許文献2】特開2013-68712
【特許文献3】特開2014-153482
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血管穿刺の難易度(血管の走行、血管の形状(太さ)、血管の深度(血管の模擬表皮又は上部模擬組織の上面からの深度))を自由に設定でき、なおかつ生体と同様の触診が可能な血管穿刺練習モデルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題の血管の走行及び血管の形状の任意設定を可能にするために、下部模擬組織に、任意の形状の血管が任意の走行で配置できるスパイクを設置したシートを含むようにし、さらに、前記の課題の血管の深度の任意設定を可能にするために、上部模擬組織の厚さ及び/又は前記下部模擬組織の厚さを一定にしない、又は、上部模擬組織の厚さと前記下部模擬組織の厚さの和を一定にする血管穿刺練習モデルを作製した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.上部模擬組織、模擬血管、および、該模擬血管を任意の走行で配置できるスパイクを設置したシートを含む下部模擬組織を含む血管穿刺練習モデル。
2.前記上部模擬組織の厚さ及び/又は前記下部模擬組織の厚さが一定でないことにより、前記模擬血管の上部模擬組織の上面からの深度を自由に設定することが可能である前項1に記載の血管穿刺練習モデル。
3.前記上部模擬組織の厚さと前記下部模擬組織の厚さの和が一定であり、かつ前記模擬血管の上部模擬組織の上面からの深度を自由に設定することが可能である前項1に記載の血管穿刺練習モデル。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、血管穿刺の難易度(血管の走行、血管の形状(太さ)、血管の深度)を自由に設定でき、なおかつ生体と同様の触診が可能な血管穿刺練習モデルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の血管穿刺練習モデルの全体図(x軸は縦方向、y軸方向は横方向を意味する)。
【
図2】本発明の血管穿刺練習モデルの断面図(z軸は垂直方向を意味し、正面から見て左側を一端、右側を他端とする)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、何ら請求項の範囲を限定するものではない。
【0011】
(本発明の血管穿刺練習モデル)
本発明の血管穿刺練習モデル1の全体図を
図1に示し、断面図を
図2に示す。
【0012】
(下部模擬組織)
下部模擬組織2は、弾性体、例えばシリコーンゴムを主成分とし、厚さが約1〜5mm程度の範囲で均一な厚みのシート、または一定でない(不均一の)厚さにしたシートを含み、該シートにスパイク3が設置されていることにより、後述の模擬血管4を任意の走行で配置できる。
また、該シートは、吸水性であっても良いし、シートの上面又は下面に吸水パット14を覆ってもよい。加えて、該シートは、貫通した穴を有しても良い。薬液、血液が該穴を介して吸水パット14に吸収されることにより、下部模擬組織2のシート上面には薬液、血液が貯まらないようにすることができる。
なお、下部模擬組織2の厚さとは、スパイク3を含む下部模擬組織2のz軸方向の長さ(参照:
図2の矢印11)を意味する。
さらに、スパイク3は縦方向横方向約2mm〜8mm間隔で高さ約2〜8mmの略直立した形状(略z軸の矢印の方向)で該シートの上面(後述の模擬血管4に接する面)に設置されている。スパイク3は、好ましくは弾性体であるため、容易にたわむが、復元力を持つ。また、スパイク3を含む下部模擬組織2の厚さは、シートの厚さを変えることにより、及び/又は、スパイク3の長さを変えることにより、自由に調整することができる。
なお、
図1および
図2においては、下部模擬組織2の厚さを不均一にした例を示している。
【0013】
(模擬血管)
模擬血管4は、弾性体、例えばシリコーンゴムを主成分としたフレキシブルなチューブを含み、外径は約2〜8mm、肉厚は約0.3〜1.0mmである。模擬血管4の空洞には、模擬血液を流すことができ、または、模擬血液を溜めることができる構造になっている。
【0014】
(上部模擬組織)
上部模擬組織5は、弾性体、例えばシリコーンゴムを主成分とし、厚さが約1〜5mm程度の範囲で均一な厚みのシート、または一定でない(不均一の)厚さにしたシートを含む。
なお、上部模擬組織5の厚さとは、上部模擬組織5のz軸方向の長さ(参照:
図2の矢印12)を意味する。
【0015】
(上部模擬組織と下部模擬組織の厚さ)
上部模擬組織5の厚さを不均一の厚さにした例として、例えば、上部模擬組織5は、一端の厚さが約1mmで、他端の厚さが約4mmのくさび形状であってもよいし、より詳しくは、該一端から該他端に向かって傾斜が付くような形状(より詳しくは、一端から他端に向かって厚さが大きくなる)であってもよい。または、上部模擬組織5は、下面(下部模擬組織2に直面する面)を、両端の厚さが約4mmで、中央付近の厚さが約1mmの窪んだ形状、又は、両端の厚さが約1mmで、中央付近の厚さが約4mmの山型形状であってもよい。
下部模擬組織2の厚さを不均一の厚さにした例として、例えば、下部模擬組織2は、一端の厚さが約4mmで、他端の厚さが約1mmのくさび形状であってもよいし、より詳しくは、該一端から該他端に向かって傾斜が付くような形状(より詳しくは、一端から他端に向かって厚さが小さくなる)であってもよい。または、下部模擬組織2は、上面(上部模擬組織5に直面する面)を、両端の厚さが約1mmで、中央付近の厚さが約4mmの山型形状、又は、両端の厚さが約4mmで、中央付近の厚さが約1mmの窪んだ形状であってもよい。
模擬血管4が下部模擬組織2に設置されていない上部模擬組織5の下面の箇所は、スパイク3で支えられている。これにより、スパイク3の弾性、間隔・長さ、上部模擬組織5の弾性・厚さを適切に調整することで、練習者が後述する模擬表皮6又は上部模擬組織5の上面に触った際に生体に酷似した感触を得られる。
【0016】
上部模擬組織5の厚さと下部模擬組織2の厚さの和が一定とは、上部模擬組織5のz軸方向の長さと、スパイク3を含む下部模擬組織2のz軸方向の長さを加えた和(参照:
図2の矢印13)が一定であることを意味する。該厚さの和が一定とは、以下の組合せを例示することができるが特に限定されない。
上部模擬組織5の厚さが一端から他端に向かって厚さが大きくなる場合には、下部模擬組織2の厚さが一端から他端に向かって厚さが小さくなる(参照:
図2)。
上部模擬組織5の厚さが一端から他端に向かって厚さが小さくなる場合には、下部模擬組織2の厚さが一端から他端に向かって厚さが大きくなる。
上部模擬組織5の下面が窪んだ形状の場合には、下部模擬組織2の上面が山形形状である。
上部模擬組織5の下面が山形形状の場合には、下部模擬組織2の上面が窪んだ形状である。
加えて、上部模擬組織5の厚さと下部模擬組織2の厚さの和を一定にすれば、上部模擬組織5の上面又は模擬表皮6の上面を略均一にすることができ、模擬血管4が上部模擬組織5の上面又は模擬表皮6の上面を盛り上げることがないので、より生体に近い練習モデルになる。
【0017】
(模擬表皮)
模擬表皮6は、必要に応じて、上部模擬組織5の上にかぶせてもよい。模擬表皮6は、弾性体、例えばシリコーンゴムを主成分としたシートでもよい。模擬表皮6は、練習中にずれないように、後述するケース7に必要に応じて着脱できる構造が好ましい。
【0018】
(ケース)
上部模擬組織5及び下部模擬組織2を収納するための上面(z軸の矢印方向)が開放されたケース7を使用することが好ましい。ケース7の側面(y軸方向)には、模擬血管4を通すための切り欠き8が設けられていても良い。またケース7には、血管穿刺練習モデル1を腕などに装着できるようバンドを通す穴10が設けられていることが好ましく、さらに模擬表皮6を使用する場合は、模擬表皮6をケース7に必要に応じて着脱できる構造、例えば面ファスナー9を有する構造になっていることが好ましい。ケース7は、留置針が模擬血管4等を貫通した場合のストッパーとしての役割が持てるよう、硬質なプラスチック等で作製されていることが好ましい。
【0019】
(血管穿刺練習の難易度設定)
模擬血管4は、好ましくは、スパイク3間にほぼ埋まる状態で設置する。模擬血管4は、弾性体(フレキシブル)であるので、血管穿刺練習時の指導者又は練習者が望む任意の走行(例、直線状、カーブ形状等)で配置することができる。
また、模擬血管4は、スパイク3間にほぼ埋まる状態で設置するのではなく、スパイク3の上に設置しても、スパイク3は柔らかいので折れ曲がり、模擬血管4が下部模擬組織2上面(各スパイク3の先端を結ぶ面)から大きく飛び出ることはない。
血管穿刺練習モデルを使用する際には、下部模擬組織2に上部模擬組織5を置き、さらに必要に応じて、模擬表皮6を上部模擬組織5にかぶせる。
上部模擬組織5および下部模擬組織2の厚さを不均一にした血管穿刺練習モデル1では、模擬血管4の深度を深くしたい場合には、模擬血管4を下部模擬組織2の厚さの薄い箇所に、模擬血管4の深度を浅くしたい場合には、模擬血管4を下部模擬組織2の厚さの厚い箇所に、配置することにより練習目的に応じた模擬血管4の深度を実現できる。また、模擬血管4のチューブの形状(特に、太さ)を変更することにより、あらゆる形状(特に、太さ)の血管を想定した練習が可能である。
【0020】
(血管穿刺練習モデルの感触)
本発明の血管穿刺練習モデル1は、スパイク3により、生体に近い感触を実現でき、生体と同様の触診を可能とする。
より詳しくは、スパイク3が上部模擬組織5を下から(z軸方向に)支持することにより、上部模擬組織5(模擬表皮6)の上面を練習者が触れた際に、適度な反発が得られ、生体に近い感触となる。さらに、模擬血管4が配置されている部分とスパイク3で支えられている部分とでは、上部模擬組織5(模擬表皮6)の上面を練習者が触れた場合の感触が異なるため、人体と同様に触診で血管の位置を知る練習をすることができる。
また、模擬血管4は、スパイク3間にほぼ埋もれ、模擬血管4の両脇に何もない空間は生じない(
図2参照)。よって、模擬血管4の上に載せられた上部模擬組織5(および模擬表皮6)は、模擬血管4のために大きく盛り上がることはない。つまり、上部模擬組織5(模擬表皮6)から模擬血管4が過剰に浮き出さないので、人体に近い感触となる。
【0021】
模擬血管4の内部に模擬血液を含んでいる血管穿刺練習モデル1を使用する場合、練習者は、留置針を、上部模擬組織5(模擬表皮6)を介して模擬血管4に適切に刺した場合には、模擬血液が留置針に逆流してくることを確認することができる。これにより、練習者は、正しい穿刺操作を身に着けることができる。
よって、血管穿刺練習モデル1は、従来の練習モデルにはない血管穿刺の難易度(血管の走行、血管の形状(太さ)、血管の深度)を自由に設定できるだけでなく、より臨床に近い感覚を提供することができる。
【0022】
(その他の血管穿刺練習モデルの使用)
本発明の血管穿刺練習モデル1において、スパイク3を含む下部模擬組織2を上下逆にすることにより、上部模擬組織5と下部模擬組織2間にはスパイク3が存在しないようにすることができる。そして、模擬血管4を上部模擬組織5と下部模擬組織2間に設置することができる。この場合、模擬血管4はスパイク3による抵抗はないので、上部模擬組織5と下部模擬組織2間を自由に移動することができる。
このような状態で使うことにより、模擬血管がスパイク間に埋まっていないので、触診の際、血管位置が分かりやすすぎるという欠点は生じるが、穿刺する際に血管が逃げるということが再現できる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
血管穿刺の難易度(血管の走行、血管の形状(太さ)、血管の深度)を自由に設定でき、かつ生体と同様の触診が可能な血管穿刺練習モデルを提供する。
【符号の説明】
【0024】
1:血管穿刺練習モデル
2:下部模擬組織
3:スパイク
4:模擬血管
5:上部模擬組織
6:模擬表皮
7:ケース
8:模擬血管を通すための切り欠き
9:面ファスナー
10:バンドを通す穴
11:矢印
12:矢印
13:矢印
14:吸水パット