特許第6860195号(P6860195)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860195
(24)【登録日】2021年3月30日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】植物系バイオマスの改質方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20210405BHJP
   C10B 53/02 20060101ALI20210405BHJP
   C10L 5/44 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   B09B3/00 304Z
   C10B53/02ZAB
   C10L5/44
   B09B3/00 302Z
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-1878(P2017-1878)
(22)【出願日】2017年1月10日
(65)【公開番号】特開2018-111055(P2018-111055A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2020年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】500558687
【氏名又は名称】株式会社ファインテック
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】横塚 禎明
(72)【発明者】
【氏名】岡田 素行
(72)【発明者】
【氏名】井波 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】毘比野 祐也
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 米司
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/123141(WO,A1)
【文献】 特開2016−125030(JP,A)
【文献】 特開2013−063395(JP,A)
【文献】 特表2011−523349(JP,A)
【文献】 特開2015−131919(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/076789(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/132409(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
C10L 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物系バイオマスの改質方法であって、
粉末状の前記植物系バイオマスを150〜220℃の反応温度における飽和蒸気圧以上でその飽和蒸気圧の110%以内に加圧された熱水と半回分式で接触させて反応生成物を前記熱水から分離する固液分離を前記反応温度で行うことにより、セルロースおよびリグニンを残した状態でヘミセルロースとともにアルカリおよびアルカリ土類金属を溶出させ、ヘミセルロースを回収するとともに、セルロースおよびリグニンが残り、アルカリおよびアルカリ土類金属が低減された前記反応生成物を得る熱水処理を有する方法。
【請求項2】
請求項において、
前記植物系バイオマスは木質系バイオマス、農産廃棄物系バイオマスおよび竹の少なくともいずれかを含む、方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記粉末状の植物系バイオマスの長さの最大は5mmである、方法。
【請求項4】
植物系燃料の製造方法であって、
燃焼用の植物系バイオマスを、請求項1ないしのいずれかに記載の改質方法により改質し、前記反応生成物を燃料とすることを含む、方法。
【請求項5】
炭化物の製造方法であって、
炭化用の植物系バイオマスを、請求項1ないしのいずれかに記載の改質方法により改質することと、
前記反応生成物を、不活性ガス下500〜900℃にて炭化することとを含む、方法。
【請求項6】
植物系燃料であって、
請求項1ないし3のいずれかに記載の改質方法によりセルロースおよびリグニンを残した状態でヘミセルロースが除去され、
アルカリおよびアルカリ土類金属の最大含有率が5%以下である植物系燃料。
【請求項7】
請求項において、
前記植物系燃料は竹を原料としたものであり、アルカリおよびアルカリ土類金属の最大含有率が0.5%である植物系燃料。
【請求項8】
竹を原料とする炭化物原料であって、
請求項1ないし3のいずれかに記載の改質方法によりセルロースおよびリグニンを残した状態でヘミセルロースが除去され、
アルカリおよびアルカリ土類金属の合計の最大含有率が0.5%である炭化物原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物系バイオマスの改質方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、EFBファイバー等の植物系バイマスファイバーを原料に使用した燃料であって、輸送効率に優れ、発熱量が高く、石炭火力発電設備で石炭の一部代替燃料として利用可能なバイオマス固形燃料、及びその製造方法を提供することが記載されている。特許文献1における燃料は、植物系バイオマスファイバーを加熱して得られる半炭化バイオマスを、加熱しながら加圧成形して得られるバイオマス固形燃料であり、気乾ベースで固定炭素を18〜26質量%、揮発分を65〜75質量%、灰分を3〜6質量%、水分を8〜16質量%含み、高位発熱量が気乾ベースで18〜21MJ/kgである。粉砕された植物系バイオマスファイバーを、酸素濃度5容量%以下の雰囲気中、200〜290℃で加熱して半炭化処理し、得られた半炭化バイオマスを粉砕して、水又は水蒸気の存在下で加熱しながら加圧成形することにより製造される。
【0003】
特許文献2には、従来のガラス繊維強化樹脂よりも軽量であり、強度に優れた竹ファイバー複合樹脂組成物の提供を目的とし、樹脂中に竹由来の竹ファイバーが樹脂組成物に対して3〜70質量%混合されていることを特徴とする竹ファイバー複合樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−229751号公報
【特許文献2】特開2013−245346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
植物系バイオマスを燃焼用燃料として用いる際の問題の1つは、燃焼により生成されるクリンカーを燃焼炉などから除去する必要があることである。クリンカーは、燃焼炉の炉壁などに付着する灰やかすであり、燃焼用空気の流通を妨げたり、ボイラーにおける熱交換を妨げる要因となり、性能を劣化させる要因となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、植物系バイオマスの改質方法である。この改質方法は、粉末状の植物系バイオマスを150〜220℃の反応温度における飽和蒸気圧以上でその飽和蒸気圧の110%以内に加圧された熱水と半回分式で接触させて反応生成物を前記熱水から分離する固液分離を反応温度で行うことにより、セルロースおよびリグニンを残した状態でヘミセルロースとともにアルカリおよびアルカリ土類金属を溶出させ、ヘミセルロースを回収するとともに、セルロースおよびリグニンが残り、アルカリおよびアルカリ土類金属が低減された前記反応生成物を得る熱水処理を有する。クリンカーは、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属などの不燃物に溶融した灰が巻き込まれることにより成長すると考えられている。したがって、熱水処理によりセルロースおよびリグニンを残した状態でヘミセルロースが除去され、クリンカーの要因となるアルカリおよびアルカリ土類金属を低減することにより、植物性バイオマスを原料とする植物性燃料であって、クリンカーが生成されにくい燃料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】植物系バイオマスを改質する熱水処理(水熱処理)を含む燃料の製造方法および炭化物の製造方法を示すフローチャート。
図2】各試料の化学成分組成を示す表。
図3】水熱処理装置の概要を示すブロック図。
図4】可溶化物の生成挙動を示すグラフ。
図5】可溶化物の糖分析結果の一例。
図6】残渣収率(反応生成物収率)および残渣(反応生成物)の化学成分組成を示す表。
図7】モウソウチクの可溶化物の収集率を示すグラフ。
図8】残渣(反応生成物)中のアルカリ(Na、K)およびアルカリ土類(Mg、Fe)金属濃度を定量した結果を示す表。
図9】モウソウチクの反応生成物(水熱処理残渣)を炭化した生成物の収率および比表面積を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1に、植物系バイオマスを用いて燃料を製造したり、炭化物を製造する方法を示している。植物系燃料の製造方法は、植物系バイオマスを粉砕するステップ1と、粉砕した植物系バイオマスを改質するために熱水処理するステップ2とを含む。炭化物を製造する方法は、熱水処理した反応生成物をさらに炭化処理するステップ3を含む。原料となる植物系バイオマスは木質系バイオマス、農産廃棄物系バイオマスおよび竹の少なくともいずれかを含む。木質系バイオマスとしては、スギ、ヒノキなどを含む木本系のバイオマスを挙げられ、建築廃材、林地残材などであってもよい。農産廃棄物系バイオマスとしては、稲藁、籾殻、麦藁などの草本系のバイオマスを挙げることができる。いずれもセルロース系バイオマスであり、燃焼用燃料、その他のバイオマス燃料、および炭ファイバーなどのバイオ素材の原料となる。
【0009】
植物系バイオマスを粉砕する処理(ステップ1)は、熱水処理(ステップ2)において植物系バイオマスと熱水との接触効率を高めるために粉末状にするものである。粉末状の植物系バイオマスの長さ(直径、粒径あるいは代表長さ)の最大は5mmであることが望ましく、2〜3mmであることが望ましく、1mmであることがさらに好ましい。粒径は、さらに、0.5mm以下であることが望ましい。
【0010】
熱水処理(ステップ2)は、植物系バイオマスを改質するための処理であり、粉末状の植物系バイオマスを150〜400℃の反応温度の熱水と接触させる。反応温度は、超臨界の範囲であってもよいが、液状の熱水が安定して存在する亜臨界の範囲、すなわち、374℃以下であることが望ましい。この反応温度の熱水と接触することにより、原料である植物系バイオマスからはヘミセルロースがほぼ分離または分解されて残渣である反応生成物から除去され、リグニンおよびセルロースは、一部が分離または分解される可能性があるが、残渣として反応生成物に占める割合(重量%)は増加する。反応生成物は、炭化または半炭化されたものであってもよい。
【0011】
発明者らは、この熱水処理の過程において、ヘミセルロールが除去されるだけではなく、灰(クリンカー)の要因となるアルカリおよびアルカリ土類金属が低減することを見出した。すなわち、熱水処理(ステップ2)において、アルカリおよびアルカリ土類金属の含有率が低くなった残渣を反応生成物として得ることができ、植物系バイオマスを改質できることを見出した。したがって、この熱水処理(ステップ2)は、ヘミセルロース、セルロースおよびリグニンの少なくともいずれかを分離、分解または炭化させた反応生成物におけるアルカリおよびアルカリ土類金属を低減する処理である。
【0012】
熱水は、少なくとも反応温度における飽和蒸気圧に加圧された液体状態であることが望ましい。液体状態の熱水、すなわち、加圧熱水の方が、熱水と原料である植物系バイオマスとの接触面積が大きく、アルカリおよびアルカリ土類金属を低減する効果が大きい。
【0013】
加圧熱水の一例は、150〜220℃の実質的に飽和蒸気圧の熱水(飽和水)である。例えば、220℃、2.3〜2.5MPaの熱水、150℃、0.5〜1.0MPaの熱水である。この条件の加圧熱水を植物系バイオマスと接触させることにより、原料中のセルロースの溶出を防ぎながら、セルロースに対し、アルカリ・アルカリ土類金属を効率的に除去できる。このため、残渣(反応生成物)のセルロースに対するアルカリ・アルカリ土類金属の比率を低減できる。また、ヘミセルロースは、ほぼ完全に分離および除去でき、セルロースに対するヘミセルロールの比率を低減できる。一方、リグニンの溶出および分離はそれほど多くなく、燃焼温度の高いリグニンを残した状態で、アルカリ・アルカリ土類金属の比率を低減できる。このため、植物系バイオマスを用いて、燃焼用に適した燃料を提供できる。
【0014】
熱水処理(ステップ2)は、回分式、半回分式および連続式のいずれかであってよいが、熱水に溶出した成分を残渣である反応生成物から除去するためには、反応生成物を熱水から分離する固液分離を反応温度で行うことが望ましい。したがって、回分式よりは、半回分式または連続式であることが望ましい。
【0015】
熱水処理(ステップ2)により、反応生成物中のアルカリ・アルカリ土類金属を低減できるので、この反応生成物は、燃焼用の燃料として適している。また、エタノールなどの、その他の形態のバイオ燃料の製造においても、アルカリ・アルカリ土類金属の存在が障害となる場合は、この熱水処理により改質された反応生成物を原料として用いることができる。植物系バイオマスから、熱水処理により生成される燃料(植物系燃料)はヘミセルロールを実質的に含まず、アルカリ・アルカリ土類金属AとセルロールCとの比率(重量比A/C)が0.2以下の燃料を提供できる。重量比A/Cが0.17以下であってもよい。さらに具体的には、アルカリ・アルカリ土類金属の合計の最大含有率が5%(重量%)以下である植物系燃料を提供できる。
【0016】
特に、竹を原料とする燃料においては、アルカリ・アルカリ土類金属の含有量がさらに少ない燃料を提供できる。竹を原料としたバイオ燃料は、重量比A/Cが0.01以下であってもよく、0.006以下であってもよい。さらに具体的には、竹を原料とする植物系燃料であって、アルカリ・アルカリ土類金属の合計の最大含有率が0.5%である植物系燃料である。
【0017】
熱水処理(ステップ2)により、アルカリ・アルカリ土類金属の含有率が低減された反応生成物(残渣)は、炭化物の原料としても利用できる。炭化処理(ステップ3)の一例は、反応生成物を、不活性ガス下500〜900℃にて炭化することである。炭化物の原料が熱水処理(ステップ2)によりセルロースおよびリグニンを残した状態で、ヘミセルロールおよびアルカリ・アルカリ土類金属を除去するように前処理されており、セルロールの含有率の大きな炭化物を提供できる。
【0018】
実施例
モウソウチク(千葉県産)、稲藁(福岡県産)、籾殻(福岡県産)を、ウイレーミルにて0.5mm以下に粉砕し、試料とした(ステップ1)。粉砕機、粒度ともにこれには限定されないが、粒度については水との接触性を考え2〜3mmアンダーに粉砕しておくことが好ましい。各試料(原料)の化学成分組成についてはNRELの方法に準じて行い、その結果は図2に示した通りであった。
【0019】
熱水処理(水熱処理、ステップ2)には、内容積30mLのパーコレータ型反応器(抽出容器)16を備えた半回分式水熱反応装置10を用いた。図3に、本実験で用いた水熱処理装置10の概要を示している。水熱処理装置10は、純水タンク11、高圧ポンプ(NP−KX−500日本精密科学株式会社製)12、熱交換器14、管型抽出容器16、冷却器18、背圧弁(6000psi TESCOM製)20、回収部19、これらを接続する配管13を含む。抽出容器16は温度コントローラー(T−550 Iuchi製)17aに接続したマントルヒーター(大科電器株式会社製)17にてキャップすることにより、抽出容器16内の温度が一定になるように制御した。また、抽出容器16内の圧力は、背圧弁20により制御した。
【0020】
熱交換器14はマントルヒーター15内にステンレス容器を入れ、この中に硝酸カリウム:亜硝酸ナトリウム:硝酸ナトリウムの比が53:40:7から成る塩15eを満たし、この中に1/4インチステンレス蛇管を入れ、管内に加圧された水を通過させることにより加熱する方式とした。マントルヒーター15は、ベースヒーター15aと、投げ込みヒーター15bと、温度コントローラー15cとを含む。各部の接続にも1/4インチSUS316配管13を用いた。この水熱処理装置10は、置換用の窒素供給システム21を含む。
【0021】
この水熱処理装置10は、半回分方式であり、1バッチ分の試料を抽出容器16に充填して熱水を流しながら所定の時間あるいはサイクルで抽出を行う。熱水処理(水熱処理)の方式はこれに限定されない。水熱処理装置は回分式または連続式であってもよい。ただし、回分式または連続式の水熱処理装置で処理した場合であっても、冷却することなく、反応温度で固液分離できるようになっている必要がある。
【0022】
各試料の粉末10gを、抽出容器16に入れ、両端を孔径20μmのステンレス製焼結フィルターにてキャップ後、水熱処理装置10に接続した。処理条件は、熱水温度200℃、通水速度15mL/min、圧力2.5MPaとした。熱水を通水しながら昇温を行い、約10分で目的温度まで到達させた。その後、約40分温度を保持しながら処理した後、約10分かけて冷却を行った。
【0023】
回収された可溶化液については、経時的に糖度計を用いてBrix値を測定し、さらにHPLC及びHPAE−PAD分析に供した。また、可溶化物は10分間隔(1フラクション、計6フラクション)で回収し、一部を105℃にて恒量となるまで乾燥後、秤量し、各々乾燥重量基準の収率(各フラクションの可溶化物収率)を算出した。また、反応器内残渣(反応生成物)については全量を乾燥重量既知のビーカーに移し、105℃にて恒量となるまで乾燥後、秤量し、乾燥重量基準の収率を算出した。
【0024】
この処理条件は一例であり、温度、圧力、流速ともにこれに限定されない。ただし、圧力については、流体の状態で試料に接触させるために、反応温度の飽和蒸気圧以上の圧力が望ましい。また、リグニンおよびセルロースの溶出を促進させずに、ヘミセルロールおよびアルカリ・アルカリ土類金属の除去を促進するためには、飽和蒸気圧に近い、例えば、飽和蒸気圧の110%以内の圧力の熱水(実質的な飽和水)であることが望ましい。
【0025】
次に、モウソウチク原料および水熱処理残渣(反応生成物)を炭化処理(ステップ3)した。具体的には、各々2.0gを磁性ボートに秤取後、管状電気炉へ移し、窒素気流下(200mL/min)、600℃、800℃にて1時間保持した。室温まで冷却し、秤量後、炭化物を得た。得られた炭化物は、BET法により比表面積測定を行った。
【0026】
図4に、可溶化物の生成挙動について示す。試料間で若干の差は見られたが、フラクション(1)で原料の約15wt%、フラクション(2)で約25wt%、さらにフラクション(3)で約5wt%が可溶化した。つまり、可溶化物の90%以上はここまで、3つのフラクション、30分間の通水により生成された。
【0027】
図5に、可溶化物の糖分析結果の一例としてモウソウチクの200℃可溶化物のFPAE−PADクロマトグラムを示す。可溶化物は、ヘミセルロースキシランの加水分解物であるキシロースおよびキシロオリゴ糖を主成分としていることが確認された。他の試料の可溶化物についても同様の分析結果が得られた。
【0028】
図6に、残渣収率(反応生成物収率)および残渣(反応生成物)の化学成分組成を示す。残渣収率は、籾殻が最も高く56.1wt%であり、次いでモウソウチク45.3wt%、稲藁40.2wt%の順であった。このような収率の違いは、図2に示した原料の成分組成の違いだけでなく、その成分の分解率の違いも考えられる。そこで、処理残渣の成分組成を調べ、原料と比較した。主成分であるヘミセルロース、セルロースおよびリグニンについて見てみると、ヘミセルロースは残渣から完全に消失し、その結果ほとんど分解されなかったセルロースの濃度(含有率)は原料と比較し、残渣では1.7〜2.0倍になった。また、リグニン濃度については、稲藁では50%、籾殻では35%、原料と比較して減少したが、モウソウチクについては、殆ど変化しなかった。なお今回の実験結果より、リグニンの可溶化率を算出すると、稲藁78.5wt%、籾殻63.2wt%、モウソウチク57.2wt%であり、試料間で可溶化率が大きく異なることが分かった。
【0029】
さらに、残渣(反応生成物)に含まれるアルカリ・アルカリ土類金属も減少していることが見出された。含有率で比較すると、モウソウチクでは、1.6wt%が0.4wt%に減少し、稲藁では、16.1wt%が10.4wt%に減少した。籾殻では、20.4wt%が、24.5wt%と含有率では増加しているが、ヘミセルロースが除去されていることが要因である。このため、セルロース(C)の重量%に対するアルカリ・アルカリ土類金属(A)の重量%の比をとると、モウソウチクでは、A/Cが0.038から0.0057まで減少し、稲藁では、0.45が0.16まで減少し、籾殻では0.65が0.47まで減少していることが分かる。
【0030】
したがって、アルカリ・アルカリ土類金属の含有量が比較的少ない竹のような植物系バイオマスについては、熱水処理(水熱処理、ステップ2)により、アルカリ・アルカリ土類金属の含有率を0.5%以下に改質することが可能であり、燃焼用燃料としてはクリンカーが非常に生成されにくく、燃焼しやすい燃料を提供できる。また、燃焼温度の高いリグニンの含有率も十分に高く、燃焼用の燃料に適した植物系バイオマス由来の生成物を提供できる。
【0031】
また、対セルロース比としては、アルカリ・アルカリ土類金属の比率(A/C)を0.01以下、さらには、0.006以下に低減でき、燃焼用の燃料としてはもちろん、セルロースを分解したバイオ燃料の原料としても適しており、また、竹ファイバーなどの植物由来の機能性材料を得るための原料としても適した植物系バイオマスを反応生成物として提供できることが分かる。
【0032】
籾殻のようにアルカリ・アルカリ土類金属の含有率の大きな原料については、この処理時間では大幅に低減できていないが、熱水の条件を変えたり、処理時間を延ばすことによりアルカリ・アルカリ土類金属の含有量をさらに低減できる可能性がある。稲藁についても同様であり、この実験では、アルカリ・アルカリ土類金属の含有率が10.4wt%まで低減できており、熱水の条件を変えたり、処理時間を延ばすことにより、クリンカーが燃焼の障害となりにくいと考えられている5wt%までアルカリ・アルカリ土類金属の含有率を低減できる可能性がある。
【0033】
また、稲藁については、対セルロース比としては、アルカリ・アルカリ土類金属の比率(A/C)を0.2以下、さらには、0.17以下に低減できており、熱水処理により、セルロースの含有率の高い生成物を提供できることが分かる。
【0034】
図7に、モウソウチクの可溶化物の収集率を示している。この図に示すように昇温、冷却を含む、計60分(6フラクション)処理を行うことにより、可溶化物の生成はほぼ終了しており、この時の累積可溶化物収率は、50.5wt%に達した。抽出容器内残渣(反応生成物)の収率は3回の実験結果の平均で45.3wt%であった。
【0035】
図8に、乾燥残渣は、ひとまとめにしたのち、この残渣(反応生成物)中のアルカリ(Na、K)およびアルカリ土類(Mg、Fe)金属濃度を定量した結果を示している。アルカリおよびアルカリ土類金属濃度の測定にあたっては以下のように行った。前者は乾燥残渣約3gを50mlファルコンチューブにとり、50mLの1%塩酸を加え、振とう抽出(常温で3時間)後、ろ紙を用いてろ過した。また、後者については、残渣1gに硝酸と過塩素酸を加え、湿式灰化(300mlトールビーカーで、約200℃)した。硝酸と過塩素酸をとばし乾固させ1%塩酸で50mlファルコンチューブに溶かし入れ、同溶液で適宜フィルアップ後、ICP発光分析法(Thermo)により分析した。分析結果に示すように、原料中100mgあたりのNa、K、CaおよびMg濃度はそれぞれ3、566、15および48mgであったが、水熱処理残渣については1、1、2、および0mgにまで低下した。
【0036】
図9に、モウソウチクの反応生成物(水熱処理残渣)を600℃および800℃にて1時間炭化した生成物の収率および比表面積の値について示す。なお比較のために、未処理原料についても同様の実験を行い、その結果を図9に示している。収率については各条件において水熱処理残渣の方が低い値を示した。また比表面積については、炭化温度が高くなるにつれ増加したが、試料間の差はほとんど確認されなかった。しかしながら、上述したように、反応生成物からはヘミセルロースが完全に溶出しており、炭の特性については異なる可能性があり、検証中である。
【0037】
植物性バイオマスにおいては、原料の含水率が高く、半炭化法のような気相条件下の熱化学的反応では、原料に含まれる多量の水分の蒸発潜熱により、エネルギー収支の観点から問題となっていた。他方、高温高圧でかつ液体状態の水の下で行われる水熱処理は、反応が液相中で行われるため乾燥工程を必要とせず、一般的にウエットなものが多い植物系バイオマスを原料として反応を行う場合、エネルギー的に有効であるとされている。上述した加圧熱水処理法においては、ヘミセルロースは原料によらず全量可溶化し、さらにアルカリ・アルカリ土類金属も溶出して減少することが分かった。一方、セルロースは大部分が可溶化せず残渣である反応生成物中に回収されたため、その濃度は原料と比較し、1.7〜2.0に増加できることが分かった。このことは、セルロースの利用にとって非常に有益であると考えられる。また、リグニンの可溶化率については、原料によって大きく異なるが、反応生成物に十分な割合で残ることが分かった。
【0038】
可溶化物については、キシロースやキシロオリゴ糖を中心としたヘミセルロースキシラン由来の低分子化物であり、各種機能性食品や化学原料としての利用の可能性が示唆された。
【符号の説明】
【0039】
10 水熱処理装置、 11 純水タンク、 12 高圧ポンプ
14 熱交換器、 16 管型抽出容器、 18 冷却器、 20 背圧弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9